氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第二章 王立学院中等部一年生

97 マリクの発情期⑤

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Side:デューク13歳 冬



アシェルとマリクの衝撃映像を、リリアーデに付き合ったが為に見ることになった後。

イザベルに許可を出されたので、デュークはアークエイドに引きずり込まれる形で使用人室にいた。

「なぁ、とりあえず、今アークとアシェの関係はどうなってるんだ?俺にはさっぱり訳が解らないことになってるってことだけしか理解できてないんだが。」

リリアーデが何故か解かった風なのだが、リリアーデの感性はズレていて、どうにも状況が把握できない。
双子で同じように育っているのに、個性と前世の記憶の違いで理解し難いことが度々あるのだ。
辛うじてリリアーデが理解できるということは、やはりアシェルの感覚はリリアーデに近いものがあるんだな、と思うくらいだ。

「リリィが衝動暴発した後に、詳しく話したっきりだよな。」

そう、確かアークエイドが治療と称してアシェルを襲ったとか。身体の関係だけ持ってやると言われたとか。そんな内容だった気がする。

「あぁ。その後は、最近アシェが女だって皆に伝えた少し前から、アークがアシェに好きだと言い始めただろ。それで身体の関係はあるのに、告白は振られたって言うのは聞いたが。」

あのカミングアウトの日。

リリアーデがパジャマパーティーという名の井戸端会議に誘った時の、アークエイドの言葉も態度も、恋人のそれだった。
しかもアシェルは全く嫌がるそぶりを見せていなかったので、余計に恋人同士に見えたのだ。

デュークからしてみると、本当に付き合ってないのかと目を疑ってしまう。

「……実は、あの後もアシェが他のやつにちょっかい掛けられたのを見て、何度か色々してるんだ。」

凄くざっくりと濁されたが、今、聞き捨てならない単語が聞こえた気がする。

「待て。“他のやつにちょっかいを”って、アシェならどうとでも出来るだろ?」

余程アシェルより魔力操作に秀でてない限り、アシェルの魔法を躱すことも解除キャンセルすることもできないはずだ。
少なくとも、幼馴染達は本気のアシェルに魔法で敵うことは無い。

「出来るだろうな。でも、抵抗してないどころか、キスされてやり返してる。」

不機嫌さを隠しもしないアークエイドの言葉に、デュークは首を傾げた。

「やり返しているんなら、逃れてるだろ。」

「違う。キスをされたから、キスをやり返してるんだ。さっきのマリクとのキスを見ただろ。……やられっぱなしが嫌で、主導権取ってやったみたいな言い方するんだぞ……。キスそのものは、なんともないことのように。」

それは。何と言葉を掛けたら良いのだろうか。

デュークがかける言葉に迷っている間に、アークエイドは話し続ける。

「夏休みには一人で部屋に籠って、錬金に明け暮れていたみたいでな。夏休みの初めのうちに、一人で魔の森に行って素材を入手したらしい。毒薬達を味見と言って内服してたんだ。イザベルが学院を離れるからと、鍵を預かって様子を見に来てたんだが……俺が来る時間には被らないように味見していたみたいだった。イザベルから聞いた話とは違ったからな。」

それが今の話の流れで、どう関係するのだろうかと思う。

「夏休みの最終日。街に誘おうかと思って、少し早めに訪ねたんだ。そしたらいつもは返事があるのに、全く反応が無くて、慌ててアシェの様子を見に入ったら……。」

瀕死の状態だったのだろうか。
だが、何故かアークエイドの頬が赤く染まっている。
多分、デュークには予想もつかないことが起きたのだということだけは判る。

「……以前の媚薬が使われた事件の原材料を、ギルドで買い取ってたんだ。しかもそれを使って、媚薬を作って味見してた。」

「……は?媚薬を……作って味見??」

毒薬でも正気の沙汰ではないと思うのに、普通媚薬を味見するだろうか。
しかも事件に巻き込まれて使われたのなら忌避しそうなものなのだが。

「あぁ。しかもアシェ曰く自信作の、極悪な奴だ。自分でする趣味はないらしくて、娼婦を呼びたいって言ってたな。」

「娼婦って……。」

話の次元が、デュークには付いていけないものになっている。
どこの世界に、齢13歳の少年——ではなく少女が、娼婦を使うような事態に陥るだろうか。

「娼婦なんか相手にするくらいなら俺がと思って、少しアシェに触れたら……バインドで拘束された。解こうとしたのに、その抵抗すら楽しんでたな……あれはかなり意地悪だったぞ。解けそうな綻びを見せておいて、そこを解こうとすればあっという間に塞がれて、おちょくられてるみたいだった。それを、抵抗しないと楽しくないから死に物狂いで頑張ってって、笑顔で言うんだぞ。それから……。」

