氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第三章 王立学院中等部二年生

122 ランクアップ①

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Side:アシェル13歳 春



三日目の冒険も無事に終え、三の森の東側の野営ポイントで野営の準備をする。
フォレストイーグルのモイちゃんには、朝一で手紙を託している。

トーマの探査魔法サーチは人か魔物かの区別がつくようになったし、数を数えるのも、時折一つか二つ間違う程度だ。
時間の計算は上出来である。

ストレージは本来の【朱の渡り鳥】の荷物を全て収納させて出発し、探査魔法サーチを使って、野営時に荷物を取り出す。
それとは別に、その日の討伐した魔物の討伐証明部位と魔石を収納させたが、荷物を取り出す終盤で頭痛と倦怠感を訴えた程度だ。

昼と夜にマナポーションを消費すれば、不調もなく斥候役としての役割は十分果たせるだろう。

トーマの行う野営の準備を、アシェルは少し離れた大木に身を預けて眺める。

指導料代わりに今日は何もするなとのお達しだ。
そうじゃなかったら分割ででもお金を払うと言われてしまったら、引き下がるしかない。
別に金銭目的で指導を行ったわけではないのだから。

「トーマの指導は楽しそうだな。」

「うん、楽しいよ。教えたことを素直に吸収できるのって、才能だよね。サポーターとしての活動が長いからか、気も配れるし細かいところも気が付くし、小柄で小回りも効く。パーティーメンバーとのバランス的に、斥候役として育てるには丁度いい人材だし、それが出来るだけの魔力も持ってる。」

アシェルの元にやってきたアークエイドは、同じようにして隣に身体を預けて、一緒にトーマを眺める。

「凄い褒めようだな。あまりにも付きっきりで世話を焼いてるから、羨ましいくらいだ。」

「アークには、あんなに丁寧に嚙み砕いて教える必要ないでしょ。トーマとアーニャは魔力があるって言っても、魔法について専門で習ったわけじゃないんだから、時間もないし分かりやすく効率よく訓練しないと教えきれなくなっちゃう。夏に会った時に考えていたことが出来て、僕は満足だよ。」

「そういう意味じゃないんだがな。なんでそこまでトーマに目をかける?」

アークエイドの質問に少し頭を悩ませる。

「……眼が綺麗だから、かな。トーマの眼はしっかり周りを見ているけど、誰かに嫌な眼を向けてるのは見たことないんだよね。あのクズみたいなパーティーメンバーにさえ、嫌な色は向けてなかった。夏に再会した時も、僕がフォレストベアをやったあと。ガルド達はやっぱり僕に嫌な眼を向けてたけど、トーマだけは違ったから。いつでもキラキラした良い眼をしてるんだよね。そんな良い子を死なせたくないでしょ。まぁ、僕の自己満足だね。」

冒険者は実入りは良いが、常に死と隣合わせだ。
十分な実力があっても、一つの油断で命を失うことがある。

トーマもだが、一晩一緒に過ごしたガルド達も人柄が良い人達だ。
縁があった彼らのリスクを少しでも減らしてあげたかった。

「眼か……。嫌な眼を向けてきたガルド達と、よく仲良くなれたな。」

「まぁ、僕は血塗れだったしね。アーニャは恐れを抱きながらも、初めて会った時から魔法が大好きっていうのが伝わってくるくらいの熱意だったし、僕を野営に誘ってくれたんだ。他のメンバーも、すんなり受け入れてくれたしね。で、彼ら結構フレンドリーでしょ?割と楽しい時間を過ごせたし、それからは驚きこそすれ、畏怖を籠めた眼で見られることは無かったしさ。付き合いは短いけど、友人くらいには思っても良いのかなって思ってる。」

なんだかんだで、あの夏の野営は楽しかった。

それにあの時だけの付き合いで終わりではなく、冒険者ギルドで後日会った時も、アシェルから声を掛けたとはいえ、挨拶だけで終わりではなく当たり前のようにアシェルの元へ来て喋ってくれた。

