いきなり「神子様」なんて呼ばれても

いちる

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【番外編】スイカ割り

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【前書き】 
 ご無沙汰しています。
 アンダルシュさんのツイッター企画に参加したくて書きました。
 相変わらずラブラブしていますが、今回、リユイの(若干の)言葉責め、あとぬるい結腸責め表現がございます。
 苦手な方は読まないでください。 
 時系列としては、七夕のあと、満月よりも前ですね。
 テーマが【スイカ割り】だったので夏がいいかなーと思ったので。
 私自身がこの子達の二次創作のつもりで書いていますので、若干時系列にずれがあったらすみません
 ではお楽しみ頂ければ幸いです。

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 二千九百八十円

 スイカに付いている値札の前で朝霞カイは佇んでいた。

 八つ切りが三百九十八円だから、二千九百八十円は高くはない。
 けれど、二千九百八十円は朝霞家二日分の食費だ。
 しかも、消費税が付けば三千円超えるし。

 逡巡していると、後ろから声をかけられた。

「カイ?」

 振り向けば、リユイが眉間に皺を寄せて立っていた。
「…メッセージ送ったけど既読にならないからどこにいるのかと」 
「ああ、ごめん!西瓜と睨めっこしてた」
「睨めっこ?」

 実は今日は模試だったのだ。
 異世界から帰って約三ヶ月。
 夏の始まりは受験戦争の本格的開始を意味する。
 三年のブランクをなんとか三ヶ月で追いつかせたつもりのカイだったが、思ったより解答出来ず少しイラついた。
 勉強しなかった自分のせいだ。
 したつもりだったが足りなかった。
 思ったより出題傾向が変わっていて太刀打ち出来なかったのだ。
 けれどそもそもせっかく受かった大学を諦める羽目になったのは…

 自分の、男にしては細いと思う手首に目がいく。
 今はない、けれども三年間ほとんど外される事の無かった枷を思い出す。

「カイ?」
「ああ、ごめん」

 予備校の帰りにリユイが勤務するスーパーに寄って一緒に夕飯の食材を買って帰るのが日課。
 少し先にカイが店に着くので「〇〇売り場にいるよ」と連絡して待ちあわせるのが常だったが、今日は忘れていた。
 店の入り口に積まれていた西瓜に気を取られた。

 あ~
 割りたい!
 このむしゃくしゃをスイカにぶつけたい!
 スイカ割りしたい!

 と先程からカイは売り場のスイカを睨みつけているのだった。

「スイカ、食べたいんですか?」
「…違う。割りたい」

 カイの視線がカットされたスイカではなく丸い方に固定されているのに気づきリユイは訊ねた。
 食べるなら今日のデザートにカットされた物を買って行けばいいと思ったのだ。
 しかし、返ってきた回答は、割りたい、と。
 リユイは頭をひねる。

「割るんですか?」
「そう、日本には、いや、この世界にはスイカ割りという文化があって、みんなで夏休みに海やキャンプ場で割って楽しむんだよ」
「どうやって?」
「目隠しして、手に持った棒で割るの」
 小学生の頃、近所の子供会のメンバーで日帰りのキャンプに行ってスイカ割りをしたのを思い出す。
 なかなか割れなかったけれど、割れたら割れたでぐちゃぐちゃになって、食べる部分が少なくなって皆でゲラゲラ笑いながら分け合ったことを思い出す。
「…目隠ししたら見えないではないですか?」
「…ゲームなの。割れなくて空振りしたりするのを皆で笑ったり楽しんだりするの」
 理解出来ていないようなリユイの口ぶりに少しイライラする。
「なるほど。ちょっと理解が出来ましたが…カイは楽しみたいのですか?」
「ちょっと違う」
「では…」
 続けようとしたリユイの言葉を遮る。
「もう、いい!」

 ああ。
 八つ当たりだ。

 と、カイは声を荒立てた事を後悔した。
 しかも店先で。
 リユイの勤め先なのに。
 変に思われたらどうしようと辺りを見回したけれどカイ達に視線を向けている客はいなかった。

 ホッとしていると、リユイがそっと手を取り指を絡めてくる。
「今日はこのまま帰りましょう」
「え?買い物は?」
「どうとでもなりますよ。冷凍しているカレーもありますし、この前の七夕の残りの素麺もあります」
「…素麺にカレー?」
「朝霞さんがいいなら。私にとってはカイのご機嫌の方が大事ですからね」
「ごめん」
 カイは俯くと小さく呟く。二人は手を繋いだまま、帰路についた。


