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第一章 非公式お茶会
42 エピローグ
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Side:アシェル12歳 春
アシェルは先月のアークエイドと出かけたレストラン【ウォルナット】での出来事を思い出しては、毎朝布団の中でドキドキする胸を抑えてじたばたするということを繰り返していた。
三月に入ってすぐ。流石にやめる気配のない毎朝の様子を見かねたイザベルに、とうとう苦言を呈されてしまう。
「アシェルお嬢様。いい加減落ち着いてくださいませ。」
ここ最近は王立学院での生活も考慮して、部屋付きの侍女はイザベルだけにしてもらっていた。
正しくはそれを口実に、みっともない姿を見せる相手を制限していた。
そもそもアシェルはあまり他人にお世話されたくない。
大体のことは自分でできるので、学院に邸の侍女を連れていくつもりはない。
「だって、だって……!いくら媚薬の影響とは言え、男相手にアークが押し倒してくるなんて思わなかったんだもの!やっとキスマークが消えたのよ?気にならないって思ってたけど、流石に目に入ると思い出しちゃったんだもの。」
大きな枕を抱き締め、女性ものの寝間着でむぅと頬を膨らませるアシェルに、イザベルは大きなため息をつく。
その姿は恋する乙女そのものだが、イザベルは自分の大切な乳兄妹で主人の彼女が、恋慕の情にはとことん疎いことを知っている。
アークエイドとは同性同士だと思われているという前提があるので尚更だ。
「アシェルお嬢様は殿下の所有印にドキドキしているのですか?殿下をお慕いしてドキドキしているのですか?それとも、幼馴染にはしたない姿を見られてしまったことにドキドキしているのですか?はたまた、男同士で事に至りそうになったことにドキドキしているのですか?」
具体例を出して問いかけてくるイザベルに、アシェルはどれでドキドキしているんだろう?と悩んでしまう。
「……分からないわ。」
「……そうだと思っておりました。というわけで、所有印も消えましたし悩むだけ無駄です。それよりも一月のお茶会のあと、春に殿下を招待したいと言ってませんでしたか?どうなさるのです??」
「言ったわ……お誘いの手紙を書くわ。顔を見ればもしかしたら、ドキドキの正体が解るかもしれないし。」
「それがよろしいかと。」
なんの躊躇いもなく手紙でお誘い出来るあたり、本当に恋慕の情ではなさそうだ。
イザベルは母のサーニャから聞いていた話を思いアークエイドに激しく同情するも、表面上はいつも通りに振舞った。
書き物机の上にイザベルが便箋やインクを用意してくれている間に、アシェルは一人で着替えてしまう。
そして三月末の、花見というには少し早いかもしれないお茶会へのお誘いに参加の返事が来たのだった。
玄関の扉が開かれると同時に、ホールに並んだ使用人たちが一斉に頭を下げる。
我が家を初めて訪れたアークエイドに、いつもの男装姿で出迎えたアシェルは微笑みかけた。
「いらっしゃい、アーク。大したおもてなしは出来ないけど、歓迎するよ。」
「世話になる。土産だ。」
相変わらずの無表情さとさっぱりとしたいつも通りのアークエイドを見て、アシェルはほっと胸を撫でおろした。
アークエイドの顔を見て挙動不審になってしまわないか心配だったのだが、どうやら杞憂に終わったようだ。
アークエイドの連れてきている近衛騎士から紙袋を受け取った使用人が厨房へと消える。
「早速だけど、庭の方へ案内するよ。」
「頼む。」
後ろをついてくるアークエイドと護衛達の気配を感じながら、玄関ホールを抜けて庭へ出る。
風はまだ少し肌寒いものの、陽射しはぽかぽかと暖かい。
庭に出た後、護衛達は会話が聞こえにくいように十分に距離を取ってくれる。
「王宮の庭に比べると狭いと思うけど、うちの庭はタウンハウスの中では一番広いんだよ。と言っても、庭園っていうより薬草園だけどね。」
「逆にハーブだらけじゃないんだな。」
揶揄うような声に「失礼な。」といって笑う。
