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第四章 王立学院中等部三年生
232 幼馴染達の憂鬱
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Side:エラート15歳 夏
社交シーズンの始まりが目前に迫ったある日。
アークエイドとアシェルを除いた幼馴染達は、放課後の教室に集まっていた。
ノアールは生徒会の会議を休んでの参加である。
「あーもうっ。なんでアークはなんにも気付かないのよっ。アシェが何も言わなくても、普通気付くでしょ?あんな我儘ツルペタ幼女の何が良いのよっ。アークってばロリコンだったわけ?まぁ、同い年なら合法ロリだものね。だからといって、アシェの顔を見ようともしないのは違うと思うのよ。あれだけアシェのこと好き好き言ってたのに、良い縁談があればポイ捨てするなんて最低だわっ。」
声を全く抑えることもせず、ぷりぷりとリリアーデが思っていることをぶちまける。
アークエイドがアシェルから距離を取る理由を知っているエラートとマリクは、それを複雑な気持ちで聞くしかない。
アークエイドなりにアシェルを守ろうとしていることは分かるが、流石に目を背けすぎだと感じているからだ。
「なぁ、リリィ。理由は言えねぇけど、あれでもアークなりに——。」
「アシェのことを気にかけてるって言うんでしょ?何回も聞いたから知ってるわよっ。でもね、コレじゃ気にかけてないのと一緒なの。皇女がアシェのことパシリにしてるのに、それを当たり前のように受け入れて。好きじゃなくてただの友人だったとしても、友人がパシリにされたら普通嫌な気分になるとか、注意するとかするでしょ?それにやけに懐いてるみたいだけど、アシェはあのガキンチョの保護者じゃないのよ?当たり前のようにアシェのことこき使って、お世話されて。自分の世話位自分でしたらどうなのよっ。」
怒りながらも涙を浮かべるリリアーデを、デュークが抱きしめて宥める様に頭を撫でてやる。
「リリィ、少し落ち着け。俺達がそうやって怒ったところで、当の本人がアークやムーラン皇女の臣下として振舞ってるんだ。それも、なるべく二人の視界に入らない位置に控えて。部屋で愚痴を言う訳にもいかないし、リリィの鬱憤が溜まってるのも分かるが……少し落ち着け。な?」
「だって……アシェずっと起きてるのよ……。イザベルがお昼寝も出来てないって言ってたわ。アークが夜は観るなって言ったから守ってるみたいだけど……でも扉のすぐそこに座ってるほうが身体に悪いわ。それに変なのは、アシェの部屋にちょっとずつ近付いてるんだもの。どうしたらいいのよっ。」
うわぁんと声を上げて泣き出したリリアーデを、デュークはよしよしと撫でてやる。
部屋でこんな愚痴を吐けば、廊下に聞こえたり見えない護衛達にバレる恐れがある。
こんなことを思っていたとしても軽々しく口に出来ないのだ。
「ねぇ、変なのってなにー?それに、アシェの部屋に近づいてるってどういうことー?」
少しだけピリッとした様子のマリクに尋ねられ、デュークは迷いながらも口を開く。
理由までは聞いていないが、どうもマリクもエラートもアークエイドではなく、アシェルを守ろうとしているように感じている。
「アシェがなんで部屋の扉を少しだけ開けたまま、ずっと扉の傍に座っているか分からないから、毎晩リリィと散歩と称して少し外に出てるんだ。俺達が気付いたのは多分、アシェが夜観なくなって一週間後くらいからだと思う。デートなら人目を気にする人も居るし、廊下なんかの歩くスペースだけ探査魔法を使っていても、そこまでおかしくないだろ?」
デュークの言葉に幼馴染たちは頷く。
「探査魔法自体はリリィが使ってるんだけど……最初はアークの部屋の扉の前に居たはずなのに、毎日半歩ずつくらい。少しずつアシェの部屋に近づいてるらしいんだ。マリクとエトが知ってることを、近衛が知らないわけないだろ?だから、最初は勘違いかと思ってたんだが……。もうアークとアシェの部屋の、扉の間辺りまで来てるらしい。」
「それって、アシェを狙ってるって事?」
「でも、廊下に居てリリィの探査魔法にかかるってことは、近衛だって気付くだろ?」
ノアールとエトワールの問いに答えたのはマリクだ。
耳も尻尾も警戒時や魔物と対峙している時のように、ピンと立っている。
「それがほんとーにしゅーげきしゃならねー。ろーかにいて何も言われてないなら、もしかしたらあっちの護衛の誰かかもしれないねー。」
どういうこと?と首を傾げる面々にエラートが補足を入れる。
「あちらさん的に、アシェを脅威だと認識した恐れがあるってことだよ。もしくは、アーク関連だから潰そうとしてるか。護衛の一人なら廊下に居ても不思議じゃないし、アシェみたいに上手く魔力を使えば、他人の探査魔法にかからないように誤魔化しも効くみたいだしな。リリィが気付くなら、その可能性は低いけど……。アシェに近づいてるのに、誰も何も言わないのは気になるな。なんにせよ不味いことに変わりはないな。」
