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第四章 王立学院中等部三年生
213 交換条件①
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Side:アシェル14歳 春
ダブルデートの日。
たっぷりとアークエイドにおねだりして、アシェルが満足するまで満たしてもらったことは覚えているが、気付くと王宮のアークエイドの私室に居た。
アルフォードが防音をかけてくれていて、少なくとも声は二人に届いていなかったらしいことがせめてもの救いだ。
——流石にその日のうちに邸に帰るのは恥ずかしくて、アシェルが帰らないことに上機嫌なアークエイドの私室に泊めて貰った。
散々痴態を晒してしまったわけだが、翌朝メイディー邸に戻っても、二人とも普段通り接してくれたことがせめてもの救いだ。
アレリオンとサルビアのことについては、邸に帰った後に時間を作ってもらって、アルフォードとイザベルも同席の上でアシェルの考察を話した。
もちろん三人で邸の書庫を漁って、記憶にある限りのタイトルの書物も持参した上でだ。
やっぱりサルビアがロマンチストだと思うという話には首を傾げられたが、アシェルが手紙の相手のことや内容を覚えてたことを、頭を撫でながらたっぷりと褒めて貰った。
ただアシェルが他の人より記憶力が良いだけなのだが、大好きな兄に褒めて貰うのはとても嬉しかった。
食事会についてはアレリオンがそれとなくアベルに進言してくれて、4月1日に集まることが決まった。
失敗しそうなアルフォードと違ってちゃんとそれとなく、外堀を埋める形にならないように配慮してアベルに伝えたようだ。
アルフォードと長男のリュート・トラストの卒業祝いと就職祝いを兼ねた、アシェルとメルティーに兄達の幼馴染達を紹介する場、という名目らしい。
実際、イザベルの兄妹はアシェル達が産まれる前までは、メイディー邸で兄達と一緒に遊んだりしていたらしい。理由としておかしいところは無いし、求婚の件を抜きにしても兄達の幼馴染に会えるのは楽しみだ。
そして三月末の、そろそろ王立学院の始業式が迫ってきたある日。
デートの交換条件だと言っていた、丸二日間アークエイドと一緒に過ごすという約束の日が来た。
デートの日にアークエイドと過ごしたついでに、今日までの間に、一度アビゲイルと会えるようにセッティングして貰い、問診をしてアビゲイル用の薬は二種類仕上げてきた。
王宮だと目立つらしいので、普段王立学院にも連れてきている護衛と買い物に出た先で、たまたまアークエイドとアシェルに出会い、折角だからと二人が予約していたカフェ【エトランジェ】でお茶をした。という、まどろっこしい言い訳を用意してからだ。
因みに王立学院祭でも会ったその見えない護衛達三人は、アビゲイルから話を聞いたようで。
「私達は絶対に店内には立ち入りませんから、アビゲイル王女殿下をお願い致します。店内に踏み入れない限りは、私達を攻撃しないでください。」
と、わざわざ邸に帰る前のアシェルの元へ頭を下げに来た。
アークエイドが居るのでアシェルは街にお出かけ中はずっと観ているし、護衛対象が二人になるだけの話なので、アビゲイルを守るのに異論はなかった。
ただ、あちらの探査魔法や体内の魔力の形まで教えて貰ったのだが、王女の護衛なのにそれは良かったのだろうか。メイディー直系にソレを知られるのは、命を握られているのと変わらないと思う。
そこまでしてでも、アシェルの——いや、メイディーの攻撃対象になりたくなかったのだろう。
アシェルは十分すぎる程に調整をかけて、満足のいく品を仕上げたが、最終的にそれでいいのかを決めるのはアルフォードだ。
アビゲイルの症状に始まり、使った素材や丁寧すぎる程の創薬の手技について。
使った素材一つ一つの作用と副作用。そして、どうしてそれを用いたのかの理由と、候補に挙げたが選ばなかった素材と理由まで。
いつものレポートよりも詳細に記載して、内服のしやすさや保管のしやすさで選択した錠剤の現物も合わせて、邸を出る前にアルフォードに押し付けてきた。
修正してほしければ返ってくるが、それで良ければアビゲイルにその処方箋の完成を伝えて、アスノームに嫁ぐまではアルフォードに処方してほしいと伝えている。
薬を変えたことによる経過や結果も気になるだろうし、もし細かい調整が必要ならアシェルの処方箋を元にアルフォードが調整をかけて、アスノームに出立する前にその処方箋を渡してあげたら良い。
ちなみに、こんな風に家を空けることが確定している日の朝に渡したのは、現在の処方について突っ込まれないためだ。
あんな意味の分からない処方箋を見せてしまうと、アルフォードが何をしでかすのか分かったものではない。
それくらいメイディーにとって、自分の大切なモノは何が何でも守りたい存在なのだ。
