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第二章 王立学院中等部一年生
98 マリクの抑制剤完成① ※
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********
※をつけるほどではないですが、R18描写があります。
※は念のため。
********
Side:アシェル13歳 冬
先程作り終えたばかりの薬液を口に含み、もう何度したか分からない口付けをする。
アシェルがゆっくりと薬液を口移しに与えれば、マリクがもっととねだるように舌を絡めながらコクコクと嚥下する。
たっぷりと唾液と舌を絡めて、薬液の効果を早く効かせることができるように促してやる。
二人の息が荒くなってきたところで唇を離すと、ぼうっとしているが、発情期の野性味の抜け落ちた橙色の瞳があった。
「……っはぁ……どう?多分、今までので一番効果があると思うんだけど。」
あのアークエイド達の突撃があってから五日が経過している。
発情期の期間的にそろそろ完成品と言いたいところだが、時間いっぱいを使って細かい調整を行っているところだ。
今は薬液だが、これでマリクの状態が落ち着くのならば、今度は粉か錠剤に成分を閉じ込める作業が待っている。
だがその作業には発情期中のマリクがいなくていいので、とにかく薬液の状態でベストな調薬をしたかった。
「……ぅん、多分だいじょーぶ……かな?アシェ、ごめんねー。」
マリクの瞳が普段と変わらない輝きを取り戻すと同時に、ぺろりと紅い雫が滲む首筋を舐められる。
「んんっ。もう、舐めちゃダメって言ってるでしょ。」
「んー……あんまり気持ちよくなーい?」
アシェルの反応が悪いことを言ってるのだろう。
「気持ち良い気持ち良くないの前に、眠気が限界なの。眠すぎて、弱い刺激って感じかな。それに、僕のことは良いんだって。」
正直なところ、挿入されている圧迫感と違和感、創薬への熱意と根性だけで起きていると言っても過言ではない。
「アシェのかわいーとこみたかったのに、残念ー。」
「こんなボロボロの状態で、可愛いも何も……。」
アシェルの首や肩は噛み傷だらけだし、身体のあちこちにマリクの爪が刺さったり引っかかれたりした跡がある。その傷に合わせて、シャツも引き裂かれたり血が滲んでいる。
理性の残っていない状態でヒールを掛けるのはご法度のようで、一度腰に付けられた噛み傷を治療したらマリクがもの凄く怒ってしまったのだ。
その後から一切治療は行ってないので、文字通りぼろぼろだ。
「アシェはきれーだけど、気持ちよさそーな時はかわいーよ。」
「もう……。耳と尻尾もいつもどおりだし、話してても問題なさそうだね。応接間に……は流石にこの格好じゃいけないか。ねぇマリク、あのサーバントベル取れる?」
普段は全く使わないが、イザベルしか使用人がいないアシェルの部屋にも、一応サーバントベルは置いてある。
イザベルが控えていればベルの音に反応して来てくれるはずだ。
少し抱き抱えられたまま移動され、サイドテーブルの端っこに鎮座していたサーバントベルを取ってもらった。
ベルを振ればチリンチリンと澄み渡った音が響く。
程なくして、コンコンと扉が叩かれた。
「イザベルでございます。アシェル様、お呼びでしょうか?」
「うん、ちゃんと音が聞こえたみたいで良かったよ。とりあえず、扉開けて貰える?マリクの状態を確認したいんだよね。」
「解りました、失礼いたします。」
イザベルの手で寝室の扉が開かれた。
きちんと言いつけは守っていて、扉を開けた後、こちらに入ってくることは無い。
「どう、マリク?」
「うん、見ても大丈夫だねー。ムラムラ?は発情期だからしょうがない奴だもんねー。」
「それも無くそうと思ったら、意識無くすお薬になっちゃうからね。目的に合ってないから。とりあえずベルは大丈夫だね。まぁ、ご飯届けてくれてるので、だいぶ匂いも覚えてたみたいだもんなぁ……。」
イザベルが食事を運んでさっさと退散するので、発情期中のマリクの中で、イザベルの匂いは警戒しなくて良いモノになっていたはずだ。
