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第三章 王立学院中等部二年生
188 後期は申し込みの季節①
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Side:アシェル13歳 秋
スタンピードの後は指示された通り報酬を受け取って、冒険者たちは通常通り討伐任務に出るようになった。
魔の森の植物素材が高騰しているので、アーニャへの術式の講義はまた時間がある時にということで落ち着いた。
アシェルはトーマたちからビースノートで仕入れた素材たちを受け取り、思う存分実験室に籠った。
もちろん家族にもちゃんと素材はお裾分けしたし、薬も毒もお構いなしに味見もした。
何度かぐったりしているところをアークエイドに見つかったが、イザベルのように騒いだり味見を止めろとは言われなかったので、来訪を気にせず味見も出来て、短いけれどとても充実した夏休みだった。
残りはまた時間を見つけて実験をするつもりだ。
双子と王都組の残りはタウンハウスに戻ったようで、寮に戻ったのはアシェルだけだった。
王宮での仕事の合間に、ふらっとアークエイドがやってきて泊っていく程度だ。
アシェルが邸に戻らなかったのは実験室が寮にあるというのもあるが、邸は素材がどんどん運ばれてきて、てんやわんやしていたというのもある。
それでも汎用性の高い植物素材は、庭と温室の植物たちがシーズン中にどこまで備蓄できるかだ。
冬が来る前に魔の森に採りに行っても良いかもしれないが、魔物たちに踏み荒らされているかもしれないし、今は薬草の買取価格も高騰しているだろう。
採りに行ったところで、あまり成果はないかもしれない。
そんなこんなでとても短い夏休みが終わったのだが、アシェルはすっかり失念していた。
今年も学院祭の後夜祭の、ラストダンスのお誘いが殺到することを。
「お誘いありがとう。でも、今年から生徒会に入ったから、後夜祭で踊る時間が取れないんだ。ごめんね。」
今日も今日とて、新学期に入ってから何度口にしたのか分からないセリフを口にする。
もしかしてアシェルは卒業するまで毎年、数か月断り続ける生活を送らなければいけないのだろうか。
校舎の五階へと続く階段を上り終え、ようやくホッと一息つく。
大講堂を使う授業以外でこの五階に上がってくるのは、生徒会役員か生徒会室に用事のある人間だけだからだ。
「アシェ、大丈夫?生徒会だからって断りなら、僕にもできるよ。」
「ありがとう、ノア。大丈夫だよ。どうせ断り続けないといけないし、ノアが対応してくれてる間に他の子が来る可能性もあるしね。まぁ、生徒会だから踊れないって少しでも認知が広がれば、少しずつ減ってくるはずだから。」
少しずつ減るというのはアシェルの希望的観測だ。
未だアルフォードもお誘いを受けている姿を見るに、あまり効果は無いのかもしれないが、少しでも申込者が減ると思っていないとやってられない。
心配してくれるノアールと、こちらも心配気なアークエイドと三人で生徒会室の扉を潜る。
そして視界に捕捉したメルティーを最短距離で抱えに行き、ソファに腰掛ける。
「アシェ義兄様。今日もお疲れですのね。」
「疲れてないよ。ただ、充電したいだけ。」
メルティーの髪の毛をいじりながら問答無用で充電を始めたアシェルに、メルティーも周囲の生徒会メンバーも苦笑するしかない。
毎日毎日、先に来ているメルティーを捕獲しては、こうやってしばらく充電するのだ。
それが分かっているので、アークエイドとノアールはなるべく遅くアシェルが到着するように調整するし、メルティーも授業が終わってすぐに生徒会室に来ている。
今年の充電相手は、膝に乗せられるメルティーが優先されるようだ。
アルフォードは隣に座って、よしよしとアシェルの頭を撫でてやっている。さすがにサンドイッチの姿はなかった。
「……うん。メル、ありがとう。アル兄様もありがとうございます。」
アシェルがチュッとメルティーとアルフォードにキスするのを合図に、メイディーの充電時間が終了する。
本来なら長机を四角形に並べたほうで会議をするのだが、アシェルの充電に合わせて皆応接セットに座っている。