「これでも一応公爵家だからね。パーティーとかは苦手みたいで、ホームパーティー以外をうちで開いてるのは見たことないけど。」
「メイディー卿は、あまり華やかなパーティーを好いてないみたいだからな。夜会にも最低限しかいらっしゃらないようだよ。」
「アン兄様もお父様と同じタイプなのに、グレイニール殿下に連行されるって嘆いてたよ。小さなパーティーにまで連行しないでほしいって。」
「早く婚約者を作れと言って連れまわしているらしいぞ。」
「あーうちは誰も婚約者決まってないからなぁ。アル兄様も決まってない括りでいいでしょ。」
「アビー姉上はノアに夢中だからな。いつ返事が貰えるかは分からないが。」
二人で笑って話しながら、庭園エリアから薬草園のエリアに入る。
「ちょっと風景は寂しいけど、そこかしこで緑が芽吹いてきてるでしょ。」
「あぁ。確かにこれだけ一面に、色々な植物が芽吹き始めていると思うと……壮観だな。」
「綺麗に生え揃った庭も、もちろん良いんだけど。こうやって見てると生命の力強さを感じるよね。」
のんびり薬草園を歩き温室の案内もする。
熱帯地帯、乾燥地帯、そして温室としては珍しいであろうツンドラ地帯の気候を再現した温室を回っていく。
最後の温室はアシェルのお気に入りの温室だ。
この温室の隣に小屋を用意してもらい、実験部屋にして入り浸っているくらいにはお気に入りだ。
「いらっしゃい。ここは常春の温室だよ。」
そう言って開いた温室の中は、暖かな陽気と色とりどりの花やハーブが咲いている。
中には樹木も植えてあって、サクランボやミカンも植えてある。随所にいろんな品種のイチゴも植わっているので、いつ来ても何かしらの果物が手に入る温室でもあった。
「これは……凄いな。」
「でしょ?中に喫茶スペースがあるから、そこでお茶にしよう。もう準備してくれてるはずだから。」
一番大好きな温室が褒められたのが嬉しくて、うきうきと温室の中を案内する。
喫茶スペースではイザベルが待機しており、椅子に座ったアシェルとアークエイドに紅茶を注いでくれた。
そのまま脇に控えようとするイザベルを呼び止め、アークエイドに紹介する。
「アーク、来年から一緒に学院に通うことになるから紹介しておくよ。僕の専属侍女を務めるイザベルだよ。伯爵家の娘で、僕の乳兄妹なんだ。」
「ご紹介に預かりました、トラスト伯爵が娘、イザベル・トラストと申します。お見知りおき下さいませ。」
イザベルがお仕着せのまま、すっと綺麗なカーテシーを披露する。
「そして、こちらがアークエイド殿下だよ。」
「アークエイド・ナイトレイだ。よろしく頼む。アシェの乳兄妹ということは侍女としてではなく、伯爵令嬢として学院に通うんだろう?」
アークエイドのもっともな問いに、アシェルは苦笑で返した。
アシェルが口を開かないので、観念したイザベルが説明をする。
「私はアシェル様の侍女ですので。貴族の義務ですから学院には通いますが、侍女がメインです。名前も家名ではなく、どうぞイザベルと。」
「だから、学業をメインにしてって言ってるでしょ。僕は大体のこと一人でできるんだから。」
「いいえ、アシェル様は一人で出来るからと、髪や肌のお手入れをおサボりになるでしょう。ほったらかしにしておいたら、綺麗な御髪があっという間に艶を失ってしまいます。」
「ベルが念入りに手入れをしすぎるだけだよ。」
「そんなことはございません。」
もう何度繰り返したか分からないやり取りを見て、アークエイドが笑いを漏らす。
アークエイドが外でこんなに分かりやすい笑みを見せるのは珍しい。
「まぁ、信頼できる侍女が一緒なのは良いことじゃないか?寮生活になるし、実家での生活とは勝手が違うだろうからな。」
「僕としては在学中に、ベルに良い相手が見つかってほしいんだけどなぁ。」
「アシェル様の婚約が決まったら考えますね。」
「えぇ。それって、お兄様達の婚約者が決まるよりも早くってのはないだろうから。悠長なこと言ってたらベルが嫁ぎ遅れちゃうよ。」
「でしたら、そうならないように頑張ってくださいませ。」
にこっと笑ったイザベルはそれでは、と今度こそ端の方へ控えに去っていった。
「イザベル嬢と仲がいいんだな。」
