氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第三章 王立学院中等部二年生

168 アシェルを甘えさせたい⑤

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Side:アシェル13歳 夏



応接間には居ないので寝室に戻れば、既にシャワーを終えたアークエイドが寝台の上に居た。

シーツも汚れていただろうに、クリーンで綺麗にしたようだ。

「今日はどうするの?一応確認だけど、昨日来客無かったよね?」

アシェル自身は与えられる快楽に夢中で、来客を告げる音が鳴ったかどうかさえも分からなかった。

役目を終えた香炉を片付けながら問えば、「なかった。」とだけ短く答えが返ってくる。

「消してないよな?」

「所有印のこと?ご丁寧に全部隠れたから、約束通り消してないよ。」

悔しいことに全部首から下に付けてあって、シャツが少しはだけたくらいでは見えない位置だった。

アシェルの答えに、アークエイドが嬉しそうに微笑む。

寝台に座るアークエイドの隣に座れば、アシェル席はそこじゃないと言わんばかりに、ひょいっと胡坐をかいたアークエイドの上に乗せられてしまう。
まるでアレリオンやアルフォードと充電しているような状態だ。

「普通に座れるんだけど。」

「俺がこうしてたいんだ。」

「アークが充電したいなら乗せてあげるよ?シオン君より重そうだけど、見栄えさえ気にしなきゃなんとかなるだろうし。」

「……ここで他の男の名前を出すのか?」

「だって充電したいんでしょ?」

アークエイドからジトっとした視線が飛んでくるが、充電の時にアシェルを乗せていいのはアレリオンとアルフォードだけだ。

「そういえば、シオンが充電したと言ってたな……。俺達には会ってくれなかったのに。」

アークエイドの瞳に嫉妬の色が見えるが、あの時は誰とも会いたくなかったのだ。

「誰とも会いたくなかったんだもん。」

「でも、シオンは通したんだろ?断られそうになったが、入れてくれたと言っていた。」

シオンはあの後生徒会室に行くと言っていたが、きっと皆にアシェルの様子を伝えてくれたのだと思う。
話を聞いて、皆から訪室の許可を貰ったとも言っていた。

「うん。その様子だと、シオン君から話し聞いてるんでしょう?」

「聞いた。その時は通してくれて良かったと思ったが……なんで通したんだ?」

理由を言えばアークエイドはさらに嫉妬することになるのだろう。
嫉妬するのが分かり切っているのに、わざわざ理由を言う必要はあるのだろうか。

「教えてくれないのか?」

「だって……アークが嫉妬するだけじゃない。」

「へぇ……嫉妬するような理由で入れたんだな?なんでだ?」

墓穴を掘った気がする。
しばらく無言で見つめ合っていたが、しつこいアークエイドは全く引きさがる気がないようだ。

「……シオン君に一人か聞かれて、独り占めしたいって。確かにシオン君と二人っきりになることってないよなぁと思って、通してあげたの。中に入ったら充電しに来たらしかったから、充電してあげただけ。この前生徒会室で充電したのは恥ずかしかったから、二人っきりになりたかったのかなって。」

「あのなぁ……アシェ。それでシオンに襲われても、文句言えないんだぞ?なんでそんな理由で軽々しく部屋に上げたりするんだ。自分が一応、貴族令嬢だって分かってるのか?」

嫉妬した上に、小言まで言われてしまった。

「表向き三男だから、男の子を部屋に入れても問題ないもの。それにシオン君は襲ってこないよ。彼は襲われる方がお好みだし。」

シオンはぐいぐい来るように見えて、構ってもらいだしたらとことん甘えて相手に何かして欲しいタイプだ。
アシェルの同意なしに襲ってくることも、まかり間違ってシオン優位で事が運ぶことは無いだろう。

あるとすれば、相手にさせているように見せかけて、実はシオンの思った通りに転がされているくらいだろうか。

「アシェは誘われたらどうするんだ?」

「んー……その時の気分次第?クリストファー先輩はキスが下手だし、仲良くもないから遠慮したいけど。シオン君なら良いかなぁって感じかな。」

「良いかなぁじゃない。そこは断ってくれ。」

「だって、お互い遊びだよ?シオン君との言葉遊びは楽しいから、たまにはご褒美上げても良いかなって思うんだけど。」

「言葉遊び?とにかくあいつにご褒美なんてやらなくていい。シオンと二人っきりになるなよ。」

アシェルはまだアークエイドの婚約者でも恋人でもないので、そこまで行動を制限される謂れは無いと思う。
仮にそうだったとしても、友人と二人っきりになって何がダメなのだろうか。さすがに色々シてしまうのはダメだと思うが、二人っきりになるのも充電するのも問題ない気がする。