何をきっかけにアシェルを狙いだしたのかが分からないが、これでは折角アークエイドがアシェルを無視しようとしているのが無駄になってしまう。
かといってアシェルが狙われている可能性があるとは、口が裂けてもアークエイドに伝える訳にはいかない。
そんなことを伝えたら、アークエイドが暴走してしまう可能性もある。それでは本末転倒だ。
とりあえず、事情を知っていて信頼できるダニエルに伝えるべきだろう。
彼はアークエイド専属の近衛騎士だし、アークエイドを裏切るような真似はしないだろう。
問題はアシェルを狙う輩は確実に警備の配備も、近衛の動きにも気を配っていることだろう。
となると、ダニエルともう一人の近衛だけで上手く捕まえられるかどうかが分からない。
そしてマリクとエラートでは、あのオートロックエリアに居るだけで目立ってしまう。
傍で違和感なくアシェルを守る為に二人が選ばれ、本来一般人には伝えられない内容を伝えられたのだ。
これが日中のことであればエラートとマリクが今まで以上に注意すれば良いだけなのだが、夜となると護衛は難しくなってしまう。
それに、既にアシェルが社交界デビューで女性であると発表することが決まっている。
心身を擦り減らしているアシェルのためにも、今後変な噂を立てられないためにも。エラートやマリクが、アシェルの部屋を夜訪室するわけにはいかないのだ。
黙り込んでどうすればアシェルを守れるか考えている二人に、デュークは声を掛ける。
「つまり、確実にアシェを狙ってるって分かれば、殺っても構わないんだな?事情は分からないが、夜じゃ二人はこっちまで入ってこれないだろ。一応リリィと話し合って、アシェの部屋に一番近い壁掛け灯の下までそいつがきたら、こっちから仕掛けるつもりでいる。ちゃんと合図も決めてあるし、一応無力化までの予定だが、相手次第で殺る覚悟もしてる。」
そこまで言ってデュークは、腕の中で泣き疲れて眠るリリアーデを見た。
「……というより、リリィもかなり限界なんだ。ずっとアシェの心配をしてて、あんまり夜も眠れてない。特にあいつに気付いてからは。食事は摂れてる分アシェよりはマシだし、本人は昔は不眠気味だったしこれくらい平気なんて言うけど……。なるべく僕が傍に居て、気付けば注意するようにしてるけど、ちょっとした感情の起伏で魔力が漏れてることもある。何をきっかけに暴発するかも分からないし、どんな形で魔法が発現するかも分からない。前世ではどんな理由であれ犯罪だったという殺人を、リリィにさせたくないんだ。そうなってしまいそうなら、僕は躊躇わずにアイツを殺す。」
強い決意を抱いたデュークの肩を、エラートはポンポンと叩く。
「気負い過ぎだ。でも正直なところ、俺らじゃ手出しできない場所だから助かる。アークの近衛のダニエル殿にだけは話を伝えておくから、異変があれば気付いてくれるはずだ。白騎士が出てきたらすぐにリリィ連れて、アシェの部屋にでも逃げこめ。鍵どころか扉が開いててアシェが近くに居るなら、巻き込まれる可能性もある。応接間の先の廊下までなら、アシェも許してくれるだろ。」
「……うん、そうする。」
少しだけデュークの表情が和らいだことに、エラートは安堵した。
元々真面目な性格というのもあるだろうが、リリアーデ絡みとなると一人で抱え込んで守ろうとする傾向がある。
リリアーデが眠れていないということは、デュークも熟睡までは出来ていないんじゃないかと思う。
「そういえば、今日ってそもそも、リリィが何か話したい事があるって言ってたよね?」
「寝ちまってるし、起こさない方が良いだろ。解散するか?」
土の双子の言う通り、今日の集まりの主催はリリアーデだった。
もしかしたら愚痴を吐きたかったのかもしれないが、それだけで全員集めたりするだろうか。
それこそ見えない護衛達が近くに居ない場所で、デュークに愚痴を吐けば良いだけである。
「リリィ達から話は聞いてるし、僕が話すよ。……あまりにも無茶苦茶な話すぎて、僕の口から話したくないけど。」
「無理に話さなくても良いよ?前期の内なら、生徒会休んで抜けることはできるし。」
「俺は毎日暇してるしな。」
「トワ……それリリィの前で言ってたら、毎日駆り出されることになってたよ?」
溜息と共に告げられた言葉に、エトワールを始め何の話?と首を傾げた。
「今日の本題……そもそも、女子生徒とか【シーズンズ】で出回ってる噂……皆知らないよね?」
エラートもだが、皆噂話には興味がない。
噂話を仕入れて話題にする人が居ればまた違うのかもしれないが、噂話を仕入れるのはリリアーデくらいで、リリアーデも女友達との会話で得ているくらいだろう。