「うん。ベルの方がちょっとだけ早く産まれたから、お義姉さんみたいな感じだよ。口でベルに勝てたためしがないんだ。」
「よく口の回るアシェが負けるなんて、凄いお嬢様じゃないか。」
ふっと口角を上げるアークエイド。
「ねぇ、それって揶揄ってる?馬鹿にしてる??」
「さぁな。」
クスクスと笑う姿に「もう。」と膨れて見せる。
「そういえば先月の件だが。やっと片が付いたぞ。」
先月の件という言葉にドキンと心臓が跳ねる。
そんなことは表面には出さずに話の続きを聴けば、王族へ薬を盛ったとしてウォレン侯爵家は取り潰し。
アシェルを襲おうとしていたユグドラ侯爵家、ノートン伯爵家、ティザー伯爵家はそれぞれ膨大な罰金と一部領地の返還を要請された。当主も血族の中から国が指名した次代へ引き継ぐことで決着をつけたようだ。
罰金の一部は慰謝料としてメイディー公爵家に支払われたらしい。
「かなり厳しい処罰だったんだね。」
「当たり前だ。アシェがいたからどうにかなったが、他の者と一緒では相手の思惑通りになってしまっていただろう。それくらいキツイ薬を使われていた。本来、この国では所持を禁止されているものだ。それにメイディー公爵家の面々が、だいぶとご立腹だったらしいからな。」
確かにアベルはピリピリしていたが、この言い方を聞くに、どうも兄達も噛んでいそうな気がした。
「まぁ。この前の事件についてはそんなところだ。あの店も無くなるしな。」
「そっか。食事自体は悪くなかったけど、仕方ないね。」
そこで先月の事件についての話は終わった。
あとは他愛もない雑談をする。
菓子を摘まんで食べる指やその唇に、時折先月の件を思い出しドキッとしてしまうことはあったが、思いのほか普段通りに過ごすことができた。
きっとドキドキは媚薬の影響のせいだったのだろう。
アークエイドがいつもと変わらない様子で接してくれたからかもしれない。
そのことに安心したような、どこか残念な気持ちになりながら、アシェルはアークエイドと二人の時間を楽しんだのだった。
来月には王立学院への入学式が待っている。
第一章 非公式お茶会 完
アシェルは先月のアークエイドと出かけたレストラン【ウォルナット】での出来事を思い出しては、毎朝布団の中でドキドキする胸を抑えてじたばたするということを繰り返していた。
三月に入ってすぐ。流石にやめる気配のない毎朝の様子を見かねたイザベルに、とうとう苦言を呈されてしまう。
「アシェルお嬢様。いい加減落ち着いてくださいませ。」
ここ最近は王立学院での生活も考慮して、部屋付きの侍女はイザベルだけにしてもらっていた。
正しくはそれを口実に、みっともない姿を見せる相手を制限していた。
そもそもアシェルはあまり他人にお世話されたくない。
大体のことは自分でできるので、学院に邸の侍女を連れていくつもりはない。
「だって、だって……!いくら媚薬の影響とは言え、男相手にアークが押し倒してくるなんて思わなかったんだもの!やっとキスマークが消えたのよ?気にならないって思ってたけど、流石に目に入ると思い出しちゃったんだもの。」
大きな枕を抱き締め、女性ものの寝間着でむぅと頬を膨らませるアシェルに、イザベルは大きなため息をつく。
その姿は恋する乙女そのものだが、イザベルは自分の大切な乳兄妹で主人の彼女が、恋慕の情にはとことん疎いことを知っている。
アークエイドとは同性同士だと思われているという前提があるので尚更だ。
「アシェルお嬢様は殿下の所有印にドキドキしているのですか?殿下をお慕いしてドキドキしているのですか?それとも、幼馴染にはしたない姿を見られてしまったことにドキドキしているのですか?はたまた、男同士で事に至りそうになったことにドキドキしているのですか?」
具体例を出して問いかけてくるイザベルに、アシェルはどれでドキドキしているんだろう?と悩んでしまう。
「……分からないわ。」
「……そうだと思っておりました。というわけで、所有印も消えましたし悩むだけ無駄です。それよりも一月のお茶会のあと、春に殿下を招待したいと言ってませんでしたか?どうなさるのです??」
