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第二章 王立学院中等部一年生
110 パーティーの後④
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Side:アシェル13歳 冬
「皆お待たせ。今日はどうする予定なの?何もなければ学院まで馬車を出させるけど。」
「わたくしとデュークは外出ついでに、この後お買い物に行くわ。申し訳ないんだけれど、高級商業エリアまで馬車を出してもらっても良いかしら?」
「構わないよ。そこの老齢の執事に声を掛けて貰ったら、いつでも馬車は出せるから。準備が出来たらウィルに声をかけて、御者に行き先を言ってね。」
「分かったわ、ありがとう。」
執事長のウィリアムは、アシェルの紹介を受けてにこりと微笑んでくれた。
長年メイディーに仕えてくれているウィリアムはそこそこの年齢だ。
リリアーデが「あのイケオジね。」と呟いているのが聞こえ、思わず笑いそうになってしまう。
「俺は親父と一緒に騎士団の詰所まで行くから、気にしないでくれ。」
「俺も今日は、とーさんとかーさんと一緒に過ごしてから寮に帰るから、気にしなくていーよ。」
「エトとマリクは家族と一緒に過ごすんだね、分かった。」
「俺は寮に帰るかな。」
「ちょっと、トワ。付いてきてって言ったでしょ!」
「アビー様とデートするんだろ?なんで俺が付いていかないといけないんだよ。」
「デートじゃないってば。アルフォード先輩も一緒だからね。アシェ、僕もトワもアビー様とアルフォード先輩と一緒に街に出るから、気にしないで。」
「俺は強制かよ……まぁ、ノアの頼みだし仕方ないか。」
ノアールとエトワールは意見の相違があったものの、ノアールに軍配が上がったようだ。
「分かった。アークはどうする?」
「アシェに合わせる。一緒に居たい。」
なんとなく返答は予測しつつも問えば、予想通りの答えが返ってくる。
「なんていうか……ほんとにアークってアシェに惚れてんだな……。五歳で一目惚れで今まで片思いって、逆にすげえよな。」
「凄いわよねぇ。長年片思いで、やっとアシェに告白したと思ったら振られて、それでもめげずに一緒の時間を作ろうとするなんて。恋愛に関してはいじらしい性格してるわよね。」
「リリィ、地味にアークにダメージを与えるな。言葉を選べ。」
「もうっ、なによ。間違ったこと言ってないわよ。」
エラートとリリアーデがしみじみと言い、容赦のないリリアーデの言葉にデュークが突っ込む。
「僕から見ると、アークのアタックは控えめだと思うよ。まぁ、もしかしたら二人だけの時はグイグイいってるのかもしれないけど……。それは僕達が知らなくて良いことだしね。」
「ノアが言うと現実味あるよな……。アビー様のアタックの熱量凄いもんな。手紙とか、毎月結構分厚いのが届いてたし。」
「トワ、そんなことばらさないでよ、恥ずかしいでしょ。」
慌ててノアールがエトワールの口を塞いでいるが、多分全員が予想していた内容だろう。
ノアールとアビゲイルが文通をしていたのは知っているし、学院に入ってからはかなり積極的にノアールへのアピールをしている。
「最近アシェとアークはよく一緒に居るみたいだよねー。時々匂いが混じってるから、長時間一緒に居たんだなって日は、なんとなくわかるよー。」
「匂いって混じるものなの?それって、マリクには誰が誰とずっと居たかとか筒抜けってことだよね。」
「うん、混じるよー。少しだけどねー。じゅーじんほど分かりやすい匂いじゃないから、俺はアシェ達だから分かるってだけだねー。だから学院に居る間はアシェの為にも、俺の匂い付けてるほうが良いと思うー。」
「そっか、じゃあ良いか。」
マリクだけでなく他の獣人族にまでバレるようだとどうかと思うが、あまり気にしなくても良さそうだ。
だが、別のところにアークエイドが反応する。
「待て、マリクの匂いを付けるってどういうことだ?」
「んー?アシェっていー匂いするからか、割と狙ってるじゅーじんがいたりするんだよねー。クラスのラビちゃんとかー。だからこーやって、牽制してるんだよー。俺の匂いがすれば、じゅーじんからはあまり手出しはされないと思うよー。俺の匂いがするアシェに手を出したら、俺に喧嘩売ることになるからねー。」
タタッと近寄ってきたマリクが、アシェルの胸元に頭をぐりぐりと押し付けてきた。
毎朝の恒例行事のようによしよしと青灰色の跳ねっ毛を撫でると、尻尾が嬉しそうにぶんぶん揺れる。
「マリクのそれって、犬がじゃれてるのと一緒だと思ってたわ。狼って言うか、大型犬にしか見えないもの。」
リリアーデの素直な感想にはアシェルも同意する。
毎朝ペットを愛でている気分で撫でているのだから。
「それはじゃれてるんじゃなくて、匂いを付けてたのか……。それでアシェの安全が守れるなら許容するしかないか。」
