氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第四章 王立学院中等部三年生

219 プロポーズ大作戦③

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Side:アシェル14歳 春



サロンの椅子で着飾ったイザベルを横抱きにして、遠慮なく充電させてもらう。
いつもよりお洒落なイザベルを抱きしめて、綺麗に整えられた背中に流れるマルベリー色の髪の毛に指を絡める。

イザベルは気にすることじゃないと、サロンに着いてからも、侍女とはという話をしてくれた。
今日は心配をかけてしまわないようにと思っていたのに、結局イザベルに気を遣わせてしまったのだ。

迷惑をかけて申し訳ないと思うのだが、沈んでいた心はこうやって充電をしていると落ち着いてくる。

「……ねぇ、ベル。お洒落したベルはとても可愛いけど……ネックレスもピアスも邪魔。こんな無機質な塊なんてなくても、ベルは可愛いからそんなの要らないでしょ?ベルの柔らかくて綺麗な肌に触りたいのに凄く邪魔……外しちゃダメ?」

「それだけ口が回るようになったということは、落ち着きましたね。それと、単純にアシェル様が装飾品に価値を見出していないのは分かっていますが……そういう言い回しは、殿方が女性を閨に誘う時のセリフです。」

純粋に触り心地が悪くて嫌なのだが、何故か窘められてしまった。

「そう?アクセサリーを外してってお願いなのに……。ベルが今日から暫くお休みじゃなければ、閨に誘うのはありだけど。ちゃんと家族と過ごしてほしいから、今日はダメ。」

「お言葉ですがアシェル様……閨に誘うというのは、添い寝をするという意味じゃありませんからね?」

「知ってるけど、寝所に誘うって表現も駄目なんでしょ?ベルは分かってくれてるし、分かりやすいし良いじゃない。」

「良いわけないだろ。アシェじゃなくて、他の男が言ってたら八つ裂きにしてるぞ。」

アルフォードの声がしたと思ったら、イザベルごとギュッと抱きしめられる。
イザベルは恥ずかしいのか、アシェルの胸に顔を埋めてしまった。
あんなにアルフォードに積極的にアプローチしていたし、充電なんだから恥ずかしがらなくて良いのにと思ってしまう。

「ふふっ、恥ずかしがるベルも可愛いなぁ。アル兄様が来たってことは、もうお食事は終わったんですか?すみません。先に席を立ってしまって。」

「それは気にしなくて良いよ。オーレン嬢の勘違いも解けたようだしな。落ち着いてそうで良かった。それより、さっきの装飾品が云々……まさか、他所のご令嬢に言ったりしてないよな?」

「他所の……?だって、僕がこうやって充電する相手はお兄様達とメルとベルですよ?抱きしめる時に硬くて邪魔なだけですし、他に言う相手が居ません。」

きょとんと首を傾げたアシェルに、アルフォードは小さなため息を吐く。
我が家の男前すぎる可愛い妹は、一体どこでこんなセリフを覚えてくるのだろうか。
——多分にアレリオンの影響がデカい気がするが、普通に装飾品を外してとお願いするのでは駄目なのだろうか。

「……そうだな。それより、そろそろ皆来るけど大丈夫か?初対面の人間が多いし、無理そうなら部屋に戻ってても大丈夫だぞ?もし居るのなら、多分オーレン嬢が謝ってくると思うけど……その話はそれで終わるはずだ。」

「ココに居ます。アン兄様は?」

アシェルの問いにアルフォードは首を振って答える。
確かにアシェルとイザベルが席を立ったことで、前提条件が揃わなくなってしまった。
サロンに来るという話が事前になければ、折角のアレリオンのチャンスを無駄にしてしまうところだった。

「どうなるのか楽しみですね。あ、でも、こうやってベルと充電したままじゃだめですか?もう終わっても良いんですけど、折角ベルがぎゅってさせてくれてるから。このまま充電を終えるのは惜しいです。」

「俺だってイザベルで充電したいのに、アシェだけズルくないか?」

「ちゃんとアン兄様から許可は頂きましたから。」

「アレリオンお義兄様から許可を頂いたとか、わたくしには関係ありませんわっ。アシェル様もアルフォードお義兄様も、充電が終わったのなら降ろしてくださいませっ。放っておいたら、お父様たちの前でも遠慮なく充電する気でしょう!?」