「別に、男友達と二人っきりになることくらいあるでしょ?男女共学なんだし。だから、その約束は出来ないかな。」

「はぁ……どうせ拒否されるとは思ってたが……。分かってても辛いものがあるな。」

大きくため息を吐いたアークエイドは、アシェルの胸に顔を埋めてしまって表情が見えなくなる。
そんなに落ち込むような内容だっただろうか。

「分かってるなら聞かなきゃ良いのに……。」

「……アシェは、俺が他の令嬢と二人っきりとかでも、なんとも……思わないんだろうな。」

問いかけの言葉は、途中から結論に変わる。

「うん。だってそういうことだってあるだろうし。」

「……俺がシャーロット嬢と、こういう風に抱き合ってたら?」

一体何を聞きたいのだろうか。

「婚約者なんだし、そういうことだってあるんじゃないの?婚前にどこまで触れあって良いのか知らないけど、お互い同意の上なら問題ないでしょ。」

「だから、婚約者じゃなくて、婚約者候補だ。アシェは嫉妬とかヤキモチとか焼かないのか?」

つまり、今の会話でアシェルにヤキモチを焼かせたかったのだろう。

「ヤキモチは分からないけど、嫉妬はするよ。」

「アシェが?どんなことに??」

自分から聞いてきておいて、何故驚くのだろうか。
それにアシェルは聖人君子ではないのだから嫉妬くらいする。

「もっと身長が欲しかったから、アークとの身長差をふとした時に感じて悔しいし、エトとかダリル先輩みたいに筋肉がついてるのは凄く羨ましい。鍛えても全然つかないんだもん。ほんと、メイディーの呪いレベルだよ。こういう、自分には無いものを羨むことを“嫉妬”って言うんでしょ?」

「いや、まぁそうだが……身長差については仕方がないだろ。アシェの背を抜いた時は、正直ほっとしたぞ。それと、あんなにムキムキになってどうする。せっかく綺麗な身体のラインなのに。」

「でも、もう少し位ついてくれても良いと思わない?いくら上手に身体強化をかけれても、やっぱり土台の筋力差で負けたりするんだもん。すっごく悔しいんだよね。未だにエトに木剣吹き飛ばされるし。いつか一本取ってやるんだから。」

アークエイドの腕の中でアシェルが握り拳を作る。

アシェルは物凄く負けず嫌いだが、それはエラートも一緒だ。
手合わせで不利になったら負ける前に力押ししているのを、傍から見ているアークエイドとデュークは知っている。

「他には無いのか?」

「他に?うーん……クリストファー先輩に、片手だけで両手を拘束されたのは悔しかったかな。そんなに大きい手じゃないのに、僕の手首どっちも掴めちゃうんだもん。……アークも。男女の違いをまざまざと見せつけられるのが悔しいんだよね。」

「結局どれも、体格や男女差による違いだろ。そういうのしか嫉妬したことが無いのか?薫は?」

前世のことも思い出せと言われて、記憶を引っ張り出してくる。

「嫉妬もヤキモチも、二人分合わせてそれだけだよ。……に分かるのは、咲と健斗が教えてくれたことだけ。大切な二人と施設の子供達が幸せに過ごせれば、ソレだけで良かったから。二人が嬉しいとも嬉しいし、二人が悲しいとも悲しい。二人が居ないとは世界に馴染めない異分子で、傍観者だったから。僕の記憶も……そうだね。ベルが居たからベルを見て、なるべく子供らしくしようとしてたけど、ベルのように本気で手が付けられないほど怒ったことってないかも?お兄様達は、僕が頬を膨らませて見せても笑ってたから、分かってたんじゃないかな。」

薫の眼をしたアシェルの姿に、ぼそりとアークエイドが「依存ってこういうことか。」と呟いたが、小さすぎてアシェルの耳に届くことは無かった。

自分で口にした言葉に違和感があったからだ。

「いや……一度だけあるか。怒りに支配されたことが。」

「アシェが?」

「アークも居たでしょ。NM相手の時、初めて頭に血が上るとか、怒りで頭が真っ白になるっていうのを経験したと思う。」

アシェルの言葉に、アークエイドはあの時の身動き一つ許されないような殺気を思い出す。
冷ややかな声と鋭すぎる殺気で、まるで周囲の温度が下がったような錯覚さえした。

「アレか……。アシェを本気で怒らせた奴は、息の根が止まるな。」

「アレは魔物だから殺したんだからね?人間相手なら、多分躊躇うか、とどまると思う。」

「そこは多分なんだな。王宮は?」

「状況次第。相手が救いようのないほどクズなら、別に良いでしょ?まぁ、どちらにしても口があるから、殺さずに動けなくするだけだけどね。王宮の時は、NMの時ほど怒ってないよ。アークとアン兄様が傷つけられないように、に出来ることをしただけだから。……二人に傷が付いてたら、本気で怒ったかもだけど。」

