氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第三章 王立学院中等部二年生

187 終わりは突然に⑤

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Side:アシェル13歳 秋



リリアーデの質問に素直に答えるアシェルに、ファンクラブの女性陣が盛り上がる。

「あぁ、新しい情報に感謝ですわ。あの時もっと詳しく聞いておくべきだったわ。押し倒されたアシェル様を、颯爽と助け出すアークエイド様。この場合ミルトン兄は悪役かしら。」

「さすがミルトン兄弟ですわよね。まさか兄弟どちらからもアプローチなんて……優位なのはシオン君かしら?」

「透明人間になって、傍で眺めていたかったですね。あ、でもわたくしが描くなら、押し倒すほうがアシェル様であって欲しいです。相手役は女の子に変換すれば良いですし。」

「アシェル様とアークエイド殿下の間に入ってくる噛ませ犬役……なんてどうかしら?ねぇ、イザーク君はどう思いますか?」

「え、俺ですか?ユーリ先輩の話で噛ませ犬役は、どういう末路になるか分からなくて可哀想なんですけど……。」

「うふふ。どういう末路になるのかしらね。」

少し話のネタがあれば、それぞれが盛り上がって思いついたことをわいわいと話し出す。
皆楽しそうで何よりだ。

「えっとぉ……ミルトン兄弟って、ご紹介いただいたシオン先輩ってミルトンでしたよねぇ?」

「うん。パティ嬢に紹介したのは弟の方。今話題に出てたのは兄の方だよ。僕はまだ社交界に出てないけど、どっちも男好きで遊び人っていう噂があるみたい。実際のところ二人とも、後腐れのない男の子を相手に遊んでるって感じかな。僕はその遊び相手の候補に選ばれたみたいだね。」

「ほぇー。まぁたしかにぃ、こっちって避妊具見ませんもんねぇ。まぁ、貴族だとお付き合いというより、もう婚約と結婚がセットですからぁ。必要ないだけかもしれないですけどぉ。」

「必要ないんだろうね。ピルなんかもヒューナイトじゃ取り扱ってる薬師はほとんどいないから、もし必要になったら僕に相談してね。処方箋書いてあげるから。」

「いやいやぁ。わたくしは別に遊びたい訳じゃないから、要りませんからねぇ?それに乙ゲーみたいにハーレムエンドなんてむりですぅ。まずは婚約者探しからですのにぃ……。」

「パティ嬢は可愛いから、引く手数多だと思うけどな。」

「か、かわ……可愛いのは見た目だけですぅ。見た目は神様にお願いしましたけど、中身が変わるわけじゃありませんからぁ。」

「そう?見た目だけじゃなくて、パティ嬢の少しおっちょこちょいなところも、料理がとても上手なところも、全てひっくるめて可愛いと思うけどな。パティ嬢の旦那さんになる人は幸せ者だね。」

「は、はぅ……イケメンに言われると破壊力がマジぱないですぅ。カナ先輩、これは本気でだめなやつですぅ。」

「アシェ、口説くのはその辺にしておけ。パティ嬢が困ってる。」

顔を真っ赤にしてカナリアの胸元に飛び込んだパトリシアを見て、アークエイドが小さなため息と共に注意してくる。

「別に口説いてないよ。素直に思ったことを口にしただけなのに。」

「それが口説いている内容になってるんだ。」

「ふふ、アシェったら相変わらずね。あ、今度しっかり、どんなシチュエーションで何があったのか教えてよね。最近胸キュン不足だから楽しみにしてるわ。またお泊り会しましょ。」

