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第三章 王立学院中等部二年生
157 中等部二年の野外実習日④
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Side:リリアーデ13歳 夏
そろそろ夕刻で野営予定地に向かっていると、甲高い音と共に空に赤と青の光が上ったのが見えた。
リリアーデもデュークも救難信号の説明は受けていたので、顔を見合わせる。
「これって、アーク達のよね?でもどっちもってことは、魔素の無いエリアも出現したって事?」
「そういうことだな。一旦キャンプ地まで戻ろう。誰か一人でも戻ってれば良いが。」
心配そうなパーティーメンバー二人に声を掛け、足早に川沿いまで森を突っ切る。
「近くに他のパーティーも居るわ。誰かまでは分からないけど、回収して戻りましょう。」
「そうだな。」
急ぐ傍ら、イザークのパーティーと、シオンのパーティー、カナリアのパーティーと合流し、川沿いを急いで移動する。
救援部隊では無いもう一組は森の入り口に近いあたりのはずなので、流石にリリアーデの探査魔法には引っかからなかった。
「リリィ達居たっ。誰かアーク達の状況分かる人いるー?」
「ほぼ全員回収してるな。」
川沿いを全員で走っていると、マリクとエラートのパーティーも合流する。
「分からないわ。アーク達のパーティーメンバーの誰かが戻ってれば良いけど、もしかしたらわたくし達の方が速くキャンプに着くかもしれないわね。」
「リリィが分かる範囲では回収した。あと二組は入り口側のはずだからな。」
端的にシルコットの双子が返事をして、合流時点で不安そうなイザベルとシオンが口を開く。
「アシェル様はご無事でしょうか……。」
「アシェル様ですから、きっと大丈夫ですよ。イザベル様がそんな表情をしてると、きっとアシェル様が悲しんでしまいます。」
救難信号の灯はどんどん薄くなり、音が聞こえなくなってしばらくして灯も消えた。
不測の事態に全員が不安を抱えたまま、なんとか陽が暮れる前にキャンプ地に辿り着いた。
そこには残りの二組のパーティーが居て、アシェル達のパーティーの二人がちょうど、キャンプのテントに駆けこむところだった。
リリアーデもそこへ向かってテントに入る。
「イルマさん、ディアナさん、アーク達の状況は!?」
「リリアーデ様……。」
「ハチの特殊固体と地形変化と伝えろと。お二人はわたくし達を逃がすために残られました。魔道具の発動まで時間があったので、避難したか倒したと思うのですが。」
真っ青な顔をした二人は、どうにかイルマが状況を説明してくれる。
教師も驚きと不安で混乱しているようで、役には立たない。
なんのための監督なのか。
幼馴染達が全員テントの傍でイルマの言葉を聞いているのを確認して、リリアーデは指示を飛ばす。
「マリク、王都まで走って頂戴。この時間なら、まずメイディー邸に行って、ダメなら王宮よ。アシェの兄か父親を連れてきてちょうだい。ハチのNMから毒を貰ってたら、わたくし達では対処できないわ。説明は道中で、とりあえず誰か一人攫って戻ってきて。」
「おっけー。」
リリアーデの言葉を聞いて、全裸になったマリクが獣化して王都へ向かって走っていく。
教師は役に立たないので、リリアーデ達でなんとかするしかない。
こんな時、領地で色々な経験をしていて良かったと思う。
「マリクがメイディーの誰かを連れてきた時点で、救助に向かうわ。メンバーはわたくしとデュークとエト。マリクは疲れ具合次第ね。イルマさん、ディアナさん、外に出て貰えるかしら?」
二人に声だけかけてさっさとテントを出て、地面に二の森の簡単な地図を描く。
「どちらかが探査魔法を使っていたでしょう?どの辺りに居たか分かるかしら?」
ざっくりと小道まで描かれたその地図に、イルマは指をさす。
「この辺りのはずですわ。ここから森に入って、こういうルートで移動していたので。大体このルートを走って帰ってきました。わたくし達が走っている間にも、空気が重たくなっていくような感じと、坂を上っているような感じだったので……地面が隆起したか陥没したかのどっちかだと思いますわ。」
