氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第三章 王立学院中等部二年生

143 メルティーのクラスメイト①

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Side:アシェル13歳 春



メルティーの入学式から、一週間が経過した。

アシェルの毎日は、前年度の授業に加え体術の授業を取り始めたので、少しだけスケジュールが変わった。

本来女性は今年から音楽が必修となるのだが、音楽の苦手なアシェルはリリアーデの道案内役兼授業への参加を、しっかりデュークに押し付けておいた。
渋っていたが、結局リリアーデを一人で歩かせるのは不安らしく、ちゃんと音楽の授業へ申し込みをしていた。

そして毎晩の食事は最近のアークエイドとイザベルの三人に加え、メルティーとマルローネが来るようになった。
マルローネだけが先に来て、食事の準備が出来てから、イザベルとマルローネがメルティーをお迎えに行くという形にしている。

それからもう一つ。

昼食の時間も、昼休みに合わせて取るようにしていた。

主にメルティーに会うためだ。

「アシェお義兄様、アークお義兄様、お待たせいたしました。今日はお誘いを受けてクラスメイトの子も一緒なのですが、お席は大丈夫でしょうか?」

「午前中の授業お疲れ様、メル。うん、向かい側は空いてるから、レディ達はあちらに座ってね。」

メルティーが連れてきた二人のクラスメイトにアシェルがにっこりと微笑みを向けると、サッと頬が染まる。

メルティー達が席に着いたのを見て、皆でいただきますを言う。

まずは左側に座っている、無言なままのアークエイドの食事を味見する。

それから次にメルティーの食事を味見してから、自分の食事を味見する。

「アシェお義兄様……わたくしの分は大丈夫ですわよ?」

「メルは大丈夫だと思っても、僕がこうしないと落ち着かないの。僕を安心させるためにも、毎回味見させてね?はい、あーん。」

「アシェお義兄様っ、クラスメイトが……。」

メルティーは小さく抗議の声を上げるが、にこにことフォークを差し出したまま動かないアシェルに観念して、ぱくんと口に含んだ。

「どう?メルの好きな味でしょ。デザートもあるから一緒に食べようね。」

アシェルは上機嫌なフリをして、自分も食事に手を付ける。

「ねぇ、メルティー様。そろそろご紹介いただけないかしら?」

我慢しきれないと言った様子で、向かい側の少女がメルティーに声を掛ける。

貴族の自己紹介は、基本的に目上の者から声をかけるか、共通の知り合いに紹介してもらうのが一般的だ。
そうアシェルは習っている。

「ごめんなさい、わたくしったら。お二人はクラスメイトですの。それぞれから自己紹介していただいても良いかしら?お義兄様達を、わたくしが紹介するのも変だと思うの。」

「じゃあ、僕から自己紹介させてもらおうかな。メイディー公爵家の子、アシェル・メイディーです。隣がヒューナイト王国第二王子のアークエイド・ナイトレイだよ。アークはあんまりお喋り好きじゃないから、話しかけないであげてくれると助かるな。」

確実に自己紹介する気のないアークエイドの代わりに、アシェルが紹介をしておく。
メルティーのなら、これだけでも十分すぎる程だろう。

なんせ自己紹介をしてしまえば知り合い扱いになるので、一応家格の高いものからではあるが、社交界などで声を掛け合える仲になってしまう。
このずんずんやってくる令嬢は、そんなこと気にせず話しかけてきそうだ。

先程、真っ先に声を上げた少女が口を開いた。

「はじめまして、アシェル様、アークエイド様。わたくしノートン伯爵家の、ユリアナ・ノートンと申します。以後お見知りおきくださいませ。」

カーテシー出来ない代わりに、ユリアナは可愛らしく微笑んでみせた。

アシェルもそれに、にこりと微笑みを返す。

それからいつまで経っても口を開く気配のない、隣の琥珀色の髪をした少女に声を掛ける。

「そちらの名前を聞いていないレディは、どんな名前なのか教えてくれるかな?」

アシェルに話しかけられ、はしばみ色の眠たそうに見える瞳が戸惑いで揺れる。
思うにこの少女は、ユリアナに強引に連れてこられたのだろう。

「わたくしは、トリスタン侯爵家が娘、エスカ・トリスタンです。アシェル様達のことは、ティア様とカナ様からお聞きしております。よろしくお願いいたします。『それと……申し訳ありません。』」

