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第四章 王立学院中等部三年生
252 アスラモリオンの使者①
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Side:アシェル14歳 秋
9月という、前期と後期に分かれているが故の秋にある夏休み。
アシェルは両親に言われた通り、メイディー公爵家のタウンハウスに帰ってきていた。
勿論、錬金に関する道具も一通り持ち帰り、庭にあるアシェル専用の錬金小屋に持ち込んでいる。
帰ってきてすぐにアベルもメアリーも、血色の良くなったアシェルの姿を見て安堵の表情を見せた。
かなり心配をかけてしまっていたようだ。
そしてアベルにアークエイドから言われた、アスラモリオンに迷惑料代わりに素材を頼めば良いと言われたことを相談すると、かなり乗り気で相談に乗ってくれた。
アシェル狙いの刺客がいたことは、アベルもしっかり聞いていたらしい。
さらっと「モニアが止めなければアシェに被害が出る前に、約束なんてそもそも無かったことにしたのに。」と言っていた。
グリモニアが居なければ、アシェルと同じような思考で同じようなことをしようとしたのだろう。
実際約束したから手出しはしないが、今でもアスラモリオンの皇帝だけは報復を受けても仕方ないとアシェルは思っている。
それと同時に、アシェルさえいなければヒューナイト王国の弱点になることも、アスラモリオン帝国からの無茶な要望を聞き入れる必要もなかったのにと。
そんなこんなで一週間。
日中は実験小屋に引きこもり、ご飯の時間と就寝時間になればイザベルに連れ出され過ごしていた。
今日も昼食の時間に呼び出され、休日で全員揃っている昼食を摂る。
いつもと変わらない日常だが、そこに来訪者があった。
それに受け答えた執事長のウィリアムは「お食事中に失礼します。」と一言声を掛け、アベルに一通の封筒を手渡す。
それを一瞥したアベルは小さく溜め息を吐いた。
「アシェ、三日後に登城する準備をしなさい。アスラモリオンの使者が到着したようだ。私だけでなく、アシェも一緒にとの命令だ。正装で、朝からのご招待だ。」
アベルに見せられた封筒には、王家の家紋が記されている。
「分かりました。」
王宮からの正式な招待なら、アシェルが断ることは出来ない。
準備をしてくれるのは侍女達だが、その日は実験室に籠るなというお達しだろう。
それに、どう決着が着いたのか気になるところでもあった。
三日後。
アシェルは朝から支度をして、メイディーのカラーである紫のドレスに身を包んでいた。
女だと発表した以上、男の正装という訳にはいかない。
同じく正装をしていつもより煌びやかな格好をしたアベルと共に馬車に乗り込み、王宮へと向かう。
馬車から降りることなく王宮の入り口まで通され、案内された場所は謁見室だった。
壇上にはまだ人の座っていない玉座が二つ。
そして、正装に身を包んだアークエイド達王家の子供三人とその護衛の白騎士達。
アシェルとアベルはその壇上下の臣下が並ぶ一番前へと並ぶ。
と言っても、その場所に居るのはそれで全員だった。
程なくしてグリモニアとアンジェラが玉座に座り、謁見室の扉からアスラモリオンの使者の到着を告げる騎士がやってきた。
グリモニアの承認と共に入ってきたのは、明らかに位の高そうな男性と青年、恐らく外交官であろうその臣下。
そして三人の護衛であろう騎士の六人。
「この度は謁見をさせていただき感謝する。」
位の高そうな男性が良く通る声で挨拶をする。
それに答えたのはグリモニアだ。
「まさか、皇帝自ら使者として訪れるとはな。」
皇帝という言葉にアシェルは驚く。
まさか、国のトップがわざわざこうして使者としてやってくるとは思っていなかった。
皇帝と呼ばれた男は魔族特有の青い肌。
そしてムーランやモーリスと同じ褐色の髪の毛だった。
一緒に居る青年も同じ見た目で、よく見ればどちらもムーランとモーリスに似ている。
もしかしたら第一皇子も一緒に来ているのかもしれない、と思うには十分だった。
「無茶を押し通したのはこちらだ。これくらいの誠意は見せる。」
使者というには横柄な態度だが、皇帝であればそれも仕方ないのかと思う。
「無茶と分かっているなら、最初から申し出をしないで欲しかったがな。それで?」