「そう、分かったわありがとう。ノア達は、生徒と役に立たない教師たちを連れて王都に戻って頂戴。ついでにギルドにも寄って、NMと地形変化、それと魔素のないエリアが発生した恐れも報告しておいてくれるかしら。冒険者ギルドに言えば、魔法庁や騎士団にも連絡が入るはずよ。」
状況を確認したリリアーデは、『ストレージ』の中から使えそうなものを見繕う。
「僕らは良いけど、もう陽が暮れるのにリリィ達は森に入って大丈夫なの?」
「暗くなった森で動くのは、自殺行為だろ?」
ノアールとエトワールはリリアーデ達のことも心配してくれるが、どう考えても一刻を争う事態なのだ。
何事もなければ、きっとマリクが誰かを連れてくる前に、二人ならば帰ってきているだろう。
それに魔道具は赤も青も光った。
つまり、赤の救難信号も出さざるを得なかった状況だということだ。
ただの魔素のないエリアが出来ただけならば、青だけで全員の帰還を促せば良いのだから。
「そんなこと言ってられないわ。状況によるけれど、救命が必要な場合は一刻を争うのよ。だから森に慣れているわたくし達だけで向かうんだから。さぁ、ギルドが閉まる前に早く行って頂戴。」
二人は相談して、エトワールだけが先に駆けだしていった。
早めにギルドに連絡を入れるのだろう。
「そうだわ。ノア、門番に今日出て行った冒険者で、帰ってきていないパーティーが居ないかも確認してもらえるかしら?乗合馬車の乗客は良いわ。遠くに行ってるはずだから。行方不明者が出ていないか確認して頂戴。わたくし達はアーク達を探すけれど、他に巻き込まれていないとは限らないから。」
「分かったよ。……皆気を付けてね。」
ノアールも全員を纏めるためと、教師たちのキャンプの撤収の為に手伝いに行く。
本当に役に立たない教師だ。
何故実習の監督をしているのかが不思議で仕方がない。
「リリィ。確かそっちに、魔道具じゃないランプ入ってただろ。こっちはロープならある。」
「あるわ。あとは何が要るかしら。」
「向こうも灯があれば、夜のうちに見つけやすいけど……ディオール叔母さんに作ってもらった灯は?」
「あぁ、懐中電灯擬きね。魔素がある場所なら使えると思うわ。ただ、アシェ達に近づくと役に立たないかも。」
「無いよりマシだろ。出しておいてくれ。あと、マナポーションも飲んでおいてくれよ。最悪、潜在消費しても良いから。」
リリアーデとデュークはエルマン大森林で、行方不明になった私兵の救助隊に同行したこともある。
『ストレージ』から取り出したポーチに、応急処置用のセットや携帯食料、各種回復系のポーションも詰め込んでいく。
「あら、野外プレイがお好みかしら?まぁでも、必要だったらデュークの魔力を貰うわね。」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。」
「もう、冗談も通じないのね。分かってるわよ。」
「俺はどうしたらいい?」
エラートだけ準備から置いてけぼりだが、エラートはただの護衛だ。
準備や救助は、リリアーデとデュークでどうにかするつもりなのだから。
「エトは出発まで待ってて頂戴。魔物が出たらよろしくね。夜の森は歩きなれてないかもしれないけど、頑張って頂戴。」
「リリィも体力には気を付けろよ。最悪おぶってでも連れてってやるからな。」
「そうね、体力を使い切ってしまわないように頑張るわ。」
エラートの言葉に少しだけ笑って、装備を確認する。
「二人は潜在消費してるかしら?アシェがお水で、アークは真っ暗だったかしら?」
「可能性はあるね。水分は俺達の革袋で足りるかな……。まだ帰ってないやつらから貰ってくる。」
「ありがとう。アークは……とりあえずコレで良いかしら。」
確か加護の選定の時には、真っ黒い袋のようなものを頭からかぶせられていたはずだ。
大き目の革袋だが頭だけは覆えるし、口を縛らなければ息もできるだろう。
その革袋もポーチに突っ込んでいると、生徒分の革の水袋を抱えたデュークが戻ってくる。
「貰ってきた。半分はストレージに入れておいて、持つのは三等分で良いか?」
リリアーデとエラートが頷いたので、それぞれに革袋が手渡される。
それを腰とポーチに分けて収納する。
7月で日が暮れるのは遅くなってきたとはいえ、もう既に夕焼けを通り越して薄暗くなってきている。
三人でマリクの到着を待ちわびていると、背中に人影を乗せた狼が走ってやってくる。
「来たわね。皆、準備は良いかしら?」
デュークとエラートが頷く。
