氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第二章 王立学院中等部一年生

44 王立学院入学初日①

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Side:アシェル12歳 春



入学式は卒業パーティーも行われる大広間で執り行われた。

学院長の話に始まり。国王陛下のお話、入学前テストで首席だった生徒の話が続き、学院での生活についての注意点や決まり事などを説明された。

王立学院内では身分の貴賤は問わず平等を謳っている。
王族や高位貴族に始まり、下は準男爵位や爵位のない豪商の子供が過ごしている。
平等を謳うことで学業に身を入れやすくなり、下手に実力を隠したりしないようにという計らいも含まれているのだろう。

また、生徒の自主性を重んじることから、生徒会執行部が学院内の行事のほとんどの采配を担っている。
王宮の内政官や領主ほどではないにしても、とても小さな自治領を運営する程度の仕事はあるらしい。あくまでも兄達に聞いた話では、であるが。

敷地の中央にロの形をした5階建ての校舎が建っており、その南にこの大広間がある。

校舎から見て北側に食堂と喫茶店が並んでいる。
喫茶店と塀に囲まれるようにして第二演習場が、校舎と第二演習場の西側には第一、第三演習場が建っていた。

第三演習場の南にはレストランや商店の集まったエリアがあり、塀に添うようにL 時に職員寮が建っている。

校舎から見て東側には学生寮が建っており、5階建ての寮が全部で4棟あった。
全寮制なので、王立学院生全てがその四棟のどこかに住んでいることになる。

更にその一番奥には時計塔が建っており、これは冒険者エリアの広場からも見えるようになっている。
冒険者たちがダンジョンの出入りをする時に確認する、大きくて立派な時計だ。



入学式が終わった後は校舎へ行き、割り当てられた教室に入ることになる。
といっても、一学年は二クラスしかないのだが。クラス分けは成績順でおおよそ半分に分けられている。

クラスと言っても授業は選択制であり、クラスメイトとずっと一緒の教室で授業を受けるわけではない。イメージ的には話に聞くところの大学生のような授業割りなのだろうか。
特にこだわらなくていいのかもしれないが、アシェルも幼馴染達も同じAクラスに入ることができた。

席順は決まってないので、階段状に席が並んでいる教室の後ろの方の席に思い思いに座る。
教室というよりも視聴覚室や、それこそアシェルのイメージする大学の教室のようだなと感じてしまう。

「俺だけBとかじゃなくて良かったわ。通知が来るまで不安だったんだよな。」

「俺もだよ、エト。ノアにめっちゃ勉強教わったもん。」

エラートとエトワールは勉強より身体を動かすことの方が好きなので、Aクラスから落ちないように頑張ったのだろう。

そんな同じく身体を動かすほうが好きなのがもう一人。

「マリクはどうだったの?」

ノアールに問いかけられ、マリクはきょとんとした表情を浮かべた。

「俺?わざわざ勉強はしてないよー?」

「まじかよ!?」

「この裏切り者っ。」

「えーだって、普段から勉強ってすっごいやらされるじゃん。わざわざ入学前に復習なんてしたくないよー。」

そんなやり取りに皆で笑い合う。

貴族としての格が上がれば上がるほど、家庭教師に教えてもらう内容や種類も多くなる。
それゆえ、入学試験では上位に食い込みやすい環境だったと言える。

入学前試験の上位10位までは発表されている。
アシェル、ノアール、アークエイド、マリク、デュークはランクインしていた。

Aクラスは50名程度居るようで、かなり広めの教室はほとんどの座席が埋まってしまう。
——アシェルは知らないことだが。王族の子供がいる世代はクラスメイトが多い傾向にあった。多いと今年のように100名近くが。少ない年では40名程度が一学年の人数になっている。

ざわついていた教室だが、扉を開けて教師が入ってきたのでシーンと静まり返った。

「皆さん、入学おめでとうございます。今日から担任になるクライス・デイライトです。担当は魔法学中級ですので、授業でもよろしくお願いしますね。」

すらっとした若そうな男性が綺麗な所作で挨拶をする。
その髪はデイライト公爵家直系の証である鮮やかな金髪だ。

「この後は自由に校舎内を回ってください。学内案内のパンフレットが欲しい方はココから持って行ってくださいね。」

クライス先生は『ストレージ』からパンフレットを取り出し教卓の上に置いた。

「授業は明日からになります。それぞれの寮の部屋に、教科書と選択授業のアンケートが届いているはずなので、明日は忘れずにアンケートを持ってきてください。それでは、良い学院生活を。」

