氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第三章 王立学院中等部二年生

148 風の双子の誕生日

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Side:アシェル13歳 春



5月17日を過ぎて、最初の土曜日。

今日はリリアーデとデュークの誕生日会の日だ。

いつものようにアシェルの部屋で誕生日会を行うのだが、朝からアシェルもイザベルも、そしてメルティーから借りたマルローネも大忙しだった。

誕生日ケーキは邸の料理長にお願いして、様々なフルーツの乗ったケーキを用意してもらった。
しっかり蝋燭も、大きいのが一本に小さいのが四本だ。

18時になる頃、部屋の扉が叩かれる。
扉を叩ける人間は限られているので、イザベルがさっと扉を開けた。

「いらっしゃいませ。お席にどうぞ。」

「邪魔をする。」

「ちょっと早く来ちゃったけど、ご迷惑じゃなかったかしら?」

「お邪魔します。」

すぐそこで出会ったのか、アークエイドとリリアーデ、デュークが最初に到着した。

「いらっしゃい。皆揃ったら始められるから、席に座っちゃって。」

「アシェル様、私はマルローネと共にメルティー様をお迎えに上がります。」

「うん、よろしくね。」

三人に着席を促すアシェルに、イザベルとマルローネはぺこりと頭を下げて出て行く。

「アシェ、何か手伝うことはあるかしら?」

「準備は終わってるし、主役はお手伝いなんてしないものだよ。ほら、座って。」

今日のダイニングテーブルには、邸の食卓のようにテーブルクロスを掛けて花も飾ってある。

テーブルクロスの刺繍はアシェルお手製だ。
それぞれの座る席の位置の裾にそれぞれの家紋を刺繍していて、それらを繋ぐように蔦と各家の家紋についている花々を刺繍してある。

「見事な刺繍だな。俺のところには王家の紋章か。」

「ふふ、ありがとう。頑張って刺繍したかいがあるよ。」

料理を並べるのはイザベル達がすると言って聞かなかったので、アシェルもメイディー家の家紋の刺繍された前の席に座る。
メイディー公爵家の家紋はフラスコと試験管、そしてカスミソウだ。

「これアシェが刺繍したの?凄いわ。」

「リリィも刺繍上手だが、アシェも凄いな。」

「ちょっと、刺繍ってどういう意味よ。」

「違ったな。手芸全般は、だ。」

「意味が変わってないわよっ。」

今日の主役二人のやり取りに笑っていると、リーンリーンと来客を告げる音がする。

「鍵開けたからどうぞ。」

インターホンの受話器を上げ、モニターを確認して開錠ボタンを押す。

それから程なくして扉が叩かれたので、来客を迎え入れた。

「いらっしゃい、席に座って。」

エラートとマリク、ノアールとエトワールが連れ添って入ってくる。

「カドラスの家紋なんてよく知ってたな。」

「俺の席はテイルのだねー。」

「僕らのところはアスノームだね。」

「凄い刺繍だな。」

「一応みんなの家紋は知ってるよ。手紙が来た時に分からないと困るでしょ。」

カドラス侯爵家の家紋はラウンドシールドを貫く大剣と、コンラート地方の家紋には必ずついているブルーサルビアがモチーフだ。

王家の家紋は三日月と星とルピナス。

シルコット辺境伯爵家は大樹とコスモス。

テイル公爵家はオオカミとオジギソウ。

アスノーム辺境伯爵家は錨とアルメリア。

そして蔦と共に刺繍したのはそれらの花と、デイライトのスノーフレーク、ウェンディーのアマリリス、フレイムのナスタチウムだ。

各地方の家は、それぞれ各地方の首都となる家の花が必ず用いられている。
カドラス侯爵家の家紋に、コンラート公爵家の家紋に使われているブルーサルビアが用いられているように。

本当はトラスト伯爵家の家紋も刺繍しようとしたのだが、マルローネの家紋が分からない上にイザベルからメイディーの使用人なので、メイディーの家紋を刺繍するように言われてしまった。
そのため、メイディーの家紋は計4箇所についている。

