氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第三章 王立学院中等部二年生

140 アークエイドとマリクと三人で②

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Side:アシェル13歳 春



「百合さんはぎりぎり昭和だったんだ……ってことは、薫とは同い年かもね。」

「うそ、まさかのタメ??ってか、百合さんは止めてよ。呼び捨てか、せめてちゃん付けくらいにしてよ?なんかこう、呼ばれ慣れてなくて、むずむずするんよね。あ、実は平成生まれでした、なんて言わんといてよ?昭和と平成の壁は厚いんやけね。」

周囲がきょとんと首を傾げる中、リリアーデだけが一人テンションが上がっている。
しかもその喋り方は前世の言葉だ。

デュークが驚いた表情をしているのは新鮮かもしれない。
今まで、この話し方のリリアーデを見たことがないのだろうか。

「施設の前に置き去りだったらしいから、正確な誕生日は分からないけど。でも間違いなく昭和生まれよ。私の学年は、昭和と平成の交わる年だったわ。」

リリアーデの百合としての言葉に引っ張られて、アシェルも薫に引っ張られてしまっている。
だがリリアーデは、アシェルが言葉の抑揚少なく喋っても、恐らく薫の眼をしていても、全く気にならないようだ。

「なら生まれ年だけやなくて学年も一緒やね!前世でも今世でもうちら同学年とか、奇跡的やん。」

「でも百合は三十路まで生きたんでしょ?私は二十歳はたちの誕生日を迎える直前に殺されてるの。同じ年に産まれたのに、こちらへ転生する時期が違うなんて不思議ね。」

「え、殺されたん!?それめちゃしんどい記憶やない?犯人捕まっとると良いね。ねぇねぇ、薫が子供の時に流行ってた遊びっちあるん?」

「百合は方言が強いのね。あると思うけど、私は咲と健斗が教えてくれたことしか分からないわ。」

「これでも、地元じゃ方言はそんなに強いほうやなかったんやけどね。看護師しとると敬語ばっかりなせいか、それ以外やと家族と喋る時とかによそよそしいっち言われたけん。でも、地元でも就職先でもどこ出身?っち聞かれちょったよ。仕事で関西にでたけん、喋り方が混じっとるみたい。こういう喋り方の方が百合っぽいやろ。」

どうやら薫のことが聞きたくて、百合の喋り方をしてくれたらしい。

「百合の方言には聞き覚えがあるわ。住んでいたところも近いんじゃないかな。」

「ほんまに!?薫はどこ出身なん?うちはね、福岡出身なんよ。」

「私もよ。福岡の片田舎。普通に田んぼはあるし、盆地だったわ。」

「凄い凄い!盆地やったらかなり近かったかもしれんね。」

わいわいと聞きなれない言葉で盛り上がるリリアーデと、表情も乏しく淡々と喋るアシェルは、周りから見たら違和感満載だ。

「僕はリリィがこんな口調で喋ってるのを初めて聞いた。」

「なんつーか、独特なんだな。」

デュークとエラートが呟いた言葉に、周囲が同意を示すように頷く。

「なんか、アシェがアークみたいだねー。」

「マリク、どういう意味だ、それは。」

「そのまんまの意味でしょ。アークって俺ら以外から見たら、多分今のアシェみたいに見えてるぞ。」

エトワールに言われ、反論できないアークエイドは押し黙る。

そんなアークエイドの肩がトントンと叩かれた。

「アークエイド様。どうしてアシェル様があの眼をしているんでしょうか?それと今から私は、マルローネと共にメルティー様をお迎えに上がります。」

「リリィと前世の話をしているだけだ、気にするな。それより迎えだな。気を付けて行って来い。」

「なるほど。心得ております。皆様、少々お待ちください。」

ペコリと頭を下げたイザベルが、マルローネと連れ添って部屋を出て行く。

その間も二人の会話は盛り上がっているようだ。

「ねぇねぇ、咲さんと健斗君っちどういう子やったん?」

「きっと、百合と咲は話が合うわ。薄い本が好きだったから。私が知ってるのも咲の影響よ。元々、咲が面白い漫画や小説を教えてくれていたの。私が図書館に通うのが好きだったから。健斗は……そうね、イケメンのお人好しでヘタレだわ。でもスポーツ万能で、サッカー部に入っていたの。3人で同じ公立高校に入学して、私は学業で全額無料の特待、健斗はスポーツ特待で一部学費免除だったわ。」