メイディー邸から一番近い、王宮の城壁の南門の前まで馬車で送ってもらう。
メイディーのタウンハウスは高級住宅エリアの中でも王宮の城壁のすぐ傍なので、自宅から徒歩で来ても問題は無いのだが、一応体裁だ。
徒歩だと門前払いされてしまう恐れがある。
アークエイドに会いに来たことを門番に告げ、そのまま南門で待つ。
伝言ゲームがアークエイドの元まで届いたのだろう。
早歩きで白い騎士服を着たアークエイドの近衛騎士であるダニエルが、アシェルを迎えに来てくれた。
いつもはアークエイドに撒かれているようだったが、今日は近くに控えることが出来ていたのだろうか。
アークエイドのことだから、アシェルの迎えのためだけに近くに侍らせておいた可能性もある。
因みにアシェルがアークエイドの元を訪れた後、帰りに城門まで案内してくれるのもダニエルだ。
「ごきげんよう、ダニエル殿。案内していただく前に一つだけ……王宮内で探査魔法を使用させていただいてもよろしいでしょうか?」
「私に挨拶は不要です。それと以前もお伝えしましたがダニエルで構いません。えぇ。メイディーの方であれば、気にされるのは当然のことです。アシェル殿のホルスターの中身についても検分はありませんので、このまま殿下のお部屋までご案内いたします。」
探査魔法の許可の後に、ホルスターの中身の検分を申し入れるつもりだったのだが、先手を打って断られてしまった。
本来であれば大事な主の客人が魔法を使ったり薬物を持ち込んだりは警戒するべきだが、メイディーの王族への忠誠と王族からの信頼について、しっかり教育が行き届いているようだ。
というよりも、王族の身辺警護をしておきながら、何も知らなかった学院祭の時の護衛がおかしいのだ。
因みに最初はメイディー殿と家名で呼ばれていたが、アベルもアレリオンも王宮務めだ。
王宮内で偶然出会うことはまずないだろうが、ややこしいのでダニエルにはアシェルと呼んで貰っている。
何故かアークエイドが渋ったが、アシェル呼びで押し通した。
遠慮なく『探査魔法』を展開して、誰かに後を付けられてないかや不審な人物がいないかを確認していく。
のだが、今まで何度かアークエイドの私室から観ていた時と比べて、何故かいつもよりも警護に当たる人数が多く感じた。
流石に声を大にして聞ける話ではないので、王宮の中でも王族の生活エリアになっていて関係者以外が入れない場所で、ダニエルにこっそりと最初の一文だけ小さな声で耳打ちする。
「——失礼。話せないことでしたら、沈黙で結構です——今までに観たことが無いくらい、今日は沢山虫が飛んでますね。庭師達も忙しそうにしていますし、本日の私の訪問はご迷惑だったんじゃないでしょうか?」
回廊の庭に視線をやりながら、アシェルが何気ない会話をするように微笑みながら口にした言葉に。ダニエルも人当たりの良い小さな笑みを作りながら、返事を返してくれる。
「えぇ、実は最近、二羽の渡り鳥が沢山の虫を連れてきてしまいましてね。あの大きな大木が見えますか?あの先に巣を作ってしまったんですよ。陛下もご存知ですけど、どうせなら北西の離宮に巣を作って欲しかったみたいですね。月が変わる頃には飛び立っていくようなので、庭師達の忙しさもそれまででしょう。あぁでも、渡り鳥の一羽はとても気性が荒いようですから。アシェル殿は近づかれない方がよろしいかと思います。もし誤って飛んできた時は、遠慮なく声を張り上げてください。私共、近衛騎士の方で対応致しますので。」
若くして近衛騎士になっているだけあって、剣術の腕ももちろんあるのだろうが、ダニエルはとてもコミュニケーション能力に長けている人間だ。
アシェルの言葉の意味をしっかりと理解した上で、ダニエルは世間話のように、かなり重大な話を教えてくれた。
相手がメイディーの一員であるアシェルだからこそ教えてくれたのだと思うのだが、近衛騎士の一存で話してしまって良かったのだろうか。
恐らくだが時期的にも渡り鳥という言葉には、南からやってきたという意味も含んでいそうだ。
「そうですか。大人しい鳥であれば好ましいですけど、気性の荒い鳥は苦手ですね。まぁ、人間に危害を加えない限り、渡り鳥は討伐対象になることはないでしょうし、無事に巣立つのをお祈りしておきますね。」
「そうですね。家畜のように大人しい魔物を退治するのは、我々騎士としてもなるべくしたくありませんが……害を為すようであれば我々の管轄ですから。」
こちらには動物と呼ばれる生物は存在しない。
アシェルが動物だと思う見た目のものも全て魔物で、獣人たちの元になっているものは動物の血ではなく獣の血と言われるくらいだ。そもそも動物という単語が存在しないのではないかと思う。
人に害を為さないほど瘴気の少ない魔物であれば、基本的に討伐対象になることは無い。
むしろ、場合によっては自然の生態系が崩れてしまう恐れがあるため、増えすぎたり減りすぎたりしないように管理するのは、地方のトップである領主お抱えの騎士団の役目だ。
