氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第二章 王立学院中等部一年生

71 新学期②

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Side:アシェル12歳 秋



アルフォードにたっぷり甘えさせてもらい機嫌を直したアシェルは、生徒会活動が終わるまで生徒会室で過ごし、生徒会メンバーと共に寮に戻った。

かなり遅い時間なので生徒の人通りも少なく、高学年も含む高位貴族ばかりの豪華すぎる顔ぶれだからか、すれ違っても声を掛けられることはなかった。

無事四号棟のエレベーターに乗り込んだアシェルは、ようやくほっと一息つく。

「アル兄様が学院に居てくれてよかったです。アル兄様は夕飯の当てがありますか?」

「あぁ。この時期は帰る時間がまちまちだから、食堂じゃなくて部屋で食べてるからな。アシェのも用意させようか?」

アルフォードの連れてきている使用人の中には料理人も居るようだ。
元は邸に居た使用人を連れて行っているので知っていてもおかしくないのだが、アシェルは大事な人以外興味がないので、誰が来ているのかわからない。

「いえ、時間的に食堂が無理そうだったら、うちで何か出そうかなって思っただけです。僕の分は用意できるので、大丈夫ですよ。アークとノアは?食べてくよね?」

いつもアシェルの部屋でやっている夕食会は、夏休みに続いてまだしばらくお休みということになっていた。
それくらいアシェルの機嫌が悪かったのだ。

これからもアークエイドとノアールの二人が確定で遅くなるのなら、しばらくお休みのままかもしれない。

「いいの?僕お腹ぺこぺこで。」

「食べる。」

「いつもより簡単なのしか出せないからね?野営の朝ごはんレベルで良ければ。」

「アシェのご飯は美味しいから大丈夫。今日は野菜かじろうかなって思ってたから嬉しいよ。」

ポーン、と四階に到着した音がして、扉を開くボタンを押す。
が、この階で降りる予定の二人は動かない。

「四階に着きましたよ?」

「いや、今の話に興味あってね。アシェル君がご飯を作るのかい?」

「はぁ、まぁ。」

興味津々という眼をしたクリストファーに問われ肯定する。

「いいなーアシェル様が作ったご飯!僕もお邪魔しちゃダメですか?」

うるうるとした瞳に見つめられ、どうしようと困って幼馴染達を見る。

「えっと……僕はアシェがいいなら良いけど。」

「俺は嫌だ。」

意見が分かれる。

「うーん……私が作るご飯って、人様にお出しできるようなものじゃないんですよね。なので申し訳ないんですけど、お断りさせてください。」

「アークエイド君とノアール君はいいのにかい?その返事はずるいと思わない?」

「ずるくないだろ。アシェが断ってんだ、早く降りやがれ。」

なんとかアシェルの許可を得ようとしたクリストファーの背中を、アルフォードが蹴飛ばしてエレベーターから追い出した。
それを見てシオンが残念と肩をすくめて出ていく。

「いつかアシェル様の手料理を頂く日を、楽しみにしてますからね。」

「では、また明日。」

二人を見送って、そのまま五階に到着する。

「アル兄様、ありがとうございます。」

「夕飯食べたら早く寝ろよ?あと、必要なら生徒会室に来るんだぞ。しばらく俺は遅くなるだろうから、部屋より生徒会室に来てもらった方が良い。」

「でも邪魔になりませんか?今日は居座っちゃいましたけど、僕部外者ですし。」

不安そうにアルフォードを見つめるアシェルの頭を、色白の綺麗な手が撫でる。

「アシェが邪魔なわけないだろ?アシェが辛いのに、俺を頼ってくれない方が悲しい。」

「うん。……辛いなって思ったらお邪魔しに行くことにします。」

「あぁ。じゃあ少し早いけどお休み。」

ぽんぽんと、頭を撫でることの終わりを告げた手が離れ、チュッと頬におやすみのキスをもらう。
アシェルもアルフォードの頬におやすみのキスを返し、アルフォードは自室へ戻っていった。

