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第二章 王立学院中等部一年生
102 マリクの抑制剤完成⑤
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Side:アシェル13歳 冬
テキパキと事前に組み立てた手順通りに、一般的に錬金で使われる器具だけを使って創薬し、最後の味見をする。
「うん、イイ感じ。あとは清書して書き写し作業だね。お父様の方は別になんでもいいけど、キルル様には便箋……何か良いのあったかな。」
うーんと大きく伸びをして、出来上がった錠剤を小さなジップロックに分けて入れる。
いつの間に戻ってきたのか、部屋の中にはアークエイドの姿があった。
「それで完成か?お疲れ。」
「ありがと。うーん……便箋……これでいっか。」
書き物机の引き出しを開け便箋を物色するが、どれを使えば良いのかが分からない。
季節なんかで変えたりするらしいが、いつもはイザベル任せだ。
あまり手紙を書かないのに非公式お茶会で貰いすぎて増えた便箋は、全てこの書き物机に入っている。色も柄も豊富だ。
逆に豊富過ぎて、何を使えば良いのか分からなくなっているのだが。
書き物机に向かい、淡いアイスブルーの便箋に葡萄色のインクで文字を書き連ねていく。
キルルとアベル宛てにそれぞれ手紙を書き終え、便箋と薬の現物を封筒に入れて封蝋を押す。
「家紋……だけじゃないな?」
「うん。うちの家紋の下に、アシェルって名前が入ってるんだ。家名義で手紙を出す時は家紋だけなんだけど、こういう個人依頼の場合は名前入りの封蝋を押すのが決まりなんだよね。」
メイディー公爵家の家紋には試験管とフラスコ、そこにカスミソウがあしらわれている。
カスミソウの花言葉は【清らかな心、無邪気、親切、幸福】。
医師家系のメイディー公爵家らしい家紋だと言える。
「そういうのもきっちり決まってるんだな。」
「この名前入りの家紋だけは個人依頼の場合に限りなんだけど。嫁いだり婿に行ったりで名前が変わっても、これだけは使って良いことになってるんだよね。ある意味、一生ものの個人財産かな。まぁ、普段使うことは無いし、悪用されないように必ずストレージに仕舞いこんでるけどね。」
メイディー直系が産まれた時に、一人一つずつ与えられる自分だけの財産だ。
印章として国に登録もしているので、正式な書類に押すことも、鑑別にかけることも出来る。
前世の記憶があるのなら、日本の実印に近いか同じと思ってもらえば良いだろう。
「メイディーの持つ知識や技術は素晴らしいからな。実家を離れたからと言って、それらが消えてなくなるわけではないし。そう考えると納得だ。」
「ふふ、誰かにそうやって評価してもらえるのは嬉しいものだね。僕もメイディーの名に恥じないくらい、しっかり知識も技術も磨かないとな。」
手紙は明日朝一番で出そう。と思ったのだが、実家では手紙を使用人に預けていた。
この世界には冒険者ギルドが各地へ派遣に出している郵便配達員はいるが、ポストはない。
ギルドの配達も基本的には遠距離用だ。
民家程度なら冒険者ギルドに預けても持って行ってもらえるかもしれないが、二つとも宛名は公爵家だ。
「……手紙ってどうやったら出せるんだろ。」
「そこは考えてなかったのか。預かっても良いなら、うちの使用人に持って行かせるぞ。メイディー公爵家とテイル公爵家のタウンハウスで良いんだな?」
「うん、お願いしても良い?僕の使用人はベルだけだから。頼んだら行ってくれるだろうけど、授業を休ませたくないし。」
実家への手紙なら、最悪外出届を出して手渡しに行けばいいが、それ以外の時にどうするか考えておかなくてはいけないかもしれない。
「別にこれくらい構わないさ。……これからも、必要なら頼ってくれていい。」
