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第二章 王立学院中等部一年生
90 カミングアウト②
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Side:アシェル13歳 冬
キッチンでイザベルと、シャーベットを盛り付けるための器を用意する。
「ねぇ、ベル。皆に言うつもりで集めたけど、このまま言わないままじゃダメかな。」
知っていたと言われても、そうじゃなかったとしても、反応が怖い。
リリアーデに言った時は流れで伝えたほうが良いと思ったし、デュークはそのついでに伝えたが、思ったよりもすんなり受け入れられた。
リリアーデが“授け子”であることも大きな要因だったのだろうと思う。
マリクは最初から知っていたらしいが、アシェルはアシェルだからと態度は変わらない。
大型犬に絡まれるようなスキンシップも健在だ。
アークエイドは一目惚れらしいが、女だと気づいたのは午後の模擬戦だ。男でも女でも、好きになったのだから関係ないらしい。
それに女扱いされたくないのを分かってか、今までと変わりない……ことはない。告白に関係する行動はしてくるようになったが、それ以外は変わりない。
でも、普通なら反応が変わる。
対応も変わる。
変な目で見られることだってある。
そんな不安を察してか、イザベルにぎゅっと抱きしめられた。
「アシェル様、大丈夫です。アシェル様の大切な彼らなら、アシェル様を否定したりしませんから。あぁ、でも。エラート様はかなり驚かれると思いますよ。本当に知らないのであれば、王都組で一人、何も知らなかったことになりますからね。」
悪戯っ子のような声で言うイザベルに、ふふっと笑いが零れる。
「ベル、実は皆の反応楽しみにしてるでしょ?悪い子だな。」
「あら、楽しみに決まってるじゃないですか。アシェル様はこんなに男前で紳士なんですよ?わたくしとしては、アークエイド様が気付いていたことに驚いたくらいですのに。」
暖かい温もりをギュッと抱きしめ返して離れた。
「うん。どうなるか分からないけど、ちゃんと言うよ。ありがとう、ベル。」
アシェルが微笑めば、イザベルも微笑み返してくれる。
二人でシャーベットを人数分盛り付けてトレイに乗せ、応接間に戻った。
「お待たせ。今日はレモンとマスカットのシャーベットだよ。」
それぞれに手渡せば、リリアーデの瞳がキラキラと輝く。
「アシェの作るデザートはどれも美味しいのよね。今日はこってりだったから、さっぱりなシャーベットは良いわね。」
「と思って、酸味のあるシャーベットにしたんだ。」
「流石だわ。」
少し多めに盛り付けていたシャーベットは、皆の口の中へあっという間に消えていく。
甘すぎないマスカットの香りにレモンの酸味が効いていて、口に入れると冷たい氷が溶けていく。
ゆっくりシャーベットを味わっていると、イザベルが食後の紅茶を淹れてくれた。
アークエイドのものだけ珈琲だ。
最後の一口が溶けきり、アシェルは深呼吸をする。
「ねぇ、少しだけ時間を貰っても良い?皆に伝えておきたい事があるんだ。」
意を決して口を開けば、皆の視線がアシェルに集まる。
たった今、シャーベットで潤した口が、からからに乾いていく。
人生で一番緊張しているかもしれない。
声をかけたものの、なかなか続きを話さないアシェルの視界で、リリアーデの口が声を出さずに「頑張って。」と動いた。
それを見て自然と笑みが浮かぶ。
もう一度深呼吸して、アシェルは口を開いた。
「実はずっと隠してたことがあって。と、言っても、最初から知ってた人と、流れで僕自身が伝えた人もいるけど。……僕、男じゃなくて、女なんだ。メイディー家三男ではなく、本当は長女なんだ。」
しんと、場が静まり返る。
一番最初に静寂を破ったのはエラートだった。
「は、えっと。冗談……だよな?アシェが女??」
訳が解らないという顔だ。ドッキリを仕掛けられているとでも思っていそうな。