王都を含むこのナイトレイ地方は、王宮の騎士団達がそれにあたる。
冒険者たちが退治している魔物は、移動中に人間に襲い掛かって来たり、瘴気が濃い魔素溜まりのあるエリアか、ダンジョンと呼ばれる瘴気の濃い特殊な場所でだけだ。
「王宮内でのことに私が首を突っ込むわけにはいかないので、その時は頼りにしていますね。」
「それが私の責務ですから。お任せください。」
胸に手を当て敬礼の形を取りながらダニエルが微笑んだ。
こちらの敬礼は心臓に指を揃えた右掌を当て、左手も指を揃えて真っ直ぐ下ろすスタイルだ。前世のイメージにある、頭に手を持って行ってビシッとしている感じではない。
これで含みしかない世間話は終了だ。
ダニエルはよく気の利く優秀な騎士のようなので、アークエイドには出来れば王宮内では撒かずに、大人しく警護されていて欲しいものだ。
庭園の見える回廊も通り過ぎて、生活エリアの中でも奥まった場所に、アークエイドや王族たちの私室がある。
この辺りまで来ると虫はもちろん居ないし、廊下で見かける人間は近衛騎士である白騎士と、綺麗な所作で上流階級出身であることが伺える侍女達ばかりだ。
その誰もがアシェルとダニエルの姿が見えると、すっと壁際に避けてくれる。
そして視界から消えるまで、白騎士たちは敬礼を、侍女達は頭を下げるのだ。
やっぱり相手が誰であれ頭を下げられるのは苦手なのだが、それがマナーで仕事なのだということも分かっている。
庭に面した回廊と違って曲がり角が多いので、延々と頭を下げ続けられないのが救いだ。
一つの両開きの扉の前で、その扉を警護している白騎士二人とダニエルが互いに敬礼を交わす。
それからダニエルが華美なノッカーを叩き、返事のあった短い言葉にアシェルの訪室を告げ、許可を得てから扉を開けて部屋の中へと促してくれる。
「アシェル・メイディーです。本日はお招きいただきありがとうございます、アークエイド殿下。」
アシェルが余所行きの笑顔と言葉で挨拶をしたことに、アークエイドの表情が分かりやすくムッとする。
割と最近気づいたことだが、どうやらダニエルはエイディの時の様に無表情を貫かなくて良い相手らしい。
アシェルにとって分かりやすいだけで、ダニエルがどれほどアークエイドの感情の変化を読み取れているのかまでは分からない。それでもこれくらいの変化があれば、ダニエルなら読み取れているんじゃないかと思う。
「アシェ、堅苦しい挨拶は要らないって言っただろ。いつも通りが良い。」
「そうは言っても、お部屋に入らせていただく時点で挨拶は必要ですし、扉も開いているので人目があります。マナーですので、仕方ないでしょう?」
応接セットのソファに座ったままのアークエイドは、ポンポンと隣の座面を叩く。
そこに座れということだろう。
苦笑するアシェルはその指示通りソファに移動し、扉をきっちりと締めたダニエルはソファからは少しだけ離れている壁際に立った。
「ダニエル、お前は下がれ。」
「お言葉ですが、アークエイド殿下。本日10時より、明後日の10時まで。アシェル殿は殿下の私室に滞在・ご宿泊されると伺っております。私は殿下の近衛騎士ですので、そんなに長い間、殿下のお傍を離れるつもりはございません。」
アークエイドはダニエルを下げたら、アシェルが居る間はダニエルを部屋に入れてくれなくなるだろう。
部屋付きの侍女達の姿もないので、扉の前に警護はいるものの、室内は人払い済みなのだろう。
「お前が居ると、アシェが普段通り喋ってくれない。下がれ。」
「騎士と言えど、こうして身辺警護に当たらせていただいている間は、侍女達と変わりありません。観ていらっしゃると思いますが室内には私だけですので、私のことは調度品の一つだとでも思ってください。アシェル殿はマナーを気にされていますが、普段通りお話しいただいても咎める者はおりませんし、ご内密の話でも、私の口から出ることは無いと誓います。」
前にクラスメイトのシオンが、使用人は人数として数えないから自室なら一人と変わらないだろうと言っていたのを思い出す。
アシェルはそう思えないが、きっと貴族には当たり前の感覚で、仕える使用人達や騎士たちもそういう認識なのだろう。
「それでもだ。主人の言葉が聞けないのか?」
「その主人を守るのが、私の仕事ですので。」
両者一歩も引かず、笑みを浮かべたダニエルと、冷たく睨むようなアークエイドの視線がバチバチと火花を散らしている気がする。
先程の世間話でもそうだが、確実にダニエルは貴族階級出身だろう。
そして誰がダニエルをアークエイド付きにしたのかは分からないが、ただ命令を聞くだけではなく、こうやって自分で考えて意見を言える護衛を傍に置いたのは正解だと思う。
「アーク。ダニエル殿は職務をこなしているだけなんだから、それくらいにしてあげたら?僕の言葉遣いや態度がって言うなら、これで良いでしょ?」