 徒歩十分程度歩くと自宅に着く。
 その間二人は無言だった。
 家に着き、蒸し暑いリビングのエアコンを入れた所で、カイがリユイに抱きつき、ソファになだれ込んだ。
 唇を強引に押しつけると、リユイの中を貪る。
「カ……カイ……?」
 戸惑いながらもそれに応えつつ、体勢を整え、カイを腕の中に納めソファに押し倒す。
「ん……はあ……」
 カイが甘い声を漏らし始めれば、そっと抱きしめ唇を離した。
「どうしたんですか?」
「リユイ、えっちしよう?」
「はい?」
 ねえ、とばかりにカイはリユイのシャツのボタンに手を掛け、一つ一つ外していく。
 開いた隙間に顔を近づけ、ぺろりと首筋から、鎖骨、胸元へと舌を這わせる。
「ここで、ですか?」
 カイに好きに愛撫させながら少し困ったように眉を動かす。
「うん。リユイが欲しいんだ」
「ここでは……朝霞さんが帰宅されたとき、面倒です」
 カイの父親の朝霞の帰宅は二十時近い。
 まだ二時間以上あるのでやろうと思えばセックスの一回位は問題は無い。しかし、ここにはローションやコンドームの準備はないし、終わった後の後片付けもソファを汚したりすれば面倒になる。
「何、その、冷静なの、腹立つ。若い、年下の、可愛い、恋人が、誘ってるのに」
 単語を一つ一つ区切って強調するかのようないい方に、本当に可愛い、と心の中で思うが、口には出さなかった。
 何かカイは機嫌が悪い。
 スイカのせいかわからないが。
 こういうときにからかうような言動は避けなければまた機嫌が悪化する。

 カイは滅多に機嫌を悪くする事はない。
    飄々と物事を流してしまう事が多いからだ。
    流せなかった時に対処の方法が分からず、たまに突拍子のない行動にでる。
    それが異世界で死にたがった理由だろう。
    だから機嫌の悪いカイは珍しい。

「部屋へ行きましょう。カイ。せっかくの、若い、年下の、可愛い、恋人が誘ってくれている大切な時間を、『朝霞さんが帰ってきたらどうしよう』なんてヒヤヒヤしながら過ごしたくありませんから」
「……それはそれでスリルがいい調味料になるかもよ?」
 仕方ないなあと言う顔をしてカイは愛撫を止め、リユイの首に手を回す。
 そのまま背中に腕をいれ、横向きに抱きかかえた。

「リユイにこうやって抱きかかえられるの、最初はめちゃくちゃいやだったんだよね」
 危なげも無く、トントンと二階への階段を上がる途中、カイは思い出しながらふふっと笑う。
「どうしてですか?」
「恥ずかしいじゃん。高校卒業したばかりの男が、抱っこされてさ」
「いいのでは無いですか。私はあの時間は至福でしたよ。神子様がいつも私にぎゅっと捕まってくださってお可愛らしかったですし」
「だって……今みたいに抱きつけないから、どうしてもリユイのローブの首元を握るしかなかったんだから」

 カイの両手はいつも枷で繋がれていた。
 治癒の仕事中は少しその両手を繋ぐ鎖が長くなることはあっても基本はほとんど使えないような短さの鎖で繋がれていた。
 その手で柵を乗り越えて飛び降りることのないよう、カトラリーで自殺を図ることのないよう……

「すみません。でも、私も、陛下も、貴方を亡くすことはできなかったので。死にたがりの神子様を」
「……それも、黒歴史」
 ふうっと、カイはリユイの腕の中でため息を付いた。

 リユイの部屋のドアを開ければ、締め切っていた昼間のむっとする空気が流れてきた。
 エアコンのスイッチをいれるけれどすぐには冷えない。暑さの中で、ベッドにそっと置かれて、我慢できないというように、リユイはカイのTシャツを脱がせる。
 汗ばんだカイの体臭が微かに鼻をくすぐり、その匂いだけでリユイのペニスはゆるく芯を持ち始める。
 湿った肌ももう少しエアコンが効けば乾いた肌になるだろう。
 履いていたカーゴパンツもその下のボクサーパンツも取り去ると、一糸まとわぬ姿にして、シーツの上に横たえる。
「ああ、本当に……」
 言いながら、その平たい胸に慎ましくあるピンクの粒や、へそ、下腹部を撫でていく。
 下腹部には、もう胎の実の紋は無い。
 あった頃はなまめかしく王や自分を誘っていたのに。
 娼館の女より淫らに、けれども、修道女のように、貞淑に。

