いきなり「神子様」なんて呼ばれても

いちる

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【番外編】甘く、甘い

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 十二月に入った頃から、カイとのセックスはほとんどなくなった。
 受験時期が近づいてさすがに彼の身体に負担がかかる行為は出来ない。
 軽いキスとたまに触れあって昇りを慰めあう程度。

 以前は彼が眠る時間に『寝るよ』とスマホにメッセージが来て彼の部屋へと行っていたが今は名前が呼ばれる。

『リユイ』

 呼ばれて部屋に入ると彼はまだ机に向かっていて、私が入ったのに気づいて筆記具を動かしていた手を止める。
 へにゃりと頼りなく笑うと、
「リユイ~」
 ぽふんと私の胸に飛び込み、キスを強請る。
 微笑むように薄く唇を開け、舌を差し出す。
 いつから彼はこんなに淫靡に男を誘うようになったのか。

 誘われて小さな口内に私の舌を差し込み、その真珠のような小さな歯の一つ一つをなぞり、艶めかしく動く舌を追い、追われ、その甘い蜜を吸い上げていく。
 時間は数十秒か、数分か。
 ややすれば名残惜しそうにそのつながりは離れ、最後にぎゅっと私に抱きつき、カイは言う。

「……もう少し、やる」
 そして机に向かい、また勉強を始めるのだ。

 私はそのままカイの部屋のベッドに横になりその後ろ姿を眺めながら眠りにつく。
 与えられた自室に戻っても良いのだが、カイは寝るときにはどうしても私と寝たいと言い、私も出来れば自分が眠る前の数十分でもカイの傍にいたいと思い、呼ばれたら彼の部屋へ行き頑張っている彼の背中を眺めながら眠る事に   なった。
 そして朝、気づけばカイは私の腕の中で丸まり、足を絡ませ、離すなと言わんばかりに抱き付いている。
離すわけが無い。
 手放すためにこの異世界に付いてきたわけでは無いんだから。



 そして今日もまた日が変わる少し前にカイに呼ばれ、彼の部屋へと来た。
 二月。
 一月の共通テストも終わり、もうすぐ前期試験だ。
 受験先は国立大学の医学部一本に絞っているカイ。
 これまでの模試の結果ではB判定以上は取れたことはないと言っていたし共通テストも自己採点をしたらボーダーラインぎりぎりだったとかで、少々焦っているらしい。

 いつもの通りキスをしながらカイは私の手を取り指を絡めてくる。
 珍しく腰をすり寄せてくるな、と思ったら、彼の中心は固く張り詰めていた。

「……しませんよ」
 キスの途中で少しだけ身を引き、唇が触れあっている状態で、いなす。
「だって、もうずっとしてない」
 拗ねたように言うと、私の唇を甘噛みする。
「……共通テストのあと、やりました」
 第一関門が終わり、結果はどうであれ、頑張ったご褒美が欲しい、リユイを感じたい、リユイが欲しいと請われれば、こちらだって辛抱している立場、ついついその肌に溺れたくなってしまった。

「はあ?もう一ヶ月も前じゃん。俺、若い男なんだけど」
「若い男ですけれど、受験生ですからね。……カイの身体に負担のかかる行為をこの時期に私が率先してやるとでも?」
「負担じゃ無いし。このままの方が負担だよ。欲求不満で死んじゃう」
「……各種文献で欲求不満で死んだ方は見たことございません」
「あるよ。エロゲーで」
「それは空想の産物です」
「リユイ~」
 取り付く島もないと思ったのか、ああ、もう、と私の唇に自分の唇を押しつけてくる。
「神子様!」
「神子じゃない!」
 私はくっと、その肩を押さえて身を離した。
「…わかりました。では、抜いて差し上げます」
 可愛らしいわがままに少々手を焼いて、私はカイの膝裏と背中に腕を回し僅か数歩だが所謂お姫様抱っこの状態で抱き上げ、ベッドの端に座らせる。
 くっと、スエットとボクサーパンツを同時にずらせば、ぷるんと形の良いカイ自身がすでに立ち上がっていた。
 私はカイの足下に跪くとその可愛らしいカイを口に含む。
「あ、やだ、そうじゃなくて……」
 舌先をカリ首に這わせながら、手は根元を緩く扱く。
 じわりと塩辛い味が口に広がるが気にはならない。
 口をすぼめ丁寧に吸い上げるような刺激を与える。
「やだ、違うって。リユイの口には出さないからね!」
 私の頭に手を置き、離させようとしているのか、もっとと強請られているのかガクガクと腰は震え足先がつま先立ってくる。