「……良くない。……折角アシェと二人で過ごせるのに。」
アシェルからも宥められ拗ねてしまったアークエイドに、アシェルもダニエルも苦笑する。
これに近いやり取りは既に昨年の冬休みにしていた。
その時は「じゃあダニエルの前で、こんなことをしても良いんだな?」と、抱き寄せてキスしてこようとしたので、問答無用で拘束で締め上げておいた。
仮に緊張をほぐす目的があったのだとしても、あれはやりすぎだ。
ダニエルはアシェルを咎めることは無く、一言だけ「今のは殿下が悪いです。」と言い、早々に退室していったのだ。
「殿下が男色であることは王家直系の血のこともありますし、アシェル殿にご迷惑をかけない程度であれば、ご自由にされれば良いと思いますが……。」
どうも昨年の一件でダニエルは、アークエイドの一目惚れ相手は確実にアシェルだと判断したらしい。
というよりも、基本的に最低限しか他人を部屋に入れたがらないアークエイドが、アシェルを連れて帰って来たり自ら誘い自室に招き入れる時点で、そうではないかと思っていたと、この前教えられた。
「俺は男好きじゃない。アシェが男だろうと女だろうと関係ない。アシェが良いんだ。」
「それは存じ上げておりますよ。王家直系の恋愛は、身分も年齢も、性別さえも超えたものであると。それにその愛情が重すぎることも、しつこすぎることも。ですが、それを知っているのは王家に近しい者くらいです。一般的な貴族も民草も、王家直系の一目惚れはロマンチックな運命的出会いだと信じて疑っていないようでございますから。」
ダニエルが王族の恋愛にかなり辛口のコメントをするが、否定できる要素がどこにもない。
現国王のグリモニアは、アンジェラに求婚する時に色々と凄かったという話をチラホラ聞いているので、近衛騎士にまでなると詳しい内情も教えられるのかもしれない。
「そこまで分かっているのなら、余計にだ。下がれ。こんな無駄なことを話している間に、アシェとの時間が減る。」
「普段でしたら仕方ありませんね、と言って差し上げるところですが……。ご宿泊の件を抜きにしても、今は可能な限りお傍を離れるつもりはありませんので。例え撒かれたとしても、魔法を駆使して見つけ出しますのでね。殿下は逃げるのはお上手ですが、隠れるのは下手ですから。そうですね。晩餐の後でしたら、扉の前に控えさせていただきます。」
普段ダニエルがアークエイドに撒かれているのは、今の話を聞く限り“撒かれてやっている”のだろう。
今はと言う言葉に、気性の荒い渡り鳥を警戒していることも分かる。
「それでも傍に控えられるのは嫌だ。」
「私がいませんと、殿下は上手くあしらえないでしょう?常識外れの方ですので。」
「ダニエル。アシェの前で余計なことは言うな。」
「昨年の一件のことがありますので。国王陛下と王妃殿下から、アシェル殿にでしたらお伝えして構わない、と賜っております。」
「だとしてもだ。」
どうも、ダニエルの一存ではなくグリモニアやアンジェラから許可を貰っていたようだ。
「ねぇ、アーク。僕が出しゃばれる訳じゃ無いし、居て貰った方が良いんじゃないの?一応アークが助けてくれって言うなら、僕だってアークを守れるし。」
「……もう話したのか。」
「アシェル殿が虫の多さを気にされていたので、渡り鳥が来ているのだと世間話をしていただけですよ。」
ダニエルがにっこりと微笑んで告げた言葉に、アークエイドはため息を溢した。
どんな会話をしたのか分からないが、出しゃばるとか守るとか言っているアシェルが、渡り鳥の正体に気付いていないわけがない。
「アシェが渡り鳥の前でも、今みたいに俺とは普通に喋ってくれるなら、ダニエルのことには目を瞑る。」
「アークがそうして欲しいなら。でも、問題になったりしない?」
「俺に対してだけなら良いだろ。それと、アシェを膝に乗せたい。」
何で今の話からそうなるのだろうか。
「何馬鹿なこと言ってるの?僕は乗るのは嫌だって言ってるでしょ。乗せられるくらいなら、僕がアークを乗せてあげる。」
「俺はアシェを乗せたい。いつも兄達の膝には乗ってるんだ。良いだろ?」
「何でそうなるの?僕はお兄様達だから乗るんだって言ってるでしょ。メルやベルにしてるみたいに、膝に乗せてたっぷり可愛がってあげるよ?」
「それを俺がしたいんだがな。」
「言ってるでしょ。僕はされるよりしてあげたい派なの。」
いつものようにピッタリと寄り添って座り、いつものような言い合いを始めた主人達を、そんな会話は初めて見るダニエルは壁際に控えたまま見守る。
今からダニエルは、二人を守る調度品だ。
ダニエルはアークエイドの一方的な片思いかと思っていたが、二人の様子は幼馴染や友人として以上に仲が良さそうだ。
王家の一目惚れ体質と執着心、アークエイドの好意を知った上で、どちらが主導権を握るのかで揉めているのか、遊び相手止まりなのか等と邪推してしまう。