オートロックの扉を潜り、アシェルの部屋へ二人を招き入れる。

キッチンでノアールから野菜の提供を受け、簡単なサンドイッチを作ることにする。

「なんていうか、アルフォード様ってアシェのお兄さんなんだなぁって思うよね。」

しみじみと言うノアールに、アシェルは手を動かしながら返事をする。

「そりゃ兄妹なんだから見た目は似てるけど、性格は結構違うと思うよ?メルから見た目は僕とアル兄様がそっくりだけど、中身は僕とアン兄様の方がそっくりだって言われたもん。あ、すぐ出来るから座って待っててね。」

そういうことじゃないんだけどなぁ、とソファに向かいながらノアールは苦笑した。

言葉の選び方や使い方、頭を撫でたりスマートにおやすみのキスをする仕草など。
そういった、幼馴染達がアシェルを“女ったらし”だと言った動作がそっくりなのだ。

「ノア、あれは言っても分かってないから諦めろ。メイディー家の三兄弟は“天性の女ったらし”だ。」

「天性の……確かにそうだね。」

「お待たせ。結局サンドイッチだけなんだけど大丈夫?ノアは紅茶で、アークは珈琲で良かったかな?」

ノアールが納得したタイミングで、トレイに作ったサンドイッチと三つのマグカップを乗せたアシェルがやってくる。

皆でいただきます、とそれぞれ好きなサンドイッチを手に取る。

「アシェのご飯は美味しいよね。僕だけ食べたって言ったらトワに怒られそうだ。っていうか、トワはちゃんとご飯食べたのかな。生徒会がこんなに遅くなるなんて思ってなかったよ。」

「それを言ったら“皆に”だろ。まぁ、俺もこんな時間になるとは思ってなかったからな。正直、アシェのご飯を食べれるのはありがたい。」

「お兄様達が時期によっては大変って言ってたから知ってたけど……二人は知らなかったんだね。まぁ、これ知ってたら、わざわざやりたくないよね。」

「知ってたなら教えてよ……。」

恨めしそうな眼を向けてくるノアールに苦笑を返す。
多分知っていたところで、アビゲイルの勧誘から逃れる術はなかっただろうと思うから。

「ねぇ、アシェ。サンドイッチ二つほど貰って帰ってもいい?僕、明日までの課題が今日出されて、終わってないんだよね。」

申し訳なさそうに言うノアールに許可を出せば、さっとサンドイッチを『ストレージ』に仕舞い立ち上がる。

「バタバタしてごめんね。ご飯ありがとう。また明日ね。」

「うん、また明日。」

「またな。」

パタンと扉が閉まり、アークエイドと二人で隣り合って座ったままサンドイッチを食べる。

「……なぁ、俺じゃアシェを癒してやることはできないのか?」

ぽつりと呟かれた言葉が沈黙を破った。

「アークが?……無理じゃないかなぁ。癒しはメルとかベルとか、愛で甲斐のある可愛い子がいいもん。アークが甘えてくれるところなんて想像できないよ。あ、マリクならいけるかも?おっきいけど、モフモフは癒しになるから。」

前世には動物セラピーなるものがあったな、などと思いながら話す。
マリクは人化していても大型犬のようなイメージなので、十分癒しになりそうだ。

「なんで俺が甘える方なんだ。アシェを甘えさせたいんだが。」

「いやいや、僕はお兄様達相手だから撫でて貰ってるだけだからね?小さい時からしてもらってるから大丈夫だけど、アークからされたくないよ。」

傷ついたような表情をしたアークエイドが目に入り、補足する。

「アークのことが嫌いってわけじゃないからね?僕は愛でる側が良いの。ぎゅって抱きしめてあげるだけでも癒されるんだよね。可愛いって正義だよね。」

「抱きしめられるのは駄目なのか?」

そんなことを言うアークエイドに腰と頭を抱き寄せられ、トクトクとテンポの早い音を奏でる胸元に抱きすくめられる。

「……逆が良い。なんで僕がアークの胸に顔埋めなきゃなんないの。」

座っているところを引っ張られたので、身長差も込みでこの体勢になってしまうのは分かるが、分かるのと許容できるかは別だ。
ただでさえ出会った頃はアシェルより背の低かったアークエイドに、背丈を抜かれて差をつけられたことが悔しくて仕方がないのに。

