氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第一章 非公式お茶会

41 レストラン【ウォルナット】③

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※前話を飛ばした方向けあらすじ

レストランの食事とお香に媚薬が入っていて、手を取り解毒してくれていたアシェルをアークエイドが押し倒した。
口付けの方が効率よく解毒できるからとアシェルと濃厚なキスをして解毒してもらった。

アークエイドの解毒が済んだころ、部屋に5人の男がやってきて、そのうち2人にアークエイドは連れ出された。

アシェルは手持ちの薬品で、部屋に残った3人の貴族男性を撃退済み。

*********



Side:アークエイド12歳 冬



長い廊下を歩き、魔道エレベーターに乗せられ。最上階である5階で降ろされる。

通された広い部屋の中央には天蓋付きの寝台。
壁際には使用人たちが控えている。

入り口から入って程なくのところにはウォレン侯爵が待ち構えていた。

「ようこそいらっしゃいました、アークエイド殿下。お加減はいかがですか?」

アークエイドの赤く染まり熱を持った瞳に気を良くしたのか、笑いながらウォレン侯爵は言う。

「最悪な気分だな。」

短く言い捨てれば「強がらなくて良いんですよ。」と笑われる。

相手がアシェルであれば強がりになっていただろうが、それ以外の女なんてどうでもいい。
アークエイドがこの腕で抱きたいと願うのは、アシェル・メイディーただ一人だ。

(そろそろ、魔法は使えそうか。)

自分の体内の魔力回路に意識を向け、反撃する機会を伺う。

引きずられるように部屋の中央まで歩かされたアークエイドは、開いた天蓋の中へ乱暴に押し込まれた。

「それではごゆっくり。」

そんな声と扉の閉まる音がする。
鍵をかけるカチャリという音もした。

数名の侍女だけが入り口の壁に沿って立っている。

そっと『探査魔法サーチ』を唱え部屋の造りを確認すれば、この部屋の窓はちゃんと外に通じていそうだった。

他に刺客が居ないかも確認する。

「お待ちしておりましたわ、アークエイド殿下。」

うっとりとした表情でそう言ったのは、シーツの上に座っているミリアリア・ウォレン侯爵令嬢だった。
非公式お茶会の朝の差し入れも欠かさず行っており、カードも沢山溜まっている相手だ。

二歳年上の彼女は成長し丸みを帯びた肢体に、ピンク色のシースルーの閨着を身に着けている。

動こうとも喋ろうともしないアークエイドに焦れたのか。ミリアリアはアークエイドにすり寄ってきて手を取った。

「ふふ、もう我慢も限界でしょう?わたくしを好きにしていいんですのよ?」

自信たっぷりなその物言いに「そうか。」と返せば、ミリアリアの瞳が輝いた。

『身体強化』をかけ、持たれた手を振り払い。左手でミリアリアの口を塞いで、懐の懐剣を抜き首筋に突きつけた。
なにやらもごもご叫びながら暴れるミリアリアの首筋に赤い筋が垂れる。

