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第二章 王立学院中等部一年生
43 プロローグ
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ヒューナイト王国の中央、ナイトレイ地方の中央に王都はある。
その王都の北側の街路と、北東に伸びる街路に挟まれたエリアに王立学院は建っている。
一部平民の学び舎の為に区切られているため全てとは言わないが、それでも一つのエリアほぼ全域が王立学院として背の高い塀に囲まれていた。
それぞれ学院エリアを挟む街路に一つずつ大門があるが、それ以外に出入り口は存在しない。
背の高い塀よりも更に上空は結界による保護があり、見えない壁が存在するのだ。
そんな堅牢な守りを持つ王立学院には、ヒューナイト王国全域の貴族や豪商の令息・令嬢が通うことになる。
10~12歳までの希望者のみが入れる初等部は特殊で、入学者は年に数人いればいいほうだ。
そして13歳からの6年間は、王立学院で学ぶことが義務となっている。
13~15歳までの中等部、16~18歳までが高等部と呼ばれており、成人しているかが解るようになっている。しかし同じ敷地内なので特別な違いがあるわけではない。
全寮制のため学生達の生活する寮や喫茶店、商店など、大体の物は王立学院の塀の中で揃うようにできている。
そこに学舎や教師たちの寮、庭園なども立ち並ぶため、この学院エリアだけで一つの町のような様相を呈していた。
勿論、届け出さえ行えば城下町へでることや実家に帰省することもできる。
そんな王立学院の壁門二つは、年に一度。この春の日には大きく開かれることになる。
——王立学院の入学式の日だ。
壁門の傍には、大きな声を張り上げて新入生を歓迎する在校生達。
街路には近くで降りて歩いてくる制服姿の男女や、門の近くまで馬車で乗り付ける者達。
毎年恒例のプチ渋滞の中、制服を着たアシェルはイザベルと共に街路を歩いていた。
アシェル・メイディーは女性としては高めの背丈だが、男性としては少し低い背丈だ。
白く透けるような肌、吊り上がった眦でメイディー公爵家直系であるアメジスト色の瞳。
陽の光を受けて輝く青味を帯びた銀髪は、首の後ろでゆったりと飾り紐で纏めていた。その毛先はお尻かかる長さまで伸びている。
アシェルは幼少のころから男装をして表向きメイディー公爵家の三男として振舞っており、現在も男子の制服を着ている。
長袖の白シャツに黄色のネクタイ、紺色のスラックスに同色のブレザー。そしてそれよりも少し明るい色合いのベスト、靴は真っ黒なローファーだ。
そこにベルト状のホルスターに薬瓶を入れて身に着けている。
これはメイディー家の特徴で、ベルト状かベスト状のホルスターを身に着けるのは学院からも許可を得ていた。
さらに女性として膨らむ胸元を隠すために、シャツの下には革製の胸つぶしを着けている。
イザベル・トラストは伯爵家の三女でアシェルの乳兄妹だ。
アシェルのことを女性と知る数少ない人物でもある。
女性平均と言える背丈に、それなりに育ってきた胸元。マルベリー色の髪の毛を高めのポニーテールにしていて、その毛先は臍のあたりまで伸ばしている。
若草色の意思の強そうな瞳の通り、イザベルは本来活発でお転婆なほうだ。
アシェルの専属侍女として振舞っている時はお淑やかで丁寧を心がけているらしい。
そんなイザベルは女子の制服を着ており、白の長袖ブラウスの袖には紺色のカフス。紺色の肘上までの丈のポンチョにロングスカート。
ボルドーカラーの編み上げコルセットに、首元には黄色のリボンをつけ、足元はショート丈の編み上げブーツをはいている。
この男女のネクタイとリボンの色は学年ごとにカラーが決まっており、中等部一年生から黄色、緑、青と変化していく。高等部に上がれば、紫、赤、黒と変わる。
初等部は同型の薄墨色の制服を着ることになるのだが、アシェルの眼に入る限り、初等部の生徒は歩いていなかった。
壁門のあたりで固まっている人影に声をかける。
「おはよう、皆。」
事前に待ち合わせしていた、非公式お茶会に参加していた幼馴染達だ。
アシェルの挨拶へ口々に挨拶を返してくれる。
一番背の高い暗赤色髪をした短髪の襟足だけを伸ばし、背中の真ん中あたりまでの尻尾のように結んでいるのがエラート・カドラス。侯爵家の長男だ。