何を思い出したのか、アークエイドの首から耳まで真っ赤に染まる。

「……少しマニアックだった。一応アシェに口でされた。で、そのあとさっさと帰れって言われたんだが。アシェは媚薬が効きすぎてて、腕を撫でるだけでも良かったみたいで。アシェがイって気をやるまで、身体を撫でたり、耳を責めた。といっても、それだけでいき狂ってるくらい媚薬が効いてたな。」

「肌撫でるだけでイくような媚薬って……なんでそんな極悪なものを……。」

というよりも、デュークは一体何を聞かされているのだろうか。
いくら大切な幼馴染とはいえ、情事の内容まで詳しく知りたくはない。

「そこに素材があるからだそうだ。突き詰めたものを作らないと満足できないらしい。」

「……それ、同じ理論で行くと、毒薬系も突き詰めた極悪な奴を味見してるんだよな?」

「そうなるな。」

とことんデュークには解らない感覚だ。

それにしても、よくアークエイドは好きな女性が目の前でよがってるのに、そのまま襲い掛からなかったなとも思う。
状況的に、アシェルの純潔が散らされていてもおかしくないのだ。

「そういえば……アシェの初めての相手って、アーク……なんだよな?最後までシたかどうかっていう意味で。」

「シてる。学院祭より少し後に。テイル夫人からの依頼と、アシェの読んでる本に発情期に関するものがあって。本人に聞いたら、発情期の相手をしながら薬を作るんだと。それを父や兄達は知っているのに止めないのは、メイディーだからだそうだ。イザベル曰く、知識に貪欲な一家で、常識よりも知識欲が優先らしい。マリクの発情期に入る前に、どうしても気持ちを伝えたくて……アシェが女だと知ってるって伝えたんだ。その上で好きだと。キスをしながら伝えたら、伝わったが”解らない”そうだ。アシェは俺を振っても身体の関係だけは続けてくれるらしいから、ソレに乗った。それすら無かったら、アシェは俺の告白すらなかったことにしそうだったから。」

「結局夏に相談を受けたように、心は手に入らないけど身体が繋がってる関係なんだな。」

「あぁ。先にアシェにやられた。実際に挿れてるんじゃないかと思う感触だったが、入ってなかったらしい。前世の記憶に、そういう技術があるそうだ。それに体質で、そのまま挿れるのは無理そうだった。でも初めてはくれるって言ってくれた。俺にはアシェみたいな技術はないから、夏休みの極悪な媚薬を飲んでくれって頼んだ。」

「は!?いやいや、なんでそうなるんだ?」

「アシェが痛くないようにと……どろっどろに蕩けた表情のアシェを、もう一度見たかった……。さっきのマリクとのが控えめに見えるくらいに蕩けてるんだ。……お互いイったあと、ノートとペンを寄こせと言われて、しっかり媚薬の所見をメモにして残していたけどな。初体験よりも、情事後のピロートークよりも、実験の結果をメモする方が大事らしい。」

「なんていうか……アシェだな。」

媚薬を飲んでくれと言ったアークエイドもどうかと思うが、アシェルは素直に飲んだのか。と思ったら、それすら実験の一環なんだろうなという対応だ。

デュークには何故そんな展開になるのかさっぱりだが、やはりアークエイドには少し同情してしまう。

「だよな。……まぁその日は、朝まで抱き潰す許可を貰ってたから本当に抱き潰したが。寝起きもあっさりしたものだった。シャワーを借りて、あがってからはアシェの前世の記憶の話をした。前にメイディー邸で盗み聞きしたのに近かったな。孤児院出身だとか、そういう話だ。本当にあまり思い出せないみたいなんだが……。」

