いきなり「神子様」なんて呼ばれても

いちる

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【番外編】貴方の願いが叶う頃

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「そうめん?」
「そうです。今日の夕飯はそうめんですね」
授業が終わってリユイの職場のスーパーに寄ればすでにリユイは夕飯の買い物が済んでいて、出入り口そばに置いてあるベンチに腰をかけて俺を待ってくれていた。
都内に程なく近い街が俺たちが住む街。
駅前にスーパーも予備校も市の施設もそろっていて、そこから徒歩十分くらいが俺たちの家。
生活圏は狭い。

今日は朝から雨だ。
店から出るときもリユイは少しだけ空を見て、「残念ですね」と呟いた。
なんでだろう?

「あと、これ」
家に着きエコバックからリユイが取り出したのは『半額』シールが貼られた『七夕セット』だった。
「あ!」
「おもちゃ売り場の主任が、もう売れないから半額にするっていうので…」
おもちゃの笹とちょっとした飾りと願いを書く短冊が入っている。
「そっか、今日七夕か」
そうか、どうりでリユイが天気を気にしていたんだ。
雨が降ったら織り姫と彦星、会えないもんな。

「七夕にはそうめんを食べるんだと、店内の表示に書いてありましたので、今日はそうめんです」
「そうなの?俺、そんなの初めてきいたよ」
あれか。
恵方巻きが夕飯一食メニューを考えなくてもよいと世の中の主婦に受けたように、なんかそうめんメーカーの策略なんだろうか。

ウーウル先生に聞いてみると中国の言い伝えで7月7日に亡くなった帝の子どもが疫病を流行らせたため、帝の子どもが好きだった「索餅」をお供えしたところ、疫病の流行が治まった…ということで時代が変わりそうめんを食べるようになったらしい。
ああ、なんだか、今のご時世に流行りそうだよね。
疫病退散の力があるなら。
あとは盛り付け方で天の川に見えるとか、織り糸に見えるから女の子の裁縫の腕が上がるように食べたとか、色々。
まあ、やっぱり恵方巻きやバレンタインのチョコレートと同じ匂いがするけれど…世の中の夕飯のメニューを考える人が一回考えなくて済むならそれでいいかと思う。

「待ってる間に飾ってください。笹」
すっと、首の長い細身の花瓶が渡された。
帰ってきてから三ヶ月くらい。
すっかり家の事をやってくれるリユイ。なんだか、リユイは俺よりこの家の事詳しい気がする。
俺、花瓶がどこに置いてあるかなんて知らないもん。
あっちの世界では貴族で、エリート医師だったので、なんだか家の事をやって貰うのは悪い気がするけど、リユイは「やれる人がやればいいんです。私は楽しいからやってるだけです」と言って確かに苦もなさそうにやってくれる。
父さんもすごく感謝していて最初はリユイに対してどんな態度を取ればいいのかわからなかった様だけど、ちょっと年下の弟のようだといって最近は気軽に接している。
いや、俺の恋人なんだから息子だろ?と思うけどなあ。

「リユイも書く?お願い事」
「そうですね」

何願おうかなーって、ダイニングテーブルについてペンを回しながら考える。
取りあえず来年の受験合格かなあ…あとはリユイ…いや、みんなと楽しく過ごせますように、とか?リユイの個人名で書くと父さんすねそうだし。
父さんと、リユイとゴローと四人で。
あ、あと、変な召喚に巻き込まれませんように、とか?

何枚か書いて、あとはリユイと父さんにも書いて貰おうと残りの短冊をおく。
代わりに笹に飾りを付ける。
もしゃもしゃした感じのやつとか、しゅっとした感じのやつとか。
そうこうしているとリユイが、俺の前の椅子に座った。
「夕飯できたの?」
「ええ、後は朝霞さんが帰宅してから仕上げます」
「そっか、じゃあ、リユイもなんか、書きなよ」
はい、っとペンと短冊を渡す。
リユイは少し考えた後、俺には読めない文字で何かを書いた。
いや、つい最近まで読めたはずの文字なのに、今はちっとも読めない!
「あっちの世界の文字で書いたら、神様が読めないじゃん。というか、俺、読めないのか…」
なんとなくがっかりする。
当たり前だけど、治癒能力も無いし、なんかこう、あっちの世界に居たのは夢だったんじゃ無かろうかと思う時もある。
リユイがいるからそんなことは無いんだけど。
「仕方ないです。神子様もあちらの世界でこちらの文字でたまに書き付けられていましたが、私たちには読めませんでしたので」
「…神子様じゃなくて、カイ」
「ああ、失礼しました」
俺を『神子様』と呼ぶ癖はなかなか直らないらしくて、たまにそう呼ばれる。
いや、もしかしたら心の中ではいつもそう呼んでいるのかもしれない。

「で、なんて書いたのさ」
「…教えません」
「なんで」
「教えるくらいなら、最初からこちらの文字で書いています」
「…だね!」
ち、リユイの意地悪。
教えてくれても良いじゃ無いか。
…それとも、本当は「あちらの世界に帰りたい」とか書いてるんじゃ無かろうか。
俺と一緒に勢いでこっちに来たのは良いけど、すごく後悔しているとか…

うーんと眉間に皺を寄せた俺の頭をリユイはぽんぽんと易しく撫でた。
「み…カイにとって悪いことなんて書いてません。ただ、自分のエゴイズムぶりが酷くてとても朝霞さんやカイに見せられないだけです」
「なんだよ、それ」
「我ながらこんなに醜い人間だったかと」
はあ、とふざけたようにため息を付くからそれ以上は追求できなくなった。
「…もう一枚、今度は読めるのを書いてよ」
「はい」
短冊を受け取って、リユイはまた少し考えた。
と、思いついたようにペンを動かす。
「…あ、間違えた」
「え?」
「でも、まあ、あとの分は朝霞さんに取っておきたいですもんね。書き直します」
そういって渡された短冊は『世界征服』の『征服』が二重線で消されて『平和』になっていた。
…絶対わざとだな。

<リユイ視点>

相変わらず、雛のように、子猫のように私にまとわりついて眠る神子様を起こさないように私はベッドから降りた。
今日は平日なのでセックスはしていない。
キスして抱きしめていると安心したように神子様は眠る。

水を貰おうと階下のキッチンに降りる。
冷蔵庫のペットボトルからコップに水を注ぎ、一気に飲み干した。
キッチンカウンターの上にはおもちゃの笹が少し重そうに短冊を纏って揺れている。

一枚だけ、神子様にも朝霞さんにも読めない文字で書いてある短冊は私の酷い願いが書いてある。
誰か達の願いというのは同時に叶うことはない。
例えば、戦争をしている国が双方お互いに勝利を願っても、勝敗が付くか、引き分けるかだ。
どちらも勝つなんてあり得ない。
だから、私の願いを叶えるのは、神子様にとってあり得ない事であるから教えられない。
けれどもそれは私には切望する願いであって…

『神子様との子が欲しい』

私と神子様の子はアレックスに取り上げられてしまった。
いや、殺されなかっただけでもましと言える。
神子様は産んだお子様達に二度と会うことは許されなかったが私はちょくちょくお見かけしていた。
第二王子は日に日に神子様に似てきて、アレックスはそれはそれは溺愛していた。

あの時、神子様の中の実は私の子種を飲み込み喜んでいたのだ。
だから確実に第二王子は私と神子様の子だ。
しかし、そんなこと言えるはずも無く・・・

だから、叶うなら。
今度こそ、私と神子様の子が欲しい。

叶うはずも無い、愚かな願いを私は胸に秘めている。

笹の葉だけが、その思いを受け止めていた。
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