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第三章 王立学院中等部二年生
203 話し合いと婚約式③
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Side:アシェル14歳 冬
メルティーから、小さい時はよく見た光景だと説明されながら自室へ戻る途中。
どうにか復帰したアルフォードが、前世とアークエイドのことで何か言い始めたが、アレリオンに口を塞がれてお持ち帰りされていた。
何を話すのかは分からないが、キッチリ言い聞かせておくから、と言っていた。
兄妹と別れて自室に戻ると、お葬式ムードのサーニャとイザベルが壁際に控えてくれる。
涙は止まっているものの、沈んだ表情は消えていない。
「その……サーニャとベルも気にしないで?当時辛いと思って無かったし、今の僕は幸せだし。」
「アシェル様は……本邸に移って来た時から記憶がある、とおっしゃっていましたね。」
サーニャの言葉に、アシェルは頷く。
アレリオンのお陰でついでに思い出しただけなので、あまり気にしていない記憶だ。
「あの時、アシェル様の様子をもっと気にかけていれば、お傍を離れなければと、何度思ったことか……。」
「離れたって……領地のことだし仕方ないよ。それに僕は、たっぷりとお兄様達にもサーニャにも愛情を貰ったから。とても幸せなんだよ。だから、いつもみたいに笑って?」
「ありがとうございます。」
サーニャが優しく微笑んでくれる。
話しを全く気にしていないわけではないだろうが、アシェルに心配をかけないようにしてくれているのだろう。
「僕のことなんかより、メルとマリクの婚約祝いには何を贈れば良いと思う?というより、普通は家族からは何を贈るものなんだろう?」
話題を切り替えるためと、純粋に悩んでいる疑問を口にすれば、サーニャもイザベルも微笑んでくれる。
「そうですね。アシェル様がメルティー様に対して、どのような立場で贈り物をされるのかで、かなり変わってきます。」
「立場?」
疑問符を浮かべるアシェルに、サーニャの言葉を引き継ぐようにイザベルが続く。
「姉としてか、兄としてか、というあたりでございます。本来であれば早いうちに婚約を済ませてしまうので、兄妹から婚約祝いを贈る習慣は無いのですが……アシェル様は収入もあるので、贈り物をするのには問題ないかと思います。ただ、あまり男兄弟から贈り物をすることはないようです。」
「そっか。普通のご令嬢は、婚約を早くに済ませちゃうんだもんね。でも、普通は兄妹から婚約祝いを贈らないのか……。習慣が無いのに贈り物をしたら、気を遣わせちゃうかな?両親からは?」
「男親から娘へは、支度金や持参金が贈り物代わりになりますね。女親からは……大体は婚約が決まれば閨教育をする家が大半なので、閨着を贈ることが多いです。私も、母からは閨着を婚約祝いとしていただきましたよ。因みに、結婚祝いも同じようなものを贈るのが通例ですね。中には独身時代からの自身の装飾品を渡したりもするようですが……相手がテイル家のご子息であれば、必要ないかと思いますよ。」
親が子供に閨着——つまりエッチな下着を贈るのかと少し驚く。
ただ、性教育というものが親からされるものな以上。
閨教育とセットと考えると、あまり違和感は無いように感じた。
それに装飾品を渡すのは、個人の資産として渡すということだろう。
その個人資産があるだけで女性が離縁に踏み切れるかどうか、大きな差があるらしいから。
「サーニャも閨着貰ったの?……それ、僕が聞いても良いことだったかな?」
それも娘であるイザベルの前で、と思うが、当のイザベルは澄ました顔をしている。
恐らくだが、そういうものだと知っていたようだ。
「えぇ、問題ありませんよ。ある意味貴族の中では常識ともいえる習慣ですし。恐らくメアリー様も、メルティー様に閨着をプレゼントされると思いますからね。結婚の際には、兄妹からはやはり、装飾品や金銭を贈り物とすることがほとんどです。装飾品を贈る際は流行りなどではなく質の良い、出来れば大き目の宝石がついているものが好まれますね。有事の際に、換金することを目的に贈られますから。」
やはり装飾品は個人資産として渡すようだ。
「うーん……どうしよう。婚約祝いも結婚祝いも現金や装飾品って、同じような物を渡すことになっちゃうし……。というよりも、離縁はあまり視野に入れなくて良さそうだから、装飾品よりも自由に使える現金の方が良いよね。メルが冒険者タグか商人タグを持ってれば、そこに入金してあげれば済むんだけど……お金は可愛いお財布に入れて渡せば、嫌味な感じにならないかな?」
「それで宜しいかと思いますよ。お財布は革細工にされますか?工業エリアに腕の良い革細工師が居るので、そちらとアシェル様の懇意にされている鍛冶屋で革細工の小さなパーツを依頼すればよろしいかと。」
「そうだね。馴染みの鍛冶屋は装飾系の細かいのも取り扱ってるみたいだし、どちらかのお祝いではお財布とお金にしようかな。あぁ、でも婚約祝いだと、間に合わないか……ってことは結婚祝いだね。婚約祝いは……どうしよう。」
「お薬の処方箋は如何ですか?」
それまで黙って成り行きを見守っていたイザベルが、悩むアシェルに提案をしてくれる。
だが、処方箋とはどういうことだろうか。
「避妊薬の処方箋でございます。材料さえ手に入れば、お薬自体はメルティー様がお作りになれますし。ハーフとはいえ獣人が伴侶であれば、必須と言えるお薬ではないでしょうか?」
「そっか……長めの発情期があるから避妊薬は要るだろうけど、ヒューナイトじゃ取り扱い無いもんね……うん。良いアイディアだと思う。商業ギルドの伝手があるなら、わざわざ素材を縛って難易度を上げる必要もないし。……これなら婚約式がすぐ執り行われても大丈夫だと思う。」
喜んでもらえるかどうかは分からないが、メルティーは新薬開発こそ出来ないものの。処方箋と手順さえあれば、レシピ通りに作らせたら腕は一級品だ。
それに避妊薬であれば、もうリリアーデのものや自分のものを作ったので、基本的な素材の知識や選択肢は頭に入っている。
「サーニャ、ベル。僕ちょっと実験室に行ってくるから、ゆっくりしてて。」
瞳をキラキラと輝かせ、部屋を出て行くアシェルを二人は見送る。
こうなった主人は、もう錬金のことしか頭にないだろう。