「うそっ、薫すごい頭いいやん。羨ましいわー。それに健斗君も凄いね。スポーツ特待っち、かなり上手くないとなれんやろ。」

「スポーツは詳しくないけど、そうみたい。百合はなにかしていた?」

「うちは高校の時は、友達に誘われて美術愛好会にはいっちょったね。でも、喋っとっただけやき、活動らしい活動はしとらんばい。うちだけ生徒会にはいったけん、そっからはほとんど生徒会室におったしね。」

「生徒会に……看護師になってるし、百合も頭良かったんじゃないの?」

「そんなことないばい。だって、うちの行っとった高校っち、希望したら生徒会に入れたけん。高校も私学やったけ、専願入試っちいう、国数英の三教科だけの試験しか受けちょらんしね。国家試験もマークシートやけん、国語が得意やったら文章の変なとこ見つけて、あてずっぽうでも答えかけるきね。ギリギリで国試に通っただけばい。勉強で特待になれるなら、薫こそ看護師とか医者とかになれば良かったんに。勿体ないね。」

「お医者様なんて、学費が高すぎるわ。一般家庭でも学費を払うのは難しいでしょう。それに私は、咲と健斗と同じ学校に行きたかったから。でも……そうね。そういう環境があったなら、医学の道に進むのも悪くはなかったわね。今だからこそ思うけど、もっと色々学んでおけばよかったと思うわ。学校の授業は退屈だったから。」

「薫の退屈は、分かるけんやろ?うちとか、赤点とらんように必死やったんに……。っち言っても、授業中に寝ちょったうちが悪いんやけどね。」

てへっとリリアーデがおどけてみせる。
それを見たアシェルが、ふふっと笑みをこぼした。

「ふふ、百合って面白いのね。きっと百合とも友達だったら、もっと学校は楽しかったと思うわ。」

「どうやろ?うちは結構頭が固いっち言われとったけねぇ。そーじゃなかったら、精神病とかかからんっちゃ。」

「そうかな……多分百合は頑張りすぎたんだわ。きっとお仕事じゃ、上手く手を抜けなかったのね。授業中の居眠りみたいに。」

「……そうやね。確かに気を張りすぎてたんやなーっち、病気の症状がちょっと落ち着いた時にようやく気付いたき。神様に“揺るぎない精神”をもらって良かったっち思うよ。じゃないと、多分血まみれの人を見て卒倒しとったんやないかな。病院で見るよりグロイ傷負った人とか、普通におったけね。魔物退治も忌避感ないきね。それよりもファンタジーな世界に産まれて、ワクワクしたほうが強かったんよ。薫はそういうのはないん?」

「私は平気だったかな。ちっさい時から戦闘訓練もつけてもらったし、いうなら、食肉加工でしょ?農家の人が、鶏や牛を絞めるのと一緒だわ。」

「薫は凄いね。やったことはないんやろ?」

「無かったわね。家庭菜園なら施設にあったけど。でも畜産に関することは、図書館で本を読んだことはあるわ。猟師についても調べた事があるの。でも、初期費用が高いから諦めたわ。登録もしないといけなかったりで、手間もかかりそうだったし、ジビエは癖があるらしいから、施設の子供の舌には合わないかと思って。」

