いきなり「神子様」なんて呼ばれても

いちる

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「なんで俺、あなたにご飯を食べさせて貰っているんでしょうか?」
「その手じゃ、食べられないでしょう?」
召喚されて一週間。
俺の隣には白いローブを着た『医者』リユイがスプーンに朝飯のかゆを乗せた状態でスタンバイしている。
あの召喚の儀式の時に俺を冷たく見ていた奴だ。
黒髪に、王様と同じ翠玉の瞳。
瞳の色さえ無ければ醤油顔の日本人に近い顔立ち。
年は30歳ちょっと手前くらいかな?
こちらはアウトローな洋画の主人公をしてそうなハンサム顔。
王様の『ご学友』だと言っていたから、二人は同じ年なんだと思う。

まあ、確かに。

俺の手は皮でできた手かせで両手をつながれていて、その手はテーブルの脚を一度くぐっている。
要はテーブルの天板を外さなければ俺の手は抜けない。
ちなみに脚にも枷がついていてよとよちと歩けるくらい、走るなんてとんでもないという長さの鎖で両足をつながれている。
これの端っこはベッドの脚にくくりつけられていて、この部屋の中をぎりぎり歩き回れる位の長さになっている。
窓には近づけない。
ドアも。

これはこの一週間に3回、俺が自殺しようとしたからだ。



一回目の自殺未遂の話をきいて。

王様の腕の中で気絶して、あれから俺はふかふかの布団の中で目が覚めた。
俺が身じろぎするとベッドの脇に置かれた簡易な机について何かモノを書いていた白いローブの男が顔を向けた。
「気づきましたか」
「あ、はい」
「水はいりますか?…誰かアレック様を呼んで下さい」
後半は俺じゃなく誰かに向かって。
「水…下さい」
俺は身体を起こした。
すかさずその男が支え、隙間にクッションを差し込んでくれて倒れないようにする。
ベッドヘッドに置かれていた水差しから水をコップに半分位をついで俺に渡す。
「ありがとうございます」
「いえ、ご気分はいかがですか?」
頭痛も吐き気もない。
少々身体がダルいけどこれは昼寝をし過ぎた時に似ている。
「大丈夫、です」
一気に飲んだコップを返しながら俺は多分、あんただれだよって顔で見ていたんだと思う。
男は「ああ」という顔をして口を開いた。

「王宮医師団のリユイ・ミューです。あなたの主治医を命じられました」
「はあ」

端正な顔でリユイは自己紹介をしてくれた。
主治医って、俺、どこか悪いっけ?

「これから神子様にはアレックス様のお子を孕んでいただくための準備や儀式が必要ですから」
「…お子を、孕む?」
「はい。それが神子様の役割です」
「そ…」

それって、何?ってきこうとしたら、少々乱暴な感じでドアが開いた。
「神子殿、目が覚められましたか」
すっごく嬉しそうな声をあげながらこの前俺のファーストキスを奪った男性…アレックス国王が入ってきた。
「一昼夜目が覚めなかったのでたいそう心配しておりました。よかった、目が覚めて」
そして、俺の右手を取ると手の甲にちゅっと唇をおとした。
「私はアレクサンダー・サイオン。このサイオン国の王です」
「…はあ」
「神子がこのように愛らしい方でよかった。艶やかな黒髪、こぼれ落ちるような濃い茶の瞳…華奢な身体。私は一目見て貴方を気に入りました」
いや、王様。
俺、どちらかと言えば『平凡』カテゴリーなんだけどな。
華奢というよりはここんとこ受験でまともに運動していないからただの貧弱なんだけどな。

「…はあ」
にこにこと笑顔で俺に迫ってくる王様。
なにがなんだか、わかっていない、俺。
「貴方との子ならきっと可愛らしい子が生まれるでしょう。楽しみです」
子?
このイケメン何を言ってるんだ。
俺は男で子どもを産む機能は無いんだけど。