「言ったわ……お誘いの手紙を書くわ。顔を見ればもしかしたら、ドキドキの正体が解るかもしれないし。」
「それがよろしいかと。」
なんの躊躇いもなく手紙でお誘い出来るあたり、本当に恋慕の情ではなさそうだ。
イザベルは母のサーニャから聞いていた話を思いアークエイドに激しく同情するも、表面上はいつも通りに振舞った。
書き物机の上にイザベルが便箋やインクを用意してくれている間に、アシェルは一人で着替えてしまう。
そして三月末の、花見というには少し早いかもしれないお茶会へのお誘いに参加の返事が来たのだった。
玄関の扉が開かれると同時に、ホールに並んだ使用人たちが一斉に頭を下げる。
我が家を初めて訪れたアークエイドに、いつもの男装姿で出迎えたアシェルは微笑みかけた。
「いらっしゃい、アーク。大したおもてなしは出来ないけど、歓迎するよ。」
「世話になる。土産だ。」
相変わらずの無表情さとさっぱりとしたいつも通りのアークエイドを見て、アシェルはほっと胸を撫でおろした。
アークエイドの顔を見て挙動不審になってしまわないか心配だったのだが、どうやら杞憂に終わったようだ。
アークエイドの連れてきている近衛騎士から紙袋を受け取った使用人が厨房へと消える。
「早速だけど、庭の方へ案内するよ。」
「頼む。」
後ろをついてくるアークエイドと護衛達の気配を感じながら、玄関ホールを抜けて庭へ出る。
風はまだ少し肌寒いものの、陽射しはぽかぽかと暖かい。
庭に出た後、護衛達は会話が聞こえにくいように十分に距離を取ってくれる。
「王宮の庭に比べると狭いと思うけど、うちの庭はタウンハウスの中では一番広いんだよ。と言っても、庭園っていうより薬草園だけどね。」
「逆にハーブだらけじゃないんだな。」
揶揄うような声に「失礼な。」といって笑う。
「これでも一応公爵家だからね。パーティーとかは苦手みたいで、ホームパーティー以外をうちで開いてるのは見たことないけど。」
「メイディー卿は、あまり華やかなパーティーを好いてないみたいだからな。夜会にも最低限しかいらっしゃらないようだよ。」
「アン兄様もお父様と同じタイプなのに、グレイニール殿下に連行されるって嘆いてたよ。小さなパーティーにまで連行しないでほしいって。」
「早く婚約者を作れと言って連れまわしているらしいぞ。」
「あーうちは誰も婚約者決まってないからなぁ。アル兄様も決まってない括りでいいでしょ。」
「アビー姉上はノアに夢中だからな。いつ返事が貰えるかは分からないが。」
二人で笑って話しながら、庭園エリアから薬草園のエリアに入る。
「ちょっと風景は寂しいけど、そこかしこで緑が芽吹いてきてるでしょ。」
「あぁ。確かにこれだけ一面に、色々な植物が芽吹き始めていると思うと……壮観だな。」
「綺麗に生え揃った庭も、もちろん良いんだけど。こうやって見てると生命の力強さを感じるよね。」
のんびり薬草園を歩き温室の案内もする。
熱帯地帯、乾燥地帯、そして温室としては珍しいであろうツンドラ地帯の気候を再現した温室を回っていく。
最後の温室はアシェルのお気に入りの温室だ。
この温室の隣に小屋を用意してもらい、実験部屋にして入り浸っているくらいにはお気に入りだ。
「いらっしゃい。ここは常春の温室だよ。」
そう言って開いた温室の中は、暖かな陽気と色とりどりの花やハーブが咲いている。
中には樹木も植えてあって、サクランボやミカンも植えてある。随所にいろんな品種のイチゴも植わっているので、いつ来ても何かしらの果物が手に入る温室でもあった。
「これは……凄いな。」
「でしょ?中に喫茶スペースがあるから、そこでお茶にしよう。もう準備してくれてるはずだから。」
一番大好きな温室が褒められたのが嬉しくて、うきうきと温室の中を案内する。
喫茶スペースではイザベルが待機しており、椅子に座ったアシェルとアークエイドに紅茶を注いでくれた。
そのまま脇に控えようとするイザベルを呼び止め、アークエイドに紹介する。
「アーク、来年から一緒に学院に通うことになるから紹介しておくよ。僕の専属侍女を務めるイザベルだよ。伯爵家の娘で、僕の乳兄妹なんだ。」
「ご紹介に預かりました、トラスト伯爵が娘、イザベル・トラストと申します。お見知りおき下さいませ。」
