123 / 313
第三章 王立学院中等部二年生
122 ランクアップ①
しおりを挟む
Side:アシェル13歳 春
三日目の冒険も無事に終え、三の森の東側の野営ポイントで野営の準備をする。
フォレストイーグルのモイちゃんには、朝一で手紙を託している。
トーマの探査魔法は人か魔物かの区別がつくようになったし、数を数えるのも、時折一つか二つ間違う程度だ。
時間の計算は上出来である。
ストレージは本来の【朱の渡り鳥】の荷物を全て収納させて出発し、探査魔法を使って、野営時に荷物を取り出す。
それとは別に、その日の討伐した魔物の討伐証明部位と魔石を収納させたが、荷物を取り出す終盤で頭痛と倦怠感を訴えた程度だ。
昼と夜にマナポーションを消費すれば、不調もなく斥候役としての役割は十分果たせるだろう。
トーマの行う野営の準備を、アシェルは少し離れた大木に身を預けて眺める。
指導料代わりに今日は何もするなとのお達しだ。
そうじゃなかったら分割ででもお金を払うと言われてしまったら、引き下がるしかない。
別に金銭目的で指導を行ったわけではないのだから。
「トーマの指導は楽しそうだな。」
「うん、楽しいよ。教えたことを素直に吸収できるのって、才能だよね。サポーターとしての活動が長いからか、気も配れるし細かいところも気が付くし、小柄で小回りも効く。パーティーメンバーとのバランス的に、斥候役として育てるには丁度いい人材だし、それが出来るだけの魔力も持ってる。」
アシェルの元にやってきたアークエイドは、同じようにして隣に身体を預けて、一緒にトーマを眺める。
「凄い褒めようだな。あまりにも付きっきりで世話を焼いてるから、羨ましいくらいだ。」
「アークには、あんなに丁寧に嚙み砕いて教える必要ないでしょ。トーマとアーニャは魔力があるって言っても、魔法について専門で習ったわけじゃないんだから、時間もないし分かりやすく効率よく訓練しないと教えきれなくなっちゃう。夏に会った時に考えていたことが出来て、僕は満足だよ。」
「そういう意味じゃないんだがな。なんでそこまでトーマに目をかける?」
アークエイドの質問に少し頭を悩ませる。
「……眼が綺麗だから、かな。トーマの眼はしっかり周りを見ているけど、誰かに嫌な眼を向けてるのは見たことないんだよね。あのクズみたいなパーティーメンバーにさえ、嫌な色は向けてなかった。夏に再会した時も、僕がフォレストベアをやったあと。ガルド達はやっぱり僕に嫌な眼を向けてたけど、トーマだけは違ったから。いつでもキラキラした良い眼をしてるんだよね。そんな良い子を死なせたくないでしょ。まぁ、僕の自己満足だね。」
冒険者は実入りは良いが、常に死と隣合わせだ。
十分な実力があっても、一つの油断で命を失うことがある。
トーマもだが、一晩一緒に過ごしたガルド達も人柄が良い人達だ。
縁があった彼らのリスクを少しでも減らしてあげたかった。
「眼か……。嫌な眼を向けてきたガルド達と、よく仲良くなれたな。」
「まぁ、僕は血塗れだったしね。アーニャは恐れを抱きながらも、初めて会った時から魔法が大好きっていうのが伝わってくるくらいの熱意だったし、僕を野営に誘ってくれたんだ。他のメンバーも、すんなり受け入れてくれたしね。で、彼ら結構フレンドリーでしょ?割と楽しい時間を過ごせたし、それからは驚きこそすれ、畏怖を籠めた眼で見られることは無かったしさ。付き合いは短いけど、友人くらいには思っても良いのかなって思ってる。」
なんだかんだで、あの夏の野営は楽しかった。
それにあの時だけの付き合いで終わりではなく、冒険者ギルドで後日会った時も、アシェルから声を掛けたとはいえ、挨拶だけで終わりではなく当たり前のようにアシェルの元へ来て喋ってくれた。
いくら冒険中に知り合ったとしても、一度会った人間と街に戻っても親しくやり取りをするのは珍しい。特に気性の荒い冒険者は。
彼らの人柄がなせる業だろう。
「そうか。あいつらは友人だと思ってると思うぞ。確かに身分を明かした時は驚いていたが、そんなこと無かったかのように振舞ってくれてるしな。アシェが居心地が良いのは分かる気がする。」