いくら冒険中に知り合ったとしても、一度会った人間と街に戻っても親しくやり取りをするのは珍しい。特に気性の荒い冒険者は。
彼らの人柄がなせる業だろう。

「そうか。あいつらは友人だと思ってると思うぞ。確かに身分を明かした時は驚いていたが、そんなこと無かったかのように振舞ってくれてるしな。アシェが居心地が良いのは分かる気がする。」

「ふふ、アークが僕ら以外にそう言うのは珍しいね。ユウナにもしっかり弓の指導してくれてたし。元から筋は良いけど、あの一晩でかなり腕が上がったよね。エトとマリクも、ガルドとジンに稽古つけてくれたしね。」

「元は悪くないんだ。コツを掴めば上達するさ。俺達は、アシェがあいつらを大切にしてるのが分かったから、教えられることを教えただけだ。」

「ありがと。今回の冒険で、彼らの危ういと思ってたところが解決したよ。王都じゃCランクまでらしいけど、望めばもっと上を目指せるんじゃないかな。」

「別に礼を言われるためにやったんじゃない。まぁ、魔の森じゃ物足りなくなるかもな。ダンジョンに潜ることもあるらしいから、素材採取の依頼を出したらどうだ?トーマとアーニャは、採取の腕も上がったんだろ。」

冒険者には指名依頼というのが存在する。
従来の依頼は誰かが受けてくれればだが、指名依頼なら指名した冒険者が引き受けてくれれば、その冒険者に依頼を出すことが出来る。

アシェルのように素材の採取段階から拘るような人間は、信頼できる冒険者に指名依頼を出して素材を入手するのが一般的だ。

「それも良いかもね。マッピングはトーマがしてるらしいし、夏休みには一緒にダンジョンに潜らせてもらっても良いかもね。彼らと一緒なら、アークも反対しないでしょ?」

「そうだな。エトとマリクも誘って、行けそうならダンジョンもありだな。アシェ的に、魔の森の素材のストックは満足いったんだろ?」

「うん。向こう一年くらいは来なくても良いくらい、しっかり採取させてもらったからね。あ、でも、明日はちょっと別行動したいかも。」

「……なんでだ?」

「緑系のハチの毒をもう少し回収しておきたいんだよね。今回蜘蛛毒が豊富に手に入ったから、色々作るのにハチ毒も欲しいんだ。広域に探査魔法サーチ飛ばして、ピンポイントで討伐に行こうかなって。ついでに実を付けたトレントが居ればラッキーだよね。【朱の渡り鳥】の索敵は、トーマが居れば十分だしね。」

「はぁ……また強行軍をするつもりか。行くなら俺も付いていくからな。」

大きな溜め息を吐いたアークエイドにそう言われるが、アシェルとしてはあまり連れて歩きたくない。

至る所にアシェルの求める素材がある三の森は、不用意に植物に触れるのも危ない。
アシェルの体質なら問題なくても、麻痺や出血毒を持つ植物が多い三の森は、普通に歩くだけでも注意が必要だ。

