氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第二章 王立学院中等部一年生

66 旅行代わりの討伐一人旅④

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Side:アシェル12歳 夏



翌朝、強制的に睡眠を取らされた四人に文句を言われたが、それと同時に感謝もされた。
野営中にはどうしてもぐっすり眠ることが出来ないので、疲れが蓄積しやすいのだ。

トーマの作った朝ご飯を食べ、野営地を片付けたところでガルド達五人と別れることにする。

「ふふ、昨夜はありがとう。パーティーメンバー以外と過ごすのも意外と楽しかったよ。」

「あれ、アシェルはまだ帰らねぇの?」

「昨日言ったでしょ?暴れたりないって。ちょっと三の森覗いてみようかなって。無理そうだったら尻尾撒いて逃げてくるけど、多分総当たりじゃなくて索敵しながら進めば問題ないと思うんだよね。」

「むしろ昨日は総当たりだったのかよ。」

「総当たりで、血の臭いっていう撒き餌付きみたいな?」

「えげつねぇ。って、橋は三つの森を隔ててる川の交わるところだぞ?」

話しながら川の方へ歩みを進めるアシェルにジンが注意してくれるが、それは渡る手段を持たない人間が使うものだ。

「大丈夫だよ。みんなありがとうね。またどこかで会ったらよろしく。」

川の手前で立ち止まって五人に手を振ると、笑顔で振り返してくれる。

それを見てアシェルは、ブーツ裏に当たる水を『凍らせ』ながらスタスタと渡り切った。

そしてもう一度振り返り、まだ見送ってくれていた五人に笑顔を向けてから、森の中に入っていった。



三の森に足を踏み入れるのは初めてなので、『探査魔法サーチ』で周囲を探りながら念入りに索敵を行う。

目的の一つは整備されている小道を見つけること。もう一つは単体で動いている他の森にも出てくる魔物を見つける事だった。
まずはどれくらい他の森と強さが違うのか、確認しなくてはいけない。

一応進行方向としては、T字の川の、一と二の森を隔てる川を十字になるように伸ばしたら辿り着くであろうC型の山脈の一番高くなっているところを目印にして歩いていた。

(三の森なのに、やけに魔物が少ない?個体が強いから数が少ないのかな。)

冒険者ギルドで話をしてくれた女性パーティーは二の森までしか潜ってなかったようで、三の森についての詳しいことは聞いていない。

ようやくオークを見つけ、ブロードソードを手に走り出す。

「さぁ、どんなものか、お手並み拝見っ。」

オークもアシェルに気付いたが、背後は簡単に取れた。

そのまま首を一閃して、後ろに跳ね飛び距離を取る。

「うーん。2……いや3回かな。オークは行けそうだね。」

スピードで魔物の背後に回り、死角から首を刎ねるか致命傷を与えて失血死させる。

この手法が有効であることが判明したので、とりあえず森の中を突っ切ってみることにした。
力不足を感じたら、気配遮断ステルス認識阻害インビジを使って逃げ帰る予定だ。

出てくる魔物は一の森や二の森で出てくる魔物たちに追加される形で、コカトリス、フォレストタイガー、ポイズンビー、ハニービー、トレント、アント系、スパイダー系数種類という、虫系で状態異常持ちが多いのが特色となっている。

ハニービーは、毒の袋ではなく蜂蜜たっぷりの袋をお尻に持っているレアモンスターだ。
その蜂蜜は栄養価も高く美味しいらしく、滋養強壮にいいので創薬にももちろん使える。
もし見かけたら、是非仕留めておきたい。

一の森と二の森にも稀にアイアンアントが出てくることがあるが、基本的に虫系は見かけない。

虫系は群れで移動していることも多く、スピードが速いことが多い。
その上、アシェルはあの腹部にある毒腺に用がある。

少し深く分け入るだけで、アシェルの目の前にポイズンビーの群れが出てきた。

拘束バインド』で全ての動きを止めて、ひたすら頭を落とす作業をするのだ。
討伐証明はお尻の針なので、落としまくった頭はその場で焼却処分し、腹部だけは『ストレージ』に入れた。

「あぁ、新しい素材が手に入ったよ。早く寮に帰って実験したいな。ついでに解毒薬作る練習もできるよね。でもまずは、とっておきの毒薬作りかな。……流石に王都組は、早く学院に戻ってたりしないよね?出来たら先輩にも会いたくないよなぁ。シオン君も突撃してこなくていいし。普段は授業がどうのとか言えば逃げられそうだけど、先輩はしつこそうだったもんなぁ。さっさと敗北を認めて諦めてくれないかな。何が悲しくて、僕が口説かれないといけないんだよ。」