「ふふ、アークが僕ら以外にそう言うのは珍しいね。ユウナにもしっかり弓の指導してくれてたし。元から筋は良いけど、あの一晩でかなり腕が上がったよね。エトとマリクも、ガルドとジンに稽古つけてくれたしね。」
「元は悪くないんだ。コツを掴めば上達するさ。俺達は、アシェがあいつらを大切にしてるのが分かったから、教えられることを教えただけだ。」
「ありがと。今回の冒険で、彼らの危ういと思ってたところが解決したよ。王都じゃCランクまでらしいけど、望めばもっと上を目指せるんじゃないかな。」
「別に礼を言われるためにやったんじゃない。まぁ、魔の森じゃ物足りなくなるかもな。ダンジョンに潜ることもあるらしいから、素材採取の依頼を出したらどうだ?トーマとアーニャは、採取の腕も上がったんだろ。」
冒険者には指名依頼というのが存在する。
従来の依頼は誰かが受けてくれればだが、指名依頼なら指名した冒険者が引き受けてくれれば、その冒険者に依頼を出すことが出来る。
アシェルのように素材の採取段階から拘るような人間は、信頼できる冒険者に指名依頼を出して素材を入手するのが一般的だ。
「それも良いかもね。マッピングはトーマがしてるらしいし、夏休みには一緒にダンジョンに潜らせてもらっても良いかもね。彼らと一緒なら、アークも反対しないでしょ?」
「そうだな。エトとマリクも誘って、行けそうならダンジョンもありだな。アシェ的に、魔の森の素材のストックは満足いったんだろ?」
「うん。向こう一年くらいは来なくても良いくらい、しっかり採取させてもらったからね。あ、でも、明日はちょっと別行動したいかも。」
「……なんでだ?」
「緑系のハチの毒をもう少し回収しておきたいんだよね。今回蜘蛛毒が豊富に手に入ったから、色々作るのにハチ毒も欲しいんだ。広域に探査魔法飛ばして、ピンポイントで討伐に行こうかなって。ついでに実を付けたトレントが居ればラッキーだよね。【朱の渡り鳥】の索敵は、トーマが居れば十分だしね。」
「はぁ……また強行軍をするつもりか。行くなら俺も付いていくからな。」
大きな溜め息を吐いたアークエイドにそう言われるが、アシェルとしてはあまり連れて歩きたくない。
至る所にアシェルの求める素材がある三の森は、不用意に植物に触れるのも危ない。
アシェルの体質なら問題なくても、麻痺や出血毒を持つ植物が多い三の森は、普通に歩くだけでも注意が必要だ。
「嫌そうな表情をしても無駄だぞ。俺一人で不安なら、マリクも連れていく。二人いれば、どっちかがアシェの心配する状態になってもどうにかなるだろ。」
アークエイドが譲るつもりはないらしい。
今度はアシェルが溜め息を吐く番だったようだ。
「分かった。マリクは本人に意思確認してからにしなよ。……ご飯が出来たみたいだね、行こうか。」
「あぁ。」
二人揃って歩き始め、食事の時間を告げるトーマの元へ集まった。
皆で手を合わせて「いただきます。」と言い、夕食を摂り始める。
「なぁ、アシェル達は結局パーティー名どうするんだ?明日には決めとかないとだろ。」
不意にガルドに言われた言葉に、王都組は頭を抱える。
「忘れてた……。僕の二つ名で登録は、絶対嫌だからね。何か考えないと。」
「っても、どうするよ?今まで考えたことないしな。」
「だよねー。今まで無くても困らなかったからねー。」
「今後も【朱の渡り鳥】と一緒に冒険する可能性があるなら、決める必要があるよな。」
そうは言っても、パーティー名なんていう今後も付きまといそうなものは、簡単に決めれるものでもすぐに案が出てくるものでもない。
共通点の一つでもあればそれをもじれば良いのだが、共通点らしい共通点は貴族であることだ。
そんなものをパーティー名に付けたくはない。
これがアシェルの兄妹とのパーティーなら、家の色ともいえるアメジストにちなんだものか、紫をイメージさせるものにすればいいのだが。
「何か案ある?僕はさっぱり思いつかない。」
「俺も。」
「俺もー。」
「残念ながら。」
「難しく考えなくても良いんだぜ。呼びやすくて識別が出来りゃいいんだから。」
「補足までにですが、Sランク冒険者の【月夜の白銀】、キルル様が所属するパーティー名は【雪原の銀狼】です。リーダーがキルル様だったので、二つ名と出身国から名付けられたと言われています。」
