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第四章 王立学院中等部三年生
266 スクロール③
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Side:アシェル14歳 秋
声を出している人は限られているし、その話を統括すると、どうやら自分が関わっていることで間違いがないようだ。
「ねぇ……。話の渦中は私……ううん。私の意識が入っている身体の持ち主の、アシェルという人のことで。そのアシェルの記憶が、その紙切れのせいで封印されてしまったのね?合ってるかしら?」
リリアーデとアークエイドが同時に頷いてくれる。
それからリリアーデの補足が入った。
「厳密には、薫もアシェも同一人物よ。記憶が無いと実感しにくいと思うけど……わたくし、リリアーデの前世が百合、パティの前世が桜花、そしてアシェの前世が薫よ。だからわたくし達は前世の方言を話すことが出来るけど、こちらの人に方言は通じないわ。こっちには共通語しかないから。その身体は間違いなく薫のものだし、薫もアシェルも本質は一緒よ。薫よりも色のある世界を見ていたけれど、知識欲が強くて、物覚えも良くて。……そしていつも、大切な人に嫌われてしまうんじゃないかって不安を抱えている女の子。まぁ男装して過ごしていたから、周囲から見たら男の子だけどね。薫が転生した姿だって言ったら伝わるかしら?」
「……そう。転生……本質は一緒……。次はムーランと言ったかしら。貴女に聞きたいわ。貴女は私とそこの彼が恋人同士になってしまって、結婚の約束をするのが嫌だったから、私に嫌がらせをした。……間違いないかしら?」
いまいち転生したと言われても自覚は無いが、もしこれがお芝居じゃなく現実なのだとしたら、きっとリリアーデが言っていた咲と健斗と会えないというのは、二人とは違う世界に居るからということだろう。
朧気に残った夢のような記憶は、いつも天井のような物を見上げている。もしかしたら生まれてすぐの記憶なのかもしれないが、ぼんやりとしていてよく分からない。
二人とはどうやっても会うことは出来なさそうだ。
きっとアシェルという記憶があれば割り切って生活していたのだろうと思うのに、意識が薫である自分はそのことがとても悲しくて寂しい。
記憶の中にある二人ではなく、姿だけでもこの眼で見たかった。
問われたムーランは、頑張って涙を止め、鼻水を啜りながら立ち上がり、しっかりとアシェルの方を見た。
背の低さや容姿も相まって、なんだか施設の子供達を彷彿とさせる姿だ。
「……えぇ……そうよ。わたくしムーラン・モリオンは、アークエイド様に求愛していたけど受け入れて貰えなくて、アシェルと婚約するって決まったのが嫌で、貴女に嫌がらせをしたのよ。何か文句あるかしらっ。」
「姉上っ!!」
モーリスが窘めるように声を出したが、別にムーランは喧嘩を売っているわけではない。
自分が悪いことをしたと理解していて、叱られるのが分かっていて、𠮟られるような言動を取っている子供と一緒なのだ。
だからこそさっきムーランは、逃げることもせずアシェルの前に立ったのだ。
「モリオン……黒水晶ね。貴女にピッタリな名前だと思うわ。でも、私は望み通りに貴女を怒ったりしないわ。だって、私は貴女のことを知らないもの。」
黒水晶は魔除けや邪気払いなどの効果を持つパワーストーンだ。
今の言動と話を聞く限りではあるが、きっと真っ直ぐな性格をしたムーランは、性格が曲がってしまうほどの人のどろどろとした悪意に触れたことが無いのだろう。
それにもし薫とアシェルの本質が一緒なのであれば、どうやら大事になっているのは事故のようなもののようだし、子供の悪戯にわざわざ怒ることもない。
どう説明されたにしろ、ムーランから受け取ったあの紙切れは、アシェルの意志で使われたはずなのだ。その責任を押し付けるようなことはしないだろう。
自分の取った行動は、周囲にどう唆されたとしても自分の責任だ。
もし叱るのであれば、それはきちんと何があったのかを思い出してからだ。
聞きかじった話で、理不尽な𠮟り方をしてしまうわけにはいかない。頓珍漢な理由や、感情で叱ってしまうのは悪い叱り方だ。
「ほな、うちから少しええどすか?姫さん、ほんま、えー香りの香をつけてはりますなぁ。離れたうちらのところにまで、えー匂いがしてはりましたわ。殿下の気ぃ引くためやろねぇ。やすけない御方やわぁ。」
「??ありがとう……?」
アシェルが怒らないからか、すっと出てきたパトリシアが、物凄い嫌味を言っている。
関西弁だと思っていたが、京都出身なのだろうか。
こちらで方言は通じないと言っていたし、ムーランは一応お礼を言っているが、意味は通じていないのだろう。
単純に香水臭いし品が無いと言われているだけなのだが。
ただ特別ムーランが臭いということは無い。
教室の中にはいくつかの残り香があるし、きっともっときつい香水をつけている人もいるのだろう。
何故わざわざ指摘したのかと首を傾げていると、次へ繋げるためのワンクッションだった。
「クスッ、やっぱりやなぁ。」
さっきの分かりやすく現状にふさわしくない方言は、意味が通じるのか確認していたのだと知る。
「姫はんったら、そないなけったいなもんつこうて。てんごが過ぎるんとちゃいますか。お国じゃ権力があるかもしれへんけど、すこいことばかりしよって……今までもぎょーさん同じようなことしてきてはるんとちゃいますん?えげつないことしはるのも、たいがいにしぃや。」
普通に人当たりの良い喋り方で嫌味を言っていたパトリシアは、少し言葉を溜めた後、ドスの効いた低い声でムーランを叱った。