渋々といった具合にアークエイドが納得したようだ。
アシェル自身の身の安全のためにも、マリクの匂いが無くなるのは非常に困る。
「まぁ、皆の予定が分かったことだし解散しようか。僕の為に集まってくれて本当にありがとうね。」
アシェルの言葉を区切りにぞろそろと移動する。
アシェルもアークエイドを連れて自室へと戻ったのだった。
自室のソファで一息ついていると、サーニャがサンドイッチを運んできてくれたので、有り難く食べる。
アシェルがサンドイッチを食べ終わったタイミングで、アークエイドが口を開いた。
「で、どうするんだ?」
「アークは行きたいとことかしたいことある?」
「特にこれと言ってはないな。」
「うーん。僕はさっきの術式にとりかかるか、お昼寝したいな。どっちにしても寮に帰りたい。ベルはどうする?出たついでに買い物とか、好きなことしてもらっていいよ。本来、土日はお休みあげてるのに働かせちゃったからね。」
急に話を振られたイザベルはしばし思案する。
「……せっかくですので、外出している間に必要なものを買い揃えたいと思います。別行動でもよろしいでしょうか?」
「うん、大丈夫だよ。ただ、気を付けてね。出来たら護衛を一人くらい借りていってね。女の子の独り歩きは危ないから。」
「心得ております。」
「というわけで、僕らは寮に帰ろう。アークはそれで良い?」
「あぁ。」
アークエイドの了承を貰ったのでウィリアムに馬車を頼みに行こうとして、今回のレポートをアベルに見せていないことに気付く。
「アーク、ちょっと待ってて。お父様にレポート見せに行かなくちゃだった。あ、陛下達はまだ居るみたいだから、会っておく?なかなかプライベートで会えないでしょ。」
公務だなんだと、親子として過ごせる時間は貴重なはずだ。
特に学院に入学している今は。
「そうだな、一応会っておくか。昨日はほとんど話せていないしな。」
「じゃあ、お父様の部屋に一緒に行こう。」
アークエイドを連れて、アベルの部屋の前まで歩いていく。
朝は賑やかだったが、もうほとんどの人は帰ったようで静かだ。
アベルの部屋の扉をイザベルが叩き、アシェルとアークエイドが訪問した旨を伝えると中へ迎え入れられた。
「やぁ、アシェ。殿下を連れてどうしたんだい?」
「お父様にレポートを見せに来たんです。陛下達もいらっしゃるようでしたので、せっかくなら親子で話せるようにと思って、アークも連れてきました。お時間大丈夫ですか?」
アベルに促されてソファに座る。
相変わらずアークエイドはアシェルの隣にピッタリ座っている。
向かいにはグリモニアとアンジェラが座っていて、アシェルの隣にアベルが腰を降ろした。
「もう纏めあげたのかい?流石にレポートはもう少しかかると思っていたんだけどね。」
驚くアベルの傍らで、アシェルは『ストレージ』から取り出したレポートの束を差し出す。
「陛下達もいらっしゃいますし、お時間が無ければ後日郵送で返してもらっても大丈夫です。」
「と、アシェは言ってるけど、良いかな?」
アベルがグリモニアに伺いをたてる。
「お前の良いかなは、後日返却じゃなくて、今読んでも良いかなだろ。しかも、反対したところで読み始めるだろ。それなら聞くな。」
「よく分かってるじゃないか。少し時間を貰うよ、ゆっくりしててくれ。」
呆れたようなグリモニアの声に、クスクスと笑ったアベルはレポートへ目を落とし、時折ぶつぶつと呟いている。
「なんていうか……アシェの父親だなって思うな。」
「そりゃ、僕のお父様だもん。」
しみじみと呟かれたアークエイドの言葉に、アシェルだけが疑問符を浮かべる。
その意味をしっかりと理解しているグリモニアとアンジェラは苦笑した。
「アシェル、お疲れ様。昨日はゆっくりお話は出来なかったわね。身体はもう大丈夫なの?傷が残ったりしてないかしら?」
「はい。しっかり治療もしてますし、たっぷり寝ましたので。」
「傷は治ってるが、依頼の後たっぷり寝たとは言わない。」
出された紅茶に口をつけつつ、アークエイドが横槍をいれてくる。
「十分寝たでしょ。あの日は十時間くらい寝たし、その後は普通通りの時間に寝て起きてるんだから。」
「十時間続けて寝た訳じゃないだろ。それにどれだけ寝てなかったと思ってるんだ。」
「別に毎日寝なくっても大丈夫だって。人間それくらいじゃ死にはしないから。」
「そういう問題じゃない。もう少し身体を大事にしろって言ってるだろ。」
アシェルとアークエイドの言葉の応酬に、グリモニアとアンジェラは顔を見合わせる。
どこをどう聞いても、アシェルの睡眠時間のことや身体の傷のことまで、アークエイドが知っている。
「ねぇ、確認だけれど、貴方達付き合ってはいないのよね?アークが振られたって聞いてるのだけれど?」
「付き合ってませんよ。」
「なんで母上まで知ってるんだ。」
