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朝日のあたる丘
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「どこ行ってたんだよ3時間も、遭難したかと思って心配したよ、」と僕は少し怒って、しかし、無事に戻った友にほっとして話しかけた。
「いや、途中で松茸名人のような人に出会って、何とか頼み込んで松茸の出ている場所まで案内さしてもらってきたんた。少しだけ取れた」と小さな松茸を僕に差し出した。
これまでの心配と相殺するには十分ではなかったが、松茸山の松茸狩に初めて二人で来てみたものの、僕は坊主だったから、有りがたく頂戴した。
「こんな里山では取れなんだそうだ、山深く片道1時間は入らないと行けない」と高村は説明した。
「だったら、一声かけるのが常識だろう。一人で居なくなるなんて。山だよここは。遭難もすれば熊も出る。何考えてるんだよ。」
高村は悪かったといつものように口先だけで反省した様子もなくニヤニヤとしている。
おつむはあんまり賢くない奴だからなと僕は心で思いながら受け流した。
高村とは何故か興味が一緒で小さい頃から遊んでいた。大人になってからも、公務員と臨時土木作業員という、まったく異なった職業ながらも、テニスチームでは二人でダブルスを組んでいた。
高村はそもそもが若い頃から運動音痴であったが、テニスも試合に出るほどには上手くなかった。
熱心に高村が練習に誘うために、何とかここまで上手くさせることができた程度だか、ボレーはまったくダメだし、作戦も忘れるし、そのボールはアウトだよと大きく声がけしても迷いながら中途半端にてを出して相手に簡単にポイントを献上する。
誰もが高村とは組みたくないと言うたから、仕方がなく僕が組んでいた。
高村と組んでも勝てるはずがなかったが、ダブルスは遊びだと割りきることにして楽しんだ。
「竹馬の友よ」と、高村はよく僕たちの関係を言った。
僕も異邦人のムルソーと余り出来の良くない友との関係に重ね合わせながら、この関係を面白く居心地のいいままに付き合っていた。
長い付き合いの間には、色々とこじれた問題もあった。
約束の時間は守れない、貸したお金は催促しないと返さない、平気で分かるような嘘をつく、簡単に考えをひるがえす、前後に関係なく突然行動を起こす。今回の松茸山での行動もたくさんあった問題の一つでしかない。
普通は信用できないと言われる類いの奴ではあった。
テニスクラブに、新たに中堅として関谷が加わった。彼は世界をも股にかける建設会社の社長の息子だ。
関谷は、十分に田舎の町では知名度は高かったし、御曹司としての社会的な影響力も持っていた。テニスもそこそこに上手かった。
松茸狩から数日後、関谷の奥さんから偶然にこんな話を聞いた。恐らくは内緒の話なのだろうが、ついつい、口が滑ったということだと思う。
「この前、高村さんから松茸を山ほど頂いて、食べきれなくて大変でした。」
僕と一緒に行った時のことであることは明白だった。高村は関谷に賄賂や貢物のように松茸をたんまりと僕には内緒で持っていった。
高村の奥さんも、
「この前は沢山取れて良かったですね。」と事情も知らずに僕に電話してきたことがあったので、なんとなくあの日のことは理解していた。
高村の車で行ってたから、僕は山小屋で待つしかなかったが、高村は豊作の松茸を車に持ち帰ってから僕のところに戻ってきたのだ。
翌週になって、高村は僕と一緒に組んで出る予定のダブルスのテニス大会をキャンセルしたいと言ってきた。
僕は、他の上手な先輩のペアの誘いを断ってまで下手な高村の誘いを優先していたのだ。
僕は大会には出れないままに過ごすことになった。
しかし、その後に割りきることに分かったことたが、高村は関谷と組んでテニス大会に出ていたとのことだ。
高村は就職先の本採用にも議員にお金を積んでいた。これからは関谷の機嫌をとりながら関谷の会社にでも採用してもらえばいいだろう。
なるべく思い出さないようにしてきたことが、どっと溢れてきた。
中学生の頃に隣町の上級の中学生から因縁を付けられたときにも高村は脅されるがままに自分のことを逃れるために、皆の目の前で僕の、そして他の友達の名前から住所から何から何までへらへらと明かしていった。
当然、他の友達は高村の側を去って行ったが、僕だけは高村を責めなかった。
先生から叱られた時も、盗みの疑いをクラスからかけられた時も(結局、高村が盗んでいたが)、僕は高村をかばってきた。
高村が忘れ物をしてきても、半分は僕が忘れたことにして、高村に貸していた。
