氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第三章 王立学院中等部二年生

149 最上級生の野外実習日①

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Side:アシェル13歳 夏



アシェルは服装だけは冒険者スタイルで色はいつも通りという、少し落ち着かない格好で教師達のキャンプ予定地に来ていた。

太陽の光を浴びて輝く青味を帯びた銀髪はポニーテールにまとめ、ホルスターはベストにベルトに両脚にと盛りだくさんだ。
咄嗟の時に邪魔になるマントは着けていない。

ブロードソードを佩いた反対側の腰には、救難信号と救助者用の発煙筒の様な魔道具と、携帯食料と小さな水筒をぶら下げている。
携帯食料は魔力枯渇や魔法が使えない状態でも生存率が上がるように、必ず全員身に着けているものだ。

「アシェルさん、おはようございます。」

キャンプ地にはまだ教師達と、数名の生徒が集まり始めたばかりである。
そこに見知った声が聞こえ、アシェルはその一行に微笑みを向けた。

「おはよう、トーマ。それにガルド達も。ごめんね、朝早くから。」

「良いって。しっかし。一応見せて貰ってはいるけど、なんか普段と違うと落ち着かねぇな。」

やってきたのは、魔の森の情報を頼んでいる【朱の渡り鳥】のメンバーだ。
情報提供を快く、無償で引き受けてくれた。

「アシェ。彼らが頼んでいた冒険者か?」

教師との打ち合わせが終わったのか、アルフォードが歩いてくる。

アルフォードも冒険者の様な出で立ちで、アシェルと同じように沢山の薬瓶を装備している。

そう。
今日は最初の野外実習である、高等部三年生の実習日だ。

今日から一週間ごとに、低学年が受けていくことになる。

「アル兄様。紹介するね。この前僕らと合同で依頼受注した【朱の渡り鳥】のメンバーだよ。リーダーのガルドと、ジン、ユウナ、アーニャ、トーマだよ。こちら僕のお兄様でアルフォードだよ。」

アシェルの紹介に、それぞれ頭を下げる。

そして最後にアルフォードが頭を下げたことで、トーマ以外が慌てた。
しかしアルフォードは冒険者相手に頭を下げたくないような、プライドの高い貴族ではない。

「良いって。アシェの友人なんだろ?で、早速だけど、最近異変はあったか?」

「最近は地形の変化などはありませんが、魔物の出現頻度が上がってるんじゃないかっていう噂があります。実際に統計を取ったわけじゃないので、あくまでも冒険者達の体感ですが。でも、確かに僕らもエンカウント率が上がってます。【宵闇のアルカナ】とご一緒させてもらった時にアシェルさんに教えてもらったように、普段から探査魔法サーチを使ってるんですが……。敵の一群れ当たりの個体数が増えてます。今までより大体2~3匹程度ですが。」

トーマが欲しかった情報を教えてくれる。
それにしっかり斥候としての役割を果たしているようだ。

今日のトーマの恰好は、荷物は背負っておらず、左右のレッグホルスターにダガーとマナポーションを装備している。そしてベルト状のホルスターには各種解毒剤とヒールポーションまで揃っている。

「そっか、ありがとな。アシェ、俺は先生に伝えてくるな。」

「お願いします、アル兄様。」

アルフォードの後姿を見送り、トーマのホルスターをジッと見つめる。

「あの……何かおかしいでしょうか?ちゃんと王立病院お勧めの薬屋で購入したんですが。」

前回の粗悪品の一件があるからか、トーマの表情が曇る。

「あぁ、いや。大丈夫だよ。ただ、どの薬を持ってるのか見てただけ。ちゃんと一通り揃えてるし、並びも考えられてるし、偉いよ。」

ついついトーマの頭を撫でてしまう。
アシェルの手の下で、トーマの表情が綻んだ。

「アシェルさんに褒めて頂けて嬉しいです。並び順は前にアシェルさんが言ってた並びにしてみました。多分蟻毒が真ん中なのは、咄嗟に薬を使う時に、優先度が低いからですよね?右手でポーションを取るなら、取りやすい位置にハチ毒の解毒剤が欲しいですし。それに蜘蛛毒は片側に寄せてるから、選びやすいですし。」

