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第二章 王立学院中等部一年生
74 学院祭初日①
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Side:アシェル13歳 冬
12月に入り、長い準備期間と直前の嫌がらせのような中間テストを終え、今日から多くの生徒が待ちに待った王立学院祭が始まる。
アシェル的にはクリスマスや年末行事のように感じる日程だ。
結局イザベルが学院に戻らないまま、王立学院祭の日を迎えてしまった。
中等部一年Aクラスを取りまとめるのは、意見を出したカナリアだ。
「お湯は常に沸騰させたものを用意しておいて下さいませね。ポットサービスではないから気を付けて。食事の方は下処理は済んでるかしら?デザートも出ると思うから、十分な量を解凍しておいて頂戴ね。店内の回転率は厨房担当にかかっているわ!」
色々な場所の最終チェックをしながら、テキパキと指示を飛ばしていく。
「補佐のメイドと黒服は、それぞれ担当執事のメニュー札とテーブル番号札を受け取って、該当メニューをキッチリワゴンに乗せて、担当執事に渡すこと。一応入り口の注文が厨房には通っているけど、乗せ間違いのないように注意してね。」
担当メイドと黒服は、執事一人に二名付いている。
担当者ごとに決まった色のポケットチーフかリボンを身にまとっているため、お互い分かりやすいようになっている。
そう言って今度は教室の入り口へ歩いていく。
二か所ある入口は、片方がメニュー札の販売と入場口。もう片方は出口になっている。
「メニュー札販売の方は、しっかりお釣りはありまして?足りなくなりそうだったら早めに言ってくださいませね。可能な限り現金ではなく、学生証で払ってもらってください。魔道具は共通なので、冒険者ギルドタグか商業ギルドタグでも大丈夫ですわ。指名の場合は指名料を取るのも忘れないで下さいね。」
そんなティエリアの声を聴きながら、教室の一角に構えられた簡易更衣スペースからアシェルは出る。
イザベルの残したオーダーメイド用のサイズ表があったため何とか採寸を免れ、ピッタリサイズでお揃いの執事服を作ってもらった。
学院祭の期間は宣伝も兼ねて自由時間もこの執事服で回ることになるので、べストはアシェルのだけ、内側にホルスターのついた特別仕様だ。
姿見でおかしいところがないか確認する。
胸元にタックの入った白シャツの首元には黒のクロスタイ。クロスタイは私物のアメジストのタイピンで留めている。
背の低い可愛い系で売る男子生徒はリボンタイなので、クロスタイが用意された時は喜んだ。
その上に薄墨色のベスト、上着は黒の燕尾服で、同色のスラックス。
胸元のポケットにはそれぞれ色違いのポケットチーフ。
アシェルのポケットチーフは、アメジスト色に近い紫だ。このポケットチーフは、担当したテーブルで必要があれば差し出して、そのまま贈呈することが密かに決まっている。厨房に予備も用意されている。
下の方のポケットには、ボタンにチェーンをひっかけた懐中時計が入っている。
仕上げに絹の白手袋をはめて完成だ。
髪はクラスメイトの女子が整えてくれて、クロスタイと同じ生地で出来たリボンで、うなじ辺りで結ばれている。
「うん、大丈夫かな。」
「アシェー俺おかしーとこない?」
がばりと飛びついてきて、アシェルの胸元にぐりぐりと頭を擦り付けるのを、優しく撫でてやる。
マリクの服は尻尾がちゃんと出せるズボンになっていて、今日も元気に尻尾が揺れている。
「ほら、くっついてちゃ見れないでしょ?それに、セットしてもらった髪型が崩れちゃったらどうするの。」
はーい、といってマリクが離れる。
マリクのポケットチーフは橙色だ。
「うん、大丈夫だよ。」
そんなことを話している間に、続々と執事役に任命されたメンバーが着替えを終えて出てくる。
アークエイドのポケットチーフは薄墨色。
もう少しいい色がなかったのかと思わなくはないが、真っ黒じゃなかっただけ良しとする。黒だとお葬式感が出てしまう。