元はコの字型だったのだが、役員が増えたので四角形だ。
アシェルもメルティーも特に重要な仕事の割り振りは無いし、充電中でも話を聞いていればいいだけのことは進められるからだ。
「今年はほとんどのメンバーが経験済みのことだし、学院祭の規模自体が少し小さくなるから、去年程忙しくは無いと思うよ。ようやく決まったけど、各クラスの出し物は無くなって、文献発表や演習場での実技がメインになるよ。食事関連は全て商店街で。日数も3日間で最終日は後夜祭をするけれど、一般公開は無しになっている。」
「まぁ、今年の王立学院祭は名目上実施するけど、実際のところはお休みみたいなものね。一般公開もないし、文献に興味がある人間と武術に興味のある人間。それから食事の為に出歩くくらいじゃないかしら。」
生徒会長であるユリウスと副会長のマチルダが、ここ数日でようやく決まった内容を伝えてくれる。
スタンピードで各所に影響が出ていたので、今年は学院祭自体をどうするかという話しになっていたのだが、一応開催はするようだ。
一般生徒はクラスの出し物について担任が話さないのを不思議に思っているだろうが、学院祭そのものがどうなるかついて気にしている人はいないだろう。
「学院祭の一般公開は無いけれど、今年は元々、国賓が来る予定だったのよ。スタンピードも終わったし恐らく来ると思うから、わたくしもアークも国賓の対応をしなくてはいけないの。三日間全てかどこか一日だけか……生徒会の仕事には参加できなくなるわ。本来は一般公開日にお忍び予定だったのだけれど、少し目立つだろうから。アルとアシェルにも交代で付き合ってほしいところね。」
「この内容は、生徒会の中だけで留めておいて欲しい。外に漏れると厄介だからな。」
国の王子と姫が揃って対応する相手ということは、外国から王族かそれに近い身分の人がやってくるのかもしれない。
何が何でも情報漏洩は避けたい案件だろう。
「となると、念のため見回りから四人は抜いておこうか。アビゲイル嬢、アルフォード君とアシェル君は交代で良いんだね?」
「えぇ。二人居ても、どうせ視てるのは同じでしょうから。それにあまり近いと視にくいのよね?」
「まぁ、そうだな。俺とアシェが一緒に視るなら、一番近くてもここから入口までの距離は欲しいな。」
アルフォードの言う通り、この生徒会室の入り口から教室の真ん中あたりまでの距離は確保しておきたい。
探査魔法の魔力を出す中心は、近いと調整がしにくいのだ。
ユリウスがそれならと用紙にペンを走らせ、見回りや配置の割り振りを行っていく。
「アビゲイル嬢とアークエイド君は、三日間通して時間があれば校内を適当に見回ってくれ。アルフォード君とアシェル君は、2日目までは第三演習場の救護室に、最終日は大広間の救護室にお願いできるかい?午前中はアシェル君、午後にアルフォード君が詰めて貰えると助かるよ。警護に連れていくときは、空いてる方を連れて行っておくれ。それから——。」
残りも二人から三人のグループで、見回りエリアと時間を伝えられる。
見回り範囲も狭いので、役員数の多い今年は四人抜けても十分すぎる配置だ。
担当の時間以外は自由で、展示を見ながらついでに見回りでも良いし、自室でゆっくりしていても良いそうだ。
一般公開しないからこそのゆとりだろう。
「まぁ、こんな感じかな。今年は各クラスの出し物がないから書類は減るけど、もしかしたらクレームは来るかもしれないね。」
「俺、クレーム処理とか無理っすよ?」
「まぁ、その辺りは口が上手い人間じゃないと無理だから、ダリル君は気にしなくて良いよ。」
「ですわね。か弱い女性が表に立たなくても、男子生徒も女子生徒も網羅できそうな人材が揃ってますもの。ミルトンとメイディーが揃っていて良かったですわ。」
シャーロットがにこりと微笑むが、それはミルトン兄弟とメイディー兄弟にクレーム対応をしろと言っているのだろうか。いや、言っている。
確かにこの四人が居れば、男子生徒も女子生徒も網羅できるだろう。
兄弟同士で少しタイプが違うし口は上手いほうだと思うので、役員の中では適任だと言えるだろう。
願わくば、お喋り目的のクレームが増えないことを祈るばかりだ。
ラストダンスの断りに、お喋り目的の相手をしなくてはいけないようなサービス業に就職した覚えは無いのだから。