がやがやと足音が近づいてくるので、今解放しても間に合わない気がする。
というよりも、アシェル達の様子を覗けるようにか扉は開け放たれているし、少なからず声も響いているのではないのだろうか。
例え解放が間に合ったのだとしても、せっかくの機会なので間に合わせるつもりも無いのだが。

「だって、普段からベルは充電させてくれないでしょ?」

「アシェル様お一人の時には、お受けするようにしているでしょう?」

「でも時々断るじゃない。」

「俺や兄上からのお誘いは受けてくれないのに、アシェとなら充電するんだな。イザベルは俺達と充電するのは嫌か?」

「……嫌じゃありません。ですが、時と場所は選んでくださいませっ。スタンピードの後、使用人仲間から散々揶揄われたんですよ!?」

ふわりとアシェルの背中が、椅子の背もたれ越しに温もりに包まれる。

「そんなにイザベルは僕らと充電するのが嫌だったの?僕らが可愛い妹達を可愛がっているだけなんだから、別に人目なんて気にしなくて良いのに。」

「うぅ、お客様がいらしているのにと言いたいところですけど……アン義兄様とアル義兄様だけズルいですわ。流石に椅子じゃ、わたくしの入る場所がありませんもの。」

背中側からアレリオンが、そして、5人の時はアシェルとイザベルの間が定位置のメルティーが隣に来て、拗ねてしまっている。

「ふふっ、拗ねたメルも可愛いけど、やっぱりメルには笑っていて欲しいな。流石に座ったままじゃメルを入れてあげれないから、立って皆で充電しようか。アシェ、アル。イザベルを逃がしちゃダメだよ?」

「アレリオンお義兄様っ!わたくしは抜きにしてくださいっ。」

イザベルの抗議の声も虚しく。
アシェルとアルフォードの連係プレーで膝の上に乗せていたイザベルを立たせ、アシェルと向かい合わせている隙に、メルティーが腕の下を潜るようにして定位置に納まる。
しっかり前後はアルフォードとアレリオンに挟まれて、皆で充電サンドイッチの完成だ。

「それにしても、充電する時に宝石は邪魔だね。メルもイザベルも綺麗で柔らかい、触り心地の良い肌なんだから……こんな硬くて邪魔な飾りなんて要らないだろう?こんなもので飾らなくても、メルもイザベルも可愛いよ。……外しちゃダメかい?」

「そう思うなら、わたくしを解放してくださいませっ。それにそのくだりは、先程アシェル様とお話ししたところです。アレリオンお義兄様も、少しは考えて発言してくださいませっ。」

「怒ってるベルも可愛いなぁ。ねぇ、アン兄様も言ってるし、外して良いでしょ?ベルの細くて綺麗な首に、こんなに硬いチェーンは似合わないよ。どうせ身に着けるなら、もっと細くてしなやかな、ベルの柔肌の手触りを邪魔しないものが良いと思うな。」

「うん。僕もイザベルにはその方が似合うと思うな。ねぇ、外してしまっても良いよね?」

「良いわけありません!」

真っ赤な顔で仕えている主達に言い返すイザベルの姿に、リオネルはアベルへと口を開いた。

「ねぇ、アベル殿。私は、ベルまでメイディーの充電に参加しているなんて、一言も聞いてないんだけど?口説いているように見えるのは、どうせアベル殿と一緒だろうから強くは言わないけれど。」

「言ってなかったかな?でも、ああやっている姿はとても久しぶりに見たよ。イザベルが邸に仕えてくれる前までは、よく見かけていたんだけどね。」

「久しぶりにじゃない。なんであんな可愛いベルのことを、私に教えてくれなかったんだい?酷いじゃないか。」

「教えたらリオネルは、仕事を私に押し付けてでもうちに張り込んだだろ?流石にソレは困るからね。」

「当たり前だ。ただでさえ、早くに末娘が独り立ちしてしまって悲しいのに……!」

「リオネル様……せめて旦那様のお言葉を否定してくださいませ。リオネル様が残念だとベルにバレたら、父親としての威厳が無くなってしまいますよ。幸い、ベルだけは貴方が親バカだってことを知らないんですから。」

「むっ、それはいかんな。」

サーニャの指摘にリオネルは慌てて口を閉じた。
せめて娘が成人して結婚するまでは、威厳のあるカッコイイ父親だと思ってもらいたい。

「旦那様。あとでアレリオンやアシェルの言葉遣いについて……しっかりお話ししましょうね?」

「メア?別に話すことなんて……。」

「あります。薄々気づいてはいましたけど、仕草も言葉の選び方も、旦那様そっくりですから。そっくりどころか輪をかけて酷い気もしますけれど……あれほど子供達の前では、誤解を生むような表現はしないようにと注意しましたよね?」

「もしかしたらアンは昔、傍で聞いていたかもしれないけど。アシェについては私のせいではないと思うんだけどね。私はほとんどアシェと顔を合わせていないし。」

「でしたら、どうしてそういう言葉の選択がダメなのか、きちんと教えてあげてくださいと——。」

「メアリー奥様。お話を中断してしまって申し訳ないのですが……。きっと旦那様は、何がダメなのか分かっていらっしゃらないと思いますよ。旦那様以上にアレリオン様とアシェル様の言葉遣いは特徴的ですけれど……アルフォード様も少なからずああいう言葉の選び方をしますし、歴代のメイディーはそう言う言い回しが普通ですから……。所謂、先祖代々と言われているものですね。体質や知識欲と同じようなものだと思っていただいた方が、メアリー奥様の精神衛生上よろしいかと。」

苦笑しながら上申したサーニャに、メアリーはため息を返す。

「分かったわ。でも、アシェルだけでもどうにかしてあげないと……あれでは淡い期待を抱いてしまったご令嬢が可哀想だわ。」

「そちらに関しても心配なさらなくてよろしいかと。普段からクラスメイトのご令嬢達にお優しいようですし、アレリオン様とアルフォード様のこともありますから。メイディーの言葉が耳に良いのは、誰も本気にしていないようですよ。皆様、そういうものだと知ったうえで、一つの娯楽感覚のようですね。娘や息子達も驚いていないでしょう?」

メアリーが言われてトラスト家の三人を見れば、充電にイザベルが入っていることに驚いて、貴族令嬢のはずのアシェルが男性的な言葉の選択をすることに驚いてはいるようだ。
しかし充電自体にも、言い回しにも驚いている雰囲気はない。

「……そうみたいね。教えてくれてありがとう、サーニャ。一先ず、大事になってないのなら良かったわ。」

「メアが気にしすぎなんだよ。」

「旦那様が気にしなさ過ぎなんです。……今ここで抱きついてきたら、一週間口を聞きませんからね。」

「うーん、先手を打たれてしまったね。残念。」

残念と言いつつアベルは、メアリーの頬にキスを落した。
抱きつくのはダメだと言われたが、キスはダメだと言われていないからだ。

一瞬で頬を染めたメアリーと、上機嫌なアベルの間にも甘い雰囲気が流れる。

それを見てトラスト伯爵家の子供達三人は、幼馴染たちの甘ったるい兄弟愛を再実感し、そしてアベルと血の繋がった家族なんだなとしみじみと実感した。



結局五人で心行くまで充電して、客人をほったらかしにしてしまったことを詫び、その時にオーレンから謝罪を受けて互いに許しあい、お茶を飲みながらの歓談となった。

子供の頃の兄達の話を聞くのはとても楽しい。
一緒にイザベルがトラスト邸で過ごしていた時のエピソードも教えて貰った。イザベルらしいお転婆なエピソードばかりだった。

サルビアはアレリオンと同じ年なだけあって、アルフォードが物心つく前のこともちゃんと覚えていた。それにシェリーのことも。

甘えん坊なアルフォードは全くイメージにないが、そういったエピソードを聞くと、アルフォードにだって子供の時期があったんだなと思う。
誰にだって子供の時はあるし、当たり前と言えば当たり前なのだが、お兄ちゃんじゃないアルフォードの話を聞くのはなんだか不思議な気分だ。

こちらでは成人が早いというのもあるのだろうが、兄達が年齢よりも大人びて見えたのは、シェリーが亡くなって、手のかかるアシェルが残されて。それでもどうにかして家を守らなければならないと、駆け足で大人にならざるを得なかったからなのかもしれない。

「皆が小さな時、本当に可愛かったよね。僕もアシェみたいにもっと記憶力が良ければ、アル達の赤ん坊の頃も覚えてたのかな?」

「記憶力が良いのも善し悪しだと思いますけど……。そうですね、赤ん坊のベルはとってもぷくぷくしてて、沢山笑ってとても可愛かったです。でも可愛いだけじゃなくて、僕の記憶の中にある赤ん坊のベルは、すっごく危なっかしくて、はらはらしっぱなしだったのが思い出ですね。アン兄様の言う通り、僕のベッドをベルが使うべきだったと思います。もしくは僕のベッドの隣に、ベルのベビーベッドを寄せてくれてたら少しは安心できたんでしょうけど……。」

「あら、ベルったらそんなにちっさな時からお転婆だったのね。お母様はベルは使用人の子だからって、あまりベビーベッドを近づかせたがらなかったんじゃないかしら?」

「サルビアの言う通りだよ。シェリー母上の命令は聞いていたから、一度命令として言ってみたけど、流石に僕じゃダメだったみたい。それでも危なっかしかったみたいで、アシェの部屋の壁際からアシェのベッドと壁の丁度間までがサーニャの妥協点だったみたいだよ。」

「アレリオンお義兄様、余計なことはおっしゃらないでください。わたくしは全然覚えていないんですから。」

「あら、良いじゃないの。ベルの小さな時の話も聞けて楽しいわ。大人しく出来るようになったのは、アシェル様の侍女になるって言いだしてからだし、表面だけでも取繕えるようになって良かったわ。あのままじゃ、お相手を探すだけでも大変だったと思うから。」

「表面だけって……サルビア姉様。流石に酷くありませんか?」

「大人しいフリをしているけれど、今だって十分お転婆で、喜怒哀楽の激しいベルでしょう?」

「僕としては、イザべルがとても感情表現が素直な子で、それにお転婆で良かったと思うけどね。お陰でアシェが書庫に籠りっきりにならなくて済んだし。」

「アレリオンお義兄様は褒めてくださっているつもりかもしれないけれど、全く褒めてませんからね?」

イザベルからジトっとした視線を向けられても、アレリオンはクスクスと笑っている。

「そう?褒めてるつもりなんだけどなぁ。そうだ、小さい頃と言えば……ねぇサルビア、こっちに来てくれない?」

「アンったら、急にどうしたの?それこそ小さな子供じゃないんだから、もう一人で歩けるわ。」

サルビアはそう言って笑いながら差し出されたアレリオンの手を取り、手を繋いでゆっくりと歩いていく。
エスコートする時の手の重ね方ではなく、小さな子供同士で手を繋いでいるという感じで。

「でも、こうやってると懐かしいと思わない?」

「そうね。久しぶりに会ったアンは、こうやって手を繋いでくれなくなって、当たり前のようにエスコートしてこようとしてたんだもの。一足先に大人になられたみたいで、なんだか悔しかったわ。」

「サルビアがそんな風に思ってたなんて知らなかったよ。あの時の僕は、少しでも早く大人になりたかったから。」

「あら、弟や妹達の為に早く大人になりたかったのは、わたくしも一緒だわ。だからこそ、先を越されたみたいで悔しかったのよ。」

思い出を語りながら歩いていたのに、ピタッとアレリオンの足が止まる。
それに首を傾げながら、サルビアも足を止めた。

二人が立ち止まったのはサロンの中でも大人達が座るテーブルと、子供達の座るテーブルの間だ。どちらからでも良く見えるし、声を張り上げなくても双方に声が聞こえる場所だ。
流石アレリオン。良い位置取りである。

「どうしたの?」

「あの時の僕は、勿論家族の為にも早く大人になりたいって思ってたけど……。サルビアに頼ってもらえる男になりたいって思ったんだ。いつも一人で頑張って、弱音を吐かないサルビアを支えてあげられる男に。」

「アン?いきなり何を……。」

困惑しているサルビアの前に、アレリオンはスッと膝をつく。

「別にいきなりなんかじゃない。それはサルビアだって知ってるだろう?僕はサルビアのことが好きだ。ずっと昔から君だけのことを想い続けてきた。誰に反対されようと、僕はサルビアと一生を共に過ごしたい。嬉しいことも悲しいことも人生の全てひっくるめて……ずっとサルビアの傍で一緒に生きていきたい。僕が約束を忘れていてしまったせいで、長い間待たせてしまったけれど……。サルビア・トラスト伯爵令嬢。貴女を想う気持ちは誰にも負けたりなんかしない。僕と結婚してくれませんか?もし結婚してくれるのなら、この花束を受け取って欲しい。」

『ストレージ』から取り出された花束には真っ赤なガーベラとカスミソウが散りばめられている。

その花束と求婚に、サルビアは真っ赤にした頬に泣きそうな顔で、言葉を探しているように見えた。

「……アンの気持ちはとても嬉しいわ。でも……何故赤いバラじゃないのか、教えて頂けるかしら。」

「だって、僕はサルビアに赤いガーベラの花束でプロポーズするって、約束したから。サルビアは定番の赤いバラよりも、ガーベラの花言葉の方が好きだって言ってたでしょ。バラには無い花言葉を持っているからって。」

「カスミソウは?」

「その時に、僕の気持ちも花束に籠めるって言ったはずだよ。メイディーを象徴するカスミソウには、あまり知られていないけど“永遠の愛”って意味もあるんだ。僕がサルビアを想う気持ちはずっと変わらない……いや、ずっと想いは強くなっていくばかりなんだ。ピッタリな花だと思わない?」

「えぇ……言っていたわね。……でもアンは公爵家次期当主で、わたくしはただの伯爵令嬢だわ。たまたまご縁があっただけの、身分の釣り合いの取れない女よ。」

「サルビアの身分なんて関係ない。僕はサルビアだから好きになったし、結婚したいと思うんだ。サルビア以外の女性なんて要らないし、公爵という身分が嫌なら捨ててしまっても構わない。別に公爵の身分が無くてもちゃんと稼ぎはあるから、身分を捨ててもお金の心配は要らないよ。そんなことを理由に、僕はサルビアを諦めたりしないから。」

「アンが良くても、きっと周りが許さないわ。わたくしはアンの家に仕える使用人の娘で、嫁き遅れの身分の低い女なのよ……。」

「遅くなってしまったのは、僕が約束を覚えていなかったからだろう?サルビアが気にすることじゃないし、僕が悪いんだ。誰に反対されても、僕はサルビアと一緒に居たいんだ。もしサルビアが僕の求婚を受け入れてくれるのなら、例えどれだけ周囲が反対したとしても、必ず認めさせて見せる。それでもだめなら、全てを捨てて二人だけで過ごせる場所を探せばいい。僕の隣にサルビアが居てくれるだけで、僕は幸せなんだから。」

「なによ、ソレ……本当に……本当に遅すぎるわ。ずっと待ってたのに、アンが約束を忘れてしまっているから……。」

「うん。忘れてしまっていてごめんね。……僕一人じゃ思いだせなくて、兄妹に相談してしまったんだ。その流れでイザベルにも、僕の好きな相手はサルビアだって事前に教えてしまった。……これだと外堀を埋めたことになって、約束を破ったことになるかな?」

「アンがずっと、真剣に悩んでくれていたのは知っているわ。それなのにアンには何も教えずに、約束に拘っていたわたくしだって悪いんだもの。そんなの些細な事よ。」

「サルビア嬢、もう一度だけ言います。僕と結婚してください。もし僕の求婚を受けてくれるのなら、約束の花束を受け取って欲しい。もしだめなら、花束は叩き落としてくれて構わない。」

ぼろぼろと涙を流すサルビアの手が、赤と白の花束に伸ばされる。

「受け取らないわけ、ないじゃない。ようやくアンに、約束していたプロポーズをして貰えたんだもの。全部は無理だけど、出来るだけドライフラワーや押し花にして大切にするわ。」

大切そうに花束を抱えたサルビアにアレリオンがようやく緊張を解き、嬉しそうに微笑んだ。

アシェルの知っている物語の中には、沢山の薔薇を抱えた求婚はあったが、ガーベラで求婚したというお話しはない。
きっとそれは物語なんて関係ない、二人だけの約束だったのだろう。

二人の耳に届いているかは知らないが、さっきからリオネルがサルビアはずっと家に居てくれると思ったのにとか、駆け落ちされるくらいなら認めるとかアレリオンの言葉にぶつぶつと反応していた。それに対してサーニャもアベルも、にこにこと事の顛末を見届けているだけだ。
——この様子なら両家の反対に合うことは無さそうだ。
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