猟師になれば新鮮なお肉を施設の子供達に届けられるかもと思ったのだが、色々調べて断念した。

「施設の子のために調べたんやね。めっちゃ薫らしいと思うばい。だって、うちと百合の本質が一緒なんと一緒で、アシェと薫の本質は一緒やろ?」

にっこりと、その幼い容姿には不釣り合いな、大人びた微笑みを向けられる。

リリアーデは薫の話を引き出したくて、百合の喋り方をしたのではない。
きっと、アシェルも薫も一緒の存在だと。前世の記憶があってもなくても、アシェルはアシェルだと。
そう言ってくれているような気がする。

「そうね。私は薫だったアシェルだわ。どっちも私で僕だから。」

アシェルの言葉に満足気に頷いたリリアーデは、パンと手を打った。

「さぁ、昔話はこれでおしまいよ。思わず聞けた昔話は、とても懐かしくて面白かったわ。また楽しかったこととか教えてちょうだいね。」

「……うん。リリィがそれを望んでくれるなら。」

「思い出話は済んだか?」

会話の終わりを感じたアークエイドに声を掛けられ、その表情を見てアシェルは首を傾げる。

「なんで今、アークの眼に嫉妬の色が見えるの?」

アシェルの言葉に幼馴染達もアークエイドを見るが、そこまでは分からないらしい。

「別に良いだろ。」

「良くない。原因が分からないその眼の色は嫌いなんだってば。」

迷うようにアークエイドの視線が揺らぎ、それから小さく呟いた。

「リリィがアシェと、二人にしか分からない会話をしてたからだ。」

全員の耳に入ったその言葉に、皆が笑みを浮かべた。
アシェルだけが呆れ顔だが。

「もしかしてリリィに嫉妬したの?」

「まぁ、確かに俺らには分からないことも多かったよな。それにしても、アーク。ほんとにアシェが好きなんだな。でも、流石に心が狭すぎるぜ?」

にやにやと笑っているエラートに言われ、ぷいっとアークエイドがそっぽを向いた。

「あらあら、アークも年相応で可愛いところがあるじゃない。って、デュークも変な表情してるわね?」

「今までリリィの昔話は聞いてきたけど、喋り方も内容も僕が知らないことばかりだった。」

「だってあんまり詳しく話すと、デュークが調べちゃうでしょ。別に百合のことに詳しくならなくて良いのよ。喋り方も、他所の方言聞いてどうするのよ。“授け子”の昔住んでた場所の知識をつけたって、今生きていくに何の役にも立たないんだから。」

「リリィは僕のことを知ってるのに、僕の知らないリリィがいるのは嫌だ。」

デュークも少し拗ねているようである。

「まぁ、双子だしそう思うのも無理はないわね。私だって、優弥のことで分からない事があると、心配したり不安になった時期があったし。でも、別の人間なんだもの。分からないことなんて、大人になればいくらでもあるわよ。」

「待って、リリィ。そのユウヤって誰?男だよね。初めて聞く名前なんだけど。」

「あら、そうだったかしら?優弥は百合の双子の弟よ。わたくしって、前世でも今世でも双子のお姉ちゃんなのよね。」

リリアーデが前世でも双子だったのは初耳だ。

「聞いてない。」

「わたくしの前世の弟の話を聞いても、デュークにはなんにもならないでしょ。あ、メルちゃんが来たんじゃないかしら?」

コンコンと扉が叩かれ、メルティーを迎えに行ったイザベル達が帰ってきた。

「メルティー様をお迎えに行ってまいりました。すぐにお食事にされますか?」

「うん、お願い。さぁ、みんな、あっちのテーブルに移ろう。」

アシェルとリリアーデがさっさと立ち上がって、イザベル達と一緒にキッチンに消えていく。

アークエイドの肩をエラートが、デュークの肩をエトワールが優しくポンポンと叩いた。

「まぁ、なんだ。頑張れ。」

「デュークもな。ただの弟から抜け出せると良いな。」

デュークがリリアーデを恋愛的に好きなことは、アシェルとリリアーデ以外には筒抜けだ。
その伝わって欲しい当の本人には、全く気付かれていないのだが。

イザベル達が4人で食卓を整えてくれて、メルティーとマルローネを加えて、久しぶりの食事会が始まった。



皆で食事を終え、幼馴染達がそれぞれの部屋に帰っていく。

イザベルも、メルティーとマルローネと一緒に帰ってもらった。
可能な限りアシェルとの部屋の行き来にはイザベルとマルローネと一緒になるようにと、イザベルとは事前に相談して決めていたことだ。