「あ、ああ…ん…」
 じゅぽじゅぽとわざと水音を立てて扱けば、段々カイの口から甘い声が漏れてくる。
「やだ、やだ、俺だけイクのは。リユイのも触らせて」
 え?
 私はカイを口に咥えてまま、上目遣いで彼の瞳を見た。
 頬を赤く上気させ、とろりと蜂蜜のように甘く蕩けた表情になっている。
 閉じることの出来なくなった口からは小さく舌先が覗いている。

「リユイも溜まってるよね?」

 確かに私のもすでに固く立ち上がり緩いスエットの中でもきつい主張を始めていた。
 一瞬動きを止めた隙に、カイは腰を引き、私の口から自身を引き抜く。
「一緒に、抜こう……リユイ、ね?」
 そう言って私の首に腕を回し、ぎゅっと抱きついてくるから、そのまま私は立ち上がりベッドの上に座るとカイを向かい合わせになるように膝に乗せた。
 枷が付いている頃はよくこうやって抱き上げていたが、やはり彼の身体はあの頃のまま軽い。
 やはりこんな細身の身体にこの大切な時期に負担は掛けられない。
本人が何と言おうと。

 私とカイのを二つ合わせてカイの両手に握らせる。
 私は彼の腰を支えたまま、彼に言った。
「ではカイ、私のも一緒にイカせて?」
「あ…うん」
 真っ赤な顔で二つを合わせてカイは扱き始めた。
 互いの先走りで滑りはあるが少々足りない気がする。
 私は少し手を伸ばしマットレスの隙間に置いてあるローションを取り出し、カイの背中で上手く蓋を開けた。
 とろりと二つの先にローションを流し、そのまま先端を撫でる。
「!…あっ!」
 がくっと、カイの腰が揺れ、ぐらりと背中をのけぞらせるから慌てて片手で支えなおす。
「カイ?」
「あ、もう、だって…気持ちいい」
 あっ、あっと小さな声をあげ、自分の手の動きは止まり私の手の動きに合わせて腰を振る。
 私はゆっくりとローションをすり込ませるように二本を同時に上下に扱く。
「熱い、リユイの…熱くて、俺の…溶けそう…」
 もう、無理ぃ…
 カイは私の首に腕を回し、きゅっと抱きつく。
「リユイも気持ちいい?」
「ええ、とても」
 はあはあと耳元で聞こえるカイの悶える声だけで私もイキそうになる。
 ぐちゅぐちゅとローションを足して水音をわざと立てる。

「あ、ごめ…イっ…」
 ぎゅっと、抱きしめる手に力がこもったと思ったら、とぷり、とカイから白濁が吐き出される。
 私はそのまま扱くのを止めず、カイの吐き出したモノでそのまま扱き続ける。
「わ、ちょっと、一回やめ…」
 過ぎたる快感は毒になるのはわかっている。
 カイは私の手から逃れようと小さく身をよじった。
「でも、私はまだ、イってませんよ?カイ」
「うー」
 瞳を潤ませて私を睨むカイを見て私自身がもう一回り大きくなる。
「カイ、扱いて下さい」
 首に回された手を二本へと誘う。
「リユイ…」
 カイが困ったような表情と共に唇を私の唇に寄せてくる。
 私は貪るように彼の唇を覆った。
 彼はかくかくと腰を揺らしながら私とカイ自身を扱き、
「あ!」
 今度は二人同時に吐精した。

