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第三章 王立学院中等部二年生
135 入学式②
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Side:アシェル13歳 春
校舎は学院の敷地内の中央にあり、その丁度南側に大広間がある。
あまり使われている教室のない校舎の5階に上がり、生徒会室の扉を潜った。
「お疲れ様。無事に義妹さんの案内は出来たかい?」
真っ先にアシェル達に気付いて声をかけてくれたのは、今年最上級生となった生徒会長のユリウス・フレイムだ。
アシェル達が到着したことで、卒業生が居なかったために役職もメンバーも変わらない役員が揃う。
副会長のマチルダ・エンバース。
書記のアビゲイル・ナイトレイ。
会計のシャーロット・デイライトとアークエイド・ナイトレイ。
広報委員長でアシェル達と同じクラスのシオン・ミルトン。
体育委員長のダリル・コンラート。
風紀委員長のクリストファー・ミルトン。
保健委員長のアルフォード・メイディー。
文化委員長でアシェル達の幼馴染でアビゲイルの想い人でもあるノアール・アスノーム。
総勢10名が現行の生徒会役員で、その全員が王家か高位貴族と呼ばれる、公爵家、辺境伯爵家、侯爵家の出身だ。
辺境伯爵家というと身分を低く見られがちだが、侯爵家より身分は上で、王家と4大公爵家、4大辺境伯爵家に伝わる加護を持った血筋だ。
「あぁ、制服姿のメルもすっごく可愛かったぞ。それに生徒会役員になってくれるそうだ。で、メルが入るからアシェも入ってくれるってよ。なぁ、来年のことも考えると、アシェは保健でもらっても良いよな?」
「どうりで嬉しそうなわけだね。他の役員にするより、メイディー直系は保健委員向きだし良いんじゃないかな。で、その義妹さんは何処に配属させたいんだい?」
ユリウスが生徒会役員の申請書類を用意しながらアルフォードに問う。
「来年の会長は間違いなくアビーで、副会長がシャーロット嬢だろ。会計にはアークエイドがいるし、穴を埋めるなら書記の補佐だと思うんだけど、どうだ?」
「そうだね、私も同じ考えだよ。じゃあ、それで申請書を出しておくね。」
今年の最上級生はユリウスとマチルダとアルフォード。その一学年下がアビゲイルとシャーロットだ。
次いでダリルが高等部一年生に、クリストファーが中等部三年生に、残りの三人は中等部二年生になった。
来年からのことを考えると妥当な配置だ。
「だったら、今年の勧誘はもうしなくても良いかしら?メイディー以外、新入生に知り合いなんていないわよね。」
アビゲイルの言葉に誰も名乗りをあげない中、そういえばとアークエイドが口を開く。
「顔見知りの新入生は居るが、確か子爵家だったか。」
そのアークエイドが言う顔見知りに、アシェルだけがピンとくる。
「あぁ、パティさん——パティ嬢のことだね。スターク子爵家のはずだよ。」
最近ではパティさんと愛称呼びをしているくらいには顔見知りなのは、アシェル達の一つ年下で“授け子”のパトリシア・スタークだ。
冒険者エリアにある大衆食堂サクラを経営するスターク子爵家の一人娘である。
エルフェナーレ王国から取り寄せた調味料を使った和食を提供してくれるサクラは、冒険者活動をした時のアシェル達の行きつけの店だ。
「あら、アークが顔見知りだなんて珍しいわね。それも女の子。どんな子なのかしら。」
興味ありげなアビゲイルだが、アークエイドから視線で自分は喋りたくないと訴えられる。
「冒険者エリアにある食堂を経営しているスターク子爵家の一人娘で、一つ下の“授け子”なんですよ。その食堂の食事が美味しくて、冒険者活動の帰りに皆で食べに行ってるうちに、愛称呼びを許してもらえる程度には顔見知りになりました。珍しい淡いピンク色の髪の毛で目立つので、すぐ分かると思いますよ。」
これは仲が良くなってから聞いたことだが、“授け子”として生まれ変わる時のお願いで、容姿について希望を出したそうだ。
なので光の加減で淡い赤みを帯びた金髪に見えるピンク髪は、染めているのではなく自前らしい。