だがそれ以上の推測は、近衛騎士でしかないダニエルはしなくて良いことだ。
ダブルデートの日。
たっぷりとアークエイドにおねだりして、アシェルが満足するまで満たしてもらったことは覚えているが、気付くと王宮のアークエイドの私室に居た。
アルフォードが防音をかけてくれていて、少なくとも声は二人に届いていなかったらしいことがせめてもの救いだ。
——流石にその日のうちに邸に帰るのは恥ずかしくて、アシェルが帰らないことに上機嫌なアークエイドの私室に泊めて貰った。
散々痴態を晒してしまったわけだが、翌朝メイディー邸に戻っても、二人とも普段通り接してくれたことがせめてもの救いだ。
アレリオンとサルビアのことについては、邸に帰った後に時間を作ってもらって、アルフォードとイザベルも同席の上でアシェルの考察を話した。
もちろん三人で邸の書庫を漁って、記憶にある限りのタイトルの書物も持参した上でだ。
やっぱりサルビアがロマンチストだと思うという話には首を傾げられたが、アシェルが手紙の相手のことや内容を覚えてたことを、頭を撫でながらたっぷりと褒めて貰った。
ただアシェルが他の人より記憶力が良いだけなのだが、大好きな兄に褒めて貰うのはとても嬉しかった。
食事会についてはアレリオンがそれとなくアベルに進言してくれて、4月1日に集まることが決まった。
失敗しそうなアルフォードと違ってちゃんとそれとなく、外堀を埋める形にならないように配慮してアベルに伝えたようだ。
アルフォードと長男のリュート・トラストの卒業祝いと就職祝いを兼ねた、アシェルとメルティーに兄達の幼馴染達を紹介する場、という名目らしい。
実際、イザベルの兄妹はアシェル達が産まれる前までは、メイディー邸で兄達と一緒に遊んだりしていたらしい。理由としておかしいところは無いし、求婚の件を抜きにしても兄達の幼馴染に会えるのは楽しみだ。
そして三月末の、そろそろ王立学院の始業式が迫ってきたある日。
デートの交換条件だと言っていた、丸二日間アークエイドと一緒に過ごすという約束の日が来た。
デートの日にアークエイドと過ごしたついでに、今日までの間に、一度アビゲイルと会えるようにセッティングして貰い、問診をしてアビゲイル用の薬は二種類仕上げてきた。
王宮だと目立つらしいので、普段王立学院にも連れてきている護衛と買い物に出た先で、たまたまアークエイドとアシェルに出会い、折角だからと二人が予約していたカフェ【エトランジェ】でお茶をした。という、まどろっこしい言い訳を用意してからだ。
因みに王立学院祭でも会ったその見えない護衛達三人は、アビゲイルから話を聞いたようで。
「私達は絶対に店内には立ち入りませんから、アビゲイル王女殿下をお願い致します。店内に踏み入れない限りは、私達を攻撃しないでください。」
と、わざわざ邸に帰る前のアシェルの元へ頭を下げに来た。
アークエイドが居るのでアシェルは街にお出かけ中はずっと観ているし、護衛対象が二人になるだけの話なので、アビゲイルを守るのに異論はなかった。
ただ、あちらの探査魔法や体内の魔力の形まで教えて貰ったのだが、王女の護衛なのにそれは良かったのだろうか。メイディー直系にソレを知られるのは、命を握られているのと変わらないと思う。
そこまでしてでも、アシェルの——いや、メイディーの攻撃対象になりたくなかったのだろう。
アシェルは十分すぎる程に調整をかけて、満足のいく品を仕上げたが、最終的にそれでいいのかを決めるのはアルフォードだ。
アビゲイルの症状に始まり、使った素材や丁寧すぎる程の創薬の手技について。
使った素材一つ一つの作用と副作用。そして、どうしてそれを用いたのかの理由と、候補に挙げたが選ばなかった素材と理由まで。
いつものレポートよりも詳細に記載して、内服のしやすさや保管のしやすさで選択した錠剤の現物も合わせて、邸を出る前にアルフォードに押し付けてきた。
修正してほしければ返ってくるが、それで良ければアビゲイルにその処方箋の完成を伝えて、アスノームに嫁ぐまではアルフォードに処方してほしいと伝えている。
薬を変えたことによる経過や結果も気になるだろうし、もし細かい調整が必要ならアシェルの処方箋を元にアルフォードが調整をかけて、アスノームに出立する前にその処方箋を渡してあげたら良い。
ちなみに、こんな風に家を空けることが確定している日の朝に渡したのは、現在の処方について突っ込まれないためだ。
あんな意味の分からない処方箋を見せてしまうと、アルフォードが何をしでかすのか分かったものではない。
それくらいメイディーにとって、自分の大切なモノは何が何でも守りたい存在なのだ。
メイディー邸から一番近い、王宮の城壁の南門の前まで馬車で送ってもらう。
メイディーのタウンハウスは高級住宅エリアの中でも王宮の城壁のすぐ傍なので、自宅から徒歩で来ても問題は無いのだが、一応体裁だ。