 リユイは、ベッドマットの隙間からローションを取り出すと手の平に出し、少し温めてカイの身体にそっと置いた。
 ぬるりとした感触にカイはぴくりと身体を揺らす。
「な、何?ローションプレイ?」
「ローションプレイが何かは存じませんが、たまにはこういうのもよろしいかと思って」

 ローションを潤滑油に、乳首を手の平で捏ねたり、臍を親指の腹で撫でたり。
 脇から腰のラインもローションをつけた手で優しく撫でていく。
「ああ……やだ……なんか、いつもと、違う……」
 愛撫の手は緩めず、口元に顔を近づければ薄く舌を差し出し、キスを強請る。
 応えるように舌先をいれ、上顎に舌を這わせ、舌を絡める。
 ピチャピチャという水音は、決してローションだけがたてているわけでは無い。
「本当に、男を誘うのがお上手になられて」
 一緒に横になり、片手で乳首を、片手でカイのペニスを握り込む。
「あ、んん……」
 すでにそこは硬度をもち、下腹部に向かって勃っていた。
 くるくるとローションで亀頭をかりの部分を手の平で回せばビクビクと揺れる。
「あ……やだ……、強……すぎる」
「でも、ここが濡れているのはローションのせいだけではございませんよ。もうカイのここははしたなく涎を垂らしていますので」
 リユイはぷくりと鈴口に溜まった先走りを指で掬うと、それをカイのアナルの淵に塗り込む。
「ほら、カイの淫乱なここは、もう緩んできていますよ」
「いん……らん……じゃない」
 恥ずかしそうにカイは頬を染め、いやいやと首を振る。
「淫乱ではないと?では、家に帰って来るなり私を誘ったのは誰ですか?」
「……お……れ……」
 ローションを継ぎ足し、中指をアナルにいれる。
 そこはくぷりとなんの抵抗もなく指を呑み込む。
 むしろ美味しそうに奥へ奥へと運んでいく。中の熱さに指ですら心地よい。
「ああ、ほら、一本では物足りないと、言っています」
 指を回し、皺を伸ばし、二本目をまた食べさせる。
 指をゆっくり出し入れしながら中で広げ、解していく。
「あ……ん…ん」
 ときおり前立腺にかするのか、甘い声を上げる。
「いやらしい声ですね。本当に男を誘う声だ」
「男じゃ……無くて……リユイ……だけ」
 クチュクチュとカイのアナルから上がる水音にかき消されるような声でカイが言った。
「リ……ユイだけ、セックス……したいのは……」
「くっ、あなたって、人は、本当に男を煽るのも上手くなった」
「……リユ、イだけ……だってば」
 ふふっと薄く淫猥に笑う顔に、リユイのペニスがきゅっと硬度を増した。
「カイ、まだ、二本ですが、私のをいれてもいいですか?」
 くるりと身体をうつ伏せにして、腰を引き寄せ高く上げさせる。
いつものセックスでは「自分から誘っているようで恥ずかしい」とあまりしない体位だが、今日はカイは黙ってその形になっている。
 むしろいつもよりも高く上げては、尻尾でもあるかのように腰を振る。
「ん……大丈夫…リユイのはもう、形を覚えているから」
「はっ!」
 リユイはコンドームのパッケージを開けると自身のペニスにかぶせ、その上から数回擦り硬度を更にあげた。
 ぴとりと亀頭をカイのアナルの皺に口付ければ、待っていたとばかりに、くぷりとそれは呑み込まれる。
 一番狭い入り口を通る快感がリユイの全身に走る。
 カイが言った通り、カイのそこは十分にリユイの大きさを覚えており、きゅううと、咥えれば後は奥へ奥へと誘っていく。
「ああ、カイ……」
 腰を持ち、ぐぐっと少しずつ先に進める。
「ああ、あ……ああ、リユ……イ……おおき……い」