笑顔を浮かべたまま必要なことを述べたクライスは教室を出て行った。
途端に教室内はざわっと賑やかになる。

アシェル達も移動しようかと席を立ちかけた時、クラスメイトのご令嬢達に囲まれた。

「あ、あの。殿下や皆様と同じクラスになれて嬉しいです!」

「宜しければ、この後一緒に校内を見て回りませんか?」

「是非仲良くしていただきたくて。」

口々にお誘いをかけてくるご令嬢達に、アークエイドの機嫌が急降下するのを感じる。

「悪いがと回る予定だ。」

幼馴染にしか伝わっていない機嫌の悪さのまま、アークエイドはさっさと席を立ち教卓のパンフレットを取って出ていく。

他の幼馴染達もそれに続いて席を立ち、最後にアシェルとイザベルが席を立った。

戸惑うご令嬢達に、アシェルはいつものように微笑みかける。

「ごめんね、気を悪くしちゃったかな?アークはあんな感じだけど悪い奴じゃないんだよ。嫌わないでやってくれると嬉しいな。それじゃ。」

返事は聞かずにそれだけ伝え、アシェルも幼馴染の後を追う。
イザベルは黙ってアシェルの半歩後ろをついてきた。





イザベルは一人、見て回る場所が違うし邪魔をしたくないからと、教室を出たところで別行動になった。

「とりあえず。主要な教室だけは見て回る?」

「校内ぐるっと順番に回ったら良いんじゃない?」

ノアールとエトワールの意見に、どうせならと順番に校内を回ることにする。
どっちにしても教室内には入れないので、見るのは廊下に出ている教室名だけだ。

「教室が多すぎるわ。」

「廊下からは中庭の噴水しか見えないからな。お願いだから、校舎内で迷子にならないでくれよ?」

「階数さえ合ってれば、いっしゅーすれば辿り着けるよー。」

リリアーデとデュークのやり取りに、マリクが何ともいえないアドバイスをする。

「リリィは方向音痴なのか?」

「あんまりイメージじゃないよね。」

エラートとアシェルが聞けば、デュークが答えてくれる。

「いつも僕が一緒に居るから目立たないだけ。だから移動教室が一緒になった人は、リリィも連れて行ってやってほしい。」

「後で皆がなんの授業受けるか決めようか?アンケートは部屋に届いてるらしいから、寮に行ってみないとだけど。」

「取りたい授業の時間が被っている可能性もあるしな。」

アシェルの案にアークエイドが補足する。
8人もいれば、大体誰かと一緒の授業に出ることになるだろう。

ぐるぐると校内を練り歩くと沢山の生徒とすれ違うが、会釈には会釈を返し、黄色い声は無視して歩いた。
いちいち反応していたらキリがないからだ。

そんな中、前から歩いてきた女性が足を止めた。
その太陽のように鮮やかな金髪が、彼女がデイライト公爵家直系であることを示している。

「あら、殿下。入学おめでとうございます。」

ペコリと礼をし上げられた瞳は髪の毛のように綺麗な金色をしていて、温和そうな女性だった。
ふわふわとウェーブを描く腰丈の髪の毛が、より一層温和そうなイメージを促進させている。

アークエイドが足を止めたので、皆もそれに合わせて止まる。

「お久しぶりですね、シャーロット嬢。ありがとうございます。」

無表情のまま紡がれた返事にシャーロットは、ふふっと優雅な笑みを漏らす。

「相変わらずですのね。また後日お誘いしてくださいませ。殿下のお話を楽しみにしていますわ。」

では、ともう一度礼をしたシャーロットは歩み去っていく。
アークエイドも礼を返して歩き始めたので、皆もそれに合わせて歩き出した。

「綺麗な方だったわね。アークの親しい方?」

「今のデイライト公爵令嬢でしょ。僕らみたいな関係が珍しいだけで、家同士の付き合いがあるんじゃないの?」

デュークの言葉に、確かに、と誰もが頷きたくなる。

本来であれば学院に入る前の貴族は、個人というより家同士の付き合いで友人ができることが多いだろう。
それすらも、家同士の仲が悪くなれば疎遠になる可能性がある関係なことが多々ある。

