氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第四章 王立学院中等部三年生

240 甘いくちどけとトキメキ③

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Side:アシェル14歳 夏



エトワールの言う通り、そこからは女生徒の来訪が続いた。

キスを目的にくる子から、ファーストキスはとっておきたいけどアシェルにチョコレートを食べさせるためにくる子。どっちでも良いけど公式イベントと聞けば参加したいという、イベントへの参加そのものが目的の子まで。

それから一定数、アシェルの部屋にお呼ばれしたい子が混じっていた。

ユーリの言っていた、部屋にさえ招いてもらえたら放置しても良いという子も居たが、今日は5人目のお誘いをかけてきた子にしようと決めていた。
——そんなにお誘いがかからないだろうと思って決めた数字だが、一時間もしないうちに5人目がやってきた。

今日のお誘いは、年上の貴族に嫁ぐことが決まっているご令嬢だった。
婚約まではしていないがほぼ確定らしい。

婚約式はしていないがそれでもイベントに参加できるか聞いてきた上で、見知らぬ相手と初夜を過ごす前に、たっぷりと愛されたいというご希望だ。

跡継ぎを産むことだけを目的に嫁ぐらしいので、子供さえ出来ていなければ婚約式を挙げるまで自由にしていいらしい。
となると、確かに女の子と子供の作りようがないアシェルは適任だ。

「いいよ。今日の18時半に男子寮の5階、オートロックで512号室を鳴らして。時間は19時半までだけど、早く帰る分には構わないから。それと……お誘いを受けた子には首輪をつけて貰わないといけないんだけど、聞いてるかな?」

「あ、ありがとうございます!はい、伺っていますわ。どうしたら良いですか?」

「動かないで。」

『ストレージ』から赤い首輪を取り出して、腕の中に居る目の前の少女のブラウスのボタンを外していく。

その細い首に真っ赤な首輪をつけて錠前を締めれば、カチリと音がして施錠された。

それから首輪の少し下に顔を埋め、チュウっと強く吸い付いて花びらを散らす。

アシェルが顔を上げれば、上気した顔の少女と目が合った。

今付けた所有印に指を這わせれば、ビクッと少女の身体が跳ねる。

「首輪も所有印コレも、僕と今日遊び終わったら綺麗にしてあげる。男子寮に来る時と帰る時には仮面をつけていて欲しいから、モニターに首輪と僕の所有印が映るようにしてね。仮面には少し強めに認識阻害をかけてるから、口元以外あまりよく見えないから。服装は自由だけど……制服ならリボンは外してきてね。はい、これ。」

『ストレージ』から取り出した、認識阻害の術式を施した仮面を手渡す。
その仮面は少女の『ストレージ』に消える。

「部屋の中では仮面は好きにしてもらっていいよ。返却は明日、運営の誰かに渡してね。それから……首輪までは良いけど、所有印コレは他の人に見せないでね。」

こくこくと頷いた少女の額にキスをして、終わりを告げる。

いそいそと身だしなみを整えた少女が走り去っていく。

その後は本当に、一切のお誘いがかからなかった。

思う存分温もりを抱きしめて、甘いキスをして、可愛い反応を楽しんで。

この人肌恋しさが消えることは無いと分かっているが、それでも少し満たされた気がする。

最後にやってきたのはミルルだった。

「ミルル先輩ってことは、今日はもう終わりですか?」

「はい、その通りですわ。エラート君とエトワール君が、運営ならイザーク君でも良いだろって言ってましたけど、わたくしかカナリアさんのお約束でしたので。イザーク君は明日の早いうちにですわね。」

