氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第四章 王立学院中等部三年生

255 恋人のお宅訪問②

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Side:アシェル14歳 秋



以前にアークエイドとお茶をしたことのある常春の温室で、その中央に設けられた椅子に腰を降ろす。

アークエイドがエスコートをしてくれているので椅子を引いてくれたが、やはり家族以外からエスコートされるのはなんだか不思議な感覚だ。
今日は恐らく、このエスコートされることに慣れるというのも課題なのだろうと、勝手にアシェルは考える。

アークエイドの手土産は一口大のチョコレートを持ってきてくれていたようだ。
アシェル側の用意したお茶請けと共に並んでいる。

「相変わらず、ここは綺麗だな。だが、これは?」

アークエイドが指し示したのは、アシェルの用意した赤い果実の砂糖漬けである。

「カクタスフルーツ……カクタスペアとも言うわね。サボテンの実の砂糖漬けよ。アークは王宮で珍しいものなら食べ慣れてるかなって思ったけれど、これなら珍しいかなって。」

「へぇ……サボテンの実が食べれるのか?」

「えぇ。割と美味しいわよ。わたくしは紅茶の中に砂糖代わりに入れるのが好きなんだけれど……アークは珈琲の方がいいかしら?」

「それなら紅茶を貰おう。」

二人の飲むものが決まったので、イザベルがワゴンに用意されていたセットから茶葉を選び、二人分の紅茶を注いでくれる。

それが終わるとダニエルと一緒に、並んで壁際に控えた。

さて、ここまで来てなんだが、一体何を話せば婚約者らしいのだろうか。

手紙が来てから考えていたことだが、結論は出なかった。

女性同士のお茶会であれば、社交界やら個人的なお付き合いでの噂話なんかがメインだと聞いている。
だが、婚約者とどういう話をするのか、という授業は無かったのだ。

ホスト側から話題を振るべきだと思うのだが、どんな話題を提供すれば良いのか分からず言葉が出ない。

お互いにしばしゆっくりと紅茶を楽しんでいると、アークエイドが口を開いた。

「今日はずっと、その格好とその喋り方なのか?」

「やっぱり似合わないかしら?」

女装より男装の方が似合っている自覚はある。
もしかして、貴族令嬢として振る舞いがおかしかっただろうか。

不安に表情を曇らせたアシェルに、慌ててアークエイドは言葉を続ける。

「いや、とても似合ってる。綺麗で普段から見られないのが勿体ないくらいだ。だが……他の男に見られないのは良かったと思ってしまうな。」

「ありがとう。お世辞だったとしても嬉しいわ。一応後で着替えても良いって言われてるけど、今日は貴族令嬢らしく、婚約者として振舞えって言われてるから……。この格好でいつも通り喋っちゃうと、ベルに怒られちゃうわ。」

「なるほどな。俺としてはアシェを膝に乗せて可愛がりたいんだが……それならゆっくりお茶を楽しむか。そういえば、あのイベントはいつからやってたんだ?」

話題に困っていたので話題の提供は嬉しいが、それを聞かれるのかと思ってしまう。
だが、ここで誤魔化してしまうのもおかしいだろう。

「デビュタントの後からよ。わたくしが流した噂に【シーズンズ】が運営の名乗りをあげてくれて、あの形に落ち着いたのよ。まさか、アークでも驚くくらい警備体制がしっかりしているとは思わなかったけれど。」

「時間帯も関係していただろうが、アレは本当に凄かったからな。でも、あれの元はアシェの流した噂が発端なのか……。なんでまた?」

なんでわざわざ参加者とキスをするようなイベントをしたのか聞きたいのだろう。

「女だと発表してしまえば、わざわざわたくしに相手をしてもらいに来る人なんていないと思ってたのよ。女性からのお誘いを断るついでで、それでも遊びたいって思ってくれる方になら、少しくらい手を出しても良いかなぁって。」

おずおずと返したアシェルの言葉に「良いわけないだろ。」と、すかさずアークエイドの返事が返ってくる。

「イベント形式だから変な輩は居なかっただろうが……。アシェが一人だと分かっていたら、逆に襲われてたかもしれないんだぞ?それに誰彼構わず手を出してたら、公爵令嬢としても良くないだろ。」