「ほぅ、振られらた割には仲が良さそうだな。なぁ、アシェル。アークと結婚したら、王宮の書庫や制限区域にも入り放題だぞ。それだけでもメリットがあると思うがな。」
楽しそうににやにやと笑っているグリモニアの言葉に心が揺らぐ。
「王宮の書庫……制限区域……禁書……。くぅ、すっごく魅力的すぎる……!でも、僕からはアークと同じ好きを返してあげられないので、お付き合いは出来ません。」
これが結婚ではなく他の条件だったら頷いていた可能性はあったが、さすがに天秤にかけるものが大きすぎる。
「それに食いつきかけるのか……。」
「くくっ、やっぱりアベルの子だな。こんなところまでそっくりか。シェリーと同じ手は使えないし、どうなるかサッパリ予想がつかないな。」
「お母様……?」
きょとんと首を傾げるアシェルの為に、アンジェラが説明してくれる。
「シェリーがアベルに惚れて、口説き落としたのよ。口説き落としたというよりは、脅したって言う方が正解かしら。元々身体が弱かったから、長くはないって言われてたのだけれど。アベルが卒業時点で結婚してくれないなら、即座に命を絶つって言ってたのよね。あとは、難治性の病気だけどアベルのする治療なら何でも受け入れるから、好きなだけ自分の身体で臨床実験してくれって。物凄くアベルは困ってたけど、結局シェリーと一緒になったのよね。懐かしいわ。」
アシェルは初めて聞く両親の馴れ初めだ。
兄達から聞いているイメージと少しかけ離れている気がするが。
「お兄様達からシェリーお母様の話を聞いて、身体の弱い儚げな女性だと思ってたんですが……。なんていうか、ピンとこないです。」
「ふふ、アシェルはシェリーを知らないものね。無理もないわ。見た目だけは目の色以外、アシェルそっくりなんだけれど、雰囲気は違うわね。確かに儚いというイメージは間違ってないと思うわ。」
「どんな病気だったかとかは、お父様もお兄様達も絶対に教えてくれないんですよね。シェリーお母様のことは知らないことだらけです。」
「いつまでも故人に思いを馳せるものでもないわ。大丈夫よ。シェリーが生きていた証はこうやって元気に育っているんだから。」
アンジェラが優しい笑みをアシェルに向ける。
生きていた証とは、恐らくアシェルやアレリオン、アルフォードのことを言っているのだろう。
「とりあえず、僕はアークに死ぬぞって脅されても、お付き合いと結婚は出来ないです。恋人ではなく主治医になって欲しいとか、戦闘要員で隣に立って欲しいというのならお受け出来るんですけど。」
「それは俺の望む形じゃない。」
「やっぱり表向き公爵家の三男で育てさせるんじゃなかったかしら。まさか、考え方までメイディーの男性と同じになるとは思わなかったわ。」
「メイディーの人間はこんな感じなんじゃないんですか?俺はそう聞いてますが。」
「それは男に限るな。そもそもあまり女性が生まれない家系でもあるんだが、女性は王家の護衛にはならない。錬金は身に着けるがあまり加護が出現することもないから、それほど魔法の練度が高いわけでもないしな。有力貴族との縁を望むわけでもないから、大抵は恋愛結婚で貴族なり庶民なりと落ち着いてるはずだ。まぁ、通例であって、アベルがどうするつもりだったは分からないが。」
「それは僕も初耳です。」
そもそも近場に血縁があまりいないので、家系についてもあまり詳しくはない。
一応家門についての勉強で家系図を見たことがあるのだが、誰がいつ何をしたかを覚えるよりも、大きな成果の中身について学んだ。
普通は名前と年号と業績の概要を覚えるものらしい。
数人兄弟がいる場合でも、当主にならないメイディーの者は独身のまま生涯を終えることも少なくはない。
全国各地を周りながら医師の仕事をし、素材や興味惹かれるものを追い求めるのだ。
「王宮にはアン兄様が務めてるし、アル兄様は従軍医師になりたいって言ってたし。三男な僕がいなくても家はどうにかなるので、叔父さんのように独身のまま自由に放浪して暮らすのも有りかな、なんて思ってたので。」
「あらあら……アークがアシェルを口説き落とすのは大変ね。ある日ふらっと旅に出ますって言われそうだわ。」
「母上、笑い事じゃない。アシェに放浪なんてさせないからな。」
「アークが決める事じゃないでしょ。絶対楽しいと思うんだけどなぁ……。魔の森より手応えのある楽しい魔物もいそうだし、まだ触ったことのない素材が手に入るかもしれないんだよ?冒険は男のロマンだよね。」
「アシェは男じゃないだろ。逃げないように閉じ込めたくても、大人しくしてくれるようなたまじゃないしな。」
「さらっと怖いこと言わないでよ。まぁ僕のバインドを解けないうちは、僕を閉じ込めるなんて無理な話だよね。物理で来られても、魔法を駆使して逃げ出してやるから。あ、それ脱出ゲームみたいでちょっと楽しそうかも。」
「はぁ……こっちは真剣に言ってるのに、アシェの中では遊びか……。」
がっくりと肩を落とすアークエイドに、両親からの生暖かい視線が注がれる。
