氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第三章 王立学院中等部二年生

193 王立学院祭の来訪者①

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Side:アシェル14歳 冬



あれからノアールは、その日の夕食にアビゲイルを誘いプロポーズしたそうだ。

キスまではしたらしいが、それ以上がどうだったのかまでは聞いていない。
だがアビゲイルのいつになくご機嫌な様子を見て、アークエイドだけは間違いなく事に至っただろうと思っていた。

週末にはアスノーム領に居る両親も呼んで、正式な婚約式も執り行われたため、貴族全員にノアールとアビゲイルの婚約は通達された。

イザベルとアルフォードがどういう関係になっているのかは、アシェルには分からない。

イザベルはいつもと変わらないように過ごしているし、アルフォードからも何も聞いていない。

ただ時々アルフォードが、アシェルの部屋で皆と一緒に夕飯を食べることが増えた。
だからといって、特別二人が話しているところは見かけていない。

こちらは何か進展があればイザベルが教えてくれるだろうから、アシェルは何も聞かないことにしている。



そんな毎日はあっという間に過ぎて行って、王立学院祭を翌日に控えた日。

アシェルは寝起きからどこか気怠さを覚えたまま、ホームルームを受けていた。
そんな様子の違いに皆は気付いてくれて、体調不良を気遣ってくれる。

「移動の前にごめん。先にお手洗いに行ってきていい?」

今日の一限目は魔法学の授業だ。

これから第一演習場に移動するのだが、どうにもお腹が痛い。

「気にせずにいってらっしゃいな。どうしても体調が悪いなら、先生にお休みって言っておくわよ?」

「アシェル様……ご無理はなさらないでくださいね。わたくしは授業が違うので、先に失礼しますが……。アークエイド様、あとはよろしくお願いいたします。」

「あぁ、ベルまで引き留めちゃってごめんね。着替えがあるでしょ。急がないと。」

心配そうなイザベルだが、今日のイザベルの一限目は侍女科だ。
お仕着せに着替える時間が必要だし、準備物があればそれも用意する時間が要るので、ゆっくりする時間は無い。

ペコリと頭を下げたイザベルを見送った後、アシェルはトイレへ駆け込む。

胃がむかむかするし腹痛はあるしで、胃腸炎にでもかかったかと思いながらズボンを下ろして、ようやく原因が分かった。

肌着には真っ赤な血が——つまり、生理である。

「初潮か……こなくて心配はしてたけど、こんなにしんどいものなの?」

理由が判明したが、前世の記憶ではこんなにお腹の痛みも感じなかったし、吐き気だってなかった。
薫は生理が軽い方だったのだ。

しかし、アシェルだってそんなに重たいほうではないだろう。

生理の重い子は出血量もだが、腹痛が酷く冷や汗をかいて寝込むような子だっていたのだから。

理由が判明して安心したと同時に、困りごとにも気付く。

今まで月の物が来ていなかったアシェルは、こちらの生理用品を知らないのだ。

勿論手元にナプキンのストックがあるわけでもない。

本当はイザベルに聞けたら良かったのだが、生憎と既にイザベルは移動してしまった。

仕方ないので下着に『クリーン』をかけ、ズボンをはき直す。
血液は落ちにくいが、魔法があってよかったと切実に思った。

トイレから出たアシェルは幼馴染達の元へ戻る。

皆に心配をかけてしまって申し訳ないが、恐らく理由を皆の前で明かしたりすれば、アークエイドにこんこんとお説教をされるに決まっている。

「あ、アシェ。大丈夫?あまり顔色も良くないわ。」

「うん。原因は分かったから、大丈夫。それより、リリィ。ちょっと来てくれる?」

幼馴染達が疑問符を浮かべる中、リリアーデを連れて教室を出て、あまり目立たない階段下に連れ込む。

「どうしたの、アシェ。こんなところで……内密な話?」

きょとんと首を傾げるリリアーデに、理由告げずに連れてきて申し訳ないと思うが、教室で話すわけにもいかない。

「うん。その……月の物が来たみたいで。ナプキンとかって、どうしたらいいか知ってる?あと、持ってたら分けて欲しいんだ。ベルと合流出来たら、ベルに用意してもらうから、それまでの繋ぎで。急にごめんなさい。」

アシェルの言葉に、リリアーデは納得がいったようだ。

「アシェはまだだったのね。おめでとう、で良いかしら?お赤飯が無いのが残念だわ。確かにこんな話、皆の前では出来ないわね。ちょっと待ってね。たしかストレージに……あったあった。」