初見の魔物相手に最初は注意しつつ進んでいたが、途中から魔法も駆使すれば問題ないことが解り、必要以上の注意はしなくていいやと方角だけ間違えないように進んだ。

「うんうん、コレ。こういうのを求めてしに来たんだよ。魔法も使って戦うなんて、模擬戦では味わえないスリルだよね。僕お手製の薬の味はどうかな?これでも自信作なんだよ。自分たちが使う毒を貰うのはどんな気分?あぁ、やっぱり毒を持ってるからって耐性があるわけじゃないんだね。」

ポイズンスパイダーの群れに手持ちの毒薬を振りかけてみたが、それだけで虫の息だ。

「ちょっと効果が強すぎかな。これじゃワイバーンやドラゴン討伐用だね。護身用ならもっと弱いのを作らないと。先輩用はどうしようか……正直先輩相手に薬使うと、どれ使っても過剰防衛になりすぎるよね。っていうか、薬使うまでもないか。所詮、中の下程度のテクだよ?せめて上の下になってから出直してきなよって話だよね。君もそう思わない?」

ポイズンスパイダーを処理して『ストレージ』に放りこんでいる間に、背後の茂みからフォレストタイガーが飛び掛かってきたのを、剣の腹を叩きつけて軌道を逸らす。

「最後の子を相手にしてるのを待っててくれたんだね。イイ子だからいっぱい遊んであげようかな。じわじわ血が失われていく感覚はどう?魔物は恐怖を感じるのかな?」

飛び掛かられる度に、すれ違う度にフォレストタイガーの首に首輪を付けるように薄く、徐々に深く切りつけていく。

「いっそのこと、もう僕を襲う気が起きないくらいヤり返してあげようか。魔力を使えば男同士のプレイだって再現してやれるしね。あぁ、でもそれだと先輩の何人喰ったかっていうのにカウントしないといけなくなるわけ?前世むかし込みで摘まみ食いはしたことあるけど、完食したことは無いのに酷いよね。自分が下手くそだからってさ。あぁ……前世むかしのことを思い出したら……嫌になるよね……もう僕はアシェルなのに、未だに人目が気になるなんて。今後わたくしアシェルにならないとダメなのかな……このままだと偽物だからダメなのかな。僕のままでいいのなら、誰もあの嫌な感じのする眼をしないのにね。」

アルフォードと出かけた城下町で、貴族令嬢達に向けられた不快な視線を思い出し気分が落ち込む。

それが悪かったのか、避けたつもりだったのに頬がピリッと熱くなる。

その爪はアシェルの前に何かを切り裂いた後だったのか、何かしらの薬効に体内の魔力が反応しだしたのが解る。
微量だし放っておいても、体質がどうにかしてくれるだろう。

「痛いな……でもお陰で助かったよ。ちょっと思い出しすぎるところだった。ふふ、僕は僕だよね。さぁ、命尽きるまで最期まで僕と踊ろう?自由に動くのってストレス発散になるよね。そう、僕はストレス発散の為にしに来たんだよ。大体なんで僕なの?襲うなら女顔のアル兄様でしょ、僕より断然可愛い顔してるんだからさ。まぁ無理やりアル兄様を襲ったりしたら、じっくり八つ裂きにしてやるけど。……まさかと思うけど、既に先輩に手を出されたりしてないよね?無駄に自信ありそうだったもんなぁ……いや、学年も離れてるし、アビー様が普段は一緒に居るよね?大丈夫だよね?」

自分がたまたま1人で生徒会室を訪れた時に襲われかけたことなど棚に上げて、アルフォードは大抵アビゲイルと過ごしているようだし大丈夫だと思うことにする。

フォレストタイガーの方はあと1、2太刀で頸動脈が破れるだろう。

「まぁ先輩の方はどうにかなるでしょ。シオン君も一人にならなければ大丈夫。問題はアークだよなぁ。なんであんなに所有印キスマークつけたがるかなぁ。絶対アークはヤンデレの素質あるよ。あの薄い本みたいにクーデレっぽく見せかけて、デレて溺愛した上で、独占欲丸だしな『他のヤツに見せたくないから閉じ込めたい』とか普通に言いそうじゃない??いや、さすがにそれはないか。ああいうのは二次元だからこそ許されるんだよね。でも絶対独占欲は強いと思う。わざわざ……わざわざあんな見えるところにばっかり付けなくてもいいじゃないか!!なんで視界に入るたびに僕がドキドキしなくちゃいけないのさっ。あーイライラするっ!アークに婚約者がいなけりゃつけ返してやったのに。そんでもって侍女達に驚かれろっ!ついでに陛下やアンジェラ様に報告されて問いただされてしまえっ!!」