「アベルもだけれど、難題であればある程楽しむタイプよ。兄弟の中で一番アベルに似てるんじゃないかしら。モニアも厄介だったけれど、アベルを落とすのはもっと大変そうだったものね。」
「私もアベルに似ていると思うぞ。いっそ既成事実でも作って、無理やり進めるのはどうだ?まぁ、その前に叩きのめされると思うがな。」
はははとグリモニアは笑っているが、アンジェラが太腿を抓っている。
「それでどうにかなるなら、簡単な話だったんだがな。」
「どちらにしても無理やりは駄目よ。簡単な話では終わってないみたいだしね。」
そういえば、アンジェラはキルルとアベルと一緒に、マリクの抑制剤について話し合っている。
ある程度の情報は知っていると思った方が良いだろう。
なんと返事をしたものかと悩んでいると、それまで一心不乱にレポートに目を通していたアベルが顔を上げた。
レポートを読み終えたようで、瞳がキラキラと輝いている。
「やはりアシェは凄いね。なんで微量にフォアレン草を入れたのかと思っていたけれど、人族としての欲求を刺激してるんだね?獣人族の本能寄りの性欲を刺激するには、ベリルリア草になるからね。どちらも比較実験で結果を出して、それから使用を検討しているのも素晴らしいね。パッションフラワーとライムブロッサムから抽出した成分は沈静だよね。語りたいことは多いけれど、とにかく素晴らしい出来だよ。よくやったね。」
「ありがとうございます。お父様に褒めていただけて嬉しいです。本当はヒューナイトでも手に入りやすいフォアユウ草を使いたかったんですが、成分が安定しにくいようだったんですよね。もしかしてフォアユウ草を品種改良したのは、この不安定さもあったのかななんて思ったくらいです。」
「それももしかしたらあるかもしれないね。劣化品を作るならそれでもいいんだろうけど。そういえば、ゆっくりお喋りは出来たかい?」
アシェルとアークエイドが頷く。
「ねぇ、アベル。もう少しアシェルの教育はどうにかならなかったのかしら?アークがアシェルに一目惚れしたって、伝えておいたわよね。」
「うん、聞いてたね。でも、最近ようやく伝えたんだろう?スタートに立ったばかりなんだから、まだまだ時間がかかるんじゃないかな。私としてはアシェの開発や発想を近くで見ていたいから、お嫁に出したくないんだけどね。アシェがするっていうなら反対しないから、安心していいよ。」
「そういうことを言ってるんじゃないわよ。そもそも結婚や恋愛に関する情操教育はしているのかしら?今のアシェルは結婚願望より、研究者として生きる方が現実的くらいに思ってそうなのだけれど。」
「うーん。恋愛小説は読んでいたように思うよ。閨教育はしていないけど、必要もなさそうだからね。」
「分かったわ、してないのね。小説はフィクションでしょう。それに、恋に夢見るって感じでもないもの。まぁいいわ。あとはアークが頑張るだけでしょうし。アベルはもう満足したかしら?」
「あぁ、待たせて悪かったね。城へ戻ろうか。ありがとう、アシェ。マリク殿の薬に関しては、もう心配要らないからね。」
アベルから戻ってきたレポートを『ストレージ』に仕舞いこむ。
「マリクのお薬はお願いします。時間を取ってもらって有難うございました。」
「気を付けて帰るんだよ。あぁ、それと。来年はデビュタントに出る心づもりだけしておいてね。頼まなくても殿下がエスコート役に名乗り出てくれると思うから。でもドレスや装飾品は昨日使ったものを出すから、贈られても突き返すからね。」
立ち上がって礼をし、部屋を出ようとする背中にそんな声がかかる。
「やっぱり決定事項なんですね。分かりました。」
「ありがとうございます。」
ぺこりともう一度礼をしてアベルの部屋を出る。
イザベルに馬車をまわしてもらうように言づけ、玄関ホールへと移動する。
すぐに用意された馬車に二人で乗り込んだ。
「なんていうか……陛下ってかなり気さくな方なんだね。昨日だってダンスを申し込まれると思ってなかったし。」
「大方、俺が一目惚れした相手を見たかったんじゃないか。あとは、多分八つ当たりだな。」
「八つ当たり?」
「母上もずっと踊りっぱなしだっただろ。父上以外と踊ってるのが嫌だったんだと思うぞ。俺だって嫌だったからな。」
「ダンスでも嫉妬するの?流石に心が狭くない??」
「アシェを他の奴の目に触れさせないように、閉じ込めてしまいたいくらい好きなんだ。実現は不可能だからしないが、出来るんだったらしてたかもな。」
「冗談じゃなくて本気で言ってるでしょ、それ。アークからの愛が重たいんだけど。」
「くくっ、王家の愛はしつこいし重たいんだ。絶対アシェを諦めないからな。」
前にアシェルが諦めたらどうかと言ったのを気にしてるのだろうか。
「はいはい。僕がなびくかどうかは置いといてね。」
「難しい問題だな。」
御者から声がかかり、学院についたことを告げられる。