エラートのポケットチーフは赤色。
ノアールのポケットチーフがシトリンのような淡い黄色で、エトワールのはヒマワリのような濃い黄色。
デュークのポケットチーフはエメラルドのような明るい緑色。
シオンのポケットチーフは髪色のような薄浅葱色。
ネクタイはリボンタイ。
イザークのポケットチーフは少し暗めの山吹色。
ラビちゃんことビエナート伯子息のポケットチーフはピンク色。
ネクタイはリボンタイ。
真っ白なショートカットの髪の毛に、白兎の耳と尻尾のついている小柄な少年だ。
瞳の色がピンク色なのでポケットチーフの色がピンクなのだろう。
タングル伯子息のポケットチーフは水色。
すらりとした身体つきに、肩までの水色の髪の毛。整った顔立ちの瑠璃色の瞳が優しそうな少年だ。
こちらのポケットチーフの色は髪色で決まったと思われる。
合計10名が中等部一年Aクラスの執事役だ。
シオンとビエナート伯子息は可愛い系での売りで、後はそれぞれ顔面偏差値の高い、色々なタイプのイケメンを集めました。と言う感じだ。
総勢約50名のクラスメイトの半分が男性として、厳選を重ねた上で、そのおおよそ五分の二が選出されたのだ。
割合としてはイケメンの多いクラスだと思う。
「執事役の皆様、着替えはお済になられましたか?模擬店開始前に必ず、衣装係のチェックを受けてくださいね。それから、注文は入口で札を買っていただいてますので、その受け取りと裏方が用意したもののサーブをお願いしますわ。いつも通りの言葉遣いや態度で御願いしますね。それがこの執事喫茶の売りなので!」
そう。
カナリアの言う通り、このクラスの執事喫茶の売りは飾らない姿で接客してくれることだ。
一人、人見知りが酷すぎて、接客どころかコミュニケーションが取れるかも怪しい王子様が居るが大丈夫なのだろうか。
注文の受け取りやサーブの手順以外、接客については一切指示も指導も受けていない。
——いや、唯一受けたのが女性客は“お嬢様”、男性客は“ご主人様”と呼ぶことだ。
執事喫茶なんて男性に需要があるのだろうかと思うが、女性と連れ立ってくる可能性も考えると、なるほどと思った。
「もしチップを渡すというお客様がいらっしゃったら、個別の受け取りではなく、出口での受け渡しに誘導するか断ってくださいませね。決して直接やり取りをしませぬように。もし手に負えない客が来た時には、こちらで対応しますわ。休憩時間は本日のノルマを完売、もしくは、16時から一時間ずつ半分ずつ交代になるので、頑張って回転率を上げて頂戴ね。」
カナリアは先程から回転率を気にしているが、本来喫茶店などは、お茶やケーキを頂きながらゆっくりと談話する場所だ。
一時間や二時間はざらに居座ることになるのだが、カナリアの目標は着席から退室までが15分から30分だそうだ。
そのために多数用意されたテーブルとイスは、どれも二人掛けまでになっているし、中には一人掛けのテーブル席もある。
待ち時間にもよるが、一人だとスムーズに中に入ることが出来るようになっている。
長話をしないように対策を取ったようだ。
「もうすぐ9時ですわね。それでは終了の18時まで、皆様頑張りましょう。」
カナリアの言葉に、皆がそれぞれ頷いたり返事をしたりして持ち場へ散っていく。
ここで『おー!』と皆で叫ばない辺り、生徒達の品の良さが伺える。
執事役の待機場所は入り口近くの壁際なので、アシェルもそこで待機する。
指名の具合などで誰が案内するか、入り口の受付が判断してポケットチーフと同じ色の旗を上げるので、自分の色が上がったら仕事だ。
隣に立ったアークエイドにこっそり耳打ちする。
「アーク、いつも通りとは言われてるけど、一言も話さないままお客様を帰したりしないでよ?せめてサーブする時は“どうぞ”の一言くらい言うんだよ?」
「……それくらいは言う。」
眼鏡の奥に見えるサファイアブルーの瞳は少し不服そうだが、これで無言で接客を終えることは無いだろう。
小声で話したつもりが聞こえたのか、アスノームの双子が声を揃えて「過保護だねぇ。」と笑った。