「リリィ。こんなところでお泊り会とか言うな。」

「えぇ、それもダメなの?」

「ドキドキ不足なら、リリィ相手に再現してあげようか?キスは……したらデュークに怒られそうだけど。」

「しなくて良いし、そこまで再現したら、いくらアシェでも怒るからな。リリィとキスするのは、リリィが潜在消費した時だけにしてくれ。」

「えーどうして?アシェとキスするくらい良いじゃないの。もう既に魔力を分けて貰った仲なのに。」

「良いわけないだろ。」

「せっかく身体が若返ってるんだし、少しは若い子みたいに胸キュンしたいじゃない。」

「そういうのは、僕と二人の時に言ってくれ。」

「なぁに。二人の時に言ったら、デュークがドキドキさせてくれるの?ふふ、じゃあ楽しみにしておくわ。」

「精神年齢大人だからドキドキしないとか、言わないでくれよ?」

「あら。アシェと初めてキスした時は、精神年齢大人な私でもドキッとしたわよ?頑張ってちょうだい。」

デュークがため息を吐くが、リリアーデはとても楽しそうだ。

相変わらずデュークはリリアーデに振り回されている。

「アシェ先輩は大人ですねぇ。この前は不覚にもドキドキしましたからねぇ。わたくしも精神年齢大人なんですけどねぇ。リリアーデ先輩が胸キュンしたのも、したいのも、分かりますぅ。」

「パトリシアさんは分かってくれる?やっぱり、胸キュンは大事よね!」

「分かりますよぉ。いくつになっても、キュン死しそうなくらいドキドキしたいですよねぇ。転生してから萌え不足でしたけど、ようやく楽園を見つけた気分ですぅ。」

「これで乙ゲーまであれば最高だけど、さすがにそこまでは高望みできないものね。漫画や同人誌があるだけでも、小説だらけの世界じゃオアシスよね。」

「ですねぇ。それに四人のファンクラブが出来る意味も分かる気がしましたしねぇ。そもそも顔面偏差値高すぎて、そこかしこにイケメンが歩いてる世界ですけどねぇ。」

「確かにイケメン多いわよね。逆に物凄い不細工って見かけないわ。あんまり塩顔も居ないわよね。」

「あー確かにぃ。ソース顔は結構いますけどねぇ。日本じゃモテモテ間違いなしの容姿の人が一杯で、眼福ですよねぇ。」

思い思いに各所で話が盛り上がっているのを眺めていると、ゴーン、ゴーンと時計台の鐘の音が5回響いた。

「スタンピード終了だな。残りは殲滅だけだ。」

「この時間なら、明日の朝には片が付いてるんじゃないか?魔の森は魔物自体そんなに強くないからな。」

「皆様、お疲れさまでした。わたくしは領地に帰らないといけないから、残念で仕方ありませんけど。」

今のが魔の森から魔物が溢れなくなった合図で、殲滅が終われば3回鳴り響くはずである。
デュークの言う通り、今対応してくれている人材だけで充分戦力は足りているだろう。

