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第1部 エド・ホード
第10話 ゴースト
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「テリー・テレリス。正解だ……。君があの眼の持ち主だったとはね」
「あの眼って?」
「まさか! 気づいてないのかい?」
テリーが隣を向いて言った。
いつの間にか、エルクが姿を現している。
「教える必要もないからね」
「ふーん……」
それ以上、尋ねても、二人は何も教えてくれなかった。
「君はゴーストなの?」
僕は仕方なく質問を代えて、テリーに訊いた。
テリーは、そうさ、と一頭身の体で、ゆらゆらと宙に揺れながら頷いた。
「まさかピクシーと同じ主人に仕えるとはね」
「君が間抜けだからだろう?」
エルクはにやにやと笑って言った。
「うるさいぞ! 僕はまだ子供だから仕方ないんだ」
「君は魔法の本について知ってるの?」
僕はテリーに尋ねた。
「もちろん。僕たちはあの本を守ってるんだからね」
「あの世から仲間を呼び寄せてるって聞いたけど」
「とんでもない。きっと復活をもくろむ堕天使が、嘘の噂を流したんだな」
「エドはその魔法の本を手に入れたいんだ」
「なんだって、冗談じゃないよ!」
テリーはポケットのような手をめいっぱい広げて拒絶した。
僕はその小さな手に、自分の手のひらを重ねて言った。
「そこをなんとか」
「九九九匹のゴーストが、たった一冊の本を守ってるんだぞ」
「今は九九八匹だ」
エルクがテリーを指さした。
「僕なんて誤差の範囲だよ」
「認めるんだね」
エルクが挑発すると、テリーは悔しそうに、ぐぅー、と唸った。
「ああ、もうわかったよ! その代わり、何が起きたって知らないよ。主人が死ねば、僕たち精霊はまた自由の身なんだからね」
「いいから早く手伝いな」
エルクはそう言うと、じんわりと薄闇のなかに姿を消した。
「うるさいなあ! じゃあエド――君はエドだよね?――そのランタンを少し離れたところに置いて」
「このくらい?」
僕はランタンを地面に置いて、そこから四、五歩あとずさった。
「いいよ。じゃあ、せーので『ラグザバール』って唱えてくれる?」
「ラグザバール?」
テリーはふわりと頷くと、僕の後ろに伸びる影に自分の体を重ねた。
「せーの」
「ラグザバール!」
唱えると同時に、テリーが口を大きく開けて、僕の影を呑み込んだ。ポム、と煙みたいに散り散りになって、僕の影はテリーごと消えてしまった。
――自分の手を見てごらん。
テリーの声が頭のなかに聞こえた。言われた通りに手のひらを見ると、
「わ!」
思わず声が出た。自分の手が消えている。いや、手だけではない。体もぜんぶ見えなくなっていた。
――準備完了! それじゃあ階段をのぼって、正面の絵のなかに入って。
「絵のなかに?」
僕はおっかなびっくり足を踏みだして、今にも崩れそうな階段をのぼっていった。
――急いで。僕の力じゃあ、この呪文は五分ともたないよ。
僕は急ぎ足で階段をのぼって絵の前に立った。顔に赤い迷路のような模様の入った、白い天使の横顔が描かれてある。しばらく見ていると、天使が右から左へ振り返った。周囲の景色が変化し、天使の絵の模様も青色に変化している。
――入れたよ。ようこそ、幽霊図書館に。
「……すごい」
僕は思わずため息をついた。大きな万華鏡みたいな筒状の部屋に、何千冊もの本が並んでいた。竜巻のようにぐるぐると回り、次々と蔵書が入れ替わっていく。
――早く探して。
「……でも、どうやって?」
――僕が知るわけないじゃないか!
僕は途方に暮れてしまった。早く、早く、とテリーがせっついてくる。適当に本を抜き出してはみるが、『あなたはなぜ憑けないのか』『呼ばれるおばけ、呼ばれないおばけ』などよくわからないものばかりだった。
あたふたと周りを眺めまわしていると――眼を使え――森の声が聞こえた気がした。不思議なことに、次の瞬間、僕には自分のやるべきことがはっきりとわかっていた。まぶたを閉じて深呼吸をし、ひんやりと冷気をおびる本に手を伸ばす。『堕天使の召喚』と念じて目を開けると、その通りのタイトルの本が手のなかにあった。
――エド、急いで!
テリーが叫んだ瞬間、耳をつんざくような甲高い悲鳴が響いた。何百本もの青白い手が、僕を捕まえようと伸びてくる。危ない、とあきらめかけたそのとき、
「妖精王の鎧!」
エルクが姿を現して、銀色のバリアを目の前に張った。
「エルク!」
「やあ、ごめんね、アートを勝手にいただいたよ」
「アートって?」
――魔術者のくせに、そんなことも知らないのか?