喫茶店なんて朝一からくる客などいないだろうと思っていた。
いても少人数で、ピークはお昼からおやつどきだろうと。
——そんなことはなく、朝から大盛況だ。
「朝早くからお嬢様の声をお聞きできるなんて……私は幸せ者ですね。さぁ、こちらへどうぞ。」
席までエスコートした二人の女子生徒の、それぞれが座る椅子を引き着席させた後。メニュー札を受け取り、微笑みを浮かべてセリフを言いながら、そっと後ろ手に担当者にメニュー札を渡す。
「本日はもう他の場所は周られましたか?お嬢様の為に、今お飲み物を用意しますね。少々お待ちくださいね。」
ぽぅっと頬を染める女子生徒にペコリと礼をして厨房の方へ歩けば、紫のポケットチーフを身に着けた黒服の生徒が、ティーカップやケーキの乗ったワゴンを渡してくれる。
札と席番号、ワゴンの上のものをサッと確認して、先程の席まで戻り注文された物をサーブしていく。
「お待たせしました。熱いですので、お嬢様の綺麗な舌が火傷をしないように、気を付けて飲んでくださいね。」
ちょっぴりリップサービスすると、そこかしこでキャーと小さな歓声が上がる。
一応、周囲に配慮してくれているようだが、一箇所どころではないのでそれなりに大きな歓声となる。
そんな声を聴きながら、初期位置の壁際に戻り、次の出番まで待機することになる。
引いてきたワゴンは補佐役がさっと回収してくれる。
アシェルにだけでなく、他の執事役にも歓声が上がるので賑やかだ。
無言で女子生徒をエスコートしたアークエイドは、そつのない綺麗な所作で椅子を引き、着席を促す。
そしてメニュー札を受け取った後「待ってろ。」とだけ一言いい、自身が厨房へ消えてしまう。
アークエイドの担当黒服は最初、手順と違うことに慌てていたが、数回繰り返した後は大人しく厨房で待機してメニューを準備する係に徹したようだ。
もう一人は、お帰りになるお客様を出口まで案内する係に徹している。
ワゴンを引いて戻ってきたアークエイドは「待たせたな。」とだけ言って、注文の品をサーブしていく。
そして次のお客様の案内まで、初期位置の壁際に佇むのだ。
——と言っても、壁際に戻ってすぐ受付に呼ばれるのだが。
この接客とは到底言えない、無愛想全開のアークエイドでも——いや、このアークエイドの接客を受けるのが良いらしい。
お金を払ってまで素っ気ない態度を取られるのはどうかと思ってしまうのだが、そういうコンセプトカフェだと考えれば有りなのだろう。
「よぉ、今日は何食べていくんだ?お、これうまいよな。ちょっと待ってろよ。」
その体育会系な長身と体躯、そして口調には見合わないスマートさで女子生徒をエスコートしたエラートは、メニュー札をチラッと見て感想を述べ、話しながらも担当者に札を回す。
そして厨房に消え、戻ってきて注文の品をサーブする。
「はい、おまちどうさん。しっかり食べて行ってくれよ。」
そう言ってにかっと人の良い笑みを浮かべて、壁際へ戻っていく。
所作は侯爵令息としてのそれなのに、その口調の砕け方は下町の食堂かのような気軽さだ。
騎士団の影響も多分にあるのだろう。
「おじょーさま、いらっしゃいー。席はあっちだよー。」
マリクはにっこり笑って女子生徒をエスコートするが、その声と笑顔と裏腹に、耳と尻尾はピンと立っている。
それを見た何も知らない生徒からカッコイイと黄色い声が上がるが、アシェルや幼馴染達は知っている。
毛が逆立って膨らんでないので戦闘時ほどではないが、あれは周囲を警戒している姿だ。
人懐っこそうに見えて実はアークエイドに次ぐ人見知りなのだが、周囲にはあまり知られていない。
恐らく人当たりの良さや、喋り方が影響しているのだろう。
そつなくエスコートを終え、メニュー札を受け取り、マリクもチラッと一瞥だけして担当者に渡す。
「おいしそーだね。持ってくるから待っててねー。」
厨房からワゴンを持ってきてサーブしながら、笑顔を浮かべる。
「はい、どーぞ。沢山食べてねー。」
そう言って、素早く壁際に戻ってくる。
