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直接見たことは無い。
けれど、この顔は、よく見知っていて……
じっと男を見るがややうつむき加減で目線を外されている。
もしかして?
その名前を口にしようとする前にハナコが口を開く。
「ミドリ、あんたにユニットを組んで貰いたいんだけど」
その口調は半ば決定事項のようだ。
「は?」
ユニット?誰が?俺が?
唐突なハナコの言葉に圭は少なからず動揺した。
「こちら、元LINKSの御堂くん。……もちろん知ってるよね?LINKS」
ハナコが男のことをそう呼べば、キャップの男が顔を上げ今度は真正面に圭を見た。
とくん。
男と目があった途端、圭の心臓が一つ大きな鼓動を打つ。
「……御堂七生(みどうなお)?」
言われてまじまじと顔を見る。今まで実際に本物を見たことは無い。でもネットやテレビで何度も見た男の顔だ。「LINKSの御堂君、本当に顔がいい!」中学の時か高校の時か、クラスメイトの女子がよく騒いでいた。そんな誰もが羨むようなきれいな顔にじっと見つめられ、なんとなく気恥ずかしく耳が熱くなっていくのがわかった。
しかしテレビで見ていた頃のようなキラキラ感はあまり感じられなかった。
少しだけ疲れたような、あまり良い顔色とも言えない。
「アイドルバンドの、LINKS……」
クラスメイトの男子が憎々しげにそう呟いていたのを思い出す。
思い出して、視線を外せないまま、思わずぼそりと呟いた。
その圭の声に室内の空気がピリッと凍る。
一瞬の沈黙のあと。
ちっ。
御堂と紹介された男が小さく舌打ちすると同時に視線が外れ、大きなため息が吐き出される。
LINKS。
圭が中学の頃デビューした、女子に絶大な人気を誇っていたバンド。
当時高校生の四人組、その全員が「甘いマスク」と全員が作詞作曲出来るという事を売りにしていた。
曲は若者の心を掴み耳なじみもよく売れるに値する曲が多かったが、一部の音楽関係者はその見た目で売れていると陰口を叩いていたようだ。
クラスメイトの男子達は教室でスマホを見ながらきゃーきゃー言う女子を横目に、彼らを毛嫌いしたものだった。
「アイドルバンド」と揶揄して。
……今思えばただのひがみだが。
圭はその頃の甘酸っぱい気持ちを思い出していた。
自分はその頃は小学生の頃からやっているサッカーに夢中で音楽を積極的に聴くことは無かった。高校に入り足を怪我したことでサッカーを辞め、従兄弟が処分すると言ったクラシックギターを譲り受けてから音楽の世界に夢中になった。
それが今も続きよもや飯の種になるかもしれない日が来るなんてあの毎日ボールを蹴っていたサッカー少年は思わなかっただろう。
しかし、彼らの曲は知ってはいたが音楽に興味が出た後でも深く聴くことは無かった。聴こうと思わなくてもCMやドラマに使われ、発売されるアルバムに入っている曲のほとんどは何かとタイアップしている曲ばかりだったから嫌でも耳に入ってくる。 年もそんなに変わらないのにすごいなあと思って過ごしていた。テレビから聞こえる彼らの音楽は、ネットで流れる音楽は確実に聞く者の記憶に残り思わず口ずさんでいるような曲だった。
そんな若者に絶大な人気を誇っていた「LINKS」は圭が大学に入るタイミングで「休止」宣言をしてしまった。ボーカルの結城は今でも音楽をやっているらしく良くネットで見かけてもいたが、もう一人のギター兼ボーカルの御堂……御堂七生はまったくメディアでは見なくなっていた。
しまった!
凍った空気に恐る恐る辺りを見回せばハナコの表情はこわばり、葛城は苦笑いを浮かべ、大きなため息の後、御堂七生はすくっと立ちあがった。
「良介、俺は帰る。この話はなかったことにしといて。矢井田さんも貴重なお時間いただいてありがとうございました」
いらついた表情を一瞬で無表情に変えて、ぺこりと頭を下げ御堂は部屋を出て行った。
「あ、おい、ナオ!」
葛城さんが呼びとめるが振り向きもしない。
「ミドリ!あんた、なんてこと言うの!」
ハナコが圭の左腕をつねった。
春の陽気に薄手のシャツ一枚だった圭の腕にマニキュアで綺麗に整えられた爪先が食い込んで激痛が走る。
「イテ……ハナコさん、なんか俺口止めされてましたっけ?」
まさかあの御堂七生が自分の目の前に現れるなんて思わなかった。黙ってろと言われたら何も言わなかったのに。
戸惑いと微かな怒りを滲ませて圭はハナコに詰め寄った。
「……してない、してないけど!普通初対面の人にあんなこと言うかあ?」
自分の事は棚に上げ、はあ……とこれみよがしな大きなため息を付きハナコは肩を落とした。
「だって、思わず口に出たんですもん……」
スミマセン……と小さくつぶやく。怒りたいのは自分だと思うがこういう場合は経験上先に謝った方が得策だ。
特に相手が女性なら。
ふと見ると葛城が小刻みに肩を揺らしている。
けれど、この顔は、よく見知っていて……
じっと男を見るがややうつむき加減で目線を外されている。
もしかして?