対して、ノアールとエトワールは冷静だった。
「知ってる人と、伝えた人。どう見ても知らないのって。」
「俺らとエトだけだよな。他は驚いてねぇもん。」
双子はアシェルが女性であることは事実だと思っても、すんなりと受け入れるにはアシェルに女性らしさを見つけることが出来ず、そのちぐはぐな情報に頭がもやもやとする。
「やっぱりエトは気づいてなかったねー。」
「ノアとトワは思ったより、すんなり受け入れるんだな。僕が聞いた時、本当に女性かどうか信じられなかったけど。」
「受け入れるって言うか、アシェは嘘つかないでしょ?」
「特にこういうことで人を騙そうとしたりしねぇし。」
普段男だと言い張ってるのは嘘にならないのだろうかと、少し思ってしまう。
「アシェが普段男性だって言い張ってるのは、貴族名鑑に男性の恰好で映ってるし、仕方ないんじゃないかな?」
「というか、普段から男そのものだもんな。女装されて実は男です、ってほうが納得できるもん。」
「トワ……それって僕のこと、褒めてる?貶してる??」
どっちとも取れる言葉に問えば「悪い悪い。」と笑って流される。
エラートは絶賛大混乱中だ。
「エト……考えずに受け入れなさい。エトが悩んだってどうせ答えはでないわよ?わたくしだってアシェに言われるまで、ずっと男の子だと思ってたんだもん。」
「リリィは……いつ知ったんだ?」
「12歳の非公式お茶会かしら。わたくし達が久しぶりに参加したやつよ。その時にはしゃぎすぎて潜在消費しちゃって、アシェに魔力分けて貰ったのよね。その時に触らせてもらったから受け入れれたけど……多分、聞いただけなら疑ってたわ。」
「触る??」
「リリィ!そういうはしたないことは——。」
「もうっ、だから何処をって言ってないでしょ!」
「そう言う問題じゃないだろ。」
お説教を始めたデュークを横目に、アークエイドからジトっとした視線を向けられる。
「アシェ、何したんだ。」
エラートやノアール、エトワールも気になるようで、アシェルに視線が集まった。
「何って……股を触らせた。女同士だし、ついてないのが分かれば良いかなって思って。あ、今は前より胸があるから胸潰し外せば証拠になる?なるならすぐ外すけど」
「股って。しかも、なんでそういう発想になるんだ。アシェはもう少し恥じらいと言うものを身に着けろ。」
こっちではアークエイドからのお説教が始まりそうで、イザベルに視線で助けを求める。
助けを求められたイザベルは仕方ないですね。と溜息を吐き、男らしさしかない主の為に提案をした。
「このままでは、アシェル様がこの場で痴態を晒しかねませんので……。提案ですが、ワンピースに着替えて皆様の前に出る。で如何ですか?アシェル様は言葉使いも戻してくださいませね。最近サボっておられたでしょう?」
「うっ。……こっちの方が慣れてて楽なんだよ。」
恐らくネグリジェでも男言葉なのを言われてるのだろう。
身に覚えがあるだけに言い返すことが出来ない。
「あら、それが良いわっ。ねぇ、わたくしがワンピースを選んでも良いかしら?アシェのワードローブに興味あるのよね。」
デュークのお説教からサッと逃れてきたリリアーデの希望を受け入れる。
女物はネグリジェくらいにしかお世話にならない日々だが、女性用の衣裳部屋もイザベルの手で充実しているはずだ。
「じゃあ、皆に納得してもらえるように着替えてくるけど。先に言っておく。似合わないから。違和感しか仕事しないから。笑わないでね?」
それだけ言い残して、リリアーデに引っ張られるように寝室の衣装部屋へと向かった。
寝室の寝台とは逆側にある衣装部屋を開く。
こちらは女性ものだけを収納している。
幸い、この広すぎる寮の自室には衣装部屋が二つ付いてるので、中に入れるものを分けているのだ。
「あら、結構可愛いワンピースもあるし、流行りも抑えてるじゃない。ドレスや制服もちゃんとあるのね。」
リリアーデが楽しそうに衣装部屋の中を物色する。
女の子が服を買いに行ったようなキラキラとした表情だ。
