氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第三章 王立学院中等部二年生

126 初めての商業ギルド②

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Side:アシェル13歳 春



ぶつぶつと呟きながら無心でペンを滑らせていると、トントンと左肩を叩かれた。

ふと思考の世界から戻り、周囲を見て状況を思い出す。

「……失礼いたしました。魔道コンロはどうですか?」

どれくらい時間が経ったのかアシェルには分からないが、アシェルの前には商業ギルドの四人が再度着席していた。

「申し分ない出来だよ。これは少しくらい吹っかけても売れると思うよ。一応、それぞれから感想も聞いておこうか。」

ニクスが人の良い笑みを浮かべ、順番に職員に感想を求める。

「まずは私、ネルトから失礼します。術式に関しては解りませんが、使い手のことをよく考えられた構造と機能だと思います。また、安全装置が随所に盛り込まれているのも素晴らしいですね。動作に必要なエネルギーにも選択肢があって、必要魔力量まで少ないのは使い勝手が良いと思います。」

「次は私、先程紹介に預かりましたマーリンと申します。術式についてですが、勉強は独学ですか?素晴らしく緻密で美しい術式で、思わず感動してしまいました。それに説明にはありませんでしたが、全ての回路が繋がっていて、網以外のパーツが揃ってないと魔力が流れないようになっていますよね?随所に魔力エネルギーを増幅するための術式も見られますし、その増幅の術式も周囲の術式によって、ココの出力するエネルギー量を変えてある。……仕事そっちのけで、じっくりとこの魔道コンロを紐解きたいくらいです。」

「私、アスラもマーリンと同じ気持ちでおります。これだけの緻密で素晴らしい術式が、まさか個人利用のためだけに開発されたなど、にわかには信じられません。いや、個人利用だからこそ、求める性能を詰め込めるのでしょうか。とにかく素晴らしいです。先程マリク様からお話をしていただきましたが、出店許可証の偽造防止のための魔道具も、アシェル様が設計されるのですよね?そちらの確認の際も、是非立ち合いをさせていただきたいと思います。いえ、それよりも、どうですか?是非、商業ギルドの術式部門に就職しませんか?アシェル殿であればあっという間に昇格すると思いますよ。」

全員の熱量が凄いが、特にアスラは興奮を隠しきれておらず、アシェルの勧誘までしてきた。

「いえ、僕は王立学院生ですし……術式は趣味で学んでいるだけです。将来的には医師か薬師系の道に進もうかと思っていますので……。」

「そうですか……誠に残念ですが、メイディー公爵家のご子息でしたらそうですよね……。ですが、一つの選択肢として覚えておいていただけると嬉しいです。他にも面白いものがあれば、是非持ち込んでください。」

「こらこら。アシェル様が困っていらっしゃるだろう。すみません。マーリンもアスラも術式に関しては目が無いんですが、アスラは特に……メイディー公爵家の錬金に対するものに近いんです。ご容赦くださいませ。」

「あ、いえ。大丈夫です。」

ニクスが頭を下げ、アスラも慌てて頭を下げた。

「さて、実物をしっかり見せていただいた上で、商談と参りましょうか。アシェル様は、商業ギルドの利用は初めてでいらっしゃいますね?」

居住まいを正したニクスに問われ、アシェルは頷く。

「了承いたしました。商業ギルドには、商業ギルド会員にだけ発行されるネームタグがあります。商会や旅商人であれば、商人としての信用問題もあるので商業ギルドタグを作ることをお勧めしますが、アシェル様は冒険者ギルドタグを持っておいでですよね。今回の魔道具登録のように、商業ギルド王都本部とのみこういった取引をされる場合は、冒険者ギルドタグでも十分でございます。まず、商業ギルドタグは作成されますか?されませんか?」

「冒険者ギルドタグで十分なのであれば不要です。」

「了承いたしました。次に、魔道具の販売登録についてです。今回の登録はアシェル様が開発された魔道具を、当商業ギルドが作成から販売までさせてもらう形となります。商品販売価格の30%が開発者……今後権利者と呼びます。権利者への版権使用料として支払われます。残りの費用の内訳ですが、おおよそ50%が商品を作る材料費や人件費などで、20%が当商会が販売などに携わることによる手数料となっております。」

この割合は以前マリクから聞いた内容と一緒だ。

「魔道具の登録は任意ですし、権利者の希望で販売中止を指示することもできます。その場合、在庫商品のみは販売させていただきますが、新たな製品は作られません。その在庫分を捌き終わった時点で、契約が満了となります。報酬の支払いについてですが、前月売上分を毎月1日に、ご登録いただいている各種ギルドタグに振り込みをさせていただきます。明細については、商業ギルドの窓口にギルドタグを持ってきていただくか、契約書の控えをお持ちいただければお伝えいたします。登録している権利者が亡くなった場合でも、販売はされますが入金が出来なくなります。死亡診断書と登録しているギルドタグを持ってきていただいたご家族の方のみ、権利者の引継ぎが可能です。もし家族ではない方へ引継ぎをする場合は、権利者ご本人様と一緒に手続きをしていただく必要がありますのでご注意ください。また権利者が亡くなった場合、登録を破棄する内容や、登録はしたまま利益を放棄する内容も、権利者様が手続きをすれば契約可能です。まぁ後者の場合は、家族とは折り合いが悪いなどで、遺産を残したくない方がほとんどですがね。説明が長くなりましたが、何かご不明点はございますか?」