「嫌そうな表情をしても無駄だぞ。俺一人で不安なら、マリクも連れていく。二人いれば、どっちかがアシェの心配する状態になってもどうにかなるだろ。」

アークエイドが譲るつもりはないらしい。
今度はアシェルが溜め息を吐く番だったようだ。

「分かった。マリクは本人に意思確認してからにしなよ。……ご飯が出来たみたいだね、行こうか。」

「あぁ。」

二人揃って歩き始め、食事の時間を告げるトーマの元へ集まった。



皆で手を合わせて「いただきます。」と言い、夕食を摂り始める。

「なぁ、アシェル達は結局パーティー名どうするんだ?明日には決めとかないとだろ。」

不意にガルドに言われた言葉に、王都組は頭を抱える。

「忘れてた……。僕の二つ名で登録は、絶対嫌だからね。何か考えないと。」

「っても、どうするよ?今まで考えたことないしな。」

「だよねー。今まで無くても困らなかったからねー。」

「今後も【朱の渡り鳥】と一緒に冒険する可能性があるなら、決める必要があるよな。」

そうは言っても、パーティー名なんていう今後も付きまといそうなものは、簡単に決めれるものでもすぐに案が出てくるものでもない。

共通点の一つでもあればそれをもじれば良いのだが、共通点らしい共通点は貴族であることだ。
そんなものをパーティー名に付けたくはない。

これがアシェルの兄妹とのパーティーなら、家の色ともいえるアメジストにちなんだものか、紫をイメージさせるものにすればいいのだが。

「何か案ある?僕はさっぱり思いつかない。」

「俺も。」

「俺もー。」

「残念ながら。」

「難しく考えなくても良いんだぜ。呼びやすくて識別が出来りゃいいんだから。」

「補足までにですが、Sランク冒険者の【月夜の白銀】、キルル様が所属するパーティー名は【雪原の銀狼】です。リーダーがキルル様だったので、二つ名と出身国から名付けられたと言われています。」

ガルドの言葉に続いてトーマが例を出してくれる。

「そうなると、僕の二つ名をもじるとかになるでしょ。物騒過ぎない?」

「【血濡れの殺人人形ちぬれのキリングドール】ですもんね。」

極力口にしないようにしているのに、さらっとユウナが二つ名を口にする。

「殺伐としてるよな。アシェをイメージにするなら、錬金とかどうだ?アシェといえばってかんじじゃね?」

「だが、冒険者で錬金やアルケミストと名乗るのは、おかしくないか?」

「あー、そっか。それは駄目だな。」

エラートが案を出し、アークエイドが却下する。

「出身地は王都で良いのかなー?領地はみんな違うけど、ずっと王都に住んでるもんねー。」

「そうだね。となると、中央とかナイトレイから連想される単語を使えば、それっぽくなるかな。候補に入れておこうか。」

ナイトレイは夜と光から名付けられている。
これは王家の加護を与えた神が、夜と安らぎを司る神だからだと言われている。
ちなみに王家と対を成すのがデイライト公爵家で、太陽と活力の女神だ。

それぞれ加護のある家には、信仰の対象になっている神々が関わっているらしい。

「夜の真ん中……真夜中、深夜、宵……宵闇……。アルケミストか……ミストは霧や靄を連想するよね……。文字列だけ音を似せてみる……?」

アシェルが一人ぶつぶつと思考モードに入る。
それを見た三人は、この難題をクリア出来そうなことにほっと胸を撫で下ろした。

「あー、これは、俺らが考えなくても決まりそーだね。」

「だな。」

「アシェなら良い案が出るだろ。」

しばらくぶつぶつと呟きながら考えをまとめたアシェルが、ようやく戻ってくる。

「うん、これならいけるかな。パーティー名の提案だけど。【宵闇のアルカナ】はどうかな?この国の中央に位置するナイトレイ王都出身から、宵闇。アルカナはアルケミストと近い音を探してだけど、神秘とか秘密とかっていう意味があるんだ。僕とアークは姿を変えて秘密にしてるし、高位貴族には神の加護っていう神秘が身近にあるから、丁度いいかなって思うんだけど……どう?」

まとめあげた考えを告げるアシェルに、否を唱える者はいない。

「意味的にもしっかり俺らっぽいし、いいんじゃねぇか?加護持ちじゃねぇのは俺だけだしな。」

「きれーな名前で良いと思うよー。」

「俺もアシェの案に賛成だ。」

「良かった。じゃあ、この【宵闇のアルカナ】でパーティー名登録しようか。もし既に使われてたら、また考えないといけないだろうけどね。」

「良いパーティー名ですね。その名前での登録は聞いたことが無いので、大丈夫だと思いますよ。少なくとも有名なパーティーにはない名前です。」

トーマが太鼓判を押してくれる。

こうして急遽必要になった王都組のパーティー名は、【宵闇のアルカナ】に仮決定された。


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