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この世界は七つの国と一つの真ん中の国でできている。
イチノ国
ニノ国
サンノ国
……ナナノ国
七つの国がまあるくある
そして真ん中は
ナカノ国
それぞれ違う種族が統治している。
もちろん断絶しているわけではないので国境付近ではそれぞれの種族が混じって生活している村や町も多い。
ナカノ国はそれぞれの国から優秀な人材が送り込まれ七つの国を統治する機関が置かれている。
七つの国は独立した国のようで実は独立した国ではないのかもしれない。
ナカノ国に守られた、領地。
イチノ国からナナノ国まで、この「世界」の人々は「魔力」が使える。
「魔力」は特別な事ではなく日常の生活に溶け込む程度の力だ。
料理に使う火を点ける。
井戸から水を汲み上げる。
ただしやはり「魔力」の強い者は『トクベツ』だ。大体「ナカノ国」の官僚となる。
力を使い七つの国を上手く統治するのだ。
イチノ国とナナノ国はその名前から一見遠くに見えるが実は隣同士で昔から他の国より王家の交流も盛んであった。
第一以外の王子や王女はお互いに結婚相手となり親戚関係をさらに深くしていく。
他の国より小さめの両国が生き延びるための手段であった。
俺が初めてシズルと会ったのは五歳の時。
初めて国を出た先に連れていかれたのは『イチノ国』
俺の国は鉱石の加工が特産で建物も石や土で出来たものが多く、好戦的な種族で国のどこかで小競り合いがおきているような騒がしく賑やかな鉄と石の国と呼ばれる『ナナノ国』
片や木で出来た建物が多く花や色鮮やかな織物が特産の『イチノ国』
そこは国境を越えた辺りから甘い柔らかな香りが漂い、馬車から見える物全てが新鮮で、俺は自分の国ではみたことのないどちらかと言えば解放的で人々も穏やかそうに暮らす姿に目を奪われていた。
女も男もスラリとした見かけの者が多く、色素も薄い。
国中がふわふわきらきらと柔らかい光に包まれているようだった。
自国『ナナノ国』はどちらかと言えばがっしりした体格の者が多く黒髪に黒や茶色の目で肌も黄色寄りだった。
もちろん俺も言うに違わずだ。
違うのは王族だけが持つと言われている『赤い瞳』だろうか。
物珍しさにキョロキョロしながら連れていかれたのは信じられない位開放的な、しかし『魔力』でがっしり保護され、『トリツカレタモノ』や『ヒト』ですらおいそれとは近寄れない平べったくだだっ広い宮殿だった。
そして婚約者だと紹介されたのは俺より十歳年上のすらりとした美人。
緩くウェーブのかかった銀糸のような髪は無造作に束ねられている。
角度によって菫色にも薄茶色にも見える瞳。
この国に入ってから見かけたどの民よりも透けるほど白い肌の色。
絹で出来たローブのような柔らかそうな白い服を纏っていた。
「キレイだ……」
小さく俺はつぶやいた。
絵巻物で見た天女が現実にいたらこんなだろう。
俺はその見目に頬をそめ、魅入った。
視線を外せぬままふらふらと彼―――シズルに近づき五十センチ以上の身長差―――もちろん俺が低い―――を気にせず俺は彼の前にひざまづきその手を取った。
ふわりと柔らかい熱が自分の中に流れる。
ああ。
彼との「魔力」の相性がいい。
俺は今まで親からすらもらった事のないような暖かい「魔力」をシズルから感じ、思わず握った手に力を込める。
いわれのない高揚感は今にして思えば完全に下腹部の高まりに直結していた。
当時五歳の俺は、そういう興奮とは結びつけることはなかったが。
シズルも俺の魔力を心地いいと感じたらしく「おや?」と目を細め、そのまま可愛いも
のを愛でる笑みを浮かべなされるがままになっていた。
今考えれば繋がれた手を通してぶしつけに魔力を流してしまっていてかなり失礼な態度だったが子どもだと大目に見てくれたのだろう。
「ナナノ国第五王子ミハシです。よろしくお願いします。…貴方が僕の婚約者になってくれて嬉しい」
とった手の甲に唇を落とす。
それはつるりとまるで磁器のように滑らかだった。
「イチノ国第一王子シズルです。ミハシ様、私こそよろしくお願いいたします」
さらにあでやかな笑顔を浮かべてシズルは腰をかがめ俺に視線を合わせる。
……絶対大きくなって、いつか俺を見上げさせてやる。
幼心に俺はそんな決心をし……。
俺はその時第一王子が第五王子の自分の婚約者になることになんの疑問も持たなかった。 ただただ目の前のこの美しいイチノ国の王子が自分の伴侶になるのだと有頂天になっていた。
次に会ったのは実に十三年後。
シズルとの「結婚」は俺が二十歳になってからという約束が両国間でなされていた。
俺としては十八歳で成人したらすぐにシズルを娶る気満々だったからそんな取り決めを知り愕然とした。
聞けば代々の王子がそうだと。
第一王子以外の王子は伴侶を得れば国内の領地を分けられそこの領主となる。
まったく社会経験もないままではそのような地位は与えられないということで早々に許婚が決まった王子でも成人即結婚にはならないということだった。
十八歳になればシズルに会える。
あのキレイなタカラモノのような人が俺のものになる。
