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第1部 エド・ホード
第4話 別れの予感
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僕たちは毎日のようにツリーハウスへ行った。
森の声に胸がざわついて一睡もできなかった日でも、暖かい毛布のなかにリテアといると、すとんと眠りに落ちてしまうから不思議だった。
「あったかいね」
「うん、幸せだなー」
いつも二人でまどろみながら、そんなとりとめのないことを言い合った。
「お父さんに聞いたんだけどね、この音楽の鳴る機械は、ラジオっていうんだって」
「お父さんに話したの?」
「大丈夫! お父さんは味方だから」
「……でもさ」
「肩たたきを毎晩すれば、お母さんには内緒にしてくれるって」
僕は少し不満だったけれど、ふーん、と頷いておいた。
「この暖炉は電気ストーブ。電気の力で熱を作るんだって」
「魔法じゃないんだ」
僕はガッカリしてしまった。
「本当に使えるんだもん、魔法よりすごいよ。街で勉強すれば、わたしにもいろいろ作れるようになるかもしれない」
「リテアは街へ行くの?」
「エドは行きたくないの?」
「……わからない」
と僕は言った。できることならいつまでも、リテアとこのツリーハウスにいたいと思った。質問にこたえる代わりに、僕はリテアの首飾りに触って言った。
「この石も魔法じゃないんだ」
「たぶんね。きっと街の人が作ったんだよ」
「つまんないな」
「いじけないでよ」
リテアは微笑んで僕の頬に触った。
「実はわたしも、お父さんに同じことを訊いたんだけど」
「魔法なんてないのかって?」
リテアは目を細めて、うん、と頷いた。
「そしたらね、お父さんは一度だけ、森で魔法の本を見たことがあるって」
「魔法の本?」
「森のどこかに、幽霊の住む古い屋敷があるんだって。幽霊たちはその本を使って、あの世から仲間を呼び寄せてるんだ」
「ほんとかなあ……」
「さあね」
リテアはいたずらっぽく笑って毛布にもぐった。
やがて春は終わって夏がきて、また冬になって春がきた。そのころからだんだんと、僕はツリーハウスへ行っても、一人きりで過ごすことが増えていった。
リテアは街の学校に入るために、退屈なお勉強に励むようになったのだ。僕はリテアがいないと胸が騒いで、家にいても上手く眠れなくなった。
リテアはすっかり、科学とやらの虜になってしまったのだった。自然の原理を知って応用すれば、人々はきっと今より幸せになれる――そんな説明を聞いても、僕は納得できなかった。結局のところリテアは、僕らと村で暮らすより、科学と生きることを選んだのだ。あのとき、ツリーハウスで感じた幸せより、偽物の魔法に惹かれたのだ。もちろん僕だってそんなことを、面と向かっては伝えなかった。リテアのほうも、だんだんと僕に科学の話をしなくなっていった。
そうして変な距離ができたまま数年がたち、僕たちはついに十二歳式の夜を迎えた。
森の声に胸がざわついて一睡もできなかった日でも、暖かい毛布のなかにリテアといると、すとんと眠りに落ちてしまうから不思議だった。
「あったかいね」
「うん、幸せだなー」
いつも二人でまどろみながら、そんなとりとめのないことを言い合った。
「お父さんに聞いたんだけどね、この音楽の鳴る機械は、ラジオっていうんだって」
「お父さんに話したの?」
「大丈夫! お父さんは味方だから」
「……でもさ」
「肩たたきを毎晩すれば、お母さんには内緒にしてくれるって」
僕は少し不満だったけれど、ふーん、と頷いておいた。
「この暖炉は電気ストーブ。電気の力で熱を作るんだって」
「魔法じゃないんだ」
僕はガッカリしてしまった。
「本当に使えるんだもん、魔法よりすごいよ。街で勉強すれば、わたしにもいろいろ作れるようになるかもしれない」
「リテアは街へ行くの?」
「エドは行きたくないの?」
「……わからない」
と僕は言った。できることならいつまでも、リテアとこのツリーハウスにいたいと思った。質問にこたえる代わりに、僕はリテアの首飾りに触って言った。
「この石も魔法じゃないんだ」
「たぶんね。きっと街の人が作ったんだよ」
「つまんないな」
「いじけないでよ」
リテアは微笑んで僕の頬に触った。
「実はわたしも、お父さんに同じことを訊いたんだけど」
「魔法なんてないのかって?」
リテアは目を細めて、うん、と頷いた。
「そしたらね、お父さんは一度だけ、森で魔法の本を見たことがあるって」
「魔法の本?」
「森のどこかに、幽霊の住む古い屋敷があるんだって。幽霊たちはその本を使って、あの世から仲間を呼び寄せてるんだ」
「ほんとかなあ……」
「さあね」
リテアはいたずらっぽく笑って毛布にもぐった。
やがて春は終わって夏がきて、また冬になって春がきた。そのころからだんだんと、僕はツリーハウスへ行っても、一人きりで過ごすことが増えていった。
リテアは街の学校に入るために、退屈なお勉強に励むようになったのだ。僕はリテアがいないと胸が騒いで、家にいても上手く眠れなくなった。
リテアはすっかり、科学とやらの虜になってしまったのだった。自然の原理を知って応用すれば、人々はきっと今より幸せになれる――そんな説明を聞いても、僕は納得できなかった。結局のところリテアは、僕らと村で暮らすより、科学と生きることを選んだのだ。あのとき、ツリーハウスで感じた幸せより、偽物の魔法に惹かれたのだ。もちろん僕だってそんなことを、面と向かっては伝えなかった。リテアのほうも、だんだんと僕に科学の話をしなくなっていった。
そうして変な距離ができたまま数年がたち、僕たちはついに十二歳式の夜を迎えた。
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