その長身としっかりついた筋肉、小麦色の健康的な肌。彫りの深い顔にワインレッドの瞳で偉丈夫と言った出で立ちなのだが、わくわくしているという期待を隠しきれていない表情のせいで子供っぽい印象を与えてしまう。
そのエラートより少しだけ身長は劣るものの、獣人としての耳まで入れたら越してしまうのがマリク・テイル。公爵家の長男で、人族と獣人族のハーフである。
人化をしている状態でも青灰色の三角の耳とふさふさの尻尾が獣人であることを主張している。
同色の髪の毛は外跳ねの癖っ気で、一番長い毛は鎖骨辺りまで伸びている。鼻にかかりそうなほど伸びた前髪は分けられて、半分は耳にかけてアシメントリーな髪型をしていた。
切れ長な目元と橙色の瞳には、テイル公爵家直系の証である縦長の鋭い瞳孔が良く似合っていた。
相変わらず大人しく立っていれば凛々しい狼のような格好良さがあるのに、うきうきとした気分に合わせて尻尾がぶんぶん振られているので、愛想のいい大型犬にしか見えなかった。
次いでアシェルより若干低かったはずの背丈が、少しだけ目線を上げなくてはいけなくなってしまったアークエイド・ナイトレイ。この国の第二王子だ。
王家の特徴である漆黒の髪は、今はみぞおち辺りまで伸びている。その髪は毛先に近い位置で結ばれていた。
母親から受け継いだウェンディー辺境伯爵家直系色であるサファイアブルーの切れ長の瞳は、細い黒のアンダーリム眼鏡をかけているせいで印象がぼやけている。
視力が悪いわけではなく、口元だけの笑みを浮かべた時の目元の印象を誤魔化すためのもののようだ。
相変わらず家族や幼馴染たち以外へは、ほぼ返事をしない不愛想とほぼ無表情を貫いているらしい。
「あれ、王都組だけ?」
「双子達は乗り合いで来るってよ。」
「あ、あれじゃないー?」
そう言ってマリクの指さした先で、アスノーム辺境伯爵家の家紋が描かれた馬車が止まる。
最初に降りてきたのはノアール・アスノーム。次いでエトワール・アスノームが降りてくる。
この二人はどちらも男性の双子で見た目はそっくりだ。
栗色の髪を耳にかからない程度の長さにそろえており、アスノーム辺境伯爵家直系色であるシトリン色の瞳を持っている。
見た目も背丈も差異はないのだが、性格は真反対でノアールは穏やかで本を読むことが好きな性格。対してエトワールは活発で身体を動かしたいタイプだ。
そのためエトワールの方が少し筋肉がしっかりついてきているように思う。
男の双子の後には男女の双子が降りてくる。
先に降りた男性の方がデューク・シルコット。そしてその手を取り降りてきた女性がリリアーデ・シルコットである。
二人の髪色は薄緑で、その瞳はシルコット辺境伯爵家直系色のエメラルドグリーンだ。
二人ともそっくりなアーモンド形の吊り目をしており、デュークは前下がりのボブカット。リリアーデは腰丈の長さを姫カットにしている。
「みんなおはよー。」
「おはよー数か月ぶりね。」
それぞれの双子の元気なほう、エトワールとリリアーデがそれぞれの双子を代表して挨拶してくる。それにアシェル達もおはようと返した。
幼馴染の8人と1人は周囲から興味津々という視線が飛んでくるが、誰一人として視線を気にすることは無い。
高位貴族であり顔面偏差値が高すぎる幼馴染達が目立つのはいつものことで、乳兄妹のイザベルもそれを知っているからだ。
「皆揃ったから、先に紹介させてほしいんだ。こちら僕の乳兄妹で専属侍女のイザベルっていうんだ。一緒に居ることが増えるだろうから仲良くしてあげてほしい。」
「皆様おはようございます。トラスト伯爵の娘、イザベル・トラストと申します。アシェル様の侍女としてお仕えするために入学しました。よろしくお願いします。」
スッとカーテシーをするイザベルに幼馴染達が自己紹介しようとしたが、存じ上げておりますので大丈夫です、とお断りしていた。
アシェルはイザベルの言葉にそうじゃないでしょ、と突っ込む。
「いいかいベル。学生は勉強が本質なの。侍女業務はオマケ。わかった?」
「どちらもこなせば文句ありませんよね。」
「うん。学業を疎かにすることだけは許さないから。それ以外は自由にしていいよ。でもできれば学院では、一人でゆっくりしたいよ。」
「ふふ、面白い方ね。」
二人のやり取りを見たリリアーデが笑う。