「ふふ、この前の話しだけでよくそれだけ考えたね。やっぱりトーマは惜しい存在だな。ねぇ、うちにくれない?」

「やらねぇって。」

アシェルが冗談で言うと、ガルドもそれが分かっているのか、笑いながら返してくれる。

「冗談だよ。あれから【朱の渡り鳥】はどんな感じ?」

依頼を出した時は、伝えたいことだけを伝えてそのまま帰ったのだ。

冒険者ギルドは多種多様な人が居るので、あまり王立学院内の話を大っぴらにするのは良くない。
日時はわざわざ手紙にしたためてから、彼らを訪ねたのだ。

「アシェル達のお陰で、かなり戦いやすくなったぞ。それにトーマが良く働いてくれててな。足場の確保がしやすいから、それだけでも全然違うぜ。」

「だな。俺は倒すことに集中すればいいし、ガルドは攻撃を捌くことに集中すればいい。」

「私も弓の命中率が跳ね上がったから、ガルドの援護もしやすいし、眼を潰しやすくなったわ。」

「私はウィンドカッターだけは、一節詠唱に成功しました。ストレージの訓練の時に、イメージが大事だって教えてもらったので。お陰でかなりスムーズに討伐できます。」

「僕は教えて頂いた通りに斥候としての役割と、サポーターとしての役割を兼任してます。」

皆それぞれ、前回教えたことをきちんと活かせているようだ。

「ふふ、良かった。……ただ、一応まだ発表はされてないけど、魔法庁が調べてるらしいから注意してね。魔物の個体数が増えてるのも気になるし。」

「おぅ。一応、トーマが魔物の大体の形と数が分かるからよ。蜘蛛はなるべく避けてるし、依頼があっても先に様子見て、トーマがいけるやつだって判断してから戦うようにしてるぜ。」

「一応、五種類に大別できるくらいには資料室で覚えました。ギルマスからもお墨付きをもらいましたよ。まぁギルドの解毒剤は、アシェルさんが言うように少しお高いので、ギルドでは購入してませんが。」

「へぇ。ギルドで買う資格を得たなら、しっかり見極めれてるってことだね。トーマは勉強熱心だね。」

「それがサポーターの役割ですから。」

和やかに話している間に、生徒達が集まってくる。

生徒達は4人パーティー、計8組が参加する。
大体一学年の三割程度の人数だ。

「そろそろかな。今日はありがとうね。また来週もよろしく。」

「良いって。こういうのはお互い様だからな。そうだ、7月の初週がアシェル達の実習で、それで終わりなんだろ?その後俺ら、ちょっとビースノートまで行こうと思ってんだ。なんか欲しいものあるか?」

「ビースノートに?」

「あぁ。ランクアップして来ようと思ってな。せっかくだから、アシェルの欲しいもんがあったら手に入れてこようかなってな。」

素材を採取して、自分で利用しているアシェルの為に教えてくれたのだろう。

『ストレージ』から金貨や銀貨の詰まった革袋を取り出す。

「これ、軍資金に。ビースノートでしか採れないやつで、あっちの薬屋で有名なところが扱ってる素材なら何でもいい。できるだけ、素材の鮮度や採取方法に煩い依頼を出してる薬屋で買ってきて。絶対一人か二人は、ギルドにそういう依頼を出している人が居るはずだから。それからガルド達が狩った魔物のこっちにいないやつで、薬になるとか毒になるって言われてる部位を持ってるやつがいたら、全部ギルドから買い取ってきて。こっちで入手しにくいものはいくらあっても困らないから量は問わないし、そのお金は全部使ってくれても構わないから。あ、素材は全部、トーマかアーニャのストレージに入れて持って帰ってきてね。素材は鮮度が命だから。ついでにマナポーションとヒールポーション、造血剤もオマケしちゃう。」

瞳をキラキラと輝かせながら少し早口に喋るアシェルに、ガルドが少し押され気味である。
その隣ではトーマが「分かりましたっ。」とニコニコ笑って、アシェルが『ストレージ』から取り出したポーション類を自分の『ストレージ』に仕舞いこんだ。

「……なぁ、流石に多すぎねぇか?コレ。重いとは思ったけど、金貨や白金貨まで入ってんじゃねぇか。どんだけ買ったら使い切れるんだよ。」

革袋の中を確認したガルドが呆れたように言うが、素材はその時々で相場も変わる。
良い鮮度と採取方法であるのならば、きっちりした薬屋ならそれなりの額を取ってもおかしくないし、それだけの価値があると思ってる。