厳密には婚約者候補なのだが、アークエイドの一目惚れの相手など知らないアシェル的には、シャーロットがアークエイドの婚約者だ。

最終的に控えめな血飛沫をあげながら転がった毛皮を『ストレージ』に放り込み奥へ進む。

「僕は口説かれるより口説きたいんだよ!襲われるより襲いたい方なの!相手のペースに翻弄されるしかない弱い自分わたしなんて要らないんだよ。満足させてあげられる自信だってあるんだからね。僕には婚約者も恋人も居ないし、幼馴染以外と仲良くしないのが悪いのかなぁ。もしかして自分がお年頃だからって、僕まで欲求不満だと思われてる??いや、男同士でするなら最初から下を触ってくるよね。それが一番気持ちいいもん。そりゃ一応女にも性欲はあるっていうけど、僕は相手が良ければ満足できるから、どっちにしても余計な気遣いは要らないんだけどなぁ。いくら対外的に公爵家三男でも、女性を引っかけて婚約者を作るわけにはいかないけど。学院内ではもう少し女性と仲良くしたほうがいいかな。声かければ喫茶店とか一緒に行ってくれると思うんだよね。アシェルって背は低いけど、顔だけはイケメンだもん。」

ブツブツと文句を垂れ流しながら遭遇した魔物を倒し、浴びた返り血をそのままに血塗れで進む。

フォレストタイガーに付けられた傷から侵入した毒は、ようやく解毒が済んだようで、体内の魔力が落ち着いたのを感じる。

「まだ血が出てる……血液凝固阻害系の毒か。これって植物由来じゃなかったっけ……ってことは、たまたまじゃなくて敢えて付けてたのかな。この辺りが三の森の厄介なところだったりするのかな。僕は良いけど、皆と来るときは気を付けないとだね。」

顔に浴びた返り血はもう乾いてきているのに、頬の傷から流れる血液だけがポタ、ポタと頬を伝って、顎先で雫となり落ちていた。

傷は浅いのでじきに止まるだろうと、クリーンとヒールは血が止まってから行うことにする。
今後パーティーで三の森に来た時には、血液凝固阻害系の作用を持つ植物を採取しなければ、と心のメモに残しておく。

一応体内の魔力反応は無くなったので大丈夫だと思うが、流れてくれるのなら余計な成分は閉じ込めずに流してしまった方がいい。

「あーやっぱりー!匂いがしたと思ったんだよねー。でもだいじょーぶ?アシェの血の匂いなんだけど??」

「あれ、マリクだったんだ。」

誰か近づいてきているとは思っていたが、声を掛けてきたのはまさかのマリクだった。
ゆっくりともう一人近づいてくるのは誰だろう。

「うん。で、傷はー?っていうか、アシェ一人なのー?他に人の匂いはしないよね??」

「うん、一人だよ。傷はさっき貰ったコレだけ。多分もうすぐ血も止まるから、止まったらクリーンかけて綺麗にしようかなって。マリクは誰と?」

「なるほどー。ん、あぁ俺はかーさんと来てるよー。ほら。」

マリクの声に合わせて出てきたようなピッタリのタイミングで、背の高い茂みの奥からキルルが出てくる。
もしかしてこの辺りの魔物が少なかったのは、この二人が討伐に出ていた影響もあるのだろうか。