「まず着ることはないけど、一応ね。流行りとかは分かんないから、全部ベルにお任せだけど。」
プチプチと制服のボタンたちを外して脱いでいく。
革の胸潰しとスラックスだけになったところで、イザベルとリリアーデは一着のワンピースを持ってきた。
その胸元が大胆に開いたデザインに眉を顰める。
「本当にソレ着るの?」
V字に大きく開いた胸元のカシュクールワンピースは、背面は覆われてはいるものの、腰の付け根までV字で総レースの生地が当たっている。
ウエストが飾りベルトで絞られていて、膝下丈のスカート部分はタイトなスリット入りのものだ。
ラピスラズリのような深い青に、キラキラとしたラメの入ったそのワンピースは、どこからどう見ても大人っぽすぎるデザインだ。
少なくとも、中学生の着るデザインではない。
「だって、アシェが女性だって見せるためでしょ?背も高いし、隠してるけど胸も大きいもの。似合うと思うわよ。」
「この程度でしたらコルセットも要りませんからね。でもブラジャーは着けて頂きますよ。」
イザベルに胸潰しを外され、ブラジャーを渡される。
渋々身に着ければピッタリサイズだ。
「なんか、夏よりブラのサイズが上がってる気がする?」
「上がってらっしゃいますね。殿下との火遊びの効果ではないですか。」
「揉んだらデカくなるは迷信だからね。それに邪魔だからデカくなくて良いんだけど。」
イザベルに手伝われ、ワンピースを着せられながら愚痴る。
「それ、貧乳の子の前で言ったら刺されるわよ。幸いわたくしは、前世も今も、そんな悩みはないけれど。あ、今度アークと何があったか、詳しく聞かせてもらうからね。」
そういうリリアーデもそれなりに大きなものを持ち合わせているし、母親のフィアフィーはグラマラス体型だ。遺伝もあるのだろう。
イザベルも両手にすっぽり納まりの良さそうなサイズ感だ。
「髪も結った方が良いんじゃなくて?」
「そうですね。アシェルお嬢様、靴はこちらを。化粧台の方へ行きますよ。」
差し出された、ワンピースの色にそっくりなヒール高めのミュールを履く。
本当はヒールが高いと背が高くなりすぎてしまうのだが、脚が綺麗に見えるのは高いほうだ。
「はぁ……これ、7cm以上あるわよね。」
「9cmのヒールですね。」
「くぅ、ヒールを履いても双子を抜いて、デュークに並ぶまでしかなれないなんて……!」
アスノームの双子で170cmを少し超えた辺りで、アシェルの次に身長が低い。
一番高いのは180cmを越えているエラートだ。耳まで入れるとマリクになるのだが。
久しぶりに履くハイヒールの靴のため、立ち上がってバランスを確認する。
「そんなに高いヒールで良く歩けるわね。わたくし、ドレスの時の7cmのヒールでも辛いなって思うわよ。」
「リリィは女性平均くらいの身長でしょう?それくらいのヒールが一番似合うのよ。メルは背が低めだから、ヒールも5cmとかじゃなかったかしら?わたくしは女性だと身長が高いから……高いヒールの方が綺麗に見えるんですって。ベルが言ってたわ。」
リリアーデに返事をしながら、化粧台の前に座ると、イザベルが髪を結い上げてくれる。
大人っぽいドレスなので、フルアップでキラキラと輝く髪飾りを着けてくれた。
「お披露目だけですので、簡単に結い上げておりますが。」
最後に細いチェーンにペンダントトップは大ぶりのアメジスト、その周囲に小さなダイアモンドがあしらわれたネックレスを着けてくれる。
ミュールについている飾りと同じデザインだ。
「やっぱり違和感しか仕事してないわ。」
鏡に映るアシェルの姿は、服装や体型のどれをとっても女性なのに、キリっとした吊り上がった目元が全てを台無しにしている気がする。
「綺麗よ、自信もって!」
「エスコートをアークエイド様にお願いしてきましょうか?」
アシェルが立ち上がる気配がないからか、イザベルに言われ「要らないわ。」と断って立ち上がる。
「わざわざ隣に立って、身長が低いのを実感したくないわ。」
