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2022年12月 冬枯れの街とワールドカップ

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 2日金曜日、今年初めて雪が舞う中、僕はママの車で幼稚園に行く。もちろん、トモちゃんから買ってもらった黄色のダウンジャケットを着て。フードを被ると、まるでヒヨコだ僕は。雪は舞うだけ、積もらないな。

 今日の早朝、日本VSスペインが決勝トーナメント進出に向けて運命の戦いをした。日本時間早朝4時キックオフに日本中の熱い視線が注がれただろう。

 圧倒的なテクニックと速い正確なパス廻しで日本を翻弄するスペインは、開始早々に得点する。やはりこれまでとの思いで傍観するように見つめるも前半は波状攻撃をなんとか防ぐ。知将森保監督の作戦と采配は後半に炸裂する。始まって直ぐ続けざまに日本が堂安、三笘の活躍により2得点し、それを最後まで守り切る。スペインは選手入替えにより完璧な幾何学的パスに狂いが生じており、加えての明らかな体力疲労が見られた。後半の最後の方では再び動きを取り戻したものの、固い守りに入った日本には阻まれた。

 後半に追いついた時の森保監督の喜びの表情からも、この人はこれまでの監督、指導者とは一味も二味も違う、冷静な知性と深い情愛が滲み出ていた。
 
 日本は強豪で優勝候補の一角であるドイツもスペインも撃破し、ブロックリーグ1位で通過した。

 29年前、ドーハの悲劇と呼ばれたこの地は、悲劇も合わせて記念すべき聖地となった。

 この日、太陽に吠えろのラガー、俳優の渡辺徹が61歳で亡くなっていたことが報道された。余りにも早い、早すぎるだろう。

 3日土曜日、今日もまたジィージとケイちゃんとでお出かけだ。大きな公園の大きな芝生に覆われた小山を黄色のダウンジャケットで登山し、斜面の途中からは、最近僕のお気に入りのダウンヒルだ。転ばず下まで駆け抜ける。

 4日日曜日、今日はパパとママとで寒い冬の動物園。動く色々な生き物を間近で見るのは楽しい。羊との触れ合いコーナーは、興味津々だけどちょっと怖い。

 5日月曜日、ウクライナは初めて敵国本土の航空基地をドローンを使用して攻撃を加えた。ウクライナ本土のライフラインを爆撃している戦略爆撃機等や軍事基地への先制的な攻撃だ。少し凍りつく。フェーズが変わってしまった予感。

 6日月曜日午前0時キックオフの日本VSクロアチアは延長戦の末のPK戦で惜敗する。PK戦はメンタル、駆け引き、運が大きく作用するが、その前の個人技の差は否めない。駆け引きするために必要なキックの技術があるようだ。敗戦は残念だったけど、日本代表の活躍は新しい風景の一角を垣間見れた。そして、新しい監督像は希望でありファンタスティックだ。

 静岡の認可保育園で保育士の女3人が逮捕される。写真付きで実名報道がなされる。容疑内容は、1歳から就学前のいたいげな園児えのブスデブの暴言、暗い部屋への閉じ込め、逆さ吊りの虐待、カッターナイフでの脅しという卑劣な数々だ。園長の隠蔽工作の実態ともどもが、内部告発で明らかになる。

 7日水曜日、スペインがPKで惨敗した日、僕は初めて熱を出して幼稚園を休んだ。検査の結果はフィバーどはなかった。寒い日が続いたための単なる風らしい。座薬をもらって来て当分の間、幼稚園は休む。ママも会社は今週一杯は一緒に休みを貰えた。また、久々8ケ月ぶりか、ママと二人の生活を楽しめるってのも悪くはない。

 10日土曜日、昨日に引き続きママと午後からジィージの家に来る。僕は鼻水がとめどなく出てくるけど拭かれるのが嫌いだから無理やり押さえつけられたり不意をつかれて不覚にも鼻をかむことになる。外は寒いし廊下も寒いからもっぱら部屋の中を行ったり来たりする。ジィージが買ってくれたを大きなタイヤの室内三輪車はボタンを押すとにぎやかな音がする。ジィージが猛スピードで部屋の隅から隅から隅へ押してくれる。快感で歓喜の声。