「ふぁぁ……スタンピードが終わったと思ったら眠たくなっちゃったわ。ねぇ、デューク。肩貸してちょうだい。」

「起きてるんじゃなかったのか?」

「だって、気が抜けたら眠たくなっちゃったんだもの。」

「はぁ……分かったから、ここに座ってくれ。」

デュークが自分の脚の間をポンポンと叩く。
『ストレージ』からタオルケットを取り出しているので、包んであげるつもりなのだろう。

「領地じゃないのよ?流石に恥ずかしいわ。」

「リリィの寝顔を、他の男に見せる気はない。」

「何よそれ。まぁでも、眠たいし、肩だけ借りるより寝やすいわよね。お邪魔するわ。」

デュークの脚の間にリリアーデが納まり、その上からタオルケットがかけられリリアーデの姿は見えなくなる。

「リリアーデさんの言うことも分かるけれど、まだお話していて大丈夫かしら?」

リリアーデを起こしてしまわないか心配するカナリアに、デュークは短く返答する。

「リリィは余程のことが無い限り起きないから、喋っててくれて構わない。」

「もし煩いようだったら言ってちょうだいね?」

「あぁ。」

少し声のトーンを抑えつつ、それでも楽しそうに各所で会話は続く。

天幕の広さはそこまで大きくないので、耳を澄ませばきちんと何処で誰が何を喋っているのか聞き取ることが出来る。

話しに参加するつもりのないデュークは、リリアーデを抱えたまま仮眠することにしたようで、既に目を閉じている。

もう一人この会話についていけないであろうアークエイドを見ると、ほんの少しだけ眠たそうだ。
アークエイドも気が抜けて、今までの疲れが出たのだろう。

「アークも眠たいんじゃないの?肩貸してあげるよ。」

「眠たくないと言えば嘘になるが……。アシェは?」

「僕は毎日、キルル様のお陰でしっかり寝てるから。今日は起きてるつもりでここに来たし、皆の話に耳を傾けながら本でも読んでようかなって。寝顔見られたくない?」

「肩を借りる。タオルでも被ってたら良いだろ。」

「そう。おやすみ、アーク。」

「あぁ、少し肩を借りる。」

タオルを頭からかけ、表情の隠れてしまったアークエイドに肩を貸す。

程なくしてズシっと重みを感じ出したので、寝入ったのだろう。日中とは別に、アークエイドは結界の中に戻ってきてからもなんだかんだと忙しく動き回っていた。

状況を知りたいというのを名目にエラートが付いて回ってくれたので、アシェルはあまり詳しいことは分からないが、各所の連携から会議など忙しそうだったのは分かる。

人前で寝入るなどアークエイドにしては珍しいが、仮眠続きだったしそれだけ限界だったのかもしれない。

寝顔が見えないようにタオルの位置を調節してやってから、アシェルは『ストレージ』から取り出した本に目を落とす。

今読んでいる本は、主にビースノート帝国で手に入る素材たちが載った辞典だ。

スタンピードが終わったらトーマたちに頼んでいた素材の受け取りがあるので、受け取り前の予習だ。

本の内容に集中してしまったアシェルを眺めながら、【シーズンズ】の面々は密かにガッツポーズをする。

「殿下が人前で寝るなんて思いませんでしたわ。それだけアシェル様を信頼してるってことなのかしら。」

「やっぱり、これって凄く貴重ですわよね?」

「えぇ。殿下を始め、王族は警戒心が強いですから。わたくしは従姉ですけれど、こんなに無防備なアークエイド殿下を見たのは初めてですわ。」

「それに絶対初めて肩をお貸しした感じではないですものね。あぁ、やっぱり領地を出てきて良かったですわ。」

ペンを手にしたユーリとティエリアが喋る傍ら、ミルル、イザーク、そしてパトリシアもペンを走らせる。

「さすが美男子は静かにしてても絵になりますねぇ。スチルを見てるみたいで素晴らしいですぅ。」

「稽古の合間にお昼寝なんてどうですかね。」

「良いと思うわ。イザーク君の作品は、日常の一コマを覗いてるようで、読んでいてとても楽しいのよね。」

「わたくしはデューク君の、寝顔を見せたくない発言が良かったです。アシェル様もアークエイド様の寝顔について気にされていましたし、これはもう作品に組み込むしかないですよね。彼氏に他の男に寝顔を見せたくないとか言ってもらいたいですわ。しかも、本を読んでいるアシェル様も良いですわよね。」