「こんばんは。状況を聞いても良いかい?アルと馬車はあとからここまで来るから。」
マリクの背からひらりと降りてきたのはアレリオンだった。
いつも穏やかな笑みを浮かべているのに、その表情は険しい。
マリクは人化して、脱ぎ散らかした服を着ている。
「こんばんは。二の森のこのあたりで、アークとアシェが取り残されている可能性があるわ。二の森では出ないはずのハチのNMが出て、地形変化も起こっているらしいの。それと、救難信号だけでなくアシェ達の救助隊の信号も上がったから、恐らく魔素のないエリアが発生しているわ。そのどちらも、数分で信号が途絶えているの。魔素が無いのは間違いないと思うわ。」
「ハチのNMか。思っている以上に厄介みたいだね。出発は?」
「すぐにでも。行くのはわたくしとデュークとエトで、森には慣れている人間よ。わたくしとデュークは夜間の救助隊の経験もあるわ。マリクはどうする?」
「俺も行くよー。魔素が無いなら、匂いも大事でしょー。」
少し肩で息をしているが、マリクはついてくる気のようだ。
「じゃあ五人で出発するわ。わたくし達ははぐれないように気をつけましょう。それと、アレリオン様に探査魔法をお願いしても良いかしら?出来るだけ魔物と遭遇せずに救助に行きたいわ。もし魔物が出たら、なるべくエトとデュークで対処して頂戴。」
「もちろん。それは僕の得意分野だからね。」
しっかりと今分かる情報を共有した五人は、既に薄暗い二の森に向かって駆けだした。
川沿いから二の森に入り進んでいくと、空気が重たくなっていく。
「この先はどんどん魔素が薄くなっているよ。魔法が上手く使えない可能性があるから気を付けて。あと、谷みたいになっているところがある。足元にも気を付けて。」
アレリオンの忠告を意識しながら、早歩きで進んでいく。
「もう懐中電灯も役に立たないわね。それに身体強化も使いにくいわ。」
「俺もだ。」
「アシェ達の匂いはまだ遠いよー。それにアシェとアークの匂いに、アシェの血の臭いが混じってるー。」
「ってことは、アシェが怪我をしてるんだな。帰ってきてないってことは、谷底に居る可能性があるな。マリク、匂いの方向は合ってるか?」
「うん。大丈夫だよ。」
しばらく歩いていると、綺麗に窪んだ幅広い渓谷の様な穴が目に入る。
「ここね……マリク、どっちの端を歩けばいいと思う?」
今リリアーデ達が立っているのは、渓谷を真っすぐ見通せて、どちら沿いにでも歩いて行ける場所だ。
その場所は地形変化の影響か、木々が倒れていて空が見える分、心なしかスッキリしているように見える。
「うーん……こっちかな。」
「僕の探査魔法は維持が精一杯だね。新しい魔法は使えないと思っておいておくれ。」
マリクとアレリオンの言葉を聞いて、また歩を進める。
倒木を避けなくてはいけないのでかなり歩きにくいし、時間もかかってしまう。
「匂いはちゃんと近づいているよー。こっちが風下で良かったー。」
正直なところ、マリクを連れてきたのは正解だった。
リリアーデ達だけでは、もっと捜索は難航していただろう。
どれほどの時間がかかっただろうか。
すでに真っ暗の中、月明かりと手元のランプの炎だけを頼りに進んでいく。
「見て、あそこに灯が見えない?」
「ほんとだねー。たぶん……アシェがいると思うー。」
「アシェだけか?アークは?」
「どちらにしても、僕らがアシェの頭上までは行かないと、状況は分からないだろ。」
マリクは狼としての特性もあるのか、誰よりも夜目が効く。
一先ずアシェルだけでも発見できたことにほっとして、その場所まで急ぐ。
近づけば小さな灯の傍に、確かにアシェルが居た。
壁にもたれかかって座っているようだ。
「アシェー!助けに来たわよー!!聞こえるかしらーー!?」
リリアーデは良く通る声で叫ぶ。
マリクが血の臭いがすると言っていたが、どうみてもアシェルはぐったりしているように見える。
そんなリリアーデの声に反応したのは、姿の見えないアークエイドだった。
「リリィか!?聞こえている!」
「アークもいるのね!助けたいんだけど、そっちの状況を教えてくれるかしら!?ロープがあれば登れる!?」
「いや、無理だ!俺が登れてもアシェが登れない!」
やっぱりアシェルは怪我を負っているようだ。
登れないということは、脚か腕を怪我しているのかもしれない。
それにしてもアークエイドはどこから声を出しているのだろうか。