カラフルな頭が多い世界だが、赤毛はいてもピンク色の髪の毛の人はパトリシア以外に見たことがない。
そもそも髪の色を変える魔道具はあっても髪染めはないし、魔道具も色を追加して変化させる仕様だ。
アークエイドのように王家の真っ黒の髪では、その魔道具も役に立たなくなる。
逆にアシェルの様な銀髪は、魔道具の調整次第で何色にでも変えることが出来る。
「へぇ、今度探してみようかしら。でも子爵家じゃ生徒会には入れられないわね。下手に例外を作ると、希望者が殺到するわ。」
一応学生の自治会的な役割もある生徒会執行部は、人柄や能力もだが、家格も重視している。
一定数、家格が下のものから注意を受けたり指示されるのが嫌な人間も居るのだ。
「よし、私は書類を職員室に出してくるよ。一先ず、アシェル君、ようこそ生徒会執行部へ。といっても、半年くらいずっと一緒に居たから新規感はないけどね。」
ユリウスの言葉に続いて、他の役員からも口々に「ようこそ。」や「一緒に頑張ろう。」と声を掛けられた。
「こちらこそよろしくお願いします。」
そんな歓迎ムードの中、ちょいちょいとアルフォードに手招きで呼ばれる。
生徒会室の隅に呼ばれ、心配そうな表情をしたアルフォードが声を潜めて話しだす。
「なぁ、アシェ。小さい時のこととか、前の嫌な事思い出したって聞いたけど大丈夫か?襲撃者の魔法の影響が残ったりとかしてないか?あ、詳しいことは兄上からは聞いてないからな。」
「アン兄様から聞いたんですね。大丈夫ですよ。僕が薫っていう名前で過ごしていた時のことを、全部思い出しただけです。嫌なこともありますけど、大切な思い出もあったので。」
前世の唯一の心残りを思い出せただけでも幸せだ。
そう思って笑ったのだが、突然アルフォードに抱きしめられ、視界の端ではこちらに近寄ってくるアークエイドも見えた。
「アル兄様??」
「アシェ、本当に大丈夫なんだよな?また戻ったりしないよな??」
少しだけ泣きそうなアルフォードの声に首を傾げていると、傍まで来たアークエイドが説明をしてくれた。
「頭痛はしてないか?何を話してた??またあの眼をしてたぞ。」
こちらも心配そうである。
「えっと……襲撃者からの闇魔法と、僕が小さい時と薫のこと思い出したって、アン兄様から聞いたらしくて、大丈夫かって。それに大丈夫って答えてただけなんだけど……。頭痛もないよ。」
「もう戻ったな。アルフォード、大丈夫だ。」
アークエイドに声を掛けられ、アシェルの瞳を見たアルフォードがほっと息を吐き出す。
「良かった……。ごめんな、不用意に話したから。」
「いえ、僕自体はなんともないんですけど……。」
「あれはカオルの眼だ。カオルの時のことを思い出している時はあの眼になるらしい。だからもうカオルの眼をしても、アルフォードが心配するようなことにはならないと思うぞ。」
「そうか……なら良いんだが。」
そうは言うが、まだ腕の中から解放してくれる気はないらしく、アシェルの顔を見たままアルフォードは動かない。
「しっかり僕と薫の記憶が混じったから、心配させちゃう眼になっちゃう時があるのかな……気を付けてどうにかなれば良いんだけど。」
アシェルの大切な人達を悲しませたくはないが、自覚がないものはどうしようもない。
「いや、アシェがなんともないんだったらそれでいい。そのカオル嬢のことを思い出すとそうなるんだな?」
「アル兄様、嬢はやめてよ。どっちも僕だけど、前世にそういう風習はないから、薫の名前で嬢を付けて呼ばれるのは違和感しかないから。呼ぶなら呼び捨てにして。」
「ははっ、そうか。アシェが気を付けなくても、こっちがそういうものだと理解していれば良いだけだ。ただ、どこかおかしかったりしたら、すぐに言うんだぞ?」
「はい。その時は相談させてもらいますね。」
そう言ってほほ笑むとようやく腕の中から解放された。
「なぁ、そのカオルの眼のことは、イザベルは知ってるのか?あと、父上や義母上、メルにも言っておいた方が良いと思うんだが……。」
アルフォードに言われた内容に悩む。
「メアリーお義母様には、余計な心配をかけたくありません。メルは学院で顔を合わせることも多いから、メルを怖がらせないためにも言っても良いかも。お父様には……出来ればあまり言いたくないですけど、アル兄様が言った方が判断するなら、言っても良いです。」
