氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第三章 王立学院中等部二年生

147 メルティーのクラスメイト⑤

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Side:アシェル13歳 春



あの後しっかり眠ったアシェルは、週末は実験室に籠って思う存分錬金をして、味見をして、その影響でぐったりとして過ごした。

錬金に集中できるか不安だったが、始めてしまえばいつも通り集中したし、危うく約束した朝の登校をし損ねるところだった。

そうならなかったのは、朝一でアルフォードが訪ねて来たからだ。

リーンリーンとよく響く呼び出し音に気付いて応接間の受話器を取ると、モニターには制服を着たアルフォードが映っていた。

すぐに部屋に通すと、朝の挨拶はそこそこにぎゅっと抱きしめられる。

「アル兄様?おはようございます。」

「あぁ、おはようアシェ。ちゃんと寝たか?錬金は楽しめたか??」

この様子で、アルフォードも先週末のことを知っているのだと気付く。

そもそもシオンは生徒会室に行くと言っていたし、メルティーもアークエイドもノアールもいるのだ。
話を知らないはずが無かった。

アシェルを抱えて、アルフォードはソファに腰掛ける。
向かい合って座った充電スタイルだ。

「はい、たっぷり楽しめました。それに、アル兄様が来たので時計を見て気付いたんですが、そろそろ準備しないとホームルームに遅れてしまいますね。」

「アシェのことだから、忘れそうだと思った。来て正解だな。この週末は何を作ってたんだ?」

アシェルが錬金を始めて直ぐの頃、アレリオンとアルフォードが、いつもこうやって内容を聞いてくれていた。
その習得度に合わせて新しい教本や、公開されているレシピなどを取り寄せて見せてくれたのだ。

「実は春休みに【宵闇のアルカナ】。あ、【宵闇のアルカナ】は僕ら王都組の冒険者パーティーの名前です。この前話した知人の【朱の渡り鳥】と、合同で依頼受注したので決めました。その依頼をこなすために三の森に行ったんですが、素材がたっぷり色々取れましたから。まだ手を付けてなかった、緑ハチと一番強い毒蜘蛛の毒を使って、飛びっきりの毒薬を作っていました。レシピの公開は出来ないやつですが、この二日間できっちり調整をした自信作です。」

ちょっぴりアシェルが得意げに話すのを、アルフォードはにこにこと聞いてくれる。
そして頭を撫でてくれる。

こんなところも、幼い時にしてもらったのと一緒だなと思う。

「そういえば、まだ礼を言ってなかったな。父上やアン兄も俺も、色々な素材を良い状態で手に入れられて嬉しかったぞ。ありがとな、アシェ。」

アルフォードがアン兄と呼ぶのは久しぶりに聞いた気がする。
確か最後に聞いたのは、アシェルが街の喫茶店でパニックを起こした時だし、その前は王立学院に入る前だ。

何故アルフォードは、こんなに邸での思い出を思い出させるような行動をしているのだろうか。

「良かったです。きっと皆欲しいだろうなって思って、多めに採取しておきましたから。ところで……すごく既視感があるのですが、何かありましたか??」

どう伝えて良いのか分からず、自分の感じたことを伝える。

「どの辺りに既視感を感じた?」

アルフォードの瞳に好奇心の色が見える。
キラキラと輝いていて、見ていて楽しい気分になる色だ。

「僕が錬金を始めた頃、よくこうやって、錬金で何をしたかって聞いてくれてましたよね。そのあとにたっぷりと、新しい教本や素材をくれてたのも覚えてます。それに、アル兄様がアン兄様のこと”アン兄”って呼ぶのは、王立学院に入る前と、入った後は僕がアル兄様とのデート中にパニックを起こした時です。……なんとなく、僕に小さい頃のことを思い出させようとして、使っているような気がして。」

「正解だ。流石アシェだな。俺達もメルもイザベルも、アシェのことが大好きだからな。それを少しでも思い出したら良いなって思ったんだよ。」

アルフォードの言った理由に、アシェルはきょとんと首を傾げた。

アシェルが沢山の無償の愛情を貰っていることは分かっているし、アシェルも家族のことが大好きだ。

「その表情は分かってないな?大好きだからこそ心配するんだよ。俺達、味見して何回イザベルに怒鳴りこまれたと思ってる?調子が悪いと心配するし、それを隠されると余計に心配なんだよ。八つ当たりしても良いから、親友に話しにくいなら俺達に相談してみろ?相談じゃなくて、ただひたすら愚痴を言うだけでも良いけどな。」