全く姿が見えないが、恐らくアークエイド自身は無事なのだろう。
そろそろ夕刻で野営予定地に向かっていると、甲高い音と共に空に赤と青の光が上ったのが見えた。
リリアーデもデュークも救難信号の説明は受けていたので、顔を見合わせる。
「これって、アーク達のよね?でもどっちもってことは、魔素の無いエリアも出現したって事?」
「そういうことだな。一旦キャンプ地まで戻ろう。誰か一人でも戻ってれば良いが。」
心配そうなパーティーメンバー二人に声を掛け、足早に川沿いまで森を突っ切る。
「近くに他のパーティーも居るわ。誰かまでは分からないけど、回収して戻りましょう。」
「そうだな。」
急ぐ傍ら、イザークのパーティーと、シオンのパーティー、カナリアのパーティーと合流し、川沿いを急いで移動する。
救援部隊では無いもう一組は森の入り口に近いあたりのはずなので、流石にリリアーデの探査魔法には引っかからなかった。
「リリィ達居たっ。誰かアーク達の状況分かる人いるー?」
「ほぼ全員回収してるな。」
川沿いを全員で走っていると、マリクとエラートのパーティーも合流する。
「分からないわ。アーク達のパーティーメンバーの誰かが戻ってれば良いけど、もしかしたらわたくし達の方が速くキャンプに着くかもしれないわね。」
「リリィが分かる範囲では回収した。あと二組は入り口側のはずだからな。」
端的にシルコットの双子が返事をして、合流時点で不安そうなイザベルとシオンが口を開く。
「アシェル様はご無事でしょうか……。」
「アシェル様ですから、きっと大丈夫ですよ。イザベル様がそんな表情をしてると、きっとアシェル様が悲しんでしまいます。」
救難信号の灯はどんどん薄くなり、音が聞こえなくなってしばらくして灯も消えた。
不測の事態に全員が不安を抱えたまま、なんとか陽が暮れる前にキャンプ地に辿り着いた。
そこには残りの二組のパーティーが居て、アシェル達のパーティーの二人がちょうど、キャンプのテントに駆けこむところだった。
リリアーデもそこへ向かってテントに入る。
「イルマさん、ディアナさん、アーク達の状況は!?」
「リリアーデ様……。」
「ハチの特殊固体と地形変化と伝えろと。お二人はわたくし達を逃がすために残られました。魔道具の発動まで時間があったので、避難したか倒したと思うのですが。」
真っ青な顔をした二人は、どうにかイルマが状況を説明してくれる。
教師も驚きと不安で混乱しているようで、役には立たない。
なんのための監督なのか。
幼馴染達が全員テントの傍でイルマの言葉を聞いているのを確認して、リリアーデは指示を飛ばす。
「マリク、王都まで走って頂戴。この時間なら、まずメイディー邸に行って、ダメなら王宮よ。アシェの兄か父親を連れてきてちょうだい。ハチのNMから毒を貰ってたら、わたくし達では対処できないわ。説明は道中で、とりあえず誰か一人攫って戻ってきて。」
「おっけー。」
リリアーデの言葉を聞いて、全裸になったマリクが獣化して王都へ向かって走っていく。
教師は役に立たないので、リリアーデ達でなんとかするしかない。
こんな時、領地で色々な経験をしていて良かったと思う。
「マリクがメイディーの誰かを連れてきた時点で、救助に向かうわ。メンバーはわたくしとデュークとエト。マリクは疲れ具合次第ね。イルマさん、ディアナさん、外に出て貰えるかしら?」
二人に声だけかけてさっさとテントを出て、地面に二の森の簡単な地図を描く。
「どちらかが探査魔法を使っていたでしょう?どの辺りに居たか分かるかしら?」
ざっくりと小道まで描かれたその地図に、イルマは指をさす。
「この辺りのはずですわ。ここから森に入って、こういうルートで移動していたので。大体このルートを走って帰ってきました。わたくし達が走っている間にも、空気が重たくなっていくような感じと、坂を上っているような感じだったので……地面が隆起したか陥没したかのどっちかだと思いますわ。」
「そう、分かったわありがとう。ノア達は、生徒と役に立たない教師たちを連れて王都に戻って頂戴。ついでにギルドにも寄って、NMと地形変化、それと魔素のないエリアが発生した恐れも報告しておいてくれるかしら。冒険者ギルドに言えば、魔法庁や騎士団にも連絡が入るはずよ。」
状況を確認したリリアーデは、『ストレージ』の中から使えそうなものを見繕う。