「マリクが言うのは半信半疑だったけど、まさか本当に居るなんてねぇ。」

キルルはいつも見かけていたドレス姿ではなく、面積の少ない冒険者衣装だ。
言いながらピクピクと動いている三角の耳が、周囲を警戒していることを示している。

「こんにちは、キルル様。」

「こんにちは、アシェル。……一応保護者として聞いておくけど、家族には?」

「……旅行に行ってくるって伝えてます。」

正しくは友人のいる領地へ旅行に行って、そのまま王立学院に戻ると伝えてきただけだ。

クエストを報告しに時々街に戻りながら、体力の限界が来るか気が済むまでするつもりだった。

そんな悪戯が見つかった子供のような表情をしたアシェルに、キルルは呆れたようにため息をつく。

「貴族が供も付けずに、入ったこともない危険な場所の討伐に来てるのはいただけないねぇ。」

そのという言葉にドキンと心臓が跳ねる。
言い間違いだろうか。

「ふふ、なんで?って顔してるわよ、アシェル。獣人族……それも狼は鼻がいいのよ?マリクだって初めて会った時から気づいてるんだから。」

「え?」

数年越しに明かされた今更な事実に、バッとマリクの顔を見る。

マリクの表情はいつもと変わらない人懐っこい笑顔だ。

「うん、知ってたよー。なんでかは知らないけど、アシェはアシェだから、別にせーべつとかどーでも良くない?」

マリクはどうでもいいと言ってくれるが、確かクラスメイトに獣人族とのハーフだかクォーターだかが居た気がして不安になる。

「クラスメイトの獣人にもバレてるかな?っていうか、僕って普段女っぽく見える?」

もしかして襲われたのはそれが原因?などと思いながら不安を口にすれば、マリクは答えてくれる。

「あーラビちゃんみたいなのはアシェが女って分かってないけど、それでも発情した匂い時々出してるから気を付けてー?兎ってせっそーなしだよねぇ。いちおー俺の匂いアシェにつけてるから、だいじょーぶだと思うけど。まぁ、学院内にアシェのこと、メスって分かる程鼻がいいやつはいないから大丈夫だよー。」

にへらっとマリクが笑う。

もしかして入学してからほぼ毎日、撫でろと催促するように頭をぐりぐり押し付けて来てたのはマーキングされてたんだろうか。
そうやってアシェルの知らないところで守ってくれていたことに感謝する。
——ただ、男女を雌雄で表現するのは何か違う気がする。

「アシェが女っぽく見えるかだけどー。全く見えないっ。確かにキラキラしててキレーだけど強いし、優しーけど女らしいっていうより紳士ーって感じ?」

「まぁ、正直なところ、よっぽど鼻の利く獣人じゃなけりゃ気付かないだろうね。一緒に学院に通うマリクが言ってるんだ。アシェルの男装は成功してるわよ。」

「良かった……。」

安堵した様子のアシェルに、キルルとマリクは少し笑い、近くに用意していた野営地に招いてくれた。
——会話の途中に近くまで来ていた魔物を拘束しておいたので、それを三人でサクッと倒したうえで。

野営地は既に、しっかりとした結界も張ってある。

結界の中に入る前に『クリーン』で身体を綺麗にしてから入る。
頬の出血は止まったようだ。

「あーあ、せっかくキレーな顔なのにー。」

血糊が取れればその傷口が見えたようで、マリクの耳と尻尾、声のトーンがしょんぼりと下がる。

「血も止まったし、すぐに直せるから。『創傷治癒ヒール』。ほら、ね?」

「治るからって怪我しちゃだめだよー。」

ぷぅと頬を膨らますマリクに、アシェルはごめんごめんと笑った。

キルルがアシェルの分の椅子や食器、食事の用意をしてくれる。
手伝いを申し出たのだが、マリクと一緒に座ってろと言われてしまった。

スープを作りながら肉を焼いているキルルは近くにいるので、三人で話す。

「で?なんだってアシェルは一人で三の森まできてるの。マリクから聞いてるけど、六人でもまだ、二の森までにしか入ってないわよね?」

「ちょっとしたいなって……たまには暴れたいなと。」

「あーごめんね。いっつも俺達ばっかりだから、アシェの取り分ないもんねー。」

「いや、それは良いんだよ?パーティーなんだし、僕は魔法使ってるから余計な体力は使わない方がいいし。手すきの時は採取してるしね。ちょっと色々あったから、ストレス発散しにきただけだから。」

あってストレス発散ねー……。それじゃあ三の森にいる理由にならないわよね?」

「一の森と二の森じゃ剣一本でどうにかなるんで、手応えが無さ過ぎて。一人なら撤退も簡単だし様子を見に来たら、魔法も剣も使える僕との相性は悪くなさそうだったんで、そのままココまで来ました。」

「まぁ、アベルの子ならあんまり気にしなくても良いだろうねー。三の森の恐ろしいところは、多種多様な毒をもつ魔物や、その辺に生えてる面倒な植物が多いところにあるからねぇ。余計なの連れてるより身軽なほうが楽だろうね。」

やはりアシェル一人ではそれほど苦ではなさそうだが、パーティーで来るのなら慎重に行動しないといけなさそうだ。

食事が出来上がり、スープの入ったボウルを受け取る。
肉はアシェル達が野営する時のように、網の上から直接取るスタイルだ。

「ありがとうございます。」

「いいえ。それじゃあいただきます。」

「「いただきます。」」

三人で手を合わせ食事を開始する。

「まぁストレス発散に暴れたいなら、討伐も良いけどマリクを使えば良いわよ。殺さない程度に本気でボコボコにしてくれて構わないし、アシェルならちゃんと治療できるでしょう?」