「それじゃあ今日はここまで。他にやることはないから、もう帰っても大丈夫だよ。」
ユリウスの言葉で、皆思い思いに散らばっていく。
クラスの出し物と一般公開が無くなるだけで、こんなに暇になるのか。
連日夜遅くまで居残りしていた去年とは大違いだ。
「アルとアシェルには少し詳しい話をしておきたいから、先に失礼するわ。」
「分かったよアビゲイル嬢。生徒会に教えて貰うのは、最低限の内容で良いからね。どこで情報が洩れるか分からないから、後日差支えない範囲で教えておくれ。」
「えぇ、分かってるわ。じゃあまた来週に。」
「お疲れ様。」
ユリウスとアビゲイルがやり取りしている内容的に、アシェルとアルフォードは問答無用でアビゲイルと帰ることになるようだ。
それは別に構わないのだが、メルティーと一緒に帰らないのなら食事をどうするか伝えておかなくてはいけない。
「アビー様。お話は時間がかかりますか?メルに夜ご飯をどうするか、伝えておきたいのですが。」
「あぁ、そういえば一緒に食べているのよね。そうね、一時間もあれば十分よ。」
「分かりました。メル。今日は寮に戻っててくれる?準備が出来たら、またベルに迎えに行かせるから。出来れば先輩たちと一緒に戻ってね。」
「アシェ義兄様、わたくし晩御飯は別でも構いませんわよ?」
「僕がメルと一緒に食べたいの。メルは嫌?」
「嫌じゃありませんわ。って答えるのを分かってて聞いてますわよね?」
「ふふ、そうだよ。じゃあ、また後でね。」
ちょっぴりむくれた可愛いメルティーに手を振って、生徒会室を出る。
なるべく話を知る人間が少ないほうが良いというので、アークエイドも含めた四人でアシェルの部屋へと向かった。
帰る時間が早かったせいか校舎の近くにはまだ生徒達が残っていて、アシェルもアルフォードも挨拶代わりと言わんばかりにラストダンスのお誘いを受けまくった。
そして二人とも笑顔で断りまくった。
いい加減、保健委員は学院祭最終日に会場となる大広間の救護室に居ないといけないので、ラストダンスのお誘い自体が無駄だと分かってくれないだろうか。
高学年は多分ソレを分かっていて、それでも一縷の望みをかけてお誘いしてくるのだろう。
顔や名前を憶えて貰いたいというのもあるのかもしれない。
スタンピードの後は指示された通り報酬を受け取って、冒険者たちは通常通り討伐任務に出るようになった。
魔の森の植物素材が高騰しているので、アーニャへの術式の講義はまた時間がある時にということで落ち着いた。
アシェルはトーマたちからビースノートで仕入れた素材たちを受け取り、思う存分実験室に籠った。
もちろん家族にもちゃんと素材はお裾分けしたし、薬も毒もお構いなしに味見もした。
何度かぐったりしているところをアークエイドに見つかったが、イザベルのように騒いだり味見を止めろとは言われなかったので、来訪を気にせず味見も出来て、短いけれどとても充実した夏休みだった。
残りはまた時間を見つけて実験をするつもりだ。
双子と王都組の残りはタウンハウスに戻ったようで、寮に戻ったのはアシェルだけだった。
王宮での仕事の合間に、ふらっとアークエイドがやってきて泊っていく程度だ。
アシェルが邸に戻らなかったのは実験室が寮にあるというのもあるが、邸は素材がどんどん運ばれてきて、てんやわんやしていたというのもある。
それでも汎用性の高い植物素材は、庭と温室の植物たちがシーズン中にどこまで備蓄できるかだ。
冬が来る前に魔の森に採りに行っても良いかもしれないが、魔物たちに踏み荒らされているかもしれないし、今は薬草の買取価格も高騰しているだろう。
採りに行ったところで、あまり成果はないかもしれない。
そんなこんなでとても短い夏休みが終わったのだが、アシェルはすっかり失念していた。
今年も学院祭の後夜祭の、ラストダンスのお誘いが殺到することを。
「お誘いありがとう。でも、今年から生徒会に入ったから、後夜祭で踊る時間が取れないんだ。ごめんね。」
今日も今日とて、新学期に入ってから何度口にしたのか分からないセリフを口にする。
もしかしてアシェルは卒業するまで毎年、数か月断り続ける生活を送らなければいけないのだろうか。
校舎の五階へと続く階段を上り終え、ようやくホッと一息つく。