「いやいや、普通自分家と良くやり取りする家くらいだろ。大体、執事がどこから来たか教えてくれるしよ。」

「僕は物覚えが良いほうだからね。」

「ねーアシェー。今度テイルのししゅーしたハンカチちょうだいって言ったら怒るー?」

「なんでそれくらいで怒るのさ。少し時間がかかってもいいなら良いよ。ハンカチは白で良いの?」

「うんー。ありがとー。」

マリクの尻尾が嬉しそうに揺れる。

「俺も欲しい。」

「ふふ、アークもだね。せっかくだから全員分作っちゃおうかな。ハンカチに刺繍するなら、そこまで時間もかからないし。」

「かからないわけないでしょ。さすがにこのサイズで刺繍するほどの時間はかからないでしょうけど。ワンポイントでもそこそこ時間がかかるわよ。」

「空いた時間にちまちま刺してたらあっという間だよ。家紋もどの色を使うのかも覚えてるから、いちいち図案を確認する必要がないしね。」

「それは確かに早いかもしれないわ。細かいと特に図案を見るのが大変だもの。アシェ程上手じゃないけれど、わたくしも皆の分を刺繍してみようかしら。」

そんなことを話していると、イザベル達が帰ってきた。

誕生日パーティーの始まりだ。



食卓に様々な料理が並ぶ。

今日は個別に出すのではなく、大皿からそれぞれ取って食べてもらうスタイルだ。
誕生日と言うと、こういうイメージが強い。
貴族の知識としてではなく、前世の知識で。

貴族の食卓で取り分ける大皿料理が出ることもあるが、全て取り分けが必要な料理ばかりということはない。
その取り分けは頼めば給仕のために壁に控えた使用人がやってくれるし、近ければ自分で手を伸ばして取ってもいいが、遠ければ必ず使用人に頼まなくてはいけないものだ。

「皆、食べるのは少し待ってね。」

全員が着席したのを確認して、アシェルは冷蔵庫からフルーツケーキを取り出して、主役二人の前に置く。
それから蝋燭を挿していく。

「アシェ、これって……。」

「うん。日本式だよ。『火を灯して』部屋を『暗く』して。さぁ、準備完了。謳うのは僕だけだけだから、少し寂しいかもしれないけど。」

アシェルが自分の席に戻る間に、リリアーデがデュークに「おめでとうって言われたら、火を吹き消すのよ。」とレクチャーしている。

他の面々は一体何が始まるのかと首を傾げているが、せっかくなら日本式で祝ってあげたかったのだ。

一人で歌う恥ずかしさはあるが、誕生日と言えば歌がなければ始まらない。

「ハッピバースデートューユー、ハッピバースデートューユー、ハッピバースデーディア、リリアーデとデューク。ハッピバースデートゥユー。二人とも誕生日おめでとう。」

アシェルのおめでとうに合わせて、二人は揃って蝋燭の火を吹き消してくれる。
幼馴染の皆も、誕生日おめでとうと口々に言ってくれた。

その火が全て消えたのを確認して部屋を『明るく』した。
魔道ランプは魔力の流れでスイッチのオンオフが出来るので、誰かが電気のスイッチまで行かなくてよくて便利だ。

「ありがとう。まさか、こんな誕生日を迎えられるなんて思ってなかったわ。それに歌ってもらうなんて、何十年ぶりかしら。」

「大人になったら、なかなか歌ってもらう機会もないしね。さぁ、ケーキは仕舞ってくるから、皆はご飯食べ始めちゃって。」

ほんの少し涙ぐんでいるリリアーデの額にチュッとキスをして、蝋燭を外したケーキを冷蔵庫に仕舞って戻る。

「今のが、リリィやアシェの前世の祝い方なのか?」

席に戻ればデュークが聞いてくる。

「そうだよ。家族と一緒に、こうやってお祝いするんだ。僕は孤児院出身だから当日じゃなくて、その月の子をまとめてだったけど。大抵は当日に、こうやって家族揃ってお祝いするんだって。」

