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第四章 王立学院中等部三年生
207 女の子のお買い物事情
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Side:アシェル14歳 春
今日の買い物は、アシェルとイザベルは王立学院の冬休みの間にダブルデートに行くために。
そしてメイディー公爵家に後妻として嫁いできたメアリーの連れ子だった義妹のメルティーは、先日婚約した相手でアシェルの幼馴染の一人でもあるマリクとの今後のデートの為に。
三人で揃って、洋服や装飾品を買いに行く約束をしていたのだ。
イザベルは女性平均の背丈なのだが、一つ年下のメルティーは小柄だ。
そしてアシェルは男性の中では低めだが、女性としては高身長だ。
今日の靴は、それぞれの身長をなるべく揃えるためのチョイスだったのだろう。
「シェリー義姉様とこうしてお買い物に出かけるのは、初めてですわよね。それにイザベルとも。わたくし、とても楽しみでしたのよ。」
高級商業エリアの停留所までは家の馬車で移動して、今はお目当てのお店へ向かって徒歩で移動中だ。
店の前まで馬車で移動することもできるのだが、折角のお出かけだからと歩くことを選んだ。
シェリーは、アシェルが女装で出かける時の偽名だ。
生母の名前なのだが、まだアシェルが女だと公表していない以上。どこかから情報が漏れるのを防ぐためだ。
「えぇ、初めてよね。でも出来れば、可愛らしいメルをエスコートしたかったわ。わたくしには、女装は似合わないもの。」
「もう、シェリー義姉様ったら。いつもそうおっしゃってますけど、とてもお綺麗ですわよ?それに、身長もお胸もあって羨ましいですわ。マリク義兄様の隣に立つと、身長差をひしひしと感じますもの。」
「メルは可愛らしいし、マリクは身長差なんて気にしたりしないわ。それよりも、マリクからのお守りはちゃんと身に付けてる?何かあってもわたくしが守ってあげるけど、あれがあるだけで、獣人からはちょっかいをかけられにくくなるはずだから。」
「えぇ。肌身離さないように言われていますもの。」
そういってメルティーは、その細い手首に付けたお守りを見せてくれる。
獣人はパートナーに自身の匂いをつけることで、このパートナーは自分のモノだと主張するらしい。
マリクから贈られたブレスレットにはマリクの匂いをつけてあるらしく、獣人であれば誰かの匂いがついた者に手を出そうとは思わないらしい。——滅多に。
もし匂いがしている相手に手を出したなら、それは匂いを付けた獣人へ喧嘩を売っていることになるそうだ。
お目当てのお店へと到着し、三人で商品棚を見ていく。
幼馴染の一人で、アシェル以外唯一の女性であるリリアーデにお勧めされたお店らしい。
確かに普段使い出来そうなお洒落な服が沢山並んでいるし、無駄に店員も話しかけてこないので、のんびり買い物を楽しむにはとてもいいお店だろう。
公爵家御用達のお店は必ず店員が付いてくるし、なんなら店内を見回ることなく買い物が終了してしまうらしいのだ。
アシェルは買い物に興味が無いので、メルティーから聞いた話なのだが。
馬車で店の前まで乗り付けると馬車の家紋を見て同じような対応をされる恐れがあるので、徒歩を選んだのもある。
「ところで、イザベルはどなたとデートをするの?今日はデート用のお洋服を皆で買いましょうって話だったけれど……。シェリーお義姉様のお相手は、恐らくアークお義兄様でしょう?わたくしイザベルの相手がどなたなのか、まだ聞いていないわ?」
メルティーの何気ない問いかけに、その質問をされたイザベルは固まってしまう。
でもこれに関してはアシェルが口を出すことではないし。イザベルが話すかどうかを決めるべき問題だ。
しばらく逡巡したのち、イザベルは口を開いた。
「……まだお父様にもお母様にも何も言ってないから、内緒にしていてちょうだいね?……アルフォードお義兄様ですわ。」
今度はメルティーが固まる番だった。
そしてイザベルの言葉の意味を理解して、パァっと表情を輝かせた。