イザベルに部屋に入ってもらう前にもうワンクッション欲しい。
「ねぇ、ベル。アークは来てる?来てるならそこまで連れて来てくれる?」
「少々お待ちください。」
ドアストッパーで扉を開けたまま、廊下の先にある応接間へとイザベルが消える。
そしてアークエイドを引き連れて戻ってきた。
「ここに立てばいいんだな?」
部屋の入口手前でピタッと立ち止まったアークエイドに確認されて頷く。
「どう、今度はアークだけど……嫌な匂いはする?姿を見たら嫌な感じする?」
悪口だと思われそうなことを口にしながらマリクに確認を取る。
「んーん、大丈夫みたいー。アークもいつもの匂いに感じるよー。」
「いつもって……じゃあこの前はどんな匂いがしてたんだ。」
マリクの言葉に呆れたようにアークエイドが答えた。
「んっとね、すっごくイライラして嫌な匂いだったよー。あの間に匂いで識別できてたのは、アシェとベルちゃんだけだったからねー。」
「とりあえず、第一段階はクリアだね。じゃあ次。ベル、一歩だけ室内に入って立ってて。もしマリクが動いても、僕が何もさせないから安心して。」
アシェルの指示に従って、イザベルが一歩寝室に踏み込み立ち止まった。
アシェルの背中から抱き付いているマリクだが、動く気配はない。
「うん、だいじょーぶだね。どっかいけーってならないよー。」
「じゃあ、次、アーク。同じようにベルの隣に立ってくれる?」
促されたアークエイドも、寝室に一歩踏み込み立ち止まる。
「どう?」
「うん、大丈夫、かなー?ちょっとだけ、俺の場所って思ったけど、ここアシェの部屋だもんねー。」
その辺りの認識については誤差程度だろう。
しっかり違うことが解っただけで十分だ。
「うん、上出来だね。じゃあ次……抜いて、僕から離れてくれる?あ、離れて不安だからって二人に飛び掛からないように。あっちに行くくらいなら、僕のところに戻ってきてよね。とりあえず、寝台挟んで向こうまで行ってみて?」
「分かったー。でも、支えてなくてだいじょーぶ?」
「……んぅっ………ベッドに座らせて貰おうかな。」
ずるりとお腹の中から熱くて太い塊が引き抜かれ、行き場を失っていた白濁がぼたぼたと出口を求めて垂れてきた。
優しく寝台に座らせてもらい、マリクが距離を取ったのを確認する。
「だいじょーぶ。」
「じゃあ、次はちょっと部屋を綺麗にするからね。流れる清浄の水よ。降り注ぐ聖なる光よ。穢れを祓い在るべき姿へ戻したまえ『清浄化』。」
アシェルの身体とマリクの身体、そして寝台周辺の床など、広域にまとめてクリーンをかける。
眠気と疲れがあるので無詠唱や省略ではない、きっちり詠唱したクリーンだ。
「どう?」
「アシェの中から俺の匂いがしてるのは分かるけど、部屋から匂いが消えても不安はないよー。」
「よし。良い感じだね。あとは……『ウォーター』。」
掌に出した水をごくごくと飲み、軽く口を濯いでごっくんする。
「アーク、ここまで来てくれる?マリクには何もさせないから安心して。」
アシェルに言われ、アークエイドがアシェルの傍に立った。
「どうしたらいい?」
「まずは抱きしめてくれるかな。あ、後ろから。」
ふわふわと頼りない脚で何とか立ち、アークエイドに背中を預ける。
アークエイドの腕が回されたのを確認してマリクを見た。
「大丈夫だよー。アークを攻撃したくなったりしてないからー。」
「じゃあラスト。……アーク、キスしよっか。」
斜め後ろを見上げると、戸惑った表情のアークエイドと目が合う。
「発情期中の獣人は、パートナーに手を出されるのが死ぬほど嫌らしいから。それが抑えられているかの確認。一応口は濯いだけど……キスしたくない?」
「さっきのはそういうことか……いや、する。」
ゆっくりと唇が近づいてきて、チュッチュと確認するように啄まれる。
アシェルがぐっと舌を押し込めば迎えてくれ、お互いの舌と唾液が絡んだ。
キスしながらチラリとマリクを見るが大丈夫そうだ。
たっぷりと舌を絡めた唇を離す。
「大丈夫そうだね。」
「うんー。ねーアシェー、俺もキスしてー?アシェのキスきもちいーんだよね。」