「やっぱり知らないよね……。元はアシェがやろうとしてたのに、【シーズンズ】が口を挟んでファンクラブイベントとしてやることになったらしいんだけど……。その内容がさ……婚約者の居ない希望者とキスするイベントなんだよね。」
あまりにも突拍子もない話に、思わずエラートは口を挟んだ。
「待った、デューク。……なんでファンクラブイベントで、キスなんだ?わけわかんねぇ……。」
「僕にだって分からないよ。リリィに後押しせずに止めろって言ったけど、アシェは寂しいのよって言われるだけだし。元はアシェが流した噂が発端みたいだし。一応イベント扱いにしたことでアシェに出来るだけ危害が及ばないように、かなり厳重に見張りもしてくれるらしいけど……。参加者からお誘いを受けて、気にいれば夜に部屋に招くとか言うんだよ?それもイベント自体が社交界デビュー後からで、女だって発表した後なのに。ほんと馬鹿なんじゃないのか?」
イライラとした様子のデュークが言いたい意味も分かる。
確かに以前、アシェル本人の口から獣人寄りの考え方だと聞いたことはあるが、イベント形式でキスまでなら不届き物はそうそう居ないと思う。
だが部屋にまで招くとなると、行為的にその先まで見据えているということだろう。
仮に男でも招こうものなら、最近自暴自棄気味に見えるアシェルは簡単にその身体を差し出してしまいそうな気もする。
「なぁ、デューク。そのイベントと俺が駆り出される意味が全く繋がらねぇんだけど?」
「多分アシェに何か食べさせるためになんだろうけど、イベントに参加するにはチョコレートをアシェの口に入れて、それが溶けきって味がしなくなればオシマイってルールがあるんだよ。でも前提条件として、婚約者持ちはイベントに参加できないから。トワとエトなら参加できるだろ?」
「あー、つまり婚約者の居ない二人をイベントに参加させて、アシェにチョコレートを食べさせろーって話なんだねー?」
「そういうことだ。」
確かに幼馴染の中で婚約者がいないのは、アークエイドとアシェル、エラートにエトワールだ。
だからといって、アークエイドが想いを寄せているアシェルとキスをするなんて、やりたくないし殺されたくもない。
「俺は嫌だぞ!ファーストキスくらい好きな子とか、婚約者としたいっ。エトもそう思うだろ!?」
「俺はトワ程ロマンチストじゃねぇけど……。そのイベントに俺らが参加したってアークにバレたら、刺されそうだ。俺はまだ死にたくねぇし、ダチの好きな女に手を出したくねぇ。」
「唇じゃなければ良いんだな?それなら問題ない。口付け推奨らしいが、指でも可だそうだ。イベントに興味はあるけど、ファーストキスは取っておきたい人用の設定らしい。」
「指?アシェの口にチョコ放り込むだけで良いのか?それなら——。」
「違うっ、トワ!絶対それだけで終わらないからっ。トワは今好きな子居ないんだし、キスにしてもらったほうがいいよ。絶対その方が良いからっ!」
何故か顔を真っ赤にしたノアールが、エトワールへキスしたほうがいいと説得しだす。
デュークの言葉通りなら、チョコレートを口移しではなくアシェルの口に放り込むだけではないのだろうか。デュークもノアールの慌てように首を傾げている。
そしてエラートの肩には、ズシリとマリクが寄りかかってくる。
「エトも別にキスで良いんじゃないのー?アシェのキス、すっごくじょーずだよー。」
「上手い下手の問題じゃねぇんだよ。マリクやアシェは獣人寄りかもしれねぇけど、俺は人族だからな?そういうのは生涯を誓った相手とするもんだ。」
「そーいうもんなのー?俺はメルちゃんから、相手もどーいの上で、貢いだりして入れ込まなければ、しょーかんとかアシェと遊んでもいーよって言われたよー?」
「はぁっ?メルがそれ言ったのか!?」
「そーだよー。でも一人の子に入れ込んで貢いだりするのは、不倫になるからダメだよーって言われたー。メルちゃんだけじゃ、俺の相手できないだろうからーだってー。」
確かに獣人には発情期があるし、マリクとメルティーでは体格差がありすぎる。
だが、義姉や娼婦との関係を許可するようには見えないのだが、そこは政略結婚だからと割り切っているのだろうか。というか、選択肢に義姉を入れて良かったのだろうか。
それとも獣人であるマリクが相手だからこその妥協案なのだろうか。もしくは少なからずアシェルの影響を受けているのだろうか。
エラートには全く訳が分からない。
「マリクとメルの状況は分かったけど、俺は違うからな?あと、メルが良いって言っても、娼館とか使うのは最低限にしとけ。旦那が娼館通いだって噂が流れると、外聞が良くないからな。」
「しょーかんには行きたくないよー。けしょーとかこーすいの匂いがきつそーだもん。」
エラートとマリクがそんなことを話している間も、ノアールとエトワールは声を潜めて内緒話をしている。
