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深く深く沈んでいた泥のような闇からふんわりと意識は上昇したけれど強い拘束感を感じ身体は自由にならない。
でもそれは負では無く暖かなぬくもりであることに気づく。
ああ、また。
自分を抱き枕かと勘違いしているかのようにがっしりと頭を抱き込み、腰に手を回し、なんなら下半身は彼の太い足に挟み込まれている。
わずかに身じろぎ上を向くと、若干幼さの残る寝顔がそこにはあった。
起きているときにはしっかりした青年だと思うが、寝姿はこうも庇護欲が高まる。
「……離して」
俺は少しだけその胸を押し、わずかな隙間を作る。
「駄目だ」
無いと思っていた返事が返され、俺は少し驚いた。
……起きていたのか、起きたのか。
彼はますます俺を抱きしめる力を強くする。
「仕事に行く前に湯浴みをしたいので」
「俺が寝る前にやったから、大丈夫。シズルは綺麗だ」
確かに、寝台の中で裸でふれ合っているということは夕べも俺に魔力の補充を行ってくれたんだと思うが、その残滓は感じられず、石鹸の爽やかな香りがかすかに鼻に届いていた。
「そういう問題じゃ無く。俺が嫌なんだ」
夕べこの部屋への帰宅前、実家で一度湯浴みをしている。
それは、『トリツカレタモノ』の穢れを落とすために。
ナカノ国に穢れを持ち込むことは許されていないから。
湯浴みを終えた俺に侍従長はそのまま泊まるように進言したが俺は聞かずに帰ってきた。
魔力が完全に枯渇していた。
眠れば回復するのはわかっているし、このまま帰宅しても多分そのまま倒れてしまうとは思ったが、魔力の波長が合うものとの補充行為の方が効率が良い。
帰ればそれができる。
俺を安心させ、なんの躊躇も無く俺に魔力を最大限供給してくれる者がいるから。
眠って回復させるには、俺の魔力量であれば三日はかかる。
すでに二日仕事を休んでいるのにこれに追加で三日など、言い出せはしない。
それに俺を待っているであろう、十も年下の婚約者の顔が浮かんだ。
「……じゃあ、一緒に入る」
婚約者、ミハシは渋々という感じで俺から身体を離すとちゅっと額に唇を落とし寝台から立ち上がった。
鍛えられた筋肉、どこもかしこも引き締まり無駄な贅肉のかけらも無い。
あのたくましい十八歳の瑞々しい身体から俺は魔力を補充してもらい、今日も、生きている。
この世界は七つの国と一つの真ん中の国でできている。
イチノ国
ニノ国
サンノ国
……ナナノ国
七つの国はナカノ国を丸く囲み小さな小競り合いを繰り返しながら共存していた。
ナカノ国は『国』というよりは七つの国を統治する機関の意味合いが強い。
剣と魔法の世界。
男二人で入るには若干手狭な浴槽にちょうど良い湯加減のお湯がこんこんと湧き出でている。
地下の水脈から直接くみ上げ、魔力で沸かす。
ナカノ国は水が潤沢な地形だった。
ミハシは浴槽の縁にもたれるように入っており、長い髪をまとめて浴室に入ってきた俺をその身体の前に抱き込んだ。
「あー、シズルが暖かい」
ミハシは俺の腹に腕を回し、俺の肩口に額をこすりつける。
「それは、湯に浸かっているから」
「……夕べも魔力の枯渇で低体温のまま帰宅してきたんだが」
「ああ、それは……ごめんなさい」
夕べ帰宅するのに僅かに残っていた魔力を使ったから、部屋に入った途端倒れ、ほとんど意識の無い俺を確かに暖かな温もりが抱きしめてくれた。
それから重ねた手の平から緩やかに魔力が流し込まれ、その後は経口、そして、性交へと流れ、俺の魔力は完全に彼から補充された。
「今のシズルからは俺の魔力しか感じない」
「……またみんなにからかわれるなあ」
「悪い事はしていない。当たり前の行為だ」
「それはそうなんだけどね」
俺は腹に回された太くたくましい俺の愛しい婚約者の腕をなでた。
魔力の保有量が高い……すなわち高位の魔法使い(これは俗称であり魔法使いという職業はこの世界には無い)は気を抜くと他人の魔力が見える。
俺の普段の魔力色は薄い青だがミハシは濃い朱色で、ミハシに補充してもらえばもちろん俺の青となじむまでは俺の魔力色は朱色が主となる。
俺と、ミハシは婚約者同士だと庁舎の人間は皆知っているので、そんなに色が変わるほど夕べは補充行為をしたんだね、と見た物は生暖かい気持ちになる。
俺の魔力が少ないときは俺に補充されるが、ミハシの魔力が少ないときはもちろん俺の魔力はミハシに流れ込む。
お互いが十分であっても魔力強化を図るためにそういう行為を行う事もある。
その場合は交換行為となる。
もちろん、自分もそうだから誰も口にはしない。
他人の魔力色を許可無く見ることははしたない行為だと学校では教える。
学校に入って一番に習うのは、自己制御だ。
この世界は魔力で動いている。
魔力は体力や精神力に直結していて、日常の道具を動かすのも魔力を使う。
水を汲む、火をつける、そんな些細な事すべてだ。
魔力を使いすぎれば身体は動かなくなり、自分の持っている魔力以上の魔力を使えばそれは死を意味する。
休息すれば回復するが時間はかかる。
一番手っ取り早い回復方法は相性の良い魔力の持ち主に魔力を補充してもらうことだ。
それは接触でも、経口補充でも、性交と似た行為で一番濃い体液を直接体内に取り込んでもいいのだ。
性交と似た、というよりは、ほぼ、そのもの……だけど。
「髪、洗わせて、シズル」
自分が湯船から出ると、ミハシは小さな椅子を持ってきて座り、俺を浴槽に寝かしたまま、まとめた髪の毛をほどいた。
「……自分でやるから、大丈夫」
「俺がやりたい」
「ナナノ国の王子様は髪の毛に偏愛思考をお持ちで?」
くすくすと笑いながら尋ねた俺に
「……シズルのならば」
と、ミハシは生真面目に返す。
彼は俺の髪の毛を丁寧にとかし、たまに口づけながら、石鹸で立てた泡で丁寧に洗っていった。
俺はイチノシズル。
名前の通り、イチノ国の王族で、今はナカノ国の文官をしている。
さすがに今は言われないけれど、学校を卒業し、文官見習いとしてここに来た十年前には聞こえよがしによく言われた。
『見捨てられたイチノ国の第一王子』
好きでナカノ国に来たんだって言っても誰も信じてくれないだろうから、俺はそんな声は無視していた。
婚約者の名はナナノミハシ。
ナナノ国の第五王子だ。
彼が二十歳になれば俺は彼の伴侶としてナナノ国の領地に嫁ぐことが決まっている。
『見捨てられた王子』なんて不名誉な二つ名を囁かれるのにはイチノ国にある王位継承に関しての変な慣習のためだった。
それは、王位継承の資格は母親が生きていること。
要は王妃が存命の場合にその子に王位が継承される。
もし、王妃が亡くなった場合は、その王子が結婚し、子を成すことでそちらに王位継承権が移る。
俺の母、コハクは俺が十歳の時に亡くなった。