その一念だけでつらい武官学校も首席で卒業した俺はその事実を突きつけられしばらく生きるしかばねとなっていた。
が。
天は俺を見放してはいなかった。
というか、父である王がそう采配してくれたんだろうけど……
それは俺が成人しナカノ国の機関への勤務が決まり出向いた初日だった。
最低でも二年間はナカノ国で武官として務めることと言われ、沈んだ気持ちで出向いた初日。
その中でも俺のわずかな希望はナカノ国ではシズルも文官として働いているので運が良ければその日に会えたり、職場も近いところにならないだろうかという事だった。
官舎には俺みたいな新人がわんさかあふれていて、みんなが緊張の面持ちで、でも勝手がわからぬままうろうろしていた朝。
「新しい人たちはもう一つ奥の建物の入り口に名簿が貼ってありますから確認してそれぞれの持ち場に行ってね」
柔らかく指示する声が後ろから聞こえた。
……この声は……。
跳ねるように振り向くと十三年前と全く変わらない……いや、むしろ美しさが増したシズルが文官の制服を着て立っていた。
「シズル……様?」
俺の事がわかるだろうか。
十三年も会っていない……
五歳からの十三年なんて、成長期の俺にとっては一時代違うわけだし。
おそるおそる呼び掛けた声にシズルは顔を向けあの不思議な色の目を細めて薄く笑った。
「ナナノ国のミハシ様ですね?お久しぶりです。お待ちしておりました」
向けられた眼差しに、俺は再度彼を見初めた。
そこにいる誰彼に「彼は俺のモノだ」と言ってきかせたかったし、逆に誰にも見せたくないとさえ思った。
あのときの事を後からシズルとの寝間の戯れ言にきくと「いや、ずいぶん大きくなったなあって、親戚のおじさんの気分だったよ」とクスクス笑いと共に言われた。
「思った通りに成長したなあと思って。黒い短髪、ちょっときつめの目元。でもその奥にはキレイな赤い瞳が輝いてるし」
「シズルは変わらずキレイだった」
やわらかい銀糸をゆるく解かしながら俺は思い出す。
今、腕の中にいるシズルももちろん美しいのだが、あの時、十三年間想像の中でしか会えなかった天女が再び目の前に現れたのだ。
「ま、そんな種族だし」
『変わらない』種族なのか『キレイ』な種族なのかシズルは当たり前のように答える。
「五歳のキミが俺にひとめぼれしたのも良くわかったし、十八歳のキミがもう一回俺を見初めたのもわかったよ。キミ、顔に出やすいよね?」
やんわりと俺の頬を撫でながらうっとりとシズルは言った。
「そもそも婚約者に十年以上も会わないなんてあり得ないだろう?」
「だって、結婚は決まりごとだからそんな面倒な事しなくてもいいかなあって思って。キミは若いんだから、忙しかっただろうし。新年と誕生日の贈り物はしてたでしょ?」
毎年シズルから律儀に届く贈り物を俺は心待ちにしていた。
新年にはイチノ国の珍しい食べ物が、誕生日にはそれ以外の装飾品などが送られてきていた。
「……どうせお付きの者にでも適当に選ばせていたんだろう?」
俺の言葉にシズルは軽く口を尖らせて答える。
「まさか。ちゃんと『十歳のキミはどんなものが好きかな~』なんて思いながら選んで
たよ?」
「本当か?」
「本当だよ。……成人の贈り物はどうだった?」
少しだけ自慢げにシズルは俺に問いかける。
十八歳の成人の誕生祝いにはイチノ国特産の織物の帯が送られてきた。
金糸、銀糸が織り込まれ、柄はイチノ国の国鳥である『キジ』が精巧な図案で再現され
ていた。
同封されていた手紙には『式典では着用する衣装が決まっているかとは思いますので、
何かの折に身に着けてください』と書かれていた。
「披露目の晩餐会で身に着けさせてもらった。皆大層ほめていた」
「そう?よかった?あれ、俺が図案考えたんだよね。本当は織るところもやりたかったけどやっぱりそこは手練れの職人に頼んだ方がいいかなあと思って。かなり細かい図案だったから完成までに二年くらいかかったの。間に合ってよかった」
なんで若干十七歳の誕生日の贈り物は手を抜いたかもしれないけど……とシズルは小さく笑った。
「あの時……」
皆が帯をほめる。誰の作品だと聞く。婚約者からの成人の贈り物だというと、みな口々に言った。
『本日はお見えにならないのですか?』
「……だってさ、年上が婚約者なんて、キミが嫌がるかなーと思ってさ。しかも、第一王子なんて前代未聞だしね」
ああ。
そうなのだ。
シズルが十三年間、全く俺と会おうとしなかったのはこれが理由なんだそうだ。
あの時俺は子供で意味も分からずとても美しいイチノ国の王子と「婚約」という状況に浮 かれていたが、シズルはそうじゃなかった。
年上のイチノ国の第一王子。
前例がないことを俺が周囲から口さがもなく聞かされることをできるだけ減らすために、成人するまでは必要以上の接触を断ちたかったそうだ。
しかしあのとき皆はこう続けて言ったのだ。
『お美しいイチノ国の王子だと伺っています。結婚式が楽しみです』と。
俺は第五王子で王位継承権なんて無いに等しい。
なので政治的な絡みに煩わされる事もなくわりと好き勝手に生活できていた。