「逆って……無理だろ?」

「む、身長差のこと言ってるんでしょ?ちょっと離してよ、今からアークを抱きしめてやるから。」

男性の中ではどうしても背が低いことを気にしているのだ。
少しカチンときてそう言えば、すんなり温もりから解放される。

ソファから立ち上がったアシェルは、座ったままのアークエイドに向かい合うように立つ。
そしてそのままアークエイドの太腿に跨るように上に乗り、その漆黒の髪を抱きしめた。

「ほら、無理じゃないでしょ?上に乗んないといけないのだけは不服だけど。それにしても……アークの髪って長いし、サラサラだし、綺麗だよね。顔が見えないなら有りかも?」

抱きしめた頭を撫でながら、その背に流れる漆黒の髪に指を絡ませる。
しっかりと手入れのされている髪は、艶々していて絹糸のように柔らかく指通りがいい。
そのスルスルとした指通りの感触が気持ちよくて、ついつい指に絡めたりしながら堪能してしまう。

しばらく離れるつもりがないのが分かったのか、アークエイドの腕がアシェルの腰を抱いた。

「ふふ、綺麗な髪だね。黒曜石を絹糸に変えてしまったみたいだ。綺麗で長い髪は好きだよ。」

ついチュッと頭頂部にキスを落とせば、回された腕にギュッと力が入った。

「……知ってる。」

「あれ?僕そんなこと言ったことあったっけ?」

アークエイドの言葉にアシェルは首を傾げた。

二次元の好きな男性キャラクターは大抵ロン毛だった。
大抵の好みのギャップのある二次元男性タイプがロングヘアだったこともあり、今世は当たり前のように貴族男性にはロングヘアが多いことを知って感動したものだ。
前世では男性のロングヘアはあくまでも二次元的なもので、実際にしてるのは一部の男性とか、ヴィジュアル系バンドの人とかだった。
しかも前世と違って今世の男性は顔面偏差値が高い。ロングヘアでも似合うのだ。

「髪の短い男性より、長くて綺麗な男性の方がカッコイイって言ってただろ。」

「うん、まぁそう思うけど。全く言った覚えがないや。」

「覚えてないだろうなとは思ってた。」

ちょっぴり拗ねたような声が聞こえてきて、本当にいつ話したのだろうかと思う。
非公式お茶会の間だと思うが、記憶の片隅にすら残っていなかった。

「ところで、いつまでこの体勢でいるんだ?」

「え、あぁ、ごめん。重かったよね。とりあえず、無理じゃなかったでしょ?僕の方がチビだからって、馬鹿にしないでよね。いくらでもやりようはあるんだから。」

指を通る髪の感触に名残惜しさを感じながら、アークエイドから降りてまたソファに座る。

「そういえば、でも気にしてたな。」

「そりゃ気にもするよ。女顔のアル兄様より低いんだよ?やっとお父様抜いたのに……なんでメイディー家は、身長が低い家系なのかなぁ。筋肉も付きにくいし、ほんと呪いだよね。」

ブツブツと体格についての愚痴を言い始めたアシェルに、アークエイドは苦笑する。

女性としてならば背はかなり高い部類だというのに、アシェルの基準はあくまでも男性の中のようだ。
アークエイドとしては、アシェルの背を抜いた時にほっとしたというのに。

「まぁ、遺伝じゃ仕方ないだろ。」

「あー病気とかなら薬開発とか頑張れるのになぁ。仕方ないこととはいえ、世の中不公平だ。」

アシェルは今日のイライラなどすっかり忘れて、目の前のサンドイッチにかぶりついたのだった。
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