病でと聞いたが、前日までぴんぴんしていた。
太陽みたいに明るくて、うるさい位に前向きな思考の人で、王である父は母を溺愛していた。
あんまり父が母を溺愛していたのと、我が国には側室制度がないのでこのまま俺が結婚し、子を成さないとなあ、と考えていたが、俺が十四歳になった時、父がコハクの妹ハクイを正妃に迎えることが決定した。
コハクが太陽ならハクイは月みたいな人で、全体的な雰囲気はさすが姉妹だけあって似てたからまあ、父が選ぶならどうぞ、という感じだった。
それから割と直ぐの俺が十五歳の年に弟アリクが生まれ、俺の持っていた(正確には俺の子供だけど)王位継承権はアリクに移った。
俺は王になりたかった訳ではないし、兄弟として将来王位に就いたアリクの補佐をしたり、ナカノ国にいって大臣になっても面白いかも……なんて思っていたから、父からいきなりナナノ国の王子との婚約の話を聞いたときは驚いた。
イチノ国とナナノ国はその名前の見た目から遠く離れているように感じるが、隣同士の友好国だ。
第一王子以外はお互いに王族が嫁ぎ親戚関係にもある。
イチノ国は木と花と織物の国。
ナナノ国は鉄と岩と武器の国。
隣同士なのにその文化や名産はかなり違う。
違い過ぎて争いは起きないと父は昔笑っていた。
七つの国のうちの一番と二番目に小さな国だったから同盟を結びうまくやっていた。
そんな隣の国の王族と俺との婚姻を、ハクイが正妃になってからは秘密裏に、アリクが生まれたら焦りを伴い。
俺の嫁ぎ先の選定は静かに行われていたようだった。
「ナナノ国へ嫁げと?」
父から一時帰宅の要請をうけ、学校の寄宿舎から戻った俺に父は「ナナノ国の王子と婚約が決まった」と言った。
「ああ、はい」
父はイチノ国一の武将だった。
王だから強いのか強いから王なのか。
ニノ国は血の気の多い国で、うちかサンノ国の国境付近で小競り合いの小さな戦を常に起こしていた。
そんな時には父自ら兵を率い戦地に乗り込み被害を最小限に抑えていた。
強いけど戦争にばかり行くから絶対に母より先に身罷ると思っていたんだけど。
そんな父が申し訳なさそうに言うから俺は一もニも無く頷いた。
「ご命令通りに」
「……命令ではない。拒否しても構わん」
「……でもそうしたらハクイ様が……」
妃の名前を出せば父は苦笑いする。
ハクイ様は俺が結婚をしなければ王位継承権を狙ってくると思っているらしい。
まあ確かに?
ハクイ様が無くなればアリクの王位継承権は白紙だ。
俺か、アリクかの先に生まれた子に継承権は移る。
俺が他国に嫁いでいればその心配はない。
ちなみにこの世界では各国にある神木に成る実を食べれば男女関係なく子を成す事ができる。
「でもナナノ国に私に見合う王子や王女はいましたか?」
「第五王子がいる。今、五歳だ」
「……五歳……」
あまりの幼さに絶句したが、高齢の王族の後添えで嫁げと言われるよりましかと思い直す。
「十歳私の方が上ですが」
「うちとナナノ国では種族が違うのか寿命がうちの方が長い。ちょうど良いのではと向こうが打診してきた」
「はあ……」
可哀想な第五王子。
完全な政略結婚じゃないか。
俺みたいなおじさんと結婚なんて。
まあ、俺もまだ十五歳だけど、彼が成人する頃には立派なおじさんだ。
「条件はある。彼が成人した時点で万が一お前を拒否したら婚約は破棄だ」
「第五王子はこのことを?」
「婚約は知っているが破棄の条件は話さないと言っていた」
「わかりました」
俺はもう一度こくんと頷いた。
「受けるのか?お前にはなんら有利な条件はないんだぞ」
「……少なくとも十三年間は私はハクイ様に命は狙われません」
肩をすくめて俺は父をみた。
父も大きくため息をつく。
「シズル……」
「ハクイ様の心の安泰のためにも、別に私はなんともありません」
俺はハクイ様を好きでも嫌いでもない。
母が生きていた頃は遊びにきてそれなりに俺の事も可愛がってくれたし、正妃になってからは俺は寄宿舎にいるから滅多に城には帰らなくて会うこともないからだ。
アリクが生まれた時に一応顔を見に来たけど、それ以来会ってはいない。
そもそもアリクが生まれていなくても俺が結婚するならそこには俺の意思なんてないんだ。
イチノ国にとって一番有益な結婚をするだけだ。
俺はイチノ国の王子だ。
国益が全てだと幼い頃から教育されてきた。
「キレイだ……」
初めて俺を見た彼……ナナノ国の第五王子ミハシは目をまあるくして呟いた。
父に婚約の事を聞いた明くる日が俺とミハシの顔合わせだった。
断れると言っていたけれど、この日程を見るにやはり俺に拒否権は無かったようだ。
俺に見とれる小さな婚約者を怖がらせないように笑顔を浮かべる。
五歳とはいえこの国の子どもよりずいぶんとしっかりした体格と王族の印の赤い瞳。
十分に『少年』とは言えそうな見た目の王子だった。
まあ、確かに。
男も女もどちらかと言えばひょろっとしている体格の者が多いイチノ国の人間は「キレイ」と表される事が多いだろう。
寿命が長い分見かけも若いままでいる。
でも俺はナナノ国の男女ともにがっしりとした体躯も好ましいと思う。
じっと王子を見つめ返すと頬が赤く染まるが、目をそらすことは無い。
子ども特有のまじまじとした不躾な視線をそのままぶつけてくる。
彼はふらふらと俺の前に跪き---そんなことをしたらさらに俺との目線は合わなくなるとは思うが、礼儀作法として、かな---俺の手を取った。
あ。
ふんわりと柔らかな熱が伝わる。
それは血液と同じように俺の中を循環していく。
甘いしびれと軽い興奮が俺を襲う。
「魔力」の相性がいい。
このまま、もっと欲しいと口走りそうになるのをこらえる。
相手は五歳の子どもだ。
この熱に心地よさを感じていてもそれ以上の事はわかっていないだろう。
「ナナノ国第五王子ミハシです。よろしくお願いします。……貴方が僕の婚約者になってくれて嬉しい」
凜としたまなざしと共にそう言うと、とった手の甲に唇を落とす。
もっと熱い「魔力」が唇から伝わる。
この魔力がもっと俺に混ざれば、俺はどれだけ強くなれるだろう。
彼が俺を伴侶と選んでくれればきっと幸せだ。
選んでくれなくても、この思い出だけでも俺は当分幸せに生きていけるだろう。
「イチノ国第一王子シズルです。ミハシ様、私こそよろしくお願いいたします」
俺は腰をかがめミハシに視線を合わせた。
少しだけ背筋を伸ばした彼が可愛らしくたくましく見える。
離さない。
そう、お互いの魔力が訴えた気がした。
それから数年経ったある日。
「どうしようかな」
俺はナカノ国の官舎の自室で悩んでいた。
婚約者であるナナノ国の王子ミハシの誕生日の贈り物に、だ。
初めて会って十一年。
それ以来会っていない。
毎年誕生日の祝いの会の招待状は送られてくるが毎回俺はそれを丁寧に断っていた。