「父上に言うのは嫌か?」
「だって……自分の子供が、“授け子”でもないのに記憶持ちだなんて……気味が悪くありませんか?それも、お兄様達を心配させちゃうような眼をしちゃうんですよ。お父様に嫌な眼で見られたら、立ち直れる自信がありません。」
「父上なら大丈夫だ。ただ、アシェがそう思ってるなら、今は言うのを止めておこう。夏休みに帰省する時にまた考えたらいい。」
「ありがとうございます、アル義兄様。」
もし薫の眼をする頻度が高いなら、夏休みにはアベルやメアリーにも話しておかないといけないかもしれない。
ただ、それを考える時間の猶予が出来たのは純粋に嬉しい。
「家族もだが……イザベルや他の幼馴染達にはどうする?」
アークエイドに問われて、そちらも迷う。
「言った方が良いよね……ご飯の時にメルとベルには僕から言う……。アイザックとマルローネもいるけど、アイザックなら言いふらしたりしないですよね?」
「あぁ、アイザックなら大丈夫だ。」
「じゃあ今日言う。皆へは……先にリリィとデュークに話してみてからでもいい?リリィ達なら僕が記憶持ちだって知ってるから、受け入れてもらいやすいと思うんだ。流石にいきなり皆に話す勇気はないから、ワンクッション挟みたい。」
「アシェがそうしたいならそうするといい。俺達がアシェの嫌な眼をすることは無いと思うからな。」
「アークはそう言うけど、アークはしてるからね。嫉妬混じりの眼。どういう感情か分かったし原因も大体分かるから、そこまで嫌な感じはしないけど。ただ、メアリーお義母様が嫉妬混じりの眼をする原因が分からないんだよなぁ……。」
メアリーがアシェルの何に嫉妬しているのかが、未だに分からない。
「あの夜だけじゃないのか?」
アルフォードは恐らく、メアリーとメルティーが我が家にやっていた夜のことを言っているのだろう。
男装をするようになった頃に、あの日アシェルやメアリーの様子がおかしかったことを指摘されたことがある。
その流れで兄達は、メアリーが負の感情を籠めた目でアシェルを見ていたと知っている。
「今は嫌な色一色のことはないですよ。ドレスを着ると混じってますけど、僕が男の子ならそれもないですし。だから、心配することは無いです。」
「そうか。まぁ、今は毎日邸にいるわけじゃないし、大丈夫か。」
「えぇ、大丈夫です。」
「貴方達。どうせメルティーが来たらイチャイチャするんだから、その前に仕事をなさい。二年生以降は野外実習があるんだから。」
アビゲイルに呼ばれ、応接セットに移動する。
「イチャイチャしてねぇよ。」
「お待たせしました。」
アシェルの隣にはアークエイドがちゃっかり陣取り、一番端に座ったアルフォードから一人分空けてアシェルが座る。
「あら。アルとアシェルが隣ではないの?」
「メルが来たら座る場所がいるだろ。」
「メルが座るのは僕らの間です。これだけは譲れません。」
お互い相談したわけではないが、しっかり家での席順と同じ、アルフォードが右側で、アシェルが左側だ。
キスや抱擁の年功序列同様、兄妹の並びにも暗黙の了解がある。
「これは……前にもっと甘いってアビゲイル嬢が言ってたのが分かる気がするね。」
ユリウスが苦笑する傍らで、クリストファーが残念と肩を落とす。
「空いてるならアルフォード先輩とアシェル君の間にお邪魔しようと思ったのにな。」
「兄様は黙っててください。そんなことしたら怒られますよ。」
「怒られるくらいで済めばいいわね。アル達の邪魔をしたら、どんな目にあっても文句は言えないわよ。」
シオンとアビゲイルがクリストファーを窘める。
「先輩を間にいれるくらいなら、席を詰めてメルを膝に乗せるので。あと、クリストファー先輩がアル兄様の隣に座るのは嫌です。」
「おや、珍しくアシェル君が妬いてくれてるのかい?」
「先輩に大好きなアル兄様の隣を譲る気はありませんから。アル兄様の隣にいて良いのは、僕ら兄妹かアビー様だけです。」
「これは辛辣だなぁ。さすがの僕も傷つくかもしれないよ?僕にも大好きって言ってもらえるように頑張らないといけないね。」