アルフォードは、こうやって心配する存在がいることを伝えたかったのか。
少し遠回りで分からなかった。

「……僕は18回、アン兄様は31回、アル兄様は58回です。」

「それは怒鳴りこまれた回数ってことだよな?そんなもの覚えてなくて良いからな。って言うか、俺だけ無駄に回数が多くないか?普通アシェの方が多そうなのに。」

アルフォードの表情は明らかに、納得できないと言っている。

「ベルが怒鳴り込んできてたのは、ベルが邸に勤め始める8歳よりも前ですから。アン兄様もアル兄様も毒薬を作ることを隠さないから、ベルに怒鳴り込まれるんですよ。僕は必要素材から要る部分だけ回収したり、露骨な見た目のものはさっさと成分抽出して、ベルに見られないように配慮してましたよ。半分は作っているものを見てで、もう半分は味見後にこられて怒鳴られたやつです。」

「小細工してたのか……確かに、素材見てなんとなく毒薬作りそう!って言われてたからなぁ。イザベルは特別勉強してた感じはなかったんだけどな。」

「僕の読み終えた本をたまに捲ってましたから、危ないものだけ覚えたんじゃないですかね?」

「あぁ、それはあり得そうだな。」

コンコンと扉が叩かれ、ガチャリと鍵が開く音がする。

そして扉が開き、制服姿のイザベルが入ってきた。

「アシェル様、起きていらっしゃいましたか。アシェル様、アルフォードお義兄様、おはようございます。」

「おはよう、イザベル。あ、紅茶は要らないぞ。」

キッチンへ向かうイザベルを、アルフォードが止める。

「アシェル様、お加減は如何ですか?」

すっと壁際に立ってそう問われる。

「隣に座りなよ。別に邸にいるわけじゃないんだしさ。」

渋るイザベルを連れてくるために、アルフォードの頬にチュッとキスをしてお返しを貰ってから、イザベルを抱えて戻ってくる。

「アシェル様!先程アルフォードお義兄様で、充電なさっていたでしょう。」

アシェルの膝に大人しく抱かれてくれているが、イザベルはぷくっと頬を膨らませている。
とても可愛い。

「ベルとの充電はまた別だよ。心配かけてごめんね。もう大丈夫だよ。……また同じことにならない約束は出来ないけど。」

「それは大丈夫とは言いませんわ。嫌な眼はアシェル様に向けられたんですの?」

アシェルに抱えられたので、侍女として接することを止めたようだ。

「ううん、メルに。僕は薫の記憶を思い出したから、もう僕に嫌な眼を向けられてもパニックになることは無いよ。……メルは、自分にあの眼が向けられていたのを気付いていたかな?」

「大丈夫だぞ。アシェに向けられたんじゃないかと思ってたみたいだからな。アークエイドには喋りかけるなって、釘を刺しただろ?あわよくば二人と。無理でも第二王子とお近づきになりたかったみたいだからな。」

釘なんてさしたかなと考えて、アークエイドの自己紹介を代わりにした時に、そんなことを言ったなと思う。

「ねぇ、アル義兄様。僕達がメルに構うと、あの眼をメルに向ける人は増えちゃうのかな。」

「ああいうやつらは、俺達がどうしようと変わらねぇよ。」

「……そうですよね。はい、アル兄様もベルをどうぞ。」

イザベルの頬にチュッとキスをして、隣のアルフォードの膝にイザベルを乗せる。

イザベルが逃げ出すより早く、その身体はアルフォードの腕の中に包まれた。

「イザベルと充電するのは久しぶりだな。邸に勤め出してから、全くさせてくれなくなったからな。」

「アルフォードお義兄様っ、下ろしてくださいませ。」

真っ赤に頬を染めたイザベルが、ぽかぽかとアルフォードの胸を叩いているが、全くダメージにはなっていない。

「アル兄様が羨ましそうに見てましたから。僕は着替えてくるから、アル兄様はしっかりベルで充電してくださいね。」

「あぁ、ありがたく充電させてもらうよ。」

小さい頃のように、イザベルの頭も撫でられている。

イザベルはアシェルの乳兄妹だが、アレリオンやアルフォードにも同じように妹として可愛がってもらったし、イザベルはメルティーのことを可愛がってくれている。
アシェル達にとって、イザベルも大事な義兄妹だ。

アシェルばっかりイザベルに充電してもらうのは不公平だと思ったのと、きっとアシェルが着替えに行くとイザベルは壁際に戻ってしまうだろう。

邸ではこうはいかないが、ひと時の義兄妹の時間を楽しんでほしいな、と思いながら寝室へと向かった。



結局イザベルは、アシェルが戻るまでアルフォードの膝の上だった。

いつものようにアークエイドと合流して、アルフォードも加えた四人で校舎へ向かい、アシェルよりも後からやってくる幼馴染達に口々に「大丈夫?」と聞かれた。

それに微笑んで大丈夫だと答えながら、メルティーにもこんな風に仲の良い友達が出来たら良いなと思った。

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