ぱたぱたと尻尾を振りながらマリクが言う。
感情が尻尾の動きに連動するのも抑制剤が効いている証拠だ。
「しょうがないなぁ。一回だけだよ。薬瓶用意しておくから、一週間、毎朝一本服用してね。今後の発情期用は錠剤の予定だけど、粉じゃないと飲めないとかある?」
マリクに渡す予定の薬瓶を立てたスタンドを、イザベルに運んでもらうように手配する。
マリクと一緒に行ってもらえばいいだろう。
「どっちでもー。」
マリクにおいでおいでと手で示すと目の前までやってくる。
「なぁ、マリクの発情期の薬は出来たんだよな?それでもキスを??」
少し不機嫌そうなアークエイドの腕の力が強まる。
「してほしいみたいだから。確かに抑制剤は出来たけど、発情期の性欲が綺麗さっぱりなくなるわけじゃないんだよ。」
「だからって……!」
やっぱり所有印をたっぷりつけたがるアークエイドは独占欲が強そうだ。
だけど、勘違いしてはいないだろうか。
「アークがヤキモチ妬いてるのは勝手にしたら良いけど、僕は誰のモノでもないから。この依頼が終わったら、好きにしてくれて良いからさ。」
「アークが嫌ならやめておこうかー?」
アークエイドは黙り込み、マリクは尻尾と耳がしょんぼり垂れている。
「気にしなくて良いよ、おいで。キスはしてあげるけど、部屋に戻ったら自分でするんだよ?まぁ、イくのが難しくても、刺激を与えてれば少しは性欲も解消されると思うから。」
「マリク、気にしないでくれ。ただ、アシェを抱きしめたままでいたい。」
アークエイドの妥協点がそこということだろうか。
「分かったー。ありがとー、アーク。」
言うが早いか少し腰を折り、アシェルの高さに合わせてくれて口付けをする。
たっぷりと濃厚なキスをすればマリクの瞳に熱が籠るが、あの全く薬が効いていない時のような、ギラギラとした野性味はない。
あの眼は魔物と対峙する時のような、一歩間違えれば食い殺されそうな眼だったが、この状態なら薬の成分的には完成でいいだろう。
息の荒くなり始めたマリクの唇が離れる。
「うん、やっぱりアシェは凄くじょーずだねー。それに、お薬凄いねー。」
「ふふ、当たり前だよ。僕が作ったんだからね。もう問題はなさそうだから、シャワー浴びたら部屋に帰って良いよ。自分の部屋でゆっくり寝て。……あ、お手伝いって必要?もし必要ならクリーンかけてあげるから、マリクのところでシャワー浴びて貰った方が良いかも。」
さすがにイザベルにマリクの世話をさせるわけにはいかない。
「それ、俺のセリフだよー。なんだかんだで、俺、寝てるからねー?これいじょーはお邪魔みたいだし、俺は帰るよー。『クリーン』。俺のせーふくってどこにあるー?」
「マリク様の制服は、応接間にご用意してあります。」
「分かったー。アシェ、ほんとーにありがとねー。……俺が付けちゃった傷、ちゃんと治る?」
「全部綺麗に直すから大丈夫だよ。消すとマリクが怒っちゃうから消してないだけだし。」
「あー……うん、ごめんねー。」
「いいから、早く部屋に帰って、使用人達に元気な姿見せておいで。」
「うん、またねー。」
マリクが寝室を出ていき、イザベルも手にマリクへ渡す薬瓶とスタンドを持って寝室から出ていく。
色々な薬や素材と情事の後の匂いがする部屋に、アークエイドと二人っきりになった。
「……最後のキスも、依頼の一環か?」
「んーまぁね。欲求を満たした時に本能が勝つようじゃダメだし。我ながら良い具合に調整できたと思うよ。……それより、もうくっついてなくても良いでしょ。協力してくれてありがとう。」
成分の割合や素材は決まったので、あとはそれを上手く錠剤に閉じ込めることと、誰でも調薬できるように、手順などを詳細に記した処方箋を作らなくてはいけない。
でも細かい作業をする前にいったん寝たい。
発情期の期間中というタイムリミットがあったので睡眠不足でも頑張っていたが、流石にこれ以上は集中力が持たないだろう。
「ねぇ、離してってば。今はムラムラしてるって言われても相手できないからね。眠たくってそれどころじゃないんだから。」