徒歩だと門前払いされてしまう恐れがある。
アークエイドに会いに来たことを門番に告げ、そのまま南門で待つ。
伝言ゲームがアークエイドの元まで届いたのだろう。
早歩きで白い騎士服を着たアークエイドの近衛騎士であるダニエルが、アシェルを迎えに来てくれた。
いつもはアークエイドに撒かれているようだったが、今日は近くに控えることが出来ていたのだろうか。
アークエイドのことだから、アシェルの迎えのためだけに近くに侍らせておいた可能性もある。
因みにアシェルがアークエイドの元を訪れた後、帰りに城門まで案内してくれるのもダニエルだ。
「ごきげんよう、ダニエル殿。案内していただく前に一つだけ……王宮内で探査魔法を使用させていただいてもよろしいでしょうか?」
「私に挨拶は不要です。それと以前もお伝えしましたがダニエルで構いません。えぇ。メイディーの方であれば、気にされるのは当然のことです。アシェル殿のホルスターの中身についても検分はありませんので、このまま殿下のお部屋までご案内いたします。」
探査魔法の許可の後に、ホルスターの中身の検分を申し入れるつもりだったのだが、先手を打って断られてしまった。
本来であれば大事な主の客人が魔法を使ったり薬物を持ち込んだりは警戒するべきだが、メイディーの王族への忠誠と王族からの信頼について、しっかり教育が行き届いているようだ。
というよりも、王族の身辺警護をしておきながら、何も知らなかった学院祭の時の護衛がおかしいのだ。
因みに最初はメイディー殿と家名で呼ばれていたが、アベルもアレリオンも王宮務めだ。
王宮内で偶然出会うことはまずないだろうが、ややこしいのでダニエルにはアシェルと呼んで貰っている。
何故かアークエイドが渋ったが、アシェル呼びで押し通した。
遠慮なく『探査魔法』を展開して、誰かに後を付けられてないかや不審な人物がいないかを確認していく。
のだが、今まで何度かアークエイドの私室から観ていた時と比べて、何故かいつもよりも警護に当たる人数が多く感じた。
流石に声を大にして聞ける話ではないので、王宮の中でも王族の生活エリアになっていて関係者以外が入れない場所で、ダニエルにこっそりと最初の一文だけ小さな声で耳打ちする。
「——失礼。話せないことでしたら、沈黙で結構です——今までに観たことが無いくらい、今日は沢山虫が飛んでますね。庭師達も忙しそうにしていますし、本日の私の訪問はご迷惑だったんじゃないでしょうか?」
回廊の庭に視線をやりながら、アシェルが何気ない会話をするように微笑みながら口にした言葉に。ダニエルも人当たりの良い小さな笑みを作りながら、返事を返してくれる。
「えぇ、実は最近、二羽の渡り鳥が沢山の虫を連れてきてしまいましてね。あの大きな大木が見えますか?あの先に巣を作ってしまったんですよ。陛下もご存知ですけど、どうせなら北西の離宮に巣を作って欲しかったみたいですね。月が変わる頃には飛び立っていくようなので、庭師達の忙しさもそれまででしょう。あぁでも、渡り鳥の一羽はとても気性が荒いようですから。アシェル殿は近づかれない方がよろしいかと思います。もし誤って飛んできた時は、遠慮なく声を張り上げてください。私共、近衛騎士の方で対応致しますので。」
若くして近衛騎士になっているだけあって、剣術の腕ももちろんあるのだろうが、ダニエルはとてもコミュニケーション能力に長けている人間だ。
アシェルの言葉の意味をしっかりと理解した上で、ダニエルは世間話のように、かなり重大な話を教えてくれた。
相手がメイディーの一員であるアシェルだからこそ教えてくれたのだと思うのだが、近衛騎士の一存で話してしまって良かったのだろうか。
恐らくだが時期的にも渡り鳥という言葉には、南からやってきたという意味も含んでいそうだ。
「そうですか。大人しい鳥であれば好ましいですけど、気性の荒い鳥は苦手ですね。まぁ、人間に危害を加えない限り、渡り鳥は討伐対象になることはないでしょうし、無事に巣立つのをお祈りしておきますね。」
「そうですね。家畜のように大人しい魔物を退治するのは、我々騎士としてもなるべくしたくありませんが……害を為すようであれば我々の管轄ですから。」
こちらには動物と呼ばれる生物は存在しない。
アシェルが動物だと思う見た目のものも全て魔物で、獣人たちの元になっているものは動物の血ではなく獣の血と言われるくらいだ。そもそも動物という単語が存在しないのではないかと思う。
人に害を為さないほど瘴気の少ない魔物であれば、基本的に討伐対象になることは無い。
むしろ、場合によっては自然の生態系が崩れてしまう恐れがあるため、増えすぎたり減りすぎたりしないように管理するのは、地方のトップである領主お抱えの騎士団の役目だ。
王都を含むこのナイトレイ地方は、王宮の騎士団達がそれにあたる。