「合同誌とか出しても面白そうですねぇ。」

「パティさん。合同誌って?」

「一つのテーマを決めて、それに沿った内容で小説や漫画を持ち寄って、一冊の本にするんですよぉ。同じテーマでも、作者によっていろいろな話が集まって面白いですよぉ。」

「それは良いわね。次は皆さんにその合同誌をお願いしても良いかしら?」

「良いですねっ。それって、一人で小説も漫画も寄稿しても良いですか?」

「ミルル先輩はどちらも描かれるんですねぇ。凄いですぅ。」

【シーズンズ】のメンバー達は、そのまま合同誌のテーマについて話し合う。

仮眠続きで寝不足なのも相まって、皆が皆、どこかハイテンションなまま話は進む。

日が昇るころに鐘の音が三回響いたが、聞いていたのは【シーズンズ】の面々だけだった。




不意に肩にかかっていた重さが無くなり、読んでいた本から目を上げる。

「アシェ、おはよう。ずっと起きてたのか?」

「おはよう、アーク。うん……っていうか、今何時?」

少しだけトロンとした瞳のアークエイドにおはようのキスをされ、アシェルもアークエイドの頬にキスを返す。

キャーッという黄色い歓声が上がったことで、今【シーズンズ】のメンバー達と天幕の中に居たことを思い出す。

本に集中しすぎていて、今の状況を忘れていた。

「外が明るいことだけは確かだ。」

「ふふ。殿下とアシェル様は仲がよろしいのね。今は丁度6時頃ですわ。三回の鐘の音も鳴ったので、あとは撤収だと思いますわよ。」

「ありがとうございます、ユーリ先輩。って、アーク!ちゃんと起きてよっ。」

アークエイドが起きて軽くなっていた身体に、またずしっと体重を感じる。

寝惚けた様子のアークエイドが、アシェルに抱き着いてきたからだ。

口調はしっかりしてるのに、まさかアークエイドが寝惚けるなんて思ってもいなかった。
付き合いは長いが、寝惚けたアークエイドを見るのは初めてだ。

「もう少しこうしていたい。」

「もう少しじゃないのっ。スタンピードは終わったんだから、いくらでも寝台で寝れるでしょっ!」

「くくっ、怒ってるアシェも可愛いな。アシェと寝たい。」

「寝言は寝て言ってよね。あぁ、もうっ。王宮じゃなきゃお昼寝に付き合ってあげるから、とりあえず今は起きてっ!起きないとバインドで締め上げるよ?」

「それは困るな。」

困ると言いつつも、アークエイドの腕の力は弱まる気配がない。
今の状況が分かっているのだろうか。

「アークが寝惚けているところなんて初めて見たわ。」

「初めて見たわ、じゃないだろ。さすがにアシェを助けないと可哀想だぞ?」

「それはわたくしに、のけって言ってる?」

「分かってるならどいてくれ。」

「こんなアーク滅多に観れないし、周りは喜んでるから良いかなって思ったんだけれど。」

「面白がるなっ。」

デュークだけは助けてくれる気があるらしいが、リリアーデが動かないからか、救助には来れないらしい。

【シーズンズ】メンバーは言わずもがなだ。
誰もがこの普段は見れないやり取りに、興奮が隠しきれていない。

「これはやっぱり、殿下の一目惚れ相手はアシェル様で間違いないって事かしら。うふふ、殿下を揶揄うネタが一つ増えましたわ。」

「噂が確信になりましたわね。おはようのキスもする仲で、お昼寝までする仲なんですよね。困っているアシェル様も素敵ですわ。」

「文才も画才も無いこの身が恨めしいですわ。」

ユーリ、ティエリア、カナリアの言葉に、またわいわいと話しが盛り上がり始めている。

「もうっ、アーク!起きてってば!……はぁ。また寝ちゃったみたい。」

ぐったりとかかる体重と、すぅすぅというアークエイドの寝息が聞こえる。
これだけ騒いでても寝入ってしまったということは、よっぽど睡眠が足りてないのだろう。

仕方ないので落ちていたタオルを拾い上げ、アークエイドの頭に乗せてやる。

天幕の外は既に賑やかになっているので、撤収準備が始まっているのではないかと思うのだが、手伝いに行きたくても無防備なままのアークエイドを置いていくこともできない。

「ごめん、皆。アークまた寝ちゃったみたい。15分くらいしたら起こしてみるから、ここの片付けは後回しにしてもらえるようにお願いして来てもらえないかな?」

「僕が行ってくる。この状態が知れ渡ると良くないだろ?」

「うん。アークの警護的にも僕の尊厳的にも知れ渡って欲しくないかな。あ、もし手が空いてそうだったら、エトとマリクも呼んできてもらえる?流石にこの状態だと動けないし。」