前世では急に生理が来た女の子が、友人から生理用品を譲ってもらうのはよくある話だ。

リリアーデもどちらも経験があるので、『ストレージ』の中から未使用品のこちらの生理用品を取り出す。

「こちらの生理用品って、使い捨てじゃなくて布ナプキンなのよ。前世にもあったけど、一般的じゃなかったから。ここにボタンが付いてるでしょ?これでこう肌着に留めて、で、その上からこの布を当てるの。布にも留め具が付いてるから、ズレる心配はしなくて良いわ。肌着に留める方には防水シートが入っているから、量が多くても下着が汚れる心配は要らないしね。交換する時は、下まで汚れてなければ、この上の布だけ取り換えると良いわ。乾燥しちゃうと血液って中々落ちないから、少し水で濡らしてジップロックに入れておくと良いわよ。まぁ、わたくしはクリーンをかけちゃうけどね。袋も布ナプキンも未使用品だから使ってもらって大丈夫よ。」

リリアーデが取り出した生理用品を片手に、使い方を丁寧に教えてくれる。

「ごめんね、リリィ。新しいの買って返すから。」

「いいわよ、これくらい。それより、顔色が悪いけれど、お腹が痛いんじゃないの?お薬は飲んだ?」

「うん、痛い。これって、薬を飲んで良いものなの?色々聞いてごめんね。薫の時って生理軽い方だったから、どうしたらいいか分からなくて。」

なにぶん、薫の時にはこんな鈍い腹痛を経験したことが無いので、どう対処していいのか分からない。

施設の女の子はどうしていただろうか。

お腹を冷やさないようにしていたことしか覚えていない。

「飲んで良いに決まってるでしょ。普通の痛み止めで良いわよ。他におかしいところはある?」

すっかりお姉さんモードのリリアーデに促され、アシェルは自分の不調を口にする。
なんだか咲に聞かれているみたいで懐かしい。

「お腹に鈍痛があるのと、少し胃がむかむかして吐き気がする。」

「ちょっと指先と目を見せてね。……多分貧血ね。吐き気は貧血気味なせいだと思うわ。効くか分からないけれど、吐き気止めもあるなら飲んだ方が良いわ。あとは、鉄分多めの食事ね。ただ生理の出血はどうにもならないから、一番は無理に動かないことよ。」

簡単にアシェルを診察したリリアーデに言われ、アシェルは『ストレージ』の中から鎮痛剤と吐き気止めを取り出して服用する。ついでに造血剤もだ。

こんな時、常備薬として薬を持ち歩いているのは便利だ。

「何から何までごめんね。」

「これくらい気にしなくて良いわ。それよりお手洗いでソレつけて来たほうが良いわ。一人で戻るとおかしいから、ここで待っててあげるから。」

「うん、ごめんね。ありがとう。」

リリアーデに送り出され、パタパタとアシェルの姿がトイレへと消える。

その後姿をリリアーデは苦笑しながら見送った。

終始謝りっぱなしだったが、これくらい気にせずに頼ってくれたらいいのにと思う。
何も人に迷惑をかけるようなことはしていないのだから。



気怠く腹部と股に違和感はあるものの、薬を飲んだおかげか比較的楽に一日を過ごすことが出来た。

初回だからこれだけ辛かったのだとしたら良いのだが、もしこれが毎月来るかもしれないと思うとげんなりする。

特に体術の時間は、下着がずれてしまわないか気が気ではなかった。
イザベルにスパッツのようなものが無いか聞いておかなくてはいけない。

いつもより長く感じる一日を過ごして寮の自室に戻り、イザベルに報告だけしておく。

これから汚れものの洗濯物が増えるかもしれないし、どうしたら良いか聞いておかなくてはいけない。それに布ナプキンも用意してもらわなければ、アシェルにはどこで買えるのかも分からない。

イザベルは素直に身体の成長を喜んでくれ、既に用意してあった生理用品の収納場所を教えてくれる。
それから、血液汚れの洗濯物入れも。といっても、こちらはクリーンをかけてから出す予定だ。
スパッツのようなものもあるらしく、それも取り寄せて貰うようにお願いした。

そんないつもと違うやり取りがあって、夕食の為に急いで準備をする。

といっても、マルローネとアイザックが大体は進めてくれていて、アシェルの手伝いは断られてしまったのだが。

今日は明日からのアスラモリオン帝国の皇子と皇女のことも話さなくてはならないので、いつものメンバーに加えてアルフォードとアビゲイル。そしてアビゲイルに誘われる形でノアールも一緒に食卓を囲むことになる。