大講堂を使う授業以外でこの五階に上がってくるのは、生徒会役員か生徒会室に用事のある人間だけだからだ。
「アシェ、大丈夫?生徒会だからって断りなら、僕にもできるよ。」
「ありがとう、ノア。大丈夫だよ。どうせ断り続けないといけないし、ノアが対応してくれてる間に他の子が来る可能性もあるしね。まぁ、生徒会だから踊れないって少しでも認知が広がれば、少しずつ減ってくるはずだから。」
少しずつ減るというのはアシェルの希望的観測だ。
未だアルフォードもお誘いを受けている姿を見るに、あまり効果は無いのかもしれないが、少しでも申込者が減ると思っていないとやってられない。
心配してくれるノアールと、こちらも心配気なアークエイドと三人で生徒会室の扉を潜る。
そして視界に捕捉したメルティーを最短距離で抱えに行き、ソファに腰掛ける。
「アシェ義兄様。今日もお疲れですのね。」
「疲れてないよ。ただ、充電したいだけ。」
メルティーの髪の毛をいじりながら問答無用で充電を始めたアシェルに、メルティーも周囲の生徒会メンバーも苦笑するしかない。
毎日毎日、先に来ているメルティーを捕獲しては、こうやってしばらく充電するのだ。
それが分かっているので、アークエイドとノアールはなるべく遅くアシェルが到着するように調整するし、メルティーも授業が終わってすぐに生徒会室に来ている。
今年の充電相手は、膝に乗せられるメルティーが優先されるようだ。
アルフォードは隣に座って、よしよしとアシェルの頭を撫でてやっている。さすがにサンドイッチの姿はなかった。
「……うん。メル、ありがとう。アル兄様もありがとうございます。」
アシェルがチュッとメルティーとアルフォードにキスするのを合図に、メイディーの充電時間が終了する。
本来なら長机を四角形に並べたほうで会議をするのだが、アシェルの充電に合わせて皆応接セットに座っている。
元はコの字型だったのだが、役員が増えたので四角形だ。
アシェルもメルティーも特に重要な仕事の割り振りは無いし、充電中でも話を聞いていればいいだけのことは進められるからだ。
「今年はほとんどのメンバーが経験済みのことだし、学院祭の規模自体が少し小さくなるから、去年程忙しくは無いと思うよ。ようやく決まったけど、各クラスの出し物は無くなって、文献発表や演習場での実技がメインになるよ。食事関連は全て商店街で。日数も3日間で最終日は後夜祭をするけれど、一般公開は無しになっている。」
「まぁ、今年の王立学院祭は名目上実施するけど、実際のところはお休みみたいなものね。一般公開もないし、文献に興味がある人間と武術に興味のある人間。それから食事の為に出歩くくらいじゃないかしら。」
生徒会長であるユリウスと副会長のマチルダが、ここ数日でようやく決まった内容を伝えてくれる。
スタンピードで各所に影響が出ていたので、今年は学院祭自体をどうするかという話しになっていたのだが、一応開催はするようだ。
一般生徒はクラスの出し物について担任が話さないのを不思議に思っているだろうが、学院祭そのものがどうなるかついて気にしている人はいないだろう。
「学院祭の一般公開は無いけれど、今年は元々、国賓が来る予定だったのよ。スタンピードも終わったし恐らく来ると思うから、わたくしもアークも国賓の対応をしなくてはいけないの。三日間全てかどこか一日だけか……生徒会の仕事には参加できなくなるわ。本来は一般公開日にお忍び予定だったのだけれど、少し目立つだろうから。アルとアシェルにも交代で付き合ってほしいところね。」
「この内容は、生徒会の中だけで留めておいて欲しい。外に漏れると厄介だからな。」
国の王子と姫が揃って対応する相手ということは、外国から王族かそれに近い身分の人がやってくるのかもしれない。
何が何でも情報漏洩は避けたい案件だろう。
「となると、念のため見回りから四人は抜いておこうか。アビゲイル嬢、アルフォード君とアシェル君は交代で良いんだね?」
「えぇ。二人居ても、どうせ視てるのは同じでしょうから。それにあまり近いと視にくいのよね?」
「まぁ、そうだな。俺とアシェが一緒に視るなら、一番近くてもここから入口までの距離は欲しいな。」
アルフォードの言う通り、この生徒会室の入り口から教室の真ん中あたりまでの距離は確保しておきたい。