「分かった。」

アシェルなら魔法だけでアークエイドを守り抜きそうだと思った言葉は口にせず、リリアーデに避けて貰ったデュークは天幕を出て行く。

「わたくしは朝ご飯の準備に行ってきますねぇ。もしかしたら無いかもですけどぉ、撤収するのに時間がかかるから、多分朝ご飯までは出ると思いますぅ。」

「わたくし達も解散しようかしら。アレリオン様とアルフォード様も、見納めに行かないとだわ。」

パトリシアに続いて、ティエリアまで天幕を出て行く。

そんなティエリアに続いて、ファンクラブのメンバーたちは頭を下げて静かに天幕を出て行く。

「あらら、皆出て行っちゃったわね。わたくしも出たほうが良いかしら?」

「それはどういう意味で?別にアークと二人っきりだからって、何も起きないからね??」

「ふふ、分かってるわよ。それにしてもアークがこんな風に寝ちゃうなんて、珍しいわね。」

「僕もアークが寝惚けてるのは初めて見たよ。」

「そうなの?割とアシェの部屋に寝泊まりしてるわよね?」

「結構遅くに寝ても、アークは目覚めが良いほうだと思うよ。よりによって、皆の前で寝惚けなくてもとは思うけど。」

「まぁ、それだけ疲れてるって事でしょうね。わたくしも久しぶりにしっかり寝れたわ。」

リリアーデがうーんと大きく伸びをする。

リリアーデもずっとちゃんと寝れてなかっただろうから、昨夜のような仮眠の延長ではなく、しっかり寝台で寝て欲しいと思う。

「入るぞー。」

「おはよー。」

エラートの声がしたと思ったら、マリクとデュークも続けて天幕に入ってくる。

「デューク、ありがとう。」

「いや、構わない。起きる気配はないか?」

「全くだね。」

デュークの問いに肩をすくめてみせる。

少しアシェルが動いたくらいでは、アークエイドは起きる気配もなければ、腕の強さが弱まる気配もない。
せめてアシェルに抱きつかずに寝て欲しかった。

「いやー。それにしても、見事に抱き着かれてんな?アークが寝惚けたってのも半信半疑だったけど、人前でそんな風にアシェに抱き着いたってのも珍しいもん見たって感じだわ。」

「夜中でもアークは、けっこー呼び出し受けてたからねー。毎日の仮眠も足りてなかったのかもー?」

「そうなの?全然気付かなかったや。」

「アシェは起こさないように気を付けてたからねー。アシェは昼間忙しーし、疲れが残ってると危ないからねー。」

「気を使ってくれてたんだね、ありがとう。」

外の喧騒を聞きながら、のんびり過ごす。

「そろそろかな……アーク、起きて。」

「……んっ……。」

「寝るなら帰ってから寝たら良いでしょ。座ったままなんてしんどいだけなんだから。」

ゆさゆさとアシェルの身体ごと揺さぶりをかけて、ようやくアークエイドの瞳が開く。

「おはよう、アシェ。」

挨拶と共に頬にキスしようとしてくるアークエイドを、グイっと顔を手で押しやって回避する。

「もうそのくだりは今日やったから!いつまでもうだうだしてたら、撤収できないでしょ。」

「そうだったか……?……おはよう皆。顔ぶれが変わってるな。」

「やっと起きた?起きたなら離れて。」

大人しくアシェルの言葉に従い、アークエイドが離れる。

眠たい眼を擦っているアークエイドの姿は貴重かもしれないが、その姿を見て歓声を上げる者はいない。

「すまない。迷惑かけた。」

「過ぎたことは仕方ないけど、ユーリ先輩に何言われても、僕は助けてやんないからね。」

「ユーリ嬢に?」

アークエイドは首を傾げているが、確かにユーリは“揶揄う”と言っていた。
何を言われるのか知らないが、遠くないうちに何かしらのアクションがあるだろう。

「何はともあれ、おはよう、アーク。スタンピードの完全終結はもう伝達が終わってるし、あとは撤収作業だけだぜ。撤収作業も補給員たちがやってるし、その護衛は騎士団がやるから俺達はいつ帰ってもオッケーだ。参加者の確認は門から戻る時に身分証明証を見せればオッケー。討伐者への報酬の受け渡しは、8日目から順次冒険者ギルドで。現物支給希望の場合は、出来るだけ希望に沿うから門で言ってくれってよ。現物支給希望者だけは、3~7日目の間に冒険者ギルドで受け取りだ。」