「ベルはこう見えてお転婆少女だから、リリィとは気が合うと思うよ?」
「アシェ、待ってくれ。ただでさえ何しでかすか分からないのに、燃料投下しないでくれ。」
リリアーデの双子の弟であり、婚約者のデュークがげんなりしたようにいう。
「えっと、お守り頑張ってね。応援してるよ。」
「その時はアシェも道連れだからな。」
「えーそれは困るなぁ。」
なんだかんだとワイワイ言っていると、学院の内側からキャーという叫び声が移動してくる。
今アシェル達が立っている辺りもキャーキャー言われているが、それでも通り過ぎられるので大きすぎる叫びは聞こえない。
のだが、学院内の誰かは叫ぶ集団と共に移動しているようだ。
「どうやら案内人がお迎えに来たみたいだよ。」
その現象を起こしているであろう人物に心当たりがあり、アシェルは苦笑する。
幼馴染達と連れ添って壁門へ行けば、やはり次兄のアルフォード・メイディーが数名の美男美女と、それを取り巻く集団に囲まれて立っていた。
男性としては平均よりちょっと低めなアルフォードはアシェルそっくりの色をしており、銀髪はふわふわとしたくせ毛でポニーテールになっている。
アメジスト色の瞳はぱっちり垂れ目で、アシェルに男装が似合うように、アルフォードは女装が似合うだろうなと思ってしまう。
「おーい、アシェー。入学おめでとう。」
アシェルの姿を見つけたアルフォードは駆け寄ってきて、アシェルの身体をその腕の中に収めた。
周囲から一層甲高い声でキャー!!と歓声が上がる。
「おはようございます、アル兄様。入学式の会場まで案内してもらえますか?」
ギューッと抱き締め合う力を抜いて、恐らく生徒会執行部のメンバーに「いつも兄がお世話になっております。」ペコリと頭を下げる。
その姿にもキャーという歓声が上がった。
ちなみにアルフォードの隣にいたはずのアビゲイル第一王女は、ちゃっかりノアールにエスコートをさせている。アビゲイルは未だ婚約に至らないノアールに猛烈アタック中だ。
小麦色の肌とワンレンにした漆黒のストレートヘアがエキゾチックなアビゲイル・ナイトレイは、その菖蒲色の瞳に嬉しさを滲ませている。
「じゃあ行こうか。」
アルフォードから差し出された手を取り、手を繋いで歩く。
生徒会執行部のメンバーが「迎えに行くとはこういうことか。」と呟いたが、その呟きは周囲の黄色い声にかき消された。
その王都の北側の街路と、北東に伸びる街路に挟まれたエリアに王立学院は建っている。
一部平民の学び舎の為に区切られているため全てとは言わないが、それでも一つのエリアほぼ全域が王立学院として背の高い塀に囲まれていた。
それぞれ学院エリアを挟む街路に一つずつ大門があるが、それ以外に出入り口は存在しない。
背の高い塀よりも更に上空は結界による保護があり、見えない壁が存在するのだ。
そんな堅牢な守りを持つ王立学院には、ヒューナイト王国全域の貴族や豪商の令息・令嬢が通うことになる。
10~12歳までの希望者のみが入れる初等部は特殊で、入学者は年に数人いればいいほうだ。
そして13歳からの6年間は、王立学院で学ぶことが義務となっている。
13~15歳までの中等部、16~18歳までが高等部と呼ばれており、成人しているかが解るようになっている。しかし同じ敷地内なので特別な違いがあるわけではない。
全寮制のため学生達の生活する寮や喫茶店、商店など、大体の物は王立学院の塀の中で揃うようにできている。
そこに学舎や教師たちの寮、庭園なども立ち並ぶため、この学院エリアだけで一つの町のような様相を呈していた。
勿論、届け出さえ行えば城下町へでることや実家に帰省することもできる。
そんな王立学院の壁門二つは、年に一度。この春の日には大きく開かれることになる。
——王立学院の入学式の日だ。
壁門の傍には、大きな声を張り上げて新入生を歓迎する在校生達。
街路には近くで降りて歩いてくる制服姿の男女や、門の近くまで馬車で乗り付ける者達。
毎年恒例のプチ渋滞の中、制服を着たアシェルはイザベルと共に街路を歩いていた。
アシェル・メイディーは女性としては高めの背丈だが、男性としては少し低い背丈だ。
白く透けるような肌、吊り上がった眦でメイディー公爵家直系であるアメジスト色の瞳。
陽の光を受けて輝く青味を帯びた銀髪は、首の後ろでゆったりと飾り紐で纏めていた。その毛先はお尻かかる長さまで伸びている。