「……こんなにボロボロになるまで。なんでこんな無理をするんだ。アシェ自身の身体の事も大事にして欲しい。」
アークエイドの表情は見えないが、この切なさの籠った声は心配してくれているのだろうか。
「無理なんてしてないよ。まぁ、見た目はボロボロだけど。こればっかりは仕方ないし、最初から織り込み済みだしね。」
「はぁ……言っても伝わらないことは解ってるんだ。なぁ、このまま寝るのか?」
「うん?まぁ、身体にクリーンだけかけて寝よっかなって。シャワー浴びるのも億劫なくらい眠たいんだよね。部屋の掃除はベルがしてくれるならしてもらうし、無理なら自分でするけど、まずは寝たいかな。起きたら掃除と、身体の傷の具合確認して、メモ取ってから治療もかな。」
アークエイドの腕の中で、この後のスケジュールのことを考える。
とりあえず眠らないことには何も始まらない。
時間が惜しいので早く寝たいのだが。
「横に居てもいいか?」
「添い寝?別にいいけど、クリーンじゃ外側しか綺麗にならないから、汚れても知らないよ。」
アシェルの中にはまだマリクの吐き出したものが残っている。
今も脚を伝うソレは、シャワーを浴びて綺麗にしないと駄目だろう。
「汚れたら綺麗にすれば良いだけだ。『クリーン』。」
アークエイドの詠唱に合わせて、身体がふんわりと温かく、スッキリとする。
抗議する間もなくひょいっと抱えられ、寝台の上に降ろされた。
ふかふかの布団に横になれば、すぐにでも瞼が落ちそうだ。
「眠い……もう好きにして。ベルが帰ってきたら、もういつも通りでいいからってだけ言っておいて、おやすみ。」
言いたいことだけ言って、重たい瞼を閉じる。
すぐに睡魔は訪れ、すぅすぅと寝息をたて始めたアシェルの額にチュッと優しいキスが降ってくる。
アークエイドは一緒に横になり、掛け布団を掛けてからアシェルをギュッと抱きしめた。
「俺の心配なんて、アシェには届かないんだろうな。アシェが好きなのに、どうしたら俺のことを好きになってもらえるんだろうな。」
アークエイドの切ない囁きは、眠ってしまったアシェルには届かない。
腕の中の温もりを抱きしめながら、アシェルの寝顔を見て過ごしたのだった。
※をつけるほどではないですが、R18描写があります。
※は念のため。
********
Side:アシェル13歳 冬
先程作り終えたばかりの薬液を口に含み、もう何度したか分からない口付けをする。
アシェルがゆっくりと薬液を口移しに与えれば、マリクがもっととねだるように舌を絡めながらコクコクと嚥下する。
たっぷりと唾液と舌を絡めて、薬液の効果を早く効かせることができるように促してやる。
二人の息が荒くなってきたところで唇を離すと、ぼうっとしているが、発情期の野性味の抜け落ちた橙色の瞳があった。
「……っはぁ……どう?多分、今までので一番効果があると思うんだけど。」
あのアークエイド達の突撃があってから五日が経過している。
発情期の期間的にそろそろ完成品と言いたいところだが、時間いっぱいを使って細かい調整を行っているところだ。
今は薬液だが、これでマリクの状態が落ち着くのならば、今度は粉か錠剤に成分を閉じ込める作業が待っている。
だがその作業には発情期中のマリクがいなくていいので、とにかく薬液の状態でベストな調薬をしたかった。
「……ぅん、多分だいじょーぶ……かな?アシェ、ごめんねー。」
マリクの瞳が普段と変わらない輝きを取り戻すと同時に、ぺろりと紅い雫が滲む首筋を舐められる。
「んんっ。もう、舐めちゃダメって言ってるでしょ。」
「んー……あんまり気持ちよくなーい?」
アシェルの反応が悪いことを言ってるのだろう。
「気持ち良い気持ち良くないの前に、眠気が限界なの。眠すぎて、弱い刺激って感じかな。それに、僕のことは良いんだって。」
正直なところ、挿入されている圧迫感と違和感、創薬への熱意と根性だけで起きていると言っても過言ではない。
「アシェのかわいーとこみたかったのに、残念ー。」
「こんなボロボロの状態で、可愛いも何も……。」
アシェルの首や肩は噛み傷だらけだし、身体のあちこちにマリクの爪が刺さったり引っかかれたりした跡がある。その傷に合わせて、シャツも引き裂かれたり血が滲んでいる。
理性の残っていない状態でヒールを掛けるのはご法度のようで、一度腰に付けられた噛み傷を治療したらマリクがもの凄く怒ってしまったのだ。
その後から一切治療は行ってないので、文字通りぼろぼろだ。
「アシェはきれーだけど、気持ちよさそーな時はかわいーよ。」
「もう……。耳と尻尾もいつもどおりだし、話してても問題なさそうだね。応接間に……は流石にこの格好じゃいけないか。ねぇマリク、あのサーバントベル取れる?」
普段は全く使わないが、イザベルしか使用人がいないアシェルの部屋にも、一応サーバントベルは置いてある。
イザベルが控えていればベルの音に反応して来てくれるはずだ。
少し抱き抱えられたまま移動され、サイドテーブルの端っこに鎮座していたサーバントベルを取ってもらった。
ベルを振ればチリンチリンと澄み渡った音が響く。
程なくして、コンコンと扉が叩かれた。
「イザベルでございます。アシェル様、お呼びでしょうか?」
「うん、ちゃんと音が聞こえたみたいで良かったよ。とりあえず、扉開けて貰える?マリクの状態を確認したいんだよね。」
「解りました、失礼いたします。」
イザベルの手で寝室の扉が開かれた。
きちんと言いつけは守っていて、扉を開けた後、こちらに入ってくることは無い。
「どう、マリク?」
「うん、見ても大丈夫だねー。ムラムラ?は発情期だからしょうがない奴だもんねー。」
「それも無くそうと思ったら、意識無くすお薬になっちゃうからね。目的に合ってないから。とりあえずベルは大丈夫だね。まぁ、ご飯届けてくれてるので、だいぶ匂いも覚えてたみたいだもんなぁ……。」
イザベルが食事を運んでさっさと退散するので、発情期中のマリクの中で、イザベルの匂いは警戒しなくて良いモノになっていたはずだ。
イザベルに部屋に入ってもらう前にもうワンクッション欲しい。
「ねぇ、ベル。アークは来てる?来てるならそこまで連れて来てくれる?」
「少々お待ちください。」
ドアストッパーで扉を開けたまま、廊下の先にある応接間へとイザベルが消える。
そしてアークエイドを引き連れて戻ってきた。
「ここに立てばいいんだな?」
部屋の入口手前でピタッと立ち止まったアークエイドに確認されて頷く。
「どう、今度はアークだけど……嫌な匂いはする?姿を見たら嫌な感じする?」
悪口だと思われそうなことを口にしながらマリクに確認を取る。
「んーん、大丈夫みたいー。アークもいつもの匂いに感じるよー。」
「いつもって……じゃあこの前はどんな匂いがしてたんだ。」
マリクの言葉に呆れたようにアークエイドが答えた。
「んっとね、すっごくイライラして嫌な匂いだったよー。あの間に匂いで識別できてたのは、アシェとベルちゃんだけだったからねー。」
「とりあえず、第一段階はクリアだね。じゃあ次。ベル、一歩だけ室内に入って立ってて。もしマリクが動いても、僕が何もさせないから安心して。」
アシェルの指示に従って、イザベルが一歩寝室に踏み込み立ち止まった。
アシェルの背中から抱き付いているマリクだが、動く気配はない。
「うん、だいじょーぶだね。どっかいけーってならないよー。」
「じゃあ、次、アーク。同じようにベルの隣に立ってくれる?」
促されたアークエイドも、寝室に一歩踏み込み立ち止まる。
「どう?」
「うん、大丈夫、かなー?ちょっとだけ、俺の場所って思ったけど、ここアシェの部屋だもんねー。」
その辺りの認識については誤差程度だろう。
しっかり違うことが解っただけで十分だ。
「うん、上出来だね。じゃあ次……抜いて、僕から離れてくれる?あ、離れて不安だからって二人に飛び掛からないように。あっちに行くくらいなら、僕のところに戻ってきてよね。とりあえず、寝台挟んで向こうまで行ってみて?」
「分かったー。でも、支えてなくてだいじょーぶ?」
「……んぅっ………ベッドに座らせて貰おうかな。」
ずるりとお腹の中から熱くて太い塊が引き抜かれ、行き場を失っていた白濁がぼたぼたと出口を求めて垂れてきた。