そう口では言いながらも、クリストファーは笑みを浮かべている。
それにアシェルもにっこりと微笑みながら答える。
「ふふ、今の先輩じゃ無理ですね。せいぜい頑張ってください?」
「今のねぇ。どうすればアシェル君が相手をしてくれるのか、色々模索しないとダメそうだね。」
「二人とも満足したかしら?本題に入るわよ。資料を回すから、しっかり目を通してちょうだいね。二年生は初めて見る資料だと思うけれど、これが野外実習の場所や選抜メンバーの一覧よ。」
マチルダがパンパンと手を叩き、いつものように笑みを浮かべたまま腹の探り合いをしているアシェルとクリストファーを止めた。
回ってきた資料に目を落とすと、魔法学中級以上の成績優秀者と武術系の成績優秀者が、各学年ごとに一覧になっている。
「続きは私から話すよ。毎年、魔法学と武術系の成績優秀者は被ることが多いんだ。それで、どこまでを野外実習生として組み入れるか、その組み合わせをどうするかという話し合いだね。今年は全学年誰かしらが居るから、決めるのにそう時間はかからないと思うよ。」
「って、毎年ユリウス先輩は言うけど、俺は魔法に関してはからっきしなんで、名簿見てもさっぱりなんですけど。」
ダリルはコンラート公爵家の血筋と加護の関係で、身体強化以外の魔法を使うことが出来ない。
魔法学は必修授業だが、基礎の座学だけで実技テストは免除になっているらしい。
コンラート公爵家ではないのに魔法を使うのが苦手なエラートは、授業では魔法を使っているようだが、普段から使うほどは上達していないそうだ。
「毎年のように武術系で連れて行った方がいい人材を選んで、その人材を魔法学の方から除外して、上の方から選ぶと良いよ。実際のところが分からないけれど、教師が名簿にしてるくらいだから、ある程度は信用できるだろう。野外実習経験者も多いしね。せっかく座ってもらったけど、高等部生は向こうのソファに移ろうか。同じ学年同士が集まった方が話しやすいからね。クリストファー君は、分からない事があればこっちに聞きに来ておくれ。」
「分かりました。去年も同じことをしたので大丈夫だと思いますよ。」
ユリウスの指示に従って、高等部の五人が奥のソファに移動した。
校舎は学院の敷地内の中央にあり、その丁度南側に大広間がある。
あまり使われている教室のない校舎の5階に上がり、生徒会室の扉を潜った。
「お疲れ様。無事に義妹さんの案内は出来たかい?」
真っ先にアシェル達に気付いて声をかけてくれたのは、今年最上級生となった生徒会長のユリウス・フレイムだ。
アシェル達が到着したことで、卒業生が居なかったために役職もメンバーも変わらない役員が揃う。
副会長のマチルダ・エンバース。
書記のアビゲイル・ナイトレイ。
会計のシャーロット・デイライトとアークエイド・ナイトレイ。
広報委員長でアシェル達と同じクラスのシオン・ミルトン。
体育委員長のダリル・コンラート。
風紀委員長のクリストファー・ミルトン。
保健委員長のアルフォード・メイディー。
文化委員長でアシェル達の幼馴染でアビゲイルの想い人でもあるノアール・アスノーム。
総勢10名が現行の生徒会役員で、その全員が王家か高位貴族と呼ばれる、公爵家、辺境伯爵家、侯爵家の出身だ。
辺境伯爵家というと身分を低く見られがちだが、侯爵家より身分は上で、王家と4大公爵家、4大辺境伯爵家に伝わる加護を持った血筋だ。
「あぁ、制服姿のメルもすっごく可愛かったぞ。それに生徒会役員になってくれるそうだ。で、メルが入るからアシェも入ってくれるってよ。なぁ、来年のことも考えると、アシェは保健でもらっても良いよな?」
「どうりで嬉しそうなわけだね。他の役員にするより、メイディー直系は保健委員向きだし良いんじゃないかな。で、その義妹さんは何処に配属させたいんだい?」
ユリウスが生徒会役員の申請書類を用意しながらアルフォードに問う。
「来年の会長は間違いなくアビーで、副会長がシャーロット嬢だろ。会計にはアークエイドがいるし、穴を埋めるなら書記の補佐だと思うんだけど、どうだ?」
「そうだね、私も同じ考えだよ。じゃあ、それで申請書を出しておくね。」
今年の最上級生はユリウスとマチルダとアルフォード。その一学年下がアビゲイルとシャーロットだ。