ガルドの言葉に続いてトーマが例を出してくれる。
「そうなると、僕の二つ名をもじるとかになるでしょ。物騒過ぎない?」
「【血濡れの殺人人形】ですもんね。」
極力口にしないようにしているのに、さらっとユウナが二つ名を口にする。
「殺伐としてるよな。アシェをイメージにするなら、錬金とかどうだ?アシェといえばってかんじじゃね?」
「だが、冒険者で錬金やアルケミストと名乗るのは、おかしくないか?」
「あー、そっか。それは駄目だな。」
エラートが案を出し、アークエイドが却下する。
「出身地は王都で良いのかなー?領地はみんな違うけど、ずっと王都に住んでるもんねー。」
「そうだね。となると、中央とかナイトレイから連想される単語を使えば、それっぽくなるかな。候補に入れておこうか。」
ナイトレイは夜と光から名付けられている。
これは王家の加護を与えた神が、夜と安らぎを司る神だからだと言われている。
ちなみに王家と対を成すのがデイライト公爵家で、太陽と活力の女神だ。
それぞれ加護のある家には、信仰の対象になっている神々が関わっているらしい。
「夜の真ん中……真夜中、深夜、宵……宵闇……。アルケミストか……ミストは霧や靄を連想するよね……。文字列だけ音を似せてみる……?」
アシェルが一人ぶつぶつと思考モードに入る。
それを見た三人は、この難題をクリア出来そうなことにほっと胸を撫で下ろした。
「あー、これは、俺らが考えなくても決まりそーだね。」
「だな。」
「アシェなら良い案が出るだろ。」
しばらくぶつぶつと呟きながら考えをまとめたアシェルが、ようやく戻ってくる。
「うん、これならいけるかな。パーティー名の提案だけど。【宵闇のアルカナ】はどうかな?この国の中央に位置するナイトレイ王都出身から、宵闇。アルカナはアルケミストと近い音を探してだけど、神秘とか秘密とかっていう意味があるんだ。僕とアークは姿を変えて秘密にしてるし、高位貴族には神の加護っていう神秘が身近にあるから、丁度いいかなって思うんだけど……どう?」
まとめあげた考えを告げるアシェルに、否を唱える者はいない。
「意味的にもしっかり俺らっぽいし、いいんじゃねぇか?加護持ちじゃねぇのは俺だけだしな。」
「きれーな名前で良いと思うよー。」
「俺もアシェの案に賛成だ。」
「良かった。じゃあ、この【宵闇のアルカナ】でパーティー名登録しようか。もし既に使われてたら、また考えないといけないだろうけどね。」
「良いパーティー名ですね。その名前での登録は聞いたことが無いので、大丈夫だと思いますよ。少なくとも有名なパーティーにはない名前です。」
トーマが太鼓判を押してくれる。
こうして急遽必要になった王都組のパーティー名は、【宵闇のアルカナ】に仮決定された。
三日目の冒険も無事に終え、三の森の東側の野営ポイントで野営の準備をする。
フォレストイーグルのモイちゃんには、朝一で手紙を託している。
トーマの探査魔法は人か魔物かの区別がつくようになったし、数を数えるのも、時折一つか二つ間違う程度だ。
時間の計算は上出来である。
ストレージは本来の【朱の渡り鳥】の荷物を全て収納させて出発し、探査魔法を使って、野営時に荷物を取り出す。
それとは別に、その日の討伐した魔物の討伐証明部位と魔石を収納させたが、荷物を取り出す終盤で頭痛と倦怠感を訴えた程度だ。
昼と夜にマナポーションを消費すれば、不調もなく斥候役としての役割は十分果たせるだろう。
トーマの行う野営の準備を、アシェルは少し離れた大木に身を預けて眺める。
指導料代わりに今日は何もするなとのお達しだ。
そうじゃなかったら分割ででもお金を払うと言われてしまったら、引き下がるしかない。
別に金銭目的で指導を行ったわけではないのだから。
「トーマの指導は楽しそうだな。」
「うん、楽しいよ。教えたことを素直に吸収できるのって、才能だよね。サポーターとしての活動が長いからか、気も配れるし細かいところも気が付くし、小柄で小回りも効く。パーティーメンバーとのバランス的に、斥候役として育てるには丁度いい人材だし、それが出来るだけの魔力も持ってる。」
アシェルの元にやってきたアークエイドは、同じようにして隣に身体を預けて、一緒にトーマを眺める。