一般生徒には極秘事項だが、既にアビゲイルと婚約したノアールは、王都に居る間はアビゲイルの公務に付き合うことになる。
生徒会室で簡単には話を聞いているし、詳細を話すのは問題ない。

メルティーに三人の使用人たちが居るため、詳しい話は食後にメルティー達を帰してからになるのだが。

コンコンと扉が叩かれ、一番最初にアークエイドが到着する。

「邪魔をする。朝は体調が悪そうだったが、もう大丈夫なのか?」

少し顔色が良くなったアシェルに、アークエイドは心配そうに声を掛けてくれる。

「うん。薬で楽になったし、病気じゃないから安心して。心配してくれてありがとう。」

「リリィに診察してもらったのか?それに薬を飲んだなら、やっぱりどこか悪かったんだろ?もう治ったから病気じゃないとか言わないでくれよ。」

訝しげなアークエイドを食卓に誘導して、アシェルは苦笑しながらその隣に座る。

「本当に病気じゃないんだってば。流石に皆の前で言ったら怒られると思ったから言わなかったけど、身体がようやく大人になっただけ。前にアークには、僕はまだだって言ったでしょ?急な事だったからリリィに色々聞いてたんだ。」

「大人に……そういうことか。しかし病気じゃないと言っても、かなり辛いだろ?母上も姉上もかなり辛いらしくて、毎日薬を飲んでようやく生活できると言っていた。体術で動き回っていたが、大丈夫なのか?もし辛いのなら、食事だって部屋で摂って良いんだぞ。」

アークエイドはどれだけ生理を辛いものだと聞かされているのだろうか。

部屋に来た時よりも、今の方が慌てているように見える。

「どんな話を聞いてるのか知らないけど、僕は月の物は重たい方じゃないから大丈夫だよ。今朝はちょっと……薫の時よりは不調だったし、すごく久しぶりだったしで分かってなかっただけだから。リリィに聞いて痛み止めと吐き気止め、それに造血剤を飲んだら、かなり楽になったし。身体が怠いのは……まぁ、こればっかりは仕方ないよね。中には眠たくて仕方ない人とか、痛みで脂汗かいたりとかでお布団から出れないくらいまでなる人もいるけど。」

「どんなものか想像するしかないが……母上も姉上も四六時中腹痛があって、夜も満足に眠れないし、毎日の薬を飲んでいなければ脂汗が出てくると言っていた。だが、そこまでじゃないにしても、痛かったんだろう?本当に大丈夫か?」

「もう、アークは心配性だなぁ。大丈夫だって。まぁでも、こればっかりは女じゃないと分からないって言うし、男じゃ生理痛と出産の痛みは耐えられないって言うもんね。咲も全く理解がない男より、女兄弟が居てちゃんと理解がある男の方が、辛いとき優しいからって言ってたもんなぁ。そっかぁ。こういうことなんだ。」

アシェルは懐かしい親友の言葉を思い出しながら、しみじみと一人で納得する。

確かにこんな倦怠感や腹痛、胃部不快感がある状態で、いつも通り対応しろと言われたら頭に来るだろう。無茶を言うなと。

確実に症状が軽いはずのアシェルでさえ、理由に気付くまで……いや、薬を飲むまでは辛く感じていたのだ。

アシェル以上に辛い症状が出る人なんて沢山いるだろうし、その時に周囲の人間に理解があるかはかなり大きいだろう。

アークエイドのように心配しすぎるのもどうかと思うが、それでも労わってくれようとしているのは伝わってくる。

一人思考の波に呑まれそうになるアシェルの耳に、リーンリーンと呼び出し音が聞こえハッとなる。

モニターを見ればアルフォードとノアール、メルティーが連れ添って立っていたので部屋に通す。

どうやらアビゲイルは、一旦自室へ資料を取りに行ったらしく、少し遅れて来るそうだ。

「メルも一緒だったんだね。」

「はい。アビーお義姉様を送ってきていたアルお義兄様とノアお義兄様が、部屋まで迎えに来て下さいましたの。いつもマリーとイザベルに迎えにこさせてしまっているから、お義兄様達となら良いかと思いまして。時間までお部屋に居たほうが良かったですか?」