 ぎゅっと手元のシーツを掴み、圧迫感を逃すように息を吐く。
「大丈夫ですか?」
「うん……平気……リユイの……好き……」
「好きなのはペニスですか」
「ううん、……リユイ……」
 細腰をそのまま抱き込むように背中に乗り上げ、犯すかのような体勢でリユイは奥にすすみ、先端を、カイの奥に付けた。
 この先は以前は胎の実による疑似子宮があった場所だ。
 今はそれは無いが、代わりにもう少し奥があるのも知っている。
 ぐにゅ、っと腰をさらに密着させれば、びくりとカイが腰を引きそうになる。
 しかし、それを力で押さえ、リユイは耳元で囁いた。
「もっと、奥。いいですか?」
 ちゅぽ、っと、先端が口付ける。
「あ?……え?」
 びりっと、得も言えぬ快感が頭から足先を駆け抜けた。
「や、ちょっと……リユイ…」
 本能的にカイは逃げようとするがリユイは、その腰を抱いたまま、自分はベッドに腰を下ろす。
「あ!……ああ!!!!」
 と、背面座位の体勢になり、カイの自重で、リユイの先端が、カイの最奥へ、ばちゅんと挿入された。
 と、痺れるような痛みとも快感とも言える快楽がカイを襲う。
「あ、ああ……リユイ…いや……怖い……」
 リユイはカイの腰を揺らす。
 そのたびに結腸に与えられる快感がカイの全身を駆け回る。
「リユイ……や、リユ……」
 カイはその今まで感じたことの無い快感にどうしていいかわからずいつの間にか涙を流していた。
 結腸を抜かれた瞬間、一度萎えてしまったペニスを、またリユイが後ろから包む込み、扱き上げる。
 首筋から背中から、舌を這わされ、時折乳首もいたぶられ、カイはリユイから与えられる愛撫に頭がついて行けなくなってしまった。
「あ、あ、」
 腰が揺すられる度に、人形のようにくらくらと身体が揺れ、合わせてペニスからぴゅ、ぴゅ、と精液が漏れる。
「ああ、やはり、はしたない。もうお漏らしですね」
「や、ちが……」
 耳元で責められるが、もう、カイは何を言われているか、よくわからなかった。
 ただリユイから与えられる快楽に身を任せているだけ。
 口では違うといいながらも、頭はコクコクと頷いている。
「自分だけ、気持ちよくなってしまったんですね」
「リユイ……いきたい……」
「ええ、一緒にいきましょうね。神子様」
 リユイは、カイの顔を後ろに向かせるとキスを強請らせる。
 蕩けるような表情に舌もはしたなくリユイを誘う。
 深い口づけを交しながら、リユイの手はカイのペニスを扱き、自身も結腸からは抜き、その手前にこすりつけながら、カイの中で、カイはリユイの手の中でそれぞれ熱く白い飛沫を吐き出した。

「……怖かった……」
 リユイはクローゼットからタオルを取り出すとさっと自分とカイを綺麗にしたあと、まだ動けないカイを腕に抱き込みながら、その黒髪を撫でていた。
 涙の跡があるカイの頬に軽くキスを落とす。
「快感が強すぎて、どうなるかと思った」
 拗ねるようにカイが少し頬を膨らませる。
「すみません」
「なんか、リユイ、今日ちょっと、違った気がする……言葉で責められていたような」
「ああ、はしたない、とか、淫乱、とかですか?」
「そう、そういうの、普段言わないじゃん」
 いつもはもっと優しい。
 暗にカイはそう言っている。
「いえ、なんだかカイが、そう言って欲しいようでしたので」
「え?」
 思ってもいなかった返事がきて、カイはパチパチと目を瞬かせた。
「何か、お仕置きというか、そういうことをされたかったみたいだったので、ちょっと、利用させていただきました。だから帰宅してすぐにセックスに誘ったのかと」
「……そういうわけでもなかったんだけどなあ」
 あ、リユイは何でもお見通しだよね、とカイは肩をすくめた。
「本当はまだ魔法使えるんじゃ無い?」と冗談の様にいう。