そこでアークエイドが言い淀む。

「“授け子”以外は、前世の記憶があっても曖昧だったり、きっかけがないと出てこないって言うしな。そんなものなんじゃないか?」

リリアーデは“授け子”なので、前世の記憶は思い出そうと思えばはっきりと思い出せるらしい。

だが時折生まれる記憶持ちは、その記憶の残り方がまちまちだ。
中には歳を重ねるにつれ、全く思い出せなくなる者もいるらしい。

「……なぁ、リリィが前世の記憶を思い出してる時に、心ここにあらず、みたいなことになったりするか?」

「……はぁ?なんで急にリリィの話に?いや、思い出して暴走することはあるけど、ぼんやりすることはないな。」

「やっぱり、そうだよな。」

「それがどうしたんだ?」

難しい顔をして黙り込んでしまったアークエイドに続きを促す。

「……アシェは、人の視線に敏感みたいなんだ。一度だけ、パニックを起こしたところに居合わせたことがある。あの時はアシェの兄が二人ともいたからどうにかなったが……。俺がマリクとのことに嫉妬していたら、その感情を教えろと……。教えたら、ブツブツ言いながら考え込んだんだ。」

「いつものことだろ。」

特に素材や錬金絡みではよく見る光景だ。

「ブツブツ言いながら、どこか遠くを見てるんだ……どこにも焦点が合ってない。まるで今いる場所ではない場所にいるみたいに、何も映してないんだ……。それが、この前も起きた。その時は何が原因だったか分からないんだが、昔の幼馴染が見えた気がしたそうだ。だから前世の記憶を思い出したのがきっかけなのかとは思うが……。あの眼をしたアシェは、どこかに行ってしまいそうで怖い。その後からは普段通りだったからこそ、余計に急に消えそうな気がしてしまう。」

「……僕はその状況を直接見た訳じゃないから、何とも言えないけど。パニックを起こしてるわけじゃないんだよな?そのどこかを見ている状態からは、すぐに戻るのか?呼びかけてもだめなのか?」

「呼びかけたら、すぐに戻った。あれで戻らなかったらと思うと……。でも、戻ってしまえばいつも通りなんだ。アシェが俺と同じ好きを返してくれなくても、せめて身体だけでもって思ってたんだ。でも……さっきリリィが言ってただろ。アシェはああいう行為が好きなんじゃなくて、手段なのかもって。それが……しっくりきた気がしたんだ。」

「相手が求めてるからこなしてる、って言ってたやつか。」

「あぁ。実際、アシェがきっかけで求められたのは……媚薬の時くらいか。」

「さすがにそれはノーカンだろ。」

「分かってる。……はぁ、すまない。デュークに話したからって、何かが変わるわけでもないのにな。」

「いや、話すことでスッキリしたり、考えがまとまることもあるだろ。」

そもそもアークエイドが、ここまで喋ろうとすること自体が珍しいのだ。

内容が赤裸々すぎて聞いてるこっちまで恥ずかしくなりそうな内容だが、こうやって聞くことで少しでも心が軽くなるのであれば、いくらでも聞いてあげたい。
——あまりにも理解不能な展開過ぎて、アドバイスを求められたら困るが。

「せめて何がきっかけで、アシェにあんな表情をさせてしまったのかだけでも分かれば良いんだが……。いや、それもだが、無防備すぎるのも問題だよな。あれだけ襲われるのは嫌だって言うのに、なんでミルトン兄弟につけ込まれたのか。というよりも、抵抗しないのが問題なんだ。」

愚痴るアークエイドの言葉にひっかかる。

「ミルトン兄弟?クラスメイトに確か……。」

「あぁ、シオン・ミルトンもアシェを狙ってるな。その兄、クリストファー・ミルトンもだ。二人ともアシェのことは男だと信じて疑ってないみたいだが。」

「兄弟で……。アシェにちょっかい掛けたやつらって?」

「ミルトン兄弟だ。」

デュークには何故男同士で事に及ぼうとするのか全く理解できない。
だが、確かにアシェルの見た目はとても綺麗だ。
一部の貴族が好きそうな出で立ちだろう。

「学院祭の時、割と仲良さそうじゃなかったか?」

シオンとはやけに楽しそうに話していた気がするのだが、デュークの勘違いだっただろうか。

「悪くないと思うぞ。連日生徒会室に来ていたから、そっちでも喋ってるしな。」

アシェルのことを女性だと知ったうえでアプローチを掛けている分、アークエイドの方が優勢だとは思うが、アシェルのことだ。
いざとなればアッサリ他になびく可能性がないとも限らない。
何がアシェルの興味を引くのか分からないのだ。