「ううん、そんなことないよ。アル兄様、ノア、ありがとうございます。」

「良いって、こっちはついでだしな。それより……アシェ。少し顔色が悪くないか?大丈夫か??」

じっとアルフォードに見つめられたと思ったら、顔色の悪さを指摘される。

リリアーデから貧血気味だと言われたし、ただでさえ不健康そうに見える肌が、より青白くなってしまっているのかもしれない。

「アシェ……まだ身体辛いの?寝てなくて大丈夫?」

アルフォードの言葉に、ノアールとメルティーにまで心配そうな顔をさせてしまう。

「さっきアークともその話をしていたんですが、大丈夫ですよ。病気でもなんでもないので。あっ、アル兄様。僕ようやく身体が大人になったようです。顔色が悪いのもその影響です。」

アシェルの表現にノアールは首を傾げているが、それを聞いたアルフォードの顔が破顔し、メルティーも嬉しそうに微笑んだ。

「本当か!?おめでとう。あぁ、もっと早くに知ってたら、ちゃんとお祝い用意してきたんだけどな。明日でも良いか?でも、こういうのって当日にするもんなんだろ?」

「わわっ、アル兄様っ、下ろしてください!それにお祝いって、別に僕は何も要りませんよ?二次性徴なんて、遅かれ早かれ誰にでも来るものですし。」

「物じゃなくて——。」

アシェルの両脇を抱え持ち、アルフォードが嬉しそうにアシェルを抱き上げてくるが、もう小さい子じゃないのだからと思ってしまう。
重たいだろうし、なんなら身長だって、アルフォードとは数センチ差だ。

「アシェル様っ!!」

何かを説明しようとするアルフォードの声を遮って、イザベルの怒鳴り声が飛んでくる。

「大人になったようです、ではありません!そのようなことは他言するものではないからと、お昼間はリリアーデ様にだけご相談されたのでしょう?その分別があるのなら、こんなところでお話されないと思っておりましたが……私の考えが至らなかったようでございますね。折角身体も大人の女性になられたことですし、これを機にもう一度淑女の嗜みというものを——。」

「それはやだっ。それに、アン兄様に約束しちゃったんだもん。初潮が来たら、学院に居る間はアル兄様に教えろって。理由までは聞いてないけど、さすがにアン兄様との約束は破れないよ。アークだって知ってたし、家族の月の物について知ってるのはおかしいことじゃないんでしょ?」

「アレリオンお義兄様が?こほん……それはどのような状態で交わされた約束ですか?」

少しお怒りモードが落ち着いたイザベルに問われ、地面に足をつけたアシェルはどう説明したものかと悩む。
今この場でアークエイドとの身体の関係を知っているのは、アークエイド自身とイザベルだけなのだ。

メルティーはなんだかんだで受け容れてくれそうだが、アルフォードが聞いたら卒倒するか、殴り掛かりに行かないとも限らない。

だがきっちり説明しないと、口から出まかせだと思われかねない。

苦肉の策で、イザベルの耳元に唇を寄せて、内緒話をすることにする。

——ちなみにアシェルの月の物という単語を聞いたノアールは、ようやく大人になった意味を知り、顔が真っ赤だ。

「前に邸でアン兄様と食事を摂った時に、アークと色々してるなら薬とか飲んでるのかって聞かれて。月の物がまだって答えたんだ。そしたら、最初に来た時は邸に居るならアン兄様に。学院なら、アル兄様に教えてって。アル兄様とメルは、僕とアークがどこまでって知らないから。理由は分からないんだ、ごめんなさい。」

これでイザベルは納得してくれただろうかと表情を見ると、そこに怒りはなく呆れ顔だった。

「アシェル様のした約束については、了承いたしました。となると、アルフォードお義兄様ですね。お義兄様。一体どうして、アシェル様の身体の成長を知らなくてはいけなかったのか、お答えいただけますよね?まさか、旦那様を通していない縁談が有るなどとは言いませんよね?」

イザベルの言葉だけを聞けば下手に出ている言葉なのに、その声と笑顔に込められた威圧感には有無を言わせないものを感じる。

「ないっ、誓ってそんなものないからっ。っていうか、縁談が来てもアシェが良いって言わない限り、嫁にはいかせねぇよ。そんなんじゃなくって、アシェが住んでた国には、お祝いする習慣があるんだろ?アシェって言うか、薫が住んでた日本だな。こっちには無い習慣だけど、折角ならお祝いしたほうが良いかと思ってな。」