「まぁ、アル義兄様なの!?それはどちらから?婚約するの??もし婚約したら、イザベルは正式にわたくしのお義姉様になるのね!」
「わたくしからですわ。メルティー様、恥ずかしいので声を抑えてくださいませ。それにお返事は頂いておりませんわ。デートも二人っきりではなく、シェリー様とエイディ様と四人ですの。」
顔を真っ赤にしたイザベルの姿は貴重かもしれない。それに興奮したように話すメルティーの姿も。
アシェルの乳兄妹であるイザベルは、二人の兄にとっても義妹当然だし、メルティーにとってももう一人の義姉だ。
大好きな二人が婚約する可能性に、思わず声が大きくなってしまったのだろう。
「あっ、ごめんなさい。アル義兄様ったら、早くお返事をしてさしあげたら良いのに。女性から告白させるなんて、男として失格ですわ。」
アシェルに求婚しているアークエイド——お忍び姿の名前がエイディだ——の返事を保留している身としては耳が痛い話だが、アシェルもイザベルが相手なら二つ返事で頷けばいいのにと思ってしまう。
性格良し、器量良し、料理の腕もあって、家事の腕前も一級品だ。こんなに可愛くてお嫁さんとしての能力を持ったイザベルの、何処が気に入らないのだろうか。
アークエイドの姉でありこの国の第一王女であるアビゲイルから求婚を受けていたノアールのように、自分からプロポーズしたいのだろうか。
「ずっと使用人として接していましたし、アルフォードお義兄様はわたくしのことを義妹としか思っていなかったでしょうから。直ぐにお返事をいただけなくても、一人の女性として見てくれようと頑張っていただけているだけでも勿体ないくらいですわ。本当は振られると思ってましたもの。」
「イザベルの旦那様になれるのに振ったりなんかしたら、わたくしがアル義兄様を怒りますわ。もしわたくしにも協力できることがあれば、遠慮なく言ってちょうだいね。是非イザベルに、本当のお義姉様になって欲しいわ。」
「きっぱりとお断りされるまでは、頑張ってみますわ。」
こんな話をしながらも、二人はあれこれ商品棚の洋服を手にとっては、身体に当てたりしている。
とても器用だと思う。
「いっそのこと、アル義兄様に迫ってみたらどうかしら?今日は時間もあるし、確か閨着のお店が近くにあったはずだわ。ねぇ、シェリーお義姉様。下着のお店にも寄って良いかしら?」
「わたくしは構わないわ。今日は二人の買い物にとことん付き合うつもりで来たんだもの。メルやベルが行きたいと思うお店に行ったら良いわ。」
「他人事のように言ってるけれど、シェリーお義姉様の分も買いますわよ。お洋服も下着も、女性の戦闘服ですもの。可愛くて殿方の気を引くような戦闘服を身に着けるのは、とても大事なことですわ。」
メルティーがマリクと婚約するにあたり、アシェルとリリアーデとで前世の知識も用いた性教育を行ったのだが。メルティーはとても可愛らしい見た目に反してかなりリアリストで、こういったことを普通に考えていることが判明した。
もっと恋愛に夢を見ていてもおかしくない見た目なのにだ。
可愛い義妹からこんなに現実的な話を聞くことに違和感があるのだが、貴族令嬢なら当たり前の感覚なのだろうか。
貴族令嬢としては異端なアシェルにはよく分からない。
「大事なのは分かったわ。でもアル兄様に色仕掛けをしても、アル兄様は固まってしまうだけじゃないかしら?下手をしたら、失神する恐れがあるわ。」
アルフォードはかなり初心というか、純情だ。
アシェルとアークエイドがお付き合いはしていないものの肉体関係があることにですら、かなりの衝撃を受けているようだった。
それなのに閨着姿で夜這いをされたら、鼻血でも出しながら失神してしまうのではないだろうか。
「その、お言葉ですが……もう既に実行済みですわ……。アルフォードお義兄様の名誉のためにも、失神はされなかったとだけ……。」
イザベルが恥ずかしそうに言った小さな声に、アシェルもメルティーも驚きが隠せない。
アシェルが詳しく聞いていないだけなのだが、まさか既に夜這いを実行しているとは思っていなかった。
というか、いつどこで踏み切ったのだろうか。