そんな自由奔放に生きてきた俺とシズルの結婚を国の皆は好意的に受け取ってくれていると感じていた。
「だって、俺、キミに捨てられたら行き場所が無いし」
将来的にはナカノ国の大臣候補だと噂されているキレモノの文官がペロリと舌を出し妖しく笑う。
でも瞳の奥に浮かぶのはやっぱり諦めの色だった。
シズルが第一王子にしてナナノ国の第五王子の伴侶になるのはイチノ国の風習のせいだった。
イチノ国では王子の母親……すなわち王妃が生きている場合にのみ王位継承が与えられるとなっている。
万が一の事があった場合は王子が結婚し子を成せばそちらに王位継承権が移るという風習。
シズルの母親はシズルが十歳の頃病で身罷ったと聞いている。
側室制度がないし、現王はシズルの母であるコハク妃を大層愛されていたという噂もありイチノ国ではそのまま王妃不在かと思われていたところ、シズルが十四歳の年にコハク妃の妹と王が結婚。
十五歳の年に現王との間に第二王子が生まれ、イチノ国の風習によりそちらに王位継承権が移ることとなってしまったのだった。
「王なんて、俺の性格じゃ合わないから、それはどうでもよかったんだけど……」
慌てたのはイチノ国の官僚たちで、それからシズルの身の振り方を考えなければならない。
シズルとしては成人したらナカノ国の中央機関で働いてそのままだらだらと過ごしていければと思っていたらしいが、官僚達がそうはいかないとナナノ国以外でも嫁ぎ先をと躍起になって探し回り……
結果としてナナノ国にまだ許嫁のいない王子がいることが分かり打診したそうだ。
十歳差で最初は候補に上がらなかった……ということらしい。
俺としてはそれは幸いな事だった。
イチノ国の国民はナナノ国の国民よりも寿命が長く成長が穏やかだ。
だからシズルの見た目は俺と変わらずむしろ俺よりも年下にみられることもあった。
「だが、今まではイチノ国の王族はナナノ国の王族としか婚姻関係は結ばないのだと思っていたが、どこの国でもいいとは…」
「いや、歴代の王族の中には結婚せずにナカノ国の研究機関で学者になった人もいるし、平民と結婚して位を返上した人もいたから、別にナナノ国の王族と結婚が必須というわけじゃないんだけど……」
腕の中で気だるそうに言う婚約者の長い銀糸を指にからめとり俺はそれに唇を落とす。
「そうなのか。俺はますます持って幸運だ」
「は?」
キョトンとシズルはその薄紫の瞳で俺を見つめる。
「お前が独身を通したり、他の平民と結婚することもなく、今までのしきたり通りナナノ国の王子と結婚して」
そういう俺にああ、と、吐くように呟くと、一瞬薄く冷たい笑みをシズルは浮かべた。
「……イチノ国としては、俺を自由にしておくわけにはいかないんだよ。キミにでもくくりつけてイチノ国に戻らないようにしないと……」
「どういう事だ?」
「……アリクはちょっと変わった子で、ハクイ様もかなり神経質になってるからね。俺が今まで独身なのも本当は耐えられないんじゃない?」
アリクはシズルの弟、つまりイチノ国の第二王子でハクイ様はその母、現王妃だ。
「……王位継承を脅かされると?」
「……さあね……キミと俺の結婚を一番待ち望んでいるのはハクイ様だ」
シズルは自虐的な笑みを浮かべた。
「違うな」
俺はそっとシズルを抱き寄せる。
肩口に顔を埋め、囁く。
「え?」
「俺だ」
何年待ちわびている事か。
この美しい人と永遠を誓う事を。
「……そうだね」
くすりとシズルは俺の腕の中で小さく笑った。
この世界では同性の結婚はごく普通の事だ。
異性同士であれば子は女の腹に胎を成す。
同姓であれば各国に一本ずつある神木に二人で祈れば実が貰える。
その実を食べた方が一時的に腹に胎を成すことが出来る、または孕ませる事が出来るようになる。
稀に異性同士の婚姻で女が孕むのを拒む事があるらしい。そういう時には二人が実を食べればそれぞれの役割に身体がかわる。
もう一つ。
俺たちの「魔力」は体力に直結している。
魔力を使いすぎれば身体が動かなくなる。
もちろん休息すれば回復するが手っ取り早いのは相性がいい魔力の持ち主に魔力を補充してもらう事だ。
それは接触でもいいし、経口補充でも良いし、性交と似た行為によって体液を直接取り込んでもいい。
だから初めて会い手を繋いだときにも、接触によりシズルから魔力が補充されたし俺の魔力がシズルに流れこんだ。
あのときは補充というよりは相性が良いもの同士、魔力が混じりあって高揚感を感じたのだ。
俺とシズルは相性がいい。
いつでも高純度の魔力を交換することが出来る。
触れあうだけでもいいが、やはり経口や疑似性交による補充の方がより純度の高い魔力を摂取できる。
七日に一回。
俺達は魔力の交換という名の性交を行う。
「疑似」ではなく、「性交」を行うのだ。
体液を摂取する事で魔力は交わる。
なので手段はなんでも良いのだ。
口付けでもかまわない。
しかし俺はシズルと身体を繋げる事を望んだ。
その遺伝子が刻まれている体液をシズルの身体の奥深くに吐き出す事を。
シズルには最初の頃身体を繋げるのを拒まれた。
きちんと祝言の儀を行ってからだと。
俺は反論した。
婚約者同士なぜ「疑似」でなければはらない?