ビクッとムーランが身体を縮こまらせたので、怒られていることは理解したのだろう。
今のは変なもの使って狡いことばかりして悪ふざけが過ぎる。今までも沢山同じようなことをしているだろうし、あくどいことをするのはいい加減にしろと、叱っているのだ。
ただそれを、わざわざ詳細の伝わらない方言で伝える意味はあるのだろうか。
薫がなんとなく意味が分かるのは、咲に方言の辞典みたいなものを渡されて、関西弁の言い回しを覚えて案を出せと言われた事があるからだ。有名どころなら覚えた。
実際人の口から出た言葉を聞いたのは初めてなので、イントネーションは知らなかったのだが。
「な、なんで貴女にわたくしが怒られなくてはいけないのっ?貴女には関係ないことでしょう!?」
ムーランは予想通り気が強い子供らしい。
自分が怒られても良いと思った相手以外から怒られることが、納得いかないのだろう。
意味は分からないまでも、叱られたことは分かったようだ。
「うちはこうして言わせてもろてるけど、薫はんが自分からこおして話しとるから、誰も喋らへんし、声を荒げてないだけやって分かってはります?見た目だけやのうて、おつむまでややこと一緒なんと違いますの。」
頭の出来が赤ちゃんと一緒は言い過ぎだと思う。
だが、見た目からかなり年下かと思っていたのだが、よく考えると中高生に見える皆と同じ制服を着ている。
どうやら大きな歳の差はないようだ。
そして今のは、流石に頭の出来を馬鹿にされたと伝わったらしい。
「貴女っ、わたくしのことを馬鹿にして何様のつもりなの!?わたくしはアスラモリオン帝国の皇女よっ!」
「さよですか。せやけど、そんなことうちには関係あらしまへん。うちは何一つ間違ったことは言っとらんさかいに。それにうちの言葉、全部きちんと理解しはりましたん?苦情も何も、まずはそこからなんとちゃいますか?」
ようやくパトリシアが、こちらでは伝わらないらしい。……いや、日本でも地域が変われば伝わらない方言を前面に押し出していた理由が分かった。
身分を笠に着るということは、身分制度のある世界なのだろう。
そして皇族ということは国のトップクラス。本来なら、対等に口を聞くことが出来ない相手だ。
「そんな訳の分からないことばかり言って、分かるわけないでしょ!わたくしにも分かるように喋りなさい!!」
「はぁ、埒が開きませんわ。それにしても難儀な姫さんやわ。百合はん、どないしましょ?」
確かに権力を振りかざすだけの子供相手では、話にならないし困りもするだろう。
パトリシアは怒らなかったアシェルの代わりに、嫌味も含みつつ悪いことをしてはダメだと言ってくれているだけだ。
それになんとなくだが、こうやって方言で相手に分かりにくい言葉を使ってるのは、ムーランのためでもあるんじゃないかと思う。
きっと全員が理解できる言葉で責め立てれば、それに同調した声が周囲から上がるだろう。
たった一人を集団で責め立てる形になってしまう。
最初の一人にはなれなくても、誰かが上げた声に乗っかることは容易な人間は多いから。
いくらムーランが悪いとは言っても、集団で責め立てた時点でそれはただの虐めだ。
怒りでプルプルと震えているムーランを他所に、パトリシアはリリアーデに助けを求めた。
一部分からなかった可能性もあるが、恐らくほとんど理解しているであろうリリアーデが苦笑した。
「えぇ、今の流れでうちに飛んでくるん?そこは普通、薫やろ。薫もそう思わん?」
一瞬で話が回ってきた。
「そこで私なの?……でも、私は何も覚えてないから。経緯が分からないのに何も言えないわ。」
「でも、アシェがなんか言わんと、皆怒っちょうき。腹の虫がおさまらんばい?桜花みたいなんでもいいんやき。」
先程京都弁で話していたように、周囲には伝わらないように。
それでもアシェルが、ムーランに反省を促したという実績が残れば良いということだろうか。
まぁこの際、伝わっても伝わらなくても良いのかもしれない。
「そうね……。ムーラン。貴女には是非、真っ赤な靴を履いて踊っていただきたいわ。」
「薫はんったら、ほんま、せっしょーなことをいいはるわ。でもいけずな姫はんには、ちょうどええかもしれませんなぁ。」
別にむごいことを言った覚えはない。
傲慢な心を持った少女は、呪われた赤い靴を履いて死ぬまで踊ることになるのだが、途中で両足を切り落として、懺悔しながら人生を奉仕に費やして過ごし。
最終的にその傲慢さの招いた罪は許され、魂は救われたのだ。
どんな罪を犯しても、自分が犯した罪を認め、真摯にそれを償えば救われるというお話のはずなのだから。
「赤い靴やね。確かにちょっと残酷やけど、状況的にムーラン皇女には、ばり似合う言葉やと思うばい。」
「せやねぇ。まぁ、自分で気ぃつくまで、よーけ舞えばええんと違います?」
「彼女は、森の中の小屋に辿り着けるかしら?」
「んー……それは本人次第やない?ああゆうのって、外野がどーこー言って気付いても、意味ないと思うきねぇ。」
「うちもそう思いますわ。うちらは二人分の生を知ってるさかい。そう思えるんかも知れへんけどね。」
訳の分からない話を目の前で繰り広げられて、ムーランは状況が分からないなりに、何か良くないことを言われていると思うのだろう。
キッとこちらを睨みつけてきている。訳が分からないからと暴力に訴えないだけ、少しは分別のある子供なのだろう。
もしちゃんと頭を下げて謝ることが出来ていたら、きっとリリアーデもパトリシアも、こんな風に遠回しに責めたりしなかっただろうと思う。
二人は前世も合わせると他の人より沢山の経験をしていただろうし、前世という事は母親だった可能性もあるのだ。
叱り方を心得ているあたり、可能性は高いかもしれない。