リリアーデとイザベルは、女性ならかなり高いのに、という言葉を飲み込む。そしてヒールの高さをものともせず、サッサと歩くアシェルを追った。
キッチンでイザベルと、シャーベットを盛り付けるための器を用意する。
「ねぇ、ベル。皆に言うつもりで集めたけど、このまま言わないままじゃダメかな。」
知っていたと言われても、そうじゃなかったとしても、反応が怖い。
リリアーデに言った時は流れで伝えたほうが良いと思ったし、デュークはそのついでに伝えたが、思ったよりもすんなり受け入れられた。
リリアーデが“授け子”であることも大きな要因だったのだろうと思う。
マリクは最初から知っていたらしいが、アシェルはアシェルだからと態度は変わらない。
大型犬に絡まれるようなスキンシップも健在だ。
アークエイドは一目惚れらしいが、女だと気づいたのは午後の模擬戦だ。男でも女でも、好きになったのだから関係ないらしい。
それに女扱いされたくないのを分かってか、今までと変わりない……ことはない。告白に関係する行動はしてくるようになったが、それ以外は変わりない。
でも、普通なら反応が変わる。
対応も変わる。
変な目で見られることだってある。
そんな不安を察してか、イザベルにぎゅっと抱きしめられた。
「アシェル様、大丈夫です。アシェル様の大切な彼らなら、アシェル様を否定したりしませんから。あぁ、でも。エラート様はかなり驚かれると思いますよ。本当に知らないのであれば、王都組で一人、何も知らなかったことになりますからね。」
悪戯っ子のような声で言うイザベルに、ふふっと笑いが零れる。
「ベル、実は皆の反応楽しみにしてるでしょ?悪い子だな。」
「あら、楽しみに決まってるじゃないですか。アシェル様はこんなに男前で紳士なんですよ?わたくしとしては、アークエイド様が気付いていたことに驚いたくらいですのに。」
暖かい温もりをギュッと抱きしめ返して離れた。
「うん。どうなるか分からないけど、ちゃんと言うよ。ありがとう、ベル。」
アシェルが微笑めば、イザベルも微笑み返してくれる。
二人でシャーベットを人数分盛り付けてトレイに乗せ、応接間に戻った。
「お待たせ。今日はレモンとマスカットのシャーベットだよ。」
それぞれに手渡せば、リリアーデの瞳がキラキラと輝く。
「アシェの作るデザートはどれも美味しいのよね。今日はこってりだったから、さっぱりなシャーベットは良いわね。」
「と思って、酸味のあるシャーベットにしたんだ。」
「流石だわ。」
少し多めに盛り付けていたシャーベットは、皆の口の中へあっという間に消えていく。
甘すぎないマスカットの香りにレモンの酸味が効いていて、口に入れると冷たい氷が溶けていく。
ゆっくりシャーベットを味わっていると、イザベルが食後の紅茶を淹れてくれた。
アークエイドのものだけ珈琲だ。
最後の一口が溶けきり、アシェルは深呼吸をする。
「ねぇ、少しだけ時間を貰っても良い?皆に伝えておきたい事があるんだ。」
意を決して口を開けば、皆の視線がアシェルに集まる。
たった今、シャーベットで潤した口が、からからに乾いていく。
人生で一番緊張しているかもしれない。
声をかけたものの、なかなか続きを話さないアシェルの視界で、リリアーデの口が声を出さずに「頑張って。」と動いた。
それを見て自然と笑みが浮かぶ。
もう一度深呼吸して、アシェルは口を開いた。
「実はずっと隠してたことがあって。と、言っても、最初から知ってた人と、流れで僕自身が伝えた人もいるけど。……僕、男じゃなくて、女なんだ。メイディー家三男ではなく、本当は長女なんだ。」
しんと、場が静まり返る。
一番最初に静寂を破ったのはエラートだった。
「は、えっと。冗談……だよな?アシェが女??」
訳が解らないという顔だ。ドッキリを仕掛けられているとでも思っていそうな。
対して、ノアールとエトワールは冷静だった。
「知ってる人と、伝えた人。どう見ても知らないのって。」
「俺らとエトだけだよな。他は驚いてねぇもん。」
