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世界は勇者によって救われた。
世界の人々は勇者とそのパーティーにありとあらゆる恩恵を与えた。
しかしその勇者の仲間である荷物持ちの【ジーク】は、平和になった世界で地獄のような日々を送っていた。
とある宿屋の一室。
そこで、ソレは行われていた。
「おい、ジーク。ここがまだ汚れてるじゃないか」
自分の足元。
そこに土下座の姿勢をとる男。
その前に泥で汚れた靴を突き出し、薄ら笑いを浮かべるは世界を救った勇者(アレン)。
「ほら、さっさと掃除してくれよ。一秒以内だ。こんなみすぼらしい靴じゃ外を歩けないからね」
「か、かしこまりました」
アレンの言葉。
それに声を返し、ジークと呼ばれた男は泥だけの靴を自らのローブで磨こうとする。
刹那。
べきッ
ジークの顔面。
そこに飛ぶ、アレンの右足。
そして同時に響くは、アレンの怒りに満ちた声。
「遅いんだよ、このノロマ。なにやってんだ? ぼくは一秒以内に靴を掃除しろと言ったんだけど?」
鼻血が垂れる鼻。
それを両手で抑え、ジークは涙目でアレンを見上げる。
その姿。それは、虐待に怯える動物そのもの。
そんなジークの姿。それをアレンは蔑む。
「無様だねぇ、ジーク」
「……っ」
「荷物持ちでもいいからぼくのパーティーに加わりたい。なんでもするからどうかお願いします……って言ったのは、君だろ?」
「なのに君と言ったら靴磨きさえまともにできない」
「も、申し訳ございません」
「謝る暇があるならさっさとぼくの靴を磨け!!」
ぺッとジークの顔面に唾を吐き、怒声を響かせるアレン。
その表情。それは世界を救った勇者のソレではなく、弱者をいたぶる嗜虐者そのもの。
そんなアレンのジーク虐め。
その声と音を聞きつけ、アレンのパーティーメンバーたちもまた部屋へとはいってくる。
「あら、今日もやっていますわね」
「やれーやれー、勇者様。もっとそのゴミを虐めてやれー。ぼこぼこにしちゃえー」
「手伝うぜ、アレン。今日は俺もジーク虐めに加えさせてくれよ」
「おい、わたしにもやらせろよ。ジークの腹。中々の殴り心地だからな」
聖女マリア。
魔法使いココネ。
武闘家ゴウメイ。
女騎士ガルーダ。
その四人の姿と、声。
それにジークの身はびくっと震える。
そんなジークの反応。
それを彼等は笑う。
その笑い声を聞き、ジークは幾度となく思った。
死ぬか、このパーティーを抜けてやろうと。
しかしジークは直前のところで思いとどまっていた。
何故ならーー
「ジーク」
響く声。
それにアレンたちの視線が一斉に扉へと向かう。
果たしてそこに立っていたのは、「な、なにをしているの!? あなたたち!!」そう言って目に涙をたたえる幼馴染のジュリアその人だった。
「じゅ、ジュリア」
泣きそうな顔。
その顔にジークもまた泣きそうになってしまう。
幼馴染にして、治癒士のジュリア。
ジークと違いパーティーで重宝されるジュリアの存在。
それがあったからこそ、ジークは耐えていた。
二人で結婚式をあげる為の資金。それが貯まるまで、一緒に頑張ろうと誓いあっていた。
「なんだよ、ジュリア」
へらへらと笑う、アレン。
「もしかして止めに来たのか?」
そう。
いつもジュリアは彼等の虐めからジークを助け、そして治癒をかけてくれた。
このパーティーの中でジュリアだけは、ジークの味方でいつも自分を庇ってくれた。
だから、今回もーー
「アレンッ、今日はわたしと一夜を共にするって約束したよね!?」
「!?」
「なのにッ、いつまでその底辺負け組の相手をしてるわけ!? こっちはとっくに準備万端なのに!!」
響いたジュリアの声。
それにジークは目を見開き、ジュリアを見る。
そこにはバスローブに身を包んだジュリアの姿があった。
「じゅ、ジュリア?」