「これ朝ご飯ねー。皆は何貰うか決めたー?」

エラートがこの後に必要なことを全部教えてくれる。

その最中にマリクが、油紙に包まれたサンドイッチを配ってくれる。

「僕は現物。そういえば、誰かハニービー回収した人居る?これだけ沢山湧いてたら、一匹位誰か持ち帰ってないかなぁ。」

「俺は見てないねー。」

「俺も見てねぇな。」

「アシェとマリクが見てないのに、僕達が見てるわけないだろ。」

「夜は個体の確認じゃなくて、魔法で殲滅しちゃうしね。昼間の人が見てないなら、夜は分からないわ。」

「そっかぁ。残念。」

ということは、アシェルの申請はオークジェネラルの肉とバッファローの二本尻尾だ。
その他は金額分まで、美味しそうなお肉を詰め合わせにしてもらったら良いだろう。

もしお肉のチョイスを冒険者ギルドがしてくれるのなら、バンにお任せしてしまっても良いかもしれない。なんだかんだでグルメな解体場のおやっさんチョイスなら、間違いはないだろう。

「どうしようかしら。正直なところお金を貰うより、有能なパーティーを一年、領地に貸し出しとかの方が嬉しいわ。」

「さすがにそれは無理だろうな。リリィの言いたいことは、すごくよく分かるが。一応ジンに、次のランクアップはシルコットにって勧誘はしてる。まぁ、ランクアップの時だけだったとしても、来てくれればラッキーくらいの勧誘だけどな。」

「ナイスよ、デューク。実力者なら短期滞在でも大歓迎だわ。」

「別にお金貰っても—ってかんじだしねー。」

「まぁ小遣い稼ぎなら、別に金のない今じゃなくて良いしな。冒険者業なら、いつでも即金貰えるし。」

「エトが気にしてるのは国庫か?……確かに余裕があるとは言い難いが。」

「だろ?このスタンピードだけで、どれだけ金が動いてんだって話しだしな。ってわけで、アシェに合わせて肉貰って、また皆で飯食う時に使えば良いんじゃねぇの?誕生日会だって、結局やってないしよ。」

そういえば、リリアーデとデュークの誕生日会をやったっきりだ。

アシェルが寝込んでいた6月にはエラートの、実家で忙しくしていた8月にはアークエイドの誕生日があった。
今月にはメルティーの誕生日もあったのだ。

来月にはノアールとエトワールが誕生日を迎えるし、12月にはイザベルとアシェル、それから飛んで2月にマリクだ。

人数が多いから、ほぼ毎月誕生日がやってくる。

「それ良いわね、アシェ、何のお肉頼めば良いの?」

「皆で頼むなら色んな種類あった方が良いから、絶対入れて欲しいの以外はお任せとかで良いのかなって思うよ。とりあえず、ジェネラルとバッファローの二本尻尾は確認してるし、おやっさんにこっそり解体依頼したから、情報も出回ってないと思う。」

「じゃあ皆それで希望出しちゃいましょ?それぞれストレージに納めておけば、誰か一人の負担にはならないし。」

「だな。んじゃ、いい加減このテント明け渡して、街に戻ろうぜ。」

「俺だけは報酬なしなんだ。役に立てなくてすまない。」

撤収準備を始めるアシェル達へアークエイドが申し訳なさそうに口にした言葉に、皆驚いた。

「え、まさかアークってタダ働きなの?タダ働きで昼も夜もないなんて、王族って超ブラック企業ね。」

「リリィ……それきっと、僕にしか通じてないからね。」

苦笑するアシェルと違って周囲は首を傾げているので、ブラック企業という言葉は存在しないのだろう。

「まぁ、こればかりは仕方ない。戻ったら執務もあるが……アシェはどこに帰る?」

「僕?寮に帰るよ。あ、先に言っとくね。実験室に籠るから。アークに言っておかないと、ベルが休みとってくれないからね。」

「分かった。時々邪魔すると思う。」

「それはいつものことだし良いよ。好きにしてて。」

もう王都に戻って良いのかだけ確認を取って、城門へと向かった。

遅くて短い夏休みの始まりだ。
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