 ネイマール率いるブラジルがモドリッチを中心としたクロアチアからPKで敗れる。クロアチアはまたしてもPKで勝ち上がってきた。運なのか実力なのかは誰も分からないが、前回大会もクロアチアは2回もPKでトーナメントを勝ち上がり準優勝をしているという目立だない強豪だ。

 オランダVSメッシのアルゼンチンもなんとPKとなる。アルゼンチンが辛勝。準決勝はこのクロアチアVSアルゼンチンだ。

 12日月曜日、まだ僕の風邪の状態は本望ではない。僕もママも午前中休んで小児科医院で診察して薬をもらう。午後からはママは会社に、僕はジィージの家に預けられる。夕方、ママが車で迎えに来てくれたけど、パパも会社帰りにジィージの家に寄り、皆で夕食をご馳走になる。明日からは僕も幼稚園に行けるはずだ。

 13日火曜日、井上尚弥が29歳にしてバンタム級ボクシング主要4団体の統一王座になった。バンタム級では世界初という快挙。しかも4団体決戦はすべて圧倒的なKO勝利という歴史に残る怪物伝説を作った。

 ゴルフの松山英樹、野球の大谷翔平、そしてボクシングの井上尚弥。僕が生まれてからの世界的スポーツヒーローはこれで3人になる。

 14日火曜日、午前4時キックオフのワールドカップサッカー準優勝。メッシだ。メッシ率いるアルゼンチンがモドリッチ率いるクロアチアを破り決勝進出を決める。明日決まるが、決勝の対戦相手はエムバベ率いるフランスだろう。

 ポルトガルのクリスチナ・ロナウド、ブラジルのネイマール、クロアチアのモドリッチと同時代のサッカー名選手列伝に残る選手達は、最後のチャンスを捕まえきれずに涙を飲んで去っていった。残りの1人はメッシ。メッシに掴みさせたいな。エムバペ君、あなたは今回でなくてもいいんじゃないかな。

 午後から雪が降る。すると、地面が、屋根が、景色が、周りのものすべてが全部白色に覆われていく。不思議な世界が突然に現れた。

 15日木曜日、僕から伝染ったのかママは咳と喉の痛みで午後から休み街の医院に行くも門前払い。咳がある人は熱が無くてもご遠慮してもらってるとのこと。次の医院でようやく自家用車に待機した上での診察を受ける。

 少し前は、発熱外来としての指定が市内でも数か所なされていたのだか、今は全部車内診療となったらしい。大夫待たされた後の抗体検査、15分後に結果陰性。更にPCR検査を実施、結果は明日の昼頃になるので、携帯に電話するとのこと。簡易の診察のために今度は医師が車に来るも身体の様子を伺うだけで終わり。死んだりするような重篤ではない限りはそれで終了。

 一応、声だけの診察で気管支拡張剤と炎症留の薬を処方される。PCR検索報告を受けた後に、状態を見てもう一度受信して下さいと言われる。死ぬか死なないかが重要な診察基準のようだ。今後のフィーバーやインフルエンザの流行次第では、医療崩壊なんて簡単に起こるかも知れない。

 結局、ママもPCR検査は陰性だった。

 18日日曜日、初めて家の周りを雪の中、ママと散歩する。青色の熊の刺繍のある毛糸の帽子と水色の上下のつなぎスキーウェアーと青色の防寒ブーツだ。まだ、アスファルトの道には雪は積もらずビチャビチャだ。降る雪はみぞれのような、時にはあられのような、余り気持のいいものではない。

 今日の夜0時にはサッカーワールドカップ決勝戦、アルゼンチンVSフランスだそうだ。僕には関係無いけどパパもジィージも今から楽しみにしているようだ。

 その決勝戦、19日月曜日深夜0時キックオフ。凄まじい試合展開がなされる。技術と戦略と駆け引きが凝縮された行き詰まる試合だ。

 前半、メッシが絡んでのベテラン盟友アンヘル・ディ・マリアがもたらした2得点(ディ・マリアが得点1ゴール)。

 この流れで終えれるのかと思いきや、後半も終盤に近い時間にエムバペが絡んだ2得点(エムバペが豪快なボレ1得点ゴール)で振り出しに戻る。

 延長戦後半にメッシがゴール。

 これで決定かと思ったら、その後にエムバペが絡んだPKとなりエムバペがキッカーとなり得点し、この時点で大会8得点となりメッシの7得点を抜き得点王争いを抜き出て試合は同点のまま終了しPK決戦となる。