「男じゃないから、相手が女性なら最後までなんて出来ないわよ?」

「そういう意味じゃなくてだな……。遊び人の色物令嬢だと思われるぞと言ってるんだ。そんな噂が出回ったら、公爵家としても体裁が悪いだろ。」

「あー……そういう噂が出回る可能性もあったのね。わたくしだけなら何を言われても良いけれど、それで家に迷惑がかかるのは嫌ね。イベントにしてもらって正解だったわ。」

してもらったというか、既にイベントにするのが前提で話を持ってきてくれたのだが、拒否しなくて良かったと思った。

「はぁ……なんでその手のことになると、予想外の行動を取るんだ……。それで。部屋に呼んだのは?少し手を出して遊ぶだけなら、イベントのあの時間だけで十分だっただろ。」

なんでかイベントについて洗いざらい吐かされる形となってしまっている。

答えたくなくて黙っていたが、アークエイドからじっと見つめられ、答えを促される。

「……イベント以上のことをするためよ。お互い、その場だけの関係って言うのが前提で。」

イベント内容は、アークエイドもアシェルから説明を受けたので知っていた。
だがやはり、部屋に招いたのはキスだけじゃなかったのかとも思ってしまう。

「へぇ……男とも女ともよろしくやっていたのか?」

「男とはしてないわよ。それにわたくしは脱いでもいないわ。あくまでも相手を身体的に満たすだけ。これでも、女の悦ばせ方も知っているもの。」

「普通は知らないんだがな……。それも前世の知識か?」

「えぇ。咲は男同士の絡みを描くことが多かったけれど、一応普通の男女の営みだって手技は覚えたわよ。まぁ、それの通じない子の方が多かったのは確かだけど……。」

アシェルの通じないという言葉に、アークエイドが首を傾げる。

考えればあってもおかしくないのだが、あんなに大人の玩具が普通に出てくるとは思っていなかったのだ。
全く触れたことが無かったわけではないが、玩具メインのプレイは初めてだった。

普通に相手をして満たしたのは片手で事足りる程。

大抵はユーリの描くSMの世界のようなことを求める人たちだったし、常連だった三人はこの括りだ。

「ユーリ先輩の同胞、って言ったら良いのかしら。流石のわたくしも、初めての体験だったわ。」

「ユーリ嬢のって……一体なにしたんだ?」

【シーズンズ】の書物を読んでいるアークエイドは、著者である従姉の名前を聞いて呆れたような声を出す。
一部の例外を除いて、どれもこれもハードなSM物だと知っているからだ。

「視姦と言葉責めとお仕置き?それが彼女たちの求めるご主人様だったから。」

「ご主人様……。闇が深そうだな。」

「多分プレイ内容はユーリ先輩に筒抜けだと思うから……新刊を漁ればプレイの一端は垣間見れると思うわよ?間違いなく誇張されているとは思うけれど。」

「読んだのか?」

「わたくしはまだ新刊には手を付けてないわ。そもそも、基本的にはアークの護衛をしていたし、その後は……。下手にお部屋訪問して、巻き込んだりしたくなかったもの。でもリリィが、イベントのお陰で新刊がどんどん出てるって喜んでたから。きっとユーリ先輩の分もあるんじゃないかしら?」

「まぁ確かに。状況的に簡単に足を運べないか。」

「えぇ。それに女と発表したとはいえ……。それまで対外的には男として振舞っていたでしょう?発表してすぐに女子寮に入り浸るのもどうかと思って。」

アシェルの言葉にアークエイドは。その配慮が出来るのに何故あんなイベントや、部屋に招いてそれ以上のことをするんだと思ってしまう。

アークエイドの常識が通用しないのは、正式なお付き合い前から身体の関係を持っていたし、普通にシオンとも一線を越えそうな発言をしていたことからも分かっている。
分かっているが、その行動原理は理解できない。

「どちらにしても、今まで同様表立って訪室するのは良くないだろうな。正式な婚約発表まで時間があることもあるが……イベントとその後の事的に、アシェは相手の性別は選ばないと思われてそうだ。カナリア嬢は婚約者がまだいなかっただろ?変な噂を立てられると、困るのはカナリア嬢だ。」

「分かってるわ。でも近々何か発表があってもおかしくないんじゃないかしら、とは思っているけれど。」

「そう思うような何かが?」

「カナリア嬢ってイザーク君と仲が良いでしょう?普通に【シーズンズ】の管理者と作者で同じ歳だからかと思っていたけれど、もしかしてって思って。」

この話題なら少しはお茶会らしいだろうか。などと考えながら、アシェルは考えを述べる。

「正式にイベントにするって決まった時に、予行練習みたいなことをしたのよ。カナリア嬢と。その時に、流石に友人のファーストキスは貰えないって言ったら、さくっとイザーク君で済ませたから。あぁ、でも。異性とのキスじゃないとファーストキスじゃないと思っていたのなら、シオンとイザーク君ならっていう理由で決められた可能性もあるわね。うーん……その可能性の方が高いのかしら?」