「うん、手紙を出す時はお願いしちゃうかも。在学中に手紙を書くことになるなんて思ってなかったから、全く考えてなかったや。」
「手紙以外にも頼ってくれて良いんだがな。手紙を預けてくる。」
アークエイドが背後から手紙を取り、ついでとばかりに耳元にチュッとキスを落としていく。
告白されてから、やたらと唇へではないキスを貰うようになった。
「ってことは、今日もお泊り?それなら僕は少し片付けがあるから、ここか実験室にいると思う。そのまま帰るなら、カギ閉めに行くけど。」
「また来るからそのままでいい。」
パタンと扉が閉まる音を聞いてからマナポーションを飲んで、『ストレージ』へ寝室には余分な機材や素材達をどんどん収納していく。
「んー、やっぱり量が多いと大変……。」
取り出して実験室に配置していくのは、魔力の残り具合をみながらになりそうだ。
「まぁ、喉が乾くだけだし、潜在消費しちゃってもいいんだけどね。アークに怒られそうな気がするんだよなぁ……。」
潜在消費よりも一歩手前の魔力枯渇状態の方が、怠くて頭痛がして辛いかもしれないくらいだ。
喉の渇きはちびちびと水分を摂っていればどうにかなるので、安全で水分の確保できる自室内なら潜在消費もありだと思う。
「ベルの掃除はやっぱりすごいなぁ。クリーンも使ったのかな。すっごく綺麗になってる。」
使用人達は基本的に魔法を使わずに家事をこなすが、あまりにも頑固な汚れや落ちにくいモノにはクリーンを使うらしい。
アシェルのように、部屋の掃除の為にクリーンをかけて回るのは魔力の無駄遣いだ。
一通り仕舞いこんだ所で、マナポーションをもう一本飲んでおく。
実験室に移動しようとしたタイミングでアークエイドが戻ってきた。
「あれを全部仕舞ったのか?魔力は大丈夫なのか??」
つかつかと歩み寄ってきたアークエイドに心配されるが、まだ大丈夫だ。
「大丈夫。マナポーションも飲んでるしね。」
それでも心配そうな表情のアークエイドを引き連れて実験室へ踏み入れる。
今回の依頼の為にかなりの物を移動させたので、実験室の中は少し寂しい風景になっている。
そこへ『ストレージ』からどんどん機材や素材を出していく。
アシェルの好みの配置に器具は並べたり仕舞い、素材達もそれぞれの保存に見合った環境の保管庫へ収納していく。
特によく使うようなメジャーな素材は、保管庫の位置も決まった場所がある。
「相変わらず凄い量と種類の素材だな。どれくらいあるんだ?」
「さぁ……実家の庭で採れるだけでも数十種類はあるはずだからね。同じものでも品種違いとかいれると、かなりの数になると思うよ。」
品種によって効果が変わるものから、香りや味だけが代わって成分的には変わりないものまで。
実家の庭で採取するだけでも様々な植物素材がある。
出現場所が一緒ならば魔物素材はそこまで個体差はないので、植物のような細かい仕分けをしなくて良いので楽だ。
ただ同じベアの胆嚢でも、魔の森産とエルマン大森林産では収納を分けている。大森林の方が魔素が濃いので効果が高いのだ。
「ここまでくるとコレクションに近いな……。なかなか個人で使い切れる量じゃないだろ。」
話しながらもアシェルはポイポイと素材を収納していく。
「コレクションか……近いものはあるかも。こういう効果の薬を作りたいなってなった時に、構成に欲しい素材が無くって代替品使うとかって、やっぱり嫌なんだよね。作れなくはないけど、やっぱり想定より効果が落ちちゃうし。あ、病院に発表したり渡したりするレシピには希少素材を使ってないからね。それなりに効果があって、素材も王都で入手しやすいもので作ってるから。」
突き詰めたものを作りたいアシェルとしては、市販薬レベルの調薬をするのはついでだ。
自分の趣味の物は、希少素材を使ってでも突き詰めたものを。
逆に一般的に外に出せるものは、それぞれ代替品や追加の素材を使いつつも、手に入りやすい素材でローコスト。さらに加工に特殊な技術の要らないものを使用することにしている。