「そうね。それに蝋燭もちゃんと決まりがあって、大きい蝋燭が十歳分、小さいのが一歳分なのよ。だから、わたくし達のは大きいのが一つに、小さいのが四つあったでしょう。ふふふ、懐かしいわ。」

溢れ出しはしないものの潤んだ瞳のリリアーデは、大人びた表情で懐かしそうにしている。
前世の家族のことを思い出しているのだろうか。

「どっちのお祝いの仕方にしようか悩んだんだけど、こっちの誕生日会って、言ってしまったらただのお食事会とかパーティーでしょう?プレゼントだって、一塊に置かれてたりしてさ。なんかクリスマスパーティーっぽさが強くて、あんまり誕生日感がないかなって思ってさ。」

「ふふふ、確かにそうね。こちらにはお誕生日会も、クリスマスパーティーも、なんならバレンタインすらないから。どんなお祝いでも一緒くたに、パーティーになっちゃうわよね。」

「そういえばバレンタインもないね。無くて良かったと切に思うよ。」

「もう、それは毒見が沢山必要になるからでしょう?今年はわたくしから、アシェに友チョコをあげましょうか?お返しはホワイトデーで良いわよ。」

「ホワイトデーだと、僕からのお返しはクッキーになっちゃうよ?キャンディーやマカロンを送るのは、男女間のお返しだし。あ、マドレーヌやバウムクーヘンなら良いかな。」

以前、咲から調べてほしいと言われたホワイトデーのお返しの意味について思い出しながら言うと、リリアーデが苦笑した。

「わたくしにはお返しの意味は分からないわよ。クッキーがお友達で、キャンディーは貴方が好きですって意味があることくらいね。」

「マカロンもキャンディーみたいな感じで、貴方のことを特別に思っています。マドレーヌが、日本では縁起物の貝に見立ててて、縁結びや円満な関係を意味して、もっと仲良くなりたい。バウムクーヘンは年輪に見立ててて、成長を意味して縁起が良くて、いつまでも幸せが続きますように、だよ。図書館で調べただけだけどね。」

「そんな意味があるのね。面白いわ。ちなみにチョコをお返しでもらったら、何か意味はあるのかしら?」

「特に意味はないみたいだよ。」

二人にしか分からない会話を広げていると、少しだけアークエイドとデュークが不機嫌になる。

「なぁ、アシェ。懐かしいのは分かるが、全く話が見えない。」

「リリィがアシェにしか分からない話をしてる。嬉しかったのは分かるけど。」

「まぁまぁ、良いじゃねぇか。お祝いの席なんだし、泣きそうになるくらい感動したんだろ?」

「俺だってノアのことで知らないことなんていっぱいあるんだし、授け子のことなんて知らない事があって当然だろ。それより主役なんだから分かんないことなんて気にせず、もっと楽しそうにしろよな。」