「ベル義姉様!それは本当ですの??もちろんアル義兄様に、初めては貰っていただいたのよね?」
メルティーはイザベルの呼び方が、昔のように戻っているのに気付いているのかいないのか。
興奮気味にイザベルに詰め寄っている。
「振れられるのが前提でしたので、せめてお情けでもと思いましたが……駄目でしたわ。」
「アル義兄様ったら。純情を通り越してヘタレですわね……。」
「わたくしもメルの意見に賛成ね。据え膳食わぬは男の恥って言葉は、こちらにはないのかしら。」
女性が勇気を出してお誘いをかけているのだから、それに応えてあげれば良いのにと思ってしまう。
例え一夜限りの関係だったとしても女性からお誘いをかけているのだから、手を出してしまっても何も問題ないはずだ。
「アルフォードお義兄様らしいですし……お願いですから、そのことでお義兄様を責めないであげてくださいませ。」
「ベルさえ良ければ、わたくしがアル兄様用のお薬を出すわよ?ガムシロップだって言って出せば、間違いなく甘党のアル兄様は使うでしょうから。効果はすぐに出るし、アル兄様が分解し終える前に襲われるはずよ。優しい初体験は約束できないけれどね。なんなら香もセットで使うと効果的だけど……それだとベルにまで効きすぎちゃうのよね。……でも初めてなら効いていたほうが良いのかな?アル兄様に使うなら、もっと成分を残していても良いし……効果を阻害しないように別の薬も混ぜて、すんなり分解させないようにさせて……。ってなると、フォアレン草だけじゃなくて何が良いかな。毒薬だとベルが危ないし、危害を加えるつもりだと思われると不味いから……胃薬と整腸薬にしようかな。身体に良さそうな反応なら魔力を絞るだろうし……。きっとアル兄様はフォアユウ草までしか味見したことないと思うし……。」
メイディー直系は体質的に、体内に入ってきた薬物は魔力が勝手に分解してしまうし、自分で魔力を使って分解を促進することも、魔力を絞って効果を長引かせることもできる。
ぶつぶつと思考の海に沈んでいたアシェルは、ぐっと腕を引っ張られたことで現実へと戻された。
「絶対に、絶対におやめくださいませっ。ですからシェリー様にはお聞かせしたくなかったんです。お話的に、とびっきり極悪な媚薬でも盛るつもりでしょう?もし必要ならわたくしから言いますから。お願いですから、勝手にアルフォードお義兄様にお薬を盛らないで下さいませっ。それと、仮に使ったとしても、わたくしは効果や使用感をお話ししたりはしませんからねっ。」
「……そう?ベルがそういうなら止めておくわ。でも一応、アル兄様専用に作っておくわね。ベルに渡しておくから、ストレージに放り込んでおいたらいいわ。使っても使わなくても良いし、どうしたかなんて聞かないから。お守り代わりとしてなら、受け取ってくれるでしょう?」
「お守りって……確実にシェリー様が、今思いついたお薬を作りたいだけですわよね?」
「否定はしないけど、年頃の男の子に性欲がないはずないもの。据え膳でダメなら、きっかけや言い訳を作ってあげたら良いだけだわ。数日中には作って渡しておくわね。」
にっこりと微笑んだアシェルに、イザベルは極悪な媚薬を受け取らざるを得ないことを知る。
こうなった主人は、きっとどれだけ拒否したとしても、作った特製の薬を押し付けてくるだろう。
「……受け取るだけです。使いませんからね。」
そんなイザベルの敗北を、メルティーは苦笑しながら見守った。
自身の身を守る為に香油や傷薬を用意することはあっても、殿方に襲ってもらう為に媚薬を用意する女性は稀だろう。
そういうのは王族なんかの身分の釣り合わなすぎる相手や、陥落不可能な相手を堕とす時に用いられるものだ。
その後はメルティーとイザベルの持っている、どこの誰が婚約間近なのではないかと言う話や、知人から聞いたという恋バナを聞きながら洋服を購入した。
洋服を買いに来ただけで数時間店に居座ったのは、二人分の人生を通して初めてのことだった。
そして次に訪れた装飾品のお店やエリュシオンという下着専門店でも同じように数時間かけて買い物をしたので、朝早くに出てきたというのに、邸に帰るころにはすっかり日が暮れてしまっていた。
