3 / 32
3
しおりを挟む
直接見たことは無い。
けれど、この顔は、よく見知っていて……
じっと男を見るがややうつむき加減で目線を外されている。
もしかして?
その名前を口にしようとする前にハナコが口を開く。
「ミドリ、あんたにユニットを組んで貰いたいんだけど」
その口調は半ば決定事項のようだ。
「は?」
ユニット?誰が?俺が?
唐突なハナコの言葉に圭は少なからず動揺した。
「こちら、元LINKSの御堂くん。……もちろん知ってるよね?LINKS」
ハナコが男のことをそう呼べば、キャップの男が顔を上げ今度は真正面に圭を見た。
とくん。
男と目があった途端、圭の心臓が一つ大きな鼓動を打つ。
「……御堂七生(みどうなお)?」
言われてまじまじと顔を見る。今まで実際に本物を見たことは無い。でもネットやテレビで何度も見た男の顔だ。「LINKSの御堂君、本当に顔がいい!」中学の時か高校の時か、クラスメイトの女子がよく騒いでいた。そんな誰もが羨むようなきれいな顔にじっと見つめられ、なんとなく気恥ずかしく耳が熱くなっていくのがわかった。
しかしテレビで見ていた頃のようなキラキラ感はあまり感じられなかった。
少しだけ疲れたような、あまり良い顔色とも言えない。
「アイドルバンドの、LINKS……」
クラスメイトの男子が憎々しげにそう呟いていたのを思い出す。
思い出して、視線を外せないまま、思わずぼそりと呟いた。
その圭の声に室内の空気がピリッと凍る。
一瞬の沈黙のあと。
ちっ。
御堂と紹介された男が小さく舌打ちすると同時に視線が外れ、大きなため息が吐き出される。
LINKS。
圭が中学の頃デビューした、女子に絶大な人気を誇っていたバンド。
当時高校生の四人組、その全員が「甘いマスク」と全員が作詞作曲出来るという事を売りにしていた。
曲は若者の心を掴み耳なじみもよく売れるに値する曲が多かったが、一部の音楽関係者はその見た目で売れていると陰口を叩いていたようだ。
クラスメイトの男子達は教室でスマホを見ながらきゃーきゃー言う女子を横目に、彼らを毛嫌いしたものだった。
「アイドルバンド」と揶揄して。
……今思えばただのひがみだが。
圭はその頃の甘酸っぱい気持ちを思い出していた。
自分はその頃は小学生の頃からやっているサッカーに夢中で音楽を積極的に聴くことは無かった。高校に入り足を怪我したことでサッカーを辞め、従兄弟が処分すると言ったクラシックギターを譲り受けてから音楽の世界に夢中になった。
それが今も続きよもや飯の種になるかもしれない日が来るなんてあの毎日ボールを蹴っていたサッカー少年は思わなかっただろう。
しかし、彼らの曲は知ってはいたが音楽に興味が出た後でも深く聴くことは無かった。聴こうと思わなくてもCMやドラマに使われ、発売されるアルバムに入っている曲のほとんどは何かとタイアップしている曲ばかりだったから嫌でも耳に入ってくる。 年もそんなに変わらないのにすごいなあと思って過ごしていた。テレビから聞こえる彼らの音楽は、ネットで流れる音楽は確実に聞く者の記憶に残り思わず口ずさんでいるような曲だった。
そんな若者に絶大な人気を誇っていた「LINKS」は圭が大学に入るタイミングで「休止」宣言をしてしまった。ボーカルの結城は今でも音楽をやっているらしく良くネットで見かけてもいたが、もう一人のギター兼ボーカルの御堂……御堂七生はまったくメディアでは見なくなっていた。
しまった!
凍った空気に恐る恐る辺りを見回せばハナコの表情はこわばり、葛城は苦笑いを浮かべ、大きなため息の後、御堂七生はすくっと立ちあがった。
「良介、俺は帰る。この話はなかったことにしといて。矢井田さんも貴重なお時間いただいてありがとうございました」
いらついた表情を一瞬で無表情に変えて、ぺこりと頭を下げ御堂は部屋を出て行った。
「あ、おい、ナオ!」
葛城さんが呼びとめるが振り向きもしない。
「ミドリ!あんた、なんてこと言うの!」
ハナコが圭の左腕をつねった。
春の陽気に薄手のシャツ一枚だった圭の腕にマニキュアで綺麗に整えられた爪先が食い込んで激痛が走る。
「イテ……ハナコさん、なんか俺口止めされてましたっけ?」
まさかあの御堂七生が自分の目の前に現れるなんて思わなかった。黙ってろと言われたら何も言わなかったのに。
戸惑いと微かな怒りを滲ませて圭はハナコに詰め寄った。
「……してない、してないけど!普通初対面の人にあんなこと言うかあ?」
自分の事は棚に上げ、はあ……とこれみよがしな大きなため息を付きハナコは肩を落とした。
「だって、思わず口に出たんですもん……」
スミマセン……と小さくつぶやく。怒りたいのは自分だと思うがこういう場合は経験上先に謝った方が得策だ。
特に相手が女性なら。
ふと見ると葛城が小刻みに肩を揺らしている。
けれど、この顔は、よく見知っていて……
じっと男を見るがややうつむき加減で目線を外されている。
もしかして?
その名前を口にしようとする前にハナコが口を開く。
「ミドリ、あんたにユニットを組んで貰いたいんだけど」
その口調は半ば決定事項のようだ。
「は?」
ユニット?誰が?俺が?