アシェル達のように、親同士が仲が良いからと損得勘定抜きで幼馴染や友人になる方が珍しいのだ。

「家同士……というより、俺の婚約者候補だ。」

貴族であれば誰でも知っているであろう情報だが、シルコットの双子はきょとんとした。

「この顔はもしかしなくても。」

「知らなかったやつだねー。」

揶揄うようなエラートとマリクの声に、リリアーデはむぅっと頬を膨らます。

「もう。エトたちは王都に住んでるから知ってるだけじゃなくて?」

「リリィ、申し訳ないけど。」

「俺達でも知ってるぞ。」

「うぐっ。」

アスノームの双子の言葉でリリアーデが撃沈する。

「そういえば。妹にグレイニール殿下から求婚があったから、第一王子の相手は知ってたし。第一王女はノアとアシェも関係あるし近くで話してたから知ってるけど。アークの相手は知らなかったというか。そうだよな。普通いるよな。」

デュークが一人納得したように呟いた。

「王家は一目惚れ体質らしいけど、アークのそういう話は聞かないね。このままいくとデイライト嬢がお嫁さんになるんだろうけど、とても綺麗なご令嬢だったよね。僕はあまり他の貴族に会うことなかったから初めて見たよ。」

「一目惚れ体質……確かにそうね。うちの妹に会ってすぐ求婚をし始めたところを見て、凄くビックリしたもの。ノアへのアビー王女のアタックを見てる感じで、他人事じゃなかったわ。」

アシェルの言葉に、リリアーデが思い出し笑いしながら続ける。
そんな会話の中、アークエイドが一瞬渋い顔をしたことには誰も気づかなかった。

「でもリボンの色が紫ってことは、デイライト嬢は三つ上よね?アークが卒業するまで待ってたら、デイライト嬢のお相手を探すのが難しくなるんじゃないかしら?」

貴族の結婚適齢期は、前世の記憶にあるよりかなり早い。

前世では女性はクリスマスケーキに例えられると言われるし、なんなら晩婚化も進んでいた。
しかし今世は前世の成人の段階で婚約なり婚姻なりが済んでないと、嫁き遅れと言われてしまうくらいだ。

「だね。ついでにアビー王女も三つ上だから、頑張って答えを出してよね、ノア。」

「うへぇ、それで僕に飛び火してくるのか。この前アシェと話してから色々考えてるんだよ、これでも。」

「ふふ、どんな結果になるか楽しみにしてるよ。」

時期は分からないが、絶対にノアールとアビゲイルは婚約することになるだろうなと思いながら、アシェルは揶揄いの言葉を口にする。
それに少し顔を赤くしたノアールが抗議するように言葉を口にする。

「僕のことより、アシェ達でしょ?これでも僕ら割とっていうか、かなり高位貴族ばかりの集まりだよ?なんでこの歳になって、ちゃんとした婚約者がいるのがワンペアなのさ……。」