ノアールが耳に手を当て呟いた言葉を聞いたエトワールは、ノアールのように顔を真っ赤にしてしまった。
「ノア……それ本気で言ってる?」
「こんな恥ずかしいことで嘘つくわけないでしょっ。」
「……よく人の部屋で出来たな?」
「言わないでっ!地味に気にしてるんだからっ!……アシェにバレないように、アークがわざわざ普段使ってない方に案内してくれたんだから。あのまんまじゃ部屋に帰るのすら無理だったんだもん、仕方ないでしょ。」
「さっきから二人は何の話をしてるんだ?俺がリリィから聞いたのは、指を代わりにとしか聞いてないんだけど。」
頬を染めたまま言葉の応酬を重ねる双子に、デュークは口を挟んだ。
話が全く見えてこない。
「詳しく話すかはノアが決めろよ。幸い、騒ぎそうなリリィは寝てるし。とりあえず俺から言えることは……エト。どっちを選んでも地獄かもしれない……。」
「は?ちょっと待て、それ一番訳分かんねぇぞ??ノア、どういうことだ?」
エトワールは口の前で指でバツを作った。それ以上話すつもりはないらしい。
仕方ないのでノアールに問いかければ、迷うようにシトリン色の視線が彷徨う。
「……その……情けない話だから、アビー様には絶対言わないでくれる?」
三人とも頷く。
そもそも、入学してからはあまりアビゲイルと話すこともない。
非公式お茶会の時だって、ノアールに会いに来たついでに少しだけ他の幼馴染達と話していたくらいだ。
相手は王族で女性なので、いくら顔見知りとはいえ、こちらからは話しかけにくいのだ。
「アビー様にプロポーズする前に、アシェに相談しに行ったんだけど……アークも居て、話聞いてもらったんだ。その時にね、アビー様にプロポーズしたら、多分唇を奪われるだろうって言われて……。アシェはキスが上手らしいから、コツが無いかって聞いたんだ。そしたら、色々教えてくれて……でも、上達するには練習するしかないって……。」
上達するには経験と反復練習が必要だと、よくアシェルが言っている。
アドバイスとして特におかしいことではない気がする。
だが顔を真っ赤にしたまま黙り込んでしまったノアールに、デュークは憐れみの眼を向けた。
「僕はなんとなく予想がついた。僕には全く分からない感覚だけど、アークからよく突拍子もない話を聞いてるから。」
「そう……本当に突拍子もないっていうか……。結局どんなものか知らないと出来ないでしょって言われて、アークと実際にキスするところを見せてくれて……。僕はアビー様とファーストキスしたいだろうからって、指に舌を絡められたんだよ。実際にキスできなくても、体感しないとわからないからって。それが、その……すっごくエッチで。指を咥えられて舐められてるだけなのに……連想しちゃったせいか反応しちゃって。すぐにお手洗いを借りて、アシェにはバレずに済んだんだけど。その時はアシェは教える事だけが目的だったから、特に何も聞かれてないし僕の反応を楽しんだりはしてなかったけど。イベントでしょ?反応したのがバレたら、多分すっごく遊ばれると思うんだよね……。下手したら、なんで反応したのか洗いざらい吐かされる恐れもあると思う……。」
ノアールが直面した状況は連想しやすい意味深すぎる行為なので、男として身体が反応してしまうのは分からなくもない。
ただ最後にもたらされた情報はエラートとエトワールにとって、確かにどちらを選んでも地獄だと言えるだろう。
アシェルのことだから、何で?の質問攻めにあうか、理由が分かっていて口にしろと言われ揶揄われるかのどちらかの未来が待っているだろう。
「アシェにカロリーを摂らせたいのは分かる……。分かるけど、イベントには行きたくねぇ。」
「俺も。なぁ、デューク。そのイベントっていつどこでやるんだ?俺もエトも、その日はバックレる。」
「場所は生徒会室から一番遠い、五階と屋上を繋ぐ階段の踊り場。時間はアシェが昼間観てない二時間だけ。開催日は一日だけじゃなくて、社交界開始の翌日からアシェが飽きるまで平日は毎日。リリィもだけど、少なくともイザークやシオンもグルだぞ。【シーズンズ】の会員達に追いかけられる可能性もある。毎日逃げ切れるのか?下手に逃げるより、一日だけイベントに参加して、これっきりだと告げた方が良い気がするぞ。」
ファンクラブ会員は一学年の100人近い人数を余裕で収容できる大講堂で、いつも集会を開いているらしい。
それもほぼ満席だそうだ。
各学年、男女問わず居るであろう会員達から逃げ切るのは、部屋に籠城し続けない限り無理だ。
一日なら籠城でも良かったが、無期限となるとエラートとエトワールの敗北は確定したようなものである。
「……初日に必ず五階に来るって言うなら、二人はその日の参加だけにしてやってくれって、リリィに頼んでみるよ。リリィは自分が参加できないから、二人を巻き込もうとしただけみたいだしな。」