時折そのまま厨房に消えることもあって、そういう時は香水の強い女性に当たった時だった。紅茶やケーキのいい匂いに、癒されに行ってるのだと思う。
「こちらへどうぞ、お嬢様。」
「メニュー札貰うな。」
ノアールとエトワールは二人セットで受付が売り込んでいるようで、二人一緒に動き回っている。
ノアールが椅子を引いて一人を着席させている間に、エトワールがメニュー札を貰う、というのを繰り返し、貰った札は補佐役に渡る。
「俺、用意してくるから、ノアはココに居て。」
「もう、さっきもトワが準備したじゃないか。交代だって言ったのに。まぁいいや、お願いね。」
厨房に消えるエトワールを見送ったノアールは、少し困ったような笑みを浮かべる。
「役割がちゃんと決まってなくてすみません。すぐにトワが戻ってくると思うので待っててくださいね。」
そんなことを言っている間にエトワールがワゴンを引いて戻ってきて、二人でそれぞれにサーブを行う。
「『ゆっくり食べて行って』ね(な)。」
二人で語尾の違うそっくりな言葉を口にしてサーブを終え、壁際へと戻っていく。
二人で何をするのか担当を決めることで会話の間を繋いだり、負担を軽減しているようだ。
見た目のそっくりな双子だが性格は正反対なので、適材適所に割り振った結果だろう。
「お嬢様、こちらへどうぞ。」
デュークもそつなく女子生徒をテーブルまでエスコートし、メニュー札を受け取る。
受け取った札を補佐役に渡し無言で去ろうとしたところに、背中側からメイド服のリリアーデの肘うちが入る。
「……少々お待ちくださいませ。」
素っ気なく答え、厨房からワゴンを引いて戻ってくる。
「お嬢様の為に御用意させていただきました。ゆっくり味わってくださいませ。」
そう言ってペコリと頭を下げ、さっさと壁際へ戻っていく。
そういえばリリアーデのお陰で分からないが、デュークもどちらかというと人見知りで無愛想なほうだったなと思う。
いつもはリリアーデに振り回される苦労人といった印象なので、すっかり忘れていた。
そして一人だけ、リリアーデの指導が入っているようだ。
リリアーデが目を光らせているので、アークエイドのように最低限の接客は出来ないらしい。
12月に入り、長い準備期間と直前の嫌がらせのような中間テストを終え、今日から多くの生徒が待ちに待った王立学院祭が始まる。
アシェル的にはクリスマスや年末行事のように感じる日程だ。
結局イザベルが学院に戻らないまま、王立学院祭の日を迎えてしまった。
中等部一年Aクラスを取りまとめるのは、意見を出したカナリアだ。
「お湯は常に沸騰させたものを用意しておいて下さいませね。ポットサービスではないから気を付けて。食事の方は下処理は済んでるかしら?デザートも出ると思うから、十分な量を解凍しておいて頂戴ね。店内の回転率は厨房担当にかかっているわ!」
色々な場所の最終チェックをしながら、テキパキと指示を飛ばしていく。
「補佐のメイドと黒服は、それぞれ担当執事のメニュー札とテーブル番号札を受け取って、該当メニューをキッチリワゴンに乗せて、担当執事に渡すこと。一応入り口の注文が厨房には通っているけど、乗せ間違いのないように注意してね。」
担当メイドと黒服は、執事一人に二名付いている。
担当者ごとに決まった色のポケットチーフかリボンを身にまとっているため、お互い分かりやすいようになっている。
そう言って今度は教室の入り口へ歩いていく。
二か所ある入口は、片方がメニュー札の販売と入場口。もう片方は出口になっている。
「メニュー札販売の方は、しっかりお釣りはありまして?足りなくなりそうだったら早めに言ってくださいませね。可能な限り現金ではなく、学生証で払ってもらってください。魔道具は共通なので、冒険者ギルドタグか商業ギルドタグでも大丈夫ですわ。指名の場合は指名料を取るのも忘れないで下さいね。」
そんなティエリアの声を聴きながら、教室の一角に構えられた簡易更衣スペースからアシェルは出る。
イザベルの残したオーダーメイド用のサイズ表があったため何とか採寸を免れ、ピッタリサイズでお揃いの執事服を作ってもらった。