「一応膝に乗ってもらってキスしてって流れですけど……。ミルル先輩はキスと指、どっちをご希望ですか?」

「わたくしはキスでお願いします!折角実体験できるのに、体験しないわけにはいきませんから。あ、キスだとアシェル様に抱えて貰うのが前提ですか?」

「ふふっ、それ僕とキスがしたいんじゃなくて、作品の為に、ですよね。ミルル先輩のご希望のシチュエーションがあれば合わせますよ?」

「壁ドンでお願いします!リリアーデさんから、実際の破壊力が凄まじいと聞いてますので!」

リリアーデからどういう話を聞いたのだろうか。
というか、それは潜在消費したリリアーデに口付けした時の状況を聞いたのだろうか。

興奮気味に話すミルルの為に、ご希望のシチュエーションを再現することにする。

「ミルル先輩。チョコだけ先に受け取って良いですか?」

「口移しですよね?」

「えぇ、イベントですからね。」

立ち上がってミルルからチョコレートを受け取り、そのままミルルの腕を引っ張った。

バランスの崩れたミルルの身体を、そのまま壁に押し付ける。

アシェルの腕をミルルの頭の横にある壁に付ければ、壁ドンの完成だ。

目と鼻の先にあるミルルの顔が真っ赤に染まる。

「こ、これが壁ドン……確かに凄いですわ……。」

「クスッ……まだこれからだよ?いっぱい気持ち良くなってね。」

アシェルの口にチョコレートを放り込んでから、ミルルの腰と頭を軽く引き寄せ、アシェルの身体と密着させる。

立ったままだとミルルが腰を抜かすと危ないので、しっかりと片足もミルルの脚の間に押し込んでおく。
抱き抱えていても力が抜けてしまう子が多かったので、立ってキスをするなら必須だろう。

啄むように何度かキスをして、舌を押し込む。

ぎこちなく迎え入れてくれたミルルの口の中に、溶けたチョコレートを流し込みながら舌を絡めていく。

ミルルの唇から漏れる息が荒くなり、小さな嬌声が漏れる。

アシェルにしがみついているが、もう脚には力が入っていないようだ。

薄墨色の髪の毛を撫でているだけなのに、その度にビクビクと跳ねる姿が可愛い。

チョコレートの味がしなくなり、唇を離せば蕩けたミルルの表情が視界に入る。
その耳元に唇を寄せた。

「沢山気持ち良くなれた?もっとシてほしいなら、可愛がってあげるよ。今日のイベントは終わったから、時間もたっぷりあるしね。」

「えっ、やっだめですっ!イベントはキスまででっ。サービスもそれ以上は過剰ですっ。」

我に返ったミルルがじたばたと暴れ出す。
これだけしっかりすれば、支えが無くても大丈夫だろうと思えるくらいに。

「ふふっ、冗談ですよ。嫌がるレディを組み敷く趣味はありませんから。そういうプレイをするなら、同意の上でじゃないと。立てますか?」

「揶揄わないでくださいませ……。えぇ。もう大丈夫ですわ。それにしても聞くより断然素晴らしかったですわ、早速メモを取らないと!」

しっかりとした足取りでアシェルの腕の中から逃れたミルルは、既にノートと万年筆を取り出していた。
放っておいたら、ここで延々とネタを書き込みそうだ。

「ブレませんね。でも、それはちゃんと皆のところに戻った後にしましょうね。心配されちゃいますから。」

「あ、あ、でも少しだけっ。わたくしは後で戻るとお伝えください!」

一度メモを取り出すと止まらないらしい。

相変わらずミルルのメモには、イラストから文字まで思うがままに書き連ねられている。

「暴れないで下さいね。スカートだと動きにくいので。」

「わわっ。流石アシェル様。サービス精神旺盛ですわ……。ネタの降臨が止まりませんっ!」

アシェルが抱き抱えたことに驚きはしたものの、羞恥心よりもメモの方が優先されたらしい。

アシェルの腕の中で一心不乱に万年筆を動かすミルルを抱えたまま、受付をしてくれていた運営の元へと戻る。

廊下にアシェル達の姿が見えた瞬間から、廊下に黄色い声が響いている。

イベント終了の合図を貰ったので既に【シーズンズ】の運営だけかと思っていたのだが、想像以上に人が残っていた。

「あらあら、ミルルさんったら。そんなにいい収穫があったのかしら?」

ユーリの声にミルルはコクコクと頷いた。
喋るより手を動かすほうが大事らしい。

「羨ましいわ。わたくしには婚約者がいるから、イベントへの参加は出来ませんものね。」

「ユーリ先輩が参加できたとしても、攻めは譲る気ありませんよ?」

「あら、折角体験できるならどちらも体験したかったのだけれど。まぁ、参加者の話で我慢いたしますわ。流石にルールを守らないわけにはいきませんから。」

「僕も決めたルールを覆すつもりはありませんので。ただ……どれだけユーリ先輩がお話を聞ける生徒が混じってるんですか?5人目の子をお誘いしたのに、5人中3人がご主人様になってくださいっていう申し込みだったんですけど。流石に一生は面倒見切れませんよ?」