王宮でのアシェル——いや、薫は、まるで拷問をしているかのように、黒尽くめの男の指を折り、最終的には四肢を折っていた。
あれで怒りには支配されていない状態だったのだ。確かに殺気は一切出ていなかった。
そしてアシェルと薫の本質が同じ、という意味も分かる気がする。

「あれがそうなんだ……頭に血が上って真っ白なところに、既に選り分けられた選択肢だけが出てきて、どうすれば確実に相手を仕留められるか、思考時間も少なかったように思う。一種の興奮状態だから、脳の働きも活発になってるのかな?いつもより感覚も鋭くなってた気がするし。でも、傷を負ってたし、そう勘違いしてるだけかも?うーん……客観的にあの時の自分を見たかったなぁ。」

「なんでそこで、考察モードになってるんだ。」

アークエイドは普通は怒りに支配されていれば、そんなに考えはまとまらないと思う、という言葉は飲み込み、そのまま思考に囚われてしまいそうなアシェルの肩を叩く。

恐らくあの時とパニックの時を足して半分にしたような状態が、一般的に怒りで我を忘れるとか、怒って手が付けられない状態なのではないだろうか。

「えっ、あぁ。ごめんね。えっと……とりあえず、僕の方が薫よりも感情豊かだって自信はあるけど、あんまりあれこれ複雑すぎるのはよく分かんないかも?シャーロット先輩を引き合いに出したのって、多分僕にヤキモチをやかせたかったんだよね?僕とリリィが前世の話をしててアークが嫉妬する意味が、未だによく分からないから。」

「そうか。“特別な好き”も“ヤキモチ”もアシェに理解してもらうのは大変そうだな。」

「それって、アークが僕のことを“特別な好き”って思ってるから、あの時リリィに嫉妬したって事?……女の子で友達だよ?」

「それでもだ。アシェとリリィが特別な関係じゃないと分かっていても、どうしようもないんだ。」

「うーん……分かんない。」

悩んでも答えが出ないのは分かり切っているので、手持無沙汰なアシェルはアークエイドの肩に頭を預け、背中を流れる漆黒の髪に指を通す。

相変わらず光が透けないほど綺麗な真っ黒い髪は、絹糸のような滑らかさだ。

アシェルがアークエイドに身体を預けたからか、まわされていた腕がぎゅっとまたアシェルを抱きしめてくる。

「アシェ達は充電する時に、そうやって髪を触るんだな?」

「別に今充電してるわけじゃないんだけど、なんとなく手持無沙汰だなって。アン兄様やアル兄様が頭を撫でてくれてて、届かないから代わりに髪の毛を触ってたら、なんか習慣になっちゃって。今は兄妹皆、相手の髪の指触りを楽しみながら充電してることが多いかな。アン兄様も昔は胸辺りまで髪の長さがあったんだけど、学院に入る時にノア達くらいまで短くしちゃったんだよね。お父様のように伸ばしたままだと思ってたのに……アン兄様の髪の毛も好きだったのになぁ。」

それは幼いアシェルのためだけに髪の毛を伸ばしていたのではないかと、アークエイドは思ってしまう。

最初は絵本を読んで貰う時くらいしか近寄って来なかったと言っていたので、アシェルが興味を持って触りたがるのなら、喜んで髪の毛くらい伸ばしそうだ。

かくいうアークエイドも、まだ小さい時にアシェルがぽろっと「アークの髪は綺麗だから、伸ばしたらきっと手触りの良い黒曜石で出来た絹糸みたいになるんだろうね。長い髪の毛を触るのが好きなんだよね。」と溢したので、伸ばし始めたのだ。

現在、こうやってアシェルがアークエイドの髪の毛を触っているので、無事思惑通りに進んでいると言える。

「すっごく頑張ってお手入れされてるんだろうな。枝毛も見当たらないし、すっごくサラサラで気持ち良いよね。まるで黒曜石を絹糸に変えてしまったみたいに、真っ黒で艶々してて綺麗だし。」