今度はアシェルが首を傾げる番だ。

誰かに初潮が来たからと、お祝いをしたことなどあっただろうか。

少なくとも施設でそんなお祝いをした覚えは無いし、生理についてはかなり早い段階から施設で性教育を受けていた。

中には性的虐待で入所した子も居て、間違った知識を付けないように、誰かを傷つけてしまわないように。そして自分自身の身を守れるようになるために、きっちりと身体の違いや成長の兆候。そして避妊の仕方や、もしもの時のアフターピルに至るまで教えてくれていた。女の子は生理用品の使い方も習った。

でもその記憶を辿ってみても、お祝いという単語とは結び付かない。

一生懸命記憶を探るアシェルに、アルフォードが不安そうになる。

「あれ、もしかして、アシェはお祝いしてもらってなかったか?一応文献で、女の子の初潮を祝う為に、小豆を入れて炊いたご飯を食べるって見たんだけど。」

「小豆を入れて……それってもち米ですよね?そういえばリリィが、お赤飯が無いのが残念だって言ってました。文献にあったんなら、多分お赤飯出してお祝いするんじゃないですかね?すみません……僕孤児院出身なので、少しだけ一般家庭とは習慣が違うかもなんです。施設では初潮のお祝いってしたことなかったし、お赤飯も口にしたことは無かったので、ピンときませんでした。」

リリアーデが何故赤飯について言及したのか、その時は全く理解できていなかったが、これでようやく謎が解けた。
リリアーデも、アシェルの身体の成長をお祝いしてくれようとしていたのだ。

しゅんと肩を落とすアシェルを、アルフォードがギュッと抱きしめてくれる。

「ごめんな、アシェを悲しませたいわけじゃないんだ。文献見て、初潮を迎えた女の子には皆そうしてたのかなって思ってしまってた。アシェに確認を取っておけば良かったな。」

「いえ、僕の為にわざわざ、文献を調べてお祝いしてくれようとしたんですよね。ありがとうございます。その気持ちだけでも十分嬉しいです。リリィが言ってたので、そういう風習はあると思うんです。お赤飯は縁起物ですし。……でも、こっちでもち米って見たことないんですけど、あるんですか?お赤飯は食べたことは無いですけど、大人になってから栗おこわは食べた事があるんですよ。ご飯に弾力があって美味しいんです。それに、蒸かしたもち米を突いて作った、突きたてのお餅も柔らかくて美味しいですよ。砂糖醤油を付けて磯辺焼きも良いのですが、個人的にはお砂糖と黄粉に、少しだけ塩を足した黄粉餅が好きでした。もち米があるなら、お餅食べたいなぁ。」

途中からもち米に意識を取られたアシェルは、毎年お正月にしていた餅つき大会を思い出す。

倉庫から大きな杵と臼を運び出して、職員たちが蒸籠でホカホカに炊き上げたもち米を入れてくれ、皆で変わりばんこに杵を振り下ろしていくのだ。

小さい子には職員が一緒に付添って、全員一度はそうやって餅つきをして、大抵は体力のある男の子や、職員たちが最後まで杵を振るってくれる。

時々おはぎかな?と思うような粒が残っていたりするのだが、それがまた自分達で作ったものだと実感が湧いて良いのだ。

小さい子が喉に詰まらせないか注意する必要はあったが、そのいつもと違う特別な一日は、とても楽しかったのを覚えている。

「あー悪いな、アシェ。もち米ってのは、普段食べてる米とは違うものなのか?単純に、いつものに小豆を入れて炊くものだと思ってたんだが。」

「違うんですけど、こちらは米が主食ではなく小麦ですもんね。分からないのも無理は無いと思いますし、そもそもこちらに存在するのかすら分かりませんし。今度ニクス様に聞いてみます。」

「あぁ、悪いな。……もしそのもち米と、それに合う調味料があれば、俺にも振舞ってくれるか?」

「手に入れば、もちろんです。」

新しい物に好奇心の隠しきれないアルフォードに笑顔で答えれば、アシェルの背中が温かさに包まれる。

「アル義兄様だけズルいですわっ。ねぇ、アシェ義兄様。その試食会にはわたくしも呼んでくださいませ。もし邸で食べれそうなら、アン義兄様やお義父様だって食べてみたいと思いますの。きっと喜びますわ。」

「そうだね、メル。僕らだけ食べたら、お父様やアン兄様にズルいって言われちゃいそうだ。もし手に入ったら、皆で食べようね。」

「えぇ、約束ですわよ?」

「うん、約束。」

兄妹三人でそのままむぎゅむぎゅと充電タイムに入ろうとすると、アルフォードの首根っこがグイっと引っ張られた。
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