そもそも十三年も待ったのだ
シズル以外に誰も娶る気などないのだから、俺たちにはなんの問題はない。
「仕方ないなあ」
数回の説得後、シズルが年下の婚約者のワガママをきき、俺を受け入れてくれたのは再会して三十日ほどたってからだった。
やはり諦めたような、それでいて、人を誘うような笑みを浮かべて。
ナカノ国の官舎では同室だ。
本来はシズルは個室、新人の俺は数人での同室だが、俺たちが婚約していること、そして俺が第五であっても一国の王子であることを配慮された結果だ。
「普通は王子様であっても最初の一年は四人部屋だけどね」
同室になるのを告げた時シズルはやれやれと首をかしげて苦笑いを浮かべた。
「……シズルも?」
聞き捨てならないセリフに俺はシズルの肩を掴み押し迫る。
「は?」
怪訝そうな顔を浮かべ、シズルは俺を見上げた。
そういえば無事にあのとき誓った通り、俺はシズルの背を遥かに越していた。
「シズルも四人部屋だったのか?」
「当たり前でしょ?」
「……俺以外にシズルの寝姿を見たヤツがいるのか?」
「います。キミも知ってる通り朝は苦手だから大体起こしてもらってたし」
やれやれと呆れたようにシズルは答える。
俺は頭をかかえた。
大切な婚約者の寝姿が他のヤツにさらされていたなんて…
出来れば十年前に戻って俺が同室になりたい…
いや、そもそもこの十年の年の差のせいで同じ時間にいれなかったのだ。
しかし、年の差があったからこそ、婚約が出来たのも事実。
「何をぐるぐるかんがえているんですか?ミハシ様?」
はあと肩を落とした俺にからかう時は敬語になる婚約者のその滑らかな頬に手を伸ばす
「シズル殿は……俺が婚約者で良かったのか?」
「イヤだと言った事あります?」
「無いが……」
「いつも言ってますよね?キミに捨てられたら俺は行き場所はないって」
『行き場所』が『生き場所』に聞こえるのはなぜだろう。
時折シズルが数日戻ってこない事がある。
仕事ではない。何の用かは不明だがイチノ国に呼び戻されるのだ。
そんな時は帰宅した時にはシズルの「魔力」はギリギリまで枯渇しており寝床に死んだように身を横たえる。
俺はまずそんなシズルの手をとり優しく包みこむ。
ゆるゆると「魔力」を送りこむのだ。
じんわりとシズルの魔力が戻ってきたら次は経口で送り込む。
これもゆるゆると。
魔力が『無』の状態でいきなり俺の魔力を送り込めばそれは一気に強い酒を飲むのと同じ状態になり魔力酔いをおこす。
魔力をコントロールすることが出来なくなり、暴走する。
だからまずはゆっくりと、そして、シズルの腕が上がり俺の首に巻き付いてきたら次に進んでいい合図。
シズルの口内を荒く貪り「魔力」の交換を始める。
イチノ国特有の柔らかな布で出来た着衣の隙間からするりと手を差し込みシズルの胸の飾りをつまむ。
「……あっ」
隙間から甘い声が漏れピクリと身体が揺れる。
本来、男のそれなんて触られたからといって官能に直結するものじゃない。
シズルも最初はそうだったけれど、口づけを交わしながら、や、彼の感じる部分に触れながら刺激を与える事で「その部分を触られたら気持ち良い」という事を教え込み、乳首だけでも射精が出来るように躾たのは俺だ。
シズルには「どれだけ遊んできたの?」と呆れられたが、仕方ない、ナナノ国の王子は十五を過ぎると夜伽の者があてがわれ、あれやこれやの性技を教えてこまれる。
「イチノ国にはないのか?」
「……ないな……」
「良かった」
「そう?」
「他にシズルを抱いた者や抱かれた者がいたと思ったら、気が狂う」
「四人部屋だってだけで怒ってたもんね」
シズルの中心が芯を持ち始めたのを感じたら唇をシズルの首筋、鎖骨へと落としていき直接乳首を舐めとる。
手はシズルの中心をそっと包み込み刺激を与える。
「あ、あ……」
微かな甘さを含んだ声が漏れきこえる。
シズルはあまり声を出さない。
耐えるように唇を噛み締めているときもある。
一度など噛みすぎて血が滲んでいた。
「声、出せ」
小さく開いた口元。
唇を重ねると舌先をねじ込む。
上顎や歯列をなぞり口内を掻き回す。
くちゅくちゅという水音が上からも下からも響きだす。
「シズル……」
シズル自身が硬く熱を帯びてくる。
ピクピクと震えてくるところに俺はさらに愛撫を与え彼を絶頂へと導く。
「あ、やだ……いっ……」
ビクリと腰が大きく揺れ、俺の手に彼の精が吐き出される。
俺は極上の蜜をゆっくりと口に運ぶとそれを舐めとる。
身体中にシズルの魔力が満ち溢れるのがわかる。
次はシズルへ渡す番だ。
俺は香油を手に取ると少し温め、彼の後孔へと足らし込む。
あわせて指を一本ゆっくりと押し込む。
最初は俺を拒む蕾も指先を少し飲み込ませてしまえば後は貪欲に欲する。
触れあうだけでも魔力の交換は行われるのだ。
粘膜で直接触れあう事が気持ち良くないわけがない。
中を慎重にかき混ぜるとビクリと腰が動く。
シズルの良い部分に触れたようだ。
睨むように俺を見つめる。
うっすらと瞳には涙が浮かび、頬は朱に染まっている。
魔力がほぼ戻ってきた証だ。
「シズル……」
名を呼びながら俺はシズルの中を感じる。指を二本、三本と増やす頃にはすっかりシズルの身体も中もとろとろに溶けている。
最後の仕上げとばかりに俺はすでに反り立っている俺自身をシズルの後孔にあてがいゆっくりと抽挿する。
「シズル……シズル……」