デュークの天の助けとも言える提案に、エラートもエトワールも大人しくイベントに参加することを承諾して、この日の集まりは解散となった。
社交シーズンの始まりが目前に迫ったある日。
アークエイドとアシェルを除いた幼馴染達は、放課後の教室に集まっていた。
ノアールは生徒会の会議を休んでの参加である。
「あーもうっ。なんでアークはなんにも気付かないのよっ。アシェが何も言わなくても、普通気付くでしょ?あんな我儘ツルペタ幼女の何が良いのよっ。アークってばロリコンだったわけ?まぁ、同い年なら合法ロリだものね。だからといって、アシェの顔を見ようともしないのは違うと思うのよ。あれだけアシェのこと好き好き言ってたのに、良い縁談があればポイ捨てするなんて最低だわっ。」
声を全く抑えることもせず、ぷりぷりとリリアーデが思っていることをぶちまける。
アークエイドがアシェルから距離を取る理由を知っているエラートとマリクは、それを複雑な気持ちで聞くしかない。
アークエイドなりにアシェルを守ろうとしていることは分かるが、流石に目を背けすぎだと感じているからだ。
「なぁ、リリィ。理由は言えねぇけど、あれでもアークなりに——。」
「アシェのことを気にかけてるって言うんでしょ?何回も聞いたから知ってるわよっ。でもね、コレじゃ気にかけてないのと一緒なの。皇女がアシェのことパシリにしてるのに、それを当たり前のように受け入れて。好きじゃなくてただの友人だったとしても、友人がパシリにされたら普通嫌な気分になるとか、注意するとかするでしょ?それにやけに懐いてるみたいだけど、アシェはあのガキンチョの保護者じゃないのよ?当たり前のようにアシェのことこき使って、お世話されて。自分の世話位自分でしたらどうなのよっ。」
怒りながらも涙を浮かべるリリアーデを、デュークが抱きしめて宥める様に頭を撫でてやる。
「リリィ、少し落ち着け。俺達がそうやって怒ったところで、当の本人がアークやムーラン皇女の臣下として振舞ってるんだ。それも、なるべく二人の視界に入らない位置に控えて。部屋で愚痴を言う訳にもいかないし、リリィの鬱憤が溜まってるのも分かるが……少し落ち着け。な?」
「だって……アシェずっと起きてるのよ……。イザベルがお昼寝も出来てないって言ってたわ。アークが夜は観るなって言ったから守ってるみたいだけど……でも扉のすぐそこに座ってるほうが身体に悪いわ。それに変なのは、アシェの部屋にちょっとずつ近付いてるんだもの。どうしたらいいのよっ。」
うわぁんと声を上げて泣き出したリリアーデを、デュークはよしよしと撫でてやる。
部屋でこんな愚痴を吐けば、廊下に聞こえたり見えない護衛達にバレる恐れがある。
こんなことを思っていたとしても軽々しく口に出来ないのだ。
「ねぇ、変なのってなにー?それに、アシェの部屋に近づいてるってどういうことー?」
少しだけピリッとした様子のマリクに尋ねられ、デュークは迷いながらも口を開く。
理由までは聞いていないが、どうもマリクもエラートもアークエイドではなく、アシェルを守ろうとしているように感じている。
「アシェがなんで部屋の扉を少しだけ開けたまま、ずっと扉の傍に座っているか分からないから、毎晩リリィと散歩と称して少し外に出てるんだ。俺達が気付いたのは多分、アシェが夜観なくなって一週間後くらいからだと思う。デートなら人目を気にする人も居るし、廊下なんかの歩くスペースだけ探査魔法を使っていても、そこまでおかしくないだろ?」
デュークの言葉に幼馴染たちは頷く。
「探査魔法自体はリリィが使ってるんだけど……最初はアークの部屋の扉の前に居たはずなのに、毎日半歩ずつくらい。少しずつアシェの部屋に近づいてるらしいんだ。マリクとエトが知ってることを、近衛が知らないわけないだろ?だから、最初は勘違いかと思ってたんだが……。もうアークとアシェの部屋の、扉の間辺りまで来てるらしい。」
「それって、アシェを狙ってるって事?」
「でも、廊下に居てリリィの探査魔法にかかるってことは、近衛だって気付くだろ?」
ノアールとエトワールの問いに答えたのはマリクだ。
耳も尻尾も警戒時や魔物と対峙している時のように、ピンと立っている。
「それがほんとーにしゅーげきしゃならねー。ろーかにいて何も言われてないなら、もしかしたらあっちの護衛の誰かかもしれないねー。」
どういうこと?と首を傾げる面々にエラートが補足を入れる。
「あちらさん的に、アシェを脅威だと認識した恐れがあるってことだよ。もしくは、アーク関連だから潰そうとしてるか。護衛の一人なら廊下に居ても不思議じゃないし、アシェみたいに上手く魔力を使えば、他人の探査魔法にかからないように誤魔化しも効くみたいだしな。リリィが気付くなら、その可能性は低いけど……。アシェに近づいてるのに、誰も何も言わないのは気になるな。なんにせよ不味いことに変わりはないな。」