きっと後姿だけなら、日本ではとんでもない美人だと思われただろう。
それくらい手入れの行き届いた漆黒の髪の毛は綺麗だ。

「アシェの髪だって綺麗だぞ。普段イザベルが頑張ってくれてるんだろ。」

アークエイドもアシェルの髪の毛を触っている感触が、背中から伝わってくる。

そんなつもりはないのに、これでは本当に充電しているみたいだ。

「うん。乾かす時間も含むから、全身のスキンケアより髪のお手入れの方が長いくらいだよ。髪を切るのもベルがやってくれるから、全部お任せしてる。さすがに長すぎるかなって思うんだけど、綺麗だから伸ばせって。」

お尻が隠れるくらいの長さなので、下ろしている時は気を付けないと身体の下に敷きこんでしまうのだ。
せめて臍までと言ったが、イザベルは聞き入れてくれず今に至る。

「その意見には俺も賛成だな。アシェの綺麗な髪が短くなるのは勿体ない。」

アークエイドが掬いあげた髪の毛に、チュッとキスをした音がする。

「短くって言っても、腰あたりにしたかったんだけどね。あまり令嬢の髪の毛が短いと、見栄えが悪いらしいから。……サーニャがね、シェリーお母様は僕にそっくりな色味と髪質で、同じくらいの長さがあったんだって。多分、ベルはそれを聞いてたから、これくらいの長さにしたいのかなって思う。」

「……どうしてだ?」

「邸でドレスを着てると、時々お父様やお兄様達が懐かしそうな表情をするんだ。多分だけど、後姿とかでシェリーお母様を思い出してるんじゃないかな。ベルはお母様のことを知らないけど、サーニャがずっと仕えてたらしいから。サーニャの大切な人をお父様たちに忘れないで欲しいのかも。お母様の部屋も残ってて、思い出部屋なんだ。」

「思い出部屋?」

「うん。シェリーお母様の部屋は広いし、続き部屋もいくつかあるんだけど。ちょっとずつ僕ら兄妹の着ていた服とか、玩具とか、よく読んでた本とか。そういうのが置いてあるんだよ。元々シェリーお母様がやってたのを、亡くなってからも続けてるんだって。だから僕のもあるし、メルも僕らの義兄妹だから、2歳からだけどメルの分もあるんだよ。面白いものだと、僕らが一番最初に作ったマナポーションが入ってるはず。もう使えないし、きっと効果も低くて、とても不味いんだろうけどね。」

「なるほど。それで思い出部屋か。」

「うん。あと、アン兄様とアル兄様が僕を連れて行ってくれる時は、シェリーお母様の話をしてくれる時だったんだ。メアリーお義母様は絶対にその部屋には入らないから、シェリーお母様の話をするのにはぴったりの場所だったんじゃないかな。お母様を知らない僕の為に、一生懸命色々教えてくれてたんだと思うけど、お母様の話を聞いてると申し訳なくなってくるんだよね。」

二人の兄はシェリーがどんな見た目だったとか、体調が良い時はこんなことをしてくれたなど教えてくれた。シェリーがアシェルが産まれるのを待ち望んでいたことも。
アシェルの名前もシェリーを含めた四人で考えたのだとか、色々と教えてくれた。

そしてアシェルもアレリオン達も、シェリーが生きた証なのだと。

だがそんな話を聞く度に、アシェルがこの世に生を受けなければ、シェリーはもっと長く家族と一緒に居られたのではないかと思ってしまう。

「アシェの母親が死んだのは、アシェのせいじゃない。母上が言っていた。元から長くなかったのだと。むしろ、あの身体でよく子供を三人も産めたものだと、褒めていたくらいだ。母上曰く、メイディー卿への愛のなせる業だそうだ。」

「ふふっ、なにそれ。その説明は僕もされたよ。でもやっぱり、僕を授からなければ、産まなければって思っちゃうよね。でも、僕達はお母様の生きた証だって言われたら、そう思っても口には出せないし。……お母様が居たら特別な好きがなんなのか、僕にも分かったのかな。お母様はお父様のことが大好きだったって言ってたし。両親が揃ってたことなんてないから、イマイチ夫婦にまでなる特別な好きが分からないんだよね。メアリーお義母様は、どうしてお父様と再婚したんだろ。メルに良い教育と環境を与えたかったのかな。」

「なんだそれは。好き合ったからだろう?」

「分からない。でもお父様と結婚すれば、メルには教育も衣食住も、最高の環境が整うでしょ?ってなるとメアリーお義母様自体は無駄遣いなんて一切しないから、財産目当てじゃなくてメルのためかなぁって思って。」