シズルの腰も動き、俺を奥まで迎えいれようとする。
ぎゅうと腕が背中に巻き付き、離れる事を恐れるように。
「シズル……シズル……」
「ミハシ様……」
めったに呼ばない俺の名を呼ぶ。
滲ませていただけの涙は雫となりシズルの艶やかな頬を伝い落ちる。
あ、あ、と小さく息をつきながらシズルはぐっと俺を加え込む。
そこから流れ込む魔力に俺は酩酊し、一気に彼の最奥に精を吐き出す事になる。
「……シズル、愛している……」
最後の一滴まで魔力を吐き出すと、そう睦言を囁きながら彼の唇に自分の唇を重ねるが彼から返事はない。
ただ薄く微笑むだけだ。
困ったような諦めたような笑みを浮かべるだけだ。
イチノ国とナナノ国は隣同士の近しい国だ。
イチノ国の第一王子は俺の婚約者であるのに。
俺は彼の事を何も知らない。
イチノ国
ニノ国
サンノ国
……ナナノ国
七つの国がまあるくある
そして真ん中は
ナカノ国
それぞれ違う種族が統治している。
もちろん断絶しているわけではないので国境付近ではそれぞれの種族が混じって生活している村や町も多い。
ナカノ国はそれぞれの国から優秀な人材が送り込まれ七つの国を統治する機関が置かれている。
七つの国は独立した国のようで実は独立した国ではないのかもしれない。
ナカノ国に守られた、領地。
イチノ国からナナノ国まで、この「世界」の人々は「魔力」が使える。
「魔力」は特別な事ではなく日常の生活に溶け込む程度の力だ。
料理に使う火を点ける。
井戸から水を汲み上げる。
ただしやはり「魔力」の強い者は『トクベツ』だ。大体「ナカノ国」の官僚となる。
力を使い七つの国を上手く統治するのだ。
イチノ国とナナノ国はその名前から一見遠くに見えるが実は隣同士で昔から他の国より王家の交流も盛んであった。
第一以外の王子や王女はお互いに結婚相手となり親戚関係をさらに深くしていく。
他の国より小さめの両国が生き延びるための手段であった。
俺が初めてシズルと会ったのは五歳の時。
初めて国を出た先に連れていかれたのは『イチノ国』
俺の国は鉱石の加工が特産で建物も石や土で出来たものが多く、好戦的な種族で国のどこかで小競り合いがおきているような騒がしく賑やかな鉄と石の国と呼ばれる『ナナノ国』
片や木で出来た建物が多く花や色鮮やかな織物が特産の『イチノ国』
そこは国境を越えた辺りから甘い柔らかな香りが漂い、馬車から見える物全てが新鮮で、俺は自分の国ではみたことのないどちらかと言えば解放的で人々も穏やかそうに暮らす姿に目を奪われていた。
女も男もスラリとした見かけの者が多く、色素も薄い。
国中がふわふわきらきらと柔らかい光に包まれているようだった。
自国『ナナノ国』はどちらかと言えばがっしりした体格の者が多く黒髪に黒や茶色の目で肌も黄色寄りだった。
もちろん俺も言うに違わずだ。
違うのは王族だけが持つと言われている『赤い瞳』だろうか。
物珍しさにキョロキョロしながら連れていかれたのは信じられない位開放的な、しかし『魔力』でがっしり保護され、『トリツカレタモノ』や『ヒト』ですらおいそれとは近寄れない平べったくだだっ広い宮殿だった。
そして婚約者だと紹介されたのは俺より十歳年上のすらりとした美人。
緩くウェーブのかかった銀糸のような髪は無造作に束ねられている。
角度によって菫色にも薄茶色にも見える瞳。
この国に入ってから見かけたどの民よりも透けるほど白い肌の色。
絹で出来たローブのような柔らかそうな白い服を纏っていた。
「キレイだ……」
小さく俺はつぶやいた。
絵巻物で見た天女が現実にいたらこんなだろう。
俺はその見目に頬をそめ、魅入った。
視線を外せぬままふらふらと彼―――シズルに近づき五十センチ以上の身長差―――もちろん俺が低い―――を気にせず俺は彼の前にひざまづきその手を取った。
ふわりと柔らかい熱が自分の中に流れる。
ああ。
彼との「魔力」の相性がいい。
俺は今まで親からすらもらった事のないような暖かい「魔力」をシズルから感じ、思わず握った手に力を込める。
いわれのない高揚感は今にして思えば完全に下腹部の高まりに直結していた。
当時五歳の俺は、そういう興奮とは結びつけることはなかったが。
シズルも俺の魔力を心地いいと感じたらしく「おや?」と目を細め、そのまま可愛いも
のを愛でる笑みを浮かべなされるがままになっていた。
今考えれば繋がれた手を通してぶしつけに魔力を流してしまっていてかなり失礼な態度だったが子どもだと大目に見てくれたのだろう。
「ナナノ国第五王子ミハシです。よろしくお願いします。…貴方が僕の婚約者になってくれて嬉しい」
とった手の甲に唇を落とす。
それはつるりとまるで磁器のように滑らかだった。
「イチノ国第一王子シズルです。ミハシ様、私こそよろしくお願いいたします」
さらにあでやかな笑顔を浮かべてシズルは腰をかがめ俺に視線を合わせる。
……絶対大きくなって、いつか俺を見上げさせてやる。
幼心に俺はそんな決心をし……。
俺はその時第一王子が第五王子の自分の婚約者になることになんの疑問も持たなかった。 ただただ目の前のこの美しいイチノ国の王子が自分の伴侶になるのだと有頂天になっていた。
次に会ったのは実に十三年後。
シズルとの「結婚」は俺が二十歳になってからという約束が両国間でなされていた。