リリアーデの双子の弟で婚約者のデュークが、リリアーデの買い物には付き合いたくないと言っていた意味が、切実に解る一日となったのだった。
今日の買い物は、アシェルとイザベルは王立学院の冬休みの間にダブルデートに行くために。
そしてメイディー公爵家に後妻として嫁いできたメアリーの連れ子だった義妹のメルティーは、先日婚約した相手でアシェルの幼馴染の一人でもあるマリクとの今後のデートの為に。
三人で揃って、洋服や装飾品を買いに行く約束をしていたのだ。
イザベルは女性平均の背丈なのだが、一つ年下のメルティーは小柄だ。
そしてアシェルは男性の中では低めだが、女性としては高身長だ。
今日の靴は、それぞれの身長をなるべく揃えるためのチョイスだったのだろう。
「シェリー義姉様とこうしてお買い物に出かけるのは、初めてですわよね。それにイザベルとも。わたくし、とても楽しみでしたのよ。」
高級商業エリアの停留所までは家の馬車で移動して、今はお目当てのお店へ向かって徒歩で移動中だ。
店の前まで馬車で移動することもできるのだが、折角のお出かけだからと歩くことを選んだ。
シェリーは、アシェルが女装で出かける時の偽名だ。
生母の名前なのだが、まだアシェルが女だと公表していない以上。どこかから情報が漏れるのを防ぐためだ。
「えぇ、初めてよね。でも出来れば、可愛らしいメルをエスコートしたかったわ。わたくしには、女装は似合わないもの。」
「もう、シェリー義姉様ったら。いつもそうおっしゃってますけど、とてもお綺麗ですわよ?それに、身長もお胸もあって羨ましいですわ。マリク義兄様の隣に立つと、身長差をひしひしと感じますもの。」
「メルは可愛らしいし、マリクは身長差なんて気にしたりしないわ。それよりも、マリクからのお守りはちゃんと身に付けてる?何かあってもわたくしが守ってあげるけど、あれがあるだけで、獣人からはちょっかいをかけられにくくなるはずだから。」
「えぇ。肌身離さないように言われていますもの。」
そういってメルティーは、その細い手首に付けたお守りを見せてくれる。
獣人はパートナーに自身の匂いをつけることで、このパートナーは自分のモノだと主張するらしい。
マリクから贈られたブレスレットにはマリクの匂いをつけてあるらしく、獣人であれば誰かの匂いがついた者に手を出そうとは思わないらしい。——滅多に。
もし匂いがしている相手に手を出したなら、それは匂いを付けた獣人へ喧嘩を売っていることになるそうだ。
お目当てのお店へと到着し、三人で商品棚を見ていく。
幼馴染の一人で、アシェル以外唯一の女性であるリリアーデにお勧めされたお店らしい。
確かに普段使い出来そうなお洒落な服が沢山並んでいるし、無駄に店員も話しかけてこないので、のんびり買い物を楽しむにはとてもいいお店だろう。
公爵家御用達のお店は必ず店員が付いてくるし、なんなら店内を見回ることなく買い物が終了してしまうらしいのだ。
アシェルは買い物に興味が無いので、メルティーから聞いた話なのだが。
馬車で店の前まで乗り付けると馬車の家紋を見て同じような対応をされる恐れがあるので、徒歩を選んだのもある。
「ところで、イザベルはどなたとデートをするの?今日はデート用のお洋服を皆で買いましょうって話だったけれど……。シェリーお義姉様のお相手は、恐らくアークお義兄様でしょう?わたくしイザベルの相手がどなたなのか、まだ聞いていないわ?」
メルティーの何気ない問いかけに、その質問をされたイザベルは固まってしまう。
でもこれに関してはアシェルが口を出すことではないし。イザベルが話すかどうかを決めるべき問題だ。
しばらく逡巡したのち、イザベルは口を開いた。
「……まだお父様にもお母様にも何も言ってないから、内緒にしていてちょうだいね?……アルフォードお義兄様ですわ。」
今度はメルティーが固まる番だった。
そしてイザベルの言葉の意味を理解して、パァっと表情を輝かせた。
「まぁ、アル義兄様なの!?それはどちらから?婚約するの??もし婚約したら、イザベルは正式にわたくしのお義姉様になるのね!」