何故か、高村の青臭いながらも「友達よ」と言う、嘘くさい言葉を照れもしないで言うところが好きだったのだ。
「モウアナタトハツキアエナクナッタカラ」
かつてのそんな言葉を思い出しながら、僕は高村の連絡先を住所録から削除する。
「いや、途中で松茸名人のような人に出会って、何とか頼み込んで松茸の出ている場所まで案内さしてもらってきたんた。少しだけ取れた」と小さな松茸を僕に差し出した。
これまでの心配と相殺するには十分ではなかったが、松茸山の松茸狩に初めて二人で来てみたものの、僕は坊主だったから、有りがたく頂戴した。
「こんな里山では取れなんだそうだ、山深く片道1時間は入らないと行けない」と高村は説明した。
「だったら、一声かけるのが常識だろう。一人で居なくなるなんて。山だよここは。遭難もすれば熊も出る。何考えてるんだよ。」
高村は悪かったといつものように口先だけで反省した様子もなくニヤニヤとしている。
おつむはあんまり賢くない奴だからなと僕は心で思いながら受け流した。
高村とは何故か興味が一緒で小さい頃から遊んでいた。大人になってからも、公務員と臨時土木作業員という、まったく異なった職業ながらも、テニスチームでは二人でダブルスを組んでいた。
高村はそもそもが若い頃から運動音痴であったが、テニスも試合に出るほどには上手くなかった。
熱心に高村が練習に誘うために、何とかここまで上手くさせることができた程度だか、ボレーはまったくダメだし、作戦も忘れるし、そのボールはアウトだよと大きく声がけしても迷いながら中途半端にてを出して相手に簡単にポイントを献上する。
誰もが高村とは組みたくないと言うたから、仕方がなく僕が組んでいた。
高村と組んでも勝てるはずがなかったが、ダブルスは遊びだと割りきることにして楽しんだ。
「竹馬の友よ」と、高村はよく僕たちの関係を言った。
僕も異邦人のムルソーと余り出来の良くない友との関係に重ね合わせながら、この関係を面白く居心地のいいままに付き合っていた。
長い付き合いの間には、色々とこじれた問題もあった。
約束の時間は守れない、貸したお金は催促しないと返さない、平気で分かるような嘘をつく、簡単に考えをひるがえす、前後に関係なく突然行動を起こす。今回の松茸山での行動もたくさんあった問題の一つでしかない。
普通は信用できないと言われる類いの奴ではあった。
テニスクラブに、新たに中堅として関谷が加わった。彼は世界をも股にかける建設会社の社長の息子だ。
関谷は、十分に田舎の町では知名度は高かったし、御曹司としての社会的な影響力も持っていた。テニスもそこそこに上手かった。
松茸狩から数日後、関谷の奥さんから偶然にこんな話を聞いた。恐らくは内緒の話なのだろうが、ついつい、口が滑ったということだと思う。
「この前、高村さんから松茸を山ほど頂いて、食べきれなくて大変でした。」
僕と一緒に行った時のことであることは明白だった。高村は関谷に賄賂や貢物のように松茸をたんまりと僕には内緒で持っていった。
高村の奥さんも、
「この前は沢山取れて良かったですね。」と事情も知らずに僕に電話してきたことがあったので、なんとなくあの日のことは理解していた。
高村の車で行ってたから、僕は山小屋で待つしかなかったが、高村は豊作の松茸を車に持ち帰ってから僕のところに戻ってきたのだ。
翌週になって、高村は僕と一緒に組んで出る予定のダブルスのテニス大会をキャンセルしたいと言ってきた。
僕は、他の上手な先輩のペアの誘いを断ってまで下手な高村の誘いを優先していたのだ。
僕は大会には出れないままに過ごすことになった。
しかし、その後に割りきることに分かったことたが、高村は関谷と組んでテニス大会に出ていたとのことだ。
高村は就職先の本採用にも議員にお金を積んでいた。これからは関谷の機嫌をとりながら関谷の会社にでも採用してもらえばいいだろう。
なるべく思い出さないようにしてきたことが、どっと溢れてきた。
中学生の頃に隣町の上級の中学生から因縁を付けられたときにも高村は脅されるがままに自分のことを逃れるために、皆の目の前で僕の、そして他の友達の名前から住所から何から何までへらへらと明かしていった。
当然、他の友達は高村の側を去って行ったが、僕だけは高村を責めなかった。
先生から叱られた時も、盗みの疑いをクラスからかけられた時も(結局、高村が盗んでいたが)、僕は高村をかばってきた。
高村が忘れ物をしてきても、半分は僕が忘れたことにして、高村に貸していた。
何故か、高村の青臭いながらも「友達よ」と言う、嘘くさい言葉を照れもしないで言うところが好きだったのだ。
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