ちゃっかりアシェルの自室までついてきたアークエイドと、その日はお昼寝をして過ごした。
「皆お待たせ。今日はどうする予定なの?何もなければ学院まで馬車を出させるけど。」
「わたくしとデュークは外出ついでに、この後お買い物に行くわ。申し訳ないんだけれど、高級商業エリアまで馬車を出してもらっても良いかしら?」
「構わないよ。そこの老齢の執事に声を掛けて貰ったら、いつでも馬車は出せるから。準備が出来たらウィルに声をかけて、御者に行き先を言ってね。」
「分かったわ、ありがとう。」
執事長のウィリアムは、アシェルの紹介を受けてにこりと微笑んでくれた。
長年メイディーに仕えてくれているウィリアムはそこそこの年齢だ。
リリアーデが「あのイケオジね。」と呟いているのが聞こえ、思わず笑いそうになってしまう。
「俺は親父と一緒に騎士団の詰所まで行くから、気にしないでくれ。」
「俺も今日は、とーさんとかーさんと一緒に過ごしてから寮に帰るから、気にしなくていーよ。」
「エトとマリクは家族と一緒に過ごすんだね、分かった。」
「俺は寮に帰るかな。」
「ちょっと、トワ。付いてきてって言ったでしょ!」
「アビー様とデートするんだろ?なんで俺が付いていかないといけないんだよ。」
「デートじゃないってば。アルフォード先輩も一緒だからね。アシェ、僕もトワもアビー様とアルフォード先輩と一緒に街に出るから、気にしないで。」
「俺は強制かよ……まぁ、ノアの頼みだし仕方ないか。」
ノアールとエトワールは意見の相違があったものの、ノアールに軍配が上がったようだ。
「分かった。アークはどうする?」
「アシェに合わせる。一緒に居たい。」
なんとなく返答は予測しつつも問えば、予想通りの答えが返ってくる。
「なんていうか……ほんとにアークってアシェに惚れてんだな……。五歳で一目惚れで今まで片思いって、逆にすげえよな。」
「凄いわよねぇ。長年片思いで、やっとアシェに告白したと思ったら振られて、それでもめげずに一緒の時間を作ろうとするなんて。恋愛に関してはいじらしい性格してるわよね。」
「リリィ、地味にアークにダメージを与えるな。言葉を選べ。」
「もうっ、なによ。間違ったこと言ってないわよ。」
エラートとリリアーデがしみじみと言い、容赦のないリリアーデの言葉にデュークが突っ込む。
「僕から見ると、アークのアタックは控えめだと思うよ。まぁ、もしかしたら二人だけの時はグイグイいってるのかもしれないけど……。それは僕達が知らなくて良いことだしね。」
「ノアが言うと現実味あるよな……。アビー様のアタックの熱量凄いもんな。手紙とか、毎月結構分厚いのが届いてたし。」
「トワ、そんなことばらさないでよ、恥ずかしいでしょ。」
慌ててノアールがエトワールの口を塞いでいるが、多分全員が予想していた内容だろう。
ノアールとアビゲイルが文通をしていたのは知っているし、学院に入ってからはかなり積極的にノアールへのアピールをしている。
「最近アシェとアークはよく一緒に居るみたいだよねー。時々匂いが混じってるから、長時間一緒に居たんだなって日は、なんとなくわかるよー。」
「匂いって混じるものなの?それって、マリクには誰が誰とずっと居たかとか筒抜けってことだよね。」
「うん、混じるよー。少しだけどねー。じゅーじんほど分かりやすい匂いじゃないから、俺はアシェ達だから分かるってだけだねー。だから学院に居る間はアシェの為にも、俺の匂い付けてるほうが良いと思うー。」
「そっか、じゃあ良いか。」
マリクだけでなく他の獣人族にまでバレるようだとどうかと思うが、あまり気にしなくても良さそうだ。
だが、別のところにアークエイドが反応する。
「待て、マリクの匂いを付けるってどういうことだ?」
「んー?アシェっていー匂いするからか、割と狙ってるじゅーじんがいたりするんだよねー。クラスのラビちゃんとかー。だからこーやって、牽制してるんだよー。俺の匂いがすれば、じゅーじんからはあまり手出しはされないと思うよー。俺の匂いがするアシェに手を出したら、俺に喧嘩売ることになるからねー。」
タタッと近寄ってきたマリクが、アシェルの胸元に頭をぐりぐりと押し付けてきた。
毎朝の恒例行事のようによしよしと青灰色の跳ねっ毛を撫でると、尻尾が嬉しそうにぶんぶん揺れる。
「マリクのそれって、犬がじゃれてるのと一緒だと思ってたわ。狼って言うか、大型犬にしか見えないもの。」
リリアーデの素直な感想にはアシェルも同意する。
毎朝ペットを愛でている気分で撫でているのだから。
「それはじゃれてるんじゃなくて、匂いを付けてたのか……。それでアシェの安全が守れるなら許容するしかないか。」
渋々といった具合にアークエイドが納得したようだ。
アシェル自身の身の安全のためにも、マリクの匂いが無くなるのは非常に困る。
「まぁ、皆の予定が分かったことだし解散しようか。僕の為に集まってくれて本当にありがとうね。」