「動くな。動くとさらに傷がつくことになるぞ。」

そう脅せば暴れるのをやめ、鋭い目つきで睨まれた。

それを無視してミリアリアを引きずるように天蓋の外へ出れば、息をのむ侍女達の声がする。

「お前達も動くな。大人しくしていれば、今回の件は主達の不始末として片付けるが、動けばお前たちの処分も容赦しない。」

わざわざ主人の為に罪を被ろうという忠誠心の溢れる者はいないのだろう。
誰一人動く気配がない。

侍女達の姿を視界に捕らえたまま、ゆっくり後ずさったアークエイドは。『拘束バインド』を操って窓を開け、ミリアリアを連れたまま空へ飛び出した。

加速する世界の中で『風魔法』で速度を減退させ、何とか植木に突っ込むことで衝撃を緩和する。
そこに外で待たせていた護衛が慌てて駆け寄ってきた。

「媚薬を盛られた。この女を捕らえろ。ウォレン侯爵もまだ中にいるはずだ。今すぐ捕らえろ。」

アークエイドの指示でミリアリアは連れていかれ、残る護衛達が店内に突撃していく。
魔道具で連絡を取る騎士もいるので、程なくして増援もくるだろう。

アークエイドも突入した騎士達の後を追い、4階にいるアシェルの元へ急いだ。





食事をしていた部屋には、またあの香が立ち込めていた。
それはアークエイドが居た時よりも濃く視界を遮っている。

扉を開き、騎士たちを一旦待機させ。床に転がる男達を見た。

何かの薬を使われたのであろう男達は、床に倒れたまま恍惚とした表情を浮かべている。

見なければよかったと思いながらアシェルに近づき、その近くに落ちていた薬瓶を目にとめる。

アシェルは荒い息を押し殺し、顔を埋めた膝をぎゅっと抱き締めていた。
媚薬で満たされた部屋の中で、必死に劣情と戦っているのだろう。

テーブルナプキンに三本の薬瓶を包み『ストレージ』に放り込んだ後、アシェルに声をかける。
回収した薬瓶は、王宮で医務官に見せれば何を使ったか分かるはずだ。

「アシェ……。」

「んぅ……あーくぅ……?」

どこか焦点のあっていない蕩けた表情は、絶対に他の男に見せたくない。

「ちょっと待ってろ。」

雑にテーブルの上の食器たちをはたき落し、テーブルクロスでアシェルを頭から覆った。

扉を開けたことで少しは香が薄まっているが、早く出ないとまたアークエイドまで媚薬の効果を受けてしまう。

「抱えるぞ。馬車で王宮まで帰って、医者に見せよう。」

布の奥でこくんと頷いたのを確認して、アシェルを抱き抱えた。
その顔が隠れていることを確認し部屋を出る。

「そこに転がっている連中も捕らえろ。強姦未遂だ。捕らえたら早く離脱するように。」

ハッと敬礼した騎士たちが、部屋の中に突入する。
離脱するように言ったが、恐らく入れ替わり立ち替わりであの部屋についても調べ上げられるはずだ。

アークエイドは最後まで見届けずに店の外へ出て、王家の家紋のついた馬車へと乗り込んだ。
馬車が動き出す。

「アシェ、もう大丈夫だ。深呼吸しろ。」

クロスでくるんで抱き抱えたまま、顔にかかる布を避けてやれば、言われた通りに深呼吸を始めるアシェルが目に入る。

「あつい。……あーく……いぃにおい……。」

既に媚薬が効きすぎて頭が回っていないのか、アークエイドの胸板に預けた頭をぐりぐりと擦り付けられる。
そのいつもより甘い響きの声と仕草に、ぐっと理性を総動員する。

「アシェのお陰で助かった。解毒の魔力は足りてるか?」

「よかったぁ。ん、……たぶん。」

そう言って顔を上げたアシェルにじーっと顔を見られる。
顔というよりも、間違いなく唇を見つめられていた。

潤んで熱を帯びた瞳と柔らかい唇に吸い寄せられそうになるが、我慢してその顔にかかる銀色の遅れ毛を耳にかけてやった。

「んぅ。」

小さな嬌声を無視して、胸板に押し付けられて乱れた髪も整えようと手を伸ばす。
その指が温かくてぬるりとした感触に包まれた。

「アシェ!?」

驚き手を避けようとするが、いつの間にか左手はアシェルの両手に包まれていて逃れることはできなかった。

指の腹をアシェルの舌が這う。
蕩けた表情のアシェルは舌から伝わる刺激に夢中で、アークエイドの声は届いてなかった。

(どんな拷問だ。)

嬉しくも苦々しい気持ちになりながら、アシェルの顔を布で隠した。

二本の指を咥えこんで舐めあげるアシェルの舌と唇の感触に耐えながら、アークエイドは王宮の自室へと向かった。




シーツにくるんだアシェルに指を咥えられたままのアークエイドは、王宮内自室の寝台上に居た。

天蓋のカーテンを閉じ、それを少し開けるようにして中を覗いている宮廷医務官長のアベル・メイディーと向き合っている。

アベルは自分の娘が置かれている状況をアークエイドから聞き出し。渡された薬瓶の内容を確認し。
事のあらましを理解した上で、はぁと大きなため息を吐いた。

「事情は分かりました。人払いをした上に、アシェの姿を隠してくれたことには感謝しましょう。ですが、うちの娘は巻き込まれたのですよ。」

「それは本当に申し訳ないと思っている。」

アベルの苦言に素直に頭を下げれば、頭を上げてくださいと声がかかる。

「割と強力なものを使われたようですね。解毒にはもう少し時間がかかるでしょう。あと、アシェは潜在消費を起こしています。」

「アシェが?」

「えぇ、先程から殿下の指を吸っているでしょう。恐らく、乾きを満たそうとしていると思います。」

言いながらアベルは、色の違う薬瓶を二本ずつ取り出した。

「こちらの紺色のものが睡眠薬。薄い青色のものがマナポーションです。殿下は30分後に私の真似をして、この二つをアシェに飲ませてください。」

そう言うと、指で開いた唇の隙間に薬瓶を突っ込み傾けた。

こく、こくとアシェルが嚥下する音がする。

睡眠薬、マナポーションをそれぞれ飲ませると、残りの二本はアークエイドの手元に置いた。

「必ず睡眠薬、マナポーションの順に飲ませてください。アシェの口に睡眠薬が残っている状態で殿下が襲われたら、あっという間に夢の中ですからね。」

それほど強力な睡眠薬だというのに、アシェルは全く眠くなさそうだ。

「今は媚薬の効果の方が勝っているんでしょう。体内で解毒が進めば、後から入れた睡眠薬の方が勝ちますから。」

そこまで言ったアベルは、アシェルの首筋に付けられた所有印に眼をスッと細める。

「殿下のことは信じていますから。仮にアシェに襲われたとしても、キス以上のことはしないようにお願いしますね。」

「すまない。」

「いえ。好きだと言って憚らない女性を相手に、よく我慢してくれました。……アシェが寝たら、私の元へ使いをよこしてください。連れて帰りますので。」

「分かった。」

アベルは「失礼します。」と天蓋のカーテンを閉じ退室した。

人払いをした部屋の中はアークエイドとアシェルだけになる。

扉は少しだけ開いているし、扉の外には警備の騎士が控えているが。それは貴族令嬢と二人っきりの今、仕方のないことだった。

依然、アークエイドの指を美味しそうに味わうアシェルの耳元に口付けを落とし。
拷問のような甘い時間を、理性をフル動員して過ごしたのだった。
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