次いでダリルが高等部一年生に、クリストファーが中等部三年生に、残りの三人は中等部二年生になった。
来年からのことを考えると妥当な配置だ。
「だったら、今年の勧誘はもうしなくても良いかしら?メイディー以外、新入生に知り合いなんていないわよね。」
アビゲイルの言葉に誰も名乗りをあげない中、そういえばとアークエイドが口を開く。
「顔見知りの新入生は居るが、確か子爵家だったか。」
そのアークエイドが言う顔見知りに、アシェルだけがピンとくる。
「あぁ、パティさん——パティ嬢のことだね。スターク子爵家のはずだよ。」
最近ではパティさんと愛称呼びをしているくらいには顔見知りなのは、アシェル達の一つ年下で“授け子”のパトリシア・スタークだ。
冒険者エリアにある大衆食堂サクラを経営するスターク子爵家の一人娘である。
エルフェナーレ王国から取り寄せた調味料を使った和食を提供してくれるサクラは、冒険者活動をした時のアシェル達の行きつけの店だ。
「あら、アークが顔見知りだなんて珍しいわね。それも女の子。どんな子なのかしら。」
興味ありげなアビゲイルだが、アークエイドから視線で自分は喋りたくないと訴えられる。
「冒険者エリアにある食堂を経営しているスターク子爵家の一人娘で、一つ下の“授け子”なんですよ。その食堂の食事が美味しくて、冒険者活動の帰りに皆で食べに行ってるうちに、愛称呼びを許してもらえる程度には顔見知りになりました。珍しい淡いピンク色の髪の毛で目立つので、すぐ分かると思いますよ。」
これは仲が良くなってから聞いたことだが、“授け子”として生まれ変わる時のお願いで、容姿について希望を出したそうだ。
なので光の加減で淡い赤みを帯びた金髪に見えるピンク髪は、染めているのではなく自前らしい。
カラフルな頭が多い世界だが、赤毛はいてもピンク色の髪の毛の人はパトリシア以外に見たことがない。
そもそも髪の色を変える魔道具はあっても髪染めはないし、魔道具も色を追加して変化させる仕様だ。
アークエイドのように王家の真っ黒の髪では、その魔道具も役に立たなくなる。
逆にアシェルの様な銀髪は、魔道具の調整次第で何色にでも変えることが出来る。
「へぇ、今度探してみようかしら。でも子爵家じゃ生徒会には入れられないわね。下手に例外を作ると、希望者が殺到するわ。」
一応学生の自治会的な役割もある生徒会執行部は、人柄や能力もだが、家格も重視している。
一定数、家格が下のものから注意を受けたり指示されるのが嫌な人間も居るのだ。
「よし、私は書類を職員室に出してくるよ。一先ず、アシェル君、ようこそ生徒会執行部へ。といっても、半年くらいずっと一緒に居たから新規感はないけどね。」
ユリウスの言葉に続いて、他の役員からも口々に「ようこそ。」や「一緒に頑張ろう。」と声を掛けられた。
「こちらこそよろしくお願いします。」
そんな歓迎ムードの中、ちょいちょいとアルフォードに手招きで呼ばれる。
生徒会室の隅に呼ばれ、心配そうな表情をしたアルフォードが声を潜めて話しだす。
「なぁ、アシェ。小さい時のこととか、前の嫌な事思い出したって聞いたけど大丈夫か?襲撃者の魔法の影響が残ったりとかしてないか?あ、詳しいことは兄上からは聞いてないからな。」
「アン兄様から聞いたんですね。大丈夫ですよ。僕が薫っていう名前で過ごしていた時のことを、全部思い出しただけです。嫌なこともありますけど、大切な思い出もあったので。」
前世の唯一の心残りを思い出せただけでも幸せだ。
そう思って笑ったのだが、突然アルフォードに抱きしめられ、視界の端ではこちらに近寄ってくるアークエイドも見えた。
「アル兄様??」
「アシェ、本当に大丈夫なんだよな?また戻ったりしないよな??」
少しだけ泣きそうなアルフォードの声に首を傾げていると、傍まで来たアークエイドが説明をしてくれた。
「頭痛はしてないか?何を話してた??またあの眼をしてたぞ。」
こちらも心配そうである。
「えっと……襲撃者からの闇魔法と、僕が小さい時と薫のこと思い出したって、アン兄様から聞いたらしくて、大丈夫かって。それに大丈夫って答えてただけなんだけど……。頭痛もないよ。」