「うるさいぞテリー! エド、その本を持って早いとこ逃げよう」
僕は頷いて、背後の絵に向き直った。
天使を見つめ、もとの部屋に戻る。
白い手が追いかけてくる気がして、全速力で屋敷から逃げた。
「あの眼って?」
「まさか! 気づいてないのかい?」
テリーが隣を向いて言った。
いつの間にか、エルクが姿を現している。
「教える必要もないからね」
「ふーん……」
それ以上、尋ねても、二人は何も教えてくれなかった。
「君はゴーストなの?」
僕は仕方なく質問を代えて、テリーに訊いた。
テリーは、そうさ、と一頭身の体で、ゆらゆらと宙に揺れながら頷いた。
「まさかピクシーと同じ主人に仕えるとはね」
「君が間抜けだからだろう?」
エルクはにやにやと笑って言った。
「うるさいぞ! 僕はまだ子供だから仕方ないんだ」
「君は魔法の本について知ってるの?」
僕はテリーに尋ねた。
「もちろん。僕たちはあの本を守ってるんだからね」
「あの世から仲間を呼び寄せてるって聞いたけど」
「とんでもない。きっと復活をもくろむ堕天使が、嘘の噂を流したんだな」
「エドはその魔法の本を手に入れたいんだ」
「なんだって、冗談じゃないよ!」
テリーはポケットのような手をめいっぱい広げて拒絶した。
僕はその小さな手に、自分の手のひらを重ねて言った。
「そこをなんとか」
「九九九匹のゴーストが、たった一冊の本を守ってるんだぞ」
「今は九九八匹だ」
エルクがテリーを指さした。
「僕なんて誤差の範囲だよ」
「認めるんだね」
エルクが挑発すると、テリーは悔しそうに、ぐぅー、と唸った。
「ああ、もうわかったよ! その代わり、何が起きたって知らないよ。主人が死ねば、僕たち精霊はまた自由の身なんだからね」
「いいから早く手伝いな」
エルクはそう言うと、じんわりと薄闇のなかに姿を消した。
「うるさいなあ! じゃあエド――君はエドだよね?――そのランタンを少し離れたところに置いて」
「このくらい?」
僕はランタンを地面に置いて、そこから四、五歩あとずさった。
「いいよ。じゃあ、せーので『ラグザバール』って唱えてくれる?」
「ラグザバール?」
テリーはふわりと頷くと、僕の後ろに伸びる影に自分の体を重ねた。
「せーの」
「ラグザバール!」
唱えると同時に、テリーが口を大きく開けて、僕の影を呑み込んだ。ポム、と煙みたいに散り散りになって、僕の影はテリーごと消えてしまった。
――自分の手を見てごらん。
テリーの声が頭のなかに聞こえた。言われた通りに手のひらを見ると、
「わ!」
思わず声が出た。自分の手が消えている。いや、手だけではない。体もぜんぶ見えなくなっていた。
――準備完了! それじゃあ階段をのぼって、正面の絵のなかに入って。
「絵のなかに?」
僕はおっかなびっくり足を踏みだして、今にも崩れそうな階段をのぼっていった。
――急いで。僕の力じゃあ、この呪文は五分ともたないよ。
僕は急ぎ足で階段をのぼって絵の前に立った。顔に赤い迷路のような模様の入った、白い天使の横顔が描かれてある。しばらく見ていると、天使が右から左へ振り返った。周囲の景色が変化し、天使の絵の模様も青色に変化している。
――入れたよ。ようこそ、幽霊図書館に。
「……すごい」
僕は思わずため息をついた。大きな万華鏡みたいな筒状の部屋に、何千冊もの本が並んでいた。竜巻のようにぐるぐると回り、次々と蔵書が入れ替わっていく。
――早く探して。
「……でも、どうやって?」
――僕が知るわけないじゃないか!
僕は途方に暮れてしまった。早く、早く、とテリーがせっついてくる。適当に本を抜き出してはみるが、『あなたはなぜ憑けないのか』『呼ばれるおばけ、呼ばれないおばけ』などよくわからないものばかりだった。
あたふたと周りを眺めまわしていると――眼を使え――森の声が聞こえた気がした。不思議なことに、次の瞬間、僕には自分のやるべきことがはっきりとわかっていた。まぶたを閉じて深呼吸をし、ひんやりと冷気をおびる本に手を伸ばす。『堕天使の召喚』と念じて目を開けると、その通りのタイトルの本が手のなかにあった。
――エド、急いで!
テリーが叫んだ瞬間、耳をつんざくような甲高い悲鳴が響いた。何百本もの青白い手が、僕を捕まえようと伸びてくる。危ない、とあきらめかけたそのとき、
「妖精王の鎧!」
エルクが姿を現して、銀色のバリアを目の前に張った。
「エルク!」
「やあ、ごめんね、アートを勝手にいただいたよ」
「アートって?」
――魔術者のくせに、そんなことも知らないのか?
「うるさいぞテリー! エド、その本を持って早いとこ逃げよう」
僕は頷いて、背後の絵に向き直った。
天使を見つめ、もとの部屋に戻る。
白い手が追いかけてくる気がして、全速力で屋敷から逃げた。
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