アシェルの言葉を区切りにぞろそろと移動する。
アシェルもアークエイドを連れて自室へと戻ったのだった。
自室のソファで一息ついていると、サーニャがサンドイッチを運んできてくれたので、有り難く食べる。
アシェルがサンドイッチを食べ終わったタイミングで、アークエイドが口を開いた。
「で、どうするんだ?」
「アークは行きたいとことかしたいことある?」
「特にこれと言ってはないな。」
「うーん。僕はさっきの術式にとりかかるか、お昼寝したいな。どっちにしても寮に帰りたい。ベルはどうする?出たついでに買い物とか、好きなことしてもらっていいよ。本来、土日はお休みあげてるのに働かせちゃったからね。」
急に話を振られたイザベルはしばし思案する。
「……せっかくですので、外出している間に必要なものを買い揃えたいと思います。別行動でもよろしいでしょうか?」
「うん、大丈夫だよ。ただ、気を付けてね。出来たら護衛を一人くらい借りていってね。女の子の独り歩きは危ないから。」
「心得ております。」
「というわけで、僕らは寮に帰ろう。アークはそれで良い?」
「あぁ。」
アークエイドの了承を貰ったのでウィリアムに馬車を頼みに行こうとして、今回のレポートをアベルに見せていないことに気付く。
「アーク、ちょっと待ってて。お父様にレポート見せに行かなくちゃだった。あ、陛下達はまだ居るみたいだから、会っておく?なかなかプライベートで会えないでしょ。」
公務だなんだと、親子として過ごせる時間は貴重なはずだ。
特に学院に入学している今は。
「そうだな、一応会っておくか。昨日はほとんど話せていないしな。」
「じゃあ、お父様の部屋に一緒に行こう。」
アークエイドを連れて、アベルの部屋の前まで歩いていく。
朝は賑やかだったが、もうほとんどの人は帰ったようで静かだ。
アベルの部屋の扉をイザベルが叩き、アシェルとアークエイドが訪問した旨を伝えると中へ迎え入れられた。
「やぁ、アシェ。殿下を連れてどうしたんだい?」
「お父様にレポートを見せに来たんです。陛下達もいらっしゃるようでしたので、せっかくなら親子で話せるようにと思って、アークも連れてきました。お時間大丈夫ですか?」
アベルに促されてソファに座る。
相変わらずアークエイドはアシェルの隣にピッタリ座っている。
向かいにはグリモニアとアンジェラが座っていて、アシェルの隣にアベルが腰を降ろした。
「もう纏めあげたのかい?流石にレポートはもう少しかかると思っていたんだけどね。」
驚くアベルの傍らで、アシェルは『ストレージ』から取り出したレポートの束を差し出す。
「陛下達もいらっしゃいますし、お時間が無ければ後日郵送で返してもらっても大丈夫です。」
「と、アシェは言ってるけど、良いかな?」
アベルがグリモニアに伺いをたてる。
「お前の良いかなは、後日返却じゃなくて、今読んでも良いかなだろ。しかも、反対したところで読み始めるだろ。それなら聞くな。」
「よく分かってるじゃないか。少し時間を貰うよ、ゆっくりしててくれ。」
呆れたようなグリモニアの声に、クスクスと笑ったアベルはレポートへ目を落とし、時折ぶつぶつと呟いている。
「なんていうか……アシェの父親だなって思うな。」
「そりゃ、僕のお父様だもん。」
しみじみと呟かれたアークエイドの言葉に、アシェルだけが疑問符を浮かべる。
その意味をしっかりと理解しているグリモニアとアンジェラは苦笑した。
「アシェル、お疲れ様。昨日はゆっくりお話は出来なかったわね。身体はもう大丈夫なの?傷が残ったりしてないかしら?」
「はい。しっかり治療もしてますし、たっぷり寝ましたので。」
「傷は治ってるが、依頼の後たっぷり寝たとは言わない。」
出された紅茶に口をつけつつ、アークエイドが横槍をいれてくる。
「十分寝たでしょ。あの日は十時間くらい寝たし、その後は普通通りの時間に寝て起きてるんだから。」
「十時間続けて寝た訳じゃないだろ。それにどれだけ寝てなかったと思ってるんだ。」
「別に毎日寝なくっても大丈夫だって。人間それくらいじゃ死にはしないから。」
「そういう問題じゃない。もう少し身体を大事にしろって言ってるだろ。」
アシェルとアークエイドの言葉の応酬に、グリモニアとアンジェラは顔を見合わせる。
どこをどう聞いても、アシェルの睡眠時間のことや身体の傷のことまで、アークエイドが知っている。
「ねぇ、確認だけれど、貴方達付き合ってはいないのよね?アークが振られたって聞いてるのだけれど?」
「付き合ってませんよ。」
「なんで母上まで知ってるんだ。」
「ほぅ、振られらた割には仲が良さそうだな。なぁ、アシェル。アークと結婚したら、王宮の書庫や制限区域にも入り放題だぞ。それだけでもメリットがあると思うがな。」
楽しそうににやにやと笑っているグリモニアの言葉に心が揺らぐ。