そんな中。
いつものように居座るアークエイドと、何故かマリクまで居座っている。

「あれ?マリク、帰らないの?」

「うん、ちょっと話したい事があってー。」

少し気まずそうなマリクが、ちらりとアークエイドを見た。

アシェルとアークエイドは首を傾げる。

「俺が居ない方が良いか?」

「ううん、居てもらったほーがいい。……部屋に来た時、アシェからはつじょーした匂いしてたからー。アークには悪いと思うんだけど、アシェにいちゃいちゃしてもらったらダメかなー?」

へにょりと耳と尻尾をうな垂れさせたままのマリクが言う。

「……それは、マリクもアシェを好きなのか?」

一瞬で不機嫌な表情になったアークエイドだが、頭から拒否はしないようだ。

「アシェは好きだけど、アークの好きとは違うよー。でも俺、自分でシても全然で……アシェにしてもらったのが気持ち良かったからー。やっぱり人族の感覚だとダメだよねー。」

「そういえば、獣人族の感覚では違うんだったか。……どうせアシェは、俺の意見なんて聞く気がないんだろ?」

アークエイドがじとっと嫉妬を含んだ瞳を向けた先では、アシェルの瞳がきらきらと輝いている。

「まぁ、聞く気はないけど。別にマリクがシたいっていうなら、僕は構わないし。それよりマリク。それって、尻尾の付け根のお触りも良いのかな?抑制剤作る時に、あのまま発情期に入っちゃったから触り損ねてたんだよね。」

わくわくと好奇心の隠しきれてないアシェルが問えば、マリクはこくんと頷く。

それにアシェルは、小さくガッツポーズをした。

マリクの抑制剤を作った時、それだけが心残りだったのだ。
マリクの身体を調べられたことと、薬の出来にはとても満足している。

「アークが心配なら、一緒でも良いよー?」

「……待て、なんでそうなる?」

マリクがきょとんと首を傾げる。

「じゅーじんは、何人かですることもあるらしいよ?」

それに食いついたのはアシェルだ。

「獣人族は多人数プレイをすることあるんだ。それって、発情期限定なのかな?普段も??」

「それは人によるみたいー。絶対に番とだけじゃないと嫌ーっていう人も居るみたいだよー。」

「へぇ、面白いな。そういう文化があるんだね。種族差があるのかとかもすっごく気になるけど、さすがにこれは調べられないだろうな、残念。」

「で、俺どうしたらいいー?ダメって言うなら帰るけどー。」

やっぱりへにょりと耳と尻尾をうな垂れさせたまま聞いてくる。

「僕は大丈夫って言うか、乗り気なくらいなんだけど。アーク次第かな?」

「それはどっちの俺次第だ?」

「どっちも。」

アシェルとしては、別に複数人だろうとマリクと二人でもあまり関係はない。
咲と健斗と色々してた時はある意味複数人プレイだったし、そういう本も見た事がある。

「はぁ……どうせ俺が嫌と言っても、マリクの尻尾を触るために隠れてされそうだ。それなら、まだ一緒の方がいい。」

「いいのー?俺嬉しー。アシェすっごく上手だったんだよー。」

アークエイドの言葉にマリクの表情が明るくなり、パタパタと尻尾が揺れてソファーを打つ。

「ねぇねぇ、早速触ってもいい?それとも寝室に移ってからの方が良い??」

今にもマリクの尻尾を触りそうなアシェルを、アークエイドがひょいっと抱える。

「せめて寝室に行ってからにしろ。マリクもそれで良いんだよな?」

「うんー。よろしくねー。」

こうしてアシェルはアークエイドに抱えられたまま、マリクと3人で寝室に移動したのだった。

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