「……今日模試があったんだけどさ、結構できなくて」
「毎日あんなに頑張ってらっしゃるのに」
 予備校から帰宅し、夕飯と風呂を済ませればまた数時間は机に向かっている。
 一緒に眠るために呼ばれるが深夜を回っていることも珍しくはない。
「うん。ちょっと認識が甘かったな、って。で、俺、出来なかったのを自分のせいじゃなくて……」
 カイは言い淀んだ。
 もう無い手枷、足枷を思い出す。
「王様達のせいにしちゃったんだよね」
「え?」
「そもそも、あの時、大学合格の瞬間に召喚なんてされなければ、今、こんな苦労なんてしなくてよかったのに……って」
 へへ、っとカイは申し訳なさそうに笑った。
「そんな人のせいにする自分がイヤで、気分転換にスイカに当たってみるかと思っていたところにリユイに『スイカ割り』の説明が上手く出来なくて、なんか、ちょっと自己嫌悪になって、うん、確かに、リユイにお仕置きしてほしかったのかも」
 ごめんね、とカイはリユイに軽くキスをする。
 リユイはそんなカイの言葉に思わずカイを強く抱きしめていた。
「いいんですよ。全部私達のせいにしてもらって。私たちはあなたの人生を狂わせたんです。自分達の国の繁栄の為だけに。私達のエゴのために」
「うーん、でも、ちゃんと帰ってこれたし、リユイっていう一生の伴侶も出来たから、あんまり人生狂ったとは思ってなくて。……めちゃくちゃ最高の運命だったかも、って思ってる」
「……神子様」
「後悔はしていないし、してるとしたら今回勉強をしなかった自分に、だよね」
 またがんばらなきゃ、とつぶやくと、カイは小さくあくびを漏らした。
 模試のあとのセックスだ。
 確かにいくら若いとは言え疲れただろう。
 しかも初めて最奥に男を迎えたのだ。
「夕飯の支度をしてきます。朝霞さん帰ったら起こしますから眠っていて下さい」
 リユイは身体を起こしながら足下に落ちていたタオルケットを拾い上げるとカイにかけた。
 返事はなく代わりにすうすうと寝息が聞こえる。
 ふふっと笑うとリユイは服を着て、階下に降りた。



「どうしたのさ、これ」
 いつも通りカイの父は二十時少し過ぎに帰宅した。
 手に大きな丸いスイカを持って。
「お中元って会社に何個か送られてきてね。みんなで食べたんだけど、みんながよかったらカイに食べさせればって、一個丸々くれたんだよ」
 電車で持って帰るのはちょっと恥ずかしかったんだけどね、と、朝霞は笑った。
失踪していた息子が三年ぶりに帰ってきたのを会社の同僚や上司は気に掛けていてくれ、何かあれば早めに帰宅させてくれたり、今みたいにお土産を持たせてくれるのだ。

 どーんとダイニングテーブルに置かれたスイカを撫でながらにやにや笑いが止まらなかった。
「スイカ割り、しようよ!」
「……今から?」
 朝霞が情けない声を出す。
「はあ?明日でいいでしょう?明日父さんもリユイも休みだよね」
 そうだけど、と、二人は頷く。
「どこで?海にでも行く?」
「受験生だから遠出はしない。お昼を屋上で食べようよ!で、その時スイカも割る」
「ああ、そうだね。そうするか。……だったら……」
 ちょっとまってて、と朝霞が立ち上がり廊下にある物置スペースに向かった。
 中をごそごそ探したあと、手にちょっとしわくちゃにまとまっているかさばる物を持って戻ってきた。
「これ、この前見つけて捨てようかな、と思ってたんだけど、明日使っちゃう?」
 広げれば、子供用のプール。
「あ、まだあったの?」
「そうそう、これで、スイカを冷やそう」
「うん」
「……じゃあ、食事の準備は私がしますね。お二人は会場作りを」
「そうだね。ゴローは邪魔しないようにね」
 足下でうずくまっておとなしくしていたゴローの頭を撫でながら、カイは嬉しそうに笑った。

 あまりの天気の良さと湿度の低さに朝から干した洗濯物はすっかり乾いてしまったのでお昼前には室内へと片付ける。

 午前中、カイが勉強しているうちに朝霞がリユイと二人でビニールプールを膨らませ、水を入れスイカを浮かべていた。
「俺がやるっていったじゃん」
 すでにできあがっているスイカ割り会場を見回してカイはぷうっと膨れた。
 プールに手を差し入れて、びしゃびしゃと、水を跳ねさせる。
 キャンプ用のテーブルと椅子が置かれ、そこには唐揚げやコロッケ、おにぎりなどが並んでいる。
 縁日のようだ。
 屋上の真ん中には青いビニールシートがひかれている。
 そして、どこから探してきたのか、子供用のプラスチックでできたバットも置かれていた。
「空気入れも見つけたから思ったよりやることがなくてさ」
「食べ物も結構買ってきた物が多くて」
 ね、っとリユイと朝霞が顔を見合わせて目配せをするが、カイは自分に気を遣わせないために二人が口裏を合わせていることを知っていた。
 ついつい、問題を解いていたら時間を忘れていたのも事実だ。
「片付けは手伝うから」
「もちろん」
「じゃ、食べよう」
 三人で席に付き、プラスチックのコップが配られる。
 朝霞の傍らにはクーラーボックスが置かれていて、「カイくんは受験生だから我慢ね」との台詞で、中から渡されたのはリユイと朝霞にはビール、カイにはコーラだ。
「昼間からビールって最高の休日だなあ」
 自分のコップにビールを注ぎながら朝霞がしみじみと、言った。
 リユイのコップにも注ぎ、カイは自分でコーラを注ぐ。
「じゃあ、乾杯!」
 のんびりとランチ会が始まった。