俺としては十八歳で成人したらすぐにシズルを娶る気満々だったからそんな取り決めを知り愕然とした。
聞けば代々の王子がそうだと。
第一王子以外の王子は伴侶を得れば国内の領地を分けられそこの領主となる。
まったく社会経験もないままではそのような地位は与えられないということで早々に許婚が決まった王子でも成人即結婚にはならないということだった。
十八歳になればシズルに会える。
あのキレイなタカラモノのような人が俺のものになる。
その一念だけでつらい武官学校も首席で卒業した俺はその事実を突きつけられしばらく生きるしかばねとなっていた。
が。
天は俺を見放してはいなかった。
というか、父である王がそう采配してくれたんだろうけど……
それは俺が成人しナカノ国の機関への勤務が決まり出向いた初日だった。
最低でも二年間はナカノ国で武官として務めることと言われ、沈んだ気持ちで出向いた初日。
その中でも俺のわずかな希望はナカノ国ではシズルも文官として働いているので運が良ければその日に会えたり、職場も近いところにならないだろうかという事だった。
官舎には俺みたいな新人がわんさかあふれていて、みんなが緊張の面持ちで、でも勝手がわからぬままうろうろしていた朝。
「新しい人たちはもう一つ奥の建物の入り口に名簿が貼ってありますから確認してそれぞれの持ち場に行ってね」
柔らかく指示する声が後ろから聞こえた。
……この声は……。
跳ねるように振り向くと十三年前と全く変わらない……いや、むしろ美しさが増したシズルが文官の制服を着て立っていた。
「シズル……様?」
俺の事がわかるだろうか。
十三年も会っていない……
五歳からの十三年なんて、成長期の俺にとっては一時代違うわけだし。
おそるおそる呼び掛けた声にシズルは顔を向けあの不思議な色の目を細めて薄く笑った。
「ナナノ国のミハシ様ですね?お久しぶりです。お待ちしておりました」
向けられた眼差しに、俺は再度彼を見初めた。
そこにいる誰彼に「彼は俺のモノだ」と言ってきかせたかったし、逆に誰にも見せたくないとさえ思った。
あのときの事を後からシズルとの寝間の戯れ言にきくと「いや、ずいぶん大きくなったなあって、親戚のおじさんの気分だったよ」とクスクス笑いと共に言われた。
「思った通りに成長したなあと思って。黒い短髪、ちょっときつめの目元。でもその奥にはキレイな赤い瞳が輝いてるし」
「シズルは変わらずキレイだった」
やわらかい銀糸をゆるく解かしながら俺は思い出す。
今、腕の中にいるシズルももちろん美しいのだが、あの時、十三年間想像の中でしか会えなかった天女が再び目の前に現れたのだ。
「ま、そんな種族だし」
『変わらない』種族なのか『キレイ』な種族なのかシズルは当たり前のように答える。
「五歳のキミが俺にひとめぼれしたのも良くわかったし、十八歳のキミがもう一回俺を見初めたのもわかったよ。キミ、顔に出やすいよね?」
やんわりと俺の頬を撫でながらうっとりとシズルは言った。
「そもそも婚約者に十年以上も会わないなんてあり得ないだろう?」
「だって、結婚は決まりごとだからそんな面倒な事しなくてもいいかなあって思って。キミは若いんだから、忙しかっただろうし。新年と誕生日の贈り物はしてたでしょ?」
毎年シズルから律儀に届く贈り物を俺は心待ちにしていた。
新年にはイチノ国の珍しい食べ物が、誕生日にはそれ以外の装飾品などが送られてきていた。
「……どうせお付きの者にでも適当に選ばせていたんだろう?」
俺の言葉にシズルは軽く口を尖らせて答える。
「まさか。ちゃんと『十歳のキミはどんなものが好きかな~』なんて思いながら選んで
たよ?」
「本当か?」
「本当だよ。……成人の贈り物はどうだった?」
少しだけ自慢げにシズルは俺に問いかける。
十八歳の成人の誕生祝いにはイチノ国特産の織物の帯が送られてきた。
金糸、銀糸が織り込まれ、柄はイチノ国の国鳥である『キジ』が精巧な図案で再現され
ていた。
同封されていた手紙には『式典では着用する衣装が決まっているかとは思いますので、
何かの折に身に着けてください』と書かれていた。
「披露目の晩餐会で身に着けさせてもらった。皆大層ほめていた」
「そう?よかった?あれ、俺が図案考えたんだよね。本当は織るところもやりたかったけどやっぱりそこは手練れの職人に頼んだ方がいいかなあと思って。かなり細かい図案だったから完成までに二年くらいかかったの。間に合ってよかった」
なんで若干十七歳の誕生日の贈り物は手を抜いたかもしれないけど……とシズルは小さく笑った。
「あの時……」
皆が帯をほめる。誰の作品だと聞く。婚約者からの成人の贈り物だというと、みな口々に言った。
『本日はお見えにならないのですか?』
「……だってさ、年上が婚約者なんて、キミが嫌がるかなーと思ってさ。しかも、第一王子なんて前代未聞だしね」
ああ。
そうなのだ。
シズルが十三年間、全く俺と会おうとしなかったのはこれが理由なんだそうだ。
あの時俺は子供で意味も分からずとても美しいイチノ国の王子と「婚約」という状況に浮 かれていたが、シズルはそうじゃなかった。
年上のイチノ国の第一王子。
前例がないことを俺が周囲から口さがもなく聞かされることをできるだけ減らすために、成人するまでは必要以上の接触を断ちたかったそうだ。
しかしあのとき皆はこう続けて言ったのだ。
『お美しいイチノ国の王子だと伺っています。結婚式が楽しみです』と。