「私達は他の仕事をしてしまいしょうかね。」
「えぇ。……そういえば、お母様。エッグノッグのレシピを書いてもらうことは出来ますか?」
「レシピを?それは構わないけれど、イザベルはいつも目分量でしょう?」
小さなころからサーニャのエッグノッグに親しんだイザベルは、今まで分量を量って作ったことが無い。
二人ともお仕着せ姿なので、親子というには少しよそよそしい言葉を交わす。
「私はお母様の味を知っているけれど、人に教えたいと思いまして。」
「良いわよ。それは殿下にかしら。」
「えぇ。アシェル様の為に、作れるようになりたいらしいです。」
「ふふっ、あんなに可愛らしかった殿下がねぇ。そういえばアシェル様は、もう既に殿下と閨を共にされたようなこともおっしゃっていたけれど……。婚約の話はでていないし、殿下はまだ片思いのままなのかしら?」
ずっとアシェルの傍に控えて、非公式お茶会に毎月参加していたサーニャは、アークエイドが幼い時からアシェルに片思いしていたであろうことには気付いていた。
アベルと結婚した時からずっと仕えていたシェリーから、王家の恋愛事情については実話と共に沢山聞いた事がある。
お茶会でアシェルの傍を離れたがらないアークエイドを見て、すぐにピンと来たのだ。
「傍から見ると両思いに見えますが、未だにアシェル様はお返事されておられませんね。それでもしょっちゅう、火遊びと同衾はしていらっしゃいます。」
「アシェル様はどんどんお綺麗になるから、殿下も気が気でないでしょうね。本当に子供の成長は早いものだわ。イザベルは、どなたか良い殿方は居たの?」
流石に部屋の外では出来ない話なので、それぞれ部屋の掃除の為に手を動かしながら、サーニャとイザベルは貴重な親子の会話をする。
「……私のことは良いのです。」
「そう。どのような関係かは分からないけれど、ベルから良い報告を聞けるのを楽しみにしているわ。」
イザベルは何も答えなかったのに、サーニャは嬉しそうに笑った。
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Side:アレリオン20歳 冬
「いい加減に離せっ。」
「アシェの部屋に行かないって言うなら、離してあげるよ?」
アレリオンの私室のソファで、アレリオンはしっかりとアルフォードの腕を握ったまま微笑んだ。
拉致されるように半ば無理やり連れてこられたアルフォードはさっきから膨れっ面だが、可愛い弟の膨れっ面はさらに可愛さを助長させるだけだ。
「行かないからっ。兄上を怒らせたくねぇよ。」
腕を離してあげれば、そのままアルフォードはソファに身体を預けた。
「……アシェが殿下とどうこうとか、俺聞いてない……。」
やはりそこを気にしているようだ。
マリクの抑制剤を作る時には全く気にしてなさそうだったが、基本的に初心すぎるアルフォードには教えていないのだから、知らなくて当然だ。
そんな可能性にすら、アルフォードは思い当たりもしていなかっただろう。
「まぁ、誰かに言いふらすものでもないしね。」
「でも、兄上と父上は知ってたんだろ?俺だけ除け者かよ……。」
「だってアルは純情すぎるから。知っちゃうと、アシェか殿下のところに突撃しかねないだろう?アシェは嫌がってないし、本人たちが同意の上だし良いんじゃないかな?あぁ。間違いなくイザベルも知ってると思うよ。」
「うっ……しないとは言い切れないけど、同意の上って……。イザベルも……いや、知っててもおかしくないか。それにアシェの前世が、あんなに過酷なものだって知らなかった。平和な世界だって聞いていたし……。あれだって、細かい話は省かれてるんだろ?……そりゃ、薫があんな眼をするのも、分かる気がする。」
肩を落としてしまった弟のふわふわな頭を、優しく撫でてやる。
嫌がらずに大人しくアレリオンのされるがままになっていて、よっぽどショックがでかかったのだろう。普段なら払いのけられてしまうのだが。
「アシェが言ってないのに、僕から言うのもおかしな話だしね。……そうだね。薫の話には、もっと酷いものも沢山あったよ。でも、大切だと言っていた親友達が居たから、薫には楽しいと思ったこともいっぱいあったみたいだよ。それは何気ない日常の中にね。僕らが聞いて酷いと思う話だって、いくつかはその親友達を守る為に自分の身体を対価にしていただけ、という認識だったよ。お金も後ろ盾もない薫じゃ、それが自分に出来る精一杯のことだったんだろうね。……こう聞けば、アルだって少しは薫のことが分かるだろう?」
「……まぁ。」
大切なモノが傷つくくらいなら、例えどんなに辛くて痛いことだったとしてもアレリオン達は耐えるだろう。必要ならば命ですら天秤にかける。
それがアレリオン達に出来る、大切なモノを守る為の手段であれば。
「アシェはそういうエピソードよりも、興味を惹かれるものが何もない、退屈な世界に逆戻りする方が嫌みたいだよ。灰色の世界の傍観者……僕らには想像できない世界だけれど、きっと退屈で代わり映えのしない世界を、ただ生きていたんだろうね。誰よりもメイディーらしさを持つアシェと本質が同じ少女が、そんな空虚な世界に居たというほうが、とても可哀想な気がするよ。そして、そんなアシェを輝く世界に連れ出してくれた親友達に、とても感謝もしている。」
アークエイドにも話したが、アレリオンはアシェルのいう灰色の世界を見たことがないし、見たいとも思わない。
それでも。知りたい欲求が満たされないことや、興味を惹かれるものが無い世界が、とても味気ないものだろうということは分かる。
それはきっと、メイディーとして生まれてきたアルフォードやアベルだって同じだろう。
「サキとケントって言ったっけ……知らない名前に敬称をつけないのは、なんだか変な感じだな。」
「つけても、さんとか、君とからしいからね。その辺りは文化の違いみたいだけど。その文化の違いのお陰で殿下と閨事をするのも、マリク殿の抑制剤作りも、何の抵抗もなく受け入れたみたいだけどね。」
「はぁ~……。俺、どんな表情して殿下に会えば良いんだよ……。」
「別にいつも通りで良いんじゃないかな。」
「それが難しいんだよっ。」
「まぁ、もう卒業したし、しょっちゅう殿下と会うことはなくなるでしょ?マリク殿の発情期の終わりを待っていたのもあると思うけど……。父上は元から殿下とのことを、少しは聞きだすつもりだったんじゃないかな。抑制剤作りで獣人の相手をさせたことが義母上にバレて、こっぴどく怒られたみたいだしね。前世の記憶云々は置いといて、アシェの口から説明させたかったんだと思うよ?」