「王宮の書庫……制限区域……禁書……。くぅ、すっごく魅力的すぎる……!でも、僕からはアークと同じ好きを返してあげられないので、お付き合いは出来ません。」
これが結婚ではなく他の条件だったら頷いていた可能性はあったが、さすがに天秤にかけるものが大きすぎる。
「それに食いつきかけるのか……。」
「くくっ、やっぱりアベルの子だな。こんなところまでそっくりか。シェリーと同じ手は使えないし、どうなるかサッパリ予想がつかないな。」
「お母様……?」
きょとんと首を傾げるアシェルの為に、アンジェラが説明してくれる。
「シェリーがアベルに惚れて、口説き落としたのよ。口説き落としたというよりは、脅したって言う方が正解かしら。元々身体が弱かったから、長くはないって言われてたのだけれど。アベルが卒業時点で結婚してくれないなら、即座に命を絶つって言ってたのよね。あとは、難治性の病気だけどアベルのする治療なら何でも受け入れるから、好きなだけ自分の身体で臨床実験してくれって。物凄くアベルは困ってたけど、結局シェリーと一緒になったのよね。懐かしいわ。」
アシェルは初めて聞く両親の馴れ初めだ。
兄達から聞いているイメージと少しかけ離れている気がするが。
「お兄様達からシェリーお母様の話を聞いて、身体の弱い儚げな女性だと思ってたんですが……。なんていうか、ピンとこないです。」
「ふふ、アシェルはシェリーを知らないものね。無理もないわ。見た目だけは目の色以外、アシェルそっくりなんだけれど、雰囲気は違うわね。確かに儚いというイメージは間違ってないと思うわ。」
「どんな病気だったかとかは、お父様もお兄様達も絶対に教えてくれないんですよね。シェリーお母様のことは知らないことだらけです。」
「いつまでも故人に思いを馳せるものでもないわ。大丈夫よ。シェリーが生きていた証はこうやって元気に育っているんだから。」
アンジェラが優しい笑みをアシェルに向ける。
生きていた証とは、恐らくアシェルやアレリオン、アルフォードのことを言っているのだろう。
「とりあえず、僕はアークに死ぬぞって脅されても、お付き合いと結婚は出来ないです。恋人ではなく主治医になって欲しいとか、戦闘要員で隣に立って欲しいというのならお受け出来るんですけど。」
「それは俺の望む形じゃない。」
「やっぱり表向き公爵家の三男で育てさせるんじゃなかったかしら。まさか、考え方までメイディーの男性と同じになるとは思わなかったわ。」
「メイディーの人間はこんな感じなんじゃないんですか?俺はそう聞いてますが。」
「それは男に限るな。そもそもあまり女性が生まれない家系でもあるんだが、女性は王家の護衛にはならない。錬金は身に着けるがあまり加護が出現することもないから、それほど魔法の練度が高いわけでもないしな。有力貴族との縁を望むわけでもないから、大抵は恋愛結婚で貴族なり庶民なりと落ち着いてるはずだ。まぁ、通例であって、アベルがどうするつもりだったは分からないが。」
「それは僕も初耳です。」
そもそも近場に血縁があまりいないので、家系についてもあまり詳しくはない。
一応家門についての勉強で家系図を見たことがあるのだが、誰がいつ何をしたかを覚えるよりも、大きな成果の中身について学んだ。
普通は名前と年号と業績の概要を覚えるものらしい。
数人兄弟がいる場合でも、当主にならないメイディーの者は独身のまま生涯を終えることも少なくはない。
全国各地を周りながら医師の仕事をし、素材や興味惹かれるものを追い求めるのだ。
「王宮にはアン兄様が務めてるし、アル兄様は従軍医師になりたいって言ってたし。三男な僕がいなくても家はどうにかなるので、叔父さんのように独身のまま自由に放浪して暮らすのも有りかな、なんて思ってたので。」
「あらあら……アークがアシェルを口説き落とすのは大変ね。ある日ふらっと旅に出ますって言われそうだわ。」
「母上、笑い事じゃない。アシェに放浪なんてさせないからな。」
「アークが決める事じゃないでしょ。絶対楽しいと思うんだけどなぁ……。魔の森より手応えのある楽しい魔物もいそうだし、まだ触ったことのない素材が手に入るかもしれないんだよ?冒険は男のロマンだよね。」
「アシェは男じゃないだろ。逃げないように閉じ込めたくても、大人しくしてくれるようなたまじゃないしな。」
「さらっと怖いこと言わないでよ。まぁ僕のバインドを解けないうちは、僕を閉じ込めるなんて無理な話だよね。物理で来られても、魔法を駆使して逃げ出してやるから。あ、それ脱出ゲームみたいでちょっと楽しそうかも。」
「はぁ……こっちは真剣に言ってるのに、アシェの中では遊びか……。」
がっくりと肩を落とすアークエイドに、両親からの生暖かい視線が注がれる。
「アベルもだけれど、難題であればある程楽しむタイプよ。兄弟の中で一番アベルに似てるんじゃないかしら。モニアも厄介だったけれど、アベルを落とすのはもっと大変そうだったものね。」