イザベルがお仕着せのまま、すっと綺麗なカーテシーを披露する。
「そして、こちらがアークエイド殿下だよ。」
「アークエイド・ナイトレイだ。よろしく頼む。アシェの乳兄妹ということは侍女としてではなく、伯爵令嬢として学院に通うんだろう?」
アークエイドのもっともな問いに、アシェルは苦笑で返した。
アシェルが口を開かないので、観念したイザベルが説明をする。
「私はアシェル様の侍女ですので。貴族の義務ですから学院には通いますが、侍女がメインです。名前も家名ではなく、どうぞイザベルと。」
「だから、学業をメインにしてって言ってるでしょ。僕は大体のこと一人でできるんだから。」
「いいえ、アシェル様は一人で出来るからと、髪や肌のお手入れをおサボりになるでしょう。ほったらかしにしておいたら、綺麗な御髪があっという間に艶を失ってしまいます。」
「ベルが念入りに手入れをしすぎるだけだよ。」
「そんなことはございません。」
もう何度繰り返したか分からないやり取りを見て、アークエイドが笑いを漏らす。
アークエイドが外でこんなに分かりやすい笑みを見せるのは珍しい。
「まぁ、信頼できる侍女が一緒なのは良いことじゃないか?寮生活になるし、実家での生活とは勝手が違うだろうからな。」
「僕としては在学中に、ベルに良い相手が見つかってほしいんだけどなぁ。」
「アシェル様の婚約が決まったら考えますね。」
「えぇ。それって、お兄様達の婚約者が決まるよりも早くってのはないだろうから。悠長なこと言ってたらベルが嫁ぎ遅れちゃうよ。」
「でしたら、そうならないように頑張ってくださいませ。」
にこっと笑ったイザベルはそれでは、と今度こそ端の方へ控えに去っていった。
「イザベル嬢と仲がいいんだな。」
「うん。ベルの方がちょっとだけ早く産まれたから、お義姉さんみたいな感じだよ。口でベルに勝てたためしがないんだ。」
「よく口の回るアシェが負けるなんて、凄いお嬢様じゃないか。」
ふっと口角を上げるアークエイド。
「ねぇ、それって揶揄ってる?馬鹿にしてる??」
「さぁな。」
クスクスと笑う姿に「もう。」と膨れて見せる。
「そういえば先月の件だが。やっと片が付いたぞ。」
先月の件という言葉にドキンと心臓が跳ねる。
そんなことは表面には出さずに話の続きを聴けば、王族へ薬を盛ったとしてウォレン侯爵家は取り潰し。
アシェルを襲おうとしていたユグドラ侯爵家、ノートン伯爵家、ティザー伯爵家はそれぞれ膨大な罰金と一部領地の返還を要請された。当主も血族の中から国が指名した次代へ引き継ぐことで決着をつけたようだ。
罰金の一部は慰謝料としてメイディー公爵家に支払われたらしい。
「かなり厳しい処罰だったんだね。」
「当たり前だ。アシェがいたからどうにかなったが、他の者と一緒では相手の思惑通りになってしまっていただろう。それくらいキツイ薬を使われていた。本来、この国では所持を禁止されているものだ。それにメイディー公爵家の面々が、だいぶとご立腹だったらしいからな。」
確かにアベルはピリピリしていたが、この言い方を聞くに、どうも兄達も噛んでいそうな気がした。
「まぁ。この前の事件についてはそんなところだ。あの店も無くなるしな。」
「そっか。食事自体は悪くなかったけど、仕方ないね。」
そこで先月の事件についての話は終わった。
あとは他愛もない雑談をする。
菓子を摘まんで食べる指やその唇に、時折先月の件を思い出しドキッとしてしまうことはあったが、思いのほか普段通りに過ごすことができた。
きっとドキドキは媚薬の影響のせいだったのだろう。
アークエイドがいつもと変わらない様子で接してくれたからかもしれない。
そのことに安心したような、どこか残念な気持ちになりながら、アシェルはアークエイドと二人の時間を楽しんだのだった。
来月には王立学院への入学式が待っている。
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※全11話 2万字程度の話です。
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