「かーさん、それ実の息子に言うことー??そんなこと言ったらほんとーにボコボコにされちゃうじゃんかー。アシェ怒ると怖いんだよー?まほーまで使われたら俺じゃ無理だよー。」

泣きそうなマリクに、キルルは声をあげて笑う。

「魔法を躱すか使わせないように邪魔してやればいいだろう?解除キャンセルしてもいいし。まー出来ればだけどね。」

「ソレ、出来ないって分かってて言ってるだろー。アシェが本気出したら、俺なんて一歩も動かせて貰えないまま、首にナイフ突き付けられる自信あるよー?」

「いや……それは流石に買いかぶりすぎじゃない??」

マリクは十分すぎるほどパワーもスピードもあるし、人化した状態と獣化した状態では、戦闘の仕方も変わってくる。

「アシェはソレ、本気で言ってるよねー。昔、破った子にやったこと、俺は忘れてないからねー?昔からあんな一瞬で、無詠唱のまほーバンバン使うのに。本気のアシェにどーやったら勝てるってゆーんだよ。」

破った子……?あぁ、そう言えばそんなこともあったね。秋のお茶会の時だっけ?」

「そーそー、それ!」

「アレはあの子が悪いから仕方ないよね、を守らなかったんだから。ちょっと頭にきたけど薬も使ってないし、ご令嬢だったから肌に傷が付かないように配慮したし、あれでも手加減したほうだよ?」

「もしほんとーの不届き者だったらー?」

「最低でも麻痺毒ぶつけて、拘束して、手と足の腱切って動けなくしたうえで、首以外の動脈を何ヶ所か傷つけるかな。詠唱付きの魔法使う奴なら、舌も落とす。」

「やっぱり、そーいう感じになるんだねー。ほんと、アシェの敵じゃなくて良かったよー。」

マリクの予想に近い回答だったらしいが、キルルは首を傾げている。

「なんで首以外の動脈なんだい?腱を切るまででも十分過剰なくらいなんだけど……。」

「首の動脈は太すぎるので、すぐ失血死する可能性があるんですよね。その点、手首や足の甲や足首の動脈であれば、死ぬほど血を流すのには時間がかかるので、不届き者の意識は残したままで、生殺与奪は思いのままです。あとは自白を促すも、拷問するも、そのまま命をすり減らす姿を観るも、一思いに消してしまうのも……選択肢は増えますから。」

「全く。なんでメイディー家の男共の思考はそうぶっとんでるんだい。いっそ一思いに殺してやった方が慈悲深く感じるくらい、極悪な方法が好きなんだから。シェリーはアベルのそんなところがイイなんて言ってたけど、あたしからしたらアレは、優しい仮面をかぶった悪魔だよ。」

アシェルの話を聞いたキルルは何を思い出したのか、全身をブルりと震わせた。

「えっと……男共の括りに入れてくれてありがとうございます?でもお父様が悪魔は言いすぎですよ。多分、家族の中で一番優しいですから。」

「あいつがねぇ……丸くなったのか、それとも子供達の方が輪をかけて激しい性格なのか、どっちかねぇ。」

キルルは苦笑する。

家族愛の強いメイディー家の男達は基本的に、大切なものを守る為ならば、惜しみなく取れる最良で最凶の手段を使う。薬も産まれ持った膨大な魔力も、その巧みな魔力操作まで駆使して、気付いた時には生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされるのだ。

ただ男装しているだけでなく、その気質はしっかりアシェルにも受け継がれたらしい。

「まぁ、ここで会ったことは言わないでおくから、明日はあたし達と一緒に王都に帰るよ。」

「えっと……三の森がダメなら二の森か一の森でも……。」

「そーいう問題じゃないんだよ。いーから年長者の言うことは聞いておきなさい?」

有無を言わせないキルルの声に、アシェルは大人しく「はい。」と頷いたのだった。




夜の仮眠は毛皮の敷物の上で、どこかで服を脱いで獣化したのであろうキルルのモフモフに、マリクと一緒に包まれて寝た。

キルルは髪色と同じ、白灰色の毛並みが美しい狼だった。
獣化した状態だとマリクより一回り大きい気がして聞いてみれば、これは純血とハーフの違いらしい。

アシェル達とパーティーを組んでいる時は獣化して眠るマリクだが、キルルと出かけた時はキルルが獣化して、マリクはそのまま眠るのがいつものスタイルのようだ。

ふかふかした温もりと、温かい鼓動音に瞼が落ちてくる。

キルルの結界のお陰もあって、魔物の襲撃もなく終えた野営を引き上げ、道中の魔物を倒しつつ王都に戻った。

こうして三泊四日のアシェルのという旅は終わりを迎えたのだった。
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