何をきっかけにアシェルを狙いだしたのかが分からないが、これでは折角アークエイドがアシェルを無視しようとしているのが無駄になってしまう。
かといってアシェルが狙われている可能性があるとは、口が裂けてもアークエイドに伝える訳にはいかない。
そんなことを伝えたら、アークエイドが暴走してしまう可能性もある。それでは本末転倒だ。
とりあえず、事情を知っていて信頼できるダニエルに伝えるべきだろう。
彼はアークエイド専属の近衛騎士だし、アークエイドを裏切るような真似はしないだろう。
問題はアシェルを狙う輩は確実に警備の配備も、近衛の動きにも気を配っていることだろう。
となると、ダニエルともう一人の近衛だけで上手く捕まえられるかどうかが分からない。
そしてマリクとエラートでは、あのオートロックエリアに居るだけで目立ってしまう。
傍で違和感なくアシェルを守る為に二人が選ばれ、本来一般人には伝えられない内容を伝えられたのだ。
これが日中のことであればエラートとマリクが今まで以上に注意すれば良いだけなのだが、夜となると護衛は難しくなってしまう。
それに、既にアシェルが社交界デビューで女性であると発表することが決まっている。
心身を擦り減らしているアシェルのためにも、今後変な噂を立てられないためにも。エラートやマリクが、アシェルの部屋を夜訪室するわけにはいかないのだ。
黙り込んでどうすればアシェルを守れるか考えている二人に、デュークは声を掛ける。
「つまり、確実にアシェを狙ってるって分かれば、殺っても構わないんだな?事情は分からないが、夜じゃ二人はこっちまで入ってこれないだろ。一応リリィと話し合って、アシェの部屋に一番近い壁掛け灯の下までそいつがきたら、こっちから仕掛けるつもりでいる。ちゃんと合図も決めてあるし、一応無力化までの予定だが、相手次第で殺る覚悟もしてる。」
そこまで言ってデュークは、腕の中で泣き疲れて眠るリリアーデを見た。
「……というより、リリィもかなり限界なんだ。ずっとアシェの心配をしてて、あんまり夜も眠れてない。特にあいつに気付いてからは。食事は摂れてる分アシェよりはマシだし、本人は昔は不眠気味だったしこれくらい平気なんて言うけど……。なるべく僕が傍に居て、気付けば注意するようにしてるけど、ちょっとした感情の起伏で魔力が漏れてることもある。何をきっかけに暴発するかも分からないし、どんな形で魔法が発現するかも分からない。前世ではどんな理由であれ犯罪だったという殺人を、リリィにさせたくないんだ。そうなってしまいそうなら、僕は躊躇わずにアイツを殺す。」
強い決意を抱いたデュークの肩を、エラートはポンポンと叩く。
「気負い過ぎだ。でも正直なところ、俺らじゃ手出しできない場所だから助かる。アークの近衛のダニエル殿にだけは話を伝えておくから、異変があれば気付いてくれるはずだ。白騎士が出てきたらすぐにリリィ連れて、アシェの部屋にでも逃げこめ。鍵どころか扉が開いててアシェが近くに居るなら、巻き込まれる可能性もある。応接間の先の廊下までなら、アシェも許してくれるだろ。」
「……うん、そうする。」
少しだけデュークの表情が和らいだことに、エラートは安堵した。
元々真面目な性格というのもあるだろうが、リリアーデ絡みとなると一人で抱え込んで守ろうとする傾向がある。
リリアーデが眠れていないということは、デュークも熟睡までは出来ていないんじゃないかと思う。
「そういえば、今日ってそもそも、リリィが何か話したい事があるって言ってたよね?」
「寝ちまってるし、起こさない方が良いだろ。解散するか?」
土の双子の言う通り、今日の集まりの主催はリリアーデだった。
もしかしたら愚痴を吐きたかったのかもしれないが、それだけで全員集めたりするだろうか。
それこそ見えない護衛達が近くに居ない場所で、デュークに愚痴を吐けば良いだけである。
「リリィ達から話は聞いてるし、僕が話すよ。……あまりにも無茶苦茶な話すぎて、僕の口から話したくないけど。」
「無理に話さなくても良いよ?前期の内なら、生徒会休んで抜けることはできるし。」
「俺は毎日暇してるしな。」
「トワ……それリリィの前で言ってたら、毎日駆り出されることになってたよ?」
溜息と共に告げられた言葉に、エトワールを始め何の話?と首を傾げた。
「今日の本題……そもそも、女子生徒とか【シーズンズ】で出回ってる噂……皆知らないよね?」
エラートもだが、皆噂話には興味がない。
噂話を仕入れて話題にする人が居ればまた違うのかもしれないが、噂話を仕入れるのはリリアーデくらいで、リリアーデも女友達との会話で得ているくらいだろう。
「やっぱり知らないよね……。元はアシェがやろうとしてたのに、【シーズンズ】が口を挟んでファンクラブイベントとしてやることになったらしいんだけど……。その内容がさ……婚約者の居ない希望者とキスするイベントなんだよね。」