最後の一言にだけ、魔力が乗ったのを感じる。
どうやら向かい側のアシェル達にだけ聞こえるように、音の方向を調整したようだ。

「エスカ嬢、そのティア様とカナ様について聞いても良いかな?」

「あ、すみません。アーバンレイ侯爵家の娘である、ティエリア様とカナリア様です。領地が近いので、お二人には沢山お世話になっているんです。」

「へぇ、ティエリア先輩と、カナリア嬢と仲が良いんだね。僕も二人には、とてもお世話になってるよ。」

アシェルとエスカが親し気に話しているからか、ユリアナが明らかに不機嫌な表情になる。

「あー、アシェ様ー、アーク様ー。お久ぶりですぅ。」

そこへ全く空気を読まない間延びした声が聞こえる。

「やぁ、パティさ……パティ嬢。遅くなったけれど、入学おめでとう。」

「入学おめでとう。パトリシアも昼食か?」

声がした方を振り向けば、やっぱりそこに居たのは、大衆食堂サクラで親しくなったパトリシア・スタークだ。

淡いピンク色の髪の毛に、ぱっちり二重のはしばみ色の瞳はくりくりと愛嬌があって、可愛らしい顔立ちをしている。

「そうなんですよぉ、なかなか一人で座れる席ってないんですねぇ。」

「一つだけ空いてる。そこに座ればいい。アシェ、良いよな?」

「うん。パティ嬢が嫌じゃなければ、そこの席にどうぞ。」

「わぁ、ありがとうございますぅ、お邪魔させていただきますねぇ。あ、皆さんはクラスメイトのぉ。お邪魔しますぅ。」

にこにこと笑顔を浮かべたパトリシアが、メルティーの向かい側の空いていた席に座った。

6人掛けのテーブルは、これで満席となる。

「アシェお義兄様、直接お話したことが無い方ですの。紹介してくださらないかしら?」

こそっとメルティーから聞かれ、アシェルは口を開く。

「スターク子爵家のパトリシア嬢だよ。王都にある飲食店を経営していてね。そこの料理が美味しくてよく通っていたから、僕らと顔馴染なんだ。」

「ただいまご紹介に預かりましたぁ、パトリシア・スタークですぅ。よろしくお願いしますぅ。クラスメイトの皆様のお名前はぁ、存じ上げておりますぅ。」

パトリシアはペコリと頭を下げてから、手を合わせていただきますをして、食事を摂り始める。
箸とナイフとフォークを器用に使い分けて食べている。
確かに使えればお箸は便利だ。たまにリリアーデも、学食で箸を使っている。

クラスメイトの自己紹介を聞く気はないらしい。
というよりも、雰囲気的にあまり聞きたくなさそうだ。

席に座った一瞬、油断なくこのテーブルに座る面々の顔を見渡していたのを見た。
特に隣に座るユリアナに目を向けたくなさそうだ。

「そっか。メルは僕の可愛い義妹だから、パティ嬢も仲良くしてくれると嬉しいな。メルも、パティ嬢と仲良くしてあげてね。ちょっぴりどんくさいところもあるけど、とても良い子だよ。」

「パトリシア様、メルティー・メイディーと申します。よろしくお願いいたしますね。」

「アシェ様ー、どんくさいは余計ですぅ。」

メルティーの向かい側で、ぷくぅと可愛らしく頬を膨らませるパトリシアに、アシェルは笑う。

喋り方の割にしっかりしているのに、時たま思ってもみなかったようなミスをするのだ。
それがなんとなく面白い。

「ふふ。でも、そこもパティ嬢の良いところだよ。あと、様じゃなくて先輩で呼んで欲しいな。様付けで呼ばれ慣れてないし、パティ嬢も、その方が馴染みがあるんじゃない?」

パトリシアは“授け子”なので、先輩呼びには馴染みがあるはずだ。
サクラではアシェル達は冒険者だったので、さん付けだった。

「いいんですかぁ?じゃあ、アシェ先輩って呼ばせてもらいますねぇ。」

「パトリシア、俺もアシェの呼び方と合わせてくれていい。様はよそよそしくて違和感がある。」

「わわっ、それは本当に大丈夫ですかぁ?わたし、護衛の人に捕らえられたりとかは嫌ですよぉ。」

パトリシアはそれまで笑顔だったのに、急に不安そうな表情になる。

「気にするな。」

「ありがとうございますぅ。それじゃぁ、アーク先輩って呼ばせてもらいますねぇ。そういえばぁ、エトさんやマリクさんも王立学院生でしたよねぇ?今日はご一緒じゃないんですねぇ。」