学院祭の期間は宣伝も兼ねて自由時間もこの執事服で回ることになるので、べストはアシェルのだけ、内側にホルスターのついた特別仕様だ。
姿見でおかしいところがないか確認する。
胸元にタックの入った白シャツの首元には黒のクロスタイ。クロスタイは私物のアメジストのタイピンで留めている。
背の低い可愛い系で売る男子生徒はリボンタイなので、クロスタイが用意された時は喜んだ。
その上に薄墨色のベスト、上着は黒の燕尾服で、同色のスラックス。
胸元のポケットにはそれぞれ色違いのポケットチーフ。
アシェルのポケットチーフは、アメジスト色に近い紫だ。このポケットチーフは、担当したテーブルで必要があれば差し出して、そのまま贈呈することが密かに決まっている。厨房に予備も用意されている。
下の方のポケットには、ボタンにチェーンをひっかけた懐中時計が入っている。
仕上げに絹の白手袋をはめて完成だ。
髪はクラスメイトの女子が整えてくれて、クロスタイと同じ生地で出来たリボンで、うなじ辺りで結ばれている。
「うん、大丈夫かな。」
「アシェー俺おかしーとこない?」
がばりと飛びついてきて、アシェルの胸元にぐりぐりと頭を擦り付けるのを、優しく撫でてやる。
マリクの服は尻尾がちゃんと出せるズボンになっていて、今日も元気に尻尾が揺れている。
「ほら、くっついてちゃ見れないでしょ?それに、セットしてもらった髪型が崩れちゃったらどうするの。」
はーい、といってマリクが離れる。
マリクのポケットチーフは橙色だ。
「うん、大丈夫だよ。」
そんなことを話している間に、続々と執事役に任命されたメンバーが着替えを終えて出てくる。
アークエイドのポケットチーフは薄墨色。
もう少しいい色がなかったのかと思わなくはないが、真っ黒じゃなかっただけ良しとする。黒だとお葬式感が出てしまう。
エラートのポケットチーフは赤色。
ノアールのポケットチーフがシトリンのような淡い黄色で、エトワールのはヒマワリのような濃い黄色。
デュークのポケットチーフはエメラルドのような明るい緑色。
シオンのポケットチーフは髪色のような薄浅葱色。
ネクタイはリボンタイ。
イザークのポケットチーフは少し暗めの山吹色。
ラビちゃんことビエナート伯子息のポケットチーフはピンク色。
ネクタイはリボンタイ。
真っ白なショートカットの髪の毛に、白兎の耳と尻尾のついている小柄な少年だ。
瞳の色がピンク色なのでポケットチーフの色がピンクなのだろう。
タングル伯子息のポケットチーフは水色。
すらりとした身体つきに、肩までの水色の髪の毛。整った顔立ちの瑠璃色の瞳が優しそうな少年だ。
こちらのポケットチーフの色は髪色で決まったと思われる。
合計10名が中等部一年Aクラスの執事役だ。
シオンとビエナート伯子息は可愛い系での売りで、後はそれぞれ顔面偏差値の高い、色々なタイプのイケメンを集めました。と言う感じだ。
総勢約50名のクラスメイトの半分が男性として、厳選を重ねた上で、そのおおよそ五分の二が選出されたのだ。
割合としてはイケメンの多いクラスだと思う。
「執事役の皆様、着替えはお済になられましたか?模擬店開始前に必ず、衣装係のチェックを受けてくださいね。それから、注文は入口で札を買っていただいてますので、その受け取りと裏方が用意したもののサーブをお願いしますわ。いつも通りの言葉遣いや態度で御願いしますね。それがこの執事喫茶の売りなので!」
そう。
カナリアの言う通り、このクラスの執事喫茶の売りは飾らない姿で接客してくれることだ。
一人、人見知りが酷すぎて、接客どころかコミュニケーションが取れるかも怪しい王子様が居るが大丈夫なのだろうか。
注文の受け取りやサーブの手順以外、接客については一切指示も指導も受けていない。
——いや、唯一受けたのが女性客は“お嬢様”、男性客は“ご主人様”と呼ぶことだ。
執事喫茶なんて男性に需要があるのだろうかと思うが、女性と連れ立ってくる可能性も考えると、なるほどと思った。