面倒なやり取りは不要だとグリモニアが話を促す。
「お陰様で不穏因子は取り除くことが出来た。協力感謝する。」
「協力ではなく脅されていただけだがな。」
「ソレだけじゃないことは分かっているだろう。子供達を守ってもらったこともだが、そちらの国の余計な行動を止めてくれたことも含めてだ。」
「ふん。止めてやる必要も無かったのだがな。ヒューナイトの責任を問われたら困るからそうしただけだ。」
「証拠など一切残さないだろう?その覚悟も持って取引を申し込んだんだ。契約終了の書類はここに。」
すっと外交官らしき男が前に出ると、壇上からダニエルが降りてきてその書類を受け取り、グリモニアに手渡す。
数枚の書類に目を通したグリモニアは、壇上の脇に目を向ける。
それだけで見えないところに控えていたヒューナイト王国の外交官が、一枚の羊皮紙を持って姿を現した。
「本当にこの条件で良いのか?」
「今更だろう。それだけのことをこちらは要求したのだ。」
「分かった。ではまず、前回の契約魔法の破棄、それから新しい契約書へのサインを行おう。」
グリモニアがそう言うと、壇上から降りてすぐのところに小さな机が置かれる。
そこにグリモニアとアベル、そしてアスラモリオンの皇帝が向かい、一度目の契約の破棄と新たな契約魔法が交わされる。
アベルが読み上げた契約の破棄には、一連の騒動に関するアスラモリオン側の要求とそれに伴うヒューナイト王国には不利でしかない制約が。
新たな契約にはムーランとアークエイドの婚約打診は二度と行わないこと。そしてヒューナイトとの恒久的な不可侵条約という友好について。その他国同士での取り決めの細かい部分や関税についてなどがヒューナイト王国に有利な形で記されていた。
最後にアベルが両者の意思を確認し、二人のサインを受けた契約書に『契約』と唱えたことで、無事に両国の契約は終了する。
契約魔法は何があっても両者の意思が無ければ破棄できない、絶対的な契約だ。
あまりにもヒューナイト王国に有利な内容で、国政に興味がないアシェルでも驚くほどの契約内容だった。
「さて、これで両国の契約は成った。して、アーロン殿。アベルを止めてはいたが、コレだけで済むとは思ってないよな?ここからは無礼講にしたいのだが。」
「グリモニア殿に言われずとも分かっている。アベル殿が怒っていることなどな。」
グリモニアの砕けた言い分に、アーロンは肯定を示す。
実際アベルはずっとにこにこと笑顔を浮かべていたが、ずっと怒っている笑顔だった。
「おやおや。アーロン殿にもお見通しですか。とりあえず、命は取らないので、一発くらい殴らせて頂いても構いませんよね?」
「それだけで良いのか?腕の一本や二本、取られるかと思っていたのだがな。」
「顔見知りでなかったらそれでも良かったですが。私なりの手心です。」
アーロンは昔、王立学院に留学生として一緒に学んだ関係だった。
それ故、アベルは殴るだけで済ませてやると言っているのだ。
「甘んじて受けよう。こちらの騎士たちに手出しはさせぬ。」
「では遠慮なく。」
ドゴッと鈍い音がして、アーロンの頬に綺麗な右ストレートが決まる。
流石に吹っ飛びはしなかったが、それでもアーロンの顔が苦痛に歪み、衝撃を受け流さなかった身体が傾く。
アスラモリオンの騎士たちは一瞬跳び出しそうになったが、アーロンの言葉があったため踏みとどまった。
「相変わらず遠慮がないな。」
「する訳ないでしょう。それと、これがうちの娘からの慰謝料請求です。」
ぴらっと受け渡された書面にアーロンは眼を通し、それに頷く。
殴られたことは仕方ないと思っているようで、頬に魔法をかけて治療することもなく。
「相変わらずメイディーは金銭ではなく素材か。持ち帰ってから集めることになる。少し時間はかかるがそれでも?」
「希少素材も入っていますから、それは仕方ありません。娘は学院にいますから、王宮かメイディー邸に届けて貰えれば。ですが、素材の鮮度は優先してくださいね?」
「それくらい分かっている。ストレージくらい、我が国の国民なら使えるしな。で、一番迷惑をこうむったであろう娘からはソレだけで良いのか?もう片方の頬位差し出すが?」
そう言ってアーロンはアシェルを見た。
ここで急にアシェルに話題を振られるのかと思うが、アベルを見ると頷かれる。