「じゃあ、俺、スイカ割り一番!」
 お腹も膨れたところでカイが言い出した。
「あ、それともリユイ、やってみたい?」
 目隠しの手ぬぐいと、バットを持って、どうする?と首をかしげる。
「私はやり方がわかりませんので、カイお先にどうぞ」
「俺が割っちゃうと次の人はないんだよね」
 でも、やるぞーと、カイはビニールシートの上に移動し手ぬぐいで目隠しをした。
 バットを中心にくるくると回る姿にゴローがじゃれつく。
「わあ、ゴロー、やめろよ!」
 わあわあとスイカ割りに進めず、ゴローとじゃれつくカイを見て、朝霞が独り言の様に呟く。
「……楽しそうで、三年前と変わらないカイくんで、よかった」
「申し訳ございません。……大切なご家族を自分たちの都合で攫ってしまいまして」
 返事をしたリユイに「きこえちゃった?」とバツが悪そうに頭を掻く。
「ああ、それは過ぎたことだから仕方ないよ。帰ってきてくれて本当に良かった。……親としてはちょっと複雑だけど、恋人も連れてきて幸せそうだし」
「男で、年上で、本当に申し訳なく……」
 複雑と言われ、リユイはもう一度謝罪する。
「ああ、複雑って言うのは、別に男とか女とかじゃなくて、……女の子を連れてきても複雑でしょ、親は」
 そういう物か、とリユイは思った。
 自分も『親』ではあるが、名乗り出るわけにはいかなかったし、多分二度と会えないから、まだまだ『親』の気持ちは理解できないだろう。
「リユイさんは、カイくんのどこが好きなの?」
「え?」
「いや、もちろん、カイくん、いい子だから、そういう所かな、と思ってるんだけど」
 朝霞は酔っているのか、少し赤ら顔で聞いてくる。
 確かに素面では聞けない質問だろう。
 ちょっとお祭りの様な非日常の雰囲気のいまだから聞いてみたかったのかもしれない。
「朝霞さんに言うのもお恥ずかしいですが、好きというか、まず、彼を最初に見た時に『私のものだ』と思ったんですよ」
「熱烈だねえ……」
「でも、私はそれを言い出せる立場では無く歯がゆい思いをしました。けれど、カイが私に好意を抱いてくれているのに気づいたら……もうこの思いは止められなくなっていました」
 リユイはぬるくなったビールを一口、口にする。
「どうやったら彼を私だけの物にするか考えたとき、無理矢理にでもこちらの世界に二人で帰ろうと説得をしよう思いましたが、彼は自ら帰りたがったので、それは問題なく。ただ、彼を私の世界に留めたい人もいてそちらを振り切るのが大変だったかもしれません」
「……剣も魔法も無い世界だよ?こちらに来るの怖くなかったの?」
「私の全てはカイです。カイがいるのに、何が怖いことがあるでしょうか」
 そういうとリユイは珍しく笑顔を浮かべた。
「朝霞さんにも職場の方にもよくして貰っています。想像した以上に快適な生活ですよ」
 それに。
 リユイは続ける。
「カイがいます。二人なら、何も怖くありません」

 その時。
 すこん!とちょっと間の抜けた音が響いた。
「当たった?」
 ゴローを振り切ったカイがスイカを割っていたのだ。
 当たり所が良かったのかスイカは綺麗に割れていた。

 一瞬そのスイカの赤が、自分で頸動脈を切り裂き、自殺を図ったカイと重なる。

 違う。
 もう、違うから。

 リユイは軽く頭を振ると、無事に割れて喜んでいるカイの元へ近づいた。

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