この縛りを設けることでアシェルは楽しい気持ちで創薬出来るし、そのレシピを扱う医師も作りやすくコストを抑えられるという、お互い利のあるものになる。
「相変わらず、錬金への熱意は凄まじいな。」
「錬金は生き甲斐だからね。まぁ、今は好きなものを好きなだけだけど、社交界デビューしたら、個人依頼が増えることもあるらしいんだよね。お父様を通してにはなるだろうけど、ちょっと憂鬱。」
「なんでだ?新しい薬を作れるって喜びそうなのに。」
「楽しくもない、面白味もない依頼が混じるからだよ。世の中恨みや憎みを抱く人間は多いみたいだね。あと、お父様が弾いてくれると思うけど、それ薬じゃなくて魔法を開発してもらった方が良いんじゃないかな、って思うような依頼も混じるんだって。」
「恨みや憎み……毒薬か。」
「そう。ただ、極悪なものは世に出さないけどね。運が良ければ望んだ結果になるんじゃないかなレベルの物を作って、渡す感じかな。命を取るよりは、見た目に苦しんで見えるってやつ。しかもメイディーに依頼した人に害をなす薬には特定の成分を混ぜるから、極秘に誰か一人に頼んでいたとしても、ちゃんと足がつくようになってるんだよね。解毒でその成分を感じれば、誰かが依頼として受けてるってことになるから。それに社交界の噂話は怖いらしいしね。」
依頼を受けた本人が契約魔法等で縛られていたとしても、誰が相談に来ていたかや、契約魔法による制限を確認することで、誰が犯人か分かる。
そうなれば少し噂話をするだけで、あっという間に犯人が浮き上がってくる、らしい。
「あぁ……確かに聞いた事があるな。なるほど。確かに、社交界の噂話は怖いな。」
「でしょ。さ、今日の片づけは終わり。あとはお父様から返事が来てからどうするかだね。」
ありふれた素材は貰ってもいいかもしれないが、今回の依頼を受けた際に、割と希少な素材も色々受け取っていた。
これらは返却しなくてはいけないかもしれないので、ストレージの中に入れたままにしておく。
今回の為に用意した棚や机なども、実家に帰った時にでも返却予定だ。
「僕はシャワー浴びてから寝るけど、アークはどうする?」
「一緒に——。」
「は、ダメ。入るんだったら、応接間寄りのシャワー室を勝手に使って。あ、ドライヤー使いたかったら、化粧台のところにあるからね。」
アークエイドは少しだけ残念そうな表情をしたが、大人しくアシェルの指示に従った。
アシェルは手早くシャワーを済ませ、寝間着のネグリジェを着る。
今日はお手軽に『乾燥』させておいた。
寝室に入れば、既にアークエイドが寝間着であろうゆったりとしたシャツとズボン姿で寝台に座っている。
「あれ、髪もう乾かしたの?」
「アシェがこの前乾燥させてたのを見て練習中だ。まだ、魔力を結構持っていかれるがな。」
部屋の灯を落として寝台に横になれば、当たり前のようにアークエイドが掛け布団をかけてくれて隣に横たわる。そしてその腕に抱き締められる。
「便利だから、使い慣れるまで頑張って。あ、でも、使用人さんたちの前で使うと怒られるかもしれないから気を付けて。ベルにはすっごく怒られるから。」
しっかり艶を出しながら傷まないようにケアするには、ドライヤーの当てる角度から重要らしい。
アシェルがやってもそんなに細かいところまでは気が回らないので、どちらでも一緒な気がするが。
「くくっ、イザベルはアシェの手入れに余念がないみたいだからな。」
「ベルのお陰で肌も髪も綺麗だからね。さ、もう寝よ。横になったら眠たくなっちゃった。おやすみ、アーク。」
どうせ今日もおやすみのキスをしてくるのだろうと、先にアークの額にチュッとキスをする。
「あぁ。おやすみ、アシェ。」
アシェルも額にチュッとキスを貰い目を閉じた。
目を閉じれば数分と経たずアシェルのすぅすぅという寝息が響く。