アレリオンの言葉に、アベルならやりそうだとアルフォードは思ってしまう。
普通、家族の前で踏み込んだ恋愛話など、公開処刑のようなものだと思ってしまうが。
「そういえば……アルの方はどうなの?」
「……俺?」
「うん。イザベルに夜這いされたんだろう?無節操に襲わなかったのは褒めてあげるけど、いつまで返事を保留にするつもりだい?」
アレリオンがにこにこと問えば、分かりやすいくらいアルフォードの頬が染まる。
イザベルの閨着姿でも思い出したのだろうか。
「なんで兄上がソレ知ってるんだよ!って、兄上が知ってるってことは父上もか!?」
「あぁ、そこは安心してくれて良いよ。父上まで話が行くと、サーニャにまで伝わりそうだと思ったからね。僕のところで止めておいたから。で、どうするつもりなの?」
アシェルはアークエイドに求婚されているがアシェルが嫁ぐ側なので、なんなら一生返事をしなくても良いと思うくらいだが、イザベルの場合そうはいかない。
大切で可愛い義妹の恋の行く末の相手が弟となれば、尚更だ。
「どうって……考えてるけど、そんなすぐに答えは出せねぇよ……。ずっと、アシェやメルと同じ、可愛い義妹だって思ってたんだぞ?それを急に恋愛対象にって言われても……。」
「でも、他に気になるレディは居ないんだろう?」
「まぁ、そうなんだけど……。相手が居ないし、告白されたし、じゃあ婚約しましょうって……流石にイザベルに失礼だろ?」
「アルはそういうけど……僕らの末の義妹は、その流れであっさり婚約を決めたんだけどね?」
「うっ……それは……確かにそうなんだけど……。」
「まぁ、全く選考の余地なしって感じじゃなくて良かったよ。ベルにも幸せになって欲しいからね。」
「俺だって……ベルに幸せになって欲しいと思ってる……。」
イザベルの愛称は、イザベルが邸に仕えだした時から呼ばないようにしていた。
他の使用人達に贔屓しているように見られると、困るのはイザベルだからだ。
今邸の中でイザベルを愛称呼びする家族は、アシェルくらいなものだろう。
イザベルもそれまでは愛称呼びしてくれていたのに、愛称呼びを辞めてしまって少し寂しかったのを覚えている。
可愛い義妹にお義兄様呼びまで止められなくて良かったと、安堵したものだ。
「そんなこと言う兄上こそどうなんだよ。当主なんだから、いい加減相手を見つけて嫁に来てもらわないと不味いだろ。」
「僕かい?んー……求婚はずっとしてるけど、色好い返事が貰えないんだよね。ベルが告白したのなら、いっそアルと婚約すれば返事を貰えるんじゃないかと思ってるんだけど。」
きっと相手が居ないと思っていたのだろう。
アシェルの話を聞いた時のように、驚きのまま固まったアルフォードの口がパクパクと動いている。
「……え……は……。求婚って……しかもベルを引き合いに出すってことは、トラスト伯の……。まさか、サルビア嬢か?」
「うん、正解。」
アルフォードはしっかりと正解に辿り着いたのに、頭の中はまだ情報に追いついていないようだ。
トラスト伯爵家にいるサーニャの子どもは、全部で四人いる。
長女でアレリオンと同じ年のサルビア。
長男でアルフォードと同じ年のリュート。
次女で4歳年下のオーレン。
そして三女が6歳下でアシェルと同じ年のイザベルだ。
母のシェリーがメイディー邸に嫁いで来てから、サーニャはずっとシェリー付きの侍女として働いていた。
幼心に、お互い信頼し合っていたように思う。
サーニャはアシェルの乳母として、ほとんど邸に住み込みのような形で勤めてくれていたが、それはアレリオンとアルフォードの時もだった。
シェリーが生きていたので乳母とまではいかなかったが、それでもシェリーのあの広い自室で、サーニャの子供達も面倒を見ていたのだ。
今思えば、シェリーの身体が弱いことを知っていたサーニャは、シェリーの傍を離れたくなかったんだろうなということと、シェリーもサーニャを頼っていたんだろうなと思う。
シェリーが出来ないことでも、サーニャや侍女達が積極的にお世話をしてくれていたらしいから。
オーレンを育てる時は、流石にシェリーの子どもの世話が無いのに一緒に居れないと断られていたが、昼間だけはオーレンやサルビアとリュートを連れて、シェリーの部屋で過ごすように言われていた。
名目上はシェリーの気分転換と、子供達の遊び相手として。
でも本音は、少しでもサーニャを育児から離して、ゆっくりさせたかったんじゃないかと思う。
だからアレリオンもアルフォードも、サーニャの子供達とは乳兄妹ではないが幼馴染だ。
といっても、サーニャが子供達を連れて来ていたのはオーレンが2歳を迎えるくらいまでのことだ。
きっとオーレンは、メイディー邸でアレリオン達と遊んだことは覚えていないだろう。
サーニャが産休を取ってから。そして、アシェルの乳母になった後から。
三人がメイディー公爵家に足を踏み入れたことは無い。
アシェルは邸をほとんど出たことが無いが、アレリオンとアルフォードは何度もトラスト家のタウンハウスに遊びに行った事がある。
夜はタウンハウスに帰っていたが、アシェルの為にサーニャを毎日、メイディー邸に縛り付けてしまっていた。
シェリーについていた侍女達をアシェルの部屋付きにしたのだが、アシェルはサーニャが居ないとろくにお世話をさせてくれなかったのだ。
忘れてしまっていたのに、無意識に乳母としてお世話をしていたサーニャ以外を警戒してしまっていたのだろう。
だからトラスト邸の使用人達には少し迷惑をかけてしまうが、幼馴染たちの遊び相手になるために、時々トラスト邸を訪れていたのだ。
本当はもっと母親と一緒に居たい年頃だったと思うのに、サルビアはお姉ちゃんとして一生懸命弟や妹達の面倒を見ていた。
そんな弟や妹の面倒を見ようとする姿は、同じようにアシェル達の良いお兄ちゃんであろうとしているアレリオンにとっては、共感出来て、そしてとても申し訳ないことだった。
アレリオン達の母親は亡くなってしまったが、サーニャは生きているのに、メイディーの都合で母親を取り上げてしまっていたのだ。
でも幼馴染達はそれに恨み言を言うこともなく、遊びに行ったアレリオン達を受け入れてくれていた。