「そうだね。僕だってトワのこと全部答えられるわけじゃないし。特にデュークとリリィは男女の双子なんだから、分からないことも多いんじゃないかな。」

「そーそー。楽しもー。お肉美味しーよ。」

アシェルとリリアーデが何か言う前に、幼馴染達が喋りはじめてしまった。

ちょんちょんと服の裾を引かれ、メルティーの方を見る。

「アシェお義兄様の住んでいたところでは、こんな誕生日が普通でしたの?」

「うん。僕が知ってるのは、一般家庭じゃなくて孤児院の、皆でする誕生日パーティーだけどね。そうだね……こんな感じで、すごく賑やかだったよ。」

「楽しかった記憶ですのね。大皿からこんな風に頂くなんて、初体験ですわ。」

「あぁ、メルはそうかもね。普通はこんな食事の摂り方しないし。皆は野営経験があるから抵抗ないだけかも。ごめんね、食べにくい?」

貴族の食事は普通、各個人にそれぞれ盛り付けられた食事が出てくる。

学院祭の時に皆で食べ歩きなどしたが、本来なら貴族ではあり得ないのだ。
特に、アシェル達の様な高位貴族は。

でも皆何だかんだと野営経験があったりで、普段そこまで食事のマナーにうるさいわけではない。

イザベルとマルローネにはなんとか承諾させたのだが、メルティーのことをすっかり忘れていた。

「いいえ、大丈夫ですわ。嫌とかじゃなくてビックリしたんです。皆様、普通に召し上がっていらっしゃるので。邸ではないですしね。」

笑ってくれるメルティーに、アシェルも笑顔になる。

せっかくのお祝いの席なのに、大切な義妹に嫌な思いをさせてしまうところだった。
もう少し配慮しなくてはいけない。

結局アークエイドとデュークの不機嫌なんて無かったかのように、わいわいと時間は過ぎていく。

誕生日ケーキはイザベルが切り分けてくれて、それがマルローネの手で配られる。

さすがに11人でワンホールを分けると少なくなってしまうので、もう一つ同じケーキがあって、それを分けてくれた。

「メル、あーん。」

イチゴを刺したフォークを差し出せば、ぱくんと可愛い口で食べてくれる。

それが嬉しくて楽しくて、何度も差し出す。

リスのように頬を膨らませたメルティーも見てみたいが、毎回ちゃんと飲み込んでからしか食べてくれないので、未だに見たことがない。

「もう……アシェお義兄様の分が無くなってしまいますわ。」

「僕は良いんだよ。懐かしいことを沢山思い出して、お腹いっぱいだからね。」

こんなに沢山のフルーツが乗ったケーキではなくて、イチゴのショートケーキだった。

それもイチゴと生クリームとケーキのスポンジを買ってきて、誕生日ではないある程度の歳の子供達が総出で作るのだ。

だから不格好なケーキがあったり、中にはホイップクリームが甘すぎたり味がしなかったり。固すぎたり柔らかすぎたり、その日のケーキだけでも色々だったし、月によっても違った。

でも施設の子供達にとって、月に一度の甘味を食べられる日で、とても楽しみにしていた日だったのだ。

咲はイチゴが好きだったので、健斗と一緒に咲にイチゴを食べさせていたことも覚えている。
自分で食べるよりも、美味しそうに食べる咲の表情が見たかったのだ。

だからなんとなく誕生日ケーキのフルーツは、美味しそうに食べてくれる相手の口に運んであげたくなってしまう。

そうやってケーキのフルーツが無くなるまでメルティーに食べさせていると、話が野外実習のことになっていた。

「なぁ、アシェ。救難信号を出した生徒を助けたとして、俺らはその後どうしたらいいんだ?あと、別れたメンバーをどうするかってのが。」

エラートに問われ、アシェルが全日程に参加するために教師から聞いた話を聞きたいのだと気付く。

「別れたメンバーは川沿いを歩いてもらって、魔の森入り口寄りのキャンプに行ってもらうことになってるよ。だから実習中は、一の森と二の森の間の川がある方角だけは意識しておいて。救難信号はしばらく見えるはずだから、出来ればパーティーメンバーの安全が優先で。川の近くまで誘導してから向かってくれても良いよ。もし信号を出した人たちのところに誰か着けば、救難信号を出す魔道具のスイッチを押して信号を消すことになってるんだ。魔道具の使い方については、当日説明があると思うよ。救助した後は、戻れそうなら出来れば川沿いまで出てからキャンプへ連れて帰ってあげて。ヒールを使うのなら、最低限クリーンをかけてからで。出血が酷い場合は早めに傷を塞いであげて欲しいかな。マリク、リリィ、ノアならできるよね?」

アシェルが確認すれば、それぞれ頷いてくれる。

「パートナーがケガ人の対処をしている場合は、相方が周囲を注意してあげてね。アークは僕がいるから良いけど、他の人は索敵と同時にってのは難しい状況かもしれないから。もし地形が変わってたりで要救助者の元に辿り着けない時は、専用の魔道具で信号を出してもらうことになるよ。救難信号は赤く光るんだけど、僕らは青、エト達はオレンジ、リリィ達は緑、ノア達が黄色の信号が出るから。特にノア達は森に慣れてないから無理はしないように。場所が遠ければ向かわなくていいよ。エト達は地形の変化があったら、必ず引き返すこと。エトは魔法で無理やり進めないでしょ。それから、僕らの青が光った場合、全員近くに居るグループを回収しながらキャンプへ戻ること。僕とアークが進めないってことは、魔素のない地帯が発生している恐れがあるから……というか、それ以外なら進めるから。青が光ったら、キャンプで先生の指示を仰いで。」