「凄い褒めようだな。あまりにも付きっきりで世話を焼いてるから、羨ましいくらいだ。」
「アークには、あんなに丁寧に嚙み砕いて教える必要ないでしょ。トーマとアーニャは魔力があるって言っても、魔法について専門で習ったわけじゃないんだから、時間もないし分かりやすく効率よく訓練しないと教えきれなくなっちゃう。夏に会った時に考えていたことが出来て、僕は満足だよ。」
「そういう意味じゃないんだがな。なんでそこまでトーマに目をかける?」
アークエイドの質問に少し頭を悩ませる。
「……眼が綺麗だから、かな。トーマの眼はしっかり周りを見ているけど、誰かに嫌な眼を向けてるのは見たことないんだよね。あのクズみたいなパーティーメンバーにさえ、嫌な色は向けてなかった。夏に再会した時も、僕がフォレストベアをやったあと。ガルド達はやっぱり僕に嫌な眼を向けてたけど、トーマだけは違ったから。いつでもキラキラした良い眼をしてるんだよね。そんな良い子を死なせたくないでしょ。まぁ、僕の自己満足だね。」
冒険者は実入りは良いが、常に死と隣合わせだ。
十分な実力があっても、一つの油断で命を失うことがある。
トーマもだが、一晩一緒に過ごしたガルド達も人柄が良い人達だ。
縁があった彼らのリスクを少しでも減らしてあげたかった。
「眼か……。嫌な眼を向けてきたガルド達と、よく仲良くなれたな。」
「まぁ、僕は血塗れだったしね。アーニャは恐れを抱きながらも、初めて会った時から魔法が大好きっていうのが伝わってくるくらいの熱意だったし、僕を野営に誘ってくれたんだ。他のメンバーも、すんなり受け入れてくれたしね。で、彼ら結構フレンドリーでしょ?割と楽しい時間を過ごせたし、それからは驚きこそすれ、畏怖を籠めた眼で見られることは無かったしさ。付き合いは短いけど、友人くらいには思っても良いのかなって思ってる。」
なんだかんだで、あの夏の野営は楽しかった。
それにあの時だけの付き合いで終わりではなく、冒険者ギルドで後日会った時も、アシェルから声を掛けたとはいえ、挨拶だけで終わりではなく当たり前のようにアシェルの元へ来て喋ってくれた。
いくら冒険中に知り合ったとしても、一度会った人間と街に戻っても親しくやり取りをするのは珍しい。特に気性の荒い冒険者は。
彼らの人柄がなせる業だろう。
「そうか。あいつらは友人だと思ってると思うぞ。確かに身分を明かした時は驚いていたが、そんなこと無かったかのように振舞ってくれてるしな。アシェが居心地が良いのは分かる気がする。」
「ふふ、アークが僕ら以外にそう言うのは珍しいね。ユウナにもしっかり弓の指導してくれてたし。元から筋は良いけど、あの一晩でかなり腕が上がったよね。エトとマリクも、ガルドとジンに稽古つけてくれたしね。」
「元は悪くないんだ。コツを掴めば上達するさ。俺達は、アシェがあいつらを大切にしてるのが分かったから、教えられることを教えただけだ。」
「ありがと。今回の冒険で、彼らの危ういと思ってたところが解決したよ。王都じゃCランクまでらしいけど、望めばもっと上を目指せるんじゃないかな。」
「別に礼を言われるためにやったんじゃない。まぁ、魔の森じゃ物足りなくなるかもな。ダンジョンに潜ることもあるらしいから、素材採取の依頼を出したらどうだ?トーマとアーニャは、採取の腕も上がったんだろ。」
冒険者には指名依頼というのが存在する。
従来の依頼は誰かが受けてくれればだが、指名依頼なら指名した冒険者が引き受けてくれれば、その冒険者に依頼を出すことが出来る。
アシェルのように素材の採取段階から拘るような人間は、信頼できる冒険者に指名依頼を出して素材を入手するのが一般的だ。
「それも良いかもね。マッピングはトーマがしてるらしいし、夏休みには一緒にダンジョンに潜らせてもらっても良いかもね。彼らと一緒なら、アークも反対しないでしょ?」
「そうだな。エトとマリクも誘って、行けそうならダンジョンもありだな。アシェ的に、魔の森の素材のストックは満足いったんだろ?」
「うん。向こう一年くらいは来なくても良いくらい、しっかり採取させてもらったからね。あ、でも、明日はちょっと別行動したいかも。」