罪を自覚することは出来ているのだから、謝罪できるようになるかは、本人が成長するしかないことだ。無理やり頭を下げさせた謝罪に、何も意味は無いのだから。
二人には通じたけれどムーランに通じていないということは、こちらにはそういう童話が無いのだろう。
もしかしたら同じようなニュアンスのものはあるかもしれないが、流石にソレは今のアシェルでは分からない。
「なによ、なによっ!さっきから意味の分からないことばかりっ!わたくしの分かる言葉で喋りなさいよっ!」
流石に意味が分からなさ過ぎたのか、癇癪を起す寸前なのではと思うムーランに詰め寄られる。
癇癪を起されると手に負え無さそうな雰囲気がしているので、今までの方言の話から話題を変えなくてはいけない。
「貴女には、自分で考えることが必要だという話をしていたのよ。話を戻すけれど、この騒ぎで私とアークを別れさせたかったのでしょう?でも残念ね。」
状況を見守っている面々の中から、アークエイドだと紹介された黒髪の恋人だという人に近付き、その制服のネクタイをグイっと引っ張った。
そして近づいた唇に、遠慮なく口付ける。
突然のこととはいえ拒絶されなかったし、唇を舐めればすんなりと舌は受け入れられた。
アシェルとアークエイドがどうだったかは置いておいて、アークエイド自身はキスをし慣れていると判断して間違いなさそうだ。
一生懸命こちらの動きに抵抗してくるが、それを許してやるつもりはない。決して下手でもなく上手いほうだと思うが、今まで沢山練習した薫の方がキスは上手だ。
——上手なはずなのに、何故、形勢逆転されそうだなどと思うのだろうか。見せつけるだけのはずが、心に温かさが広がる。
ムーランに見せつけるために、たっぷりと舌を絡めていく。
アークエイドの息が乱れてきたところで、キスを止めた。
流石に大勢の前で、艶めかしい吐息を吐きたくないだろう。
そしてアークエイドにしなだれかかってみせる。
それからにっこりと微笑んだ。
——表情筋を動かしやすい。アシェルは笑顔の多い人生だったのだろうか。
「これで分かったかしら?どんな嫌がらせをしようと、記憶があってもなくても、彼は私のモノよ。貴女じゃ、こんな風に受け入れて貰えないでしょう?」
顔を恥ずかしさで真っ赤にしてしまっているが、お子様には刺激が強すぎただろうか。
でも、恋人同士なのにそこに割り込んでくるライバルが居る時には、こうやって見せつけてやれば良いと咲は言っていた。
薫なら、キスシーンを見せつけるだけでも効果的だと。しなだれかかって見せれば更に効果絶大だと言っていたが、十分に効果はあったようだ。
「ひどい、酷いわっ。アシェルはわたくしの気持ちを知ってるくせにっ!それに、アシェルのこと友達だと思ってたのにっ!!馬鹿、馬鹿っ。アシェルの馬鹿っ。それに何でわたくしのことまで忘れちゃうのよっ!アシェルのことなんて、もう知らないんだからっ。」
ぼろぼろと泣きながら叫んだムーランは、教室を飛び出して行った。
モーリスは追うか迷ったようだが、誰かに声を掛けるだけに止めて、教室に残ることにしたようだ。
誰もいないように見えるのに、誰か居たのだろうか。
「陳腐な捨て台詞ね。」
アークエイドと恋仲になりたかったから、その恋人であるアシェルに意地悪をしたのかと思っていた。
だがアシェルがムーランと友人だったのだとしたら、どうやらアシェルにも要因はありそうだ。
「……一つ確認するけれど。貴方とあの子が付き合っていて、私が横取りしたとか。そういうややこしい話しだったりするかしら?」
まだ頬を染めているアークエイドに問えば、違うと返ってきた。
とりあえず、最悪の事態ではないらしいことに安堵する。
「そもそも俺は、5歳の時からアシェに一目惚れしてるんだ。他の女に手を出したりするわけないだろ。」
どうやら一途な人間らしい。
それにしても5歳からとは、少々恋愛感情の目覚めが早すぎるのではないだろうか。
保育園や幼稚園で、保母さんを好きになるとかそういう感じなのだろうか。通ったことは無いので、聞きかじった話しか知らないが。
「それより、アシェ。身体のどこかおかしいとか、頭痛がしたりしないか?」
肩を掴まれそうになって、思わず後ろに飛び跳ねて距離を取った。
——この感覚は知っている。
朧気に残っているコレは、きっと夢ではなくてアシェルの封印されていない記憶なのだろう。
魔物にひたすら剣を振るっていたことは覚えている。
魔法がどうとか言っていたし、ここはゲームのようなファンタジー世界のようだ。
髪の毛や瞳の色がカラフルなのも頷ける。
微かに記憶を思い出したことで、薫がアシェルに転生していたのだという実感が強くなる。
「アシェ……?」
心配そうに、アークエイドが足を一歩踏み出した。
それを犬耳のついたマリクが腕を掴み止める。
あの耳と尻尾が本物なのだとしたら、獣人と呼ばれる人種なのだろう。
真のケモナー御用達ではなく、ライトなケモナー向けなイケメンだ。
「アーク、アシェに近づいちゃダメだよー。ものすごーく警戒してるからー。あれ、絶対戦い方覚えてるもん。それも本気のヤツー。まほーが使えないとしても、俺、本気のアシェとやり合うのは嫌だからねー?」
へにゃりと三角耳を垂れさせ、ふさふさの尻尾は怯えたように股の間に仕舞われた。
そんなにアシェルは強いほうだったのかと思っていると、それに浅葱色の頭をしたシオンが賛同する。
「アークエイド様、アシェル様を刺激しないでくださいっ。僕にだって今の身のこなしは、明らかに敵だと思って警戒されたのが分かったんですよ?これでストレージから剣を出されたら、僕はもちろん。アークエイド様だって太刀打ちできないでしょう?」
「ちょ、シオン君!余計な事口走っちゃダメよ!!」
アシェルは剣を使うのが上手かったのだろうか?