イチノ国の第一王子である俺と、ナナノ国の第五王子のミハシの婚約なんてイチノ国の慣習を知っている者にとっては醜聞だろう。
俺はともかく、彼が外れを掴まされたなんて言われてはかわいそうだ。
あくまでも対外的には政略結婚なのだから。
俺はそう思い、できるだけ彼との接触は絶ち、代わりに欠かさず毎年新年と誕生日には記念の贈り物をしている。
そのお礼にと手紙と絵姿が送られてくる。
毎年成長した姿を見るのは俺にとって一年で一番楽しみだ。
初めて会った時はまだ子どもだったが最近ではすっかりナナノ国の他の男と同じ、立派な身体を持つ武士のようだ。
非常に凜々しい青年へ成長していた。
イチノ国の第一王子の傍にいるのに相応しい武官になるのだと厳しい訓練にも耐えているらしい。
新年の贈り物は食べ物。
最初はイチノ国の珍しい名産品を送っていたがナカノ国の機関に文官として勤めてからは各国の珍しい品が手に入るようになったのでそれを送っている。
誕生日には小さな時にはおもちゃや最近では珍しい本や装飾品を贈っていた。
現在悩んでいるのは彼の成人である十八歳の誕生日の贈り物だ。
あと二年あるが、手の込んだものを贈りたければ早めに考えなければならない。
俺はイチノ国の特産品である織物を帯に仕立てて贈ろうと思っていた。
彼の国の正装は丈の長めの上着の腰の位置を帯やひもで留めるものだから、帯は何本あっても困らないだろう。
自分で織りたいがここには織機もないし、素人が手慰みで織るよりやはりそこは手練れの職人に頼むべきだと決め、図案を練り、そこは第一王子の威厳を使いイチノ国一の職人へと依頼をする。
途中経過を何度も確認させてもらい、気になる箇所は気に入るまで修正をしてもらった。
できあがったのは誕生日の一月前で職人には途中のあまりの指示の細かさに投げだそうかと思ったが、できあがりは最高の作品になったので良い仕事をさせてもらったとお礼を言われた。
そして、その年に送られてきた姿絵は俺が贈った帯を召した美丈夫のもので、お礼の手紙には「春になったらあなたを娶りに行く」と書いてあった。
どうやら彼は『初恋』を完遂させるらしい。
これで彼の成人を持って、俺と彼の正式な婚約が決まった事になったが、結婚は彼が二十歳になってからでお願いしたいと後日連絡が来た。
要約すれば俺とすぐに結婚できないことを地団駄踏んで悔しがっているという手紙付きで。
ところで。
弟の第二王子アリクは幼い頃から心の無い子どもだったらしい。
俺はもうその頃は城にはいなかったので、知らされたのはアリクがあの事件を起こした後だった。
いや、俺の力を使うために伝えざるを得なかったのだ。
最初は三歳の頃だったという。
飼っていた小鳥を握りつぶしたらしい。
まだ言葉もはっきりしない中でハクイ様には「餌をあげていたら自分の手をつついたのでいらなくなった」と言ったようだ。
その後も城に迷い込んできた猫の前足を切ったり、小鳥を踏み潰したり。
理由を聞けば痛がる動物の様子が面白かったからだという。
そしてある日とうとうそれは人間に向けられた。自分の嫌いな料理を配膳するという理由で配膳係の右腕を切りつけたのだ。
切り落とすまでは行かなかったが、配膳係の腕は動かなくなってしまった。
気に入らないことに対してすべてを排除するということでは無かったようで、どこで切り替わるかわからないアリクに対して城の使用人達はビクビクとアリクのご機嫌を取って暮らしていたようだ。
そしてあの事件が起こった。
アリクが城の一番奥に封印されていた『魔の素』を解き放ってしまったのだ。
その数は百八体。
気づいた城付きの『魔法使い』達が回収に当たったが取りこぼしたのが十体。
イチノ国のあちこちにばらまかれてしまった。
理由は「キラキラして綺麗だったから」
アリクは俺に匹敵するレベルの魔力の持ち主で、頭もいい。
天才と呼ばれる人間だった。
十歳にして城の奥の迷路や罠を全部解いて『魔の素』をばらまいてしまうほどには。
そうして俺は度々『魔の素』狩りに城へ呼び戻されることになる。
『魔の素』は人に取り付いて人を『トリツカレタモノ』へと変化させる。
『魔の素』は取り付いた人をすぐに変化させるわけでは無い。
何かのきっかけで(大体は人の憎悪だが)変化し、それを『魔法使い』が察知する。それまでは息を潜めているので気づかないのだ。
人からうまく『魔の素』だけを引き剥がせれば良いが、できないと人ごと殺めることになる。
それを行うためには膨大な魔力が必要だが城の『魔法使い』達だけでは足りないので俺が呼ばれる。
いらなくなったとはいえ王子だから『トリツカレタモノ』と直接対峙することは無い。
ただ魔力の補充に使われる。
そして魔力を限界まで放出させて、俺は官舎に戻る。
休息と薬で魔力を回復させていたが官舎の部屋が同じになったミハシと暮らすようになってからは、ミハシから補充をしてもらえるので回復は容易になった。
もちろんこんなお家騒動にミハシを巻き込むわけにはいかないから、彼には原因は告げていないけれど。
時が経ちミハシが十八歳になり、学校を卒業して俺と同じナカノ国の機関での勤務が決まったとき、俺は少しだけ緊張していた。
俺の事がわかるだろうか。
じじいになったと幻滅されないだろうか。
こんな奴との婚約など破棄しておけば良かったと後悔しないだろうか、と。
でもそれは杞憂だった。
新年度初日。
配属式のためにに続々と庁舎に新人が集まってくる。
俺はそれを捌くために呼びつけられていた。
もう十年近くやっている仕事だから慣れたもんだ。
「新しい人たちはもう一つ奥の建物の入り口に名簿が貼ってありますから確認してそれぞれの持ち場に行ってね」
不安げな面持ちの新人達を誘導していると振り向いた一人の新人が呆然と俺を見ていた。
これは。
短髪の黒髪。
筋肉質の立派な体躯。
俺のより頭一つ分ほどでかい。
そして、切れ長の目の奥の赤い瞳。
あの絵姿通りの立派な青年がそこに立っていた。
「シズル、様?」
ああ。
俺は笑い出しそうになった。
五歳の彼もあの時俺に一目惚れをしたんだと感じたが、十八歳の彼もまた再度俺に見惚れていた。
「ナナノ国のミハシ様ですね?お久しぶりです。お待ちしておりました」
笑い出しそうになりながらも俺も目の前の青年を好ましく思ってしまった。
髪を洗い終わると浴槽から引き上げられ、身体も隅々まで洗われる。
そこには性的な動きは無く、あくまでも俺に従順に奉仕していた。
全てを洗うと俺はもう一度浴槽に浸からされ、その間に彼は自分もさっと汗を流す程度に湯を浴び、俺を浴槽から引き上げると清潔な浴布でくるむ。
部屋に戻る頃には彼の魔力で俺の髪の毛も身体もはふわふわと乾かされていて、ただ心地よい温もりだけが残る。
椅子に座らされ、丁寧に髪をとかすと、軽く結わえられてその毛先に唇を落とす。