「僕らは良いけど、もう陽が暮れるのにリリィ達は森に入って大丈夫なの?」
「暗くなった森で動くのは、自殺行為だろ?」
ノアールとエトワールはリリアーデ達のことも心配してくれるが、どう考えても一刻を争う事態なのだ。
何事もなければ、きっとマリクが誰かを連れてくる前に、二人ならば帰ってきているだろう。
それに魔道具は赤も青も光った。
つまり、赤の救難信号も出さざるを得なかった状況だということだ。
ただの魔素のないエリアが出来ただけならば、青だけで全員の帰還を促せば良いのだから。
「そんなこと言ってられないわ。状況によるけれど、救命が必要な場合は一刻を争うのよ。だから森に慣れているわたくし達だけで向かうんだから。さぁ、ギルドが閉まる前に早く行って頂戴。」
二人は相談して、エトワールだけが先に駆けだしていった。
早めにギルドに連絡を入れるのだろう。
「そうだわ。ノア、門番に今日出て行った冒険者で、帰ってきていないパーティーが居ないかも確認してもらえるかしら?乗合馬車の乗客は良いわ。遠くに行ってるはずだから。行方不明者が出ていないか確認して頂戴。わたくし達はアーク達を探すけれど、他に巻き込まれていないとは限らないから。」
「分かったよ。……皆気を付けてね。」
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何故実習の監督をしているのかが不思議で仕方がない。
「リリィ。確かそっちに、魔道具じゃないランプ入ってただろ。こっちはロープならある。」
「あるわ。あとは何が要るかしら。」
「向こうも灯があれば、夜のうちに見つけやすいけど……ディオール叔母さんに作ってもらった灯は?」
「あぁ、懐中電灯擬きね。魔素がある場所なら使えると思うわ。ただ、アシェ達に近づくと役に立たないかも。」
「無いよりマシだろ。出しておいてくれ。あと、マナポーションも飲んでおいてくれよ。最悪、潜在消費しても良いから。」
リリアーデとデュークはエルマン大森林で、行方不明になった私兵の救助隊に同行したこともある。
『ストレージ』から取り出したポーチに、応急処置用のセットや携帯食料、各種回復系のポーションも詰め込んでいく。
「あら、野外プレイがお好みかしら?まぁでも、必要だったらデュークの魔力を貰うわね。」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。」
「もう、冗談も通じないのね。分かってるわよ。」
「俺はどうしたらいい?」
エラートだけ準備から置いてけぼりだが、エラートはただの護衛だ。
準備や救助は、リリアーデとデュークでどうにかするつもりなのだから。
「エトは出発まで待ってて頂戴。魔物が出たらよろしくね。夜の森は歩きなれてないかもしれないけど、頑張って頂戴。」
「リリィも体力には気を付けろよ。最悪おぶってでも連れてってやるからな。」
「そうね、体力を使い切ってしまわないように頑張るわ。」
エラートの言葉に少しだけ笑って、装備を確認する。
「二人は潜在消費してるかしら?アシェがお水で、アークは真っ暗だったかしら?」
「可能性はあるね。水分は俺達の革袋で足りるかな……。まだ帰ってないやつらから貰ってくる。」
「ありがとう。アークは……とりあえずコレで良いかしら。」
確か加護の選定の時には、真っ黒い袋のようなものを頭からかぶせられていたはずだ。
大き目の革袋だが頭だけは覆えるし、口を縛らなければ息もできるだろう。
その革袋もポーチに突っ込んでいると、生徒分の革の水袋を抱えたデュークが戻ってくる。
「貰ってきた。半分はストレージに入れておいて、持つのは三等分で良いか?」
リリアーデとエラートが頷いたので、それぞれに革袋が手渡される。
それを腰とポーチに分けて収納する。
7月で日が暮れるのは遅くなってきたとはいえ、もう既に夕焼けを通り越して薄暗くなってきている。
三人でマリクの到着を待ちわびていると、背中に人影を乗せた狼が走ってやってくる。
「来たわね。皆、準備は良いかしら?」
デュークとエラートが頷く。
「こんばんは。状況を聞いても良いかい?アルと馬車はあとからここまで来るから。」
マリクの背からひらりと降りてきたのはアレリオンだった。
いつも穏やかな笑みを浮かべているのに、その表情は険しい。
マリクは人化して、脱ぎ散らかした服を着ている。