「……わたくしは素材のみで結構でございます。友人達と直接危害を加えられぬ限りは、アスラモリオンの人間に手を出さないと約束しておりますので。」
いくら本人から良いと言われても、ここでアシェルまでアーロンを殴ってしまえば、その約束を破ったことになってしまう。
「それに……一番迷惑をかけられたのは、わたくしではありませんわ。」
謝る相手が別にいるだろうと言外に告げれば、アーロンはその意図を汲んだようだ。
「全く……メイディーの抑止力は王家というのは本当だな。……アークエイド殿下。この度は誠に申し訳ないことをした。そして我が子達を守っていただいたこと。深くお礼申し上げる。」
アーロンはそこまで言って、壇上に居るアークエイドに頭を下げた。
皇帝がこんなに簡単に頭を下げても良いのかと思ってしまうが、それがアーロンなりの誠意の示し方なのだろう。
それにアークエイドは僅かに驚きの表情を見せながらも、淡々と受け答えする。
「私は公務に徹したまでだ。皇帝陛下に頭を下げられるような事ではありません。ですが……次にまた友人達を巻き込むような事があれば、その時は大人しく従うことも、抑止力となることもありません。それだけは覚えておいてください。」
「分かった。私だけでなく、子供達にもしっかりと言い聞かせておこう。」
これで全てのことに片が付いた。
それを見てグリモニアが壇上の玉座に戻り、確認をしつつお開きを告げる。
「双方の意見はこれで交わされた。これ以上何か意見のある者は居るか?居なければ今回の謁見は終了とする。」
声を上げるものはおらず、アスラモリオンの使者たちは騎士に伴われ退室する。
緊張した雰囲気は、その退室と共に霧散した。
「アベル、アシェル殿。この度は王家の都合で振り回してしまい申し訳なかった。このあと移動して、ゆっくりと茶でもどうだ?」
「嫌です。と言いたいところですが、仕方ないのでお付き合いしますよ。準備した使用人達に申し訳ないですからね。アシェと一緒に案内されておきますので、さっさとその可哀想な眼鏡を外してやったらどうです?」
「言われなくてもそのつもりだ。」
可哀想な眼鏡はアークエイドのことだろう。今日も認識阻害のかかった眼鏡は健在だった。
先程少し感情が解ったのは、珍しくアークエイドの表情筋が仕事をしたからだ。
話は終わったとばかりに、王族もぞろぞろと壇上から王族用のルートで退室し、アシェルとアベルも案内の騎士に付き添われ退室した。
9月という、前期と後期に分かれているが故の秋にある夏休み。
アシェルは両親に言われた通り、メイディー公爵家のタウンハウスに帰ってきていた。
勿論、錬金に関する道具も一通り持ち帰り、庭にあるアシェル専用の錬金小屋に持ち込んでいる。
帰ってきてすぐにアベルもメアリーも、血色の良くなったアシェルの姿を見て安堵の表情を見せた。
かなり心配をかけてしまっていたようだ。
そしてアベルにアークエイドから言われた、アスラモリオンに迷惑料代わりに素材を頼めば良いと言われたことを相談すると、かなり乗り気で相談に乗ってくれた。
アシェル狙いの刺客がいたことは、アベルもしっかり聞いていたらしい。
さらっと「モニアが止めなければアシェに被害が出る前に、約束なんてそもそも無かったことにしたのに。」と言っていた。
グリモニアが居なければ、アシェルと同じような思考で同じようなことをしようとしたのだろう。
実際約束したから手出しはしないが、今でもアスラモリオンの皇帝だけは報復を受けても仕方ないとアシェルは思っている。
それと同時に、アシェルさえいなければヒューナイト王国の弱点になることも、アスラモリオン帝国からの無茶な要望を聞き入れる必要もなかったのにと。
そんなこんなで一週間。
日中は実験小屋に引きこもり、ご飯の時間と就寝時間になればイザベルに連れ出され過ごしていた。
今日も昼食の時間に呼び出され、休日で全員揃っている昼食を摂る。
いつもと変わらない日常だが、そこに来訪者があった。
それに受け答えた執事長のウィリアムは「お食事中に失礼します。」と一言声を掛け、アベルに一通の封筒を手渡す。
それを一瞥したアベルは小さく溜め息を吐いた。
「アシェ、三日後に登城する準備をしなさい。アスラモリオンの使者が到着したようだ。私だけでなく、アシェも一緒にとの命令だ。正装で、朝からのご招待だ。」
アベルに見せられた封筒には、王家の家紋が記されている。
「分かりました。」