本当は二年生の日程が近づいたら伝えようと思っていたことを、全部伝えてしまう。

「かなりしっかり決まってんだな。分かった。ちなみに、毎年そんなに厳重なのか?」

「ううん。救援部隊に別々の魔道具を持たせるのは、今年初の試みみたい。でも、救助部隊がいるのは普段からだって。今年は各学年、三組と僕。中等部二年だけ僕ら四組。最上級生は三の森に入るから、最上級生の一組はアル兄様と魔法学で上位の先輩で、薬草学や錬金、生物の授業も取ってる人だって。どの学年もペアの一人は生物を取ってて、魔法学上位の人が救助部隊に選ばれてるみたい。」

「そっか。何もなければ良いんだけどな。」

「そうだね。でも何かあった時に困るから、これだけきっちり色々決まってるのは安心だよ。四学年分は僕は自由時間みたいなものだから、素材採取でもしながらあちこち回ろうかなって思ってるんだよね。三の森はあと木の実付きのトレントを見つけたいんだよなぁ。まだトレントの致死毒は手に入れたことが無いからすっごく欲しいんだけど、レアすぎるんだよね。極まれに木の実が割れてるのは報告あるんだけど、そうなると肝心の中身が手に入らないからさ。」

他にメンバーがいると危なくて周囲に配慮するのが大変だが、アシェル一人なら探すのはありだ。
それに春から夏にかけて実をつけやすくなると、文献には書いてあった。

6月の一週目から毎週二日間ずつ実習は行われていて、三の森は6月頭だ。7月頭にアシェル達は実習のために二の森に行くことになる。

時期的に探せば見つかるかもしれないので、地味に楽しみにしている。

「それって、俺達に近づくなって言ってたやつだろ?アシェが救難信号出すことがないようにしろよ。」

エラートに笑いながら言われるが、アシェルはそんなミスはしないし、もし受けたとしてもさっさと解毒する。

味見は、ゆっくりと自室でするから良いのだ。

「大丈夫だよ。味見はちゃんと帰ってからするから。」

「致死毒を味見しようとするな。」

「アシェル様……。」

アークエイドとイザベルから、じとっとした眼を向けられるが、無視だ。
新しい素材を手に入れて、味見をしないなんてあり得ないのだから。

「メルも、トレントだけはダメだからね。いや、味見次第では体験したければさせてあげるけど、絶対に一人では駄目だよ。手に入れられるかどうかもだけど、どちらにしても味見次第だね。」

「うぅ。アシェお義兄様達だけ味見するのでしょう。ズルいですわ。」

「こればっかりは体質の問題だからね。……もし風味を落とさずに弱毒化できるか、解毒剤を作れたら味見させてあげるから。それじゃダメかな?」

ちょっぴり拗ねたメルティーの頭を撫でながら、アシェルの許容できる妥協案を提案する。
メルティーを悲しませたくないが、体質だけはどうにもならない。

その血族ではないことをありありと見せつける体質のことを、メルティーが気にしているのも知っている。

してくださいますか?」

「うん。もしトレントの毒を手に入れたら、風味を落とさず弱毒化できた段階か、解毒剤が完成した時点で、僕付き添いの元メルに味見させてあげるってするよ。」

ようやくメルティーの機嫌が直ったように見えたところで、別の声が上がる。

「アシェ、するじゃないだろ。なんでお前たちは……。」

「だって、新しい素材だよ?味見せずに我慢なんて出来るわけないじゃん。」

「そうですわ。アシェお義兄様たちのように、体内魔力での解毒も判別も出来ませんけど、鼻と舌で見極めるのは得意ですわ。残念ながらマナリア草の抽出液のように、無味無臭の液体を出されると分かりませんけどね。」