「いえ、大丈夫です。」

「今回の魔道コンロは登録されますか?」

アシェルが頷くと、いくつかの書類を手渡される。

「そちらは商業ギルドの決まりごとのようなものですが、アシェル様にはあまり関係ないかと思います。そして、こちらは同じものを二枚用意してあります。魔力的な細工もございませんので、内容と細工がないことを、お手に取ってお確かめください。」

「失礼します。」

契約書に書かれた内容を見比べ、不審な魔力が流れていないことも調べる。

「大丈夫です。契約内容にも異論はありません。」

「ありがとうございます。契約内容に納得していただけましたら、ここにお名前をフルネームでお願いいたします。そのあとに私が署名をして、魔道具の登録は完了となります。」

渡された万年筆で二回名前を記し、ニクスへ返す。
そのアシェルの名前の下に、ニクスも役職とフルネームを書き込んだ。

商業ギルドの割印を押された内の一枚が、控えとしてアシェルに渡される。

「これで登録をしてまいりますので、冒険者ギルドタグをお預かりしても良いですか?それと魔道コンロは一旦お預かりしますが、返却はどうしますか?開発が終了次第返却か、販売価格が決定したら、販売価格で商業ギルドがそのまま買い取らせていただくことも可能です。」

「買取でお願いします。返してもらうのも面倒なので。」

「了承いたしました。」

アシェルが預けたギルドタグと書類が受付嬢の手へ渡り、ネルト達三人と受付嬢が部屋から出て行く。
アシェル達三人とニクスだけが商談室に残った。

「さて、初めての魔道具の登録、お疲れ様。パーティーの日にアシェル殿が組んでいた術式は完成したのかい?」

商業ギルド長としてではなくニクスが話しはじめる。

「一応試作はシルコットの双子に預けて、練習と所感をレポートにまとめてってお願いしています。春休みの間に改良しようかと思ってたんですけど、今は偽装対策の魔道具の方が先ですね。そのあとも春休みの間に錬金の時間も取りたいので、少し完成は遅れるかもしれません。」

「そうなんだね。アベルがアシェル殿を自慢していた意味が分かるよ。アシェル殿、エラート殿。いつもうちのマリクと仲良くしてくれてありがとう。ここ数日は三の森に行ってたんだろう。どうだった?」

「楽しかったよー。アシェの知り合いのパーティーと、合同で冒険してきたんだー。良い人ばかりだったよー。」

「楽しかったなら良かったよ。ただ、アシェル殿がいれば最悪の事態は避けられるかもしれないけど、三の森は魔物も植物も状態異常が得意なんだ。マリクはキルルに似て鼻も良いし身のこなしも軽いけれど、注意はしておかないといけないよ。」

「分かってるよー。」

今はローテーブルを間に挟んでいて無理だが、マリクが隣に座っていたらニクスから撫でまわされていたんだろうなと思うくらい、ニクスの言葉の端々からマリクへの慈しみと愛情が伺える。

コンコンと扉が叩かれ、アシェルの冒険者ギルドタグを携えた受付嬢が戻ってきた。
受付嬢からニクスを経由して、アシェルの手元に戻ってくる。

「これで登録は完了だよ。冒険者ギルドタグの中に登録情報も書き込んでいるからね。登録じゃなくても、登録された魔道具を展示している博物館もあるから、良かったら今度見に来ると良いと思うよ。残念ながら概要と見た目しか分からないけどね。一部は販売もしているからね。」

「ありがとうございます。失礼します。」

アシェル達は立ち上がり、揃ってニクスに頭を下げて退室した。
商業ギルドの玄関ホールまでは受付嬢が案内してくれた。

「お疲れさん。このあとはどうする?アークもいないし、飯って流れでもないよな。」

商業ギルドを出て、とりあえず歩きながら話す。

「僕は一旦邸で素材の受け渡しして、寮に籠りたい。」

「さっきの術式書きかけだったもんな。なぁ、マリク。たまには二人で飯でも行くか?騎士団御用達の、ガッツリ大盛りの店。」

「いいねー行くー。」

「じゃあ、今日は解散かな。食事ゆっくり楽しんできてね。お疲れ様。」

「おぅ。あまり無茶はするなよ。」

「またねー。」

エラートとマリクに手を振り、家路につく。

メイディーのタウンハウスに帰ったのだがアベルとアレリオンは仕事中で、アルフォードはそんな二人に呼ばれて、王宮へ登城しているそうだ。

メルティーをたっぷり抱きしめてから、執事長のウィリアムに譲る予定だった素材達を託す。
といっても、アシェルが元々使っていた今はもぬけの殻の実験室に素材を置いて、そのことの伝言を頼んだだけだ。

料理長が作ったチョコレートケーキだけもらって『ストレージ』に仕舞いこみ、足早に邸を出た。

冬休みで閑散としている王立学院に戻り、学生寮の4号棟512号室という広すぎる自室へ帰ったのだった。
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