「……相変わらず寝るのが早いな。」
スイッチをオフにしたかのように、こてんと寝入ってしまったアシェルの寝顔を眺めながら、アークエイドは唇に優しくキスをしてから目を閉じ、眠りについたのだった。
テキパキと事前に組み立てた手順通りに、一般的に錬金で使われる器具だけを使って創薬し、最後の味見をする。
「うん、イイ感じ。あとは清書して書き写し作業だね。お父様の方は別になんでもいいけど、キルル様には便箋……何か良いのあったかな。」
うーんと大きく伸びをして、出来上がった錠剤を小さなジップロックに分けて入れる。
いつの間に戻ってきたのか、部屋の中にはアークエイドの姿があった。
「それで完成か?お疲れ。」
「ありがと。うーん……便箋……これでいっか。」
書き物机の引き出しを開け便箋を物色するが、どれを使えば良いのかが分からない。
季節なんかで変えたりするらしいが、いつもはイザベル任せだ。
あまり手紙を書かないのに非公式お茶会で貰いすぎて増えた便箋は、全てこの書き物机に入っている。色も柄も豊富だ。
逆に豊富過ぎて、何を使えば良いのか分からなくなっているのだが。
書き物机に向かい、淡いアイスブルーの便箋に葡萄色のインクで文字を書き連ねていく。
キルルとアベル宛てにそれぞれ手紙を書き終え、便箋と薬の現物を封筒に入れて封蝋を押す。
「家紋……だけじゃないな?」
「うん。うちの家紋の下に、アシェルって名前が入ってるんだ。家名義で手紙を出す時は家紋だけなんだけど、こういう個人依頼の場合は名前入りの封蝋を押すのが決まりなんだよね。」
メイディー公爵家の家紋には試験管とフラスコ、そこにカスミソウがあしらわれている。
カスミソウの花言葉は【清らかな心、無邪気、親切、幸福】。
医師家系のメイディー公爵家らしい家紋だと言える。
「そういうのもきっちり決まってるんだな。」
「この名前入りの家紋だけは個人依頼の場合に限りなんだけど。嫁いだり婿に行ったりで名前が変わっても、これだけは使って良いことになってるんだよね。ある意味、一生ものの個人財産かな。まぁ、普段使うことは無いし、悪用されないように必ずストレージに仕舞いこんでるけどね。」
メイディー直系が産まれた時に、一人一つずつ与えられる自分だけの財産だ。
印章として国に登録もしているので、正式な書類に押すことも、鑑別にかけることも出来る。
前世の記憶があるのなら、日本の実印に近いか同じと思ってもらえば良いだろう。
「メイディーの持つ知識や技術は素晴らしいからな。実家を離れたからと言って、それらが消えてなくなるわけではないし。そう考えると納得だ。」
「ふふ、誰かにそうやって評価してもらえるのは嬉しいものだね。僕もメイディーの名に恥じないくらい、しっかり知識も技術も磨かないとな。」
手紙は明日朝一番で出そう。と思ったのだが、実家では手紙を使用人に預けていた。
この世界には冒険者ギルドが各地へ派遣に出している郵便配達員はいるが、ポストはない。
ギルドの配達も基本的には遠距離用だ。
民家程度なら冒険者ギルドに預けても持って行ってもらえるかもしれないが、二つとも宛名は公爵家だ。
「……手紙ってどうやったら出せるんだろ。」
「そこは考えてなかったのか。預かっても良いなら、うちの使用人に持って行かせるぞ。メイディー公爵家とテイル公爵家のタウンハウスで良いんだな?」
「うん、お願いしても良い?僕の使用人はベルだけだから。頼んだら行ってくれるだろうけど、授業を休ませたくないし。」
実家への手紙なら、最悪外出届を出して手渡しに行けばいいが、それ以外の時にどうするか考えておかなくてはいけないかもしれない。
「別にこれくらい構わないさ。……これからも、必要なら頼ってくれていい。」
「うん、手紙を出す時はお願いしちゃうかも。在学中に手紙を書くことになるなんて思ってなかったから、全く考えてなかったや。」
「手紙以外にも頼ってくれて良いんだがな。手紙を預けてくる。」
アークエイドが背後から手紙を取り、ついでとばかりに耳元にチュッとキスを落としていく。
告白されてから、やたらと唇へではないキスを貰うようになった。
「ってことは、今日もお泊り?それなら僕は少し片付けがあるから、ここか実験室にいると思う。そのまま帰るなら、カギ閉めに行くけど。」
「また来るからそのままでいい。」
パタンと扉が閉まる音を聞いてからマナポーションを飲んで、『ストレージ』へ寝室には余分な機材や素材達をどんどん収納していく。
「んー、やっぱり量が多いと大変……。」
取り出して実験室に配置していくのは、魔力の残り具合をみながらになりそうだ。
「まぁ、喉が乾くだけだし、潜在消費しちゃってもいいんだけどね。アークに怒られそうな気がするんだよなぁ……。」
潜在消費よりも一歩手前の魔力枯渇状態の方が、怠くて頭痛がして辛いかもしれないくらいだ。
喉の渇きはちびちびと水分を摂っていればどうにかなるので、安全で水分の確保できる自室内なら潜在消費もありだと思う。
「ベルの掃除はやっぱりすごいなぁ。クリーンも使ったのかな。すっごく綺麗になってる。」
使用人達は基本的に魔法を使わずに家事をこなすが、あまりにも頑固な汚れや落ちにくいモノにはクリーンを使うらしい。
アシェルのように、部屋の掃除の為にクリーンをかけて回るのは魔力の無駄遣いだ。
一通り仕舞いこんだ所で、マナポーションをもう一本飲んでおく。
実験室に移動しようとしたタイミングでアークエイドが戻ってきた。
「あれを全部仕舞ったのか?魔力は大丈夫なのか??」
つかつかと歩み寄ってきたアークエイドに心配されるが、まだ大丈夫だ。
「大丈夫。マナポーションも飲んでるしね。」
それでも心配そうな表情のアークエイドを引き連れて実験室へ踏み入れる。
今回の依頼の為にかなりの物を移動させたので、実験室の中は少し寂しい風景になっている。
そこへ『ストレージ』からどんどん機材や素材を出していく。
アシェルの好みの配置に器具は並べたり仕舞い、素材達もそれぞれの保存に見合った環境の保管庫へ収納していく。
特によく使うようなメジャーな素材は、保管庫の位置も決まった場所がある。
「相変わらず凄い量と種類の素材だな。どれくらいあるんだ?」
「さぁ……実家の庭で採れるだけでも数十種類はあるはずだからね。同じものでも品種違いとかいれると、かなりの数になると思うよ。」
品種によって効果が変わるものから、香りや味だけが代わって成分的には変わりないものまで。
実家の庭で採取するだけでも様々な植物素材がある。
出現場所が一緒ならば魔物素材はそこまで個体差はないので、植物のような細かい仕分けをしなくて良いので楽だ。
ただ同じベアの胆嚢でも、魔の森産とエルマン大森林産では収納を分けている。大森林の方が魔素が濃いので効果が高いのだ。
「ここまでくるとコレクションに近いな……。なかなか個人で使い切れる量じゃないだろ。」
話しながらもアシェルはポイポイと素材を収納していく。
「コレクションか……近いものはあるかも。こういう効果の薬を作りたいなってなった時に、構成に欲しい素材が無くって代替品使うとかって、やっぱり嫌なんだよね。作れなくはないけど、やっぱり想定より効果が落ちちゃうし。あ、病院に発表したり渡したりするレシピには希少素材を使ってないからね。それなりに効果があって、素材も王都で入手しやすいもので作ってるから。」
突き詰めたものを作りたいアシェルとしては、市販薬レベルの調薬をするのはついでだ。
自分の趣味の物は、希少素材を使ってでも突き詰めたものを。
逆に一般的に外に出せるものは、それぞれ代替品や追加の素材を使いつつも、手に入りやすい素材でローコスト。さらに加工に特殊な技術の要らないものを使用することにしている。
この縛りを設けることでアシェルは楽しい気持ちで創薬出来るし、そのレシピを扱う医師も作りやすくコストを抑えられるという、お互い利のあるものになる。