「サルビア嬢に求婚って……いつから?」
「お嫁さんになって欲しいって言ったのは、学院に入るよりもずっと前のことだよ。正式に婚約してほしいと伝えたのは、学院に居る間だけどね。」
「そんな話、聞いたことないんだけど?」
「だって言ってないからね。正式な求婚だって、グレイくらいしか知らないんじゃないかな。変に噂になって、サルビアに迷惑を掛けたくなかったからね。昔から外堀を埋める真似はするなって釘を刺されてるけど、そろそろサルビアの返事が聞きたいんだよね。くちさがないご令嬢達が、サルビアのことを嫁き遅れだなんだって言ってるのは、そろそろ聞きたくないなって思って。」
「……アン兄がそう言っても、俺はすぐには返事できませんからね。っていうか、サルビア嬢ってまだ婚約者居ませんよね?独身を貫くつもりなのかと思ってましたけど……まさか、他の男からのサルビア嬢への求婚を、邪魔したりしてませんよね?」
アレリオンとしては、サルビアが頷いてくれるきっかけを作って欲しかっただけなのだが、何故かアルフォードからジトっとした視線を向けられる。
口調も敬語になっているし、真面目に聞いてくれているのは分かるのだが、一体アレリオンのことをどれだけ酷い男だと思っているのだろうか。
「外堀を埋めるなって言われているし、誓ってサルビアの婚活の邪魔はしていないからね。文通はしているけど、中々会えないし。僕が求婚したせいで、メイディーの使用人になる道が閉ざされたって怒られたくらいなんだから。はぁ……サルビアも、メルみたいに素直に頷いてくれたらいいのに。」
本当なら周囲に自分の大切なモノだとアピールして、サルビアがどう思っていようと政略結婚することも出来た。
公爵家が婚姻を申し入れたら、伯爵家では断れないだろう。
それも、トラスト伯爵家の領地はメイディー地方にある。こちらから婚約を申し込んだ時点で、それは命令と一緒だ。
それでもそうしなかったのは、そうサルビアが望んだからだ。
いっそのこと、他に婚約者を作ってくれたらアレリオンも諦めがつくのにと思ったことすらある。
求婚はずっと断り続けられているのに、サルビア自身は婚約をすることも家を出ることもなく、定期的な文通は続けてくれていて、時折外食をしてくれる。
そんなよく分からない関係だ。
「トラスト卿が許可しても、サーニャが絶対に反対するっていうけど、外堀を埋めるなと言われている以上。僕からサーニャに、サルビアが欲しいなんて言えないだろ?だから、アルとベルがどうなるかは、僕としては早く結末を見届けたいんだよね。」
「それ、結末を見たいっていうけど、俺がベルを受け入れるのが前提ですよね?っていうか、アシェのことじゃなくて、この話のために俺を拉致りましたね?」
「ふふっ、どうだろうね。」
笑って誤魔化したアレリオンに、アルフォードは大きな溜息を吐いた。
「ベルと俺のことがどう転んだとしても、俺はアン兄より先に婚約式をするつもりはありませんからね。結婚式もです。それと、ベルはあまりトラスト家の内情には詳しくないかもしれませんが、それとなくサルビア嬢のことを聞いておきます。俺達が幼馴染だってことは、ベルが俺達が邸に遊びに行ってたのを覚えてくれてれば分かるはずですから。……だから、お願いですから、サーニャに俺とベルのことを話さないで下さいね?兄上のことですから、早く結果を知りたいとかで勝手に話を進められそうです。」
「うーん、先手を打たれちゃったか。仕方ない。そんなことはしないから、早くベルに返事を出してあげてよね。ずっと返事を待ってるのも、なかなかつらいんだよ。お転婆なベルのことだから今度は邸の使用人たちまで巻き込んで、夜這いしに来ないとは限らないしね。」
なんせアルフォードの学院生活について行った使用人達は、全員がイザベルに協力してアルフォードへの夜這いを成功させたのである。
アルフォード専属侍従で、アルフォード第一であるはずのアイザックまでもがだ。
「……邸での夜這いの前に、アシェと殿下の四人でのダブルデートに誘われてます。……これって、返事を急かされているんですかね?」
「僕に聞かれても分からないよ。でも間違いなく、アシェが居るならアルは来るだろうって思われてるよね。お誘いは断ってないんだろう?」
「……えぇ。メルの婚約式が済んだ後ならと。」
イザベルがアシェルとアークエイドまで巻き込んでいることに少し驚くが、アルフォードがキッパリと断らなかったので、イザベルなりにアプローチをしているのだろう。
メイディーの人間が恋愛的な感情を告げられて断らなかった時点で、それはある意味受け入れているのと同義だ。
他の外的要因が無ければ間違いなく、最終的にはその求愛を受け入れる事になる。その答えに至るまでに、どれだけ長い年月がかかったとしてもだ。
アレリオンは既に、家族以外の一番大事なものを見つけているからこそ、余計にそう思う。
求愛の返事を考えた時にいくら大切なものだったとしても、添い遂げることを考えられるかどうかというところでふるいに掛けられるのだ。
そしてそのふるいの中に残った時点で、大切な中の特別なのだ。
少なくとも、アレリオンが添い遂げることを考えてふるいに残ったのはサルビアだけだったし、アベルもシェリーやメアリーとの婚姻を決めた時もそうだったと聞いている。
「そっか。きっとベルはとっても楽しみにしてるだろうね。婚約式の前か後かは分からないけど、メルも含めて三人でお出かけするって言ってたから。ベルはうんとお洒落してくれるんじゃないかな?いくらベルが可愛いからって、帰りに襲っちゃダメだよ?」
「そんなことしませんって!俺を揶揄い始めたってことは、もう兄上からの相談は終わりってことだな。俺は部屋に戻る。」
冗談だったのに、顔を真っ赤にして返事するアルフォードはとても揶揄いがいがあって可愛い。
「うん。長話に付き合わせてごめんね。部屋でゆっくり休んで。」
部屋を出て行ったアルフォードを見送り、アレリオンはサルビアとのことをどうしたものかと思い悩む。
もう何年も、この難題だけがクリアできていないのだ。
時折サルビアの口から出る「覚えていないのね。」という単語が気にかかるのだが、可能な限り、サルビアの要望や約束は実行してきたはずだ。
何について指摘されているのか、それが分からない。
「はぁ……こんな時ばかりは、アシェの記憶力が羨ましいよ。」