「二人はもうご飯を食べてるだろうからね。あぁ、二人にもきっと、様はつけない方が良いと思うよ。特にエトはかたっ苦しいのが苦手だしね。」

「ふふふ、そうですねぇ。気を付けておきますねぇ。今度お姿を見かけたらぁ、声をかけさせて頂いてもいいですかぁ?」

「もちろん。パティ嬢の制服姿を見たら褒めてくれるんじゃないかな。とても良く似合っていて可愛いよ。」

「もぅーアシェ先輩ったら、口がうまいですねぇ。褒めてもなにもでませんよぉ。」

にこにこと会話を終え、アシェルは隣のメルティーにまたフォークを差し出す。
それにぱくんとメルティーが食いついた。

「アシェお義兄様の分が無くなってしまいますわよ?」

「メルは気にしなくて良いんだよ。はい、こっちもどうぞ。」

にこにことメルティーに餌付けしているアシェルに、ユリアナから声がかかる。

「アシェル様はメルティー様と、とても仲がよろしいんですのね。兄妹仲が良くて羨ましいですわ。」

「ユリアナ嬢もご兄弟が?」

本当は知っているが何も知らないフリをして聞けば、ようやくアシェルと会話できることに喜んだユリアナが微笑んだ。

「はい。年の離れた兄がおりますの。かなり離れてるので、あまり仲が良くなくて……。」

「そうなんだ。お兄様はもうとしての仕事もしていて大変そうだものね。きっと覚えることもやることも多くて、時間が取れないだけじゃないかな。」

「えぇ、父が早めに隠居したので、兄はもう当主をしておりますわ。流石、アシェル様は博識ですのね。」

「ありがとう。」

ユリアナと喋りながらもメルティーの口にフォークを運びながら、にこりと微笑んでおく。

何を勘違いしているのか知らないが、アシェルは社交界には詳しくない。
ノートン伯爵家だから分かるだけだ。

当主と言う単語にアークエイドもぴくりと反応し、アシェル達だけに分かる不機嫌さを滲ませる。

アークエイドと関わった時間の長いメルティーもそれに気付いたようで、せっせと自分の食事を食べ始めた。

ノートン伯爵家はウォルナットの媚薬事件の時に、アシェルを手籠めにしようとした貴族の一人だ。
その時の罰として、当主を交代して多額の賠償金を支払っているはずである。
そのお金の一部は、慰謝料としてメイディー公爵家にも払われている。

この様子だと、そんな事件のことすら知らなさそうではあるが。
もし知っていてメルティーに近づいたなら、ある意味大物だ。

「ご馳走様でしたぁ。」

いつの間に食べ終わったのか、一番遅く来たはずのパトリシアが、一番最初に食べ終わって手を合わせた。

そのあとにアシェル達も、ごちそうさまを言い立ち上がる。

「ユリアナ嬢はゆっくりご飯を食べてね。急いで食べるのは身体に悪いから。」

アシェル達は立ち上がって食器を返却口に持っていく。

それからほんの少しで食べ終えたエスカも、トレイを持ってぱたぱたと駆け寄ってきた。

「アークエイド様、アシェル様、メルティー様。この度は本当に申し訳ございません。ご迷惑をおかけしたくなかったんですが、断れなくて……。」

しょんぼりとエスカが肩を落とす。

ティエリアとカナリアから話を聞いているということは、恐らくファンクラブ【シーズンズ】の教えも聞いているのだろう。

「エスカ嬢のせいじゃないから、気にしなくて良いよ。どう見てもユリアナ嬢が諸悪の根源だしね。三人共、彼女と友達になるのだけはお勧めしないよ。家族もだけど、本人も心が綺麗とは言えなさそうだからね。」

「アシェお義兄様……大丈夫ですの?イザベルを探してきましょうか??」

「メルには分かっちゃうか。ううん、大丈夫だよ。それより三人共、あの子から何かされたりしたら教えてね。僕から注意するから。」

しっかり頷いた新入生三人と別れ、アシェルはその足を寮へと向ける。
移動する前にアークエイドに声をかけておく。

「ねぇ、アーク。申し訳ないんだけど、結界学の先生に僕が欠席すること伝えてくれる?あと歴史の先生にも。結界学の先生はうるさいかもだけど、自分で考えた結界の術式考えてるって言ったら、すぐ引くから。あと、ノートよろしく。」

「待て、アシェ。何処に行くんだ?二つとも必修だから——。」

言いたいことだけを言って、立ち去ろうとしたアシェルの腕が引かれる。

「別に出なくても、授業はついていけるから。寮に戻るだけだよ。思いついたことを書き留めておきたいからね。アークはついてこないでよ。」

「だが、その表情は。」

「……うるさいなぁ。良いから離して。」

静かに怒気を含めて言えば、渋々といった様子でアークエイドの手が離れていく。

「あぁ、あとベルに伝言しておいて。今日はメルの部屋でご飯にしなさいって。あと、アークもこの週末は僕の部屋に入らないで。じゃあね。」

言いたいことを言いきって後ろも振り返らず、アシェルは自室へと一直線に向かった。

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