でも確かに、記憶の中のアシェルは剣を片手に、魔物相手に上手く立ち回っている。
戦闘の記憶通りにすればいいのなら、動けそうな気はする。
人間を相手にするのは少し抵抗があるが、相手にしなくてはいけないのなら、躊躇いなく戦うことを選ぶ。
ストレージという収納魔法の中に、アシェルは武器を持っているのだろう。
魔物が居る世界なのであれば、皆持っているのかもしれない。
それに収納魔法と言えば、ファンタジーあるあるの魔法だ。
「……ストレージ……?呪文は……。そう、思い出した。……時空の狭間よ。干渉を受けぬものよ。万物の宝物庫を我が前に示し給え『収納』。」
箪笥のようなものを思い浮かべて、頭に浮かんだ呪文を唱える。
身体の中で、何か覚えのある感覚がする。魔物と戦っていた時もこの感覚はあった。これが魔力なのだろうか。
真っ白な箱の中に、沢山の雑多な物が入っているのが見える。
——大きな塊の生肉が多いのだが、腐敗しないということだろうか。
剣が欲しいと思えば、仕舞ってある剣が見えた。そのまま取り出したいと願うと、それを手に取ることが出来た。
構えてみても違和感は無いし、この重さもしっくりとくる。
記憶にある通り、使い慣れた得物らしい。
シオンを窘めたリリアーデは、あちゃーと天を仰いだ。
薫は魔法も魔力の使い方のことも知らないはずなのに、ストレージというキーワードだけで呪文を思い出し、それを使って見せたのだ。
剣を構えたアシェルの姿を見て、シオンも自分が失言したことを知る。
「それ以上近付かないで。さっきはキスをしたけれど、別に貴方のことを信用したわけでも何でもないわ。私のこの身体の持ち主は、貴方と恋人同士だったのかもしれないけれど。私は知らないことよ。……私にとってココは見知らぬ場所だから、恋人だと言う貴方よりも、私の知っている方言を喋っている彼女たちの方が信用度が高いわ。」
気付いた時に身体を支えてくれていたこともあり、かなり心配してくれていることは分かる。
だが、この人が恋人です。はいそーですか、と受け入れるには、アシェルの持っている情報が少なすぎる。
少なくとも、手放しで信用していいとは思えない。
よく知らない人間を手放しで信用した先にあるのは、下手をすると自分の身の破滅だ。
「俺はアシェに危害を加えたりしない。ただ、アシェのことが心配なんだ。アシェが俺のことを覚えていないとしても、薫の記憶しか持っていないアシェを、一人っきりにするつもりはない。」
警告を無視して近づこうとするアークエイドを、マリクとシオンがその腕を掴み引き留める。
見知らぬ場所だと言ったが、この教室は見覚えがあるし、校舎の構造だって分かる。
魔物と戦っていた時のように身体強化を使えば、最悪逃げきることも出来ると思うが、ここの構造を知っているのはお互い様だ。捕まる恐れもある。
学生の身の上だし、家族か身元保証人か。誰か保護者がいるはずだ。
学費を払っている人間がいるはずなのだから。
今捕まれば、その見知らぬ保護者に引き渡されるのだろう。
婚約がどうのこうの言っていたし、つまりは保護者公認の恋人だということだ。
間違いなく保護者を知っていて、面識があるだろう。
でもそれが血の繋がった家族だとして、肉親を知らない薫の意識でどう関われというのだろうか。
せめて状況や記憶をもう少し思い出すまで、保護者には会いたくない。
思い出したのは森の中での出来事だ。校舎の構造は、思い出したと言って良いのか分からない。
同じことをなぞれば記憶が連鎖する可能性もあるが、こんな状態だと閉じ込められるかもしれない。
それにここが本当に違う世界なのか。この眼で確認したい。それまで転生したと認めたくなかった。
認めてしまうと零れ落ちてしまうから。
「貴方が私の何を知っているのか知らないけど……それ以上近づくなら、私は自分の手首を切るわ。」
ピタッと、アークエイドの動きが止まった。
自分のせいで大切なモノが傷つくのは嫌なのだろう。薫にもよく分かる感覚だ。
「俺はアシェに聞いて、薫の人生の話を聞いている。施設に居た経緯から、薫の死因まで。咲と健斗の名前だって知ってる。」
「……咲と健斗の?」
「あぁ。漢字を理解することは出来なかったが、薫の名前は花宮薫、咲は六道咲、健斗は山下健斗だろう?こちらは名前の後に家名がくるし、家名持ちは貴族だけだ。だが、日本では、家名が先に来るし、全員が家名持ちだったと聞いている。」
何やら色々と話したのを聞いた、ということなのだろうが。
転生したという実感は湧きつつも、どこかでまだ盛大なお芝居に巻き込まれた可能性も捨てきれない。捨てたくなかった。
「苗字まで咲と健斗の名前を知っているから、信用できるとは言わないわ。私は、まだ生まれ変わったとかは分からないの。カラフルな髪の毛はコスプレで、お芝居の中に巻き込まれたと言われた方が現実的よ。同じ学生なら、フルネームを言えてもおかしくないもの。二人が私にかかりきりだってことも、有名な話だったわ。」
グッと悔しそうな表情をしたアークエイドは、また少し迷って口を開いた。
「咲が作家として活動していた時の名前は、咲山六花だ。三人の名前から漢字を取って使った名前だろう?読み方が変わるが、同じ文字を使うと言っていた。それに……薫はお化けが嫌いなんだろう?理解できないし、証明できないものが怖いと言っていた。」
咲の作家としての名前の由来は、三人だけの秘密だった。
咲山六花という名前を知っている人間は多くても、由来を知っている人はまずいないだろう。
それに薫がお化けを嫌いなのは、一緒にお化け屋敷に行った咲と健斗しか知らないのだ。
咲には散々揶揄われたが、それは三人で居る時だけの話だ。
そして自分の苦手な弱点を教える程、目の前のアークエイドとは深い関係だったのだと理解する。
「……私が、その名前を貴方に教えたの?それに、私の怖いものは咲と健斗しか知らないわ。しばらく揶揄われたけれど、二人は絶対に言いふらしたりしないもの。……本当に私は貴方の恋人だったのね。……そして本当にここは、私の居た場所とは違うのね。咲と健斗の結婚式に出れないのも、もう二人に会えないのも残念だけれど……殺されてしまった私には、どちらにしても無理だろうから、仕方ないわ。」
今までの話を聞いて、ココに二人は居ないだろうと分かっていた。
それでも、本当は何かのお芝居に巻き込まれているだけで、二人はどこかに居るんだと思っていたかった。
咲と健斗の居ない世界で、薫はどうやって生きていけばいいのだろうか。
アシェルはどうやって生きてきたのだろうか。
少しずつでも思い出すことが出来れば、咲と健斗がいない世界でも、薫はアシェルとして生きていけるのだろうか。