「さぁ?特に何も言われたことないし。」

「ノアが跡継ぎなんだし、俺は別に良くない?」

「俺は自分で探せーって、かーさんが。」

「僕はお兄様達に婚約者ができた後かな。僕より先に片付けなきゃ。」

口々に婚約者のいない理由を説明し、ノアールが「違う、そういうことじゃないんだよ!」と一人で悔しそうな顔をしていた。

その様子に皆で笑い合う。



雑談しながら歩けば、早くも5階へ到達した。

5階には空き教室が多く、あまり目ぼしい教室を見かけないまま。最後の廊下の角を曲がり歩みを進める。

「5階では誰も見かけないな。」

「だねー。」

「ほとんど空き教室だったもんなぁ。」

「あ、でもどこかから話声が聞こえるよ?」

王都組は会話しながら、廊下の中央辺りにある唯一声のする教室の扉の看板を見上げる。
【生徒会執行部】と書かれた看板が目に入った。

「「あ…。」」

アシェルとノアールの声が重なる。

「早く通り過ぎよう?」

問いかけるような声とは裏腹で既に早足のノアールと、同じように早足でアシェルも通り過ぎようとする。

だが【生徒会執行部】の前を通過するより早く、その扉が開かれた。

「やっぱり、ノアール様の声がしたと思いましたわ。ごきげんよう、ノアール様。もうですのね。」

扉を開いたアビゲイルは、その菖蒲色の瞳を嬉しそうに細めた。

逃げるのに失敗したノアールとアシェルは立ち止まる。

「アビゲイル様、朝ぶりでございますね。えぇ、今はですね。」

「あら、でしたら是非、生徒会執行部も見ていって下さいませ。」

「いえ、友人達と周っておりますので。」

やんわりと断りを入れるノアールだが、アビゲイルの後ろから援護が飛んでくる。

「大丈夫だ。ほぼ全員勧誘対象だからな。」

黒ぶち眼鏡をかけた長身の男性が言う。

「ということで、会長の許可も下りましたわ。さぁ皆様どうぞ。」

にっこりとアビゲイルに促されるが、アークエイドは見てわかるほどの渋面を作った。

「姉上には申し訳ないが、その申し出はお断りさせていただきたい。」

「あら、アークに拒否権があるわけないでしょう?」

断られることは織り込み済みだったのか、アークエイドを逃がすまいとその腕を取り、反対にはノアールを確保したアビゲイルは、二人をズルズルと引きずり込んでいく。
——あれは確実に身体強化を使っている。

アシェルは兄が出てこなかったことに安堵しつつ、早くこの場を去らなければと焦る。

「僕達は辞退させていただきますね。それでは。」

会長と呼ばれた眼鏡の男性にペコリと頭を下げたアシェルの頭上から、「無理だと思うよ。」と会長の苦笑する声がかかった。
それと同時に背中から抱き着かれる。

「あぁ、無理だな。いらっしゃい、アシェとそのお友達たち。」

にこやかなアルフォードの声が廊下に響くが、アシェルはその重たさに『身体強化』を使い背を伸ばしながら抗議する。

「アル兄様、流石に今の体勢で抱き着くのは危険です。」

「俺が執行部の役員なの知ってて、逃げようとするアシェが悪い。」

「知ってるから逃げようとしたんです!」

「怒るアシェも可愛いな。」

後ろから抱き着いたままのアルフォードは家でそうするように、アシェルの頬にチュッとキスする。

そんな無関係の五人を置き去りにした展開の中、所在なさげな新入生たちに会長は告げた。

「と、まぁ。こんな状態だから。申し訳ないけど、皆で執行部に立ち寄ってくれるかい?」

いかにも苦労人といった様子の苦笑に、残る五人は素直に頷いたのだった。



生徒会執行部は大き目の教室半分に応接セットが二つあり、もう半分には執務机がコの字を描くように並んでいる。

執務机の置いてある空きスペースで、新入生と在校生がお互い向き合うように立ったまま、生徒会執行部のメンバーの自己紹介を受けた。

「遅くなってしまったが。生徒会執行部会長のユリウス・フレイムだ。高等部二年だが、会長を務めさせていただいている。」

ユリウスは長すぎない白茶色の髪に赤銅色の肌。そして言われてみれば黒ぶち眼鏡の奥には、フレイム辺境伯爵家の直系色である燃えるようなルビー色の瞳が覗いていた。
長身な彼はガタイがいいわけではないのだが、動く姿を見れば鍛え上げられた体躯をしていることが分かる。



「次はわたくしですね。生徒会執行部福会長のマチルダ・エンバースよ。ユリウスと同じ高等部二年なの。一応侯爵家の娘で、彼の婚約者よ。」

そう言って笑ったマチルダは、勝気そうな橙色の瞳に赤銅色の肌、緩くウェーブを描く髪をポニーテールにまとめていた。



「書記はわたくし、アビゲイル・ナイトレイ。高等部一年よ。」

「先程お会いしましたわね。会計のシャーロット・デイライト、高等部一年ですわ。」



「俺はダリル・コンラート。中等部三年で体育委員長をしている。エト、久しぶりだな。」

ユリウスと並ぶ長身に筋肉のついた小麦肌。さっぱりとした短髪は赤褐色でエラートの髪色とそっくりだ。
葡萄色の瞳で見つめられたエラートは「お久しぶりです。」と頭を下げている。

カドラス侯爵領はコンラート地方にある。第一騎士団副団長がエラートの父親で、団長はコンラート——つまりダリルの父親のはずだ。
家族同士の付き合いがあるのだろう。



「風紀委員長のクリストファー・ミルトン。中等部二年だよ。アルフォード先輩の弟君、綺麗だねぇ。僕のものにならないかい?楽しませてあげるよ。」

アシェルを瑠璃色の瞳で見つめ近寄ってきたかと思えば、スルリと頬を撫でられる。
驚きで固まっているうちにアルフォードが二人の間に割って入り、頬を撫でた手を払いのけた。