——アレリオンが市井の話題や流行りを教えるために、アシェルにサルビアとの手紙を見せながら話を聞かせていたことを思い出すのは、もう少しだけ先のお話。
メルティーから、小さい時はよく見た光景だと説明されながら自室へ戻る途中。
どうにか復帰したアルフォードが、前世とアークエイドのことで何か言い始めたが、アレリオンに口を塞がれてお持ち帰りされていた。
何を話すのかは分からないが、キッチリ言い聞かせておくから、と言っていた。
兄妹と別れて自室に戻ると、お葬式ムードのサーニャとイザベルが壁際に控えてくれる。
涙は止まっているものの、沈んだ表情は消えていない。
「その……サーニャとベルも気にしないで?当時辛いと思って無かったし、今の僕は幸せだし。」
「アシェル様は……本邸に移って来た時から記憶がある、とおっしゃっていましたね。」
サーニャの言葉に、アシェルは頷く。
アレリオンのお陰でついでに思い出しただけなので、あまり気にしていない記憶だ。
「あの時、アシェル様の様子をもっと気にかけていれば、お傍を離れなければと、何度思ったことか……。」
「離れたって……領地のことだし仕方ないよ。それに僕は、たっぷりとお兄様達にもサーニャにも愛情を貰ったから。とても幸せなんだよ。だから、いつもみたいに笑って?」
「ありがとうございます。」
サーニャが優しく微笑んでくれる。
話しを全く気にしていないわけではないだろうが、アシェルに心配をかけないようにしてくれているのだろう。
「僕のことなんかより、メルとマリクの婚約祝いには何を贈れば良いと思う?というより、普通は家族からは何を贈るものなんだろう?」
話題を切り替えるためと、純粋に悩んでいる疑問を口にすれば、サーニャもイザベルも微笑んでくれる。
「そうですね。アシェル様がメルティー様に対して、どのような立場で贈り物をされるのかで、かなり変わってきます。」
「立場?」
疑問符を浮かべるアシェルに、サーニャの言葉を引き継ぐようにイザベルが続く。
「姉としてか、兄としてか、というあたりでございます。本来であれば早いうちに婚約を済ませてしまうので、兄妹から婚約祝いを贈る習慣は無いのですが……アシェル様は収入もあるので、贈り物をするのには問題ないかと思います。ただ、あまり男兄弟から贈り物をすることはないようです。」
「そっか。普通のご令嬢は、婚約を早くに済ませちゃうんだもんね。でも、普通は兄妹から婚約祝いを贈らないのか……。習慣が無いのに贈り物をしたら、気を遣わせちゃうかな?両親からは?」
「男親から娘へは、支度金や持参金が贈り物代わりになりますね。女親からは……大体は婚約が決まれば閨教育をする家が大半なので、閨着を贈ることが多いです。私も、母からは閨着を婚約祝いとしていただきましたよ。因みに、結婚祝いも同じようなものを贈るのが通例ですね。中には独身時代からの自身の装飾品を渡したりもするようですが……相手がテイル家のご子息であれば、必要ないかと思いますよ。」
親が子供に閨着——つまりエッチな下着を贈るのかと少し驚く。
ただ、性教育というものが親からされるものな以上。
閨教育とセットと考えると、あまり違和感は無いように感じた。
それに装飾品を渡すのは、個人の資産として渡すということだろう。
その個人資産があるだけで女性が離縁に踏み切れるかどうか、大きな差があるらしいから。
「サーニャも閨着貰ったの?……それ、僕が聞いても良いことだったかな?」
それも娘であるイザベルの前で、と思うが、当のイザベルは澄ました顔をしている。
恐らくだが、そういうものだと知っていたようだ。
「えぇ、問題ありませんよ。ある意味貴族の中では常識ともいえる習慣ですし。恐らくメアリー様も、メルティー様に閨着をプレゼントされると思いますからね。結婚の際には、兄妹からはやはり、装飾品や金銭を贈り物とすることがほとんどです。装飾品を贈る際は流行りなどではなく質の良い、出来れば大き目の宝石がついているものが好まれますね。有事の際に、換金することを目的に贈られますから。」
やはり装飾品は個人資産として渡すようだ。
「うーん……どうしよう。婚約祝いも結婚祝いも現金や装飾品って、同じような物を渡すことになっちゃうし……。というよりも、離縁はあまり視野に入れなくて良さそうだから、装飾品よりも自由に使える現金の方が良いよね。メルが冒険者タグか商人タグを持ってれば、そこに入金してあげれば済むんだけど……お金は可愛いお財布に入れて渡せば、嫌味な感じにならないかな?」
「それで宜しいかと思いますよ。お財布は革細工にされますか?工業エリアに腕の良い革細工師が居るので、そちらとアシェル様の懇意にされている鍛冶屋で革細工の小さなパーツを依頼すればよろしいかと。」
「そうだね。馴染みの鍛冶屋は装飾系の細かいのも取り扱ってるみたいだし、どちらかのお祝いではお財布とお金にしようかな。あぁ、でも婚約祝いだと、間に合わないか……ってことは結婚祝いだね。婚約祝いは……どうしよう。」
「お薬の処方箋は如何ですか?」
それまで黙って成り行きを見守っていたイザベルが、悩むアシェルに提案をしてくれる。
だが、処方箋とはどういうことだろうか。
「避妊薬の処方箋でございます。材料さえ手に入れば、お薬自体はメルティー様がお作りになれますし。ハーフとはいえ獣人が伴侶であれば、必須と言えるお薬ではないでしょうか?」
「そっか……長めの発情期があるから避妊薬は要るだろうけど、ヒューナイトじゃ取り扱い無いもんね……うん。良いアイディアだと思う。商業ギルドの伝手があるなら、わざわざ素材を縛って難易度を上げる必要もないし。……これなら婚約式がすぐ執り行われても大丈夫だと思う。」
喜んでもらえるかどうかは分からないが、メルティーは新薬開発こそ出来ないものの。処方箋と手順さえあれば、レシピ通りに作らせたら腕は一級品だ。
それに避妊薬であれば、もうリリアーデのものや自分のものを作ったので、基本的な素材の知識や選択肢は頭に入っている。
「サーニャ、ベル。僕ちょっと実験室に行ってくるから、ゆっくりしてて。」
瞳をキラキラと輝かせ、部屋を出て行くアシェルを二人は見送る。
こうなった主人は、もう錬金のことしか頭にないだろう。
「私達は他の仕事をしてしまいしょうかね。」
「えぇ。……そういえば、お母様。エッグノッグのレシピを書いてもらうことは出来ますか?」
「レシピを?それは構わないけれど、イザベルはいつも目分量でしょう?」