俺は第五王子で王位継承権なんて無いに等しい。
なので政治的な絡みに煩わされる事もなくわりと好き勝手に生活できていた。
そんな自由奔放に生きてきた俺とシズルの結婚を国の皆は好意的に受け取ってくれていると感じていた。
「だって、俺、キミに捨てられたら行き場所が無いし」
将来的にはナカノ国の大臣候補だと噂されているキレモノの文官がペロリと舌を出し妖しく笑う。
でも瞳の奥に浮かぶのはやっぱり諦めの色だった。
シズルが第一王子にしてナナノ国の第五王子の伴侶になるのはイチノ国の風習のせいだった。
イチノ国では王子の母親……すなわち王妃が生きている場合にのみ王位継承が与えられるとなっている。
万が一の事があった場合は王子が結婚し子を成せばそちらに王位継承権が移るという風習。
シズルの母親はシズルが十歳の頃病で身罷ったと聞いている。
側室制度がないし、現王はシズルの母であるコハク妃を大層愛されていたという噂もありイチノ国ではそのまま王妃不在かと思われていたところ、シズルが十四歳の年にコハク妃の妹と王が結婚。
十五歳の年に現王との間に第二王子が生まれ、イチノ国の風習によりそちらに王位継承権が移ることとなってしまったのだった。
「王なんて、俺の性格じゃ合わないから、それはどうでもよかったんだけど……」
慌てたのはイチノ国の官僚たちで、それからシズルの身の振り方を考えなければならない。
シズルとしては成人したらナカノ国の中央機関で働いてそのままだらだらと過ごしていければと思っていたらしいが、官僚達がそうはいかないとナナノ国以外でも嫁ぎ先をと躍起になって探し回り……
結果としてナナノ国にまだ許嫁のいない王子がいることが分かり打診したそうだ。
十歳差で最初は候補に上がらなかった……ということらしい。
俺としてはそれは幸いな事だった。
イチノ国の国民はナナノ国の国民よりも寿命が長く成長が穏やかだ。
だからシズルの見た目は俺と変わらずむしろ俺よりも年下にみられることもあった。
「だが、今まではイチノ国の王族はナナノ国の王族としか婚姻関係は結ばないのだと思っていたが、どこの国でもいいとは…」
「いや、歴代の王族の中には結婚せずにナカノ国の研究機関で学者になった人もいるし、平民と結婚して位を返上した人もいたから、別にナナノ国の王族と結婚が必須というわけじゃないんだけど……」
腕の中で気だるそうに言う婚約者の長い銀糸を指にからめとり俺はそれに唇を落とす。
「そうなのか。俺はますます持って幸運だ」
「は?」
キョトンとシズルはその薄紫の瞳で俺を見つめる。
「お前が独身を通したり、他の平民と結婚することもなく、今までのしきたり通りナナノ国の王子と結婚して」
そういう俺にああ、と、吐くように呟くと、一瞬薄く冷たい笑みをシズルは浮かべた。
「……イチノ国としては、俺を自由にしておくわけにはいかないんだよ。キミにでもくくりつけてイチノ国に戻らないようにしないと……」
「どういう事だ?」
「……アリクはちょっと変わった子で、ハクイ様もかなり神経質になってるからね。俺が今まで独身なのも本当は耐えられないんじゃない?」
アリクはシズルの弟、つまりイチノ国の第二王子でハクイ様はその母、現王妃だ。
「……王位継承を脅かされると?」
「……さあね……キミと俺の結婚を一番待ち望んでいるのはハクイ様だ」
シズルは自虐的な笑みを浮かべた。
「違うな」
俺はそっとシズルを抱き寄せる。
肩口に顔を埋め、囁く。
「え?」
「俺だ」
何年待ちわびている事か。
この美しい人と永遠を誓う事を。
「……そうだね」
くすりとシズルは俺の腕の中で小さく笑った。
この世界では同性の結婚はごく普通の事だ。
異性同士であれば子は女の腹に胎を成す。
同姓であれば各国に一本ずつある神木に二人で祈れば実が貰える。
その実を食べた方が一時的に腹に胎を成すことが出来る、または孕ませる事が出来るようになる。
稀に異性同士の婚姻で女が孕むのを拒む事があるらしい。そういう時には二人が実を食べればそれぞれの役割に身体がかわる。
もう一つ。
俺たちの「魔力」は体力に直結している。
魔力を使いすぎれば身体が動かなくなる。
もちろん休息すれば回復するが手っ取り早いのは相性がいい魔力の持ち主に魔力を補充してもらう事だ。
それは接触でもいいし、経口補充でも良いし、性交と似た行為によって体液を直接取り込んでもいい。
だから初めて会い手を繋いだときにも、接触によりシズルから魔力が補充されたし俺の魔力がシズルに流れこんだ。
あのときは補充というよりは相性が良いもの同士、魔力が混じりあって高揚感を感じたのだ。
俺とシズルは相性がいい。
いつでも高純度の魔力を交換することが出来る。
触れあうだけでもいいが、やはり経口や疑似性交による補充の方がより純度の高い魔力を摂取できる。
七日に一回。
俺達は魔力の交換という名の性交を行う。
「疑似」ではなく、「性交」を行うのだ。
体液を摂取する事で魔力は交わる。
なので手段はなんでも良いのだ。
口付けでもかまわない。
しかし俺はシズルと身体を繋げる事を望んだ。
その遺伝子が刻まれている体液をシズルの身体の奥深くに吐き出す事を。
シズルには最初の頃身体を繋げるのを拒まれた。
きちんと祝言の儀を行ってからだと。
俺は反論した。
婚約者同士なぜ「疑似」でなければはらない?
