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高野山に降る雪
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早朝、難波駅から南海電鉄に乗り込む。田舎者の好奇心で、前日はくいだおれで仲間と食事をした。今日は自由行動でそれぞれの思いで関西をさすらっている。
関西の中心地から乗り継ぎ無しで山奥まで行ける便利さに驚いた。
列車は通過するごとに上客は減っていき、車両は山奥に進むに連れて、後ろの方から車両を削られていき、最後はとうとう一両列車となった。これでは田舎の海岸沿いを走っている赤字列車と変わらない。
列車が終点に着くと、モノレールが乗り継ぎで待っていた。平日のせいもあり、上客はここでも少ない。
晩秋のこともあり、雲行きが怪しくなってきた。さすがに紀伊山地の一角なのだろうが、まさか、この季節に雪が降ることなどは考えてもなかった。ぼくは、大阪の街を歩くための革靴を履いているのた。
ケーブルカーを降りて、いよいよ目的地と思いきや、今度はバスで移動しなければならない。雪は本格的な降りだした。
高野山の町で降りる。奥の院までは大分あるが、辺りの景色は真っ白でとても歩けるような状態ではない。なんとか根本大塔までは靴の中まで雪を入れながら滑りながらと歩んでは拝んで戻ってきた。
何も出来ないままに、帰りのバス停の前の茶屋に入りバスを待つことにした。バスが来るまで大分時間はあるようだ。
「こんな季節に雪ってここでも降るんですね」と僕は聞いた。
「時々、こんな風にはなりますけど、珍しいです。でも、何年か前に、ここまで登ってくるはずの坊さんが雪で遭難して亡くなってますよ」と言う。
雪のせいか、窓から眺める通りを歩く坊さんの一人もいない。
「車で移動してるんじゃないかしら」と店の人はそっけなく言う。
仏教で日本を動かした空海の凄まじいほどのエネルギーが集中しているはずの時空は、なんの事はない、どこにでもある普通の寺町の風情だ。
「宗教を哲学的に分解すると‥」、そんなことは出来ない位に広大なはずの空海の世界を少しだけ垣間見ながら、僕は雪で人も町も凍ったように静かな俗っぽい観光地をすごすごと後にした。
茶屋ではおもいっきり俗っぽく、ビールを飲んだ。背徳の後ろめたさが雪に馴染んで丁度いい。
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