優しく寝台に座らせてもらい、マリクが距離を取ったのを確認する。
「だいじょーぶ。」
「じゃあ、次はちょっと部屋を綺麗にするからね。流れる清浄の水よ。降り注ぐ聖なる光よ。穢れを祓い在るべき姿へ戻したまえ『清浄化』。」
アシェルの身体とマリクの身体、そして寝台周辺の床など、広域にまとめてクリーンをかける。
眠気と疲れがあるので無詠唱や省略ではない、きっちり詠唱したクリーンだ。
「どう?」
「アシェの中から俺の匂いがしてるのは分かるけど、部屋から匂いが消えても不安はないよー。」
「よし。良い感じだね。あとは……『ウォーター』。」
掌に出した水をごくごくと飲み、軽く口を濯いでごっくんする。
「アーク、ここまで来てくれる?マリクには何もさせないから安心して。」
アシェルに言われ、アークエイドがアシェルの傍に立った。
「どうしたらいい?」
「まずは抱きしめてくれるかな。あ、後ろから。」
ふわふわと頼りない脚で何とか立ち、アークエイドに背中を預ける。
アークエイドの腕が回されたのを確認してマリクを見た。
「大丈夫だよー。アークを攻撃したくなったりしてないからー。」
「じゃあラスト。……アーク、キスしよっか。」
斜め後ろを見上げると、戸惑った表情のアークエイドと目が合う。
「発情期中の獣人は、パートナーに手を出されるのが死ぬほど嫌らしいから。それが抑えられているかの確認。一応口は濯いだけど……キスしたくない?」
「さっきのはそういうことか……いや、する。」
ゆっくりと唇が近づいてきて、チュッチュと確認するように啄まれる。
アシェルがぐっと舌を押し込めば迎えてくれ、お互いの舌と唾液が絡んだ。
キスしながらチラリとマリクを見るが大丈夫そうだ。
たっぷりと舌を絡めた唇を離す。
「大丈夫そうだね。」
「うんー。ねーアシェー、俺もキスしてー?アシェのキスきもちいーんだよね。」
ぱたぱたと尻尾を振りながらマリクが言う。
感情が尻尾の動きに連動するのも抑制剤が効いている証拠だ。
「しょうがないなぁ。一回だけだよ。薬瓶用意しておくから、一週間、毎朝一本服用してね。今後の発情期用は錠剤の予定だけど、粉じゃないと飲めないとかある?」
マリクに渡す予定の薬瓶を立てたスタンドを、イザベルに運んでもらうように手配する。
マリクと一緒に行ってもらえばいいだろう。
「どっちでもー。」
マリクにおいでおいでと手で示すと目の前までやってくる。
「なぁ、マリクの発情期の薬は出来たんだよな?それでもキスを??」
少し不機嫌そうなアークエイドの腕の力が強まる。
「してほしいみたいだから。確かに抑制剤は出来たけど、発情期の性欲が綺麗さっぱりなくなるわけじゃないんだよ。」
「だからって……!」
やっぱり所有印をたっぷりつけたがるアークエイドは独占欲が強そうだ。
だけど、勘違いしてはいないだろうか。
「アークがヤキモチ妬いてるのは勝手にしたら良いけど、僕は誰のモノでもないから。この依頼が終わったら、好きにしてくれて良いからさ。」
「アークが嫌ならやめておこうかー?」
アークエイドは黙り込み、マリクは尻尾と耳がしょんぼり垂れている。
「気にしなくて良いよ、おいで。キスはしてあげるけど、部屋に戻ったら自分でするんだよ?まぁ、イくのが難しくても、刺激を与えてれば少しは性欲も解消されると思うから。」
「マリク、気にしないでくれ。ただ、アシェを抱きしめたままでいたい。」
アークエイドの妥協点がそこということだろうか。
「分かったー。ありがとー、アーク。」
言うが早いか少し腰を折り、アシェルの高さに合わせてくれて口付けをする。
たっぷりと濃厚なキスをすればマリクの瞳に熱が籠るが、あの全く薬が効いていない時のような、ギラギラとした野性味はない。
あの眼は魔物と対峙する時のような、一歩間違えれば食い殺されそうな眼だったが、この状態なら薬の成分的には完成でいいだろう。
息の荒くなり始めたマリクの唇が離れる。
「うん、やっぱりアシェは凄くじょーずだねー。それに、お薬凄いねー。」