探査魔法の魔力を出す中心は、近いと調整がしにくいのだ。
ユリウスがそれならと用紙にペンを走らせ、見回りや配置の割り振りを行っていく。
「アビゲイル嬢とアークエイド君は、三日間通して時間があれば校内を適当に見回ってくれ。アルフォード君とアシェル君は、2日目までは第三演習場の救護室に、最終日は大広間の救護室にお願いできるかい?午前中はアシェル君、午後にアルフォード君が詰めて貰えると助かるよ。警護に連れていくときは、空いてる方を連れて行っておくれ。それから——。」
残りも二人から三人のグループで、見回りエリアと時間を伝えられる。
見回り範囲も狭いので、役員数の多い今年は四人抜けても十分すぎる配置だ。
担当の時間以外は自由で、展示を見ながらついでに見回りでも良いし、自室でゆっくりしていても良いそうだ。
一般公開しないからこそのゆとりだろう。
「まぁ、こんな感じかな。今年は各クラスの出し物がないから書類は減るけど、もしかしたらクレームは来るかもしれないね。」
「俺、クレーム処理とか無理っすよ?」
「まぁ、その辺りは口が上手い人間じゃないと無理だから、ダリル君は気にしなくて良いよ。」
「ですわね。か弱い女性が表に立たなくても、男子生徒も女子生徒も網羅できそうな人材が揃ってますもの。ミルトンとメイディーが揃っていて良かったですわ。」
シャーロットがにこりと微笑むが、それはミルトン兄弟とメイディー兄弟にクレーム対応をしろと言っているのだろうか。いや、言っている。
確かにこの四人が居れば、男子生徒も女子生徒も網羅できるだろう。
兄弟同士で少しタイプが違うし口は上手いほうだと思うので、役員の中では適任だと言えるだろう。
願わくば、お喋り目的のクレームが増えないことを祈るばかりだ。
ラストダンスの断りに、お喋り目的の相手をしなくてはいけないようなサービス業に就職した覚えは無いのだから。
「それじゃあ今日はここまで。他にやることはないから、もう帰っても大丈夫だよ。」
ユリウスの言葉で、皆思い思いに散らばっていく。
クラスの出し物と一般公開が無くなるだけで、こんなに暇になるのか。
連日夜遅くまで居残りしていた去年とは大違いだ。
「アルとアシェルには少し詳しい話をしておきたいから、先に失礼するわ。」
「分かったよアビゲイル嬢。生徒会に教えて貰うのは、最低限の内容で良いからね。どこで情報が洩れるか分からないから、後日差支えない範囲で教えておくれ。」
「えぇ、分かってるわ。じゃあまた来週に。」
「お疲れ様。」
ユリウスとアビゲイルがやり取りしている内容的に、アシェルとアルフォードは問答無用でアビゲイルと帰ることになるようだ。
それは別に構わないのだが、メルティーと一緒に帰らないのなら食事をどうするか伝えておかなくてはいけない。
「アビー様。お話は時間がかかりますか?メルに夜ご飯をどうするか、伝えておきたいのですが。」
「あぁ、そういえば一緒に食べているのよね。そうね、一時間もあれば十分よ。」
「分かりました。メル。今日は寮に戻っててくれる?準備が出来たら、またベルに迎えに行かせるから。出来れば先輩たちと一緒に戻ってね。」
「アシェ義兄様、わたくし晩御飯は別でも構いませんわよ?」
「僕がメルと一緒に食べたいの。メルは嫌?」
「嫌じゃありませんわ。って答えるのを分かってて聞いてますわよね?」
「ふふ、そうだよ。じゃあ、また後でね。」
ちょっぴりむくれた可愛いメルティーに手を振って、生徒会室を出る。
なるべく話を知る人間が少ないほうが良いというので、アークエイドも含めた四人でアシェルの部屋へと向かった。
帰る時間が早かったせいか校舎の近くにはまだ生徒達が残っていて、アシェルもアルフォードも挨拶代わりと言わんばかりにラストダンスのお誘いを受けまくった。
そして二人とも笑顔で断りまくった。
いい加減、保健委員は学院祭最終日に会場となる大広間の救護室に居ないといけないので、ラストダンスのお誘い自体が無駄だと分かってくれないだろうか。
高学年は多分ソレを分かっていて、それでも一縷の望みをかけてお誘いしてくるのだろう。
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