アシェルは幼少のころから男装をして表向きメイディー公爵家の三男として振舞っており、現在も男子の制服を着ている。
長袖の白シャツに黄色のネクタイ、紺色のスラックスに同色のブレザー。そしてそれよりも少し明るい色合いのベスト、靴は真っ黒なローファーだ。
そこにベルト状のホルスターに薬瓶を入れて身に着けている。
これはメイディー家の特徴で、ベルト状かベスト状のホルスターを身に着けるのは学院からも許可を得ていた。
さらに女性として膨らむ胸元を隠すために、シャツの下には革製の胸つぶしを着けている。
イザベル・トラストは伯爵家の三女でアシェルの乳兄妹だ。
アシェルのことを女性と知る数少ない人物でもある。
女性平均と言える背丈に、それなりに育ってきた胸元。マルベリー色の髪の毛を高めのポニーテールにしていて、その毛先は臍のあたりまで伸ばしている。
若草色の意思の強そうな瞳の通り、イザベルは本来活発でお転婆なほうだ。
アシェルの専属侍女として振舞っている時はお淑やかで丁寧を心がけているらしい。
そんなイザベルは女子の制服を着ており、白の長袖ブラウスの袖には紺色のカフス。紺色の肘上までの丈のポンチョにロングスカート。
ボルドーカラーの編み上げコルセットに、首元には黄色のリボンをつけ、足元はショート丈の編み上げブーツをはいている。
この男女のネクタイとリボンの色は学年ごとにカラーが決まっており、中等部一年生から黄色、緑、青と変化していく。高等部に上がれば、紫、赤、黒と変わる。
初等部は同型の薄墨色の制服を着ることになるのだが、アシェルの眼に入る限り、初等部の生徒は歩いていなかった。
壁門のあたりで固まっている人影に声をかける。
「おはよう、皆。」
事前に待ち合わせしていた、非公式お茶会に参加していた幼馴染達だ。
アシェルの挨拶へ口々に挨拶を返してくれる。
一番背の高い暗赤色髪をした短髪の襟足だけを伸ばし、背中の真ん中あたりまでの尻尾のように結んでいるのがエラート・カドラス。侯爵家の長男だ。
その長身としっかりついた筋肉、小麦色の健康的な肌。彫りの深い顔にワインレッドの瞳で偉丈夫と言った出で立ちなのだが、わくわくしているという期待を隠しきれていない表情のせいで子供っぽい印象を与えてしまう。
そのエラートより少しだけ身長は劣るものの、獣人としての耳まで入れたら越してしまうのがマリク・テイル。公爵家の長男で、人族と獣人族のハーフである。
人化をしている状態でも青灰色の三角の耳とふさふさの尻尾が獣人であることを主張している。
同色の髪の毛は外跳ねの癖っ気で、一番長い毛は鎖骨辺りまで伸びている。鼻にかかりそうなほど伸びた前髪は分けられて、半分は耳にかけてアシメントリーな髪型をしていた。
切れ長な目元と橙色の瞳には、テイル公爵家直系の証である縦長の鋭い瞳孔が良く似合っていた。
相変わらず大人しく立っていれば凛々しい狼のような格好良さがあるのに、うきうきとした気分に合わせて尻尾がぶんぶん振られているので、愛想のいい大型犬にしか見えなかった。
次いでアシェルより若干低かったはずの背丈が、少しだけ目線を上げなくてはいけなくなってしまったアークエイド・ナイトレイ。この国の第二王子だ。
王家の特徴である漆黒の髪は、今はみぞおち辺りまで伸びている。その髪は毛先に近い位置で結ばれていた。
母親から受け継いだウェンディー辺境伯爵家直系色であるサファイアブルーの切れ長の瞳は、細い黒のアンダーリム眼鏡をかけているせいで印象がぼやけている。
視力が悪いわけではなく、口元だけの笑みを浮かべた時の目元の印象を誤魔化すためのもののようだ。
相変わらず家族や幼馴染たち以外へは、ほぼ返事をしない不愛想とほぼ無表情を貫いているらしい。
「あれ、王都組だけ?」
「双子達は乗り合いで来るってよ。」
「あ、あれじゃないー?」
そう言ってマリクの指さした先で、アスノーム辺境伯爵家の家紋が描かれた馬車が止まる。
最初に降りてきたのはノアール・アスノーム。次いでエトワール・アスノームが降りてくる。
この二人はどちらも男性の双子で見た目はそっくりだ。
栗色の髪を耳にかからない程度の長さにそろえており、アスノーム辺境伯爵家直系色であるシトリン色の瞳を持っている。