いや、この身体はアシェルのものだ。そして薫はアシェルなのだ。
名前だって、絶対に日本人にはいない名前なのにしっくりとくる。
——ただ、それを認めたくなかっただけだ。認めるということは、咲と健斗にまた会えるかもしれないという希望が無くなってしまうから。
咲と健斗が居なくて、またパニックを起こしてしまうのではないかと思うくらい不安なのに、今見ている世界はちゃんと色を持っている。
それに、これだけ沢山の人がアシェルの心配をしてくれていて。アシェルの一部だという薫のことを知っていて、当たり前のようにその事実を受け入れてくれている。
——きっとアシェルに近い人たちで、友人だったのではないだろうか。
いや、友人なのだと思う。
心のどこかで、警戒する必要はないと感じている。
ただそれを、薫としての意識が受け入れきれなかっただけだ。
そうなると、あまり余計なことを喋って、友人を傷つけてしまってはいけない気がする。
自分は紛れもなくアシェルなのだと自覚できたのに、笑顔を作りやすかったアシェルは薫と違って、人付き合いが上手だったのではないかと思う。
薫の意識が強すぎる今、どんな一言が相手を傷つけてしまうか分からなかった。
薫の世界の中心は咲と健斗で、その次に施設の職員や子供達だ。狭い世界との関わりしかしてこなかった薫には、上手い人付き合いの仕方が分からない。
今アシェルに出来ることは、一人になって今までの人間関係に亀裂をいれないこと。
そしてまずは、時間をかけてでも思い出せるだけのことは思い出すべきではないだろうか。
声を出している人は限られているし、その話を統括すると、どうやら自分が関わっていることで間違いがないようだ。
「ねぇ……。話の渦中は私……ううん。私の意識が入っている身体の持ち主の、アシェルという人のことで。そのアシェルの記憶が、その紙切れのせいで封印されてしまったのね?合ってるかしら?」
リリアーデとアークエイドが同時に頷いてくれる。
それからリリアーデの補足が入った。
「厳密には、薫もアシェも同一人物よ。記憶が無いと実感しにくいと思うけど……わたくし、リリアーデの前世が百合、パティの前世が桜花、そしてアシェの前世が薫よ。だからわたくし達は前世の方言を話すことが出来るけど、こちらの人に方言は通じないわ。こっちには共通語しかないから。その身体は間違いなく薫のものだし、薫もアシェルも本質は一緒よ。薫よりも色のある世界を見ていたけれど、知識欲が強くて、物覚えも良くて。……そしていつも、大切な人に嫌われてしまうんじゃないかって不安を抱えている女の子。まぁ男装して過ごしていたから、周囲から見たら男の子だけどね。薫が転生した姿だって言ったら伝わるかしら?」
「……そう。転生……本質は一緒……。次はムーランと言ったかしら。貴女に聞きたいわ。貴女は私とそこの彼が恋人同士になってしまって、結婚の約束をするのが嫌だったから、私に嫌がらせをした。……間違いないかしら?」
いまいち転生したと言われても自覚は無いが、もしこれがお芝居じゃなく現実なのだとしたら、きっとリリアーデが言っていた咲と健斗と会えないというのは、二人とは違う世界に居るからということだろう。
朧気に残った夢のような記憶は、いつも天井のような物を見上げている。もしかしたら生まれてすぐの記憶なのかもしれないが、ぼんやりとしていてよく分からない。
二人とはどうやっても会うことは出来なさそうだ。
きっとアシェルという記憶があれば割り切って生活していたのだろうと思うのに、意識が薫である自分はそのことがとても悲しくて寂しい。
記憶の中にある二人ではなく、姿だけでもこの眼で見たかった。
問われたムーランは、頑張って涙を止め、鼻水を啜りながら立ち上がり、しっかりとアシェルの方を見た。
背の低さや容姿も相まって、なんだか施設の子供達を彷彿とさせる姿だ。
「……えぇ……そうよ。わたくしムーラン・モリオンは、アークエイド様に求愛していたけど受け入れて貰えなくて、アシェルと婚約するって決まったのが嫌で、貴女に嫌がらせをしたのよ。何か文句あるかしらっ。」
「姉上っ!!」
モーリスが窘めるように声を出したが、別にムーランは喧嘩を売っているわけではない。
自分が悪いことをしたと理解していて、叱られるのが分かっていて、𠮟られるような言動を取っている子供と一緒なのだ。
だからこそさっきムーランは、逃げることもせずアシェルの前に立ったのだ。
「モリオン……黒水晶ね。貴女にピッタリな名前だと思うわ。でも、私は望み通りに貴女を怒ったりしないわ。だって、私は貴女のことを知らないもの。」
黒水晶は魔除けや邪気払いなどの効果を持つパワーストーンだ。
今の言動と話を聞く限りではあるが、きっと真っ直ぐな性格をしたムーランは、性格が曲がってしまうほどの人のどろどろとした悪意に触れたことが無いのだろう。
それにもし薫とアシェルの本質が一緒なのであれば、どうやら大事になっているのは事故のようなもののようだし、子供の悪戯にわざわざ怒ることもない。
どう説明されたにしろ、ムーランから受け取ったあの紙切れは、アシェルの意志で使われたはずなのだ。その責任を押し付けるようなことはしないだろう。
自分の取った行動は、周囲にどう唆されたとしても自分の責任だ。
もし叱るのであれば、それはきちんと何があったのかを思い出してからだ。
聞きかじった話で、理不尽な𠮟り方をしてしまうわけにはいかない。頓珍漢な理由や、感情で叱ってしまうのは悪い叱り方だ。
「ほな、うちから少しええどすか?姫さん、ほんま、えー香りの香をつけてはりますなぁ。離れたうちらのところにまで、えー匂いがしてはりましたわ。殿下の気ぃ引くためやろねぇ。やすけない御方やわぁ。」
「??ありがとう……?」
アシェルが怒らないからか、すっと出てきたパトリシアが、物凄い嫌味を言っている。
関西弁だと思っていたが、京都出身なのだろうか。
こちらで方言は通じないと言っていたし、ムーランは一応お礼を言っているが、意味は通じていないのだろう。
単純に香水臭いし品が無いと言われているだけなのだが。
ただ特別ムーランが臭いということは無い。
教室の中にはいくつかの残り香があるし、きっともっときつい香水をつけている人もいるのだろう。
何故わざわざ指摘したのかと首を傾げていると、次へ繋げるためのワンクッションだった。
「クスッ、やっぱりやなぁ。」
さっきの分かりやすく現状にふさわしくない方言は、意味が通じるのか確認していたのだと知る。
「姫はんったら、そないなけったいなもんつこうて。てんごが過ぎるんとちゃいますか。お国じゃ権力があるかもしれへんけど、すこいことばかりしよって……今までもぎょーさん同じようなことしてきてはるんとちゃいますん?えげつないことしはるのも、たいがいにしぃや。」