そもそも十三年も待ったのだ
シズル以外に誰も娶る気などないのだから、俺たちにはなんの問題はない。
「仕方ないなあ」
数回の説得後、シズルが年下の婚約者のワガママをきき、俺を受け入れてくれたのは再会して三十日ほどたってからだった。
やはり諦めたような、それでいて、人を誘うような笑みを浮かべて。
ナカノ国の官舎では同室だ。
本来はシズルは個室、新人の俺は数人での同室だが、俺たちが婚約していること、そして俺が第五であっても一国の王子であることを配慮された結果だ。
「普通は王子様であっても最初の一年は四人部屋だけどね」
同室になるのを告げた時シズルはやれやれと首をかしげて苦笑いを浮かべた。
「……シズルも?」
聞き捨てならないセリフに俺はシズルの肩を掴み押し迫る。
「は?」
怪訝そうな顔を浮かべ、シズルは俺を見上げた。
そういえば無事にあのとき誓った通り、俺はシズルの背を遥かに越していた。
「シズルも四人部屋だったのか?」
「当たり前でしょ?」
「……俺以外にシズルの寝姿を見たヤツがいるのか?」
「います。キミも知ってる通り朝は苦手だから大体起こしてもらってたし」
やれやれと呆れたようにシズルは答える。
俺は頭をかかえた。
大切な婚約者の寝姿が他のヤツにさらされていたなんて…
出来れば十年前に戻って俺が同室になりたい…
いや、そもそもこの十年の年の差のせいで同じ時間にいれなかったのだ。
しかし、年の差があったからこそ、婚約が出来たのも事実。
「何をぐるぐるかんがえているんですか?ミハシ様?」
はあと肩を落とした俺にからかう時は敬語になる婚約者のその滑らかな頬に手を伸ばす
「シズル殿は……俺が婚約者で良かったのか?」
「イヤだと言った事あります?」
「無いが……」
「いつも言ってますよね?キミに捨てられたら俺は行き場所はないって」
『行き場所』が『生き場所』に聞こえるのはなぜだろう。
時折シズルが数日戻ってこない事がある。
仕事ではない。何の用かは不明だがイチノ国に呼び戻されるのだ。
そんな時は帰宅した時にはシズルの「魔力」はギリギリまで枯渇しており寝床に死んだように身を横たえる。
俺はまずそんなシズルの手をとり優しく包みこむ。
ゆるゆると「魔力」を送りこむのだ。
じんわりとシズルの魔力が戻ってきたら次は経口で送り込む。
これもゆるゆると。
魔力が『無』の状態でいきなり俺の魔力を送り込めばそれは一気に強い酒を飲むのと同じ状態になり魔力酔いをおこす。
魔力をコントロールすることが出来なくなり、暴走する。
だからまずはゆっくりと、そして、シズルの腕が上がり俺の首に巻き付いてきたら次に進んでいい合図。
シズルの口内を荒く貪り「魔力」の交換を始める。
イチノ国特有の柔らかな布で出来た着衣の隙間からするりと手を差し込みシズルの胸の飾りをつまむ。
「……あっ」
隙間から甘い声が漏れピクリと身体が揺れる。
本来、男のそれなんて触られたからといって官能に直結するものじゃない。
シズルも最初はそうだったけれど、口づけを交わしながら、や、彼の感じる部分に触れながら刺激を与える事で「その部分を触られたら気持ち良い」という事を教え込み、乳首だけでも射精が出来るように躾たのは俺だ。
シズルには「どれだけ遊んできたの?」と呆れられたが、仕方ない、ナナノ国の王子は十五を過ぎると夜伽の者があてがわれ、あれやこれやの性技を教えてこまれる。
「イチノ国にはないのか?」
「……ないな……」
「良かった」
「そう?」
「他にシズルを抱いた者や抱かれた者がいたと思ったら、気が狂う」
「四人部屋だってだけで怒ってたもんね」
シズルの中心が芯を持ち始めたのを感じたら唇をシズルの首筋、鎖骨へと落としていき直接乳首を舐めとる。
手はシズルの中心をそっと包み込み刺激を与える。
「あ、あ……」
微かな甘さを含んだ声が漏れきこえる。
シズルはあまり声を出さない。
耐えるように唇を噛み締めているときもある。
一度など噛みすぎて血が滲んでいた。
「声、出せ」
小さく開いた口元。
唇を重ねると舌先をねじ込む。
上顎や歯列をなぞり口内を掻き回す。
くちゅくちゅという水音が上からも下からも響きだす。
「シズル……」
シズル自身が硬く熱を帯びてくる。
ピクピクと震えてくるところに俺はさらに愛撫を与え彼を絶頂へと導く。
「あ、やだ……いっ……」
ビクリと腰が大きく揺れ、俺の手に彼の精が吐き出される。
俺は極上の蜜をゆっくりと口に運ぶとそれを舐めとる。
身体中にシズルの魔力が満ち溢れるのがわかる。
次はシズルへ渡す番だ。
俺は香油を手に取ると少し温め、彼の後孔へと足らし込む。
あわせて指を一本ゆっくりと押し込む。
最初は俺を拒む蕾も指先を少し飲み込ませてしまえば後は貪欲に欲する。
触れあうだけでも魔力の交換は行われるのだ。
粘膜で直接触れあう事が気持ち良くないわけがない。
中を慎重にかき混ぜるとビクリと腰が動く。
シズルの良い部分に触れたようだ。
睨むように俺を見つめる。
うっすらと瞳には涙が浮かび、頬は朱に染まっている。
魔力がほぼ戻ってきた証だ。
「シズル……」
名を呼びながら俺はシズルの中を感じる。指を二本、三本と増やす頃にはすっかりシズルの身体も中もとろとろに溶けている。
最後の仕上げとばかりに俺はすでに反り立っている俺自身をシズルの後孔にあてがいゆっくりと抽挿する。
「シズル……シズル……」
シズルの腰も動き、俺を奥まで迎えいれようとする。
ぎゅうと腕が背中に巻き付き、離れる事を恐れるように。
「シズル……シズル……」
「ミハシ様……」
めったに呼ばない俺の名を呼ぶ。
滲ませていただけの涙は雫となりシズルの艶やかな頬を伝い落ちる。
あ、あ、と小さく息をつきながらシズルはぐっと俺を加え込む。
そこから流れ込む魔力に俺は酩酊し、一気に彼の最奥に精を吐き出す事になる。
「……シズル、愛している……」
最後の一滴まで魔力を吐き出すと、そう睦言を囁きながら彼の唇に自分の唇を重ねるが彼から返事はない。
ただ薄く微笑むだけだ。
困ったような諦めたような笑みを浮かべるだけだ。
イチノ国とナナノ国は隣同士の近しい国だ。
イチノ国の第一王子は俺の婚約者であるのに。
俺は彼の事を何も知らない。
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