「ジーク、わたしもっとはやくに気づけばよかった。なにをって? 負け組の貴方より、アレン様の女になったほうが将来は明るいってことを」
ゴミを見るような眼差し。
それをもってジークを見つめる、ジュリア。
「鼻血に涙。おぇ……吐き気がするわ。ジークッ、その汚い顔でこっちを見ないで!!」
「……っ」
滴る涙。
それを拭うことさえ忘れ、ジークはその場で嗚咽を漏らす。
軋む、ジークの心。
目からは光が消え、今にもジークは壊れそうになる。
「すまねぇ、ジュリア。このゴミが俺の靴磨きを」
ドカッ
「さっさとしねぇから」
ジークの後頭部。
そこに足を押し付け床へと顔面をつけさせる、アレン。
そのアレンの仕草。
それに仲間たちも同調する。
「ほんとにゴミですわね」
「ごみーごみー。靴磨きぐらいまともにやれって」
「こいつはお仕置きが必要だな」
「そうだな。今回は袋叩き30分コースなんてのはどうだ?」
「いいねぇ。やろう」
「んじゃ、後は任せたぞ。俺はジュリアと朝まで楽しんでくるからよ」
吐き捨て。
ジュリアの肩を抱き接吻を交わしながら、部屋を後にするアレンとジュリア。
その姿。
それを袋叩きにされながら見送る、ジーク。
そして、最後に。
「あぁ、そういえば」
「ジュリアとはじめて寝たのは、てめぇの村を出発したその日の夜だったっけな。あっ、それと。てめぇのあのゴミのような故郷。サクッと壊滅させといたから、その辺もよろしく」
「やったー。もうあの古臭い村に戻ることなんてないんだね。流石、勇者様。素敵ぃ」
「だろ? 俺が一言、王に進言したら簡単なことだ。俺とジュリアの将来の為にあの村の存在は邪魔だったからな。クソみてぇな親なんていねぇほうがマシだ」
「勇者様の言う通りです。わたしとジークの仲のこと。それを知ってる連中なんて居ないほうがマシだもん」
アレンとジュリアはそう声を響かせ、ジークの心を完全に壊したのであった。
世界の人々は勇者とそのパーティーにありとあらゆる恩恵を与えた。
しかしその勇者の仲間である荷物持ちの【ジーク】は、平和になった世界で地獄のような日々を送っていた。
とある宿屋の一室。
そこで、ソレは行われていた。
「おい、ジーク。ここがまだ汚れてるじゃないか」
自分の足元。
そこに土下座の姿勢をとる男。
その前に泥で汚れた靴を突き出し、薄ら笑いを浮かべるは世界を救った勇者(アレン)。
「ほら、さっさと掃除してくれよ。一秒以内だ。こんなみすぼらしい靴じゃ外を歩けないからね」
「か、かしこまりました」
アレンの言葉。
それに声を返し、ジークと呼ばれた男は泥だけの靴を自らのローブで磨こうとする。
刹那。
べきッ
ジークの顔面。
そこに飛ぶ、アレンの右足。
そして同時に響くは、アレンの怒りに満ちた声。
「遅いんだよ、このノロマ。なにやってんだ? ぼくは一秒以内に靴を掃除しろと言ったんだけど?」
鼻血が垂れる鼻。
それを両手で抑え、ジークは涙目でアレンを見上げる。
その姿。それは、虐待に怯える動物そのもの。
そんなジークの姿。それをアレンは蔑む。
「無様だねぇ、ジーク」
「……っ」
「荷物持ちでもいいからぼくのパーティーに加わりたい。なんでもするからどうかお願いします……って言ったのは、君だろ?」
「なのに君と言ったら靴磨きさえまともにできない」
「も、申し訳ございません」
「謝る暇があるならさっさとぼくの靴を磨け!!」
ぺッとジークの顔面に唾を吐き、怒声を響かせるアレン。
その表情。それは世界を救った勇者のソレではなく、弱者をいたぶる嗜虐者そのもの。
そんなアレンのジーク虐め。
その声と音を聞きつけ、アレンのパーティーメンバーたちもまた部屋へとはいってくる。
「あら、今日もやっていますわね」
「やれーやれー、勇者様。もっとそのゴミを虐めてやれー。ぼこぼこにしちゃえー」