小さなころからサーニャのエッグノッグに親しんだイザベルは、今まで分量を量って作ったことが無い。
二人ともお仕着せ姿なので、親子というには少しよそよそしい言葉を交わす。
「私はお母様の味を知っているけれど、人に教えたいと思いまして。」
「良いわよ。それは殿下にかしら。」
「えぇ。アシェル様の為に、作れるようになりたいらしいです。」
「ふふっ、あんなに可愛らしかった殿下がねぇ。そういえばアシェル様は、もう既に殿下と閨を共にされたようなこともおっしゃっていたけれど……。婚約の話はでていないし、殿下はまだ片思いのままなのかしら?」
ずっとアシェルの傍に控えて、非公式お茶会に毎月参加していたサーニャは、アークエイドが幼い時からアシェルに片思いしていたであろうことには気付いていた。
アベルと結婚した時からずっと仕えていたシェリーから、王家の恋愛事情については実話と共に沢山聞いた事がある。
お茶会でアシェルの傍を離れたがらないアークエイドを見て、すぐにピンと来たのだ。
「傍から見ると両思いに見えますが、未だにアシェル様はお返事されておられませんね。それでもしょっちゅう、火遊びと同衾はしていらっしゃいます。」
「アシェル様はどんどんお綺麗になるから、殿下も気が気でないでしょうね。本当に子供の成長は早いものだわ。イザベルは、どなたか良い殿方は居たの?」
流石に部屋の外では出来ない話なので、それぞれ部屋の掃除の為に手を動かしながら、サーニャとイザベルは貴重な親子の会話をする。
「……私のことは良いのです。」
「そう。どのような関係かは分からないけれど、ベルから良い報告を聞けるのを楽しみにしているわ。」
イザベルは何も答えなかったのに、サーニャは嬉しそうに笑った。
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Side:アレリオン20歳 冬
「いい加減に離せっ。」
「アシェの部屋に行かないって言うなら、離してあげるよ?」
アレリオンの私室のソファで、アレリオンはしっかりとアルフォードの腕を握ったまま微笑んだ。
拉致されるように半ば無理やり連れてこられたアルフォードはさっきから膨れっ面だが、可愛い弟の膨れっ面はさらに可愛さを助長させるだけだ。
「行かないからっ。兄上を怒らせたくねぇよ。」
腕を離してあげれば、そのままアルフォードはソファに身体を預けた。
「……アシェが殿下とどうこうとか、俺聞いてない……。」
やはりそこを気にしているようだ。
マリクの抑制剤を作る時には全く気にしてなさそうだったが、基本的に初心すぎるアルフォードには教えていないのだから、知らなくて当然だ。
そんな可能性にすら、アルフォードは思い当たりもしていなかっただろう。
「まぁ、誰かに言いふらすものでもないしね。」
「でも、兄上と父上は知ってたんだろ?俺だけ除け者かよ……。」
「だってアルは純情すぎるから。知っちゃうと、アシェか殿下のところに突撃しかねないだろう?アシェは嫌がってないし、本人たちが同意の上だし良いんじゃないかな?あぁ。間違いなくイザベルも知ってると思うよ。」
「うっ……しないとは言い切れないけど、同意の上って……。イザベルも……いや、知っててもおかしくないか。それにアシェの前世が、あんなに過酷なものだって知らなかった。平和な世界だって聞いていたし……。あれだって、細かい話は省かれてるんだろ?……そりゃ、薫があんな眼をするのも、分かる気がする。」
肩を落としてしまった弟のふわふわな頭を、優しく撫でてやる。
嫌がらずに大人しくアレリオンのされるがままになっていて、よっぽどショックがでかかったのだろう。普段なら払いのけられてしまうのだが。
「アシェが言ってないのに、僕から言うのもおかしな話だしね。……そうだね。薫の話には、もっと酷いものも沢山あったよ。でも、大切だと言っていた親友達が居たから、薫には楽しいと思ったこともいっぱいあったみたいだよ。それは何気ない日常の中にね。僕らが聞いて酷いと思う話だって、いくつかはその親友達を守る為に自分の身体を対価にしていただけ、という認識だったよ。お金も後ろ盾もない薫じゃ、それが自分に出来る精一杯のことだったんだろうね。……こう聞けば、アルだって少しは薫のことが分かるだろう?」
「……まぁ。」
大切なモノが傷つくくらいなら、例えどんなに辛くて痛いことだったとしてもアレリオン達は耐えるだろう。必要ならば命ですら天秤にかける。
それがアレリオン達に出来る、大切なモノを守る為の手段であれば。
「アシェはそういうエピソードよりも、興味を惹かれるものが何もない、退屈な世界に逆戻りする方が嫌みたいだよ。灰色の世界の傍観者……僕らには想像できない世界だけれど、きっと退屈で代わり映えのしない世界を、ただ生きていたんだろうね。誰よりもメイディーらしさを持つアシェと本質が同じ少女が、そんな空虚な世界に居たというほうが、とても可哀想な気がするよ。そして、そんなアシェを輝く世界に連れ出してくれた親友達に、とても感謝もしている。」
アークエイドにも話したが、アレリオンはアシェルのいう灰色の世界を見たことがないし、見たいとも思わない。
それでも。知りたい欲求が満たされないことや、興味を惹かれるものが無い世界が、とても味気ないものだろうということは分かる。
それはきっと、メイディーとして生まれてきたアルフォードやアベルだって同じだろう。
「サキとケントって言ったっけ……知らない名前に敬称をつけないのは、なんだか変な感じだな。」
「つけても、さんとか、君とからしいからね。その辺りは文化の違いみたいだけど。その文化の違いのお陰で殿下と閨事をするのも、マリク殿の抑制剤作りも、何の抵抗もなく受け入れたみたいだけどね。」
「はぁ~……。俺、どんな表情して殿下に会えば良いんだよ……。」
「別にいつも通りで良いんじゃないかな。」
「それが難しいんだよっ。」
「まぁ、もう卒業したし、しょっちゅう殿下と会うことはなくなるでしょ?マリク殿の発情期の終わりを待っていたのもあると思うけど……。父上は元から殿下とのことを、少しは聞きだすつもりだったんじゃないかな。抑制剤作りで獣人の相手をさせたことが義母上にバレて、こっぴどく怒られたみたいだしね。前世の記憶云々は置いといて、アシェの口から説明させたかったんだと思うよ?」