見た目も背丈も差異はないのだが、性格は真反対でノアールは穏やかで本を読むことが好きな性格。対してエトワールは活発で身体を動かしたいタイプだ。
そのためエトワールの方が少し筋肉がしっかりついてきているように思う。
男の双子の後には男女の双子が降りてくる。
先に降りた男性の方がデューク・シルコット。そしてその手を取り降りてきた女性がリリアーデ・シルコットである。
二人の髪色は薄緑で、その瞳はシルコット辺境伯爵家直系色のエメラルドグリーンだ。
二人ともそっくりなアーモンド形の吊り目をしており、デュークは前下がりのボブカット。リリアーデは腰丈の長さを姫カットにしている。
「みんなおはよー。」
「おはよー数か月ぶりね。」
それぞれの双子の元気なほう、エトワールとリリアーデがそれぞれの双子を代表して挨拶してくる。それにアシェル達もおはようと返した。
幼馴染の8人と1人は周囲から興味津々という視線が飛んでくるが、誰一人として視線を気にすることは無い。
高位貴族であり顔面偏差値が高すぎる幼馴染達が目立つのはいつものことで、乳兄妹のイザベルもそれを知っているからだ。
「皆揃ったから、先に紹介させてほしいんだ。こちら僕の乳兄妹で専属侍女のイザベルっていうんだ。一緒に居ることが増えるだろうから仲良くしてあげてほしい。」
「皆様おはようございます。トラスト伯爵の娘、イザベル・トラストと申します。アシェル様の侍女としてお仕えするために入学しました。よろしくお願いします。」
スッとカーテシーをするイザベルに幼馴染達が自己紹介しようとしたが、存じ上げておりますので大丈夫です、とお断りしていた。
アシェルはイザベルの言葉にそうじゃないでしょ、と突っ込む。
「いいかいベル。学生は勉強が本質なの。侍女業務はオマケ。わかった?」
「どちらもこなせば文句ありませんよね。」
「うん。学業を疎かにすることだけは許さないから。それ以外は自由にしていいよ。でもできれば学院では、一人でゆっくりしたいよ。」
「ふふ、面白い方ね。」
二人のやり取りを見たリリアーデが笑う。
「ベルはこう見えてお転婆少女だから、リリィとは気が合うと思うよ?」
「アシェ、待ってくれ。ただでさえ何しでかすか分からないのに、燃料投下しないでくれ。」
リリアーデの双子の弟であり、婚約者のデュークがげんなりしたようにいう。
「えっと、お守り頑張ってね。応援してるよ。」
「その時はアシェも道連れだからな。」
「えーそれは困るなぁ。」
なんだかんだとワイワイ言っていると、学院の内側からキャーという叫び声が移動してくる。
今アシェル達が立っている辺りもキャーキャー言われているが、それでも通り過ぎられるので大きすぎる叫びは聞こえない。
のだが、学院内の誰かは叫ぶ集団と共に移動しているようだ。
「どうやら案内人がお迎えに来たみたいだよ。」
その現象を起こしているであろう人物に心当たりがあり、アシェルは苦笑する。
幼馴染達と連れ添って壁門へ行けば、やはり次兄のアルフォード・メイディーが数名の美男美女と、それを取り巻く集団に囲まれて立っていた。
男性としては平均よりちょっと低めなアルフォードはアシェルそっくりの色をしており、銀髪はふわふわとしたくせ毛でポニーテールになっている。
アメジスト色の瞳はぱっちり垂れ目で、アシェルに男装が似合うように、アルフォードは女装が似合うだろうなと思ってしまう。
「おーい、アシェー。入学おめでとう。」
アシェルの姿を見つけたアルフォードは駆け寄ってきて、アシェルの身体をその腕の中に収めた。
周囲から一層甲高い声でキャー!!と歓声が上がる。
「おはようございます、アル兄様。入学式の会場まで案内してもらえますか?」
ギューッと抱き締め合う力を抜いて、恐らく生徒会執行部のメンバーに「いつも兄がお世話になっております。」ペコリと頭を下げる。
その姿にもキャーという歓声が上がった。
ちなみにアルフォードの隣にいたはずのアビゲイル第一王女は、ちゃっかりノアールにエスコートをさせている。アビゲイルは未だ婚約に至らないノアールに猛烈アタック中だ。
小麦色の肌とワンレンにした漆黒のストレートヘアがエキゾチックなアビゲイル・ナイトレイは、その菖蒲色の瞳に嬉しさを滲ませている。
「じゃあ行こうか。」
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