「私もアベルに似ていると思うぞ。いっそ既成事実でも作って、無理やり進めるのはどうだ?まぁ、その前に叩きのめされると思うがな。」
はははとグリモニアは笑っているが、アンジェラが太腿を抓っている。
「それでどうにかなるなら、簡単な話だったんだがな。」
「どちらにしても無理やりは駄目よ。簡単な話では終わってないみたいだしね。」
そういえば、アンジェラはキルルとアベルと一緒に、マリクの抑制剤について話し合っている。
ある程度の情報は知っていると思った方が良いだろう。
なんと返事をしたものかと悩んでいると、それまで一心不乱にレポートに目を通していたアベルが顔を上げた。
レポートを読み終えたようで、瞳がキラキラと輝いている。
「やはりアシェは凄いね。なんで微量にフォアレン草を入れたのかと思っていたけれど、人族としての欲求を刺激してるんだね?獣人族の本能寄りの性欲を刺激するには、ベリルリア草になるからね。どちらも比較実験で結果を出して、それから使用を検討しているのも素晴らしいね。パッションフラワーとライムブロッサムから抽出した成分は沈静だよね。語りたいことは多いけれど、とにかく素晴らしい出来だよ。よくやったね。」
「ありがとうございます。お父様に褒めていただけて嬉しいです。本当はヒューナイトでも手に入りやすいフォアユウ草を使いたかったんですが、成分が安定しにくいようだったんですよね。もしかしてフォアユウ草を品種改良したのは、この不安定さもあったのかななんて思ったくらいです。」
「それももしかしたらあるかもしれないね。劣化品を作るならそれでもいいんだろうけど。そういえば、ゆっくりお喋りは出来たかい?」
アシェルとアークエイドが頷く。
「ねぇ、アベル。もう少しアシェルの教育はどうにかならなかったのかしら?アークがアシェルに一目惚れしたって、伝えておいたわよね。」
「うん、聞いてたね。でも、最近ようやく伝えたんだろう?スタートに立ったばかりなんだから、まだまだ時間がかかるんじゃないかな。私としてはアシェの開発や発想を近くで見ていたいから、お嫁に出したくないんだけどね。アシェがするっていうなら反対しないから、安心していいよ。」
「そういうことを言ってるんじゃないわよ。そもそも結婚や恋愛に関する情操教育はしているのかしら?今のアシェルは結婚願望より、研究者として生きる方が現実的くらいに思ってそうなのだけれど。」
「うーん。恋愛小説は読んでいたように思うよ。閨教育はしていないけど、必要もなさそうだからね。」
「分かったわ、してないのね。小説はフィクションでしょう。それに、恋に夢見るって感じでもないもの。まぁいいわ。あとはアークが頑張るだけでしょうし。アベルはもう満足したかしら?」
「あぁ、待たせて悪かったね。城へ戻ろうか。ありがとう、アシェ。マリク殿の薬に関しては、もう心配要らないからね。」
アベルから戻ってきたレポートを『ストレージ』に仕舞いこむ。
「マリクのお薬はお願いします。時間を取ってもらって有難うございました。」
「気を付けて帰るんだよ。あぁ、それと。来年はデビュタントに出る心づもりだけしておいてね。頼まなくても殿下がエスコート役に名乗り出てくれると思うから。でもドレスや装飾品は昨日使ったものを出すから、贈られても突き返すからね。」
立ち上がって礼をし、部屋を出ようとする背中にそんな声がかかる。
「やっぱり決定事項なんですね。分かりました。」
「ありがとうございます。」
ぺこりともう一度礼をしてアベルの部屋を出る。
イザベルに馬車をまわしてもらうように言づけ、玄関ホールへと移動する。
すぐに用意された馬車に二人で乗り込んだ。
「なんていうか……陛下ってかなり気さくな方なんだね。昨日だってダンスを申し込まれると思ってなかったし。」
「大方、俺が一目惚れした相手を見たかったんじゃないか。あとは、多分八つ当たりだな。」
「八つ当たり?」
「母上もずっと踊りっぱなしだっただろ。父上以外と踊ってるのが嫌だったんだと思うぞ。俺だって嫌だったからな。」
「ダンスでも嫉妬するの?流石に心が狭くない??」
「アシェを他の奴の目に触れさせないように、閉じ込めてしまいたいくらい好きなんだ。実現は不可能だからしないが、出来るんだったらしてたかもな。」
「冗談じゃなくて本気で言ってるでしょ、それ。アークからの愛が重たいんだけど。」
「くくっ、王家の愛はしつこいし重たいんだ。絶対アシェを諦めないからな。」
前にアシェルが諦めたらどうかと言ったのを気にしてるのだろうか。
「はいはい。僕がなびくかどうかは置いといてね。」
「難しい問題だな。」
御者から声がかかり、学院についたことを告げられる。
ちゃっかりアシェルの自室までついてきたアークエイドと、その日はお昼寝をして過ごした。
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