「……なんでだ?」
「緑系のハチの毒をもう少し回収しておきたいんだよね。今回蜘蛛毒が豊富に手に入ったから、色々作るのにハチ毒も欲しいんだ。広域に探査魔法飛ばして、ピンポイントで討伐に行こうかなって。ついでに実を付けたトレントが居ればラッキーだよね。【朱の渡り鳥】の索敵は、トーマが居れば十分だしね。」
「はぁ……また強行軍をするつもりか。行くなら俺も付いていくからな。」
大きな溜め息を吐いたアークエイドにそう言われるが、アシェルとしてはあまり連れて歩きたくない。
至る所にアシェルの求める素材がある三の森は、不用意に植物に触れるのも危ない。
アシェルの体質なら問題なくても、麻痺や出血毒を持つ植物が多い三の森は、普通に歩くだけでも注意が必要だ。
「嫌そうな表情をしても無駄だぞ。俺一人で不安なら、マリクも連れていく。二人いれば、どっちかがアシェの心配する状態になってもどうにかなるだろ。」
アークエイドが譲るつもりはないらしい。
今度はアシェルが溜め息を吐く番だったようだ。
「分かった。マリクは本人に意思確認してからにしなよ。……ご飯が出来たみたいだね、行こうか。」
「あぁ。」
二人揃って歩き始め、食事の時間を告げるトーマの元へ集まった。
皆で手を合わせて「いただきます。」と言い、夕食を摂り始める。
「なぁ、アシェル達は結局パーティー名どうするんだ?明日には決めとかないとだろ。」
不意にガルドに言われた言葉に、王都組は頭を抱える。
「忘れてた……。僕の二つ名で登録は、絶対嫌だからね。何か考えないと。」
「っても、どうするよ?今まで考えたことないしな。」
「だよねー。今まで無くても困らなかったからねー。」
「今後も【朱の渡り鳥】と一緒に冒険する可能性があるなら、決める必要があるよな。」
そうは言っても、パーティー名なんていう今後も付きまといそうなものは、簡単に決めれるものでもすぐに案が出てくるものでもない。
共通点の一つでもあればそれをもじれば良いのだが、共通点らしい共通点は貴族であることだ。
そんなものをパーティー名に付けたくはない。
これがアシェルの兄妹とのパーティーなら、家の色ともいえるアメジストにちなんだものか、紫をイメージさせるものにすればいいのだが。
「何か案ある?僕はさっぱり思いつかない。」
「俺も。」
「俺もー。」
「残念ながら。」
「難しく考えなくても良いんだぜ。呼びやすくて識別が出来りゃいいんだから。」
「補足までにですが、Sランク冒険者の【月夜の白銀】、キルル様が所属するパーティー名は【雪原の銀狼】です。リーダーがキルル様だったので、二つ名と出身国から名付けられたと言われています。」
ガルドの言葉に続いてトーマが例を出してくれる。
「そうなると、僕の二つ名をもじるとかになるでしょ。物騒過ぎない?」
「【血濡れの殺人人形】ですもんね。」
極力口にしないようにしているのに、さらっとユウナが二つ名を口にする。
「殺伐としてるよな。アシェをイメージにするなら、錬金とかどうだ?アシェといえばってかんじじゃね?」
「だが、冒険者で錬金やアルケミストと名乗るのは、おかしくないか?」
「あー、そっか。それは駄目だな。」
エラートが案を出し、アークエイドが却下する。
「出身地は王都で良いのかなー?領地はみんな違うけど、ずっと王都に住んでるもんねー。」
「そうだね。となると、中央とかナイトレイから連想される単語を使えば、それっぽくなるかな。候補に入れておこうか。」
ナイトレイは夜と光から名付けられている。
これは王家の加護を与えた神が、夜と安らぎを司る神だからだと言われている。
ちなみに王家と対を成すのがデイライト公爵家で、太陽と活力の女神だ。
それぞれ加護のある家には、信仰の対象になっている神々が関わっているらしい。
「夜の真ん中……真夜中、深夜、宵……宵闇……。アルケミストか……ミストは霧や靄を連想するよね……。文字列だけ音を似せてみる……?」
アシェルが一人ぶつぶつと思考モードに入る。
それを見た三人は、この難題をクリア出来そうなことにほっと胸を撫で下ろした。
「あー、これは、俺らが考えなくても決まりそーだね。」
「だな。」
「アシェなら良い案が出るだろ。」