 バスルームに二人で行き、簡単にシャワーを浴びると、カイを先に部屋に向かわせる。
「何?」
 先に戻って下さいと伝えた私に、カイは怪訝そうに聞いた。
「いえ、トイレに行くだけです」
「…そう?ちゃんと俺の部屋に来てよね」
「もちろんです」
 二階に上がった背中を見送り、私はキッチンに向かった。

 欲を吐き出し私も幾分か気持ちよく事後の時間を過ごしているときにふと時計が目についた。
 日を超している。
 ということは、今日は…



■■■
 二月十四日はバレンタインデーと言うらしく、勤め先のスーパーにもチョコの特設売り場が一月終わりから出来ていた。
 女性から男性にチョコレートを渡すことで愛を告げる日らしいが、すでに付き合っている者同士や、職場での仲間や、家族間でもその贈り物は有効らしい。
 私もカイにあげようと、特設コーナーに立った。
「朝霞さん、彼氏さんにあげるんですか?」
 同僚で、お菓子売り場の担当の女性がディスプレイを見ている私に声を掛けてきた。
 私とカイが付き合っている事を知っていて、からかうことも無くたまに相談にも乗ってくれる。
 多くはスマホやパソコンで調べればなんとかなるが、やはり現実を確認したいときもありそういうときに頼ってしまう。
「そうですね。こういうのって数を貰うのがステータスなんでしょう?」
 スマホで調べれば男性は数多く貰うことで優越感に浸るらしい。
 しかし、『本命』一個と『義理』十個では前者の方が価値があるとか。
 私がカイに上げるのならそれはまさに『本命』なので一個で十分なのか。
「まあ、彼氏さんには朝霞さんがいるから一個で十分だと思いますけど」
「…そうですよね?調べたらそう書いてはありましたが」
「でも男性って妙なところでプライド高かったりするからなあ…あ、でも彼氏さんはそんなタイプには見えないです」
「ありがとうございます」
 カイが予備校帰りに寄って一緒に買い物をしているところを彼女には度々目撃されている。
 私は有名なフランス文学に出てくるキャラクターがモチーフのチョコを二箱手に取った。一つはお世話になっている朝霞さんへだ。
 小さな星に住む王子様の話は私も図書館で借りて読んだ。
 高慢ちきだがさみしがり屋のバラと共に描かれている。
 その小さな星が『月』に似ていて、どうしてもカイのイメージと重なってしまったのだ。
「二つ?」
「ええ、お世話になっている方にも」
「だったら彼氏さんにはプラス何かをつけたら?彼氏が他の男に自分と同じチョコをあげてるのってあんまりよろしくないかも」
「…アクセサリーとか?」
 今更買いに行く時間も無いと黙り込めば、同僚はそうじゃなく、と笑顔を浮かべた。
「そんな大げさじゃ無くて良いと思うよ。でも、彼氏さんにとってちょっと特別な…。そうだ、彼氏さん、受験生だよね?」
「ええ、もうすぐ前期試験です」
「じゃあ、夜食代わりにホットチョコレート作ってあげたらどうですか?
「ホットチョコレート?」
「そうそう。チョコレートは脳にいいらしいですよ。温めた牛乳にチョコレート混ぜて溶かすだけです」
「…遅くまで勉強しているからちょうど良いかもしれません」
「チョコはこれが良いかも。溶けやすくするために小さく砕くんですけど、これなら最初から小さいから」
はい、っと12個入りでその通りの商品名のチョコを渡される。
「ついでにマシュマロ浮かべると美味しいです」
と小ぶりのマシュマロが入った袋も渡された。
「…商売上手ですね」
「やだな、少しでもお客様に喜んでいただけるように…ですよ」
 ははは、と笑う彼女に、そうは言っても感謝の言葉を述べて、私は初めてのバレンタインデーの準備を整えた。