「もしチップを渡すというお客様がいらっしゃったら、個別の受け取りではなく、出口での受け渡しに誘導するか断ってくださいませね。決して直接やり取りをしませぬように。もし手に負えない客が来た時には、こちらで対応しますわ。休憩時間は本日のノルマを完売、もしくは、16時から一時間ずつ半分ずつ交代になるので、頑張って回転率を上げて頂戴ね。」
カナリアは先程から回転率を気にしているが、本来喫茶店などは、お茶やケーキを頂きながらゆっくりと談話する場所だ。
一時間や二時間はざらに居座ることになるのだが、カナリアの目標は着席から退室までが15分から30分だそうだ。
そのために多数用意されたテーブルとイスは、どれも二人掛けまでになっているし、中には一人掛けのテーブル席もある。
待ち時間にもよるが、一人だとスムーズに中に入ることが出来るようになっている。
長話をしないように対策を取ったようだ。
「もうすぐ9時ですわね。それでは終了の18時まで、皆様頑張りましょう。」
カナリアの言葉に、皆がそれぞれ頷いたり返事をしたりして持ち場へ散っていく。
ここで『おー!』と皆で叫ばない辺り、生徒達の品の良さが伺える。
執事役の待機場所は入り口近くの壁際なので、アシェルもそこで待機する。
指名の具合などで誰が案内するか、入り口の受付が判断してポケットチーフと同じ色の旗を上げるので、自分の色が上がったら仕事だ。
隣に立ったアークエイドにこっそり耳打ちする。
「アーク、いつも通りとは言われてるけど、一言も話さないままお客様を帰したりしないでよ?せめてサーブする時は“どうぞ”の一言くらい言うんだよ?」
「……それくらいは言う。」
眼鏡の奥に見えるサファイアブルーの瞳は少し不服そうだが、これで無言で接客を終えることは無いだろう。
小声で話したつもりが聞こえたのか、アスノームの双子が声を揃えて「過保護だねぇ。」と笑った。
喫茶店なんて朝一からくる客などいないだろうと思っていた。
いても少人数で、ピークはお昼からおやつどきだろうと。
——そんなことはなく、朝から大盛況だ。
「朝早くからお嬢様の声をお聞きできるなんて……私は幸せ者ですね。さぁ、こちらへどうぞ。」
席までエスコートした二人の女子生徒の、それぞれが座る椅子を引き着席させた後。メニュー札を受け取り、微笑みを浮かべてセリフを言いながら、そっと後ろ手に担当者にメニュー札を渡す。
「本日はもう他の場所は周られましたか?お嬢様の為に、今お飲み物を用意しますね。少々お待ちくださいね。」
ぽぅっと頬を染める女子生徒にペコリと礼をして厨房の方へ歩けば、紫のポケットチーフを身に着けた黒服の生徒が、ティーカップやケーキの乗ったワゴンを渡してくれる。
札と席番号、ワゴンの上のものをサッと確認して、先程の席まで戻り注文された物をサーブしていく。
「お待たせしました。熱いですので、お嬢様の綺麗な舌が火傷をしないように、気を付けて飲んでくださいね。」
ちょっぴりリップサービスすると、そこかしこでキャーと小さな歓声が上がる。
一応、周囲に配慮してくれているようだが、一箇所どころではないのでそれなりに大きな歓声となる。
そんな声を聴きながら、初期位置の壁際に戻り、次の出番まで待機することになる。
引いてきたワゴンは補佐役がさっと回収してくれる。
アシェルにだけでなく、他の執事役にも歓声が上がるので賑やかだ。
無言で女子生徒をエスコートしたアークエイドは、そつのない綺麗な所作で椅子を引き、着席を促す。
そしてメニュー札を受け取った後「待ってろ。」とだけ一言いい、自身が厨房へ消えてしまう。
アークエイドの担当黒服は最初、手順と違うことに慌てていたが、数回繰り返した後は大人しく厨房で待機してメニューを準備する係に徹したようだ。
もう一人は、お帰りになるお客様を出口まで案内する係に徹している。
ワゴンを引いて戻ってきたアークエイドは「待たせたな。」とだけ言って、注文の品をサーブしていく。
そして次のお客様の案内まで、初期位置の壁際に佇むのだ。
——と言っても、壁際に戻ってすぐ受付に呼ばれるのだが。
この接客とは到底言えない、無愛想全開のアークエイドでも——いや、このアークエイドの接客を受けるのが良いらしい。