「相変わらず、錬金への熱意は凄まじいな。」
「錬金は生き甲斐だからね。まぁ、今は好きなものを好きなだけだけど、社交界デビューしたら、個人依頼が増えることもあるらしいんだよね。お父様を通してにはなるだろうけど、ちょっと憂鬱。」
「なんでだ?新しい薬を作れるって喜びそうなのに。」
「楽しくもない、面白味もない依頼が混じるからだよ。世の中恨みや憎みを抱く人間は多いみたいだね。あと、お父様が弾いてくれると思うけど、それ薬じゃなくて魔法を開発してもらった方が良いんじゃないかな、って思うような依頼も混じるんだって。」
「恨みや憎み……毒薬か。」
「そう。ただ、極悪なものは世に出さないけどね。運が良ければ望んだ結果になるんじゃないかなレベルの物を作って、渡す感じかな。命を取るよりは、見た目に苦しんで見えるってやつ。しかもメイディーに依頼した人に害をなす薬には特定の成分を混ぜるから、極秘に誰か一人に頼んでいたとしても、ちゃんと足がつくようになってるんだよね。解毒でその成分を感じれば、誰かが依頼として受けてるってことになるから。それに社交界の噂話は怖いらしいしね。」
依頼を受けた本人が契約魔法等で縛られていたとしても、誰が相談に来ていたかや、契約魔法による制限を確認することで、誰が犯人か分かる。
そうなれば少し噂話をするだけで、あっという間に犯人が浮き上がってくる、らしい。
「あぁ……確かに聞いた事があるな。なるほど。確かに、社交界の噂話は怖いな。」
「でしょ。さ、今日の片づけは終わり。あとはお父様から返事が来てからどうするかだね。」
ありふれた素材は貰ってもいいかもしれないが、今回の依頼を受けた際に、割と希少な素材も色々受け取っていた。
これらは返却しなくてはいけないかもしれないので、ストレージの中に入れたままにしておく。
今回の為に用意した棚や机なども、実家に帰った時にでも返却予定だ。
「僕はシャワー浴びてから寝るけど、アークはどうする?」
「一緒に——。」
「は、ダメ。入るんだったら、応接間寄りのシャワー室を勝手に使って。あ、ドライヤー使いたかったら、化粧台のところにあるからね。」
アークエイドは少しだけ残念そうな表情をしたが、大人しくアシェルの指示に従った。
アシェルは手早くシャワーを済ませ、寝間着のネグリジェを着る。
今日はお手軽に『乾燥』させておいた。
寝室に入れば、既にアークエイドが寝間着であろうゆったりとしたシャツとズボン姿で寝台に座っている。
「あれ、髪もう乾かしたの?」
「アシェがこの前乾燥させてたのを見て練習中だ。まだ、魔力を結構持っていかれるがな。」
部屋の灯を落として寝台に横になれば、当たり前のようにアークエイドが掛け布団をかけてくれて隣に横たわる。そしてその腕に抱き締められる。
「便利だから、使い慣れるまで頑張って。あ、でも、使用人さんたちの前で使うと怒られるかもしれないから気を付けて。ベルにはすっごく怒られるから。」
しっかり艶を出しながら傷まないようにケアするには、ドライヤーの当てる角度から重要らしい。
アシェルがやってもそんなに細かいところまでは気が回らないので、どちらでも一緒な気がするが。
「くくっ、イザベルはアシェの手入れに余念がないみたいだからな。」
「ベルのお陰で肌も髪も綺麗だからね。さ、もう寝よ。横になったら眠たくなっちゃった。おやすみ、アーク。」
どうせ今日もおやすみのキスをしてくるのだろうと、先にアークの額にチュッとキスをする。
「あぁ。おやすみ、アシェ。」
アシェルも額にチュッとキスを貰い目を閉じた。
目を閉じれば数分と経たずアシェルのすぅすぅという寝息が響く。
「……相変わらず寝るのが早いな。」
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