双子はアシェルが女性であることは事実だと思っても、すんなりと受け入れるにはアシェルに女性らしさを見つけることが出来ず、そのちぐはぐな情報に頭がもやもやとする。
「やっぱりエトは気づいてなかったねー。」
「ノアとトワは思ったより、すんなり受け入れるんだな。僕が聞いた時、本当に女性かどうか信じられなかったけど。」
「受け入れるって言うか、アシェは嘘つかないでしょ?」
「特にこういうことで人を騙そうとしたりしねぇし。」
普段男だと言い張ってるのは嘘にならないのだろうかと、少し思ってしまう。
「アシェが普段男性だって言い張ってるのは、貴族名鑑に男性の恰好で映ってるし、仕方ないんじゃないかな?」
「というか、普段から男そのものだもんな。女装されて実は男です、ってほうが納得できるもん。」
「トワ……それって僕のこと、褒めてる?貶してる??」
どっちとも取れる言葉に問えば「悪い悪い。」と笑って流される。
エラートは絶賛大混乱中だ。
「エト……考えずに受け入れなさい。エトが悩んだってどうせ答えはでないわよ?わたくしだってアシェに言われるまで、ずっと男の子だと思ってたんだもん。」
「リリィは……いつ知ったんだ?」
「12歳の非公式お茶会かしら。わたくし達が久しぶりに参加したやつよ。その時にはしゃぎすぎて潜在消費しちゃって、アシェに魔力分けて貰ったのよね。その時に触らせてもらったから受け入れれたけど……多分、聞いただけなら疑ってたわ。」
「触る??」
「リリィ!そういうはしたないことは——。」
「もうっ、だから何処をって言ってないでしょ!」
「そう言う問題じゃないだろ。」
お説教を始めたデュークを横目に、アークエイドからジトっとした視線を向けられる。
「アシェ、何したんだ。」
エラートやノアール、エトワールも気になるようで、アシェルに視線が集まった。
「何って……股を触らせた。女同士だし、ついてないのが分かれば良いかなって思って。あ、今は前より胸があるから胸潰し外せば証拠になる?なるならすぐ外すけど」
「股って。しかも、なんでそういう発想になるんだ。アシェはもう少し恥じらいと言うものを身に着けろ。」
こっちではアークエイドからのお説教が始まりそうで、イザベルに視線で助けを求める。
助けを求められたイザベルは仕方ないですね。と溜息を吐き、男らしさしかない主の為に提案をした。
「このままでは、アシェル様がこの場で痴態を晒しかねませんので……。提案ですが、ワンピースに着替えて皆様の前に出る。で如何ですか?アシェル様は言葉使いも戻してくださいませね。最近サボっておられたでしょう?」
「うっ。……こっちの方が慣れてて楽なんだよ。」
恐らくネグリジェでも男言葉なのを言われてるのだろう。
身に覚えがあるだけに言い返すことが出来ない。
「あら、それが良いわっ。ねぇ、わたくしがワンピースを選んでも良いかしら?アシェのワードローブに興味あるのよね。」
デュークのお説教からサッと逃れてきたリリアーデの希望を受け入れる。
女物はネグリジェくらいにしかお世話にならない日々だが、女性用の衣裳部屋もイザベルの手で充実しているはずだ。
「じゃあ、皆に納得してもらえるように着替えてくるけど。先に言っておく。似合わないから。違和感しか仕事しないから。笑わないでね?」
それだけ言い残して、リリアーデに引っ張られるように寝室の衣装部屋へと向かった。
寝室の寝台とは逆側にある衣装部屋を開く。
こちらは女性ものだけを収納している。
幸い、この広すぎる寮の自室には衣装部屋が二つ付いてるので、中に入れるものを分けているのだ。
「あら、結構可愛いワンピースもあるし、流行りも抑えてるじゃない。ドレスや制服もちゃんとあるのね。」
リリアーデが楽しそうに衣装部屋の中を物色する。
女の子が服を買いに行ったようなキラキラとした表情だ。
「まず着ることはないけど、一応ね。流行りとかは分かんないから、全部ベルにお任せだけど。」
プチプチと制服のボタンたちを外して脱いでいく。
革の胸潰しとスラックスだけになったところで、イザベルとリリアーデは一着のワンピースを持ってきた。
その胸元が大胆に開いたデザインに眉を顰める。
「本当にソレ着るの?」
V字に大きく開いた胸元のカシュクールワンピースは、背面は覆われてはいるものの、腰の付け根までV字で総レースの生地が当たっている。
ウエストが飾りベルトで絞られていて、膝下丈のスカート部分はタイトなスリット入りのものだ。
ラピスラズリのような深い青に、キラキラとしたラメの入ったそのワンピースは、どこからどう見ても大人っぽすぎるデザインだ。
少なくとも、中学生の着るデザインではない。
「だって、アシェが女性だって見せるためでしょ?背も高いし、隠してるけど胸も大きいもの。似合うと思うわよ。」
「この程度でしたらコルセットも要りませんからね。でもブラジャーは着けて頂きますよ。」
イザベルに胸潰しを外され、ブラジャーを渡される。
渋々身に着ければピッタリサイズだ。
「なんか、夏よりブラのサイズが上がってる気がする?」
「上がってらっしゃいますね。殿下との火遊びの効果ではないですか。」
「揉んだらデカくなるは迷信だからね。それに邪魔だからデカくなくて良いんだけど。」
イザベルに手伝われ、ワンピースを着せられながら愚痴る。
「それ、貧乳の子の前で言ったら刺されるわよ。幸いわたくしは、前世も今も、そんな悩みはないけれど。あ、今度アークと何があったか、詳しく聞かせてもらうからね。」
そういうリリアーデもそれなりに大きなものを持ち合わせているし、母親のフィアフィーはグラマラス体型だ。遺伝もあるのだろう。
イザベルも両手にすっぽり納まりの良さそうなサイズ感だ。
「髪も結った方が良いんじゃなくて?」
「そうですね。アシェルお嬢様、靴はこちらを。化粧台の方へ行きますよ。」
差し出された、ワンピースの色にそっくりなヒール高めのミュールを履く。
本当はヒールが高いと背が高くなりすぎてしまうのだが、脚が綺麗に見えるのは高いほうだ。
「はぁ……これ、7cm以上あるわよね。」
「9cmのヒールですね。」
「くぅ、ヒールを履いても双子を抜いて、デュークに並ぶまでしかなれないなんて……!」
アスノームの双子で170cmを少し超えた辺りで、アシェルの次に身長が低い。
一番高いのは180cmを越えているエラートだ。耳まで入れるとマリクになるのだが。
久しぶりに履くハイヒールの靴のため、立ち上がってバランスを確認する。
「そんなに高いヒールで良く歩けるわね。わたくし、ドレスの時の7cmのヒールでも辛いなって思うわよ。」
「リリィは女性平均くらいの身長でしょう?それくらいのヒールが一番似合うのよ。メルは背が低めだから、ヒールも5cmとかじゃなかったかしら?わたくしは女性だと身長が高いから……高いヒールの方が綺麗に見えるんですって。ベルが言ってたわ。」
リリアーデに返事をしながら、化粧台の前に座ると、イザベルが髪を結い上げてくれる。
大人っぽいドレスなので、フルアップでキラキラと輝く髪飾りを着けてくれた。
「お披露目だけですので、簡単に結い上げておりますが。」
最後に細いチェーンにペンダントトップは大ぶりのアメジスト、その周囲に小さなダイアモンドがあしらわれたネックレスを着けてくれる。
ミュールについている飾りと同じデザインだ。
「やっぱり違和感しか仕事してないわ。」
鏡に映るアシェルの姿は、服装や体型のどれをとっても女性なのに、キリっとした吊り上がった目元が全てを台無しにしている気がする。
「綺麗よ、自信もって!」
「エスコートをアークエイド様にお願いしてきましょうか?」
アシェルが立ち上がる気配がないからか、イザベルに言われ「要らないわ。」と断って立ち上がる。
「わざわざ隣に立って、身長が低いのを実感したくないわ。」
リリアーデとイザベルは、女性ならかなり高いのに、という言葉を飲み込む。そしてヒールの高さをものともせず、サッサと歩くアシェルを追った。
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