お金を払ってまで素っ気ない態度を取られるのはどうかと思ってしまうのだが、そういうコンセプトカフェだと考えれば有りなのだろう。
「よぉ、今日は何食べていくんだ?お、これうまいよな。ちょっと待ってろよ。」
その体育会系な長身と体躯、そして口調には見合わないスマートさで女子生徒をエスコートしたエラートは、メニュー札をチラッと見て感想を述べ、話しながらも担当者に札を回す。
そして厨房に消え、戻ってきて注文の品をサーブする。
「はい、おまちどうさん。しっかり食べて行ってくれよ。」
そう言ってにかっと人の良い笑みを浮かべて、壁際へ戻っていく。
所作は侯爵令息としてのそれなのに、その口調の砕け方は下町の食堂かのような気軽さだ。
騎士団の影響も多分にあるのだろう。
「おじょーさま、いらっしゃいー。席はあっちだよー。」
マリクはにっこり笑って女子生徒をエスコートするが、その声と笑顔と裏腹に、耳と尻尾はピンと立っている。
それを見た何も知らない生徒からカッコイイと黄色い声が上がるが、アシェルや幼馴染達は知っている。
毛が逆立って膨らんでないので戦闘時ほどではないが、あれは周囲を警戒している姿だ。
人懐っこそうに見えて実はアークエイドに次ぐ人見知りなのだが、周囲にはあまり知られていない。
恐らく人当たりの良さや、喋り方が影響しているのだろう。
そつなくエスコートを終え、メニュー札を受け取り、マリクもチラッと一瞥だけして担当者に渡す。
「おいしそーだね。持ってくるから待っててねー。」
厨房からワゴンを持ってきてサーブしながら、笑顔を浮かべる。
「はい、どーぞ。沢山食べてねー。」
そう言って、素早く壁際に戻ってくる。
時折そのまま厨房に消えることもあって、そういう時は香水の強い女性に当たった時だった。紅茶やケーキのいい匂いに、癒されに行ってるのだと思う。
「こちらへどうぞ、お嬢様。」
「メニュー札貰うな。」
ノアールとエトワールは二人セットで受付が売り込んでいるようで、二人一緒に動き回っている。
ノアールが椅子を引いて一人を着席させている間に、エトワールがメニュー札を貰う、というのを繰り返し、貰った札は補佐役に渡る。
「俺、用意してくるから、ノアはココに居て。」
「もう、さっきもトワが準備したじゃないか。交代だって言ったのに。まぁいいや、お願いね。」
厨房に消えるエトワールを見送ったノアールは、少し困ったような笑みを浮かべる。
「役割がちゃんと決まってなくてすみません。すぐにトワが戻ってくると思うので待っててくださいね。」
そんなことを言っている間にエトワールがワゴンを引いて戻ってきて、二人でそれぞれにサーブを行う。
「『ゆっくり食べて行って』ね(な)。」
二人で語尾の違うそっくりな言葉を口にしてサーブを終え、壁際へと戻っていく。
二人で何をするのか担当を決めることで会話の間を繋いだり、負担を軽減しているようだ。
見た目のそっくりな双子だが性格は正反対なので、適材適所に割り振った結果だろう。
「お嬢様、こちらへどうぞ。」
デュークもそつなく女子生徒をテーブルまでエスコートし、メニュー札を受け取る。
受け取った札を補佐役に渡し無言で去ろうとしたところに、背中側からメイド服のリリアーデの肘うちが入る。
「……少々お待ちくださいませ。」
素っ気なく答え、厨房からワゴンを引いて戻ってくる。
「お嬢様の為に御用意させていただきました。ゆっくり味わってくださいませ。」
そう言ってペコリと頭を下げ、さっさと壁際へ戻っていく。
そういえばリリアーデのお陰で分からないが、デュークもどちらかというと人見知りで無愛想なほうだったなと思う。
いつもはリリアーデに振り回される苦労人といった印象なので、すっかり忘れていた。
そして一人だけ、リリアーデの指導が入っているようだ。
リリアーデが目を光らせているので、アークエイドのように最低限の接客は出来ないらしい。
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