アレリオンの言葉に、アベルならやりそうだとアルフォードは思ってしまう。
普通、家族の前で踏み込んだ恋愛話など、公開処刑のようなものだと思ってしまうが。
「そういえば……アルの方はどうなの?」
「……俺?」
「うん。イザベルに夜這いされたんだろう?無節操に襲わなかったのは褒めてあげるけど、いつまで返事を保留にするつもりだい?」
アレリオンがにこにこと問えば、分かりやすいくらいアルフォードの頬が染まる。
イザベルの閨着姿でも思い出したのだろうか。
「なんで兄上がソレ知ってるんだよ!って、兄上が知ってるってことは父上もか!?」
「あぁ、そこは安心してくれて良いよ。父上まで話が行くと、サーニャにまで伝わりそうだと思ったからね。僕のところで止めておいたから。で、どうするつもりなの?」
アシェルはアークエイドに求婚されているがアシェルが嫁ぐ側なので、なんなら一生返事をしなくても良いと思うくらいだが、イザベルの場合そうはいかない。
大切で可愛い義妹の恋の行く末の相手が弟となれば、尚更だ。
「どうって……考えてるけど、そんなすぐに答えは出せねぇよ……。ずっと、アシェやメルと同じ、可愛い義妹だって思ってたんだぞ?それを急に恋愛対象にって言われても……。」
「でも、他に気になるレディは居ないんだろう?」
「まぁ、そうなんだけど……。相手が居ないし、告白されたし、じゃあ婚約しましょうって……流石にイザベルに失礼だろ?」
「アルはそういうけど……僕らの末の義妹は、その流れであっさり婚約を決めたんだけどね?」
「うっ……それは……確かにそうなんだけど……。」
「まぁ、全く選考の余地なしって感じじゃなくて良かったよ。ベルにも幸せになって欲しいからね。」
「俺だって……ベルに幸せになって欲しいと思ってる……。」
イザベルの愛称は、イザベルが邸に仕えだした時から呼ばないようにしていた。
他の使用人達に贔屓しているように見られると、困るのはイザベルだからだ。
今邸の中でイザベルを愛称呼びする家族は、アシェルくらいなものだろう。
イザベルもそれまでは愛称呼びしてくれていたのに、愛称呼びを辞めてしまって少し寂しかったのを覚えている。
可愛い義妹にお義兄様呼びまで止められなくて良かったと、安堵したものだ。
「そんなこと言う兄上こそどうなんだよ。当主なんだから、いい加減相手を見つけて嫁に来てもらわないと不味いだろ。」
「僕かい?んー……求婚はずっとしてるけど、色好い返事が貰えないんだよね。ベルが告白したのなら、いっそアルと婚約すれば返事を貰えるんじゃないかと思ってるんだけど。」
きっと相手が居ないと思っていたのだろう。
アシェルの話を聞いた時のように、驚きのまま固まったアルフォードの口がパクパクと動いている。
「……え……は……。求婚って……しかもベルを引き合いに出すってことは、トラスト伯の……。まさか、サルビア嬢か?」
「うん、正解。」
アルフォードはしっかりと正解に辿り着いたのに、頭の中はまだ情報に追いついていないようだ。
トラスト伯爵家にいるサーニャの子どもは、全部で四人いる。
長女でアレリオンと同じ年のサルビア。
長男でアルフォードと同じ年のリュート。
次女で4歳年下のオーレン。
そして三女が6歳下でアシェルと同じ年のイザベルだ。
母のシェリーがメイディー邸に嫁いで来てから、サーニャはずっとシェリー付きの侍女として働いていた。
幼心に、お互い信頼し合っていたように思う。
サーニャはアシェルの乳母として、ほとんど邸に住み込みのような形で勤めてくれていたが、それはアレリオンとアルフォードの時もだった。
シェリーが生きていたので乳母とまではいかなかったが、それでもシェリーのあの広い自室で、サーニャの子供達も面倒を見ていたのだ。
今思えば、シェリーの身体が弱いことを知っていたサーニャは、シェリーの傍を離れたくなかったんだろうなということと、シェリーもサーニャを頼っていたんだろうなと思う。
シェリーが出来ないことでも、サーニャや侍女達が積極的にお世話をしてくれていたらしいから。
オーレンを育てる時は、流石にシェリーの子どもの世話が無いのに一緒に居れないと断られていたが、昼間だけはオーレンやサルビアとリュートを連れて、シェリーの部屋で過ごすように言われていた。
名目上はシェリーの気分転換と、子供達の遊び相手として。
でも本音は、少しでもサーニャを育児から離して、ゆっくりさせたかったんじゃないかと思う。
だからアレリオンもアルフォードも、サーニャの子供達とは乳兄妹ではないが幼馴染だ。
といっても、サーニャが子供達を連れて来ていたのはオーレンが2歳を迎えるくらいまでのことだ。
きっとオーレンは、メイディー邸でアレリオン達と遊んだことは覚えていないだろう。
サーニャが産休を取ってから。そして、アシェルの乳母になった後から。
三人がメイディー公爵家に足を踏み入れたことは無い。
アシェルは邸をほとんど出たことが無いが、アレリオンとアルフォードは何度もトラスト家のタウンハウスに遊びに行った事がある。
夜はタウンハウスに帰っていたが、アシェルの為にサーニャを毎日、メイディー邸に縛り付けてしまっていた。
シェリーについていた侍女達をアシェルの部屋付きにしたのだが、アシェルはサーニャが居ないとろくにお世話をさせてくれなかったのだ。
忘れてしまっていたのに、無意識に乳母としてお世話をしていたサーニャ以外を警戒してしまっていたのだろう。
だからトラスト邸の使用人達には少し迷惑をかけてしまうが、幼馴染たちの遊び相手になるために、時々トラスト邸を訪れていたのだ。
本当はもっと母親と一緒に居たい年頃だったと思うのに、サルビアはお姉ちゃんとして一生懸命弟や妹達の面倒を見ていた。
そんな弟や妹の面倒を見ようとする姿は、同じようにアシェル達の良いお兄ちゃんであろうとしているアレリオンにとっては、共感出来て、そしてとても申し訳ないことだった。
アレリオン達の母親は亡くなってしまったが、サーニャは生きているのに、メイディーの都合で母親を取り上げてしまっていたのだ。
でも幼馴染達はそれに恨み言を言うこともなく、遊びに行ったアレリオン達を受け入れてくれていた。
「サルビア嬢に求婚って……いつから?」
「お嫁さんになって欲しいって言ったのは、学院に入るよりもずっと前のことだよ。正式に婚約してほしいと伝えたのは、学院に居る間だけどね。」
「そんな話、聞いたことないんだけど?」