「早く捕まえないと、横から搔っ攫われそうだな……。応援はしてるがこればかりは……。」

人の心を変えることは出来ない。
デュークには応援するしか出来ないのだ。

「あぁ、分かってる。話を聞いてくれてありがとう。……ちなみに、デュークの方は進展はあったか?」

学院祭で二人で周る時間をもらったが。

「あるわけないだろう。リリィの中で、僕は未だに小さい弟扱いだよ。精神年齢がって言うけど、僕にはどうしようもないところで子供扱いされてるんだから。どうやったら意識してもらえるのか。そこからだよ。」

そもそも男として扱ってくれているのかすら怪しい。
いつまでもリリアーデの可愛い弟枠を出れないデュークとしては、特別な好きが伝わっただけでも羨ましいと思ってしまう。
——いや、今のアークエイドと同じ状況に立たされたら、アークエイドのように大人しくしていられる自信はない。

どちらの状況が良いかと言われたら、デュークの方がマシかもしれない。

「お互い難儀だな。……もう少し恥じらいや慎みを知ってくれれば、心配事も減るんだがな。」

「全くだよ。注意してもサッパリ何がダメだか解ってないんだから。……リリィ達の前世の世界って、かなり平和でゆとりのある世界……というか、国だったみたいなんだよね。魔物は居ないし魔法もない。貧富の格差はあるけど、貴族が居た訳でもないみたいだし。」

デュークは産まれた時から“授け子”のリリアーデと一緒なので、“授け子”については勉強してきている。
特にリリアーデが生まれ育ったという“日本”という国について、可能な限り書物なども読んだ。

「僕から見たら、平和なのに歪な国なんだよね。平和って言うのは、あくまでも他の国と比べてで、窃盗や殺人なんかもあるし。もちろん虐めも、学校や職場で普通にあるみたい。リリィは虐めを受けてたわけじゃないけど、職場で馴染めなくて精神を病んだって言ってた。女社会に馴染めないと当たりがきついし陰口も言われる。人と違うことが悪いことみたいに思われがちなんだって、リリィは言ってたな。魔法がない分、科学っていうのが発達していて、魔道具みたいなものがあったんだって。貞操観念も倫理観も、基準はあるのに、人によって曖昧っていうか。少なくとも、僕らみたいにお付き合いが婚約や結婚とセットじゃないしさ。……根幹にある常識が僕らと違うから、こまめに指摘し続けるしかないんだよね。」

アークエイドは“日本”という国について。
アシェルが過去に生きていた世界について、どれくらい知っているのだろうか。

アシェルにはあまりハッキリと記憶が残っていないみたいだが、知っていると知っていないとでは、発言に対する対応や理解も変わってくる。

「かなり違う環境に居たらしいっていうのは、調べたから知ってるんだ。前にメイディー邸で話を盗み聞きした後に。」

「まぁ、その辺りも踏まえて、なんでそれがダメなのかを教えないとって感じかな。リリィ達の感覚では特に問題ないことでも、僕らからしたらあり得なかったりするしね……寝間着の件みたいに。」

寝支度を終えて寝室に入ると、リリアーデが居なかったことが何度かある。

いくらオートロックで区切られたエリアとはいえ、寝間着で部屋の外に。ましてや誰かを訪問するなど、あり得ないことだ。
でもリリアーデ達はそれに何の疑問も持っていないし、注意しても解ってもらえなかった。

「あれは……そうだな。俺達が気を付けて、注意を促すしかないな。」

アークエイドも色々と思い当たる節があるのだろう。
二人で小さく溜め息を吐いた。

「少しはスッキリしたか?話を聞くだけならいつでもいいから、あまり溜め込むなよ。」

溜め込んで暴走されるより、話してスッキリするなり頭の中を整理してもらった方が良い。

「あぁ、時間を取って悪かったな。もしまた話を聞いてもらう事があったら……その時はよろしく頼む。」

アークエイドがかけていた魔法をキャンセルしたのを確認して応接間へ戻る。
リリアーデ達は既に帰室しているようで、イザベルからサンドイッチを振舞われた。

食べ終わった後、アークエイドはイザベルに連れられて自室へ帰らされていた。

出てきた使用人も当たり前のように受け答えをしているので、もしかしたらここ一週間の日常の風景なのかもしれない。
こうでもしないとアークエイドが帰らないのだろう。

そんなアークエイドが自室に戻ったのを見届けて、デュークも自室へと帰ったのだった。

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