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第1部 エド・ホード
第6話 祭りのあと
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「いやなあ、実のところ、普通の大人っていうのがいちばん難しいんだよ」
リテアのお父さんが、お酒に頬を赤らめながら僕に言った。
村の大人たちが、優しい笑みを浮かべて頷きあう。
「エドは普通の人よりいい眼を持ってる。君のお父さんもそうだったよ。物事の本質をはっきりと見抜く。だからこそ、苦しいときもあるんだろう」
「父さんもそうだったの?」
僕が訊くと、おじさんは昔を思い出すように目を閉じた。
「ああ、そうだとも。君のお父さんは実に優秀な人だった。しかしだからこそ、なんでもひとりで抱えすぎた。エド、君はもし苦しいことがあったら、落ち着いて周りを見てみるんだよ。そうすればきっと、君を気にかけてくれている人が見つかるから」
僕は聞きわけのいい子のふりをして頷いた。僕には友達はリテアしかいない。そのリテアは村を出ていくと言う。それなのに、いったい誰を頼れというのだ。僕はトイレに行くふりをして、席を立って森へ向かった。行先はもちろん決まっていた。
「遅かったじゃない」
ツリーハウスのドアを開けると、普段着に戻ったリテアが待っていた。ラジオで音楽を聞きながら、三角座りでこちらを見ている。
「君のお父さんの話好きのせいだよ」
ふふふ、とリテアは口元を押さえて小さく笑った。
「よくここだってわかったね」
「そりゃわかるよ。僕もこうして話したかったからね」
「鍵を閉めて。近ごろは強盗が出るみたいだから」
「このへんも物騒になったね」
僕たちは並んで座って窓のほうを見ながら、まだ小さかったときのことなんかを話した。数ある思いで話のなかには、まだそれほど時間のたっていないものもあったけれど、今にして思えば、もう遥か昔に過ぎ去ったことのようにも感じられた。
僕は緊張に喉が狭くなるのを感じながら、「眠らない?」とリテアに言った。「怒られるかな?」と気遣うふりをして煮え切らないことを言うと、
「平気だよ」
とリテアは笑った。
「そう?」
「もう大人なんだから、何をしたって自由だよ」
「大人か」
と僕は言った。毛布のしわを伸ばして床に敷き、その上に二人で横になる。
こうしてみると、ずいぶん久しぶりの感じがした。こんな天井だったかな、と我ながら間の抜けたことを思った。薄明りのなか、壁に影を映して遊びながら、
「君がいないと眠れないんだ」
と僕はひとりごとのように打ち明けた。本当は、行かないで、と言いたいのだった。
リテアは黙ったまま寝返りを打つと、そっと僕の胸におでこを当てた。
「ここにいるよ」
とリテアは言った。
僕はたまらない気持ちになった。
僕たちはそれ以上、話さなかった。
次の朝起きると、すでにリテアの姿はなくて、代わりに手縫いの人形が、僕のそばに置かれてあった。亜麻色の髪、鳶色の瞳――。僕の大好きな人の人形だった。僕はようやく一人きりになって泣いた。
リテアのお父さんが、お酒に頬を赤らめながら僕に言った。
村の大人たちが、優しい笑みを浮かべて頷きあう。
「エドは普通の人よりいい眼を持ってる。君のお父さんもそうだったよ。物事の本質をはっきりと見抜く。だからこそ、苦しいときもあるんだろう」
「父さんもそうだったの?」
僕が訊くと、おじさんは昔を思い出すように目を閉じた。
「ああ、そうだとも。君のお父さんは実に優秀な人だった。しかしだからこそ、なんでもひとりで抱えすぎた。エド、君はもし苦しいことがあったら、落ち着いて周りを見てみるんだよ。そうすればきっと、君を気にかけてくれている人が見つかるから」
僕は聞きわけのいい子のふりをして頷いた。僕には友達はリテアしかいない。そのリテアは村を出ていくと言う。それなのに、いったい誰を頼れというのだ。僕はトイレに行くふりをして、席を立って森へ向かった。行先はもちろん決まっていた。
「遅かったじゃない」
ツリーハウスのドアを開けると、普段着に戻ったリテアが待っていた。ラジオで音楽を聞きながら、三角座りでこちらを見ている。
「君のお父さんの話好きのせいだよ」
ふふふ、とリテアは口元を押さえて小さく笑った。
「よくここだってわかったね」
「そりゃわかるよ。僕もこうして話したかったからね」
「鍵を閉めて。近ごろは強盗が出るみたいだから」
「このへんも物騒になったね」
僕たちは並んで座って窓のほうを見ながら、まだ小さかったときのことなんかを話した。数ある思いで話のなかには、まだそれほど時間のたっていないものもあったけれど、今にして思えば、もう遥か昔に過ぎ去ったことのようにも感じられた。
僕は緊張に喉が狭くなるのを感じながら、「眠らない?」とリテアに言った。「怒られるかな?」と気遣うふりをして煮え切らないことを言うと、
「平気だよ」
とリテアは笑った。
「そう?」
「もう大人なんだから、何をしたって自由だよ」
「大人か」
と僕は言った。毛布のしわを伸ばして床に敷き、その上に二人で横になる。
こうしてみると、ずいぶん久しぶりの感じがした。こんな天井だったかな、と我ながら間の抜けたことを思った。薄明りのなか、壁に影を映して遊びながら、
「君がいないと眠れないんだ」
と僕はひとりごとのように打ち明けた。本当は、行かないで、と言いたいのだった。
リテアは黙ったまま寝返りを打つと、そっと僕の胸におでこを当てた。
「ここにいるよ」
とリテアは言った。
僕はたまらない気持ちになった。
僕たちはそれ以上、話さなかった。
次の朝起きると、すでにリテアの姿はなくて、代わりに手縫いの人形が、僕のそばに置かれてあった。亜麻色の髪、鳶色の瞳――。僕の大好きな人の人形だった。僕はようやく一人きりになって泣いた。
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