「わたくしからですわ。メルティー様、恥ずかしいので声を抑えてくださいませ。それにお返事は頂いておりませんわ。デートも二人っきりではなく、シェリー様とエイディ様と四人ですの。」
顔を真っ赤にしたイザベルの姿は貴重かもしれない。それに興奮したように話すメルティーの姿も。
アシェルの乳兄妹であるイザベルは、二人の兄にとっても義妹当然だし、メルティーにとってももう一人の義姉だ。
大好きな二人が婚約する可能性に、思わず声が大きくなってしまったのだろう。
「あっ、ごめんなさい。アル義兄様ったら、早くお返事をしてさしあげたら良いのに。女性から告白させるなんて、男として失格ですわ。」
アシェルに求婚しているアークエイド——お忍び姿の名前がエイディだ——の返事を保留している身としては耳が痛い話だが、アシェルもイザベルが相手なら二つ返事で頷けばいいのにと思ってしまう。
性格良し、器量良し、料理の腕もあって、家事の腕前も一級品だ。こんなに可愛くてお嫁さんとしての能力を持ったイザベルの、何処が気に入らないのだろうか。
アークエイドの姉でありこの国の第一王女であるアビゲイルから求婚を受けていたノアールのように、自分からプロポーズしたいのだろうか。
「ずっと使用人として接していましたし、アルフォードお義兄様はわたくしのことを義妹としか思っていなかったでしょうから。直ぐにお返事をいただけなくても、一人の女性として見てくれようと頑張っていただけているだけでも勿体ないくらいですわ。本当は振られると思ってましたもの。」
「イザベルの旦那様になれるのに振ったりなんかしたら、わたくしがアル義兄様を怒りますわ。もしわたくしにも協力できることがあれば、遠慮なく言ってちょうだいね。是非イザベルに、本当のお義姉様になって欲しいわ。」
「きっぱりとお断りされるまでは、頑張ってみますわ。」
こんな話をしながらも、二人はあれこれ商品棚の洋服を手にとっては、身体に当てたりしている。
とても器用だと思う。
「いっそのこと、アル義兄様に迫ってみたらどうかしら?今日は時間もあるし、確か閨着のお店が近くにあったはずだわ。ねぇ、シェリーお義姉様。下着のお店にも寄って良いかしら?」
「わたくしは構わないわ。今日は二人の買い物にとことん付き合うつもりで来たんだもの。メルやベルが行きたいと思うお店に行ったら良いわ。」
「他人事のように言ってるけれど、シェリーお義姉様の分も買いますわよ。お洋服も下着も、女性の戦闘服ですもの。可愛くて殿方の気を引くような戦闘服を身に着けるのは、とても大事なことですわ。」
メルティーがマリクと婚約するにあたり、アシェルとリリアーデとで前世の知識も用いた性教育を行ったのだが。メルティーはとても可愛らしい見た目に反してかなりリアリストで、こういったことを普通に考えていることが判明した。
もっと恋愛に夢を見ていてもおかしくない見た目なのにだ。
可愛い義妹からこんなに現実的な話を聞くことに違和感があるのだが、貴族令嬢なら当たり前の感覚なのだろうか。
貴族令嬢としては異端なアシェルにはよく分からない。
「大事なのは分かったわ。でもアル兄様に色仕掛けをしても、アル兄様は固まってしまうだけじゃないかしら?下手をしたら、失神する恐れがあるわ。」
アルフォードはかなり初心というか、純情だ。
アシェルとアークエイドがお付き合いはしていないものの肉体関係があることにですら、かなりの衝撃を受けているようだった。
それなのに閨着姿で夜這いをされたら、鼻血でも出しながら失神してしまうのではないだろうか。
「その、お言葉ですが……もう既に実行済みですわ……。アルフォードお義兄様の名誉のためにも、失神はされなかったとだけ……。」
イザベルが恥ずかしそうに言った小さな声に、アシェルもメルティーも驚きが隠せない。
アシェルが詳しく聞いていないだけなのだが、まさか既に夜這いを実行しているとは思っていなかった。
というか、いつどこで踏み切ったのだろうか。
「ベル義姉様!それは本当ですの??もちろんアル義兄様に、初めては貰っていただいたのよね?」
メルティーはイザベルの呼び方が、昔のように戻っているのに気付いているのかいないのか。