冒険者たちが退治している魔物は、移動中に人間に襲い掛かって来たり、瘴気が濃い魔素溜まりのあるエリアか、ダンジョンと呼ばれる瘴気の濃い特殊な場所でだけだ。
「王宮内でのことに私が首を突っ込むわけにはいかないので、その時は頼りにしていますね。」
「それが私の責務ですから。お任せください。」
胸に手を当て敬礼の形を取りながらダニエルが微笑んだ。
こちらの敬礼は心臓に指を揃えた右掌を当て、左手も指を揃えて真っ直ぐ下ろすスタイルだ。前世のイメージにある、頭に手を持って行ってビシッとしている感じではない。
これで含みしかない世間話は終了だ。
ダニエルはよく気の利く優秀な騎士のようなので、アークエイドには出来れば王宮内では撒かずに、大人しく警護されていて欲しいものだ。
庭園の見える回廊も通り過ぎて、生活エリアの中でも奥まった場所に、アークエイドや王族たちの私室がある。
この辺りまで来ると虫はもちろん居ないし、廊下で見かける人間は近衛騎士である白騎士と、綺麗な所作で上流階級出身であることが伺える侍女達ばかりだ。
その誰もがアシェルとダニエルの姿が見えると、すっと壁際に避けてくれる。
そして視界から消えるまで、白騎士たちは敬礼を、侍女達は頭を下げるのだ。
やっぱり相手が誰であれ頭を下げられるのは苦手なのだが、それがマナーで仕事なのだということも分かっている。
庭に面した回廊と違って曲がり角が多いので、延々と頭を下げ続けられないのが救いだ。
一つの両開きの扉の前で、その扉を警護している白騎士二人とダニエルが互いに敬礼を交わす。
それからダニエルが華美なノッカーを叩き、返事のあった短い言葉にアシェルの訪室を告げ、許可を得てから扉を開けて部屋の中へと促してくれる。
「アシェル・メイディーです。本日はお招きいただきありがとうございます、アークエイド殿下。」
アシェルが余所行きの笑顔と言葉で挨拶をしたことに、アークエイドの表情が分かりやすくムッとする。
割と最近気づいたことだが、どうやらダニエルはエイディの時の様に無表情を貫かなくて良い相手らしい。
アシェルにとって分かりやすいだけで、ダニエルがどれほどアークエイドの感情の変化を読み取れているのかまでは分からない。それでもこれくらいの変化があれば、ダニエルなら読み取れているんじゃないかと思う。
「アシェ、堅苦しい挨拶は要らないって言っただろ。いつも通りが良い。」
「そうは言っても、お部屋に入らせていただく時点で挨拶は必要ですし、扉も開いているので人目があります。マナーですので、仕方ないでしょう?」
応接セットのソファに座ったままのアークエイドは、ポンポンと隣の座面を叩く。
そこに座れということだろう。
苦笑するアシェルはその指示通りソファに移動し、扉をきっちりと締めたダニエルはソファからは少しだけ離れている壁際に立った。
「ダニエル、お前は下がれ。」
「お言葉ですが、アークエイド殿下。本日10時より、明後日の10時まで。アシェル殿は殿下の私室に滞在・ご宿泊されると伺っております。私は殿下の近衛騎士ですので、そんなに長い間、殿下のお傍を離れるつもりはございません。」
アークエイドはダニエルを下げたら、アシェルが居る間はダニエルを部屋に入れてくれなくなるだろう。
部屋付きの侍女達の姿もないので、扉の前に警護はいるものの、室内は人払い済みなのだろう。
「お前が居ると、アシェが普段通り喋ってくれない。下がれ。」
「騎士と言えど、こうして身辺警護に当たらせていただいている間は、侍女達と変わりありません。観ていらっしゃると思いますが室内には私だけですので、私のことは調度品の一つだとでも思ってください。アシェル殿はマナーを気にされていますが、普段通りお話しいただいても咎める者はおりませんし、ご内密の話でも、私の口から出ることは無いと誓います。」
前にクラスメイトのシオンが、使用人は人数として数えないから自室なら一人と変わらないだろうと言っていたのを思い出す。
アシェルはそう思えないが、きっと貴族には当たり前の感覚で、仕える使用人達や騎士たちもそういう認識なのだろう。
「それでもだ。主人の言葉が聞けないのか?」
「その主人を守るのが、私の仕事ですので。」
両者一歩も引かず、笑みを浮かべたダニエルと、冷たく睨むようなアークエイドの視線がバチバチと火花を散らしている気がする。
先程の世間話でもそうだが、確実にダニエルは貴族階級出身だろう。
そして誰がダニエルをアークエイド付きにしたのかは分からないが、ただ命令を聞くだけではなく、こうやって自分で考えて意見を言える護衛を傍に置いたのは正解だと思う。
「アーク。ダニエル殿は職務をこなしているだけなんだから、それくらいにしてあげたら?僕の言葉遣いや態度がって言うなら、これで良いでしょ?」
「……良くない。……折角アシェと二人で過ごせるのに。」
アシェルからも宥められ拗ねてしまったアークエイドに、アシェルもダニエルも苦笑する。