普通に人当たりの良い喋り方で嫌味を言っていたパトリシアは、少し言葉を溜めた後、ドスの効いた低い声でムーランを叱った。
ビクッとムーランが身体を縮こまらせたので、怒られていることは理解したのだろう。
今のは変なもの使って狡いことばかりして悪ふざけが過ぎる。今までも沢山同じようなことをしているだろうし、あくどいことをするのはいい加減にしろと、叱っているのだ。
ただそれを、わざわざ詳細の伝わらない方言で伝える意味はあるのだろうか。
薫がなんとなく意味が分かるのは、咲に方言の辞典みたいなものを渡されて、関西弁の言い回しを覚えて案を出せと言われた事があるからだ。有名どころなら覚えた。
実際人の口から出た言葉を聞いたのは初めてなので、イントネーションは知らなかったのだが。
「な、なんで貴女にわたくしが怒られなくてはいけないのっ?貴女には関係ないことでしょう!?」
ムーランは予想通り気が強い子供らしい。
自分が怒られても良いと思った相手以外から怒られることが、納得いかないのだろう。
意味は分からないまでも、叱られたことは分かったようだ。
「うちはこうして言わせてもろてるけど、薫はんが自分からこおして話しとるから、誰も喋らへんし、声を荒げてないだけやって分かってはります?見た目だけやのうて、おつむまでややこと一緒なんと違いますの。」
頭の出来が赤ちゃんと一緒は言い過ぎだと思う。
だが、見た目からかなり年下かと思っていたのだが、よく考えると中高生に見える皆と同じ制服を着ている。
どうやら大きな歳の差はないようだ。
そして今のは、流石に頭の出来を馬鹿にされたと伝わったらしい。
「貴女っ、わたくしのことを馬鹿にして何様のつもりなの!?わたくしはアスラモリオン帝国の皇女よっ!」
「さよですか。せやけど、そんなことうちには関係あらしまへん。うちは何一つ間違ったことは言っとらんさかいに。それにうちの言葉、全部きちんと理解しはりましたん?苦情も何も、まずはそこからなんとちゃいますか?」
ようやくパトリシアが、こちらでは伝わらないらしい。……いや、日本でも地域が変われば伝わらない方言を前面に押し出していた理由が分かった。
身分を笠に着るということは、身分制度のある世界なのだろう。
そして皇族ということは国のトップクラス。本来なら、対等に口を聞くことが出来ない相手だ。
「そんな訳の分からないことばかり言って、分かるわけないでしょ!わたくしにも分かるように喋りなさい!!」
「はぁ、埒が開きませんわ。それにしても難儀な姫さんやわ。百合はん、どないしましょ?」
確かに権力を振りかざすだけの子供相手では、話にならないし困りもするだろう。
パトリシアは怒らなかったアシェルの代わりに、嫌味も含みつつ悪いことをしてはダメだと言ってくれているだけだ。
それになんとなくだが、こうやって方言で相手に分かりにくい言葉を使ってるのは、ムーランのためでもあるんじゃないかと思う。
きっと全員が理解できる言葉で責め立てれば、それに同調した声が周囲から上がるだろう。
たった一人を集団で責め立てる形になってしまう。
最初の一人にはなれなくても、誰かが上げた声に乗っかることは容易な人間は多いから。
いくらムーランが悪いとは言っても、集団で責め立てた時点でそれはただの虐めだ。
怒りでプルプルと震えているムーランを他所に、パトリシアはリリアーデに助けを求めた。
一部分からなかった可能性もあるが、恐らくほとんど理解しているであろうリリアーデが苦笑した。
「えぇ、今の流れでうちに飛んでくるん?そこは普通、薫やろ。薫もそう思わん?」
一瞬で話が回ってきた。
「そこで私なの?……でも、私は何も覚えてないから。経緯が分からないのに何も言えないわ。」
「でも、アシェがなんか言わんと、皆怒っちょうき。腹の虫がおさまらんばい?桜花みたいなんでもいいんやき。」
先程京都弁で話していたように、周囲には伝わらないように。
それでもアシェルが、ムーランに反省を促したという実績が残れば良いということだろうか。
まぁこの際、伝わっても伝わらなくても良いのかもしれない。
「そうね……。ムーラン。貴女には是非、真っ赤な靴を履いて踊っていただきたいわ。」
「薫はんったら、ほんま、せっしょーなことをいいはるわ。でもいけずな姫はんには、ちょうどええかもしれませんなぁ。」
別にむごいことを言った覚えはない。
傲慢な心を持った少女は、呪われた赤い靴を履いて死ぬまで踊ることになるのだが、途中で両足を切り落として、懺悔しながら人生を奉仕に費やして過ごし。
最終的にその傲慢さの招いた罪は許され、魂は救われたのだ。
どんな罪を犯しても、自分が犯した罪を認め、真摯にそれを償えば救われるというお話のはずなのだから。
「赤い靴やね。確かにちょっと残酷やけど、状況的にムーラン皇女には、ばり似合う言葉やと思うばい。」
「せやねぇ。まぁ、自分で気ぃつくまで、よーけ舞えばええんと違います?」
「彼女は、森の中の小屋に辿り着けるかしら?」
「んー……それは本人次第やない?ああゆうのって、外野がどーこー言って気付いても、意味ないと思うきねぇ。」
「うちもそう思いますわ。うちらは二人分の生を知ってるさかい。そう思えるんかも知れへんけどね。」
訳の分からない話を目の前で繰り広げられて、ムーランは状況が分からないなりに、何か良くないことを言われていると思うのだろう。
キッとこちらを睨みつけてきている。訳が分からないからと暴力に訴えないだけ、少しは分別のある子供なのだろう。
もしちゃんと頭を下げて謝ることが出来ていたら、きっとリリアーデもパトリシアも、こんな風に遠回しに責めたりしなかっただろうと思う。
二人は前世も合わせると他の人より沢山の経験をしていただろうし、前世という事は母親だった可能性もあるのだ。
叱り方を心得ているあたり、可能性は高いかもしれない。
罪を自覚することは出来ているのだから、謝罪できるようになるかは、本人が成長するしかないことだ。無理やり頭を下げさせた謝罪に、何も意味は無いのだから。
二人には通じたけれどムーランに通じていないということは、こちらにはそういう童話が無いのだろう。
もしかしたら同じようなニュアンスのものはあるかもしれないが、流石にソレは今のアシェルでは分からない。
「なによ、なによっ!さっきから意味の分からないことばかりっ!わたくしの分かる言葉で喋りなさいよっ!」
流石に意味が分からなさ過ぎたのか、癇癪を起す寸前なのではと思うムーランに詰め寄られる。
癇癪を起されると手に負え無さそうな雰囲気がしているので、今までの方言の話から話題を変えなくてはいけない。