「こんばんは。二の森のこのあたりで、アークとアシェが取り残されている可能性があるわ。二の森では出ないはずのハチのNMが出て、地形変化も起こっているらしいの。それと、救難信号だけでなくアシェ達の救助隊の信号も上がったから、恐らく魔素のないエリアが発生しているわ。そのどちらも、数分で信号が途絶えているの。魔素が無いのは間違いないと思うわ。」
「ハチのNMか。思っている以上に厄介みたいだね。出発は?」
「すぐにでも。行くのはわたくしとデュークとエトで、森には慣れている人間よ。わたくしとデュークは夜間の救助隊の経験もあるわ。マリクはどうする?」
「俺も行くよー。魔素が無いなら、匂いも大事でしょー。」
少し肩で息をしているが、マリクはついてくる気のようだ。
「じゃあ五人で出発するわ。わたくし達ははぐれないように気をつけましょう。それと、アレリオン様に探査魔法をお願いしても良いかしら?出来るだけ魔物と遭遇せずに救助に行きたいわ。もし魔物が出たら、なるべくエトとデュークで対処して頂戴。」
「もちろん。それは僕の得意分野だからね。」
しっかりと今分かる情報を共有した五人は、既に薄暗い二の森に向かって駆けだした。
川沿いから二の森に入り進んでいくと、空気が重たくなっていく。
「この先はどんどん魔素が薄くなっているよ。魔法が上手く使えない可能性があるから気を付けて。あと、谷みたいになっているところがある。足元にも気を付けて。」
アレリオンの忠告を意識しながら、早歩きで進んでいく。
「もう懐中電灯も役に立たないわね。それに身体強化も使いにくいわ。」
「俺もだ。」
「アシェ達の匂いはまだ遠いよー。それにアシェとアークの匂いに、アシェの血の臭いが混じってるー。」
「ってことは、アシェが怪我をしてるんだな。帰ってきてないってことは、谷底に居る可能性があるな。マリク、匂いの方向は合ってるか?」
「うん。大丈夫だよ。」
しばらく歩いていると、綺麗に窪んだ幅広い渓谷の様な穴が目に入る。
「ここね……マリク、どっちの端を歩けばいいと思う?」
今リリアーデ達が立っているのは、渓谷を真っすぐ見通せて、どちら沿いにでも歩いて行ける場所だ。
その場所は地形変化の影響か、木々が倒れていて空が見える分、心なしかスッキリしているように見える。
「うーん……こっちかな。」
「僕の探査魔法は維持が精一杯だね。新しい魔法は使えないと思っておいておくれ。」
マリクとアレリオンの言葉を聞いて、また歩を進める。
倒木を避けなくてはいけないのでかなり歩きにくいし、時間もかかってしまう。
「匂いはちゃんと近づいているよー。こっちが風下で良かったー。」
正直なところ、マリクを連れてきたのは正解だった。
リリアーデ達だけでは、もっと捜索は難航していただろう。
どれほどの時間がかかっただろうか。
すでに真っ暗の中、月明かりと手元のランプの炎だけを頼りに進んでいく。
「見て、あそこに灯が見えない?」
「ほんとだねー。たぶん……アシェがいると思うー。」
「アシェだけか?アークは?」
「どちらにしても、僕らがアシェの頭上までは行かないと、状況は分からないだろ。」
マリクは狼としての特性もあるのか、誰よりも夜目が効く。
一先ずアシェルだけでも発見できたことにほっとして、その場所まで急ぐ。
近づけば小さな灯の傍に、確かにアシェルが居た。
壁にもたれかかって座っているようだ。
「アシェー!助けに来たわよー!!聞こえるかしらーー!?」
リリアーデは良く通る声で叫ぶ。
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そんなリリアーデの声に反応したのは、姿の見えないアークエイドだった。
「リリィか!?聞こえている!」
「アークもいるのね!助けたいんだけど、そっちの状況を教えてくれるかしら!?ロープがあれば登れる!?」
「いや、無理だ!俺が登れてもアシェが登れない!」
やっぱりアシェルは怪我を負っているようだ。
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結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
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