「……本当は今日まで休みを取ってるんだろう?」
後ろから抱きしめられ、俺はその腕に自分の手の平を重ねた。
「ああ、でも出勤できるなら行きたいんだよね。またいつ呼ばれるかわからないから」
見つかっていない『魔の素』はあと三体。
以前は一年に一体程度だったのがここにきて急に変化を始めている。
熟成してきたのかもしれない。
おかげでミハシにはずいぶん迷惑をかけている。
「午後からではだめか?」
「だってキミは仕事でしょう?」
「夕べのうちに上司には連絡している。午後からで大丈夫だと言われた」
「何王子様特権使ってるのさ」
「違う。この前休日に呼び出されたからそれの振り替えを使えないか聞いただけだ」
「そ」
わがままな年上の婚約者に振り回されているとか噂になったら俺は嫌だからね。
抱きしめていた腕がほどけ、俺の胸元を探り出す。
「夕べ沢山シたんでしょう?……覚えてないけれど」
「夕べは魔力の補充だ。今からはシズルを愛したい」
これだけ魔力がミハシの色になってるんだから多分死ぬほど中に出されたんだと思うんだけど。
それは彼にとっては人命救助だったってわけね。
まあ、確かに今回の『トリツカレタモノ』はやっかいで俺の魔力も本当にギリギリまで使うことになったのだけど。
「夕べ、十分愛してくれたんじゃ無いの?」
「お前が覚えていてくれないなら、それは愛じゃ無い。ただの魔力交換だ」
だよね。
俺はミハシに顔を向けて唇を重ねた。
くちゅり。
舌先が口内に入り込めば、また緩く魔力が流れ込む。
もう身体中ミハシの魔力で満たされている俺にとってはそれは快楽の素でしかない。
媚薬だ。
ミハシの唾液が流し込まれ俺のと混ぜ合わせれば口の端から僅かに漏れ落ちる。
指先でそれを掬い取られ舌先が抜けたかと思うとそのまま指先がねじ込まれる。
口の中の敏感な部分を直接剣を持つ太く硬い指で犯されると、ゆらりと俺の中心も芯を持つ。
俺は俺の中をもて遊ぶその指がミハシ自身の気がして、手を添えて夢中で愛撫した。
舌先を絡め、口を窄めて吸い上げる。
見上げれば堪らないという顔をしている若い婚約者がいる。
ミハシは空いた片方の腕で俺の腰を抱えあげると寝台まで運び横たえた。
「シズル……」
お互いに浴布しかまとってなかったから裸になるのは容易かった。
もうミハシ自身も凶器かと思うくらい上向き立ち上がっている。
若いって凄いなあ。
俺は指から口を離すと身体をあげそれを手に取り口に含んだ。
「あ!」
ミハシは慌てて俺の頭を抑えて離そうとするが俺はしっかり食らいつく。
ミハシは俺からのこういった奉仕は好きではないのだ。
女神にそんな事させたらバチが当たるといつか言っていた。
女神って、俺は男だしね。
体液……はっきり言えば精液だけど……腸壁から取り込むのが一番魔力の取り込みは早いけど俺は口から取り込むのもゆっくりと混じり合う感じがして好きだ。
俺の唾液がミハシの尿道から中に取り込まれてミハシも気持ちいいはずだし。
丁寧に、丁寧に俺は唾液をミハシの鈴口へと刷り込む。
俺の魔力も気持ちいいでしょう?
口の中でまた一回り大きくなったミハシ自身に気づき上目遣いに見ると、「クソっ」というセリフと共に俺の頭を掴み前後に揺さぶり始める。
俺は歯を立てないように気をつけながらその動きに合わせてミハシ自身に舌を絡ませる。
ああ、また大きくなった。
そう思った瞬間熱い魔力の塊が俺の喉奥に打ち付けられた。
その衝撃に俺はびくりと身体を揺らした。
甘美なその味は俺の身体をとろけさせる。
「ふぁ…」
俺はその残滓までをキレイに吸い取ると口から離した。
その硬さは全く衰えていなかったけど。
「シズル…」
ミハシは頭を抱えている。
俺を汚したとでも思っているのか。
額を押さえた手の隙間から照れた表情が見える。
「キミのを味わいたかったんだよ。ごめんね」
チュッと鈴口に口づけを落とすと身体を押し倒され、今度は俺の中心をミハシが口に含んだ。
「あ…」
魔力がじんわりと流され芯になる。
口だけでは無く親指と人差し指で作られた輪で扱かれて体中が疼く。
ミハシの過ぎた魔力は俺にとっては媚薬だから、俺はあっけなくミハシの口で達した。
ゴクリと俺のを飲み込む喉の動きがいやらしく、どくりと鼓動が高鳴る。
ミハシの指が俺の後孔を伝うと、ぬるりとした柔らかな刺激。
内部洗浄と軟化の魔力が使われたみたいだ。
まあ、そんなことをしなくても夕べ散々ミハシを受け入れたらしい俺のそこはまだまだぐずぐずに解けている。
ミハシの指が入り十分に柔らかい事を確認するとミハシは俺の足を持ち上げ片方を肩にかけた。
二、三度、ミハシ自身を擦りあげ強度を上げると、俺の腰を掴み、後孔に当てる。
ぬるりとそれは俺を開き奥へと進む。
圧迫感と充足感と快感とを俺に与えながらミハシは腰を深めていく。
「あ、ああ……」
俺は俺の腰を支える腕を掴み、寝台についている足はピンと張り、思わず足の指を丸め敷布をたぐる。
後孔にミハシの下生えを感じると一度彼は動きを止め、俺の胸の尖りに口を落とす。
舌先で舐められ、かじられ、また与えられる快感に俺の中心が芯を持ち始めると、ミハシは腰を動かし俺の中を擦り始めた。
ミハシ自身のカリの部分がゆっくりと俺の中のしこりを擦り、俺はそれだけで力なく白濁を少しづつ吐き出してしまう。
「も……っと……」
俺は腕で半分自分の顔を隠しながら小さく声に出す。
「何?」
にやりとミハシは口の端を上げて、俺に続きを促した。
「も……っと……激しく……」
「お前の望み通りに」
ぎゅっと腰を掴み直され、強く揺さぶられる。
抽挿が激しくなり、俺は敷布をぎゅっと握る。
「シズル……愛している」
そう言うとミハシは口づけながら腰を振る。
絡まる舌先からも、つながり合う部分からも全てミハシが俺に流れ込む。
俺も。
そう何度応えようと思ったか。
でも俺は応えない。
曖昧な笑みを返すだけだ。
ねえ、ミハシ様。
俺も五歳のキミを愛おしいと思ったし、再会のあの日に見惚れたのです。
でもね。
俺は決めていることがあって。
だから、キミに『愛している』が伝えられなくて。
抽挿が一段と早くなる。
俺の中でぐっとミハシの質量が増した。
ふうふうという声がミハシから聞こえ、ぽたりと汗が一滴俺の腹に落ちる。
「シズル」
名前を呼ばれた瞬間、俺の中でミハシの魔力が弾けた。
「あ……」
なんという多幸感。
俺は一筋の涙を流す。
ごめんね。
アリクをこのままにはしておけない。
『魔の素』を全部回収したら、俺はアリクを……
ぎゅっと俺はミハシに抱きしめられた。
愛してるを返さない事はとっくに気づかれている。
でも俺は気づかないフリをする。
気づいてしまえばもうこの腕から出たくなくなるから。
ずっとここにいたいと思ってしまうから。
だからせめて今だけは。
この場所は俺の帰る場所であって。
でもそれは負では無く暖かなぬくもりであることに気づく。
ああ、また。
自分を抱き枕かと勘違いしているかのようにがっしりと頭を抱き込み、腰に手を回し、なんなら下半身は彼の太い足に挟み込まれている。
わずかに身じろぎ上を向くと、若干幼さの残る寝顔がそこにはあった。
起きているときにはしっかりした青年だと思うが、寝姿はこうも庇護欲が高まる。
「……離して」
俺は少しだけその胸を押し、わずかな隙間を作る。
「駄目だ」
無いと思っていた返事が返され、俺は少し驚いた。
……起きていたのか、起きたのか。
彼はますます俺を抱きしめる力を強くする。
「仕事に行く前に湯浴みをしたいので」
「俺が寝る前にやったから、大丈夫。シズルは綺麗だ」
確かに、寝台の中で裸でふれ合っているということは夕べも俺に魔力の補充を行ってくれたんだと思うが、その残滓は感じられず、石鹸の爽やかな香りがかすかに鼻に届いていた。
「そういう問題じゃ無く。俺が嫌なんだ」
夕べこの部屋への帰宅前、実家で一度湯浴みをしている。
それは、『トリツカレタモノ』の穢れを落とすために。
ナカノ国に穢れを持ち込むことは許されていないから。
湯浴みを終えた俺に侍従長はそのまま泊まるように進言したが俺は聞かずに帰ってきた。
魔力が完全に枯渇していた。
眠れば回復するのはわかっているし、このまま帰宅しても多分そのまま倒れてしまうとは思ったが、魔力の波長が合うものとの補充行為の方が効率が良い。
帰ればそれができる。
俺を安心させ、なんの躊躇も無く俺に魔力を最大限供給してくれる者がいるから。
眠って回復させるには、俺の魔力量であれば三日はかかる。
すでに二日仕事を休んでいるのにこれに追加で三日など、言い出せはしない。
それに俺を待っているであろう、十も年下の婚約者の顔が浮かんだ。
「……じゃあ、一緒に入る」
婚約者、ミハシは渋々という感じで俺から身体を離すとちゅっと額に唇を落とし寝台から立ち上がった。
鍛えられた筋肉、どこもかしこも引き締まり無駄な贅肉のかけらも無い。
あのたくましい十八歳の瑞々しい身体から俺は魔力を補充してもらい、今日も、生きている。
この世界は七つの国と一つの真ん中の国でできている。
イチノ国
ニノ国
サンノ国
……ナナノ国
七つの国はナカノ国を丸く囲み小さな小競り合いを繰り返しながら共存していた。
ナカノ国は『国』というよりは七つの国を統治する機関の意味合いが強い。
剣と魔法の世界。
男二人で入るには若干手狭な浴槽にちょうど良い湯加減のお湯がこんこんと湧き出でている。
地下の水脈から直接くみ上げ、魔力で沸かす。
ナカノ国は水が潤沢な地形だった。
ミハシは浴槽の縁にもたれるように入っており、長い髪をまとめて浴室に入ってきた俺をその身体の前に抱き込んだ。
「あー、シズルが暖かい」
ミハシは俺の腹に腕を回し、俺の肩口に額をこすりつける。
「それは、湯に浸かっているから」
「……夕べも魔力の枯渇で低体温のまま帰宅してきたんだが」
「ああ、それは……ごめんなさい」
夕べ帰宅するのに僅かに残っていた魔力を使ったから、部屋に入った途端倒れ、ほとんど意識の無い俺を確かに暖かな温もりが抱きしめてくれた。
それから重ねた手の平から緩やかに魔力が流し込まれ、その後は経口、そして、性交へと流れ、俺の魔力は完全に彼から補充された。
「今のシズルからは俺の魔力しか感じない」
「……またみんなにからかわれるなあ」
「悪い事はしていない。当たり前の行為だ」
「それはそうなんだけどね」
俺は腹に回された太くたくましい俺の愛しい婚約者の腕をなでた。
魔力の保有量が高い……すなわち高位の魔法使い(これは俗称であり魔法使いという職業はこの世界には無い)は気を抜くと他人の魔力が見える。
俺の普段の魔力色は薄い青だがミハシは濃い朱色で、ミハシに補充してもらえばもちろん俺の青となじむまでは俺の魔力色は朱色が主となる。
俺と、ミハシは婚約者同士だと庁舎の人間は皆知っているので、そんなに色が変わるほど夕べは補充行為をしたんだね、と見た物は生暖かい気持ちになる。
俺の魔力が少ないときは俺に補充されるが、ミハシの魔力が少ないときはもちろん俺の魔力はミハシに流れ込む。
お互いが十分であっても魔力強化を図るためにそういう行為を行う事もある。
その場合は交換行為となる。
もちろん、自分もそうだから誰も口にはしない。
他人の魔力色を許可無く見ることははしたない行為だと学校では教える。
学校に入って一番に習うのは、自己制御だ。
この世界は魔力で動いている。
魔力は体力や精神力に直結していて、日常の道具を動かすのも魔力を使う。
水を汲む、火をつける、そんな些細な事すべてだ。
魔力を使いすぎれば身体は動かなくなり、自分の持っている魔力以上の魔力を使えばそれは死を意味する。
休息すれば回復するが時間はかかる。
一番手っ取り早い回復方法は相性の良い魔力の持ち主に魔力を補充してもらうことだ。
それは接触でも、経口補充でも、性交と似た行為で一番濃い体液を直接体内に取り込んでもいいのだ。
性交と似た、というよりは、ほぼ、そのもの……だけど。
「髪、洗わせて、シズル」
自分が湯船から出ると、ミハシは小さな椅子を持ってきて座り、俺を浴槽に寝かしたまま、まとめた髪の毛をほどいた。
「……自分でやるから、大丈夫」
「俺がやりたい」
「ナナノ国の王子様は髪の毛に偏愛思考をお持ちで?」
くすくすと笑いながら尋ねた俺に
「……シズルのならば」
と、ミハシは生真面目に返す。
彼は俺の髪の毛を丁寧にとかし、たまに口づけながら、石鹸で立てた泡で丁寧に洗っていった。
俺はイチノシズル。
名前の通り、イチノ国の王族で、今はナカノ国の文官をしている。
さすがに今は言われないけれど、学校を卒業し、文官見習いとしてここに来た十年前には聞こえよがしによく言われた。
『見捨てられたイチノ国の第一王子』
好きでナカノ国に来たんだって言っても誰も信じてくれないだろうから、俺はそんな声は無視していた。
婚約者の名はナナノミハシ。
ナナノ国の第五王子だ。
彼が二十歳になれば俺は彼の伴侶としてナナノ国の領地に嫁ぐことが決まっている。
『見捨てられた王子』なんて不名誉な二つ名を囁かれるのにはイチノ国にある王位継承に関しての変な慣習のためだった。
それは、王位継承の資格は母親が生きていること。
要は王妃が存命の場合にその子に王位が継承される。
もし、王妃が亡くなった場合は、その王子が結婚し、子を成すことでそちらに王位継承権が移る。
俺の母、コハクは俺が十歳の時に亡くなった。
病でと聞いたが、前日までぴんぴんしていた。
太陽みたいに明るくて、うるさい位に前向きな思考の人で、王である父は母を溺愛していた。
あんまり父が母を溺愛していたのと、我が国には側室制度がないのでこのまま俺が結婚し、子を成さないとなあ、と考えていたが、俺が十四歳になった時、父がコハクの妹ハクイを正妃に迎えることが決定した。
コハクが太陽ならハクイは月みたいな人で、全体的な雰囲気はさすが姉妹だけあって似てたからまあ、父が選ぶならどうぞ、という感じだった。
それから割と直ぐの俺が十五歳の年に弟アリクが生まれ、俺の持っていた(正確には俺の子供だけど)王位継承権はアリクに移った。
俺は王になりたかった訳ではないし、兄弟として将来王位に就いたアリクの補佐をしたり、ナカノ国にいって大臣になっても面白いかも……なんて思っていたから、父からいきなりナナノ国の王子との婚約の話を聞いたときは驚いた。
イチノ国とナナノ国はその名前の見た目から遠く離れているように感じるが、隣同士の友好国だ。
第一王子以外はお互いに王族が嫁ぎ親戚関係にもある。
イチノ国は木と花と織物の国。
ナナノ国は鉄と岩と武器の国。
隣同士なのにその文化や名産はかなり違う。
違い過ぎて争いは起きないと父は昔笑っていた。
七つの国のうちの一番と二番目に小さな国だったから同盟を結びうまくやっていた。
そんな隣の国の王族と俺との婚姻を、ハクイが正妃になってからは秘密裏に、アリクが生まれたら焦りを伴い。
俺の嫁ぎ先の選定は静かに行われていたようだった。
「ナナノ国へ嫁げと?」
父から一時帰宅の要請をうけ、学校の寄宿舎から戻った俺に父は「ナナノ国の王子と婚約が決まった」と言った。
「ああ、はい」
父はイチノ国一の武将だった。
王だから強いのか強いから王なのか。
ニノ国は血の気の多い国で、うちかサンノ国の国境付近で小競り合いの小さな戦を常に起こしていた。
そんな時には父自ら兵を率い戦地に乗り込み被害を最小限に抑えていた。
強いけど戦争にばかり行くから絶対に母より先に身罷ると思っていたんだけど。
そんな父が申し訳なさそうに言うから俺は一もニも無く頷いた。
「ご命令通りに」
「……命令ではない。拒否しても構わん」
「……でもそうしたらハクイ様が……」
妃の名前を出せば父は苦笑いする。
ハクイ様は俺が結婚をしなければ王位継承権を狙ってくると思っているらしい。
まあ確かに?
ハクイ様が無くなればアリクの王位継承権は白紙だ。
俺か、アリクかの先に生まれた子に継承権は移る。
俺が他国に嫁いでいればその心配はない。
ちなみにこの世界では各国にある神木に成る実を食べれば男女関係なく子を成す事ができる。
「でもナナノ国に私に見合う王子や王女はいましたか?」
「第五王子がいる。今、五歳だ」
「……五歳……」
あまりの幼さに絶句したが、高齢の王族の後添えで嫁げと言われるよりましかと思い直す。
「十歳私の方が上ですが」
「うちとナナノ国では種族が違うのか寿命がうちの方が長い。ちょうど良いのではと向こうが打診してきた」
「はあ……」
可哀想な第五王子。
完全な政略結婚じゃないか。
俺みたいなおじさんと結婚なんて。
まあ、俺もまだ十五歳だけど、彼が成人する頃には立派なおじさんだ。
「条件はある。彼が成人した時点で万が一お前を拒否したら婚約は破棄だ」
「第五王子はこのことを?」
「婚約は知っているが破棄の条件は話さないと言っていた」
「わかりました」
俺はもう一度こくんと頷いた。
「受けるのか?お前にはなんら有利な条件はないんだぞ」
「……少なくとも十三年間は私はハクイ様に命は狙われません」
肩をすくめて俺は父をみた。
父も大きくため息をつく。
「シズル……」
「ハクイ様の心の安泰のためにも、別に私はなんともありません」
俺はハクイ様を好きでも嫌いでもない。
母が生きていた頃は遊びにきてそれなりに俺の事も可愛がってくれたし、正妃になってからは俺は寄宿舎にいるから滅多に城には帰らなくて会うこともないからだ。
アリクが生まれた時に一応顔を見に来たけど、それ以来会ってはいない。
そもそもアリクが生まれていなくても俺が結婚するならそこには俺の意思なんてないんだ。
イチノ国にとって一番有益な結婚をするだけだ。
俺はイチノ国の王子だ。
国益が全てだと幼い頃から教育されてきた。
「キレイだ……」
初めて俺を見た彼……ナナノ国の第五王子ミハシは目をまあるくして呟いた。
父に婚約の事を聞いた明くる日が俺とミハシの顔合わせだった。
断れると言っていたけれど、この日程を見るにやはり俺に拒否権は無かったようだ。
俺に見とれる小さな婚約者を怖がらせないように笑顔を浮かべる。
五歳とはいえこの国の子どもよりずいぶんとしっかりした体格と王族の印の赤い瞳。
十分に『少年』とは言えそうな見た目の王子だった。
まあ、確かに。
男も女もどちらかと言えばひょろっとしている体格の者が多いイチノ国の人間は「キレイ」と表される事が多いだろう。
寿命が長い分見かけも若いままでいる。
でも俺はナナノ国の男女ともにがっしりとした体躯も好ましいと思う。
じっと王子を見つめ返すと頬が赤く染まるが、目をそらすことは無い。
子ども特有のまじまじとした不躾な視線をそのままぶつけてくる。
彼はふらふらと俺の前に跪き---そんなことをしたらさらに俺との目線は合わなくなるとは思うが、礼儀作法として、かな---俺の手を取った。
あ。
ふんわりと柔らかな熱が伝わる。
それは血液と同じように俺の中を循環していく。
甘いしびれと軽い興奮が俺を襲う。
「魔力」の相性がいい。
このまま、もっと欲しいと口走りそうになるのをこらえる。
相手は五歳の子どもだ。
この熱に心地よさを感じていてもそれ以上の事はわかっていないだろう。
「ナナノ国第五王子ミハシです。よろしくお願いします。……貴方が僕の婚約者になってくれて嬉しい」
凜としたまなざしと共にそう言うと、とった手の甲に唇を落とす。
もっと熱い「魔力」が唇から伝わる。
この魔力がもっと俺に混ざれば、俺はどれだけ強くなれるだろう。
彼が俺を伴侶と選んでくれればきっと幸せだ。
選んでくれなくても、この思い出だけでも俺は当分幸せに生きていけるだろう。
「イチノ国第一王子シズルです。ミハシ様、私こそよろしくお願いいたします」
俺は腰をかがめミハシに視線を合わせた。
少しだけ背筋を伸ばした彼が可愛らしくたくましく見える。
離さない。
そう、お互いの魔力が訴えた気がした。
それから数年経ったある日。
「どうしようかな」
俺はナカノ国の官舎の自室で悩んでいた。
婚約者であるナナノ国の王子ミハシの誕生日の贈り物に、だ。
初めて会って十一年。
それ以来会っていない。
毎年誕生日の祝いの会の招待状は送られてくるが毎回俺はそれを丁寧に断っていた。
イチノ国の第一王子である俺と、ナナノ国の第五王子のミハシの婚約なんてイチノ国の慣習を知っている者にとっては醜聞だろう。
俺はともかく、彼が外れを掴まされたなんて言われてはかわいそうだ。
あくまでも対外的には政略結婚なのだから。
俺はそう思い、できるだけ彼との接触は絶ち、代わりに欠かさず毎年新年と誕生日には記念の贈り物をしている。
そのお礼にと手紙と絵姿が送られてくる。
毎年成長した姿を見るのは俺にとって一年で一番楽しみだ。
初めて会った時はまだ子どもだったが最近ではすっかりナナノ国の他の男と同じ、立派な身体を持つ武士のようだ。
非常に凜々しい青年へ成長していた。
イチノ国の第一王子の傍にいるのに相応しい武官になるのだと厳しい訓練にも耐えているらしい。
新年の贈り物は食べ物。
最初はイチノ国の珍しい名産品を送っていたがナカノ国の機関に文官として勤めてからは各国の珍しい品が手に入るようになったのでそれを送っている。
誕生日には小さな時にはおもちゃや最近では珍しい本や装飾品を贈っていた。
現在悩んでいるのは彼の成人である十八歳の誕生日の贈り物だ。
あと二年あるが、手の込んだものを贈りたければ早めに考えなければならない。
俺はイチノ国の特産品である織物を帯に仕立てて贈ろうと思っていた。
彼の国の正装は丈の長めの上着の腰の位置を帯やひもで留めるものだから、帯は何本あっても困らないだろう。
自分で織りたいがここには織機もないし、素人が手慰みで織るよりやはりそこは手練れの職人に頼むべきだと決め、図案を練り、そこは第一王子の威厳を使いイチノ国一の職人へと依頼をする。
途中経過を何度も確認させてもらい、気になる箇所は気に入るまで修正をしてもらった。
できあがったのは誕生日の一月前で職人には途中のあまりの指示の細かさに投げだそうかと思ったが、できあがりは最高の作品になったので良い仕事をさせてもらったとお礼を言われた。
そして、その年に送られてきた姿絵は俺が贈った帯を召した美丈夫のもので、お礼の手紙には「春になったらあなたを娶りに行く」と書いてあった。
どうやら彼は『初恋』を完遂させるらしい。
これで彼の成人を持って、俺と彼の正式な婚約が決まった事になったが、結婚は彼が二十歳になってからでお願いしたいと後日連絡が来た。
要約すれば俺とすぐに結婚できないことを地団駄踏んで悔しがっているという手紙付きで。
ところで。
弟の第二王子アリクは幼い頃から心の無い子どもだったらしい。
俺はもうその頃は城にはいなかったので、知らされたのはアリクがあの事件を起こした後だった。
いや、俺の力を使うために伝えざるを得なかったのだ。
最初は三歳の頃だったという。
飼っていた小鳥を握りつぶしたらしい。
まだ言葉もはっきりしない中でハクイ様には「餌をあげていたら自分の手をつついたのでいらなくなった」と言ったようだ。
その後も城に迷い込んできた猫の前足を切ったり、小鳥を踏み潰したり。
理由を聞けば痛がる動物の様子が面白かったからだという。
そしてある日とうとうそれは人間に向けられた。自分の嫌いな料理を配膳するという理由で配膳係の右腕を切りつけたのだ。
切り落とすまでは行かなかったが、配膳係の腕は動かなくなってしまった。
気に入らないことに対してすべてを排除するということでは無かったようで、どこで切り替わるかわからないアリクに対して城の使用人達はビクビクとアリクのご機嫌を取って暮らしていたようだ。
そしてあの事件が起こった。
アリクが城の一番奥に封印されていた『魔の素』を解き放ってしまったのだ。
その数は百八体。
気づいた城付きの『魔法使い』達が回収に当たったが取りこぼしたのが十体。
イチノ国のあちこちにばらまかれてしまった。
理由は「キラキラして綺麗だったから」
アリクは俺に匹敵するレベルの魔力の持ち主で、頭もいい。
天才と呼ばれる人間だった。
十歳にして城の奥の迷路や罠を全部解いて『魔の素』をばらまいてしまうほどには。
そうして俺は度々『魔の素』狩りに城へ呼び戻されることになる。
『魔の素』は人に取り付いて人を『トリツカレタモノ』へと変化させる。
『魔の素』は取り付いた人をすぐに変化させるわけでは無い。
何かのきっかけで(大体は人の憎悪だが)変化し、それを『魔法使い』が察知する。それまでは息を潜めているので気づかないのだ。
人からうまく『魔の素』だけを引き剥がせれば良いが、できないと人ごと殺めることになる。
それを行うためには膨大な魔力が必要だが城の『魔法使い』達だけでは足りないので俺が呼ばれる。
いらなくなったとはいえ王子だから『トリツカレタモノ』と直接対峙することは無い。
ただ魔力の補充に使われる。
そして魔力を限界まで放出させて、俺は官舎に戻る。
休息と薬で魔力を回復させていたが官舎の部屋が同じになったミハシと暮らすようになってからは、ミハシから補充をしてもらえるので回復は容易になった。
もちろんこんなお家騒動にミハシを巻き込むわけにはいかないから、彼には原因は告げていないけれど。
時が経ちミハシが十八歳になり、学校を卒業して俺と同じナカノ国の機関での勤務が決まったとき、俺は少しだけ緊張していた。
俺の事がわかるだろうか。
じじいになったと幻滅されないだろうか。
こんな奴との婚約など破棄しておけば良かったと後悔しないだろうか、と。
でもそれは杞憂だった。
新年度初日。
配属式のためにに続々と庁舎に新人が集まってくる。
俺はそれを捌くために呼びつけられていた。
もう十年近くやっている仕事だから慣れたもんだ。
「新しい人たちはもう一つ奥の建物の入り口に名簿が貼ってありますから確認してそれぞれの持ち場に行ってね」
不安げな面持ちの新人達を誘導していると振り向いた一人の新人が呆然と俺を見ていた。
これは。
短髪の黒髪。
筋肉質の立派な体躯。
俺のより頭一つ分ほどでかい。
そして、切れ長の目の奥の赤い瞳。
あの絵姿通りの立派な青年がそこに立っていた。
「シズル、様?」
ああ。
俺は笑い出しそうになった。
五歳の彼もあの時俺に一目惚れをしたんだと感じたが、十八歳の彼もまた再度俺に見惚れていた。
「ナナノ国のミハシ様ですね?お久しぶりです。お待ちしておりました」
笑い出しそうになりながらも俺も目の前の青年を好ましく思ってしまった。
髪を洗い終わると浴槽から引き上げられ、身体も隅々まで洗われる。
そこには性的な動きは無く、あくまでも俺に従順に奉仕していた。
全てを洗うと俺はもう一度浴槽に浸からされ、その間に彼は自分もさっと汗を流す程度に湯を浴び、俺を浴槽から引き上げると清潔な浴布でくるむ。
部屋に戻る頃には彼の魔力で俺の髪の毛も身体もはふわふわと乾かされていて、ただ心地よい温もりだけが残る。
椅子に座らされ、丁寧に髪をとかすと、軽く結わえられてその毛先に唇を落とす。
「……本当は今日まで休みを取ってるんだろう?」
後ろから抱きしめられ、俺はその腕に自分の手の平を重ねた。