「ふふ、当たり前だよ。僕が作ったんだからね。もう問題はなさそうだから、シャワー浴びたら部屋に帰って良いよ。自分の部屋でゆっくり寝て。……あ、お手伝いって必要?もし必要ならクリーンかけてあげるから、マリクのところでシャワー浴びて貰った方が良いかも。」
さすがにイザベルにマリクの世話をさせるわけにはいかない。
「それ、俺のセリフだよー。なんだかんだで、俺、寝てるからねー?これいじょーはお邪魔みたいだし、俺は帰るよー。『クリーン』。俺のせーふくってどこにあるー?」
「マリク様の制服は、応接間にご用意してあります。」
「分かったー。アシェ、ほんとーにありがとねー。……俺が付けちゃった傷、ちゃんと治る?」
「全部綺麗に直すから大丈夫だよ。消すとマリクが怒っちゃうから消してないだけだし。」
「あー……うん、ごめんねー。」
「いいから、早く部屋に帰って、使用人達に元気な姿見せておいで。」
「うん、またねー。」
マリクが寝室を出ていき、イザベルも手にマリクへ渡す薬瓶とスタンドを持って寝室から出ていく。
色々な薬や素材と情事の後の匂いがする部屋に、アークエイドと二人っきりになった。
「……最後のキスも、依頼の一環か?」
「んーまぁね。欲求を満たした時に本能が勝つようじゃダメだし。我ながら良い具合に調整できたと思うよ。……それより、もうくっついてなくても良いでしょ。協力してくれてありがとう。」
成分の割合や素材は決まったので、あとはそれを上手く錠剤に閉じ込めることと、誰でも調薬できるように、手順などを詳細に記した処方箋を作らなくてはいけない。
でも細かい作業をする前にいったん寝たい。
発情期の期間中というタイムリミットがあったので睡眠不足でも頑張っていたが、流石にこれ以上は集中力が持たないだろう。
「ねぇ、離してってば。今はムラムラしてるって言われても相手できないからね。眠たくってそれどころじゃないんだから。」
「……こんなにボロボロになるまで。なんでこんな無理をするんだ。アシェ自身の身体の事も大事にして欲しい。」
アークエイドの表情は見えないが、この切なさの籠った声は心配してくれているのだろうか。
「無理なんてしてないよ。まぁ、見た目はボロボロだけど。こればっかりは仕方ないし、最初から織り込み済みだしね。」
「はぁ……言っても伝わらないことは解ってるんだ。なぁ、このまま寝るのか?」
「うん?まぁ、身体にクリーンだけかけて寝よっかなって。シャワー浴びるのも億劫なくらい眠たいんだよね。部屋の掃除はベルがしてくれるならしてもらうし、無理なら自分でするけど、まずは寝たいかな。起きたら掃除と、身体の傷の具合確認して、メモ取ってから治療もかな。」
アークエイドの腕の中で、この後のスケジュールのことを考える。
とりあえず眠らないことには何も始まらない。
時間が惜しいので早く寝たいのだが。
「横に居てもいいか?」
「添い寝?別にいいけど、クリーンじゃ外側しか綺麗にならないから、汚れても知らないよ。」
アシェルの中にはまだマリクの吐き出したものが残っている。
今も脚を伝うソレは、シャワーを浴びて綺麗にしないと駄目だろう。
「汚れたら綺麗にすれば良いだけだ。『クリーン』。」
アークエイドの詠唱に合わせて、身体がふんわりと温かく、スッキリとする。
抗議する間もなくひょいっと抱えられ、寝台の上に降ろされた。
ふかふかの布団に横になれば、すぐにでも瞼が落ちそうだ。
「眠い……もう好きにして。ベルが帰ってきたら、もういつも通りでいいからってだけ言っておいて、おやすみ。」
言いたいことだけ言って、重たい瞼を閉じる。
すぐに睡魔は訪れ、すぅすぅと寝息をたて始めたアシェルの額にチュッと優しいキスが降ってくる。
アークエイドは一緒に横になり、掛け布団を掛けてからアシェルをギュッと抱きしめた。
「俺の心配なんて、アシェには届かないんだろうな。アシェが好きなのに、どうしたら俺のことを好きになってもらえるんだろうな。」
アークエイドの切ない囁きは、眠ってしまったアシェルには届かない。
腕の中の温もりを抱きしめながら、アシェルの寝顔を見て過ごしたのだった。
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