王宮からの正式な招待なら、アシェルが断ることは出来ない。
準備をしてくれるのは侍女達だが、その日は実験室に籠るなというお達しだろう。
それに、どう決着が着いたのか気になるところでもあった。
三日後。
アシェルは朝から支度をして、メイディーのカラーである紫のドレスに身を包んでいた。
女だと発表した以上、男の正装という訳にはいかない。
同じく正装をしていつもより煌びやかな格好をしたアベルと共に馬車に乗り込み、王宮へと向かう。
馬車から降りることなく王宮の入り口まで通され、案内された場所は謁見室だった。
壇上にはまだ人の座っていない玉座が二つ。
そして、正装に身を包んだアークエイド達王家の子供三人とその護衛の白騎士達。
アシェルとアベルはその壇上下の臣下が並ぶ一番前へと並ぶ。
と言っても、その場所に居るのはそれで全員だった。
程なくしてグリモニアとアンジェラが玉座に座り、謁見室の扉からアスラモリオンの使者の到着を告げる騎士がやってきた。
グリモニアの承認と共に入ってきたのは、明らかに位の高そうな男性と青年、恐らく外交官であろうその臣下。
そして三人の護衛であろう騎士の六人。
「この度は謁見をさせていただき感謝する。」
位の高そうな男性が良く通る声で挨拶をする。
それに答えたのはグリモニアだ。
「まさか、皇帝自ら使者として訪れるとはな。」
皇帝という言葉にアシェルは驚く。
まさか、国のトップがわざわざこうして使者としてやってくるとは思っていなかった。
皇帝と呼ばれた男は魔族特有の青い肌。
そしてムーランやモーリスと同じ褐色の髪の毛だった。
一緒に居る青年も同じ見た目で、よく見ればどちらもムーランとモーリスに似ている。
もしかしたら第一皇子も一緒に来ているのかもしれない、と思うには十分だった。
「無茶を押し通したのはこちらだ。これくらいの誠意は見せる。」
使者というには横柄な態度だが、皇帝であればそれも仕方ないのかと思う。
「無茶と分かっているなら、最初から申し出をしないで欲しかったがな。それで?」
面倒なやり取りは不要だとグリモニアが話を促す。
「お陰様で不穏因子は取り除くことが出来た。協力感謝する。」
「協力ではなく脅されていただけだがな。」
「ソレだけじゃないことは分かっているだろう。子供達を守ってもらったこともだが、そちらの国の余計な行動を止めてくれたことも含めてだ。」
「ふん。止めてやる必要も無かったのだがな。ヒューナイトの責任を問われたら困るからそうしただけだ。」
「証拠など一切残さないだろう?その覚悟も持って取引を申し込んだんだ。契約終了の書類はここに。」
すっと外交官らしき男が前に出ると、壇上からダニエルが降りてきてその書類を受け取り、グリモニアに手渡す。
数枚の書類に目を通したグリモニアは、壇上の脇に目を向ける。
それだけで見えないところに控えていたヒューナイト王国の外交官が、一枚の羊皮紙を持って姿を現した。
「本当にこの条件で良いのか?」
「今更だろう。それだけのことをこちらは要求したのだ。」
「分かった。ではまず、前回の契約魔法の破棄、それから新しい契約書へのサインを行おう。」
グリモニアがそう言うと、壇上から降りてすぐのところに小さな机が置かれる。
そこにグリモニアとアベル、そしてアスラモリオンの皇帝が向かい、一度目の契約の破棄と新たな契約魔法が交わされる。
アベルが読み上げた契約の破棄には、一連の騒動に関するアスラモリオン側の要求とそれに伴うヒューナイト王国には不利でしかない制約が。
新たな契約にはムーランとアークエイドの婚約打診は二度と行わないこと。そしてヒューナイトとの恒久的な不可侵条約という友好について。その他国同士での取り決めの細かい部分や関税についてなどがヒューナイト王国に有利な形で記されていた。
最後にアベルが両者の意思を確認し、二人のサインを受けた契約書に『契約』と唱えたことで、無事に両国の契約は終了する。
契約魔法は何があっても両者の意思が無ければ破棄できない、絶対的な契約だ。
あまりにもヒューナイト王国に有利な内容で、国政に興味がないアシェルでも驚くほどの契約内容だった。
「さて、これで両国の契約は成った。して、アーロン殿。アベルを止めてはいたが、コレだけで済むとは思ってないよな?ここからは無礼講にしたいのだが。」
「グリモニア殿に言われずとも分かっている。アベル殿が怒っていることなどな。」