「手伝うぜ、アレン。今日は俺もジーク虐めに加えさせてくれよ」
「おい、わたしにもやらせろよ。ジークの腹。中々の殴り心地だからな」
聖女マリア。
魔法使いココネ。
武闘家ゴウメイ。
女騎士ガルーダ。
その四人の姿と、声。
それにジークの身はびくっと震える。
そんなジークの反応。
それを彼等は笑う。
その笑い声を聞き、ジークは幾度となく思った。
死ぬか、このパーティーを抜けてやろうと。
しかしジークは直前のところで思いとどまっていた。
何故ならーー
「ジーク」
響く声。
それにアレンたちの視線が一斉に扉へと向かう。
果たしてそこに立っていたのは、「な、なにをしているの!? あなたたち!!」そう言って目に涙をたたえる幼馴染のジュリアその人だった。
「じゅ、ジュリア」
泣きそうな顔。
その顔にジークもまた泣きそうになってしまう。
幼馴染にして、治癒士のジュリア。
ジークと違いパーティーで重宝されるジュリアの存在。
それがあったからこそ、ジークは耐えていた。
二人で結婚式をあげる為の資金。それが貯まるまで、一緒に頑張ろうと誓いあっていた。
「なんだよ、ジュリア」
へらへらと笑う、アレン。
「もしかして止めに来たのか?」
そう。
いつもジュリアは彼等の虐めからジークを助け、そして治癒をかけてくれた。
このパーティーの中でジュリアだけは、ジークの味方でいつも自分を庇ってくれた。
だから、今回もーー
「アレンッ、今日はわたしと一夜を共にするって約束したよね!?」
「!?」
「なのにッ、いつまでその底辺負け組の相手をしてるわけ!? こっちはとっくに準備万端なのに!!」
響いたジュリアの声。
それにジークは目を見開き、ジュリアを見る。
そこにはバスローブに身を包んだジュリアの姿があった。
「じゅ、ジュリア?」
「ジーク、わたしもっとはやくに気づけばよかった。なにをって? 負け組の貴方より、アレン様の女になったほうが将来は明るいってことを」
ゴミを見るような眼差し。
それをもってジークを見つめる、ジュリア。
「鼻血に涙。おぇ……吐き気がするわ。ジークッ、その汚い顔でこっちを見ないで!!」
「……っ」
滴る涙。
それを拭うことさえ忘れ、ジークはその場で嗚咽を漏らす。
軋む、ジークの心。
目からは光が消え、今にもジークは壊れそうになる。
「すまねぇ、ジュリア。このゴミが俺の靴磨きを」
ドカッ
「さっさとしねぇから」
ジークの後頭部。
そこに足を押し付け床へと顔面をつけさせる、アレン。
そのアレンの仕草。
それに仲間たちも同調する。
「ほんとにゴミですわね」
「ごみーごみー。靴磨きぐらいまともにやれって」
「こいつはお仕置きが必要だな」
「そうだな。今回は袋叩き30分コースなんてのはどうだ?」
「いいねぇ。やろう」
「んじゃ、後は任せたぞ。俺はジュリアと朝まで楽しんでくるからよ」
吐き捨て。
ジュリアの肩を抱き接吻を交わしながら、部屋を後にするアレンとジュリア。
その姿。
それを袋叩きにされながら見送る、ジーク。
そして、最後に。
「あぁ、そういえば」
「ジュリアとはじめて寝たのは、てめぇの村を出発したその日の夜だったっけな。あっ、それと。てめぇのあのゴミのような故郷。サクッと壊滅させといたから、その辺もよろしく」
「やったー。もうあの古臭い村に戻ることなんてないんだね。流石、勇者様。素敵ぃ」
「だろ? 俺が一言、王に進言したら簡単なことだ。俺とジュリアの将来の為にあの村の存在は邪魔だったからな。クソみてぇな親なんていねぇほうがマシだ」
「勇者様の言う通りです。わたしとジークの仲のこと。それを知ってる連中なんて居ないほうがマシだもん」
アレンとジュリアはそう声を響かせ、ジークの心を完全に壊したのであった。
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