弾かれた本人は「痛いなぁ。先輩が相手してくれます?」と笑いながら、薄浅葱色の髪の毛をかき上げている。

「アシェはやらねーし、俺も嫌って言ってるだろうが、この変態!ふざけるのもいい加減にしろ。」

「ふふ、私はふざけているつもりはないのですけどね。」

「余計に質が悪いわっ!」

よく繰り広げられる光景なのだろうか。
執行部のメンバーは苦笑するだけで、止めるような素振りは見られない。

アルフォードは改めて役員側に並び直し口を開く。

「こほん。最後に保健委員長のアルフォード・メイディーだ。高等部二年でアシェルの兄だよ。」

一通り生徒会執行部の自己紹介が終わったので、今度はアークエイド、アシェル、マリク、ノアール、エトワール、リリアーデ、デューク、エラートの順に自己紹介を行っていく。
順番は家格順だ。

お互いが自己紹介を受け終わると同時に、アビゲイルが口を開いた。

「というわけで、文化と広報。あとは補佐になる会計が欲しいのよね。」

「そうか。頑張ってくれ。」

「冷たいわね、アーク。でも貴方が生徒会に入るのは決定事項よ。」

「嫌だと言っている。」

「王族が生徒会執行部を避けてたら、他の生徒が入りにくくなるでしょ。義務よ、義務。」

ものすごーく嫌そうな顔をしたアークエイドは、アビゲイルに言いくるめられている。
ついでにノアールにも飛び火したようだ。

その中、アシェルにもアルフォードが勧誘をかけてくる。

「ってなわけで、おにーちゃんと一緒に生徒会執行部に入ろう?」

「……僕は入学前からお断りしているはずですが?」

「んーそれでも俺は、アシェと一緒に活動したいな。」

「理由が私的過ぎますし、保健委員長はアル兄様なので僕は不要でしょう?」

「保健委員長補佐って形で入ってもいいし、最低でも空き枠は三枠あるぞ?」

「役員になると、活動に時間を取られそうなので嫌です。」

「そんなこと言わずに。」

冷たく断っても一歩も引く気のないアルフォードに、アシェルはため息をつきながら最終手段を取ることにする。

「僕の帰室時間がまちまちだったり遅くなったりすれば、に迷惑がかかるのですが?」

「うっ。」

「出来ればを最低限しか拘束したくない、と僕は思っているんですけどね。」

「……イザベルを引き合いに出すのは卑怯だぞ。」

「なんとでも。僕の侍女はベルだけですので。……まぁでも、行事前や行事中に人手が足りないとかなら、臨時でお手伝いくらいはできますよ。役員にはなりませんけど。」

「それで納得することにする。」

兄妹の勧誘合戦はアシェルに軍配が上がった。

「で、アビー。そっちは?」

「あら、こちらは完勝でしてよ。アルと一緒にしないで下さいませ。」

ふふんと勝ち誇った表情のアビゲイルと、苦虫を噛みつぶしたような二人の幼馴染の表情の差が激しい。

「アークは会計に、ノアール様には文化に入っていただくことになりましたわ。あとは広報ですわね……どなたか入りませんこと?」

アビゲイルに唐突に矛先を向けられた残りの五人は、首をぶんぶんと横に振る。

「そう。他に良い新入生はいたかしら?」

「僕の弟でよければ聞いてみましょうか?」

「クリストファーの弟って……お前と似たような嗜好じゃないよな?」

「えぇ、滅多に好みは被りませんよ。」

「……不安しかないな。」

アルフォードの不安そうな表情を見て、クリストファーはクスクス笑っている。

「アークエイド君、ノアール君、生徒会執行部は君達を歓迎するよ。さぁ。時間を取ってしまって悪かったね。これからもうちの役員達が迷惑をかけるかもしれないが、その時は助けてもらえると助かる。」

「まだ学内を周るんでしょう?ゆっくり見て回ってね。」

アビゲイルもアルフォードもこれ以上勧誘するつもりはないようだ。
ユリウスとマチルダの二人が勧誘のお開きを宣言することで、ようやく8人は解放された。

廊下に出てノアールが呟く。

「ねぇ、あとは演習場だよね?僕もう部屋に帰りたい。」

すっかり疲れ切ったという声に誰もが同意し、寮の部屋へ帰ることになった。
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