そう。

今日断った一人の申し込みは、実際の閨事をする前に、アシェル相手に近いことを体験してみたいという可愛い申し出だった。
男性が苦手なので、その前にワンクッション挟みたいという理由らしい。

だが、問題は残る3人だ。

ユーリの描く漫画のような割とハード目なSMプレイをしたいという申し出に加え、ご主人様になってくれと言われたのだ。

5人目にその申し出が当たっていたら、アシェルはなんと答えたら良かったのだろうか。

「ふふふ、何人いるのかしらね。それにご主人様と言っても、そんなに重たいものではないわよ。お部屋に招いていただく一時間だけ、ペットとして飼ってくれって申し出ですわ。放置するもよし、可愛がるも良し、虐めるもよしですわ。お仕置きが大好きな子もいますしね。もしアシェル様とのプレイが気に入れば、中にはアシェル様さえ良ければ、一生ペットとして飼ってほしがる子も居るかもしれませんわね。でも、そう思ってお伝えしたとしても、それは断っていただいて大丈夫ですわ。基本的に皆割り切って、性癖を曝け出せる場所を求めているだけですもの。」

相変わらずユーリは鈴の鳴るような声と可愛らしい笑顔で、さらりとえげつないことを口にする。

「とりあえず、一生面倒を見る必要が無さそうで安心しました。つまるところ、部屋に呼んだ一時間だけご主人様役をして、ペットの求める行為をしてあげたら良いってことですね?呼ぶとしたら、事前にどこまで良いのか確認しないとだな……信頼関係のないSMなんて、一歩間違えばただの暴力ですからね。」

「ご理解があるようで嬉しいわ。はぁ……アシェル様のプレイを近くで見ていたいわ。」

「流石に、友人に見られながらする趣味はありませんからね?」

「残念だわ。」

全く残念だとは思っていない笑顔だ。
言うだけ言ってみたのだろう。

その話を聞いていたエラートとエトワールは、全く次元の違う話にブルリと身体を震わせた。

「なぁ、イザーク。お前、あの会話の内容、意味わかんのか?」

「俺はすっごく不穏な話をしてるって事しかわかんねぇんだけど。」

「まぁ、ユーリ先輩の言ってることは……それにアシェル君が当たり前のようについていけるのも、今更だし……。……アシェル君が、そういうペットを飼ってたとかってことは無いよな?」

イザークの言葉に、エラートとエトワールは顔を見合わせた。

「アシェの前にって事で良いか?」

「アシェ本人から聞いたの?」

「そう。社交界開始前に女だってことと一緒に、簡単にだけど。【シーズンズ】のよく一緒にいるメンバーはね。」

「あーなるほどな。一応そういう感じじゃなかったらしいとだけ言っとく。そもそも、仲が良かったのは二人だけだったみたいだしな。」

「聞いてたら、血の繋がってない家族って感じみたいだったし。」

「そうなんだ。……女性はなんであの話を聞いて盛り上がれるのかな。ファンクラブ会員で製作陣ではあるけど、流石に盛り上がるより怖いって思ってしまうよ。」

「一人で盛り上がってるやつは居るけどな。」

黄色い歓声の響く廊下で、三人が見つめる先にはシオンの姿。

アシェル様になら一生飼われたいと、頬を染めながら呟いている。

とことん分からない感覚である。

こうして始まった【甘いくちどけとトキメキ】イベントは、【シーズンズ】の作家たちに久しぶりの燃料を投下し。
さらにはこのイベントをきっかけに、ファンクラブ会員も増えたという。

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