「もう戻ったな。アルフォード、大丈夫だ。」
アークエイドに声を掛けられ、アシェルの瞳を見たアルフォードがほっと息を吐き出す。
「良かった……。ごめんな、不用意に話したから。」
「いえ、僕自体はなんともないんですけど……。」
「あれはカオルの眼だ。カオルの時のことを思い出している時はあの眼になるらしい。だからもうカオルの眼をしても、アルフォードが心配するようなことにはならないと思うぞ。」
「そうか……なら良いんだが。」
そうは言うが、まだ腕の中から解放してくれる気はないらしく、アシェルの顔を見たままアルフォードは動かない。
「しっかり僕と薫の記憶が混じったから、心配させちゃう眼になっちゃう時があるのかな……気を付けてどうにかなれば良いんだけど。」
アシェルの大切な人達を悲しませたくはないが、自覚がないものはどうしようもない。
「いや、アシェがなんともないんだったらそれでいい。そのカオル嬢のことを思い出すとそうなるんだな?」
「アル兄様、嬢はやめてよ。どっちも僕だけど、前世にそういう風習はないから、薫の名前で嬢を付けて呼ばれるのは違和感しかないから。呼ぶなら呼び捨てにして。」
「ははっ、そうか。アシェが気を付けなくても、こっちがそういうものだと理解していれば良いだけだ。ただ、どこかおかしかったりしたら、すぐに言うんだぞ?」
「はい。その時は相談させてもらいますね。」
そう言ってほほ笑むとようやく腕の中から解放された。
「なぁ、そのカオルの眼のことは、イザベルは知ってるのか?あと、父上や義母上、メルにも言っておいた方が良いと思うんだが……。」
アルフォードに言われた内容に悩む。
「メアリーお義母様には、余計な心配をかけたくありません。メルは学院で顔を合わせることも多いから、メルを怖がらせないためにも言っても良いかも。お父様には……出来ればあまり言いたくないですけど、アル兄様が言った方が判断するなら、言っても良いです。」
「父上に言うのは嫌か?」
「だって……自分の子供が、“授け子”でもないのに記憶持ちだなんて……気味が悪くありませんか?それも、お兄様達を心配させちゃうような眼をしちゃうんですよ。お父様に嫌な眼で見られたら、立ち直れる自信がありません。」
「父上なら大丈夫だ。ただ、アシェがそう思ってるなら、今は言うのを止めておこう。夏休みに帰省する時にまた考えたらいい。」
「ありがとうございます、アル義兄様。」
もし薫の眼をする頻度が高いなら、夏休みにはアベルやメアリーにも話しておかないといけないかもしれない。
ただ、それを考える時間の猶予が出来たのは純粋に嬉しい。
「家族もだが……イザベルや他の幼馴染達にはどうする?」
アークエイドに問われて、そちらも迷う。
「言った方が良いよね……ご飯の時にメルとベルには僕から言う……。アイザックとマルローネもいるけど、アイザックなら言いふらしたりしないですよね?」
「あぁ、アイザックなら大丈夫だ。」
「じゃあ今日言う。皆へは……先にリリィとデュークに話してみてからでもいい?リリィ達なら僕が記憶持ちだって知ってるから、受け入れてもらいやすいと思うんだ。流石にいきなり皆に話す勇気はないから、ワンクッション挟みたい。」
「アシェがそうしたいならそうするといい。俺達がアシェの嫌な眼をすることは無いと思うからな。」
「アークはそう言うけど、アークはしてるからね。嫉妬混じりの眼。どういう感情か分かったし原因も大体分かるから、そこまで嫌な感じはしないけど。ただ、メアリーお義母様が嫉妬混じりの眼をする原因が分からないんだよなぁ……。」
メアリーがアシェルの何に嫉妬しているのかが、未だに分からない。
「あの夜だけじゃないのか?」
アルフォードは恐らく、メアリーとメルティーが我が家にやっていた夜のことを言っているのだろう。
男装をするようになった頃に、あの日アシェルやメアリーの様子がおかしかったことを指摘されたことがある。
その流れで兄達は、メアリーが負の感情を籠めた目でアシェルを見ていたと知っている。
「今は嫌な色一色のことはないですよ。ドレスを着ると混じってますけど、僕が男の子ならそれもないですし。だから、心配することは無いです。」