唐突なハナコの言葉に圭は少なからず動揺した。
「こちら、元LINKSの御堂くん。……もちろん知ってるよね?LINKS」
ハナコが男のことをそう呼べば、キャップの男が顔を上げ今度は真正面に圭を見た。
とくん。
男と目があった途端、圭の心臓が一つ大きな鼓動を打つ。
「……御堂七生(みどうなお)?」
言われてまじまじと顔を見る。今まで実際に本物を見たことは無い。でもネットやテレビで何度も見た男の顔だ。「LINKSの御堂君、本当に顔がいい!」中学の時か高校の時か、クラスメイトの女子がよく騒いでいた。そんな誰もが羨むようなきれいな顔にじっと見つめられ、なんとなく気恥ずかしく耳が熱くなっていくのがわかった。
しかしテレビで見ていた頃のようなキラキラ感はあまり感じられなかった。
少しだけ疲れたような、あまり良い顔色とも言えない。
「アイドルバンドの、LINKS……」
クラスメイトの男子が憎々しげにそう呟いていたのを思い出す。
思い出して、視線を外せないまま、思わずぼそりと呟いた。
その圭の声に室内の空気がピリッと凍る。
一瞬の沈黙のあと。
ちっ。
御堂と紹介された男が小さく舌打ちすると同時に視線が外れ、大きなため息が吐き出される。
LINKS。
圭が中学の頃デビューした、女子に絶大な人気を誇っていたバンド。
当時高校生の四人組、その全員が「甘いマスク」と全員が作詞作曲出来るという事を売りにしていた。
曲は若者の心を掴み耳なじみもよく売れるに値する曲が多かったが、一部の音楽関係者はその見た目で売れていると陰口を叩いていたようだ。
クラスメイトの男子達は教室でスマホを見ながらきゃーきゃー言う女子を横目に、彼らを毛嫌いしたものだった。
「アイドルバンド」と揶揄して。
……今思えばただのひがみだが。
圭はその頃の甘酸っぱい気持ちを思い出していた。
自分はその頃は小学生の頃からやっているサッカーに夢中で音楽を積極的に聴くことは無かった。高校に入り足を怪我したことでサッカーを辞め、従兄弟が処分すると言ったクラシックギターを譲り受けてから音楽の世界に夢中になった。
それが今も続きよもや飯の種になるかもしれない日が来るなんてあの毎日ボールを蹴っていたサッカー少年は思わなかっただろう。
しかし、彼らの曲は知ってはいたが音楽に興味が出た後でも深く聴くことは無かった。聴こうと思わなくてもCMやドラマに使われ、発売されるアルバムに入っている曲のほとんどは何かとタイアップしている曲ばかりだったから嫌でも耳に入ってくる。 年もそんなに変わらないのにすごいなあと思って過ごしていた。テレビから聞こえる彼らの音楽は、ネットで流れる音楽は確実に聞く者の記憶に残り思わず口ずさんでいるような曲だった。
そんな若者に絶大な人気を誇っていた「LINKS」は圭が大学に入るタイミングで「休止」宣言をしてしまった。ボーカルの結城は今でも音楽をやっているらしく良くネットで見かけてもいたが、もう一人のギター兼ボーカルの御堂……御堂七生はまったくメディアでは見なくなっていた。
しまった!
凍った空気に恐る恐る辺りを見回せばハナコの表情はこわばり、葛城は苦笑いを浮かべ、大きなため息の後、御堂七生はすくっと立ちあがった。
「良介、俺は帰る。この話はなかったことにしといて。矢井田さんも貴重なお時間いただいてありがとうございました」
いらついた表情を一瞬で無表情に変えて、ぺこりと頭を下げ御堂は部屋を出て行った。
「あ、おい、ナオ!」
葛城さんが呼びとめるが振り向きもしない。
「ミドリ!あんた、なんてこと言うの!」
ハナコが圭の左腕をつねった。
春の陽気に薄手のシャツ一枚だった圭の腕にマニキュアで綺麗に整えられた爪先が食い込んで激痛が走る。
「イテ……ハナコさん、なんか俺口止めされてましたっけ?」
まさかあの御堂七生が自分の目の前に現れるなんて思わなかった。黙ってろと言われたら何も言わなかったのに。
戸惑いと微かな怒りを滲ませて圭はハナコに詰め寄った。
「……してない、してないけど!普通初対面の人にあんなこと言うかあ?」
自分の事は棚に上げ、はあ……とこれみよがしな大きなため息を付きハナコは肩を落とした。
「だって、思わず口に出たんですもん……」
スミマセン……と小さくつぶやく。怒りたいのは自分だと思うがこういう場合は経験上先に謝った方が得策だ。
特に相手が女性なら。
ふと見ると葛城が小刻みに肩を揺らしている。
0
あなたにおすすめの小説
お使いはタバコとアイスとお兄さん
秋臣
BL
風景が動いた気がした。
居酒屋でバイトをしている俺はよく客からお使いを頼まれる。
お使い途中の陸橋で見かけるその人はいつも寂しそうな顔をしていて、俺はそれが気になっていた。ある夜、降り出した雨の中佇むその人を放っておけず傘を差し出した俺。
ただの風景だったはずのその人が熱を持った人間だと初めて感じた…
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
有能課長のあり得ない秘密
みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。
しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる