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第四章 王立学院中等部三年生
220 プロポーズ大作戦④
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Side:アシェル14歳 春
そのままアレリオンは両親とトラスト夫婦に、サルビアとの結婚を認めてほしいと伝え、何の問題もなく二人は親公認のお付き合いとなった。
大聖堂の空き次第らしいが、早めに婚約式を済ませ結婚式は一年後に行うこともとんとん拍子で決まった。
アシェルは初めて知ったのだが、貴族が婚約して即結婚は体裁が悪いらしく、最低でも一年は空ける必要があるそうだ。
平民であればそこまで厳密な縛りは無いらしいので、貴族達への周知や、結婚式へ呼ぶ来賓の兼ね合いもあるのかもしれない。
誰もが幸せムードで、義兄弟になるアルフォードとリュートは、誕生日でどっちが兄だとか弟とか言っている。第一子同士の婚姻なので、結局誕生日の早かったリュートが義兄の立場を得たようだ。
アシェルも無事にアレリオンが好きな女性と添い遂げられそうであることと、サロンを包む幸せムードに、心がぽかぽかする。
「それにしても、まさかアレリオン様とサルビアの話だなんて、ちっとも思わなかったわ。」
幸せそうに、それでもどこか少し残念そうにサーニャが言った言葉に、リオネルは上機嫌に顔を綻ばせながら返事をする。
「単純にリュートとアルフォード殿のお祝いだと思っていたからな。まぁでも、幸せなことが立て続けに起きるのは良いことだよ。アベル殿だって何も知らなかったみたいだし。いやーアベル殿があんなに驚いた顔をするなんて、シェリー嬢に求婚された時以来じゃないかな。」
「そうね、立て続けに起こることは良いことよね。……だそうですよ、アルフォード様。折角リオネル様もいるし、全員揃っているのだから。丁度いいタイミングだと思いますよ。」
にこりと矛先を向けられたアルフォードの身体が、びくりと跳ねた。
まさか自分に話が振られるとは思っていなかったのだろう。
確実に前のダブルデートのことをサーニャは知っているだろうし、アルフォードがそれに気づいていなかったわけがない。
そして今の話から、サーニャはアルフォードとイザベルのことで話があるから、わざわざこうやってトラスト一家を招いたのだと思っていたように感じる。
だから大人しく休みを取ることも、両家の顔合わせも了承したのだろうか。
「サーニャ……別にこのタイミングじゃなくても……。」
「あらあら。アルフォード坊ちゃまのことですから。そう言って、いつまでも先延ばしにしてしまいますでしょう?プレゼントもお役にたったようですしね。」
流石にこの流れで話をすることに抵抗があるのか、アルフォードが渋るが、サーニャは笑顔でそれを却下した。
そしてサーニャの言葉に慌てたのはアルフォードではなく、顔を真っ赤にしたイザベルの方だった。
「お母様ッ!?どうして知って……。」
「イザベル。貴女は私が、侍女長という役職を頂いているのを分かっているのかしら?間違いなく、あの日隠し通していると思っていたのはイザベルだけですよ。これでもわたくしは、ベルの母親ですしね。」
「待ってくれ、サーニャ。話の流れに私はついていけてないんだが……何故アルフォード殿の話を?それにベルにも関係あるということは……。」
困惑しながらも自力で答えに辿り着きそうなリオネルの問いには応えず、サーニャはただ微笑んでアルフォードを見た。
——これは、イザベルが無言で脅してくる時と同じ笑顔だ。
アルフォードは覚悟を決めたように深呼吸して、まずはイザベルに向きなおった。
「なぁ、ベル。本当はちゃんと約束をして、後日挨拶に行こうと思ってたんだけど……今日でも良いか?」
「えぇ、それは構わないけれど……。アル様とデート出来るって浮かれすぎてたわ……お母様が知らないわけないって、よく考えれば当たり前のことなのに……。わたくしがお返事を急がせてしまったのに、ごめんなさい。」
「別に、それは俺がちゃんと考えて出した答えだから良いんだよ。間違いなく、サーニャがベルに香油を渡した時点で、相手まで知ってたかは知らないけど勘づいてただろうし。ベルに確認する前にお守りとして渡したのも、ベルのことだから急ぎそうって思われてそうだしな。出掛けるのを知っても何も言われてないし、少なくともサーニャからはお許しが出たんだと思ったくらいだ。じゃなきゃ、いくら殿下とアシェの様子を見てたからって、あんな無茶しないからな?」
サーニャに意図的に香油を渡されたと知って、イザベルは赤かった頬を更に赤くしてしまう。
そのイザベルを抱きしめて、よしよしと宥める様にアルフォードが頭を撫でてやっている。
誰がどう見ても、どう聞いても、先程の充電とは違う。恋人同士の雰囲気だ。
リオネルがやっぱりそういうことかーと嘆きながらも、アベルに詰め寄っている。
名前も呼び捨てになっているし、会話の内容的に王立学院に通っていた頃の話もしていそうだ。どうも長い付き合いらしい。
「アシェ義兄様……ダブルデートの日、アーク義兄様と何がありましたの?」
こっそりとメルティーが聞いてくるが、あの日アークエイドに、アシェルが望むだけたっぷりと満たしてもらうところを見られたことを思いだし、頬が熱を持つのを感じる。
二人ともいつも通りだし、思い出さないようにしていたのに。
「メル、ぎゅってさせて?……機会があれば話してあげれるかも。……だけど、僕だけの一存じゃ話せないし、流石に義妹に聞かせるのは恥ずかしい。」
素直に膝に乗ってくれたメルティーを抱きしめて、赤くなってしまった顔を隠す。
「アシェ義兄様が恥ずかしがるって、よっぽどのことじゃないかしら……?とりあえず、簡単には口に出来ない事情があることは分かりましたわ。イザベルの話と一緒に、いつかお聞かせいただけると嬉しいですけど、無理そうなら話さなくて大丈夫ですからね?」
「ありがとう、メル。もうちょっと落ち着くまでこうしてて?」
「えぇ、構いませんわ。」
アシェルとメルティーが充電を始めた傍ら、アレリオンはにっこりと笑みを浮かべて、アルフォードに詰め寄っていた。
「ねぇ、アル。いくらサーニャが遠回しに許可を出したと言っても、僕は出してないよね?お洒落したイザベルが可愛くても襲うなって、ちゃんと釘を刺しておいたよね?わざわざ詳しい話を聞くのは野暮かと思って、今日まで何も聞いてなかったけど……。もっと早くに聞くべきだったかな?」
「アレリオンお義兄様っ、そのっ。わたくしが無理にお願いしただけなので、お咎めは……。」
アレリオンにとってアルフォードは大事な弟だが、イザベルは血の繋がりが無くても大事な義妹だ。
ダブルデートでどこに行ったのかは知らないが、二人っきりならいざ知らず。二組で出かけて、わざわざそういう休憩も出来る宿にしけこんだりはしないだろう。
簡単な夕食を摂り終えるまでアシェルとアークエイドとはずっと一緒に居たと言っていたし、二人が邸に戻ってきたのもそこまで遅い時間ではなかった。
あの時は揶揄い半分だったが、いくらイザベルから求めたとしても、可愛い義妹の夜這いは拒否しておいて環境の整っていない場所で初めて奪ったのなら、それは男側の責任だ。
アレリオンが怒っても良いのではないかと思う。
「ぅっ……言い逃れもしないし、逃げもしないから、魔法で色々仕掛けてくるのは止めてくれっ。これ、かなり本気だろ!?」
「逃げるつもりがないなら、大人しく締め上げられておけば良いんじゃないかな?あぁ、大丈夫。可愛いベルを傷つけたりしないから。だから無駄な抵抗は止めたらどうだい?」
「当たり前だっ、ベルに手を出させるわけないだろ。口でそう言いながら、ベルにまで魔力伸ばしてくんなっ。」
「ふふっ。ベルを守るのはアルの役目でしょう?」
「あーくそっ。ベル、ぜってぇ俺の腕の中から出るなよ?」
「あの、わたくしが説明を……。」
「しなくていい。したところで止めてくれないから。それに、こんなとこで詳しく話したくないし、聞かせたくもない。」
サロンの中はお祝いムードの流れなのに、なかなかにカオスなことになってしまっている。
お互い立ったまま、必死に兄弟での見えない攻防戦を繰り広げる中。
イザベルの父親であるリオネルは、父親としての出番をアレリオンに奪われてしまっていた。
「サーニャ、私は何も聞いてないぞ。それに、あのベルが大人しく身体を預けてるなんて……もうこれ、私の許可なんて要らないやつだろ?ベルのことだから反対したところで、じゃあ家を出させていただきますって言うんだろ??ベルは君と一緒で行動力があるから。何で先に許可を出すような真似をしたんだ。せめて一言くらい教えておいておくれよ。」
怒りは無く、ただただ除け者にされていた悲しさから、リオネルはどうやら事情を把握していたらしいサーニャに愚痴を溢す。
医務官として働いてる姿はテキパキと仕事をこなしていてカッコいいのに、父親や夫としてのリオネルはどこか頼りなく見える女々しさがあった。
「まぁ、わたくしどもが反対したら、悩んだ末に家を出てもおかしくないわね。一応悩んではくれると思いますわよ。アシェル様は自分の侍女の身分なんて気になさらない方ですし。ベルはようやく片思いの相手に気持ちを伝える機会が出来て、デートにまでこじつけたんですよ。母親として応援するのは当然だわ。それに……わたくしに行動力があるというけれど、間違いなくこの辺りはリオネル様似ですからね?わたくしが香油を渡すより前に、既にアルフォード様に夜這いを仕掛けているし。今の話もどう聞いてもベル側からだわ。わたくしは娘に、わたくしと同じ痛みを味合わせたくないから香油を渡したのよ。分かったかしら?」
「うっ、それはすまないと何度も……。」
「貴方が反省しているのは知っています。だからこそ、わたくしがベルにプレゼントしたものが如何に大切か、分かっていただけますよね?」
「あぁ、すまない。……実の妹のように可愛がってくれているベルのためだとは言え、あの兄弟喧嘩は収まるのか……?流石にうちの娘のせいで……。」
「どうでしょうねぇ。わたくしどもには、坊ちゃま達が何をしているのかさっぱりですし。リオネル様はただ、二人の喧嘩が少し落ち着いたら許可をだすことだけ伝えてあげたら十分だと思いますわ。アレリオン様も、両親が許して許可を出しているのに、それ以上言ったりはしないでしょうから。……状況の見極めは、医師であるリオネル様の得意分野でしょう?」
「……そうだな。なるべく穏便に事が済むように、頑張ってみるよ。ただ……邸に戻ったら慰めてくれるかい?嬉しいことだけど、さすがに娘たちの嫁ぎ先が突然決まるのは、寂しいものだから。」
「旦那様にお休みをいただいてますから。久しぶりに二人でゆっくりしましょう。」
サーニャに慰めてもらうことが決まったリオネルは嬉しそうに微笑んだ後、タイミングを計るために喧嘩をしている兄弟を見る。
そこに先程までの頼りなさはなかった。
「アシェ義兄様は事情をご存知なんでしょう?アン義兄様を止めなくて大丈夫かしら?……わたくしじゃどうにもできないわ。」
「んー……今のところは、別に傍観しててもいいんじゃないかな?でもヒートアップしてきたり、攻防のバランスとるのに失敗してベルに影響が出るようなら、僕が止めるから。今はまだ、アル兄様がちゃんとベルを守れるのか、試されてるだけだしね。」
アシェルもメルティーも。そしてアベルも。
アレリオンの怒っている笑顔を見て、当事者ではないのにキッチリ『探査魔法』を使っている。
とばっちりをくらいたくないというのも勿論あるが、特に今日はお客様が沢山居るのだ。
万が一にも、お客様に被害を出すわけにはいかない。
アレリオンとアルフォードの周囲で、色々な種類の魔法が構築されては霧散してを繰り返していた。
基本的に仕掛ける術者の方が優位なので、力量が同程度か術者の方が上回れば、間違いなく解除されることなく魔法は発動してしまう。
それなのに傍から見れば何も起こっていないように見えるのは、アルフォードがきっちり全てをキャンセルしているからで。アレリオンがそれだけの猶予を与えているということは、アルフォードは試されているのだと思う。
アレリオンがヒートアップしない限りは大丈夫だろう。
地味に拘束の攻防戦も行われているが、術者の魔力が流れ続けるので、きっちりと形が定まっていない状態ではキャンセルは難しいだろう。
ひたすら拘束の対応もしているアルフォードが、あれだけの魔法を処理するのはかなりギリギリなのではないかと思う。
アベルも観ているし大惨事になることはないだろうが、アルフォードが失敗しそうならアシェルが止めなくては、イザベルに影響が出てしまう。
アレリオンが落ち着くか、アルフォードがミスをするかまで、アシェルはじっと戦況を見守った。
「まだ抵抗するの?」
「当たり前だろ。俺だけならまだしも、ベルにまで手を出そうとするなっ。」
「だってこうでもしないと、アルは本気を出してくれないだろう?アルの成長を感じられて嬉しいよ。」
「嬉しいのは分かったから、いい加減やめやがれっ。ちょっとずつ難易度あげんなっ。」
「少しずつじゃなければ良いの?」
「なっ。くそっ。」
先程までよりも増えた魔法反応に処理が追い付かないと判断したアルフォードは、脅威度の高いものだけを処理して『障壁』を展開した。
イザベルを確実に守る為には、アルフォードに出来る対応の中ではベストだろう。
だが——。
「アン兄様。流石にやり過ぎです。そんなに遊びたいなら、僕がお相手になりますよ?」
「……うーん。ここでアシェが出てくるのか。流石にアシェを相手にするんじゃ分が悪すぎるかな。しかも、かなり本気で相手してくれる気だろう?」
アルフォードの食べ残しを全て無効化されたアレリオンは、両手を上げて降参の意を示した。
本気の妹は、命さえあれば回復できますよね、なんて言って、遠慮なく魔法をぶち込んでくるだろう。
「当たり前です。僕の大事なベルに手を出して。タダで済むわけありませんよね?」
傍から見ればイザベルという一人の女性を巡って、三人の男達が言い争っているようにしか見えない。
リオネルはアベル並みに魔法が使えるであろう子供達の喧嘩に口を挟みたくないが、意を決して口を開いた。
リオネルの言葉を聞いてもらうのは今しかないだろう。
「あーすまない。皆がうちのベルの為に怒ってくれているのは分かっているが……それくらいにしてやってくれるだろうか?アルフォード殿とベルの交際や婚約についても認めるし、報告前にあったことについても咎めるつもりはない。アルフォード殿、ベルはお転婆だが思いやりのある良い子だ。ベルのことをよろしく頼む。」
「いえ、こちらこそ……報告前に申し訳ありませんでした。婚約を認めてくださってありがとうございます。」
「ありがとうございます、お父様。ですが……一言余計ですわ。」
ようやく騒動にひと段落付き、また歓談とお茶の時間になった。
アルフォード達の婚約式は、メルティーにアレリオンと立て続けに婚約を発表することになるので、流石に時期をずらした方が良いだろうということになった。
婚約している男女と同じように過ごしても良いが婚約までは子供を作らないことを前提に、最低でも半年はずらして婚約式をすることにしたようだ。
何事もなかったのように落ち着いたのだが、アレリオンはサルビアを、アルフォードはイザベルを膝の上に乗せてたっぷりと愛でている。
アシェルはさっきからメルティーを乗せているし、アベルもメアリーを乗せたそうにしていたが子供達の前でやめてくれと拒否されていた。人目に付くところでのスキンシップはいつも断られているようだし、メアリーは恥ずかしがり屋さんなんだなと思う。
そんなサルビアとイザベルは、オーレンに根掘り葉掘り色々と聞かれているようだ。
やっぱり女の子は恋愛話が好きなんだなと思う。
「やっぱりアシェ義兄様は凄いですわ。わたくしにはあんなに直ぐ解除できませんもの。」
「練習すればメルにも出来るようになるよ。こういうのは練習しないと上達しないから。アン兄様が使った魔法。解除の練習する?ちゃんと一つずつ使うし、発動せずに止めておいてあげるから。」
「やっぱり、アレリオン殿とアルができることは、アシェル殿やメルティー嬢にもできるんだな。観てても良いか?」
リュートは恋バナには参加する気が無いらしく、練習の方に興味があるようだ。
「えぇ、構いませんよ。」
アシェルが一つ一つ発動直前の魔法を展開していけば、メルティーは時間は少しかかってしまうものの、丁寧に、だが確実に処理して『解除』していく。
「うん、そんな感じ。でももう少し早くするなら……ココ、分かる?」
「えぇ。」
「ココを切ってあげると、こっちも一緒に切れるから。もっと効率良く解除できると思うよ。」
「本当ですわ。ここの切りにくいところも、もしかして他と連動してますの?」
「そうだね。それはココ。こっちのせいで硬くなってるから、こっちを切ればそこはすぐに切り離せるくらい脆くなるよ。」
「本当だわ。ということは、術式だとここが繋がっている位置ですのね?」
「うん。そうなるね。メルは呑み込みが早いね。偉いよ。」
よしよしとメルティーを撫でてあげると、可愛らしい顔が綻んだ。
努力家の義妹はこうやって一生懸命、アシェル達に近づこうと頑張ってくれている。
メイディー直系の女性はあまりメイディーらしくないらしいし、歴代の女性たちよりメルティーのほうがメイディーらしいと思う。メルティーの方が能力もあるのではないだろうか。
「アシェ、少し良いかい?メルの訓練を邪魔してごめんね。」
「お父様、どうされました?」
今日の主役ではないアシェルに何の用だろうと首を傾げていると、アベルが婚約式のことだよ、と苦笑した。
「アシェは出れないだろう?一度だけなら誤魔化せるかもしれないけど、二回は流石に無理だから。当日に言うよりも先に伝えても良いんじゃないかと思ってね。」
少し濁してくれているが、アシェルが記憶持ちで婚約式自体に参加できないことを気にしてくれているようだ。
「そう……ですね。サーニャとベルは知ってますけど……でも流石に、今日言うことではないですし、アン兄様の婚約式まで少し時間もありますから。お父様からか、サーニャから家族へでもいいので。伝えて貰うことは出来ますか?」
「話しても構わないかい?」
「えぇ。社交界で噂になるくらいには居るんですよね?でしたら大丈夫です。」
「では、私からまずはリオネルに話して、トラスト家に伝わるようにしておくよ。」
「ありがとうございます。ところで、お父様たちはもう、夜勤は大丈夫なのですか?」
今日は晩餐会の前に帰ってきたが、時間的にしっかり王族の夕食の味見をしてから帰ってきていた。
王宮の夕食の時間は少し早めだったので、それは間違いないだろう。
「あぁ。明日から学院の方へ移動されるらしいからね。ようやく寮に住めるだけの準備が整ったらしいから。」
てっきりまた仕事に戻るのかと思っていたが、今日で長かった缶詰生活は終わったようだ。
アベルやアレリオンが体調を崩さなくて良かったと思う。
「遠方からですと、生活基盤を整えるだけでも大変ですものね。夜勤お疲れ様でした。ゆっくり休んでください。」
「あぁ、そうさせてもらうよ。それと、二人とも訓練するのは構わないけど、ちゃんとマナポーションを飲んでおくんだよ。それから、アシェにはあとでウィルが素材を持って行くから。うちの備蓄は気にせずに、遠慮なく全て受け取りなさい。多めにマナポーションを作っておかないと、少なくとも昼間は観ているつもりだろう?……殿下にも護衛がつくことになっているから、出来れば夜はちゃんと寝ておくれ。」
どうやらアシェルの考えていることは、アベルにはお見通しらしい。
どうするつもりかは言わず、お礼を伝えておいた。
心温まる幸せな一日は、ゆっくりと過ぎていった。
そのままアレリオンは両親とトラスト夫婦に、サルビアとの結婚を認めてほしいと伝え、何の問題もなく二人は親公認のお付き合いとなった。
大聖堂の空き次第らしいが、早めに婚約式を済ませ結婚式は一年後に行うこともとんとん拍子で決まった。
アシェルは初めて知ったのだが、貴族が婚約して即結婚は体裁が悪いらしく、最低でも一年は空ける必要があるそうだ。
平民であればそこまで厳密な縛りは無いらしいので、貴族達への周知や、結婚式へ呼ぶ来賓の兼ね合いもあるのかもしれない。
誰もが幸せムードで、義兄弟になるアルフォードとリュートは、誕生日でどっちが兄だとか弟とか言っている。第一子同士の婚姻なので、結局誕生日の早かったリュートが義兄の立場を得たようだ。
アシェルも無事にアレリオンが好きな女性と添い遂げられそうであることと、サロンを包む幸せムードに、心がぽかぽかする。
「それにしても、まさかアレリオン様とサルビアの話だなんて、ちっとも思わなかったわ。」
幸せそうに、それでもどこか少し残念そうにサーニャが言った言葉に、リオネルは上機嫌に顔を綻ばせながら返事をする。
「単純にリュートとアルフォード殿のお祝いだと思っていたからな。まぁでも、幸せなことが立て続けに起きるのは良いことだよ。アベル殿だって何も知らなかったみたいだし。いやーアベル殿があんなに驚いた顔をするなんて、シェリー嬢に求婚された時以来じゃないかな。」
「そうね、立て続けに起こることは良いことよね。……だそうですよ、アルフォード様。折角リオネル様もいるし、全員揃っているのだから。丁度いいタイミングだと思いますよ。」
にこりと矛先を向けられたアルフォードの身体が、びくりと跳ねた。
まさか自分に話が振られるとは思っていなかったのだろう。
確実に前のダブルデートのことをサーニャは知っているだろうし、アルフォードがそれに気づいていなかったわけがない。
そして今の話から、サーニャはアルフォードとイザベルのことで話があるから、わざわざこうやってトラスト一家を招いたのだと思っていたように感じる。
だから大人しく休みを取ることも、両家の顔合わせも了承したのだろうか。
「サーニャ……別にこのタイミングじゃなくても……。」
「あらあら。アルフォード坊ちゃまのことですから。そう言って、いつまでも先延ばしにしてしまいますでしょう?プレゼントもお役にたったようですしね。」
流石にこの流れで話をすることに抵抗があるのか、アルフォードが渋るが、サーニャは笑顔でそれを却下した。
そしてサーニャの言葉に慌てたのはアルフォードではなく、顔を真っ赤にしたイザベルの方だった。
「お母様ッ!?どうして知って……。」
「イザベル。貴女は私が、侍女長という役職を頂いているのを分かっているのかしら?間違いなく、あの日隠し通していると思っていたのはイザベルだけですよ。これでもわたくしは、ベルの母親ですしね。」
「待ってくれ、サーニャ。話の流れに私はついていけてないんだが……何故アルフォード殿の話を?それにベルにも関係あるということは……。」
困惑しながらも自力で答えに辿り着きそうなリオネルの問いには応えず、サーニャはただ微笑んでアルフォードを見た。
——これは、イザベルが無言で脅してくる時と同じ笑顔だ。
アルフォードは覚悟を決めたように深呼吸して、まずはイザベルに向きなおった。
「なぁ、ベル。本当はちゃんと約束をして、後日挨拶に行こうと思ってたんだけど……今日でも良いか?」
「えぇ、それは構わないけれど……。アル様とデート出来るって浮かれすぎてたわ……お母様が知らないわけないって、よく考えれば当たり前のことなのに……。わたくしがお返事を急がせてしまったのに、ごめんなさい。」
「別に、それは俺がちゃんと考えて出した答えだから良いんだよ。間違いなく、サーニャがベルに香油を渡した時点で、相手まで知ってたかは知らないけど勘づいてただろうし。ベルに確認する前にお守りとして渡したのも、ベルのことだから急ぎそうって思われてそうだしな。出掛けるのを知っても何も言われてないし、少なくともサーニャからはお許しが出たんだと思ったくらいだ。じゃなきゃ、いくら殿下とアシェの様子を見てたからって、あんな無茶しないからな?」
サーニャに意図的に香油を渡されたと知って、イザベルは赤かった頬を更に赤くしてしまう。
そのイザベルを抱きしめて、よしよしと宥める様にアルフォードが頭を撫でてやっている。
誰がどう見ても、どう聞いても、先程の充電とは違う。恋人同士の雰囲気だ。
リオネルがやっぱりそういうことかーと嘆きながらも、アベルに詰め寄っている。
名前も呼び捨てになっているし、会話の内容的に王立学院に通っていた頃の話もしていそうだ。どうも長い付き合いらしい。
「アシェ義兄様……ダブルデートの日、アーク義兄様と何がありましたの?」
こっそりとメルティーが聞いてくるが、あの日アークエイドに、アシェルが望むだけたっぷりと満たしてもらうところを見られたことを思いだし、頬が熱を持つのを感じる。
二人ともいつも通りだし、思い出さないようにしていたのに。
「メル、ぎゅってさせて?……機会があれば話してあげれるかも。……だけど、僕だけの一存じゃ話せないし、流石に義妹に聞かせるのは恥ずかしい。」
素直に膝に乗ってくれたメルティーを抱きしめて、赤くなってしまった顔を隠す。
「アシェ義兄様が恥ずかしがるって、よっぽどのことじゃないかしら……?とりあえず、簡単には口に出来ない事情があることは分かりましたわ。イザベルの話と一緒に、いつかお聞かせいただけると嬉しいですけど、無理そうなら話さなくて大丈夫ですからね?」
「ありがとう、メル。もうちょっと落ち着くまでこうしてて?」
「えぇ、構いませんわ。」
アシェルとメルティーが充電を始めた傍ら、アレリオンはにっこりと笑みを浮かべて、アルフォードに詰め寄っていた。
「ねぇ、アル。いくらサーニャが遠回しに許可を出したと言っても、僕は出してないよね?お洒落したイザベルが可愛くても襲うなって、ちゃんと釘を刺しておいたよね?わざわざ詳しい話を聞くのは野暮かと思って、今日まで何も聞いてなかったけど……。もっと早くに聞くべきだったかな?」
「アレリオンお義兄様っ、そのっ。わたくしが無理にお願いしただけなので、お咎めは……。」
アレリオンにとってアルフォードは大事な弟だが、イザベルは血の繋がりが無くても大事な義妹だ。
ダブルデートでどこに行ったのかは知らないが、二人っきりならいざ知らず。二組で出かけて、わざわざそういう休憩も出来る宿にしけこんだりはしないだろう。
簡単な夕食を摂り終えるまでアシェルとアークエイドとはずっと一緒に居たと言っていたし、二人が邸に戻ってきたのもそこまで遅い時間ではなかった。
あの時は揶揄い半分だったが、いくらイザベルから求めたとしても、可愛い義妹の夜這いは拒否しておいて環境の整っていない場所で初めて奪ったのなら、それは男側の責任だ。
アレリオンが怒っても良いのではないかと思う。
「ぅっ……言い逃れもしないし、逃げもしないから、魔法で色々仕掛けてくるのは止めてくれっ。これ、かなり本気だろ!?」
「逃げるつもりがないなら、大人しく締め上げられておけば良いんじゃないかな?あぁ、大丈夫。可愛いベルを傷つけたりしないから。だから無駄な抵抗は止めたらどうだい?」
「当たり前だっ、ベルに手を出させるわけないだろ。口でそう言いながら、ベルにまで魔力伸ばしてくんなっ。」
「ふふっ。ベルを守るのはアルの役目でしょう?」
「あーくそっ。ベル、ぜってぇ俺の腕の中から出るなよ?」
「あの、わたくしが説明を……。」
「しなくていい。したところで止めてくれないから。それに、こんなとこで詳しく話したくないし、聞かせたくもない。」
サロンの中はお祝いムードの流れなのに、なかなかにカオスなことになってしまっている。
お互い立ったまま、必死に兄弟での見えない攻防戦を繰り広げる中。
イザベルの父親であるリオネルは、父親としての出番をアレリオンに奪われてしまっていた。
「サーニャ、私は何も聞いてないぞ。それに、あのベルが大人しく身体を預けてるなんて……もうこれ、私の許可なんて要らないやつだろ?ベルのことだから反対したところで、じゃあ家を出させていただきますって言うんだろ??ベルは君と一緒で行動力があるから。何で先に許可を出すような真似をしたんだ。せめて一言くらい教えておいておくれよ。」
怒りは無く、ただただ除け者にされていた悲しさから、リオネルはどうやら事情を把握していたらしいサーニャに愚痴を溢す。
医務官として働いてる姿はテキパキと仕事をこなしていてカッコいいのに、父親や夫としてのリオネルはどこか頼りなく見える女々しさがあった。
「まぁ、わたくしどもが反対したら、悩んだ末に家を出てもおかしくないわね。一応悩んではくれると思いますわよ。アシェル様は自分の侍女の身分なんて気になさらない方ですし。ベルはようやく片思いの相手に気持ちを伝える機会が出来て、デートにまでこじつけたんですよ。母親として応援するのは当然だわ。それに……わたくしに行動力があるというけれど、間違いなくこの辺りはリオネル様似ですからね?わたくしが香油を渡すより前に、既にアルフォード様に夜這いを仕掛けているし。今の話もどう聞いてもベル側からだわ。わたくしは娘に、わたくしと同じ痛みを味合わせたくないから香油を渡したのよ。分かったかしら?」
「うっ、それはすまないと何度も……。」
「貴方が反省しているのは知っています。だからこそ、わたくしがベルにプレゼントしたものが如何に大切か、分かっていただけますよね?」
「あぁ、すまない。……実の妹のように可愛がってくれているベルのためだとは言え、あの兄弟喧嘩は収まるのか……?流石にうちの娘のせいで……。」
「どうでしょうねぇ。わたくしどもには、坊ちゃま達が何をしているのかさっぱりですし。リオネル様はただ、二人の喧嘩が少し落ち着いたら許可をだすことだけ伝えてあげたら十分だと思いますわ。アレリオン様も、両親が許して許可を出しているのに、それ以上言ったりはしないでしょうから。……状況の見極めは、医師であるリオネル様の得意分野でしょう?」
「……そうだな。なるべく穏便に事が済むように、頑張ってみるよ。ただ……邸に戻ったら慰めてくれるかい?嬉しいことだけど、さすがに娘たちの嫁ぎ先が突然決まるのは、寂しいものだから。」
「旦那様にお休みをいただいてますから。久しぶりに二人でゆっくりしましょう。」
サーニャに慰めてもらうことが決まったリオネルは嬉しそうに微笑んだ後、タイミングを計るために喧嘩をしている兄弟を見る。
そこに先程までの頼りなさはなかった。
「アシェ義兄様は事情をご存知なんでしょう?アン義兄様を止めなくて大丈夫かしら?……わたくしじゃどうにもできないわ。」
「んー……今のところは、別に傍観しててもいいんじゃないかな?でもヒートアップしてきたり、攻防のバランスとるのに失敗してベルに影響が出るようなら、僕が止めるから。今はまだ、アル兄様がちゃんとベルを守れるのか、試されてるだけだしね。」
アシェルもメルティーも。そしてアベルも。
アレリオンの怒っている笑顔を見て、当事者ではないのにキッチリ『探査魔法』を使っている。
とばっちりをくらいたくないというのも勿論あるが、特に今日はお客様が沢山居るのだ。
万が一にも、お客様に被害を出すわけにはいかない。
アレリオンとアルフォードの周囲で、色々な種類の魔法が構築されては霧散してを繰り返していた。
基本的に仕掛ける術者の方が優位なので、力量が同程度か術者の方が上回れば、間違いなく解除されることなく魔法は発動してしまう。
それなのに傍から見れば何も起こっていないように見えるのは、アルフォードがきっちり全てをキャンセルしているからで。アレリオンがそれだけの猶予を与えているということは、アルフォードは試されているのだと思う。
アレリオンがヒートアップしない限りは大丈夫だろう。
地味に拘束の攻防戦も行われているが、術者の魔力が流れ続けるので、きっちりと形が定まっていない状態ではキャンセルは難しいだろう。
ひたすら拘束の対応もしているアルフォードが、あれだけの魔法を処理するのはかなりギリギリなのではないかと思う。
アベルも観ているし大惨事になることはないだろうが、アルフォードが失敗しそうならアシェルが止めなくては、イザベルに影響が出てしまう。
アレリオンが落ち着くか、アルフォードがミスをするかまで、アシェルはじっと戦況を見守った。
「まだ抵抗するの?」
「当たり前だろ。俺だけならまだしも、ベルにまで手を出そうとするなっ。」
「だってこうでもしないと、アルは本気を出してくれないだろう?アルの成長を感じられて嬉しいよ。」
「嬉しいのは分かったから、いい加減やめやがれっ。ちょっとずつ難易度あげんなっ。」
「少しずつじゃなければ良いの?」
「なっ。くそっ。」
先程までよりも増えた魔法反応に処理が追い付かないと判断したアルフォードは、脅威度の高いものだけを処理して『障壁』を展開した。
イザベルを確実に守る為には、アルフォードに出来る対応の中ではベストだろう。
だが——。
「アン兄様。流石にやり過ぎです。そんなに遊びたいなら、僕がお相手になりますよ?」
「……うーん。ここでアシェが出てくるのか。流石にアシェを相手にするんじゃ分が悪すぎるかな。しかも、かなり本気で相手してくれる気だろう?」
アルフォードの食べ残しを全て無効化されたアレリオンは、両手を上げて降参の意を示した。
本気の妹は、命さえあれば回復できますよね、なんて言って、遠慮なく魔法をぶち込んでくるだろう。
「当たり前です。僕の大事なベルに手を出して。タダで済むわけありませんよね?」
傍から見ればイザベルという一人の女性を巡って、三人の男達が言い争っているようにしか見えない。
リオネルはアベル並みに魔法が使えるであろう子供達の喧嘩に口を挟みたくないが、意を決して口を開いた。
リオネルの言葉を聞いてもらうのは今しかないだろう。
「あーすまない。皆がうちのベルの為に怒ってくれているのは分かっているが……それくらいにしてやってくれるだろうか?アルフォード殿とベルの交際や婚約についても認めるし、報告前にあったことについても咎めるつもりはない。アルフォード殿、ベルはお転婆だが思いやりのある良い子だ。ベルのことをよろしく頼む。」
「いえ、こちらこそ……報告前に申し訳ありませんでした。婚約を認めてくださってありがとうございます。」
「ありがとうございます、お父様。ですが……一言余計ですわ。」
ようやく騒動にひと段落付き、また歓談とお茶の時間になった。
アルフォード達の婚約式は、メルティーにアレリオンと立て続けに婚約を発表することになるので、流石に時期をずらした方が良いだろうということになった。
婚約している男女と同じように過ごしても良いが婚約までは子供を作らないことを前提に、最低でも半年はずらして婚約式をすることにしたようだ。
何事もなかったのように落ち着いたのだが、アレリオンはサルビアを、アルフォードはイザベルを膝の上に乗せてたっぷりと愛でている。
アシェルはさっきからメルティーを乗せているし、アベルもメアリーを乗せたそうにしていたが子供達の前でやめてくれと拒否されていた。人目に付くところでのスキンシップはいつも断られているようだし、メアリーは恥ずかしがり屋さんなんだなと思う。
そんなサルビアとイザベルは、オーレンに根掘り葉掘り色々と聞かれているようだ。
やっぱり女の子は恋愛話が好きなんだなと思う。
「やっぱりアシェ義兄様は凄いですわ。わたくしにはあんなに直ぐ解除できませんもの。」
「練習すればメルにも出来るようになるよ。こういうのは練習しないと上達しないから。アン兄様が使った魔法。解除の練習する?ちゃんと一つずつ使うし、発動せずに止めておいてあげるから。」
「やっぱり、アレリオン殿とアルができることは、アシェル殿やメルティー嬢にもできるんだな。観てても良いか?」
リュートは恋バナには参加する気が無いらしく、練習の方に興味があるようだ。
「えぇ、構いませんよ。」
アシェルが一つ一つ発動直前の魔法を展開していけば、メルティーは時間は少しかかってしまうものの、丁寧に、だが確実に処理して『解除』していく。
「うん、そんな感じ。でももう少し早くするなら……ココ、分かる?」
「えぇ。」
「ココを切ってあげると、こっちも一緒に切れるから。もっと効率良く解除できると思うよ。」
「本当ですわ。ここの切りにくいところも、もしかして他と連動してますの?」
「そうだね。それはココ。こっちのせいで硬くなってるから、こっちを切ればそこはすぐに切り離せるくらい脆くなるよ。」
「本当だわ。ということは、術式だとここが繋がっている位置ですのね?」
「うん。そうなるね。メルは呑み込みが早いね。偉いよ。」
よしよしとメルティーを撫でてあげると、可愛らしい顔が綻んだ。
努力家の義妹はこうやって一生懸命、アシェル達に近づこうと頑張ってくれている。
メイディー直系の女性はあまりメイディーらしくないらしいし、歴代の女性たちよりメルティーのほうがメイディーらしいと思う。メルティーの方が能力もあるのではないだろうか。
「アシェ、少し良いかい?メルの訓練を邪魔してごめんね。」
「お父様、どうされました?」
今日の主役ではないアシェルに何の用だろうと首を傾げていると、アベルが婚約式のことだよ、と苦笑した。
「アシェは出れないだろう?一度だけなら誤魔化せるかもしれないけど、二回は流石に無理だから。当日に言うよりも先に伝えても良いんじゃないかと思ってね。」
少し濁してくれているが、アシェルが記憶持ちで婚約式自体に参加できないことを気にしてくれているようだ。
「そう……ですね。サーニャとベルは知ってますけど……でも流石に、今日言うことではないですし、アン兄様の婚約式まで少し時間もありますから。お父様からか、サーニャから家族へでもいいので。伝えて貰うことは出来ますか?」
「話しても構わないかい?」
「えぇ。社交界で噂になるくらいには居るんですよね?でしたら大丈夫です。」
「では、私からまずはリオネルに話して、トラスト家に伝わるようにしておくよ。」
「ありがとうございます。ところで、お父様たちはもう、夜勤は大丈夫なのですか?」
今日は晩餐会の前に帰ってきたが、時間的にしっかり王族の夕食の味見をしてから帰ってきていた。
王宮の夕食の時間は少し早めだったので、それは間違いないだろう。
「あぁ。明日から学院の方へ移動されるらしいからね。ようやく寮に住めるだけの準備が整ったらしいから。」
てっきりまた仕事に戻るのかと思っていたが、今日で長かった缶詰生活は終わったようだ。
アベルやアレリオンが体調を崩さなくて良かったと思う。
「遠方からですと、生活基盤を整えるだけでも大変ですものね。夜勤お疲れ様でした。ゆっくり休んでください。」
「あぁ、そうさせてもらうよ。それと、二人とも訓練するのは構わないけど、ちゃんとマナポーションを飲んでおくんだよ。それから、アシェにはあとでウィルが素材を持って行くから。うちの備蓄は気にせずに、遠慮なく全て受け取りなさい。多めにマナポーションを作っておかないと、少なくとも昼間は観ているつもりだろう?……殿下にも護衛がつくことになっているから、出来れば夜はちゃんと寝ておくれ。」
どうやらアシェルの考えていることは、アベルにはお見通しらしい。
どうするつもりかは言わず、お礼を伝えておいた。
心温まる幸せな一日は、ゆっくりと過ぎていった。
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