アークエイドに呆れたような視線を向けられるが、知った事ではない。
これはメイディー家では普通の感覚なのだから。
血の繋がりは無くても、物心ついた時からアシェル達と一緒に育ったメルティーも同じだ。

流石にメルティーは新薬の開発まではしないものの、レシピ通りに作るのはとても上手だ。
アベルに入った薬の大量生産の依頼など、兄妹総出で手伝ったりもする。

「そうだ。今度メルにも、三の森の素材を味見させてあげるね。夏休みが良いかな。メルの実験室を借りてもいい?」

「えぇ、アシェお義兄様の実験室はお部屋に移されてますものね。わたくしもいくつか道具は持ってきてますけど、大体はそのままですから。」

父や兄達にはお裾分けしたが、メルティーにはしていない。
理由は、一人で味見すると危険なものも混じっているからだ。

「ついでにフォアレン草の味見もさせてあげるね。フォアユウ草の品種改良品で、効果は強いけど直ぐに解毒すれば問題ないから。ビースノートでしか手に入らないから、新鮮な状態で味見できるのは貴重だよ。」

揮発性の成分を多く含むフォアレン草は、しっかりアシェルのストレージの中で鮮度が保たれている。

「おい、アシェっ。義妹に媚薬の原料を味見させようとするなっ。」

アークエイドが声を荒げる。

「なにさ。別に僕特製の媚薬を飲ませるわけじゃないし、ただの抽出液だよ?すぐに解毒してあげるからいいでしょ。ねぇ、メル。」

「そうですわね。フォアユウ草は味見したことがありますし。品種改良した香りと味に、どんな違いがあるのか楽しみですわね。」

ねーと顔を見合わせるアシェル達に、アークエイドが信じられないという顔を向けるが、イザベルが口を挟んだ。

「アークエイド様。諦めてくださいませ。アシェル様たちにとって、それがどんなものでも素材ですから。真新しい素材は、皆様味見されます。」

楽しそうに素材談義に花を咲かせる二人を除いて、全員がアシェル達三兄弟だけじゃなくメルティーもか、と苦笑している。

「まぁ、毒薬を味見するんだもの。媚薬なんて特に避けるようなものなんじゃないかしら?というか、媚薬って本当に効くのかしら?前世の記憶しかないけど、大体は血流を良くするのと、媚薬を使ったっていうプラシーボ効果狙いだったのだけれど。まぁ、薬事法的に効果有りのものがあったら、おかしいのだけれどね。男性用でよく言われてたバイアグラは、確実に血流改善だっただろうし。」

「リリィの言ってる薬は分からないが、アシェの言ってるフォアレン草は効くぞ。アスラモリオン帝国で作られる媚薬香は、一部ヒューナイトでは使ってはいけない成分が入っていて取り扱いが禁止されてるがな。アシェはその辺りも、しっかり調べた上で取り扱ってる。」

「さすがアシェね。国内で禁止薬物を扱うのはリスクが高いものね。でも、この世界の媚薬は紛い物じゃなくて、ちゃんと効くのね。媚薬が効くなんて、想像上の物語の世界だわ。わたくしの衝動みたいな感じなのかしら?気にはなるけど、流石に使う相手がいないわね。残念だわ。」

「頼むから、アシェから貰ったりしないでくれよ!?」

「だから、使う相手がいないって言ってるじゃない。」

相変わらずなリリアーデにデュークが苦言を呈すが、リリアーデは素知らぬ顔だ。

こんな感じで賑やかにリリアーデとデュークの誕生日会は終了した。

ちなみに誕生日プレゼントは、お互いに贈り合わないことにしている。

それぞれ身に着けている物は高級品だし、今更欲しいものはないのだ。
必要なものは家が揃える。

入浴剤などは使用人が買って来るし、装飾品を送るのは女性相手や、男女的に親しいか家族が贈るのが一般的だ。

それぞれが贈るのも貰うのもプレゼントに悩んだうえで、満場一致で無しになった。
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