「そうか。まぁ、今は毎日邸にいるわけじゃないし、大丈夫か。」
「えぇ、大丈夫です。」
「貴方達。どうせメルティーが来たらイチャイチャするんだから、その前に仕事をなさい。二年生以降は野外実習があるんだから。」
アビゲイルに呼ばれ、応接セットに移動する。
「イチャイチャしてねぇよ。」
「お待たせしました。」
アシェルの隣にはアークエイドがちゃっかり陣取り、一番端に座ったアルフォードから一人分空けてアシェルが座る。
「あら。アルとアシェルが隣ではないの?」
「メルが来たら座る場所がいるだろ。」
「メルが座るのは僕らの間です。これだけは譲れません。」
お互い相談したわけではないが、しっかり家での席順と同じ、アルフォードが右側で、アシェルが左側だ。
キスや抱擁の年功序列同様、兄妹の並びにも暗黙の了解がある。
「これは……前にもっと甘いってアビゲイル嬢が言ってたのが分かる気がするね。」
ユリウスが苦笑する傍らで、クリストファーが残念と肩を落とす。
「空いてるならアルフォード先輩とアシェル君の間にお邪魔しようと思ったのにな。」
「兄様は黙っててください。そんなことしたら怒られますよ。」
「怒られるくらいで済めばいいわね。アル達の邪魔をしたら、どんな目にあっても文句は言えないわよ。」
シオンとアビゲイルがクリストファーを窘める。
「先輩を間にいれるくらいなら、席を詰めてメルを膝に乗せるので。あと、クリストファー先輩がアル兄様の隣に座るのは嫌です。」
「おや、珍しくアシェル君が妬いてくれてるのかい?」
「先輩に大好きなアル兄様の隣を譲る気はありませんから。アル兄様の隣にいて良いのは、僕ら兄妹かアビー様だけです。」
「これは辛辣だなぁ。さすがの僕も傷つくかもしれないよ?僕にも大好きって言ってもらえるように頑張らないといけないね。」
そう口では言いながらも、クリストファーは笑みを浮かべている。
それにアシェルもにっこりと微笑みながら答える。
「ふふ、今の先輩じゃ無理ですね。せいぜい頑張ってください?」
「今のねぇ。どうすればアシェル君が相手をしてくれるのか、色々模索しないとダメそうだね。」
「二人とも満足したかしら?本題に入るわよ。資料を回すから、しっかり目を通してちょうだいね。二年生は初めて見る資料だと思うけれど、これが野外実習の場所や選抜メンバーの一覧よ。」
マチルダがパンパンと手を叩き、いつものように笑みを浮かべたまま腹の探り合いをしているアシェルとクリストファーを止めた。
回ってきた資料に目を落とすと、魔法学中級以上の成績優秀者と武術系の成績優秀者が、各学年ごとに一覧になっている。
「続きは私から話すよ。毎年、魔法学と武術系の成績優秀者は被ることが多いんだ。それで、どこまでを野外実習生として組み入れるか、その組み合わせをどうするかという話し合いだね。今年は全学年誰かしらが居るから、決めるのにそう時間はかからないと思うよ。」
「って、毎年ユリウス先輩は言うけど、俺は魔法に関してはからっきしなんで、名簿見てもさっぱりなんですけど。」
ダリルはコンラート公爵家の血筋と加護の関係で、身体強化以外の魔法を使うことが出来ない。
魔法学は必修授業だが、基礎の座学だけで実技テストは免除になっているらしい。
コンラート公爵家ではないのに魔法を使うのが苦手なエラートは、授業では魔法を使っているようだが、普段から使うほどは上達していないそうだ。
「毎年のように武術系で連れて行った方がいい人材を選んで、その人材を魔法学の方から除外して、上の方から選ぶと良いよ。実際のところが分からないけれど、教師が名簿にしてるくらいだから、ある程度は信用できるだろう。野外実習経験者も多いしね。せっかく座ってもらったけど、高等部生は向こうのソファに移ろうか。同じ学年同士が集まった方が話しやすいからね。クリストファー君は、分からない事があればこっちに聞きに来ておくれ。」
「分かりました。去年も同じことをしたので大丈夫だと思いますよ。」
ユリウスの指示に従って、高等部の五人が奥のソファに移動した。
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