「状況を見た訳じゃないから何とも言えない。俺の方は、クラスメイトともあまり関わらないようにしてたからな。……公務が無ければ、そんなイベントなんて止めさせたのに。」

「そもそも、今回のことが無かったらイベントなんてしなかったと思うわよ?遊び相手を探す必要もなかったと思うもの。」

「それは……欲求不満だったって事か?」

アークエイドの指摘に思わず吹き出しかける。
紅茶を口に含んでいなくて良かったと思いつつも、指摘された内容は遠からずだ。

「別に……ただ、誰でも良いからイチャイチャしたかっただけよ。別にわたくしが身体的に満たされることが目的ではなかったし。」

「定期的にイチャイチャできれば、そんなバカなことは考えないって事か。」

「バカなことって言わないでくれるかしら?一応、作家陣からは泣いて喜ばれたイベントよ?いつも【シーズンズ】にはお世話になっているから、やってよかったと思っているくらいなのに。」

文字通り、本当に涙を流しながら喜んでくれる作家陣が多かった。
やはり作品にリアリティは大事なんだなと思ったくらいだ。

「これからは止めてくれよ?」

「しないって約束したでしょう?」

「なら良いんだが。で、俺はアシェに触りたくて仕方ないんだが。どうすればアシェに触る許可が貰える?一通りの形式なら、婚約者との茶会はコレで終了だが……それじゃ俺が満足できない。」

アークエイドがそう言うのなら、貴族の婚約者同士のやり取りはこれで良かったのだろうかと、イザベルを見る。

それまで黙って控えていたイザベルは視線を受けて、呆れたように言葉を口にする。

「まぁ上出来ではないかと思われます。アークエイド様も早く二人っきりにしてくれということでしょうし。」

言いながら近づいてきたイザベルに、着替え一式と手桶とタオルを渡される。
手桶とタオルは、これから二人がするであろう行為に対して身綺麗にするためだろうか。

「移動されるのであれば、お部屋よりは錬金小屋の方が良いかと思われます。本日はお泊りはされますか?それとダニエル様はどうなさいますか?」

その質問はアークエイドに対してだった。

「泊まれるのなら泊まりたい。着替えも持っている。ずっとアシェから離されてたんだ。ゆっくり二人で過ごしたい。ダニエルは帰らせていい。」

アークエイドの言葉に反応したのはダニエルだ。

「お言葉ですが……殿下がお泊りになられるのであれば、私もです。というよりも、相手方の邸なので節度は持っていただきたいのですが?」

ダニエルが釘をさすが、アークエイドは無視を決め込んだ。

「でしたら、ダニエル様のお部屋も用意させていただきます。それと…… 後ほど錬金小屋の方に布団を持って行きますので。それまでは大人しくしておいてくださいませ。」

「布団なんて要らないわよ?」

「ようやく触れ合うようになられたのに、何もないとは思えません。寝台も何もないのですよ。春先の件で確信しましたが、あれでは身体を痛めてしまいますし、お風邪を召される可能性もあります。二人が婚約することは使用人達も承知しておりますし、汚しても構いませんので。」

「うっ……。」

春先のことと言われて、イザベルとアルフォードの前で盛大にアークエイドにおねだりをしてしまったことを思い出す。
すっかり忘れてしまっていたのに、それを引き合いに出されて身体を気遣われると、アシェルは反論する言葉を持たない。

代わりに口を開いたのはアークエイドだった。

「それは、メイディー卿も公認だと思って良いのか?」

「そもそもお二人の火遊びについてはご存知ですので、今更かと。」

「それもそうか。じゃあ、遠慮なく。」

言って立ち上がったアークエイドは、ふわりとアシェルを抱き抱える。

「ちょ、おろしてっ。歩けるわ。」

「嫌だ。やっとアシェの傍に居られるんだ。会ってからずっとこうしたいのを我慢してた。」

言いながら頬や首筋にキスの雨が降る。

「流石に庭師たちから見えかねません。イチャつくのであれば錬金小屋に移動してくださいませ。ダニエル様はこちらへ。先にお部屋に案内いたします。」

イザベルはぺこりと頭を下げて、ダニエルと共に邸の中へと戻る。

アシェルはアークエイドに抱えられたまま、常春の温室のすぐ隣にあるアシェルの錬金小屋へと移動した。
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