あまりにも突拍子もない話に、思わずエラートは口を挟んだ。
「待った、デューク。……なんでファンクラブイベントで、キスなんだ?わけわかんねぇ……。」
「僕にだって分からないよ。リリィに後押しせずに止めろって言ったけど、アシェは寂しいのよって言われるだけだし。元はアシェが流した噂が発端みたいだし。一応イベント扱いにしたことでアシェに出来るだけ危害が及ばないように、かなり厳重に見張りもしてくれるらしいけど……。参加者からお誘いを受けて、気にいれば夜に部屋に招くとか言うんだよ?それもイベント自体が社交界デビュー後からで、女だって発表した後なのに。ほんと馬鹿なんじゃないのか?」
イライラとした様子のデュークが言いたい意味も分かる。
確かに以前、アシェル本人の口から獣人寄りの考え方だと聞いたことはあるが、イベント形式でキスまでなら不届き物はそうそう居ないと思う。
だが部屋にまで招くとなると、行為的にその先まで見据えているということだろう。
仮に男でも招こうものなら、最近自暴自棄気味に見えるアシェルは簡単にその身体を差し出してしまいそうな気もする。
「なぁ、デューク。そのイベントと俺が駆り出される意味が全く繋がらねぇんだけど?」
「多分アシェに何か食べさせるためになんだろうけど、イベントに参加するにはチョコレートをアシェの口に入れて、それが溶けきって味がしなくなればオシマイってルールがあるんだよ。でも前提条件として、婚約者持ちはイベントに参加できないから。トワとエトなら参加できるだろ?」
「あー、つまり婚約者の居ない二人をイベントに参加させて、アシェにチョコレートを食べさせろーって話なんだねー?」
「そういうことだ。」
確かに幼馴染の中で婚約者がいないのは、アークエイドとアシェル、エラートにエトワールだ。
だからといって、アークエイドが想いを寄せているアシェルとキスをするなんて、やりたくないし殺されたくもない。
「俺は嫌だぞ!ファーストキスくらい好きな子とか、婚約者としたいっ。エトもそう思うだろ!?」
「俺はトワ程ロマンチストじゃねぇけど……。そのイベントに俺らが参加したってアークにバレたら、刺されそうだ。俺はまだ死にたくねぇし、ダチの好きな女に手を出したくねぇ。」
「唇じゃなければ良いんだな?それなら問題ない。口付け推奨らしいが、指でも可だそうだ。イベントに興味はあるけど、ファーストキスは取っておきたい人用の設定らしい。」
「指?アシェの口にチョコ放り込むだけで良いのか?それなら——。」
「違うっ、トワ!絶対それだけで終わらないからっ。トワは今好きな子居ないんだし、キスにしてもらったほうがいいよ。絶対その方が良いからっ!」
何故か顔を真っ赤にしたノアールが、エトワールへキスしたほうがいいと説得しだす。
デュークの言葉通りなら、チョコレートを口移しではなくアシェルの口に放り込むだけではないのだろうか。デュークもノアールの慌てように首を傾げている。
そしてエラートの肩には、ズシリとマリクが寄りかかってくる。
「エトも別にキスで良いんじゃないのー?アシェのキス、すっごくじょーずだよー。」
「上手い下手の問題じゃねぇんだよ。マリクやアシェは獣人寄りかもしれねぇけど、俺は人族だからな?そういうのは生涯を誓った相手とするもんだ。」
「そーいうもんなのー?俺はメルちゃんから、相手もどーいの上で、貢いだりして入れ込まなければ、しょーかんとかアシェと遊んでもいーよって言われたよー?」
「はぁっ?メルがそれ言ったのか!?」
「そーだよー。でも一人の子に入れ込んで貢いだりするのは、不倫になるからダメだよーって言われたー。メルちゃんだけじゃ、俺の相手できないだろうからーだってー。」
確かに獣人には発情期があるし、マリクとメルティーでは体格差がありすぎる。
だが、義姉や娼婦との関係を許可するようには見えないのだが、そこは政略結婚だからと割り切っているのだろうか。というか、選択肢に義姉を入れて良かったのだろうか。
それとも獣人であるマリクが相手だからこその妥協案なのだろうか。もしくは少なからずアシェルの影響を受けているのだろうか。
エラートには全く訳が分からない。
「マリクとメルの状況は分かったけど、俺は違うからな?あと、メルが良いって言っても、娼館とか使うのは最低限にしとけ。旦那が娼館通いだって噂が流れると、外聞が良くないからな。」
「しょーかんには行きたくないよー。けしょーとかこーすいの匂いがきつそーだもん。」
エラートとマリクがそんなことを話している間も、ノアールとエトワールは声を潜めて内緒話をしている。
ノアールが耳に手を当て呟いた言葉を聞いたエトワールは、ノアールのように顔を真っ赤にしてしまった。
「ノア……それ本気で言ってる?」
「こんな恥ずかしいことで嘘つくわけないでしょっ。」
「……よく人の部屋で出来たな?」