ちなみに普段は冒険者ギルドタグや学生証を使うので、硬貨を使う機会はないが、一番下の鉄貨が10円。そこから0が一つずつ増えていって、銅貨、銀貨、金貨、白金貨と上がっていく。つまり白金貨一枚で10万円である。
それ以上は大商人や国が扱うような硬貨になるので、アシェルは見たことがないし、一般庶民には縁のない代物だ。

「余ったら返してくれたら良いんだから。足りなくて素材が手に入らない方が嫌だもん。」

「ははっ。なるほどなぁ。これがトーマの言ってた、メイディー公爵家の有名な理由の一つなんだな。分かった。まぁ、早くて8月中旬。遅くても9月中旬までには戻るからよ。9月はまた夏休みなんだろ?」

わざわざアシェルの予定も考慮して日程を組んでくれているらしい。

「うん。ありがとう。じゃあ、僕も見回りにいかないといけないから、またね。ランクアップが無事に済むように祈ってるよ。」

「心配要らないぜ。一応いくつか依頼を受けたらランクアップできるくらいには、実績溜めてるからな。あっちで専用の依頼をクリアすりゃ、すぐBになれるはずだ。」

「ランクアップ報告楽しみにしてるね。」

【朱の渡り鳥】は今日はダンジョンに潜るらしいので別れて、三の森での実習開始の合図を待つ。

「アシェ。俺のペアの魔道具は緑だった。三の森は状態異常系が多いし、経験のない奴には蜘蛛は避けろって言ってある。でもどうなるかは分からないから、救難信号にはなるべく早く駆けつけてくれると助かる。エリア的には東側より先には出ないように注意してあるから、そんなに離れた位置で信号が出ることは無いはずだ。」

三の森は一の森と二の森より広いので、ざっくりとでも活動範囲を決めているのだろう。

「分かりました。僕は連日青の魔道具ですので。僕が辿り着けない時は、魔素のないエリアだと思ってもらえたら。」

「あぁ、分かってる。一応手出しはしなくて良いんだが、あまりにも危なそうだったら加勢してやってくれ。一部の魔物を殺るだけで良いから。あと、出来たらで良いんだが、蜘蛛を優先的に倒してくれるか?全員二の森までは経験があるんだが、救助ペアに一人ずつしか三の森経験者は居ないんだよな。」

「えぇ、大丈夫ですよ。虫系は生命力が弱いですし、蜘蛛はギルドの買取価格も高いので、なるべく殺っておきますね。」

アシェルがお金のことを話すので、アルフォードは苦笑する。

可愛い妹は事あるごとにお金を稼ごうとするし、それを各地にばらまいている。主に孤児院に。
前世の記憶の影響もあるのだろうが、個人名義ではなく家名義でそれを行っているのだ。

それにアベルからの生活費も、一切受け取っていないという。
日用品や食費などそれなりにかかるだろうに、自分で賄ってしまっているのだ。

そんなに早く手のかからない子供にならなくて良いのにと、アベルが頭を抱えていた。
辛うじてイザベルが毎年アシェルのドレスや私服を新調する程度と、学費くらいしかかかっていないのではないだろうか。

「あぁ、頼んだぞ。それから、無理はするなよ。」

「パーティーより一人の方が気楽ですし、大丈夫ですよ。」

「やぁ、アシェル君。授業を休ませてしまってすまないね。」

「ユリウス先輩。いいえ、別に授業は必ず出ないといけないほど進んでるわけじゃないですし。今日はよろしくお願いしますね。」

二人が話しているところにやってきたユリウスに笑顔を向ける。

「こちらこそ、よろしくお願いするよ。二つ名持ちのメイディーの者が、フォローに回ってくれるのは心強いからね。」

本音半分、揶揄い半分というところだろうか。
ユリウスの言葉に肩をすくめてみせる。

「二つ名のことは忘れてください。……と言っても、僕の恰好は特徴的なので、色が違っても二つ名で呼ばれる可能性はあるんですけど。この色じゃないと、アシェル・メイディーだって分かりませんからね。」

「そうだね。ところでアシェル君の魔道具は何色だい?私とマチルダペアはオレンジなんだけど。」

「僕のは青です。もし青が光ったら魔素のないエリアが、救難信号の付近に発生してるって事なので注意してくださいね。」

「肝に銘じておくよ。……そろそろ始まりそうだね。では、何もなければまたここで、明日のお昼に。」

「はい。アル兄様、ユリウス先輩、頑張ってくださいね。」

それぞれ自分のパーティーの元へ歩いていく二人を見送って、アシェルも三の森へと足を向けた。
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