俺は後退はできない。
グイグイくる王様から身を守りたくてもクッションに阻まれている。
でも悪意は感じられないからなあ・・・と困っているとリユイが助け船を出してくれた。
「アレックス様、神子は目覚められたばかりで何も知りません。いきなりで驚かれているようですよ」
「ああ、そうか、すまなかった」
そういうと王様はちょっとしょんぼりした顔をして俺から少し離れて、リユイが準備したベッド脇の椅子に腰掛けた。
なんだか大型犬が待てをされているみたいで、ちょっと可愛い。

その後俺は王様とリユイから俺の立場とやること今後の事を説明された。
立場はさっき話したとおり。
俺は『神子』として召喚された。
やることは王様の子を孕むこと。少なくとも三人。通常は神殿の指示で王宮医師団と手を組み、国民の皆さんの治療に当たること。
そして。

「帰れるんですか?」
「もちろん。希望をすれば、ね」
王様は優しく説明してくれた。
過去にも何人かの神子や聖女は帰った記録がある、魔術団も(この前黒のローブをきていた集団は魔術を司る部署の人たちだったみたい)できると保証している。
ただし、子を三人は成してからの帰国(?)になるので、すぐにというわけにはいかない。

これからは子を成すための儀式がある。
一週間後(自分でそう聞き取っただけだから、この世界と元の世界との時間とかの概念が同じかどうかは不明)その儀式を行う。
それが終わったら約一月後、交配の儀式を行いそこで俺は種付けされるらしい。
交配って俺は植物かよ。

「はあ…」
俺は目が覚めてから何度目かのため息だか返事だかわからないような声を出した。

ラノベでの知識がなかったら俺は混乱していたかもしれないけれど、若干の知識があって助かった。そしてどの異世界も同じだったように、全ては一方的。俺の、『神子』側の都合なんて考えてもくれていない。
帰すと言ってる、いいだろう?
と言ってるけど、それって下手したら5年とか10年後だよね?
俺の大学合格は…もう無効になってるよ…な…。
人は失踪して7年たつと、届け出さえすれば死亡したとして取り扱いされる。
戻ったら死んでることもあり得ないことも無いわけで。
しかも男の身で3人も出産させられるなんて、元の世界に戻っても今まで通り暮らせるのか。

しかも、しかも。
王様には正妃様がいらっしゃる…
幼なじみで非常に仲睦まじいらしい。
神子の絡みもありお子はまだいらっしゃらないようだが。

『聖女』なら正妃になる道もあるけど、『神子』にはない。
本当にただ『王族と神子』の血を交配させたいだけらしい。
子どもを産み終わったら帰っても良いし、そのままここにいて治療院や医師団の手伝いをしても良いし、ただ、だれかと結婚するとかは駄目らしい。

だって神子との子を成して良いのは王族だけだから。

なんだよそれって。
使い捨て?
やり逃げ?

俺の今までの努力や、これからの俺の未来を全部この縁もゆかりもない国に捧げるの?
全く等価交換じゃないし。

話を聞き終わると俺はそのままずるずるとまた上掛けの隙間に身体を滑り込ませてリユイと王様に背を向けた。
「…神子、また来る」
布団の隙間から出ていた俺の後頭部にちゅっと唇を落として、王様は出て行ったようだ。
不条理な出来事に俺の心臓はバクバクしていて、落ち着くにはどうしたらいいだろうと考えていたけれど、疲れているのか、この世界になじんでいないのか、俺は睡魔に襲われて。
リユイはそのままそこで仕事をしていたようだけど、俺はうとうと眠ってしまったようだった。

気づけば夜でランプの明かりだけが頼りになっていた。
そんなに明るい灯ではないので窓から入る月明かりも視界を助ける頼りのようだ。
サイドテーブルには軽めの食事が置いてある。
食事をさせるために無理には起こさなかったのか。

俺はそれを横目に見て、ふらりと立ち上がった。
大きな窓を開けてバルコニーに出る。
下を見るとこの部屋はビルの三階位の位置にあるようだった。
見上げればそこに瞬くはずの星は一個も見えなくて、代わりに月が二つあった。

ああ、やっぱり異世界なんだ、父さんやゴローはいない世界なんだなあ…と思ったら、悲しくなってしまい。

俺はそのまま眼下に身を放った。
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