「言わないでっ!地味に気にしてるんだからっ!……アシェにバレないように、アークがわざわざ普段使ってない方に案内してくれたんだから。あのまんまじゃ部屋に帰るのすら無理だったんだもん、仕方ないでしょ。」
「さっきから二人は何の話をしてるんだ?俺がリリィから聞いたのは、指を代わりにとしか聞いてないんだけど。」
頬を染めたまま言葉の応酬を重ねる双子に、デュークは口を挟んだ。
話が全く見えてこない。
「詳しく話すかはノアが決めろよ。幸い、騒ぎそうなリリィは寝てるし。とりあえず俺から言えることは……エト。どっちを選んでも地獄かもしれない……。」
「は?ちょっと待て、それ一番訳分かんねぇぞ??ノア、どういうことだ?」
エトワールは口の前で指でバツを作った。それ以上話すつもりはないらしい。
仕方ないのでノアールに問いかければ、迷うようにシトリン色の視線が彷徨う。
「……その……情けない話だから、アビー様には絶対言わないでくれる?」
三人とも頷く。
そもそも、入学してからはあまりアビゲイルと話すこともない。
非公式お茶会の時だって、ノアールに会いに来たついでに少しだけ他の幼馴染達と話していたくらいだ。
相手は王族で女性なので、いくら顔見知りとはいえ、こちらからは話しかけにくいのだ。
「アビー様にプロポーズする前に、アシェに相談しに行ったんだけど……アークも居て、話聞いてもらったんだ。その時にね、アビー様にプロポーズしたら、多分唇を奪われるだろうって言われて……。アシェはキスが上手らしいから、コツが無いかって聞いたんだ。そしたら、色々教えてくれて……でも、上達するには練習するしかないって……。」
上達するには経験と反復練習が必要だと、よくアシェルが言っている。
アドバイスとして特におかしいことではない気がする。
だが顔を真っ赤にしたまま黙り込んでしまったノアールに、デュークは憐れみの眼を向けた。
「僕はなんとなく予想がついた。僕には全く分からない感覚だけど、アークからよく突拍子もない話を聞いてるから。」
「そう……本当に突拍子もないっていうか……。結局どんなものか知らないと出来ないでしょって言われて、アークと実際にキスするところを見せてくれて……。僕はアビー様とファーストキスしたいだろうからって、指に舌を絡められたんだよ。実際にキスできなくても、体感しないとわからないからって。それが、その……すっごくエッチで。指を咥えられて舐められてるだけなのに……連想しちゃったせいか反応しちゃって。すぐにお手洗いを借りて、アシェにはバレずに済んだんだけど。その時はアシェは教える事だけが目的だったから、特に何も聞かれてないし僕の反応を楽しんだりはしてなかったけど。イベントでしょ?反応したのがバレたら、多分すっごく遊ばれると思うんだよね……。下手したら、なんで反応したのか洗いざらい吐かされる恐れもあると思う……。」
ノアールが直面した状況は連想しやすい意味深すぎる行為なので、男として身体が反応してしまうのは分からなくもない。
ただ最後にもたらされた情報はエラートとエトワールにとって、確かにどちらを選んでも地獄だと言えるだろう。
アシェルのことだから、何で?の質問攻めにあうか、理由が分かっていて口にしろと言われ揶揄われるかのどちらかの未来が待っているだろう。
「アシェにカロリーを摂らせたいのは分かる……。分かるけど、イベントには行きたくねぇ。」
「俺も。なぁ、デューク。そのイベントっていつどこでやるんだ?俺もエトも、その日はバックレる。」
「場所は生徒会室から一番遠い、五階と屋上を繋ぐ階段の踊り場。時間はアシェが昼間観てない二時間だけ。開催日は一日だけじゃなくて、社交界開始の翌日からアシェが飽きるまで平日は毎日。リリィもだけど、少なくともイザークやシオンもグルだぞ。【シーズンズ】の会員達に追いかけられる可能性もある。毎日逃げ切れるのか?下手に逃げるより、一日だけイベントに参加して、これっきりだと告げた方が良い気がするぞ。」
ファンクラブ会員は一学年の100人近い人数を余裕で収容できる大講堂で、いつも集会を開いているらしい。
それもほぼ満席だそうだ。
各学年、男女問わず居るであろう会員達から逃げ切るのは、部屋に籠城し続けない限り無理だ。
一日なら籠城でも良かったが、無期限となるとエラートとエトワールの敗北は確定したようなものである。
「……初日に必ず五階に来るって言うなら、二人はその日の参加だけにしてやってくれって、リリィに頼んでみるよ。リリィは自分が参加できないから、二人を巻き込もうとしただけみたいだしな。」
デュークの天の助けとも言える提案に、エラートもエトワールも大人しくイベントに参加することを承諾して、この日の集まりは解散となった。
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