グリモニアの砕けた言い分に、アーロンは肯定を示す。
実際アベルはずっとにこにこと笑顔を浮かべていたが、ずっと怒っている笑顔だった。
「おやおや。アーロン殿にもお見通しですか。とりあえず、命は取らないので、一発くらい殴らせて頂いても構いませんよね?」
「それだけで良いのか?腕の一本や二本、取られるかと思っていたのだがな。」
「顔見知りでなかったらそれでも良かったですが。私なりの手心です。」
アーロンは昔、王立学院に留学生として一緒に学んだ関係だった。
それ故、アベルは殴るだけで済ませてやると言っているのだ。
「甘んじて受けよう。こちらの騎士たちに手出しはさせぬ。」
「では遠慮なく。」
ドゴッと鈍い音がして、アーロンの頬に綺麗な右ストレートが決まる。
流石に吹っ飛びはしなかったが、それでもアーロンの顔が苦痛に歪み、衝撃を受け流さなかった身体が傾く。
アスラモリオンの騎士たちは一瞬跳び出しそうになったが、アーロンの言葉があったため踏みとどまった。
「相変わらず遠慮がないな。」
「する訳ないでしょう。それと、これがうちの娘からの慰謝料請求です。」
ぴらっと受け渡された書面にアーロンは眼を通し、それに頷く。
殴られたことは仕方ないと思っているようで、頬に魔法をかけて治療することもなく。
「相変わらずメイディーは金銭ではなく素材か。持ち帰ってから集めることになる。少し時間はかかるがそれでも?」
「希少素材も入っていますから、それは仕方ありません。娘は学院にいますから、王宮かメイディー邸に届けて貰えれば。ですが、素材の鮮度は優先してくださいね?」
「それくらい分かっている。ストレージくらい、我が国の国民なら使えるしな。で、一番迷惑をこうむったであろう娘からはソレだけで良いのか?もう片方の頬位差し出すが?」
そう言ってアーロンはアシェルを見た。
ここで急にアシェルに話題を振られるのかと思うが、アベルを見ると頷かれる。
「……わたくしは素材のみで結構でございます。友人達と直接危害を加えられぬ限りは、アスラモリオンの人間に手を出さないと約束しておりますので。」
いくら本人から良いと言われても、ここでアシェルまでアーロンを殴ってしまえば、その約束を破ったことになってしまう。
「それに……一番迷惑をかけられたのは、わたくしではありませんわ。」
謝る相手が別にいるだろうと言外に告げれば、アーロンはその意図を汲んだようだ。
「全く……メイディーの抑止力は王家というのは本当だな。……アークエイド殿下。この度は誠に申し訳ないことをした。そして我が子達を守っていただいたこと。深くお礼申し上げる。」
アーロンはそこまで言って、壇上に居るアークエイドに頭を下げた。
皇帝がこんなに簡単に頭を下げても良いのかと思ってしまうが、それがアーロンなりの誠意の示し方なのだろう。
それにアークエイドは僅かに驚きの表情を見せながらも、淡々と受け答えする。
「私は公務に徹したまでだ。皇帝陛下に頭を下げられるような事ではありません。ですが……次にまた友人達を巻き込むような事があれば、その時は大人しく従うことも、抑止力となることもありません。それだけは覚えておいてください。」
「分かった。私だけでなく、子供達にもしっかりと言い聞かせておこう。」
これで全てのことに片が付いた。
それを見てグリモニアが壇上の玉座に戻り、確認をしつつお開きを告げる。
「双方の意見はこれで交わされた。これ以上何か意見のある者は居るか?居なければ今回の謁見は終了とする。」
声を上げるものはおらず、アスラモリオンの使者たちは騎士に伴われ退室する。
緊張した雰囲気は、その退室と共に霧散した。
「アベル、アシェル殿。この度は王家の都合で振り回してしまい申し訳なかった。このあと移動して、ゆっくりと茶でもどうだ?」
「嫌です。と言いたいところですが、仕方ないのでお付き合いしますよ。準備した使用人達に申し訳ないですからね。アシェと一緒に案内されておきますので、さっさとその可哀想な眼鏡を外してやったらどうです?」
「言われなくてもそのつもりだ。」
可哀想な眼鏡はアークエイドのことだろう。今日も認識阻害のかかった眼鏡は健在だった。
先程少し感情が解ったのは、珍しくアークエイドの表情筋が仕事をしたからだ。
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