その名前を口にしようとする前にハナコが口を開く。
「ミドリ、あんたにユニットを組んで貰いたいんだけど」
その口調は半ば決定事項のようだ。
「は?」
ユニット?誰が?俺が?
唐突なハナコの言葉に圭は少なからず動揺した。
「こちら、元LINKSの御堂くん。……もちろん知ってるよね?LINKS」
ハナコが男のことをそう呼べば、キャップの男が顔を上げ今度は真正面に圭を見た。
とくん。
男と目があった途端、圭の心臓が一つ大きな鼓動を打つ。
「……御堂七生(みどうなお)?」
言われてまじまじと顔を見る。今まで実際に本物を見たことは無い。でもネットやテレビで何度も見た男の顔だ。「LINKSの御堂君、本当に顔がいい!」中学の時か高校の時か、クラスメイトの女子がよく騒いでいた。そんな誰もが羨むようなきれいな顔にじっと見つめられ、なんとなく気恥ずかしく耳が熱くなっていくのがわかった。
しかしテレビで見ていた頃のようなキラキラ感はあまり感じられなかった。
少しだけ疲れたような、あまり良い顔色とも言えない。
「アイドルバンドの、LINKS……」
クラスメイトの男子が憎々しげにそう呟いていたのを思い出す。
思い出して、視線を外せないまま、思わずぼそりと呟いた。
その圭の声に室内の空気がピリッと凍る。
一瞬の沈黙のあと。
ちっ。
御堂と紹介された男が小さく舌打ちすると同時に視線が外れ、大きなため息が吐き出される。
LINKS。
圭が中学の頃デビューした、女子に絶大な人気を誇っていたバンド。
当時高校生の四人組、その全員が「甘いマスク」と全員が作詞作曲出来るという事を売りにしていた。
曲は若者の心を掴み耳なじみもよく売れるに値する曲が多かったが、一部の音楽関係者はその見た目で売れていると陰口を叩いていたようだ。
クラスメイトの男子達は教室でスマホを見ながらきゃーきゃー言う女子を横目に、彼らを毛嫌いしたものだった。
「アイドルバンド」と揶揄して。
……今思えばただのひがみだが。
圭はその頃の甘酸っぱい気持ちを思い出していた。
自分はその頃は小学生の頃からやっているサッカーに夢中で音楽を積極的に聴くことは無かった。高校に入り足を怪我したことでサッカーを辞め、従兄弟が処分すると言ったクラシックギターを譲り受けてから音楽の世界に夢中になった。
それが今も続きよもや飯の種になるかもしれない日が来るなんてあの毎日ボールを蹴っていたサッカー少年は思わなかっただろう。
しかし、彼らの曲は知ってはいたが音楽に興味が出た後でも深く聴くことは無かった。聴こうと思わなくてもCMやドラマに使われ、発売されるアルバムに入っている曲のほとんどは何かとタイアップしている曲ばかりだったから嫌でも耳に入ってくる。 年もそんなに変わらないのにすごいなあと思って過ごしていた。テレビから聞こえる彼らの音楽は、ネットで流れる音楽は確実に聞く者の記憶に残り思わず口ずさんでいるような曲だった。
そんな若者に絶大な人気を誇っていた「LINKS」は圭が大学に入るタイミングで「休止」宣言をしてしまった。ボーカルの結城は今でも音楽をやっているらしく良くネットで見かけてもいたが、もう一人のギター兼ボーカルの御堂……御堂七生はまったくメディアでは見なくなっていた。
しまった!
凍った空気に恐る恐る辺りを見回せばハナコの表情はこわばり、葛城は苦笑いを浮かべ、大きなため息の後、御堂七生はすくっと立ちあがった。
「良介、俺は帰る。この話はなかったことにしといて。矢井田さんも貴重なお時間いただいてありがとうございました」
いらついた表情を一瞬で無表情に変えて、ぺこりと頭を下げ御堂は部屋を出て行った。
「あ、おい、ナオ!」
葛城さんが呼びとめるが振り向きもしない。
「ミドリ!あんた、なんてこと言うの!」
ハナコが圭の左腕をつねった。
春の陽気に薄手のシャツ一枚だった圭の腕にマニキュアで綺麗に整えられた爪先が食い込んで激痛が走る。
「イテ……ハナコさん、なんか俺口止めされてましたっけ?」
まさかあの御堂七生が自分の目の前に現れるなんて思わなかった。黙ってろと言われたら何も言わなかったのに。
戸惑いと微かな怒りを滲ませて圭はハナコに詰め寄った。
「……してない、してないけど!普通初対面の人にあんなこと言うかあ?」
自分の事は棚に上げ、はあ……とこれみよがしな大きなため息を付きハナコは肩を落とした。
「だって、思わず口に出たんですもん……」
スミマセン……と小さくつぶやく。怒りたいのは自分だと思うがこういう場合は経験上先に謝った方が得策だ。
特に相手が女性なら。
ふと見ると葛城が小刻みに肩を揺らしている。
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