しばらくぶつぶつと呟きながら考えをまとめたアシェルが、ようやく戻ってくる。
「うん、これならいけるかな。パーティー名の提案だけど。【宵闇のアルカナ】はどうかな?この国の中央に位置するナイトレイ王都出身から、宵闇。アルカナはアルケミストと近い音を探してだけど、神秘とか秘密とかっていう意味があるんだ。僕とアークは姿を変えて秘密にしてるし、高位貴族には神の加護っていう神秘が身近にあるから、丁度いいかなって思うんだけど……どう?」
まとめあげた考えを告げるアシェルに、否を唱える者はいない。
「意味的にもしっかり俺らっぽいし、いいんじゃねぇか?加護持ちじゃねぇのは俺だけだしな。」
「きれーな名前で良いと思うよー。」
「俺もアシェの案に賛成だ。」
「良かった。じゃあ、この【宵闇のアルカナ】でパーティー名登録しようか。もし既に使われてたら、また考えないといけないだろうけどね。」
「良いパーティー名ですね。その名前での登録は聞いたことが無いので、大丈夫だと思いますよ。少なくとも有名なパーティーにはない名前です。」
トーマが太鼓判を押してくれる。
こうして急遽必要になった王都組のパーティー名は、【宵闇のアルカナ】に仮決定された。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【ご報告】
2月28日より、第五章の連載を再開いたします。毎週金・土・日の20時に更新予定です。
また、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。
引き続きよろしくお願いいたします。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました
星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝――
路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。
熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。
「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」
甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。
よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、
気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて――
しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!?
「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」
年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。
ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
大金で買われた少女、狂愛の王子の檻で宝石になる ―無自覚な天才調合師は第二王子の婚約者(虫除け)を演じることになりました―
甘塩ます☆
恋愛
「君を金貨三十枚で買ったのは、安すぎたかな」
酒浸りの父と病弱な母に売られた少女・ユナを救ったのは、国中から「放蕩王子」と蔑まれる第二王子・エルフレードだった。
「虫除けの婚約者になってほしい」というエルの言葉を受け、彼の別邸で暮らすことになったユナ。しかし、彼女には無自覚の天才調合師だった。
ユナがその才能を現すたび、エルの瞳は暗く濁り、独占欲を剥き出しにしていく。
「誰にも見せないで。君の価値に、世界が気づいてしまうから」
これは、あまりに純粋な天才少女と、彼女を救うふりをして世界から隠し、自分の檻に閉じ込めようとする「猛禽」な王子の物語。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる