氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

文字の大きさ
97 / 313
第二章 王立学院中等部一年生

96 マリクの発情期④

しおりを挟む
Side:イザベル13歳 冬



扉一枚隔てた向こう側で嬌声が響く中。
廊下から動かないままリリアーデが口を開いた。

「すっごく心配だったんだけど、今のアシェを見てると、心配しなくても良かったのかなって思うわ。……まさかエッチしながら、あそこまで錬金に没頭できるなんて思わなかったもの。あの状態だと、等身大オナホ使ってるのと変わらないわよね。ちょっとマリクに同情しそうになったわ。」

「リリィ!そんなはしたないことを口にするなって何度言えば!」

「あぁ、もう。怒らないでよ。っていうか、アークは見ない方が良かったんじゃないかしら?寝取られ属性とか乱交プレイとか興味がないと、好きな人が他の人とエッチしてるのって、見るの辛くない?」

「ねぇさん?いい加減にしようか。」

「怒らないでってば、デューク。大事な事でしょ。」

イザベルが思ってもみなかった話しになっていってるのは気のせいだろうか。

「今の話の、どこが大事だった?」

「結局のところ、アシェにとって他の人とエッチしてるのを見られても良いくらいには、アークのことなんとも思ってないって事でしょ?もしかしたら錬金絡みだからかもしれないけど。」

イザベルの視界の端で、デュークに捕らえられたままのアークエイドの表情が変わる。
あれは拗ねているのだろうか。
表情が変わったとは思うが、イザベルには正確に読み取ることが出来ない。

「アークが好きって告白したって聞いてるけど、今のままじゃただのセフレよ?アシェを落とすのはかなり難しそうよね。5歳から片思いしてるって聞いたら、応援してあげたいとは思うけど。」

「なぁ、リリィ。さっきからアークにダメージ与えてるの、お前だぞ。」

「あら、事実を言われたくらいでダメージ受けられても困っちゃうわ。見た感じ、アシェって技術がある割には、あまりエッチなことが好きに見えないのよね……。なんていうか……手段……かしら?相手が求めているからこなしている、って感じかしらね。児童福祉士とかだったら、もう少しアシェのこと解ったのかなぁ。うーん……ま、悩んでも仕方ないわね。あまり遅いと心配させちゃうし、皆のところに戻りましょ。」

アークエイドを言葉の刃で傷つけた張本人は、少し思案したもののケロッとした笑顔で言って、さっさと応接間へと戻っていく。

デュークがアークエイドに同情するような眼を向けた。

「すまない……リリィに悪気はないと思うんだが……。」

「いや、良い。事実だからな。むしろ、頭に血が上っていたのが落ち着いた。相手が求めているから、っていうのも多分当たってるしな。」

リリアーデの言葉を聞いた後だと、流石にイザベルもアークエイドのことが不憫に思えてくる。
好きな人からセフレや何とも思われてないのではと言われて、喜ぶ人間はまずいないだろう。

「参考までにですが。アシェル様が同衾された他人は、アークエイド様が初めてでございます。私はお昼寝でしこたま怒られましたので、カウントしなくてもいいかと思いますので。」

「イザベル嬢……それ、全くフォローになってないぞ。っていうか、同衾って朝まで一緒に過ごしたのか?……なぁ、本当に付き合ってないんだよな?」

「付き合ってないな。特別な好きが解らないから、付き合えないんだと。同衾した日に本人の口から諦めたほうが良いとまで言われた俺は、どうしたらいいと思う?何もせずに添い寝するだけだと言ったら、無防備に人の腕の中ですぐ寝たんだぞ。一緒に居るだけでもと言ったが、普通もう少し気にするだろ……。」

どうやらアークエイドはアシェルに振り回されて鬱憤が溜まっているらしい。
普通の貴族令嬢なら、殿方の腕の中で何も警戒せずに寝たりしないだろう。普通の令嬢なら、だが。
残念ながら、アシェルは普通の感性を持った貴族令嬢ではない。

見たところデュークは、アークエイドにとって唯一相談できる相手といったところだろうか。

「良ろしければ使用人室は空いておりますので、そちらで少しお話されますか?空き部屋ですので椅子などはございませんが。もしご利用されるなら、防音サイレス気配遮断ステルスは掛けておいてくださいませね。これ以上ココに居ても、アシェル様への被害が増えるだけですので。」

二人がどうするか分からないが選択肢だけ与えて、イザベルは応接間へと戻る。
これ以上、客人を待たせっぱなしにするわけにもいかない。

応接間ではリリアーデが説明をしてくれていたようだ。
イザベルでは説明しにくいことなので、説明してくれていることに心の中で感謝する。

「なんていうか、本人はケロッとしてたし、アシェはアシェだったわ。結局錬金には目がないのねって感じ。襲われてるように見えるのに、割とどうでも良さそうに次の薬に着手してたし。それよりも、本当に発情期の獣人って凄いわね。マリクっていつもほんわかしてるイメージだから、初めてあんな眼向けられたわ。あれって、魔物相手に戦意が高まってる時と同じ眼だったと思うのよね。」

「お待たせいたしました。リリアーデ様のご説明で納得いただけましたでしょうか?」

残っていた三人はリリアーデの説明を聞いて、ひとまずは納得したようだった。
そもそも抑制剤を使用していない獣人のことを知っているようだったので、見に行った三人よりも想像がつきやすい分、現実的なだけかもしれない。

「リリィの説明で十分なんだけどさ。一緒に行ったアークとデュークは?」

廊下から二人の気配が消えているので、デュークがアークエイドの愚痴を聞いているのだろう。

「アークエイド様はかなり鬱憤が溜まっておいでのようでしたので、デューク様に押し付けておきました。思う存分愚痴を吐かれたら戻ってくるかと思います。」

アシェルが暴露したせいで、ここに居る全員がアークエイドはアシェルに長すぎる片思いをしていることを知っている。
流石に身体の関係は知らないだろうが、告白した上で振られたことまで。

「まぁ、普通好きな人が他の人とイチャイチャしてるところって見たくないよね。僕だったらショックかも。」

「そもそも心配でも見に行きたくないもんな。俺らみたいに待ってたら良かったのに。」

「アークの性格的に、それ無理じゃねぇか?自分で確認しないと気が済まないだろ。」

「でしょうね。でも、それで自分がダメージ受けてたら世話ないと思うけれど。まぁ、若いわねーって思うわ。男は少しくらいどっかり構えてればいいと思うけど……。アシェ相手だと、追いかけないとアッサリ見限られそうな気もするものね。」

それぞれが感想を述べる中、リリアーデだけが少し着眼点が違う。

デュークという突っ込み役がいないので、代わりにエラートが突っ込んだ。

「若いって……同い年だろうが。アシェを追いかけないと、ってところは同意するけどな。」

「あら、肉体年齢は同じ年でも、精神年齢はプラス30よ?なんていうか、アークを見てると、初々しくて可愛いなって思うのよね。片思いで一喜一憂できるなんて、若いうちだけの特権よ。今のうちに嫌になるくらい体験しておけばいいと思うわ。年取ってからの恋愛は、結婚とか老後のこととか、色々考えて相手を選ぶようになるから。単純に好きってだけで相手を選ばなくなるのよねぇ。」

リリアーデがしみじみと呟く。
それは前世での体験談なのだろうか。

「もう何処に突っ込んで良いのか分かんねぇ……土の双子、パス。」

「えぇ、僕らに振られても困るよ。」

「同じ双子だからって俺らに振らないでくれよ。流石に“授け子”と双子の感覚は解んねぇからな。」

「もうっ、別に突っ込みなんて要らないのよ。関西人じゃないんだから。まぁ、デューク相手に愚痴吐けるんだったら、まだ良いんじゃないかしら。思いつめて変なことされるよりマシだもの。絶対アークって、ちょっぴりストーカー気質もありそうな気がするのよね。」

リリアーデの散々な酷評に、残る面々の顔に苦笑いが浮かぶ。
ストーカー気質については、王族の恋愛観を知っていれば誰も否定できないのだ。

そんなことはお構いなしにリリアーデは立ち上がった。

「さ、アシェの無事は確認できたし帰りましょ。これ以上お邪魔してても迷惑なだけだわ。」

「それは良いけど……。アークとデュークは置いていくのか?」

「ちっさい子供じゃあるまいし、満足したら勝手に帰ってくるでしょ。」

「まぁ、それもそうか。悪いな、イザベル。急にみんなで押しかけて。」

エラートの謝罪にイザベルは頭を下げた。

「いいえ。皆様がアシェル様を心配してのことだと思っておりますので。ただ、心配していただいても、当の本人が全く気にされてないので……お気持ちだけ頂いておきます。本日はご足労頂きありがとうございます。主人に代わってお礼を述べさせていただきます。」

当の本人は、念入りに準備してマリクの発情期を心待ちにしていたのだ。

限界がきたら寝ていると言っていたが、本当に限界で意識が飛んだ、の間違いではないかと思う。少なくとも、長時間ぐっすりと寝た顔ではなかった。

そのことにイザベル以外が気付けたかどうかは判らないが。

「お邪魔しました。デュークに、わたくしは先に帰ったって伝えておいてね。」

「じゃあ、また明日な。」

「「お邪魔しました。」」

アシェルの部屋から出ていく四人を見送り、もう一度ぺこりと頭を下げる。

全員を見送って、鍵を掛け直した。

今からサンドイッチを作って、アシェルとマリクに差し入れなければならない。
密談中の二人はまだ出てこないだろうから、二人の分も追加で作ったほうがいいだろう。
その二人を待つイザベル自身のものも。

そんなことを考えながら静かになった応接間からキッチンへ向かったのだった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 2月28日より、第五章の連載を再開いたします。毎週金・土・日の20時に更新予定です。 また、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。 引き続きよろしくお願いいたします。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

大金で買われた少女、狂愛の王子の檻で宝石になる ―無自覚な天才調合師は第二王子の婚約者(虫除け)を演じることになりました―

甘塩ます☆
恋愛
「君を金貨三十枚で買ったのは、安すぎたかな」 酒浸りの父と病弱な母に売られた少女・ユナを救ったのは、国中から「放蕩王子」と蔑まれる第二王子・エルフレードだった。 ​「虫除けの婚約者になってほしい」というエルの言葉を受け、彼の別邸で暮らすことになったユナ。しかし、彼女には無自覚の天才調合師だった。 ​ユナがその才能を現すたび、エルの瞳は暗く濁り、独占欲を剥き出しにしていく。 「誰にも見せないで。君の価値に、世界が気づいてしまうから」 ​これは、あまりに純粋な天才少女と、彼女を救うふりをして世界から隠し、自分の檻に閉じ込めようとする「猛禽」な王子の物語。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...