アシェルに張り合うように何かを要求するのは、いつもメルティーのためだった。
メアリー自身が何かして欲しい、何か物が欲しいと言っているのは聞いたことが無い。

「アシェの視点から見ると、再婚はそう解釈されるのか……。好き合っているように、俺からは見えるけどな。そうじゃなければ、メイディー卿は再婚しないだろ。」

「そうなの……?お互い嫌いじゃないんだろうけど。お父様的に、メアリーお義母様は丁度いい存在だったのかなっても思ってて。お母様が居ないから家のことはアン兄様とアル兄様が、執事のウィルと協力して色々やってたから。メアリーお義母様が来てしばらくしてから、お兄様達とお茶をできる日も増えたし。」

メアリーがメイディー邸にやってきたことで、確実にアレリオン達の負担は減っただろう。

我が家は皆、物事を合理的に考えたり、楽しめそうであれば介入せずに傍観者になる傾向がある。
全く好きじゃない訳ではないだろうが、たまたまタイミングが良かったから再婚した可能性も、十分にあり得るのだ。
それがメイディーの人間だ。

「なら良かったじゃないか。俺だって別に、両親を見ていて“特別な好き”が分かったわけじゃないしな。むしろ、両親とも兄弟ともなかなか会えないのが王族だ。」

「アークの場合、王家の血筋によるものもあるでしょ。」

「くくっ、そうだな。本当に一目惚れするとは思ってなかったが……アシェを見た瞬間、この子だって思ったし、どうやってアプローチするか本当に悩んだんだ。アシェは俺のことを、全く意識してくれなかったがな。」

「男を好いてるなんて思ってなかったし、アプローチされてたなんて思ってないんだけど。」

「だろうな。まぁ、今はこうやってアシェが俺の気持ちのことを考えようとしてくれているだけで、かなりの進歩なんだ。期日までまだあるし、ゆっくり考えてくれ。アシェがちゃんと考えて出した結論なら、俺は受け入れるから。」

アビゲイルもノアールに、同じようなことを言っていた気がする。

「それ、ちゃんと考えた上で嫌だって言ったら、閉じ込めて来たりしないよね?」

「あのなぁ……俺を何だと思ってるんだ?無理やりどうにかなるなら、もうとっくにしてる。時折そうしたいと思うこともあるが……でも俺は、こうやって自由に好きなことをやってるアシェが好きなんだ。例え逃げられないように閉じ込めたとしても、色のない世界にいるアシェは、きっとアシェじゃなくなってしまうからな。そんなことになるくらいなら、諦めたほうがマシだ。一番は婚約者になってくれることだがな。」

「まぁ、僕らしさは無くなっちゃうだろうね。ノアよりもっと手前のところで悩んでて、ごめんね。アーク的には早く、答えがどっちなのか聞きたいんだろうけど。」

「それはそうだが……こうやってるのをアシェが嫌がってないから、今はそれでいい。ただ……前みたいな拒絶はしないでくれ。当たり散らしても無視しても良いから、傍に居させて欲しい。」

それはアレリオンとも約束したことだ。
次は拒絶するつもりはない。

「アン兄様と、アル兄様かベル、アークの誰か一人は傍に置いとけっていう約束をしたから、一応候補の一人ではあるよ。」

「アレリオン殿が?」

「うん。アークなら僕が無視してても、邪魔にならないように大人しくしてるだろうって。確かにアークなら、僕が喋りたくない時は、そっとしといてくれるだろうなって思うし。」

「まぁ、そうだな。わざわざアシェを怒らせたいわけじゃないからな。」

「アン兄様と約束したから、次はもう少し皆安心するかなって思うよ。……ところで、いつまで充電してるの?もう終わって良い?」

アークエイドからの充電完了のお知らせが、いつまで経ってもこない。
そろそろ髪の毛を触るのにも飽きてきた。

「あぁ。アシェと離れるのは惜しいが。」

アシェルがチュッとアークエイドの頬にキスをすれば、アークエイドからもキスが返ってくる。

その合図に、緩まった腕の中を抜け出し寝台に寝転ぶ。
思いっきり身体を伸ばしたかったのだ。

「今のが充電完了の合図だからね。アークが僕で充電するつもりなら覚えておいてよね。」

「いつもしているキスに意味があったんだな。分かった。寝るのか?」

「ごろごろするだけ。いつ呼び出しが来るか分からないしね。」

アシェルの返事にアークエイドも横たわり、腕の中に閉じ込められる。
どうも二人で横になる時は、アシェルのことを抱きしめていたいらしい。

どちらからともなく、非公式お茶会の思い出を語り合う。

ゆったりと二人で過ごすアシェルに呼び出しがかかったのは、翌朝のことだった。


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