「だって言ってないからね。正式な求婚だって、グレイくらいしか知らないんじゃないかな。変に噂になって、サルビアに迷惑を掛けたくなかったからね。昔から外堀を埋める真似はするなって釘を刺されてるけど、そろそろサルビアの返事が聞きたいんだよね。くちさがないご令嬢達が、サルビアのことを嫁き遅れだなんだって言ってるのは、そろそろ聞きたくないなって思って。」
「……アン兄がそう言っても、俺はすぐには返事できませんからね。っていうか、サルビア嬢ってまだ婚約者居ませんよね?独身を貫くつもりなのかと思ってましたけど……まさか、他の男からのサルビア嬢への求婚を、邪魔したりしてませんよね?」
アレリオンとしては、サルビアが頷いてくれるきっかけを作って欲しかっただけなのだが、何故かアルフォードからジトっとした視線を向けられる。
口調も敬語になっているし、真面目に聞いてくれているのは分かるのだが、一体アレリオンのことをどれだけ酷い男だと思っているのだろうか。
「外堀を埋めるなって言われているし、誓ってサルビアの婚活の邪魔はしていないからね。文通はしているけど、中々会えないし。僕が求婚したせいで、メイディーの使用人になる道が閉ざされたって怒られたくらいなんだから。はぁ……サルビアも、メルみたいに素直に頷いてくれたらいいのに。」
本当なら周囲に自分の大切なモノだとアピールして、サルビアがどう思っていようと政略結婚することも出来た。
公爵家が婚姻を申し入れたら、伯爵家では断れないだろう。
それも、トラスト伯爵家の領地はメイディー地方にある。こちらから婚約を申し込んだ時点で、それは命令と一緒だ。
それでもそうしなかったのは、そうサルビアが望んだからだ。
いっそのこと、他に婚約者を作ってくれたらアレリオンも諦めがつくのにと思ったことすらある。
求婚はずっと断り続けられているのに、サルビア自身は婚約をすることも家を出ることもなく、定期的な文通は続けてくれていて、時折外食をしてくれる。
そんなよく分からない関係だ。
「トラスト卿が許可しても、サーニャが絶対に反対するっていうけど、外堀を埋めるなと言われている以上。僕からサーニャに、サルビアが欲しいなんて言えないだろ?だから、アルとベルがどうなるかは、僕としては早く結末を見届けたいんだよね。」
「それ、結末を見たいっていうけど、俺がベルを受け入れるのが前提ですよね?っていうか、アシェのことじゃなくて、この話のために俺を拉致りましたね?」
「ふふっ、どうだろうね。」
笑って誤魔化したアレリオンに、アルフォードは大きな溜息を吐いた。
「ベルと俺のことがどう転んだとしても、俺はアン兄より先に婚約式をするつもりはありませんからね。結婚式もです。それと、ベルはあまりトラスト家の内情には詳しくないかもしれませんが、それとなくサルビア嬢のことを聞いておきます。俺達が幼馴染だってことは、ベルが俺達が邸に遊びに行ってたのを覚えてくれてれば分かるはずですから。……だから、お願いですから、サーニャに俺とベルのことを話さないで下さいね?兄上のことですから、早く結果を知りたいとかで勝手に話を進められそうです。」
「うーん、先手を打たれちゃったか。仕方ない。そんなことはしないから、早くベルに返事を出してあげてよね。ずっと返事を待ってるのも、なかなかつらいんだよ。お転婆なベルのことだから今度は邸の使用人たちまで巻き込んで、夜這いしに来ないとは限らないしね。」
なんせアルフォードの学院生活について行った使用人達は、全員がイザベルに協力してアルフォードへの夜這いを成功させたのである。
アルフォード専属侍従で、アルフォード第一であるはずのアイザックまでもがだ。
「……邸での夜這いの前に、アシェと殿下の四人でのダブルデートに誘われてます。……これって、返事を急かされているんですかね?」
「僕に聞かれても分からないよ。でも間違いなく、アシェが居るならアルは来るだろうって思われてるよね。お誘いは断ってないんだろう?」
「……えぇ。メルの婚約式が済んだ後ならと。」
イザベルがアシェルとアークエイドまで巻き込んでいることに少し驚くが、アルフォードがキッパリと断らなかったので、イザベルなりにアプローチをしているのだろう。
メイディーの人間が恋愛的な感情を告げられて断らなかった時点で、それはある意味受け入れているのと同義だ。
他の外的要因が無ければ間違いなく、最終的にはその求愛を受け入れる事になる。その答えに至るまでに、どれだけ長い年月がかかったとしてもだ。
アレリオンは既に、家族以外の一番大事なものを見つけているからこそ、余計にそう思う。
求愛の返事を考えた時にいくら大切なものだったとしても、添い遂げることを考えられるかどうかというところでふるいに掛けられるのだ。
そしてそのふるいの中に残った時点で、大切な中の特別なのだ。
少なくとも、アレリオンが添い遂げることを考えてふるいに残ったのはサルビアだけだったし、アベルもシェリーやメアリーとの婚姻を決めた時もそうだったと聞いている。
「そっか。きっとベルはとっても楽しみにしてるだろうね。婚約式の前か後かは分からないけど、メルも含めて三人でお出かけするって言ってたから。ベルはうんとお洒落してくれるんじゃないかな?いくらベルが可愛いからって、帰りに襲っちゃダメだよ?」
「そんなことしませんって!俺を揶揄い始めたってことは、もう兄上からの相談は終わりってことだな。俺は部屋に戻る。」
冗談だったのに、顔を真っ赤にして返事するアルフォードはとても揶揄いがいがあって可愛い。
「うん。長話に付き合わせてごめんね。部屋でゆっくり休んで。」
部屋を出て行ったアルフォードを見送り、アレリオンはサルビアとのことをどうしたものかと思い悩む。
もう何年も、この難題だけがクリアできていないのだ。
時折サルビアの口から出る「覚えていないのね。」という単語が気にかかるのだが、可能な限り、サルビアの要望や約束は実行してきたはずだ。
何について指摘されているのか、それが分からない。
「はぁ……こんな時ばかりは、アシェの記憶力が羨ましいよ。」
——アレリオンが市井の話題や流行りを教えるために、アシェルにサルビアとの手紙を見せながら話を聞かせていたことを思い出すのは、もう少しだけ先のお話。
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