これに近いやり取りは既に昨年の冬休みにしていた。
その時は「じゃあダニエルの前で、こんなことをしても良いんだな?」と、抱き寄せてキスしてこようとしたので、問答無用で拘束で締め上げておいた。
仮に緊張をほぐす目的があったのだとしても、あれはやりすぎだ。
ダニエルはアシェルを咎めることは無く、一言だけ「今のは殿下が悪いです。」と言い、早々に退室していったのだ。
「殿下が男色であることは王家直系の血のこともありますし、アシェル殿にご迷惑をかけない程度であれば、ご自由にされれば良いと思いますが……。」
どうも昨年の一件でダニエルは、アークエイドの一目惚れ相手は確実にアシェルだと判断したらしい。
というよりも、基本的に最低限しか他人を部屋に入れたがらないアークエイドが、アシェルを連れて帰って来たり自ら誘い自室に招き入れる時点で、そうではないかと思っていたと、この前教えられた。
「俺は男好きじゃない。アシェが男だろうと女だろうと関係ない。アシェが良いんだ。」
「それは存じ上げておりますよ。王家直系の恋愛は、身分も年齢も、性別さえも超えたものであると。それにその愛情が重すぎることも、しつこすぎることも。ですが、それを知っているのは王家に近しい者くらいです。一般的な貴族も民草も、王家直系の一目惚れはロマンチックな運命的出会いだと信じて疑っていないようでございますから。」
ダニエルが王族の恋愛にかなり辛口のコメントをするが、否定できる要素がどこにもない。
現国王のグリモニアは、アンジェラに求婚する時に色々と凄かったという話をチラホラ聞いているので、近衛騎士にまでなると詳しい内情も教えられるのかもしれない。
「そこまで分かっているのなら、余計にだ。下がれ。こんな無駄なことを話している間に、アシェとの時間が減る。」
「普段でしたら仕方ありませんね、と言って差し上げるところですが……。ご宿泊の件を抜きにしても、今は可能な限りお傍を離れるつもりはありませんので。例え撒かれたとしても、魔法を駆使して見つけ出しますのでね。殿下は逃げるのはお上手ですが、隠れるのは下手ですから。そうですね。晩餐の後でしたら、扉の前に控えさせていただきます。」
普段ダニエルがアークエイドに撒かれているのは、今の話を聞く限り“撒かれてやっている”のだろう。
今はと言う言葉に、気性の荒い渡り鳥を警戒していることも分かる。
「それでも傍に控えられるのは嫌だ。」
「私がいませんと、殿下は上手くあしらえないでしょう?常識外れの方ですので。」
「ダニエル。アシェの前で余計なことは言うな。」
「昨年の一件のことがありますので。国王陛下と王妃殿下から、アシェル殿にでしたらお伝えして構わない、と賜っております。」
「だとしてもだ。」
どうも、ダニエルの一存ではなくグリモニアやアンジェラから許可を貰っていたようだ。
「ねぇ、アーク。僕が出しゃばれる訳じゃ無いし、居て貰った方が良いんじゃないの?一応アークが助けてくれって言うなら、僕だってアークを守れるし。」
「……もう話したのか。」
「アシェル殿が虫の多さを気にされていたので、渡り鳥が来ているのだと世間話をしていただけですよ。」
ダニエルがにっこりと微笑んで告げた言葉に、アークエイドはため息を溢した。
どんな会話をしたのか分からないが、出しゃばるとか守るとか言っているアシェルが、渡り鳥の正体に気付いていないわけがない。
「アシェが渡り鳥の前でも、今みたいに俺とは普通に喋ってくれるなら、ダニエルのことには目を瞑る。」
「アークがそうして欲しいなら。でも、問題になったりしない?」
「俺に対してだけなら良いだろ。それと、アシェを膝に乗せたい。」
何で今の話からそうなるのだろうか。
「何馬鹿なこと言ってるの?僕は乗るのは嫌だって言ってるでしょ。乗せられるくらいなら、僕がアークを乗せてあげる。」
「俺はアシェを乗せたい。いつも兄達の膝には乗ってるんだ。良いだろ?」
「何でそうなるの?僕はお兄様達だから乗るんだって言ってるでしょ。メルやベルにしてるみたいに、膝に乗せてたっぷり可愛がってあげるよ?」
「それを俺がしたいんだがな。」
「言ってるでしょ。僕はされるよりしてあげたい派なの。」
いつものようにピッタリと寄り添って座り、いつものような言い合いを始めた主人達を、そんな会話は初めて見るダニエルは壁際に控えたまま見守る。
今からダニエルは、二人を守る調度品だ。
ダニエルはアークエイドの一方的な片思いかと思っていたが、二人の様子は幼馴染や友人として以上に仲が良さそうだ。
王家の一目惚れ体質と執着心、アークエイドの好意を知った上で、どちらが主導権を握るのかで揉めているのか、遊び相手止まりなのか等と邪推してしまう。
だがそれ以上の推測は、近衛騎士でしかないダニエルはしなくて良いことだ。
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