「ああ、でも出勤できるなら行きたいんだよね。またいつ呼ばれるかわからないから」
見つかっていない『魔の素』はあと三体。
以前は一年に一体程度だったのがここにきて急に変化を始めている。
熟成してきたのかもしれない。
おかげでミハシにはずいぶん迷惑をかけている。
「午後からではだめか?」
「だってキミは仕事でしょう?」
「夕べのうちに上司には連絡している。午後からで大丈夫だと言われた」
「何王子様特権使ってるのさ」
「違う。この前休日に呼び出されたからそれの振り替えを使えないか聞いただけだ」
「そ」
わがままな年上の婚約者に振り回されているとか噂になったら俺は嫌だからね。
抱きしめていた腕がほどけ、俺の胸元を探り出す。
「夕べ沢山シたんでしょう?……覚えてないけれど」
「夕べは魔力の補充だ。今からはシズルを愛したい」
これだけ魔力がミハシの色になってるんだから多分死ぬほど中に出されたんだと思うんだけど。
それは彼にとっては人命救助だったってわけね。
まあ、確かに今回の『トリツカレタモノ』はやっかいで俺の魔力も本当にギリギリまで使うことになったのだけど。
「夕べ、十分愛してくれたんじゃ無いの?」
「お前が覚えていてくれないなら、それは愛じゃ無い。ただの魔力交換だ」
だよね。
俺はミハシに顔を向けて唇を重ねた。
くちゅり。
舌先が口内に入り込めば、また緩く魔力が流れ込む。
もう身体中ミハシの魔力で満たされている俺にとってはそれは快楽の素でしかない。
媚薬だ。
ミハシの唾液が流し込まれ俺のと混ぜ合わせれば口の端から僅かに漏れ落ちる。
指先でそれを掬い取られ舌先が抜けたかと思うとそのまま指先がねじ込まれる。
口の中の敏感な部分を直接剣を持つ太く硬い指で犯されると、ゆらりと俺の中心も芯を持つ。
俺は俺の中をもて遊ぶその指がミハシ自身の気がして、手を添えて夢中で愛撫した。
舌先を絡め、口を窄めて吸い上げる。
見上げれば堪らないという顔をしている若い婚約者がいる。
ミハシは空いた片方の腕で俺の腰を抱えあげると寝台まで運び横たえた。
「シズル……」
お互いに浴布しかまとってなかったから裸になるのは容易かった。
もうミハシ自身も凶器かと思うくらい上向き立ち上がっている。
若いって凄いなあ。
俺は指から口を離すと身体をあげそれを手に取り口に含んだ。
「あ!」
ミハシは慌てて俺の頭を抑えて離そうとするが俺はしっかり食らいつく。
ミハシは俺からのこういった奉仕は好きではないのだ。
女神にそんな事させたらバチが当たるといつか言っていた。
女神って、俺は男だしね。
体液……はっきり言えば精液だけど……腸壁から取り込むのが一番魔力の取り込みは早いけど俺は口から取り込むのもゆっくりと混じり合う感じがして好きだ。
俺の唾液がミハシの尿道から中に取り込まれてミハシも気持ちいいはずだし。
丁寧に、丁寧に俺は唾液をミハシの鈴口へと刷り込む。
俺の魔力も気持ちいいでしょう?
口の中でまた一回り大きくなったミハシ自身に気づき上目遣いに見ると、「クソっ」というセリフと共に俺の頭を掴み前後に揺さぶり始める。
俺は歯を立てないように気をつけながらその動きに合わせてミハシ自身に舌を絡ませる。
ああ、また大きくなった。
そう思った瞬間熱い魔力の塊が俺の喉奥に打ち付けられた。
その衝撃に俺はびくりと身体を揺らした。
甘美なその味は俺の身体をとろけさせる。
「ふぁ…」
俺はその残滓までをキレイに吸い取ると口から離した。
その硬さは全く衰えていなかったけど。
「シズル…」
ミハシは頭を抱えている。
俺を汚したとでも思っているのか。
額を押さえた手の隙間から照れた表情が見える。
「キミのを味わいたかったんだよ。ごめんね」
チュッと鈴口に口づけを落とすと身体を押し倒され、今度は俺の中心をミハシが口に含んだ。
「あ…」
魔力がじんわりと流され芯になる。
口だけでは無く親指と人差し指で作られた輪で扱かれて体中が疼く。
ミハシの過ぎた魔力は俺にとっては媚薬だから、俺はあっけなくミハシの口で達した。
ゴクリと俺のを飲み込む喉の動きがいやらしく、どくりと鼓動が高鳴る。
ミハシの指が俺の後孔を伝うと、ぬるりとした柔らかな刺激。
内部洗浄と軟化の魔力が使われたみたいだ。
まあ、そんなことをしなくても夕べ散々ミハシを受け入れたらしい俺のそこはまだまだぐずぐずに解けている。
ミハシの指が入り十分に柔らかい事を確認するとミハシは俺の足を持ち上げ片方を肩にかけた。
二、三度、ミハシ自身を擦りあげ強度を上げると、俺の腰を掴み、後孔に当てる。
ぬるりとそれは俺を開き奥へと進む。
圧迫感と充足感と快感とを俺に与えながらミハシは腰を深めていく。
「あ、ああ……」
俺は俺の腰を支える腕を掴み、寝台についている足はピンと張り、思わず足の指を丸め敷布をたぐる。
後孔にミハシの下生えを感じると一度彼は動きを止め、俺の胸の尖りに口を落とす。
舌先で舐められ、かじられ、また与えられる快感に俺の中心が芯を持ち始めると、ミハシは腰を動かし俺の中を擦り始めた。
ミハシ自身のカリの部分がゆっくりと俺の中のしこりを擦り、俺はそれだけで力なく白濁を少しづつ吐き出してしまう。
「も……っと……」
俺は腕で半分自分の顔を隠しながら小さく声に出す。
「何?」
にやりとミハシは口の端を上げて、俺に続きを促した。
「も……っと……激しく……」
「お前の望み通りに」
ぎゅっと腰を掴み直され、強く揺さぶられる。
抽挿が激しくなり、俺は敷布をぎゅっと握る。
「シズル……愛している」
そう言うとミハシは口づけながら腰を振る。
絡まる舌先からも、つながり合う部分からも全てミハシが俺に流れ込む。
俺も。
そう何度応えようと思ったか。
でも俺は応えない。
曖昧な笑みを返すだけだ。
ねえ、ミハシ様。
俺も五歳のキミを愛おしいと思ったし、再会のあの日に見惚れたのです。
でもね。
俺は決めていることがあって。
だから、キミに『愛している』が伝えられなくて。
抽挿が一段と早くなる。
俺の中でぐっとミハシの質量が増した。
ふうふうという声がミハシから聞こえ、ぽたりと汗が一滴俺の腹に落ちる。
「シズル」
名前を呼ばれた瞬間、俺の中でミハシの魔力が弾けた。
「あ……」
なんという多幸感。
俺は一筋の涙を流す。
ごめんね。
アリクをこのままにはしておけない。
『魔の素』を全部回収したら、俺はアリクを……
ぎゅっと俺はミハシに抱きしめられた。
愛してるを返さない事はとっくに気づかれている。
でも俺は気づかないフリをする。
気づいてしまえばもうこの腕から出たくなくなるから。
ずっとここにいたいと思ってしまうから。
だからせめて今だけは。
この場所は俺の帰る場所であって。
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