興奮気味にイザベルに詰め寄っている。
「振れられるのが前提でしたので、せめてお情けでもと思いましたが……駄目でしたわ。」
「アル義兄様ったら。純情を通り越してヘタレですわね……。」
「わたくしもメルの意見に賛成ね。据え膳食わぬは男の恥って言葉は、こちらにはないのかしら。」
女性が勇気を出してお誘いをかけているのだから、それに応えてあげれば良いのにと思ってしまう。
例え一夜限りの関係だったとしても女性からお誘いをかけているのだから、手を出してしまっても何も問題ないはずだ。
「アルフォードお義兄様らしいですし……お願いですから、そのことでお義兄様を責めないであげてくださいませ。」
「ベルさえ良ければ、わたくしがアル兄様用のお薬を出すわよ?ガムシロップだって言って出せば、間違いなく甘党のアル兄様は使うでしょうから。効果はすぐに出るし、アル兄様が分解し終える前に襲われるはずよ。優しい初体験は約束できないけれどね。なんなら香もセットで使うと効果的だけど……それだとベルにまで効きすぎちゃうのよね。……でも初めてなら効いていたほうが良いのかな?アル兄様に使うなら、もっと成分を残していても良いし……効果を阻害しないように別の薬も混ぜて、すんなり分解させないようにさせて……。ってなると、フォアレン草だけじゃなくて何が良いかな。毒薬だとベルが危ないし、危害を加えるつもりだと思われると不味いから……胃薬と整腸薬にしようかな。身体に良さそうな反応なら魔力を絞るだろうし……。きっとアル兄様はフォアユウ草までしか味見したことないと思うし……。」
メイディー直系は体質的に、体内に入ってきた薬物は魔力が勝手に分解してしまうし、自分で魔力を使って分解を促進することも、魔力を絞って効果を長引かせることもできる。
ぶつぶつと思考の海に沈んでいたアシェルは、ぐっと腕を引っ張られたことで現実へと戻された。
「絶対に、絶対におやめくださいませっ。ですからシェリー様にはお聞かせしたくなかったんです。お話的に、とびっきり極悪な媚薬でも盛るつもりでしょう?もし必要ならわたくしから言いますから。お願いですから、勝手にアルフォードお義兄様にお薬を盛らないで下さいませっ。それと、仮に使ったとしても、わたくしは効果や使用感をお話ししたりはしませんからねっ。」
「……そう?ベルがそういうなら止めておくわ。でも一応、アル兄様専用に作っておくわね。ベルに渡しておくから、ストレージに放り込んでおいたらいいわ。使っても使わなくても良いし、どうしたかなんて聞かないから。お守り代わりとしてなら、受け取ってくれるでしょう?」
「お守りって……確実にシェリー様が、今思いついたお薬を作りたいだけですわよね?」
「否定はしないけど、年頃の男の子に性欲がないはずないもの。据え膳でダメなら、きっかけや言い訳を作ってあげたら良いだけだわ。数日中には作って渡しておくわね。」
にっこりと微笑んだアシェルに、イザベルは極悪な媚薬を受け取らざるを得ないことを知る。
こうなった主人は、きっとどれだけ拒否したとしても、作った特製の薬を押し付けてくるだろう。
「……受け取るだけです。使いませんからね。」
そんなイザベルの敗北を、メルティーは苦笑しながら見守った。
自身の身を守る為に香油や傷薬を用意することはあっても、殿方に襲ってもらう為に媚薬を用意する女性は稀だろう。
そういうのは王族なんかの身分の釣り合わなすぎる相手や、陥落不可能な相手を堕とす時に用いられるものだ。
その後はメルティーとイザベルの持っている、どこの誰が婚約間近なのではないかと言う話や、知人から聞いたという恋バナを聞きながら洋服を購入した。
洋服を買いに来ただけで数時間店に居座ったのは、二人分の人生を通して初めてのことだった。
そして次に訪れた装飾品のお店やエリュシオンという下着専門店でも同じように数時間かけて買い物をしたので、朝早くに出てきたというのに、邸に帰るころにはすっかり日が暮れてしまっていた。
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