 PKはフランス先行で1番エムバペがスピードのある豪快シュート。アルゼンチンの1番はメッシでタイミングをズラしたテクニックシュートで決める。

 以前の解説で定評のある人気の本田氏がPK戦までをマネージメントする監督は知らないと言っていたが、どうやらアルゼンチン監督はマネージメントしているようだ。

 フランスは疲労と緊張の見える2選手(コマンは後半戦半ばから交代入、チュアメニは120分フル出場)が続けて外してしまうのに対して、アルゼンチンは延長16分に交代入のディバラ、延長12分交代入のパレデス、延長1分交代入のモンティエルという、いずれも延長戦になってから交代であり、体力温存、フレッシュであり、このために集中力を研ぎ澄ましてきたかのような選手3人が危なげなく決めてPKを快勝した。

 アルゼンチンが、メッシが優勝。祖国の英雄マラドーナに追いつき、そして追い抜いた。

 世界中が沸く。アルゼンチンサポーターでなくても世界中のサッカーファンのほとんどは、メッシがトロフィーを掲げるこの瞬間を待ち望んでいたはずだ。リアル放送での観戦者は10億人位だろうか、その内の9億人はこれを望んでいたはずだ。それほどサッカーファンに愛された偉大なメッシだ。サッカーの歴史に刻まれる瞬間をリアルで観る。

 メッシがMVP、エムバペは得点王。次の時代はエムバペが引っ張るだろう。

 僕が生まれてからの1年間に刻んだ世界的スポーツヒーローは、サッカーのメッシを含めてこれで4人となつた。

 朝、起きれば豪雪による積雪で道路は渋滞。列車は運行停止と遅れでママは出勤できず。パパは僕からの風邪で咳が酷く会社を休むようだ。僕だけが元気に雪の幼稚園に通う。

 20日火曜日。パパは風邪で今週は会社に休み。ママも同居人が咳してるからと会社から待機指示で今週はズッート実質的な休みらしい。今日も僕だけが元気に楽しい幼稚園だあ。

 僕が住むここでは、雪は程よく降る程度だけど、テレビ報道によると、新潟では豪雪過ぎて、国道で車800台の車が動けなくなり、自衛隊が支援活動に入ったんだとか。

 22日木曜日、ゼレンスキー大統領はバイデン大統領とワシントンで会談し、継続支援を依頼した。今年2月にロシアから侵攻されてからの初めての外国訪問先だ。

 同日、ジィージは山崖の雪深い温泉宿で朝夕食付の旅館湯治。GO-TOトラベル地域別バージョン適用で、宿泊費40%オフに加えて、地域クーポン券3000円が貰えるそうだ。雪見風呂で癒やされているらしい。

 雪は幼稚園のグランドにもこんもりと積り、僕はパパとママが買ってくれた上下繋のスキーウェアと長靴を履いて、夢中になって遊び、昼のご飯を食べたあとは泥のように昼寝する毎日だ。

 クリスマスにはパパ、ママ、ケイちゃん、トモちゃん、幼稚園の先生と沢山の人から沢山のプレゼントを貰った。沢山の絵本と沢山のおもちゃ。幼稚園ではサンタさんが突然現れて手作りのプレゼントを配ってくれたけど、赤い服と白い髭とお化けみたいで、僕はなんだか怖くて泣いてしまった。

 クリスマスの夜にはパパが僕でも食べれるケーキを作ってくれた。僕は一人で大きなケーキを顔に付けながらも頬張るのだ。

 もうすぐ、正月。29日からは幼稚園も休みとなる。ママもそれに合わせて会社を休んでくれるから、暫くはいつもママと一緒だな。パパともは30日からいつも一緒だ。
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