「貴女には、自分で考えることが必要だという話をしていたのよ。話を戻すけれど、この騒ぎで私とアークを別れさせたかったのでしょう?でも残念ね。」
状況を見守っている面々の中から、アークエイドだと紹介された黒髪の恋人だという人に近付き、その制服のネクタイをグイっと引っ張った。
そして近づいた唇に、遠慮なく口付ける。
突然のこととはいえ拒絶されなかったし、唇を舐めればすんなりと舌は受け入れられた。
アシェルとアークエイドがどうだったかは置いておいて、アークエイド自身はキスをし慣れていると判断して間違いなさそうだ。
一生懸命こちらの動きに抵抗してくるが、それを許してやるつもりはない。決して下手でもなく上手いほうだと思うが、今まで沢山練習した薫の方がキスは上手だ。
——上手なはずなのに、何故、形勢逆転されそうだなどと思うのだろうか。見せつけるだけのはずが、心に温かさが広がる。
ムーランに見せつけるために、たっぷりと舌を絡めていく。
アークエイドの息が乱れてきたところで、キスを止めた。
流石に大勢の前で、艶めかしい吐息を吐きたくないだろう。
そしてアークエイドにしなだれかかってみせる。
それからにっこりと微笑んだ。
——表情筋を動かしやすい。アシェルは笑顔の多い人生だったのだろうか。
「これで分かったかしら?どんな嫌がらせをしようと、記憶があってもなくても、彼は私のモノよ。貴女じゃ、こんな風に受け入れて貰えないでしょう?」
顔を恥ずかしさで真っ赤にしてしまっているが、お子様には刺激が強すぎただろうか。
でも、恋人同士なのにそこに割り込んでくるライバルが居る時には、こうやって見せつけてやれば良いと咲は言っていた。
薫なら、キスシーンを見せつけるだけでも効果的だと。しなだれかかって見せれば更に効果絶大だと言っていたが、十分に効果はあったようだ。
「ひどい、酷いわっ。アシェルはわたくしの気持ちを知ってるくせにっ!それに、アシェルのこと友達だと思ってたのにっ!!馬鹿、馬鹿っ。アシェルの馬鹿っ。それに何でわたくしのことまで忘れちゃうのよっ!アシェルのことなんて、もう知らないんだからっ。」
ぼろぼろと泣きながら叫んだムーランは、教室を飛び出して行った。
モーリスは追うか迷ったようだが、誰かに声を掛けるだけに止めて、教室に残ることにしたようだ。
誰もいないように見えるのに、誰か居たのだろうか。
「陳腐な捨て台詞ね。」
アークエイドと恋仲になりたかったから、その恋人であるアシェルに意地悪をしたのかと思っていた。
だがアシェルがムーランと友人だったのだとしたら、どうやらアシェルにも要因はありそうだ。
「……一つ確認するけれど。貴方とあの子が付き合っていて、私が横取りしたとか。そういうややこしい話しだったりするかしら?」
まだ頬を染めているアークエイドに問えば、違うと返ってきた。
とりあえず、最悪の事態ではないらしいことに安堵する。
「そもそも俺は、5歳の時からアシェに一目惚れしてるんだ。他の女に手を出したりするわけないだろ。」
どうやら一途な人間らしい。
それにしても5歳からとは、少々恋愛感情の目覚めが早すぎるのではないだろうか。
保育園や幼稚園で、保母さんを好きになるとかそういう感じなのだろうか。通ったことは無いので、聞きかじった話しか知らないが。
「それより、アシェ。身体のどこかおかしいとか、頭痛がしたりしないか?」
肩を掴まれそうになって、思わず後ろに飛び跳ねて距離を取った。
——この感覚は知っている。
朧気に残っているコレは、きっと夢ではなくてアシェルの封印されていない記憶なのだろう。
魔物にひたすら剣を振るっていたことは覚えている。
魔法がどうとか言っていたし、ここはゲームのようなファンタジー世界のようだ。
髪の毛や瞳の色がカラフルなのも頷ける。
微かに記憶を思い出したことで、薫がアシェルに転生していたのだという実感が強くなる。
「アシェ……?」
心配そうに、アークエイドが足を一歩踏み出した。
それを犬耳のついたマリクが腕を掴み止める。
あの耳と尻尾が本物なのだとしたら、獣人と呼ばれる人種なのだろう。
真のケモナー御用達ではなく、ライトなケモナー向けなイケメンだ。
「アーク、アシェに近づいちゃダメだよー。ものすごーく警戒してるからー。あれ、絶対戦い方覚えてるもん。それも本気のヤツー。まほーが使えないとしても、俺、本気のアシェとやり合うのは嫌だからねー?」
へにゃりと三角耳を垂れさせ、ふさふさの尻尾は怯えたように股の間に仕舞われた。
そんなにアシェルは強いほうだったのかと思っていると、それに浅葱色の頭をしたシオンが賛同する。
「アークエイド様、アシェル様を刺激しないでくださいっ。僕にだって今の身のこなしは、明らかに敵だと思って警戒されたのが分かったんですよ?これでストレージから剣を出されたら、僕はもちろん。アークエイド様だって太刀打ちできないでしょう?」
「ちょ、シオン君!余計な事口走っちゃダメよ!!」
アシェルは剣を使うのが上手かったのだろうか?
でも確かに、記憶の中のアシェルは剣を片手に、魔物相手に上手く立ち回っている。
戦闘の記憶通りにすればいいのなら、動けそうな気はする。
人間を相手にするのは少し抵抗があるが、相手にしなくてはいけないのなら、躊躇いなく戦うことを選ぶ。
ストレージという収納魔法の中に、アシェルは武器を持っているのだろう。
魔物が居る世界なのであれば、皆持っているのかもしれない。
それに収納魔法と言えば、ファンタジーあるあるの魔法だ。
「……ストレージ……?呪文は……。そう、思い出した。……時空の狭間よ。干渉を受けぬものよ。万物の宝物庫を我が前に示し給え『収納』。」
箪笥のようなものを思い浮かべて、頭に浮かんだ呪文を唱える。
身体の中で、何か覚えのある感覚がする。魔物と戦っていた時もこの感覚はあった。これが魔力なのだろうか。
真っ白な箱の中に、沢山の雑多な物が入っているのが見える。
——大きな塊の生肉が多いのだが、腐敗しないということだろうか。
剣が欲しいと思えば、仕舞ってある剣が見えた。そのまま取り出したいと願うと、それを手に取ることが出来た。
構えてみても違和感は無いし、この重さもしっくりとくる。
記憶にある通り、使い慣れた得物らしい。
シオンを窘めたリリアーデは、あちゃーと天を仰いだ。
薫は魔法も魔力の使い方のことも知らないはずなのに、ストレージというキーワードだけで呪文を思い出し、それを使って見せたのだ。
剣を構えたアシェルの姿を見て、シオンも自分が失言したことを知る。