■■■
 小鍋に牛乳をマグカップ一杯分入れて火に掛ける。
 電子レンジでも作れるとスマホで調べたレシピには書いてあったが深夜にタイマー音が響くのが嫌なのと、ガスの  炎の方が美味しく優しい味になりそうだったので、私はコンロを使うのを選んだ。
 沸騰しないようにお玉でかき混ぜながら牛乳を温める。
 ふつふつと細かい泡が立てば、チョコレートを半分の6粒入れてやはりかき混ぜながら牛乳に溶け込ませる。
 甘い香りがキッチンに漂う。
 チョコレートが溶けたところで火を止め、マグカップに注ぎ、お勧めのマシュマロを飾り冷蔵庫の隅に残っていたココアパウダーをかけて、完成。

 甘い甘いホットチョコレート。
 ブランデーやラム酒を入れても美味しいと書いてあるがそれを入れてしまったら本末転倒だから今回は止めておく。

 小さなトレイにカップを乗せて、カイの部屋に運ぶ途中に自分の部屋に寄って買っておいたチョコレートも一緒に乗せた。

「カイ、入ります」
 小さくノックしてドアを開けると、カイは机に向かって勉強をしていた。
 付箋の沢山付いた参考書、数冊にも及ぶノート、筆記用具ももう何本も書き潰している。
「んー、遅かったね、リユイ…って良い香り」
 手を止めると私の手元を見た。
「何?」
「…バレンタインですから、ホットチョコレートを」
 そっと机の隅にトレイを置くと、カイはきょとんと首をかしげて、机の上のカレンダーと壁に掛かっている時計と、私の顔を見て、はっとする。
「ああ!今日十四日!」
「ですね。バレンタインデーだと勤め先は盛り上がっていました」
「そうだよ…、俺、すっかり忘れてた…」
 ああ…
 とカイは頭を抱えて机に突っ伏した。
「……明日なんか買ってくる」
「大丈夫ですよ。私が渡したかっただけですし」
「あー、ごめん。ホワイトデー期待して」
「気になさらずに」
 頭を上げてもしょげているカイにホットチョコレートを勧める。
「良かったら温かいうちに飲んで下さい」
「うん、ありがとう」
 両の手で大切そうにカップを抱え、小さくふーふーと息を吹きかけるとカイはこくりと一口飲む。
「甘い。美味しい。元気が出るね」
 にっこりと笑うとカップを置いて、私の手を取った。
「…キスしていい?」
「え?」
 手を引かれ、椅子に座っているカイの目線と同じになると、そのまま唇を重ねる。
 入ってきた舌先は、チョコレートの味がする。

 甘く、甘い。

「ごめん、俺からのチョコは味だけ」
 へへ、っと肩をすくめながら笑うと、カイはまたカップに口をつけ、残りのホットチョコレートを味わっている。
とっさの事で上手く返事が出来ない私に気づいたのか、どうしたの?と上目遣いで見上げる。
「あ、貴方って人は…」

 私はぎゅっとカイを抱きしめる。
 可愛すぎてどうにかしてやりたい。
 抱くのを我慢しているのに、この神子め。

 本当に彼は私にとって『神子』でしかない。

「だって、俺もリユイにチョコあげたかったんだもん」
ぎゅっと抱き返されればふんわりとチョコの香りがする。

「ありがとう、リユイ。俺のわがままに付き合ってくれて。もう少し、俺を支えていて」
「…もう少しではなく、一生、ずっと、支えますよ」
「へへ。知ってる」

 もう少し、勉強するね。

 そう言ってカイはまた机に向き直った。
 私はカップをキッチンにさげると、カイのベッドに横になる。
 カリカリと筆記用具を滑らせる音を子守歌代わりにまどろみ始める。

 昔は気絶したり大けがで意識が無い神子様を見守ってベッドのそばにいるのは私の役目だったけれど。
 こういう位置から彼を見るのも悪くない。
 安心感が私を眠りの淵に誘う。
 うとうとと。

 そしてまた朝になれば腕の中で私の幸せが眠っている。
 きっと明日は甘いチョコの匂いを纏っているに違いない。


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