「それ以上近付かないで。さっきはキスをしたけれど、別に貴方のことを信用したわけでも何でもないわ。私のこの身体の持ち主は、貴方と恋人同士だったのかもしれないけれど。私は知らないことよ。……私にとってココは見知らぬ場所だから、恋人だと言う貴方よりも、私の知っている方言を喋っている彼女たちの方が信用度が高いわ。」
気付いた時に身体を支えてくれていたこともあり、かなり心配してくれていることは分かる。
だが、この人が恋人です。はいそーですか、と受け入れるには、アシェルの持っている情報が少なすぎる。
少なくとも、手放しで信用していいとは思えない。
よく知らない人間を手放しで信用した先にあるのは、下手をすると自分の身の破滅だ。
「俺はアシェに危害を加えたりしない。ただ、アシェのことが心配なんだ。アシェが俺のことを覚えていないとしても、薫の記憶しか持っていないアシェを、一人っきりにするつもりはない。」
警告を無視して近づこうとするアークエイドを、マリクとシオンがその腕を掴み引き留める。
見知らぬ場所だと言ったが、この教室は見覚えがあるし、校舎の構造だって分かる。
魔物と戦っていた時のように身体強化を使えば、最悪逃げきることも出来ると思うが、ここの構造を知っているのはお互い様だ。捕まる恐れもある。
学生の身の上だし、家族か身元保証人か。誰か保護者がいるはずだ。
学費を払っている人間がいるはずなのだから。
今捕まれば、その見知らぬ保護者に引き渡されるのだろう。
婚約がどうのこうの言っていたし、つまりは保護者公認の恋人だということだ。
間違いなく保護者を知っていて、面識があるだろう。
でもそれが血の繋がった家族だとして、肉親を知らない薫の意識でどう関われというのだろうか。
せめて状況や記憶をもう少し思い出すまで、保護者には会いたくない。
思い出したのは森の中での出来事だ。校舎の構造は、思い出したと言って良いのか分からない。
同じことをなぞれば記憶が連鎖する可能性もあるが、こんな状態だと閉じ込められるかもしれない。
それにここが本当に違う世界なのか。この眼で確認したい。それまで転生したと認めたくなかった。
認めてしまうと零れ落ちてしまうから。
「貴方が私の何を知っているのか知らないけど……それ以上近づくなら、私は自分の手首を切るわ。」
ピタッと、アークエイドの動きが止まった。
自分のせいで大切なモノが傷つくのは嫌なのだろう。薫にもよく分かる感覚だ。
「俺はアシェに聞いて、薫の人生の話を聞いている。施設に居た経緯から、薫の死因まで。咲と健斗の名前だって知ってる。」
「……咲と健斗の?」
「あぁ。漢字を理解することは出来なかったが、薫の名前は花宮薫、咲は六道咲、健斗は山下健斗だろう?こちらは名前の後に家名がくるし、家名持ちは貴族だけだ。だが、日本では、家名が先に来るし、全員が家名持ちだったと聞いている。」
何やら色々と話したのを聞いた、ということなのだろうが。
転生したという実感は湧きつつも、どこかでまだ盛大なお芝居に巻き込まれた可能性も捨てきれない。捨てたくなかった。
「苗字まで咲と健斗の名前を知っているから、信用できるとは言わないわ。私は、まだ生まれ変わったとかは分からないの。カラフルな髪の毛はコスプレで、お芝居の中に巻き込まれたと言われた方が現実的よ。同じ学生なら、フルネームを言えてもおかしくないもの。二人が私にかかりきりだってことも、有名な話だったわ。」
グッと悔しそうな表情をしたアークエイドは、また少し迷って口を開いた。
「咲が作家として活動していた時の名前は、咲山六花だ。三人の名前から漢字を取って使った名前だろう?読み方が変わるが、同じ文字を使うと言っていた。それに……薫はお化けが嫌いなんだろう?理解できないし、証明できないものが怖いと言っていた。」
咲の作家としての名前の由来は、三人だけの秘密だった。
咲山六花という名前を知っている人間は多くても、由来を知っている人はまずいないだろう。
それに薫がお化けを嫌いなのは、一緒にお化け屋敷に行った咲と健斗しか知らないのだ。
咲には散々揶揄われたが、それは三人で居る時だけの話だ。
そして自分の苦手な弱点を教える程、目の前のアークエイドとは深い関係だったのだと理解する。
「……私が、その名前を貴方に教えたの?それに、私の怖いものは咲と健斗しか知らないわ。しばらく揶揄われたけれど、二人は絶対に言いふらしたりしないもの。……本当に私は貴方の恋人だったのね。……そして本当にここは、私の居た場所とは違うのね。咲と健斗の結婚式に出れないのも、もう二人に会えないのも残念だけれど……殺されてしまった私には、どちらにしても無理だろうから、仕方ないわ。」
今までの話を聞いて、ココに二人は居ないだろうと分かっていた。
それでも、本当は何かのお芝居に巻き込まれているだけで、二人はどこかに居るんだと思っていたかった。
咲と健斗の居ない世界で、薫はどうやって生きていけばいいのだろうか。
アシェルはどうやって生きてきたのだろうか。
少しずつでも思い出すことが出来れば、咲と健斗がいない世界でも、薫はアシェルとして生きていけるのだろうか。
いや、この身体はアシェルのものだ。そして薫はアシェルなのだ。
名前だって、絶対に日本人にはいない名前なのにしっくりとくる。
——ただ、それを認めたくなかっただけだ。認めるということは、咲と健斗にまた会えるかもしれないという希望が無くなってしまうから。
咲と健斗が居なくて、またパニックを起こしてしまうのではないかと思うくらい不安なのに、今見ている世界はちゃんと色を持っている。
それに、これだけ沢山の人がアシェルの心配をしてくれていて。アシェルの一部だという薫のことを知っていて、当たり前のようにその事実を受け入れてくれている。
——きっとアシェルに近い人たちで、友人だったのではないだろうか。
いや、友人なのだと思う。
心のどこかで、警戒する必要はないと感じている。
ただそれを、薫としての意識が受け入れきれなかっただけだ。
そうなると、あまり余計なことを喋って、友人を傷つけてしまってはいけない気がする。
自分は紛れもなくアシェルなのだと自覚できたのに、笑顔を作りやすかったアシェルは薫と違って、人付き合いが上手だったのではないかと思う。
薫の意識が強すぎる今、どんな一言が相手を傷つけてしまうか分からなかった。
薫の世界の中心は咲と健斗で、その次に施設の職員や子供達だ。狭い世界との関わりしかしてこなかった薫には、上手い人付き合いの仕方が分からない。
今アシェルに出来ることは、一人になって今までの人間関係に亀裂をいれないこと。
そしてまずは、時間をかけてでも思い出せるだけのことは思い出すべきではないだろうか。
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